ハイスクールD×D~チンピラ匙くんが行く~ 作:シグマ強攻型
匙がソーナの初眷属となってから、シトリー家の行動は早かった。匙には、とにかくソーナが侮られることがないように、様々な教育が施された。ソーナも知らなかったことなどそれはもう多種多様な教育が。同時進行でソーナにも同様の教育が施されたが、ソーナの場合はどちらかと言えば帝王学などが主で、匙は戦闘訓練だとか社交界での立ち振舞方だとかだった。
「さて! 元たん! 今日から戦闘訓練はこちらのマッキーが担当するよ! めちゃんこ強いから気合い入れないとソーたんに会えなくなるよ!」
「はじめまして、だな。セラフォルー・レヴィアタンの『兵士』マッキーだ」
「……え? 本名?」
「いや。セラフォルーに付けてもらった名だ。俺はとある事情で名前がなかったのでな」
『カッカッカ。ヴリトラよ……久しいな』
『その声は……テュポーンか!』
『おうよ。長いこと封印されていたがようやっと復活したぞ』
『叛逆の不死龍(リベリオン・ドラゴン)』の二つ名を持つテュポーン。かつてギリシャ神話主神ゼウスと戦い、全神話でもトップクラスの戦闘力を持つゼウスですら罠にはめて封印するしかなかった戦闘力を持つドラゴン。『無常の果実』で力を大幅に削られることがなければ、かの『無限の龍神』を超え『真なる赤龍神帝』に匹敵するとまで言われた。
「つーか、そんだけのドラゴンを宿しているのによく『兵士』の駒だけで足りたな」
「いや、足りなくて当時持っていた私の駒や量産中だった駒を全部使っちゃったんだよね。確か100個くらいだったかな? あの時のサーゼクスちゃんたちは怖かったよ」
『だろうな。こいつは聖書の神に負けて意識を神器に封じられたわけではない。ギリシャ神話の神々と全面戦争を繰り広げ、ゼウスが決して望みが叶うことはない『無常の果実』をなんとか食わせた上で雷霆を大陸の形が変わるほどに喰らわせてから、封印を施し、その上から大地を重石とすることでようやく封印できた存在だ。何故ここにいる?』
『カッカッカ。大したことはない。ゼウスのアホがまた浮気したらしくてな? 夫婦喧嘩の最中に雷霆を取り出したはいいのだが、あのアホは浮気症ではあるがヘラに惚れぬいておるからな。愛している女房に攻撃するのは躊躇ったんだろう。外したらそこは儂を封印しているシチリア島。あのアホの雷霆は戯れで放っても万の敵を消滅させるだけの力がある。封印にあたっては、なぁ? そこから封印を解いたわけよ。そも封印は人間が儂の上に街を築いた頃には弱くなっていたからな。容易いことよ』
要するにゼウスの失態だった。それを知った時、全神話体系は一気に厳戒態勢になった。ギリシャ神話も日本神話も、北欧神話も、仙界も悪魔も天使も堕天使もことの次第を固唾を呑んで見ていたのだ。かつてゼウスと激戦を繰り広げ、天地を焼き破壊したドラゴン。『無常の果実』を食わされたとは言え、果実に体が適応してそれすらも自身の武器としていたらどうする? そう思わせるだけの力がテュポーンにはあった。だが---。
『今更、戦うことなどせんよ。ゼウスのアホはガイアと和解したのだろう? 儂が戦ったのはガイアに頼まれてのこと。ガイアと和解したのなら儂に暴れる理由はない』
テュポーンはそう言ってガイアの中---つまりは地球の中に潜った。ゼウスがガイアに確認を取ると、テュポーンはすでに眠りについており、ガイア自身もテュポーンをそっとしておいて欲しいとゼウスに頼み込んだ。そもそも、テュポーンがギリシャ神話の神々に喧嘩を売ったのもガイアに頼まれてのこと。ガイアはゼウスと和解してからもずっとテュポーンを気にしていた。『無常の果実』を喰らい、すべてを封印され、体の上を島で覆われ数えきれない時を孤独に過ごしていた。ゼウスが施した封印はテュポーンの周りの空間を他者が入り込むことなどできない異次元に隔離してその隔離した空間をシチリア島で蓋をする物。偶然とはいえ、その封印が解け、テュポーンはようやく自由になったのだ。そして、今は母親である自分の中で眠りについている。
『なので、ゼウスよ。そして神々よ。我が息子を穏やかな眠りにつかせてはくれぬか?』
ガイアはそう言って全ての神話体系に頭を下げた。各神話体系の幹部たちはどうするべきかと考えたが、ゼウスも頭を下げた。
『頼む皆の衆。儂からも奴を静かに眠らせておいてくれ』
ゼウスが頭を下げたことに集まった神々が絶句した。ゼウスという男はそのようなことをしないと思っていた。いや、下げるのは愛妻であるヘラのみ。そう思われていたのだ。そのゼウスが頭を下げているそれがどれほどのものか。
『考えれば奴が儂と戦ったのもガイアが儂の増長を察してのこと。今でこそティターンやギガースたちと和解しているとはいえ、あの時ガイアにそう思わせるだけの行動を取っていたのは事実。テュポーンは戦わなくても良かったのだ。それを戦わせてしまったのは儂の責任。もし、テュポーンが再び暴れるというなら儂が全力を持って討ち果たす。だから、ここは抑えてくれ』
各神話体系の神々にしてもテュポーンが暴れてもゼウスが相手取るというし、腐っても主神のゼウスがただでやられるはずもない。何かしらの致命傷は負わせるはず。そうすれば他の神話体系と協力すれば再封印くらいはできそうではある。そのため「テュポーンが暴れた際はギリシャ神話体系が全戦力を持って相手をする」事を条件にテュポーンに関してはテュポーンが暴れないかぎり手出ししないこととなった。
「んで? なんでそんな各勢力から恐れられているドラゴンがいるんだよ」
「すまないがそれは話せない。まぁ、ウマがあったと思ってくれればそれでいい」
『そうそう。長い生では細かいことを気にするのは程々でいいのだ』
「……まぁ、いいけどよ---ッ!」
「ほう……反応するか」
雑談途中でマッキーは予備動作も殺気もなしに匙の顔面めがけて魔力をまとった拳を放つ。すんでの所で後ろに跳んで回避するが、マッキーはドロップキックで追撃を行う。両腕で止めようとすれば、その足から電撃が発生し、匙の意識を一瞬ではあるが失わせる。そして、続くのは拳のラッシュ。匙は悪魔化してから余計に強くなった剛力で弾くが、マッキーの拳を弾くたびに体内に衝撃が流される。それは徐々にではあるが、匙の動きを鈍くしている。
「クソ……がァ!」
「不意打ち云々は言わんのだな」
「ハッ! そんなクソみたいな抗議するかよ! 不意打ちを防げなかったら防げなかった奴が悪ぃだろうがよぉ! お嬢が不意打ち食らったらそりゃあ俺の責任だ!」
「然り。俺たちは主の牙であり盾だ。俺たちは主を凌ぐ戦闘力を持つ。故に、主を守れないならば……生きている必要はない」
「同感だ! 主を守れない犬に価値なんざあるかよ!」
打ち合わせていたのか、セラフォルーは「んじゃあ、あんまり怪我しないようにね! 私はソーたんのところに行ってくるから!」とすでにその場から転移している。それに毒づきながらも匙は両腕に触手を出現させる。しかし、それは今までのように伸ばしては使わない。ヴリトラの頭を模した触手はその牙のみを匙の両腕に生み出す。それはまるで匙の両腕から幾つもの棘が出ているように見える。
「『黒い龍脈』を……そのように使うか」
「至近距離ならこっちのほうが使いやすい!」
『なるほどな。こうやって殴りあっていても相手の力を吸い取れる、と』
『『黒い龍脈』は相手の力を我がものとする。ならば、自ずとどのように戦うかなど見えてくる』
拳を交えれば交えるほど匙の力は増幅し、相手の力は匙に吸収される。無論、鎧などで防御はできるがその場合でも匙の下級悪魔としては桁外れの腕力で破壊される。
「確かにこれならば相手を選ばんな。シンプルな戦闘スタイルだ」
「一々、相手を自分の土俵に連れてくるのは面倒だからなぁ! だったら無理やり自分の土俵を相手の土俵にぶつけるしかねぇだろうが!」
自分は、ソーナの最初の眷属である。これから増えていくのだろうが、未だソーナを守るのは自分のみ。ならば、自分はどのような状況でもソーナを守れなければならない。自分が倒れることなどあってはならない。ならばどうするか。ヴリトラと話し合って決めたのが---。
「相手の力を喰らい、体力や傷を癒やして自身を強化。相手は力を奪われるから弱体化。乱戦では触手を鞭のように振るえば大抵の敵は片付けられる。」
『カッカッカ。継戦能力と汎用性にこだわったな。ヴリトラにしては単純な戦闘方法。ヴリトラよ……貴様、いずれ他の神器を吸収するつもりだな?』
『世界に散らばる我が力を封じられた神器を取り込めばより多様に戦える。我が半身の戦闘方法は単純だからこそ後付できる」
匙とマッキーの豪腕がぶつかり合い、大気を震わせる。踏み込めば地面が凹む。匙が獣のように飛びかかれば槍のように蹴りが放たれる。それを回避してヴリトラの牙を弾丸のように撃てば、全身より衝撃波が放たれ相殺される。匙はマッキーを喰らっているが、傷はすぐに回復しておりさらには疲労などつゆほども見えない。
「相性悪ぃなおい!」
「まぁ、お前の戦闘スタイルは相手を弱体化させることが基本だからな。俺はテュポーンがいるため力を吸われようがどうしようが意味が無いからな」
『儂は大地そのものであるガイアが生み出した最大最強のドラゴン。いわば、ガイアのサポートを常に受けている状態よ。そのため、不死であり疲労もない。例えるなら、わんこそば。減っても減っても、次から次へと補充される!』
『テュポーンよ。しばらく見ぬうちに随分愉快になったな』
テュポーンはふざけたことを言っているが、実際匙とマッキーの相性は悪い。一見すれば、匙がマッキーの力を吸収し放題と思えるが、無限に吸収できるわけではない。傷を負ってそれを修復するかしなければ食らった力は溜まり続ける。最終的には、水を入れすぎた風船のごとく匙が弾けるだけ。では、破裂しないように魔力弾を放ちまくっても、それをマッキーが弾けばいいだけ。対するマッキーは、疲労などは気にせず突貫すればいいだけ。力を吸収されて、相手が強化されようが関係ない。
「つーことは……決着つかねぇじゃねぇか!」
「……そうだな」
千日手とでも言えばいいのだろうか。この二人は対決するよりも共闘させたほうが旨味がある。ただ---。
「今は戦闘訓練だ。相性は関係あるまい。ギアを上げるぞ」
「上等!」
二人は、そう言って攻撃の速度を上げる。匙が牙を全身から発射すれば、マッキーは全身を豪炎で包み牙を溶かす。マッキーが音速を超えるほどのパンチを振るえば匙は防御無視で腕を折ろうとする。匙は疲労すればマッキーから力を吸収すればいい。マッキーは吸収されたところで関係ない。後の「シトリー家の永久機関」の誕生の瞬間である。
「ところでテュポーンの能力ってなんだ?」
『ふむ。そういえば我も詳しくは知らんな』
『不死、スタミナ無限、火炎放射、衝撃波だな。後は隠し玉が幾つか』
「攻撃手段が意外と少ないんだな」
戦闘訓練も終わり、休憩していると匙がとある疑問を投げかけた。それに対してマッキーはその少ない攻撃手段で敵を倒せるので問題はないとのこと。要は使い方だという。
『我が炎は天地を焼き、噴流は全てを吹き飛ばす。シンプルだ。だが、得てして究極と言うのは単純なものになるものだ』
「そういうもんかね」
「ああ」
匙も攻撃手段で言えば手数は少ない。基本的にマッキーと同じく体術で止めを指している。ソーナのように多種多様な魔法を習得しているわけでもなければ、セラフォルーみたいに全てを凍らせることもできない。ならばどうするか。
「「レベルを上げて物理で殴ればいい」」
匙とマッキーの声が重なる。敵を凍らせる? 多種多様な魔法を使う? そんなものは知らん。俺たちは相手から吸収するか自前かの違いはあれど自身の傷など気にせずその全身を使って敵を殲滅するのが基本戦術。ならば自ずとやることは決まってくる。
「第二ラウンド開始だゴラァ!」
「甘い!」
脳筋と笑わば笑え。これが我らの進む道。それぞれの主の進む道に現れる障害を叩き潰して、主が進みやすいようにすることが我らの使命。我らは自身の名に興味はない。全ては主のために。
「ヒャッハー!」
「破ァ!」
互いの拳がぶつかりより、衝撃が周りを破壊する。全てを喰らう牙が、天空を燃やすほどの炎が、龍王の頭を模した触手が、大地を抉る衝撃が暴れまわる。規模こそ小さいが、それは神話の大戦の再現でもあった。
数時間後、様子を見に来たシトリー姉妹に正座で説教され、二人して穴を埋めたり壊れた建物を修理している姿が見られた。
例えるなら、匙は僕らの愛するチンピラ中尉。マッキーは、やっぱり僕らの愛するマッキー。
ただし、ふたりともヴァレリア並の異常なほどの耐性持ちである。
マッキーについてはいずれ書くかもしれないし書かないかもしれない。
次回は、ソーナ眷属一部を除いて登場の巻。
匙の強化どうしよう。