機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第6話  運命の目覚め

 

 

 

 宇宙を駆ける機影。

 普通ではない速度で移動しているそれはテタルトス軍の戦艦であった。

 

 テタルトス軍ヒアデス級戦艦『エウクレイデス』

 

 テタルトスで運用されている戦艦でエターナルを参考にされた高速艦である。

 この艦は量産されたヒアデス級の中でも初期型であり、何度か改修が行われ、側面にブースターユニットを取り付ける事で通常の戦艦とは比較にならない速度を出すことができるようになっている。

 

 「大佐、もうすぐ戦闘宙域に到着しますよ」

 

 現在、エウクレイデスを任されているアンドリュー・バルトフェルド中佐が背後の上官に振り返る。

 そこにはいつも以上に固い表情で佇む最強の男ユリウス・ヴァリス大佐が立っていた。

 

 「了解した。バルトフェルド、エウクレイデスは援護に徹しろ。ミネルバとの砲撃戦は分が悪い」

 

 この艦が戦場に向かっているのは、もちろん今回の降下作戦の援護に向かう為だ。

 当初はアメノミハシラへ向かう予定だったのだが、降下する部隊がミネルバと交戦中だという緊急連絡を受け、急遽艦隊が集結しているポイントへ進路を変更したのである。

 

 「分かりました。それより、どうかしました? いつもよりも、やる気に満ちているというか、猛々しいというか、雰囲気が違いますが?」

 

 いつも通り飄々とした物言いでバルトフェルドが軽口を叩く。

 そう言われて初めて気が付いたのか、ユリウスは僅かに驚いた表情を浮かべると微かに口元をつり上げた。

 

 「大した事じゃない。ただ久々に『愚弟』に会う事になりそうだからな。それに―――」

 

 「それに?」

 

 「いや、何でもない。それより後は任せるぞ」

 

 「了解です」

 

 指示を出し終えたユリウスはブリッジを後にすると通路で待っていた金髪の青年を連れ、格納庫に向かう。

 

 「どうしました?」

 

 ユリウスの様子が少しおかしい事に気が付いたのか、金髪の青年が訝しげに声を掛けてくる。

 

 「いや、お前は感じないか? 何か見られているような……」

 

 この宙域に近づいてからというもの、ユリウスはどこからか見られているような気配がして仕方がなかった。

 すると青年も覚えがあるのか表情を曇らせながら、呟いた。

 

 「……少しだけ」

 

 「そうか。一応、警戒だけはしておけ」

 

 「分かりました」

 

 格納庫に到着した二人は自分の機体に乗り込む。

 

 「行くぞ、ついて来い―――レイ」

 

 「了解」

 

 エウクレイデスのハッチが解放され、二機のモビルスーツが戦いの場へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 砲火を打ち合うミネルバとテタルトス艦隊。

 そんなミネルバを守るようにムラサメやザクが敵モビルスーツを寄せ付けないように奮戦している。

 敵艦から放たれた砲撃がミネルバを掠め、大きな振動が艦を揺らす中、タリアはモニターに映るテタルトス艦隊の動きに舌を巻いていた。

 

 「流石テタルトス艦隊、上手いわね」

 

 「ええ、タンホイザーの射線を取らせないよう配置しています」

 

 昨今では陽電子砲を備えた戦艦というのも珍しくなくなり、艦隊戦においてもそれの対処は必須事項となっていた。

 地球軍では陽電子砲を防御できる陽電子リフレクターを備えたモビルアーマーの配備は必須となっているし、ザフト、同盟軍でも射線を取らせないか、モビルスーツによる発射口の破壊の為の戦略が練られている。

 どうやらそれはテタルトスでも同じようで、彼らはタンホイザーの射線上には絶対に入ってこない。

 こうなるとモビルスーツによる攻撃か、戦略でこちらの射線上に誘導するかしないといけない。

 まずは近くのプレイアデス級を落とし、陣形を崩そうと策を練るタリアだったが、そこに予定を狂わせる報告が飛び込んできた。

 

 「ッ!? 左方向より敵艦接近! これは……調査活動中に遭遇したプレイアデス級です!!」

 

 「あの艦が……ミネルバ左へ回頭、インパルスとエクリプスは?」

 

 「インパルスは敵部隊を抑えています。エクリプスは……敵新型機と交戦中!!」

 

 「すぐに戻るように連絡を。もうすぐアメノミハシラから援軍が来る筈よ、それまで持ちこたえて!!」

 

 「「「「了解!!」」」

 

 艦首を戦域に突入してきた敵艦アリスタルコスの方へ向けるミネルバ。 アリスタルコスのブリッジでその姿を確認したヴィルフリートはニヤリと笑みを浮かべた。

 

 「ここで以前の借りを返させてもらうぞ、ミネルバ! テンペスターズを出せ! 俺の機体も用意しろ!!」

 

 「少佐自ら出撃なさるのですか?」

 

 「当たり前だ! ザラも出ているというのに俺だけ黙って見てなど居られるものか!」

 

 ヴィルフリートはいつも以上に余裕が感じられない。

 アスランの名が出た事から見て、おそらく中佐に昇進した事を聞いて焦ったのだろうと推測を立てた副官はそれ以上何も言わなかった。

 言っても無駄な事は重々承知していたからだ。

 

 「後は任せたぞ」

 

 「了解です」

 

 呆れと哀れみが入り混じった副官の視線に気が付かないままヴィルフリートは嬉々として格納庫に向かう

 そこでは自分の為に用意された新型機がヴィルフリートを待っていた。

 

 LFA-06 『H・アガスティア』

 

 テタルトス軍新型モビルスーツで汎用性に優れたオーソドックスな仕様となっている。

 頭部のモノアイと突き出した一本角の高性能レーダーが搭載され情報収集能力に秀でており、指揮官機としても高水準で纏められた傑作機である。

 ヴィルフリートはコックピットに乗り込むと素早く機体を立ち上げ、カタパルトまで運び込んだ。

 

 「よしヴィルフリート・クアドラード出るぞ!」

 

 ソードコンバットを装着したH・アガスティアが意気揚々とアリスタルコスを飛び出す。

 先に出撃していたテンペスターズと合流すると目標の方へ視線を向けた。

 

 「テンペスターズ、聞こえているな? 以前の借りを返す時だ! 今度こそしくじるなよ!」

 

 「「「了解」」」

 

 先行するH・アガスティアの後ろに付きながら、ルーカスとヴィクトルは思わずため息を漏らす。

 

 「たく、ここで少佐殿のお守りとは。ブリッジでジッとしてりゃあいいのにさ」

 

 「今回ばかりは貴方に同感ですね」

 

 「無駄口を叩くな、任務は任務だ。それよりもいつも以上に気を引き締めろ」

 

 「「了解」」

 

 ジョナサンに諫められた、二人は思考を切り替えると一糸乱れる動きで連係を組み始める。

 この切り替えの早さと集中力、そして鍛え上げられた技量こそテンペスターズと呼ばれる三人の強さに繋がっていた。

 それを改めて確認したジョナサンはどこか誇らしげに軽く微笑むとミネルバの方へ向かっていたインパルスを最初の標的に定めH・アガスティアと共に攻撃を開始した。

 

 「落ちろ、インパルス!!」

 

 飛び出したヴィルフリートはビームライフルを連射し、インパルスの進路を塞ぐと対艦刀で斬りかかった。

 

 「新型機!?」

 

 ディファイアントビームジャベリンを抜き、サーベルを受け止めるインパルス。

 その装備を見たヴィルフリートは鼻で笑った。

 

 「ハッ! 砲戦仕様の装備か! 運がなかったな、距離を取らせはしないぜ!!」

 

 ジャベリンの上から対艦刀を叩きつけ、さらにロングビームサーベルを下からすくい上げるように斬り上げる。

 

 「俺は近接戦が最も得意なんだよ!!」

 

 ロングビームサーベルの斬撃によって弾き飛ばされたインパルスに今度はテンペスターズが襲い掛かる。

 

 「エクリプスの前にまずはこいつから仕留める!」

 

 「「了解!!」」

 

 「くっ、次から次へと全く!」

 

 接近を許すまいとミサイルを発射して距離を取るインパルスを連係を取りながら、三機のシリウスが刃を抜いた。

 

 

 

 

 

 

 奴との出会いは最悪だった。

 

 今は無き崩壊したコロニー『ヘリオポリス』

 

 遠くで聞こえてくる銃声と崩れ落ちる建造物、そして銃を突きつけながらもこちらを見つめる無感情な瞳。

 それは人を殺す事に何の躊躇いも持たない死神の眼だった。

 

 そんな僅かな邂逅の後に何度も戦場で殺し合ってきて、そして今また―――

 

 エクリプスは目の前に現れた紅いモビルスーツに一切のためらいを見せず、ビームライフルを撃ち込んだ。

 しかしそれを紅い機体を操るアスランは鮮やかともいえる動きで避けて見せると、ライフルを撃ち返しながら腰の実体剣を抜いて斬り込んでいく。

 

 「はあああ!」

 

 手加減なしで振り下ろされた一太刀がエクリプスのビームサーベルと激突すると稲光を発しながら弾け合う。

 それを一瞬呆けて見ていたラディスは我に返ると思わず叫んだ。

 

 「中佐! 何故、出てこられたのですか? ここは俺が!!」

 

 この場を任されたのは自分だった筈だと、非難と憤慨を込める。

 しかし、返ってきた言葉はラディスの『強化兵』としてのプライドを傷つけるものだった。

 

 「下がれ。こいつの相手はお前では無理だ。艦隊の防衛に回れ」

 

 「なっ!?」

 

 無理だと?

 

 『強化兵』である自分が?

 

 『強化兵』とはテタルトスで考案されたパイロット能力向上プランの一環で誕生した兵士の事である。

 薬物と実験型のナノマシンを投与する事で、パイロット能力を格段に向上させ、地球軍のブーステッドマン、エクステンデットとは違い被験者にかかる負担も格段に軽減されている。

 そして一度処理を行えば以降に特殊な処置は必要ない画期的なものだ。

 ただし、未だ実験段階であり現在は一部の兵士にのみ処置されていた。

 そしてラディスもその一人。

 元々上昇志向の強く、ナチュラルとしてコーディネイターに強い羨望を抱いていたラディスにとって強くなるための手段、つまりは『強化兵処置』は願ったりだったのだ。

 

 以前の脆弱な自分を捨て、強くなったはずなのに―――

 

 「俺がこんな奴に負けるか!!!」

 

 アルタイルはライフルを構えてエクリプスに突撃する。

 

 「ラディス!?」

 

 「うおおおおお!!」

 

 「チッ!」

 

 アレンはスラスターを逆噴射させつつ機体を水平に寝かし、ライフルの射線から逃れるとそのままアルタイル目がけて散弾を発射する。

 

 「な!?」

 

 アルタイルは咄嗟にシールドで防御するが、一瞬動きを止められてしまう。

 その隙に放たれたエクリプスのビームがアルタイルのライフルを叩き落とした。

 

 「ぐあああ!」

 

 「下がれと言った筈だ! 実戦と訓練は違う!」

 

 爆発の衝撃で吹き飛ばされたアルタイルを尻目に二機のガンダムが再び刃を片手に向き合った。

 

 「……2年ぶりだな、アスト・サガミ」

 

 「アスラン・ザラ……か」

 

 機体越しに睨みあう二人の視線には懐かしい者に出会った親愛の感情など欠片も込められてはいない。

 あるのはただお互いに対する敵意のみ。

 それも当然。

 二人は決して相容れない宿敵なのだから。

 

 「……一応聞く。テタルトスは何を考えている? 何故、今戦火を拡大させるような真似を―――」

 

 「敵である貴様に答える義理はない」

 

 「だろうな」

 

 元々アレンとアスランの関係を考えれば問答など意味はなく、またお互いに質問に答えるとも思っていなかった。

 

 「俺と貴様が戦場で出会った以上、やるべきことは一つだけだ」

 

 ゆっくりと掲げられたライフルの銃口がエクリプスへと向けられる。

 

 「ここで決着をつけてやる!」

 

 発射された一撃を飛びのく事で回避したエクリプスだったが、それを逃がすまいと紅いガンダムが追撃する。

 

 「逃げられるとでも思っているのか!!」

 

 「舐めるな!」

 

 アレンはスラスターを吹かすと至近距離から銃口を構える紅いガンダムにビームサーベルで斬りつけた。

 しかし流石というべきか、袈裟懸けに振るわれたサーベルは紅い機体に当たる前に実体剣で受け止められてしまう。

 敵のガンダムが持つこの剣も同盟で普及しているビームコーティングが施された実体剣『ブルートガング』と同型のものなのだろう。

 

 「くっ!?」

 

 アレンは力一杯押し返そうとするが、ビクともしない。

 

 「核動力機か!」

 

 現在、モビルスーツを動かす動力源はバッテリー動力と核動力の二種類が存在していた。

 大部分の量産型機はバッテリー動力を用いている。

 しかし一部エース用や特殊兵装を搭載された機体などは基本的にエネルギー切れを起こさない核動力を使用しているのが常である。

 おそらくはエクリプスと対峙しているこの紅いガンダムも核動力を使用しているのだろう。

 エクリプスはユニウス戦役時に比べても性能は向上しているが、バッテリー動力を用いている事に変わりはなかった。

 戦えない訳ではないが、限界があるバッテリー機とパワーダウンが起きない核動力機との差は無視できない要因の一つだ。

 

 「今日こそは貴様を!」

 

 「アスラン・ザラ!! お前はいつもそうやって!!」」

 

 オートクレールとビームサーベルが二機の間で火花を散らし交錯する。

 力勝負では不利であると弁えていたアレンはまともに受け合わずに斬撃を受け流そうとする。

 だが突如オートクレールの刀身から長々と伸びたビーム刃がエクリプスの肩部を抉り、吹き飛ばした。

 

 「ぐっ!」

 

 「やはりその機体ではこの『レグルス・エクィテス』の相手はできないようだな」

 

 LFSA-X006 『レグルス・エクィテスガンダム』

 

 テタルトスの最新試作モビルスーツでノヴァエクィテスをさらに発展させ、高性能化させた機体。

 武装も強化され、より洗練されており、アスランの特性に合わせ、近接戦闘用の武器が多数搭載されている。

 未完成の機体ではあるが、そこらの機体とは性能からして違う為に扱うにしても相応の技量が求められる仕様となっている。

 

 「かつては貴様に手も足も出なかった! あの時の無力感は決して忘れられない」

 

 『ヤキン・ドゥーエ戦役』

 

 あの戦いにおいて突如アスランの目の前に現れ立ちふさがった壁、それがアスト・サガミという存在だった。

 奴が乗り込む『消滅の魔神』と呼ばれたGAT-X104『イレイズガンダム』の猛攻によって無残に散っていく仲間達の姿。

 それを阻止する事も出来ず、ただ見つめているしかなかった無力な自分。

 だがもう昔の自分ではない。

 望む未来と守るべきものの為に戦う力をすでに得ている。

 

 「もう貴様の好きにはさせはしない!」

 

 「相変わらず勝手な奴だ! 前にも言った筈、それはお互い様だとな!!」

 

 アレンの振るった何度めかの剣撃がエクィテスの目の前で止められ、凄まじい火花が飛び散った。

 

 「はあああ!!」

 

 「その程度で!」

 

 エクィテスが力任せに実体剣『オートクレール』を振り抜き、鍔迫り合うビームサーベルごとエクリプスを弾き飛ばす。

 

 「そこ!」

 

 エクィテスは腹部に搭載された『アドラメレクⅡ』を発射した。

 発射された凄まじい閃光が周囲を焼き尽くしながら、体勢を崩したエクリプスに迫る。

 

 「チッ!!」

 

 前方に突き出したアンチビームシールドが強力なビームを防ぐが、その威力に徐々に押し込まれてしまう。

 

 「ぐぅぅ!」

 

 力一杯操縦桿を押し込み、シールドを前方に掲げ続ける。

 だが、そこで不意にシールドに掛かっていた圧力が掻き消えた。

 

 「何?」

 

 見ればエクィテスから発射されたビームが徐々に光を失っていく。

 

 「……出力が低下している? 未完成機だから仕方がないが」

 

 「機体の不具合か? 何であれ!」

 

 これは好機を逃す手はない。

 隙を見て一気に相手の間合いに踏み込むとビームサーベルを一閃する。

 

 「本来の性能が発揮できなくても!!」

 

 三度、お互いの剣檄が十字を描き交錯する。

 

 「隙がない。腕を上げたな」

 

 「何時までも貴様に遅れはとらない!!」

 

 エクィテスは両手にオートクレールを握り、さらに両足からもビームサーベルを放出するとエクリプスに襲い掛かってきた。

 

 「たく、また四本刃かよ!」

 

 上下左右から振るわれる四刃をシールドで果敢に防いでいくが、段々と限界が近づいてくる。

 特にオートクレールの一撃は重く威力がある為に後、数回斬撃を受ければシールドは破壊されてしまうだろう。

 

 「ぐっ、シールドの限界か!」

 

 アレンは振るわれる斬撃の衝撃に歯を食いしばりながらもモニターでテタルトス艦隊の様子を見る。

 すでに戦艦下方に設置されていた降下ポッドの半分近くが切り離されていた。

 

 「……これ以上の戦闘は無意味か」

 

 作戦を継続する意味がなくなった以上、ここに留まっても意味はない。

 即座に状況を見極めたアレンは限界寸前のシールドをエクィテスに投げつけると同時に反転、離脱を図った。

 

 

 しかしその瞬間―――凄まじいまでの悪寒と久しぶりに味わう感覚が全身を駆け抜けた。

 

 

 「なっ!? この状況で来るのか!」

 

 咄嗟に振り返ったエクリプスの正面から凄まじい速度で突っ込んでくる機体があった。

 青紫に輝く装甲は奴の乗る機体の特徴であり、忘れる筈も無い。

 それは青紫に塗装されたシリウス・ラファーガだった。

 アレンは飛び退くと同時にバロールを叩きこむが、それを難なく避けたシリウスは逆にビームライフルを撃ち返してきた。

 正確にこちらの急所を狙ってくる一撃をギリギリ避けながら反撃を狙ったエクリプスに今度は別方向から発射されたビームが襲いかかる。

 

 「これは―――まさか、レイ!?」

 

 白く塗装されたH・アガスティアがエクリプスの背後からビームライフルを銃口を向けている。

 前にはユリウスが搭乗したシリウスに背後にはH・アガスティア、さらにアスランのレグルス・エクィテスも近づいている。

 

 「……囲まれたか」

 

 危機的な状況の中、エクリプスのコックピットに通信が入ってきた。

 

 「久しぶりだな、アスト」

 

 「……ユリウス・ヴァリス」

 

 モニターにはアレンにとって兄に等しい人物ユリウス・ヴァリスが映っていた。

 まあアレンは兄などとは微塵も思っていないし、ユリウスもまたこちらにそんな感情など抱いてはいないだろうが。

 

 「……貴方までここに。しかもレイを連れているとは」

 

 「私がわざわざ言う事ではないが、戦場では常に予測不能な事が起るものだと覚えておけ」

 

 「ご教授感謝するとでも言えばいいのか?」

 

 「思ってもいない事を口にするな。それよりもキラはどうした?」

 

 「……ここにはいない」

 

 「ほう、奴が来ていないのが意外だったな。今度こそ引導を渡してやろうと思っていたのだが」

 

 その言葉にアレンは操縦桿を握りしめ、できるだけ感情的にならぬように問いただす。

 

 「……まだキラを狙っているのか?」

 

 「逆に聞いてやろう。お前は私がもうキラを憎んでいないと、本気で思っているのか?」

 

 愚問。

 

 その一言に尽きると吐き捨てた男を今度は憤りの感情をこめて睨みつける。

 

 「貴方は!」

 

 二人はある人物によって生み出された『カウンターコーディネイター』と呼ばれる存在。

 その存在意義はユーレン・ヒビキが生み出した『最高のコーディネイター』を排除する事。

 そういう意味で最強の男であるユリウス・ヴァリスこそ『カウンターコーディネイター』の体現者といっても過言ではない。

 それは過去の発言でも確信している事だ。

 

 「何を言ったところで結局、貴方もあの男と同じだ!」

 

 憎悪の炎を燃やし消えていったあの男と―――

 

 「……お前に何を言ってもわかるまい。所詮、お前もキラと同類、私にとっては排除すべき対象である事に変わりはない!」

 

 サーベルを抜き、踏み込んできたシリウスの一撃。

 それを後退して避けたエクリプスにH・アガスティアがライフルから放出したロングビームサーベルで斬り込んでくる。

 

 「レイ!? お前もテタルトスに!?」

 

 「今更貴方と話すべきことは無い、アレン、いや、アスト・サガミ!」

 

 上段からの一撃をソリドゥス・フルゴールビームシールド発生装置を展開して防いだアレンだが、続けて放たれる鋭い射撃がエクリプスの装甲を抉った。

 

 「流石だな、レイ」

 

 後退しながら二機から逃れようとするが、そこに追いかけてきたエクィテスが待ち構えていた。

 

 「逃がさん、アスト!!」

 

 「しつこい!」

 

 突き出されたオートクレールを防ぎながら、周辺の状況を含めて素早く確認する。

 敵に上方と左右の三方向を抑えられてしまった上、味方も他の敵と交戦している姿が見える。

 特にインパルスはあのシリウス三機と新型を同時に相手にしているらしく、ミネルバからも完全に引き離された状態に陥っている。

 

 「このままでは不味いな。それに埒が明かない、仕方ないか」

 

 ビームサーベルを構え、エクリプスの進路を塞ぐ三機を鋭く睨みながら損傷する覚悟を決め、突破を試みようとしたその時―――蒼き翼を持った熾天使がそこに顕現する。

 突如ミネルバに攻撃を仕掛けていた部隊が次々と撃ち抜かれ、成す術なく吹き飛ばされてゆく。

 

 「何!?」

 

 火球に変えられたテタルトス機の爆発に誰もが目をそちらに向ける。

 

 「まさか―――」

 

 「フリーダム!?」

 

 そう、そこに駆け付けていたのはマユの搭乗する同盟軍の象徴『トワイライトフリーダム』であった。

 アスランは素早くコンソールを操作するとミネルバの周辺に他の同盟軍機やザフト機が増援として到着している姿がモニターに映し出される。

 エクリプスの動きをけん制しながら、駆け付けてきた同盟の部隊に鋭い視線で睨みつける。

 

 「あのフリーダム……マユ・アスカか」

 

 「アスラン、援護に向かえ。ここは私とレイでやる」

 

 「しかし―――いえ、ここは頼みます」

 

 余計な感情を押さえつけ反転したエクィテスはオートクレールを構えて斬艦刀を構えるフリーダムに向かって斬りかかった。

 

 「君と戦うのは二度目か、マユ・アスカ!」

 

 「あなたは……確かアスラン・ザラ、さん」

 

 エクィテスは躊躇わずに二刀のオートクレールから発生したビーム刃をトワイライトフリーダムに叩きつけるが、敵機はクルリと背後に後転しながら回避する。

 

 「今のをかわすか。だが!」

 

 アスランはそのままオートクレールをフリーダムに突きつけたままトリガーを引くと、切っ先から強力なビームが発射された。

 

 「なっ!? アイギス!!」

 

 迫るビームを前にフリーダムは背中から射出されたアイギスドラグーンが生み出したビームフィールドによって防御する。

 その見事な動きと判断にアスランは素直に称賛の言葉を口にした。

 

 「流石『オーブの熾天使』と呼ばれるだけはある。だが俺も君に手間取っている暇はない。俺の標的はアスト・サガミだけだ!」

 

 「ッ!? アストさんには手は出させない!!」」

 

 激突するエクィテスとフリーダム。

 その戦いを尻目に離れた場所ではエクリプスとシリウス・ラファーガが切り結んでいた。

 

 「ユリウス!!」

 

 「私はアスランとは違って、そんなモビルスーツに乗っているお前を倒したいとは思わん。私の機体も万全なものとは言えんしな。だが、見逃す訳にもいかない、レイ!」

 

 「了解」

 

 「チッ」

 

 ユリウスとは今の状態ではまともに戦えない。

 かといってレイの新型も容易な相手ではないだろう。ならば―――

 

 「出し惜しみしても意味がないか」

 

 アレンは意識を集中し、久々に『SEED』を発動した。

 

 解放と共に視界がクリアに、そして感覚が鋭く変化する。

 

 「いくぞ!」

 

 H・アガスティアが発射したライフルの一射。

 

 エクリプスのコックピット目がけて正確に放たれた射撃を回避、肉薄してビームサーベルを叩きつける。

 

 「何!?」

 

 流石と言うべきかH・アガスティアはギリギリ機体を逸らし、装甲を滑るように光刃が抜ける。

 しかしアレンはそこで動きを止めず敵機の体勢を崩れたところを見計らい殴りつけた。

 

 「前にも言ったぞ、レイ。お前は慎重すぎるってな!!」

 

 「ぐっ、動きが変わった!?」

 

 「『SEED』か。だが、それだけではな!」

 

 即座に対応したシリウス・ラファーガのヒュドラがエクリプスシルエットの左翼を吹き飛ばす。

 

 「ぐっ、はあああ!!」

 

 バランスを崩しながらもアレンはサーベラスを切り離し機関砲で破壊すると爆煙に紛れ、ビームサーベルを振るう。

 爆煙の中から飛び出したサーベルの刃がシリウスのライフルを捉え、斬り飛ばした。

 

 「浅い!?」

 

 「やるな、アスト!」

 

 「俺が居ることを忘れるな!」

 

 H・アガスティアがロングビームサーベルともう片方の手でビームサーベルを構えて突撃してくる。

 

 「落ちろ!」

 

 「まだァァァ!!」 

 

 二刀の刃が上方から同時に振り下ろされるが、アレンは両手のビームシールドを一瞬だけ展開、振り下ろされた光刃が一瞬だけ発生させたシールドによって外側に弾かれた。

 同時にスラスターを思いっきり噴射するとエクリプスは宙返りしながらH・アガスティアを蹴り飛ばす。

 そのまま下方へ一気に加速、ミネルバと近くまできていたインパルスに対して声を上げた。

 

 「ミネルバ、フォースシルエット! ルナマリア、道を開いてくれ!!」

 

 増援が来たとはいえ、ミネルバからはずいぶん引き離されている。

 しかも立ち塞がる敵は強敵であるユリウスとレイ。

 この二人を突破するには時間がかかり、さらにミネルバに合流するまでに敵部隊の中を突き進まなくてはならないとなると、流石に厳しい。

 となればこの状況から脱出できる可能性があるとすれば一つ。

 地球だ。

 これ以上、戦闘が長引くのは不味いと判断したアレンは自分の為に友軍やミネルバを危険にさらすことはできないと判断し、賭けに出たのだ。

 

 「アレン!!」

 

 「てめぇ、待て!」

 

 「うるさいわね、邪魔よ!」

 

 ミネルバから射出されたシルエットグライダーの道を開くためH・アガスティアを殴りつけたインパルスはケルベロスを放ち、強力なビーム砲によって道を開くとそのままエクリプスの方へ駆け付けてくる。

 

 「艦長、全軍に撤退命令を出してください」

 

 《アレン!? 貴方はどうするの?》

 

 「この位置からでは合流できません。俺はこのまま地球に降ります。ルナマリア、お前も来い」

 

 「了解!」

 

 《待ちなさい、無茶だわ!》

 

 「大丈夫、何とかします」

 

 アレンは通信を切ると敵を振り切ったインパルスと合流し、二機のガンダムは青い地球へと吸い込まれていった。

 

 

 大気圏近くでテタルトスと同盟軍の戦闘が開始されていた頃、地上でもまた戦いの火ぶたが切って落とされていた。

 テタルトス軍は降下部隊を援護する為、ヨーロッパに存在する地球軍、同盟軍の軍事基地に対して攻撃を開始。

 それを迎撃する為、各所で激しい戦いが繰り広げられていた。

 それは『ストックホルム』基地でも同じ。

 ここでも攻撃を仕掛けてきたテタルトス軍を迎撃する為、戦闘が開始されようとしていた。

 起動したモビルスーツが順番に歩き出し、格納庫から外へと出ると戦場へと向かっていく。

 

 「こんな時に戦闘とかついて無いな」

 

 「文句言ってもしょうがないよ」

 

 戦闘準備に追われ、喧噪に包まれる基地内を一組の男女が走っていた。

 黒髪の青年シン・アスカとその恋人であるセリス・ブラッスールの二人である。

 かつてザフトに所属するパイロットであった二人だが数奇な運命を辿りながらも戦場を離れ、現在はセリスの故郷であるスカンジナビアに身を寄せていた。

 そして久しぶりに知人が近くにいると聞き、ここストックホルム基地を訪れていたのだ。

 

 「近々戦闘になるかもってキラさんからきたメールに書いてあったけど……セリス、体は大丈夫か?」

 

 「何時までも病人扱いしないでよ、平気、平気!」

 

 セリスはユニウス戦役で特殊な処置を施された為にしばらく入院を余儀なくされていた。

 その後、経過も悪くないと判断され、後遺症治療とリハビリを行うようになった。

 それでも一年前まで入退院を繰り返していたのだ。

 現在も体の調子を考えながらトレーニングを積み、大分昔のように動けるようになってきてはいるが、シンにとって心配である事に変わりはない。

 

 「ならいいけど。きつくなったらすぐ言えよ」

 

 「大丈夫だってば。それよりキラさん達どこにいるのかな?」

 

 「場所はこの辺の筈―――あ、いた」

 

 探し人であるキラ・ヤマトが端末を持った兵士と真剣に話し合いを行っている。

 

 「ええ。ここはこのままでお願いします」

 

 「了解しました」

 

 話が終わったのを見計らい二人が近づくと、キラもシン達に気が付いたのか笑みを浮かべて駆けよってきた。

 

 「シン、セリス!」

 

 「キラさん!」

 

 「お久しぶりです!」

 

 イザークとアネットの結婚式以来だから約半年ぶりの再会となる。

 シン達との再会に嬉しそうに笑っていたキラだったが、すぐに顔を引き締め真剣な表情に変わった。

 

 「久しぶりに会えて嬉しいけど、今はあまり時間がないんだ。すぐに出撃しないといけないからね」

 

 「そこまで切羽詰まってるんですか? 攻めてきているのはテタルトスですよね? ヨーロッパの事は俺達も知っていますけど、なんで……」

 

 「確かな事はまだ何も。ただ宇宙の方でも色々と動いている―――」

 

 「ヤマト一尉、機体の準備が整いました!」

 

 「了解。シン、セリス、戦闘が終わった後でゆっくり話をしよう」

 

 呼びにきた兵士と共にキラはヘルメットを被るとフリーダムに似た機体へと乗り込み出撃していった。

 

 「……ここも戦場になる可能性がある。街も近くにあるっていうのに!」

 

 固く握りしめるシンの拳をセリスの手が包み込んだ。

 

 「シン、落ち着いて」

 

 「分ってるよ。でも……」

 

 スカンジナビアはセリスの故郷だ。

 シンも短い間とはいえここで過ごしたからこそ、愛着のある場所もある。

 

 そこが戦火に巻き込まれようとしている今―――

 

 シンは固い表情で出撃しようとしている力を持った巨人の姿を見上げた。

 

 「ん、セリス・ブラッスールにシン・アスカか?」

 

 「え?」

 

 焦燥に駆られる二人に声を掛けてきたのは護衛に囲まれた白衣を着た女性ローザ・クレウス博士だった。

 

 「クレウス博士!?」

 

 「どうしてここに?」

 

 「ああ、またつまらんモビルスーツに関する研究の為にな。まあヤマトが基礎設計を行った機体は別だったが、いい加減本業に戻りたいところだ」

 

 ローザは心底面倒そうに吐き捨てる。

 

 彼女には気の毒かもしれないが、それはたぶん無理だ。

 

 今まで開発された同盟の機体群やアドヴァンスアーマーの開発には彼女が深く関わっている。

 その優秀さは誰もが知るところであり、仮にやめたいと言ったところでやめさせてはもらえないだろう。

 特に今の世界状況であればなおの事である。

 

 「それで、お前たちは何をしている?」

 

 「それは……」

 

 口ごもるシンにローザは何を察したように「なるほど。少し付き合え」とシン達を連れて別の場所へ歩き出した。

 

 「あの、どこに行くんです?」

 

 「いいからついて来い」

 

 出撃準備の喧噪から離れ、格納庫のさらに奥へと進むと大きな扉が顔を出した。

 

 「シン・アスカ、お前に聞きたい。お前は戦う気があるか?」

 

 「え」

 

 「先ほどは迷っていたんだろう、再び戦うかどうかを」

 

 「それは……」

 

 何というか、流石クレウス博士とでもいえば良いのか、こちらの葛藤はお見通しという事らしい。

 

 「分かっているかもしれないが、この扉の先には今のお前が求める力がある。だがそれをどうするかを、いやどうしたいかを決めるのはお前自身だ。ただし一度選べば後戻りはできない」

 

 「シン」

 

 「……わかってる」

 

 「私ができるのは選択肢を提示する事だけ。今ならまだ後方でセリスと二人穏やかな生活を続けることもできる。どうする?」

 

 確かにこの二年、腕をなまらせないようセリスのリハビリに付き合う形で訓練だけは続けていたが、戦場に立っていた頃と比べれば格段に穏やかな生活だった。

 正直、未練がないと言えば嘘になる。

 それでも昔に決めたのだ。

 自分で選んだ道を進み続けると。

 

 だから―――

 

 「俺は大丈夫です、ずっと前に決めてましたから。だからお願いします」

 

 「……軍に復帰するという事でいいんだな?」

 

 「はい」

 

 「分かった」

 

 ローザが隔壁を解放するとそこには見覚えのある機体が静かに自身を操る乗り手を待っていた。

 

 「これってジェイルが乗っていた……」

 

 「ああ。ZGMF-X42S『デスティニー』だ。正確にいえばその先行試作量産機だが、お前のリヴォルトデスティニーのデータとプラントから提供されたデータから完成させた」

 

 ZGMF-X42SR 『デスティニーガンダム・リファイン』

 

 デュランダルの研究施設調査の際に発見した組み立て途中のものをプラントから提供されたデスティニーのデータを基に組み上げた機体である。

 

 「これ、すぐに使えますか?」

 

 「ああ。問題ない」

 

 シンは心配そうに見つめるセリスの方に向くと安心させるように微笑む。

 

 「俺、行ってくるよ。ここを、セリスの故郷を守って見せる」

 

 「私も行きたいけど……」

 

 「セリスはまだリハビリ中だろ。ここは俺に任せろって」

 

 シンは用意してもらったパイロットスーツに着替えると、機体のコックピットに乗り込んだ。

 

 《一応言っておくが、そいつはバッテリー機だ。武装もそれに合わせて変更してあるがあまり無茶はするなよ》

 

 「はい」

 

 シンはローザの説明を聞きながらキーボードを素早く叩き、機体状態と武装を確認すると、格納庫の上方の隔壁が解放されていく。

 そしてもう一度こちらを見つめるセリスの顔を見つめるとフットペダルを踏み込んだ。

 

 「シン・アスカ、『デスティニー』行きます!!」

 




機体紹介、更新しました。
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