機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第7話  始まりの星空

 

 

 進撃してきたテタルトス軍とストックホルム基地から出撃してきた同盟軍。

 空を切り裂くビームの嵐を潜り抜け、戦場を駆けるのはフリーダムとジャスティスの二機である。

 

 「予想より進軍が早い?」

 

 「優秀な指揮官が居るのかもしれない。ラクスは押されている部隊の掩護を。僕が中央に行く」

 

 「了解」

 

 構えたビームライフルとビームサーベルを使い分け、空中を飛び回るフローレスダガーを容赦なく撃破してゆく。

 量産型とはいえこの二機の性能は他の機体とは一線を画している。

 それをエース級以上の技量を持つキラ達が操れば、容易くテタルトスの機体を押し留められるのも当然だった。

 

 「舐めるなよ!!」

 

 「月人は月に帰りやがれ!!」

 

 ブリュンヒルデが連携、左右からフローレスダガーを挟み込み、ビームサーベルを突き刺した。

 その隙を掩護する形でもう一機のブリュンヒルデがビームライフルで牽制する。 

 

 「近づけん!」

 

 「同盟め!」

 

 同盟軍がテタルトス軍を圧倒できる理由。

 それが地球上での戦闘経験の差である。

 テタルトスは月を本国としているが故に宇宙での戦闘が主となっていた。

 その為、地球での戦闘経験が圧倒的に少ないのである。

 

 「やはり重力下での戦闘は他勢力に比べてもやや劣るか、今後の課題か。それにしても大した腕前だな」

 

 後方でH・アガスティアに搭乗し、指揮を執っていたファウストは攻勢を押しとどめる同盟のパイロット達の技量に感嘆の声を上げる。

 

 「戦闘経験の差か。こちらの練度不足もあるのだろうが……そしてアレら別格だな」

 

 空を舞う、二機のガンダム。

 射撃戦、近接戦、どれをとっても隙は無く、アレを相手にするには部下たちでは荷が重すぎる。

 流石、同盟軍のエースとでもいうべきだろうか。

 

 「そろそろ直接相手をさせてもらおう……ランゲルト少佐達の方の準備も良いようだ。ディノ中尉、こちらも出るぞ」

 

 ファウストは背後に控えていたセレネの機体に目を向けた。

 

 LFAー04R1 『バイアラン・イーグレット』

 

 テタルトス軍がユニウス戦役時に開発した機体。

 主に宇宙で使用されていたが、元々地球上での戦闘を考え考案されたものであった為に『リローデット計画』に沿って改修され地上用の機体として投入されたものである。

 

 「大佐、マケドニア要塞の方は良いのですか?」

 

 「構わない、その為に遭遇した地球軍改革派の機体を見逃したのだからな。彼らは今頃、マケドニア要塞からの客人の相手をしてくれているさ」

 

 ファウストは偶然遭遇した地球軍の機体を巧みに誘導し、こちらの作戦開始に合わせて出撃したマケドニア要塞の部隊とぶつけた。

 無論、予備の部隊は配置してあるが、それらを動かさずとも十分に時間は稼いでくれるだろう。

 おかげでこちらは同盟の相手に集中できる。

 

 「さて、行くぞ、中尉」

 

 「……了解しました」

 

 先行するH・アガスティア。

 その背を見ながらセレネは戦場を駆ける蒼き翼を持った機体を見て、一瞬だけつらい表情を浮かべる。

 

 「フリーダムに似た機体とあの動き……アレに乗っているのは……アレックスの、いえ、アスランの幼馴染」

 

 キラ・ヤマトに間違いない。

 一度だけ出会った穏やかそうな彼の顔が思い浮かぶ。

 

 「……覚悟は、決めていたはず。私は彼を守る為に」

 

 迷いを振り切るように最初の決意を口に乗せるとセレネは味方の脅威を排除すべく、H・アガスティアと共に二機のガンダムへと攻撃を開始した。

 H・アガスティアがビームサーベルを振るうフリーダムに向けてビームライフルを連射する。

 

 「新型!?」

 

 フリーダムは脅威的な反応で後退しライフルの射線から逃れる。

 そしてH・アガスティアに撃ち返すが、ファウストは潜り抜けるように回避して接近戦を挑む。

 

 「避ける!?」

 

 「素晴らしい反応だ。射撃精度もずば抜けている。近接戦はどうかな?」

 

 ライフルから伸びたロングビームサーベルがフリーダムの腹部を狙って切り払われるが、掲げたシールドによって受け止められてしまう。

 それはファウストにとって想定通り。

 左手で抜いたビームサーベルを上段から叩きつけた。

 だが、それすらもフリーダムは機体を逸らしつつ、回避してみせた。

 

 「思った以上の腕前だな。だが、そんなものではないだろう!」

 

 再びH・アガスティアが繰り出す二刀の刃がフリーダムに襲い掛かった。

 その斬撃は的確に、そして確実にフリーダムに急所を穿たんと放たれる。

 

 「このパイロットは!」

 

 キラは振りぬかれたビームサーベルをかわしながら、相手の事を観察する。

 強い。

 巧みに二刀を操るその技量は間違いなく本物だ。

 だが、気になったのはそこではない。

 この敵はどこかこちらを試しているかのような動きを見せている。

 「そんなものではないだろう?」、「お前の実力すべてを見せてみろ」、そんな感情が攻撃から伝わってくる。

 

 「貴方は誰だ!」

 

 「テタルトス地球駐留軍指揮官ファウスト・クアドラード大佐。君の敵だよ、『白い戦神』キラ・ヤマト!!」

 

 キラは横薙ぎの一太刀を弾き、サーベルを上段から振り下ろす。

 だが、サーベルの軌跡を見切っているのか機体を逸らすだけで回避してみせたH・アガスティアは至近距離からフリーダムに銃口を突きつけてきた。

 

 「僕の事を」

 

 「君やアスト・サガミは自分が有名人であるという事を良く認識した方が良い。特に『SEED思想』が浸透しているテタルトスでは尚更の事だ」

 

 「ならば、先程から一体どういうつもりだ? 何を試している?」

 

 「それに気がつくとは、流石と言っておこうか。なに、簡単な話だ。単純に君がどれほどの障害なのか確かめたかっただけだよ」

 

 「何を言っている!?」

 

 「君が知る必要はない!」

 

 ファウストが至近距離から発射した一撃をキラは神懸かり的な反応でシールドで弾き飛ばす。

 

 「貴方の事情に付き合っている暇なんてないんだ!」

 

 フリーダムが発射したビーム砲がシールドによって受け止められ閃光が二機の動きが一瞬止まった。

 

 「その隙は逃しません」 

 

 上方から回り込んだバイアランの両腕から発射されたビーム砲がフリーダムを襲う。

 

 「新手!?」

 

 フリーダムは空中でバク転、ビーム砲を回避すると攻撃してきた敵機にレール砲を発射し、牽制しながら後退する。

 そこでキラは敵が見覚えのある機体である事に気がついた。

 

 「あれはバイアランか!」

 

 一度だけだが作戦中にアレの戦闘を見た事がある。

 汎用性には欠けるが高い機動性と攻撃力は決して侮れない機体だった。

 変化している形状と背中に背負ったウイングコンバットを見る限り、地上戦用に改修が施されているのだろう。

 

 「いいタイミングだ、ディノ中尉」

 

 「ディノ!? まさか―――」

 

 機体を半回転させビーム砲を避けたキラは上を取った敵機にライフルを発射する。

 それをすり抜けるように回避したバイアランは両手にビームサーベルを握り、斬り込んできた。

 袈裟懸け、そして逆袈裟。

 繰り出された鋭い連撃をシールドで止めたキラはバイアランに向けて声を発した。

 

 「セレネ、セレネ・ディノか!?」

 

 「……キラ・ヤマトさん」

 

 通信機から聞こえてきたのは、覚えのある声。

 かつては一緒に戦った事もある少女の声だった。

 

 「君まで地球に―――」

 

 キラは一瞬だけ辛そうに表情を顰めるとバイアランのサーベルごと突き放す。

 

 二機は弾け飛び、互いに銃口を突きつける。

 

 「……貴方と私は敵同士、話す事はない」

 

 「セレネ!」

 

 戦場で出会った以上は敵同士、それだけの事だとセレネは口にする。

 

 「私も守る物がある以上、躊躇うつもりはありません!」

 

 それは覚悟を持った兵士の言葉だった。

 ならば、キラもまたそれに応えるのみ。

 

 「それは……僕も一緒だ!! たとえ君がアレックスの大切な人だとしても!!」

 

 トリガーを引こうとするキラだがそこに今度はH・アガスティアが割り込んでくる。

 

 「させないよ」

 

 「くっ」

 

 H・アガスティアとバイアラン。

 二人のエース級を相手にキラはサーベルを構え、前方へと突撃した。

 三機が常人が入り込めない空中戦を繰り広げていた頃、ジャスティスで敵の侵攻を防いでいたラクスの前にも新たな敵が立ちふさがっていた。

 

 撃ち掛けられる砲撃。

 

 気を抜けば確実に落とされてしまうだろう精密射撃を紙一重のタイミングで回避するジャスティス。

 相対していたのはロングビームライフルを携えたヴァルターのシリウス・ラファーガだった。

 

 「ジャスティス……私もできればフリーダムモドキの相手をしたかったですが、それは今度にしましょうか」

 

 ヴァルターは金髪の髪をかき上げ、スコープを引っ張り出すとピンク色のモビルスーツに狙いをつける。

 その姿はまさに獲物を狙う一流のスナイパー。

 ヴァルターはターゲットをスコープで捉えるとトリガーを引き、銃口からビームが発射される。

 その射撃は正確無比。

 接近戦を得意とするジャスティスにとって最も相性の悪い相手である事を意味していた。

 

 「上手い! ここまで接近を許さないとは」

 

 ビームが装甲ギリギリの位置を掠め、その度に冷や汗がラクスの背中を伝ってゆく。

 敵の動きを読み自分の得意とする攻撃範囲に誘導する技術や接近戦のタイミングを取らせない機体の捌き方。

 シリウスのパイロットはスナイパーとしての戦い方と欠点もすべて熟知した上で、最大の効果が発揮できるように思考しながら動いている。

 これだけの腕前、並みのパイロットではない事は分かる。

 だが、それ以上に強烈な違和感がラクスを困惑させていた。

 

 「……これは一体……」

 

 ラクスの良く知る人物に似ているのだ。

 機体の動きも、動く敵を捉える非常に高い空間認識力も。

 

 「戦いの最中に考え事とは余裕ですね」

 

 「その声!?」

 

 ビームをシールドで防ぎながらラクスは耳に入ってくる敵機からの声に困惑を深めていく。

 

 「誰か、貴方の知っている人物と似ていましたか? 生憎、別人ですよ!!」

 

 「ッ!?」

 

 ビームを紙一重でやり過ごしたジャスティスはグレネードランチャーを敵機に直撃する前に炸裂させ、発生した爆煙の中に飛び込む。

 そして背中の装備『カラドリウス』を切り離し、シリウスに向けて射出した。

 

 「奇策を!」

 

 煙を斬り裂く様に飛び出してきた『カラドリウス』。

 ヴァルターは驚く事も無くヒュドラでカラドリウスを消し飛ばすと、予想通りに飛び出してきたジャスティスを両手で構えたビームサーベルで迎え撃つ。

 ジャスティスの腕からせり出したブルートガングとシリウスのニ刀のビームサーベルが交錯し、激突する。

 

 「流石ですね」

 

 ヴァルターは目の前の機体に素直な称賛を送った。

 距離を取り常に攻撃範囲に入れないよう警戒していたにも関わらず、こうして接近戦を挑んできたジャスティスのパイロットは間違いなく一流の技量を持っている。

 大戦を潜り抜けてきた英雄の力は伊達ではないという事なのだろう。

 

 「貴方は―――」

 

 「私の事などどうでもいいでしょう。それにそんな事を気にしている暇もないと思いますが」

 

 鍔迫合う二機を尻目に伏兵として控えていたテタルトスの部隊が防衛部隊の背後を突く形で奇襲を仕掛けようとしていた。

 

 「まだ部隊を控えさせていた?」

 

 「行かせませんよ。貴方はここで私とモビルスーツの教練ですから!」

 

 シリウスの両肩に設置されたビーム砲が火を噴き、ジャスティスの肩部を抉るとビームサーベルを振り抜いて突き飛ばす。

 

 「くっ、何故ストックホルム基地に向かわずに……」

 

 「さあ、何故でしょうかね!」

 

 テタルトス軍による正面と背後からの挟撃。

 控えていた部隊を率いていたのはジンⅡに似た雰囲気を持つ機体だった。

 

 LFA-01RE 『ジンⅡ・アクティヴ』

 

 『リローデット計画』に沿って改修されたジンⅡをさらに強化した機体。

 関節部の強化とメインスラスターをさらに高出力化した事で、新型機以上の性能を持つが、その分操作性はさらにピーキーとなっている。

 コックピットに座るリベルト・ミエルス大尉は事前に知らされていた予想通りの戦況に、呆れ半分、感心半分で呟いた。

 

 「おおよそ予定通りとはな。同盟の不甲斐なさか、大佐がそれだけ優れているのか。まあ、どちらにせよ、私は任務を完遂するだけだ」

 

 ジンⅡ・アクティヴは先陣を切る形で加速すると、ビームサーベル片手にブリュンヒルデの背後から襲撃する。

 反応する間も与えず接近したジンⅡ・アクティヴはブリュンヒルデの胴体を貫く。

 

 「な、新型!?」

 

 「反応が遅い!」

 

 近くにいた敵諸共袈裟懸けに切って捨てた。

 リベルト隊の強襲によって混乱した同盟軍の機体は次々と撃墜、及び戦闘不能へと追い込まれていく。

 援護に向かいたくともフリーダム、ジャスティス含め余裕のある機体はいない。

 キラと攻防を繰り広げるセレネを援護していたファウストは時計を眺めると口元に笑みを浮かべる。

 

 「リベルト大尉は時間通り、すべて予定調和か。ではこのまま―――ん?」

 

 

 だがその時―――想定外のモノが現れる。

 

 

 背中から見えるは紅き翼。

 

 開かれた翼から光を発し、一気に距離を詰めてきたソレは大剣を引き抜き、同盟軍機を襲っていたジンⅡを瞬く間に撃破した。

 

 爆煙の陰から現れたその機体にさしものファウストも驚いたように目を見開いた。

 

 「増援」

 

 「アレは……」

 

 それはユニウス戦役を戦った者であればあの機体を知らぬものはいない。

 

 運命の名を冠する紅き翼を持ったその機体の事を。

 

 「……『デスティニー』か」

 

 ファウストの視線の先、そこには爆煙を背に油断なくアロンダイトを構えるデスティニーガンダム・リファインの姿があった。

 

 「これ以上、好きにはさせない!!」

 

 コックピットに座るシンは素早く状況を把握すると、危機的状況に陥っている味方機を救うため敵機に向けて斬り込んだ。

 

 「止めろォォ!!」

 

 速度を上げたデスティニーはすれ違い様にフローレスダガーを盾ごと切り裂き、ビームライフルで味方機から敵を引き離していく。

 

 「はああああ!!」

 

 シンは久しぶりの実戦である事など全く感じさせない動きで、降り注ぐビームをすべて避けた。

 

 「何!?」

 

 「捉えられない!?」

 

 ジンⅡやフローレスダガーは加速するデスティニーの動きをまるで捉えられず、ただビームは空中へ消えていく。

 

 「まずはお前達から!!」

 

 すれ違いざまに蹴りを入れ、他の機体にぶつけるとビームライフルでコックピットを貫通。

 さらに爆煙に紛れバッテリー内蔵型ビームランチャーを発射し、体勢を崩した所にアロンダイトを振り抜いた。

 耐える事も出来ず切り裂かれたモビルスーツは炎を纏って海上へと落下していった。

 

 まさに獅子奮迅。

 

 対艦刀を振るい、ライフル、時にサーベルを使い分け敵機を次々と落としていくデスティニーの奮戦により戦況は再び膠着状態へと押し戻された。

 縦横無尽に動き回るデスティニーの姿にファウストは僅かに不愉快そうに表情を歪めると時計を確認する。

 日が落ち、周囲はそろそろ夜を迎える時間へと変わろうとしていた。

 

 「そろそろ時間だな……そう上手く事は運ばない、やはり戦場は違うな。とはいえそれでもこちらの思惑通りである事も変わらないがな、ディノ中尉、ミエルス大尉、ランゲルト少佐、作戦は終了だ、敵の援軍が駆けつけてくる前に撤退する」

 

 「「「了解」」」

 

 煙幕を展開し、戦域から離れようとテタルトス軍が後退を開始する。

 

 「逃げる―――ッ!?」

 

 後退していくテタルトス軍に戸惑いの声を上げるシンにジンⅡ・アクティヴが速度を上げて突撃してくる。

 デスティニーとジンⅡ・アクティヴの構えるシールドが激突、空中で睨み合った。

 

 「こいつ!!」

 

 「……再びその機体を見る事になるとはな」

 

 「何!?」

 

 「……俺のこの手で破壊する。忌々しいデュランダルの亡霊め」

 

 そう吐き捨てるとデスティニーを突き放し、ジンⅡ・アクティヴが離脱していく。

 

 「この!」

 

 逃がすまいとビームライフルを発射するが、背後からの射撃にも関わらずジンⅡ・アクティヴはビームの一射を容易く避けてみせた。

 

 「あの位置で避けた!?」

 

 完璧に捉えた筈の一射だった。

 しかも敵は背後を向いていたのである。

 それを最小限の動きだけで回避するなんて、只者ではない。

 撤退するテタルトス軍の姿を見送りながら、戸惑ったように声を上げる。

 

 「アイツ一体、何なんだよ」

 

 シンはヘルメットを脱ぎ捨て、頭をかきながらジンⅡ・アクティヴのパイロットに思いを馳せる。

 だが、考えても心当たりはまるで無い。

 

 「ハァ、とにかく戻るか」

 

 これ以上考え込んでも仕方がないとセリスの待つストックホルム基地へと機体を反転させた。

 

 

 

 

 大気圏近くで開始されたテタルトス軍と同盟軍の戦闘。

 戦力の降下という目的を達成したテタルトス軍はその場に留まる必要も無く、即座に部隊を纏め戦域から離脱した。

 敵からの追撃を警戒し、ギリギリまで戦場に残りトワイライトフリーダムと交戦していたアスランは母艦であるクレオストラトスの格納庫に着艦すると大きく息を吐き出した。

 

 「ふう、任務完了か」

 

 特に大きなトラブルも無く、無事に任務を完遂できた事は喜ぶべきだろう。

 だが、まさか『奴』が現れるとは思ってもいなかった。

 

 アスト・サガミ。

 

 アスランが心の底から倒したいと願う宿敵。

 『ヤキン・ドゥーエ戦役』から今に至るまで忘れた事は一度もない。

 セレネ辺りが聞けば諌められてしまうかもしれないが、それでもアスランはアストを倒さねばならないと考えていた。

 何故ならば奴は越えねばならない壁のようなもの。

 誰が何と言おうとも、愚かな事だと分かっていても、抱えた過去の因縁も憎しみも痛みも―――奴を倒して踏み越えねば前に進む事ができないのだ。

 

 「……早く『レグルス・エクィテス』を完成させる必要がある」

 

 とはいえ今回の戦闘で結構なダメージも負ってしまった為、完成には今しばらくの時間を要するかもしれない。

 月で待っている技師長が渋い表情を浮かべている光景が目に浮かび、苦笑しつつどう言い訳するか考えながらコックピットから降りた。

 整備班にその場を任せ、更衣室に向かおうとしたアスランだったが、自分を待っているかのように立っている人物に気がつくと足を止めた。

 

 「ラディスか。どうした?」

 

 「お話があります、中佐。何故、あの場に出てこられたのですか? あの場は私だけで―――」

 

 「お前では無理だと判断したからだ」

 

 不満そうな態度を崩さず、詰め寄ってきたラディスの言葉をアスランは即座に切って捨てた。

 

 「なっ!?」

 

 絶句するラディスにアスランは気にせず、言葉を続ける。

 

 「ラディス、お前は勘違いしている。確かに『強化兵』の力は優れているかもしれない。しかしそれを扱うお前自身は戦闘経験の無い新兵だ。その事をもっとよく自覚しろ」

 

 「くっ、そんな事は! あのまま続けていたらあんな機体くらい簡単に―――」

 

 「くどい。新型機も任されているんだ、その辺の事も良く考えろ。そして勘違いするな、お前は強化兵である前に軍人だ」

 

 アスランは屈辱に拳を振るわせるラディスを一瞥すると、そのままその場を後にする。

 パイロットスーツから着替え、ブリッジに向かう途中で今度はユリウスとレイの二人が待っていた。

 

 「ずいぶん無茶をしたものだな、アスラン。未完成機を使うとは」

 

 顔を合わせるなり飛び出したユリウスの苦言にアスランは思わず身を固くする。

 

 「……申し訳ありません、大佐」

 

 「気持ちは分からんでもないが、あまり無茶はするなよ。不完全な機体で死んでは目も当てられまい」

 

 「はい」

 

 有り難い忠告を改めて胸に刻むと、今度はアスランから質問する。

 

 「それよりクレオストラトスに来られるとは、何かあったのですか?」

 

 アスランの質問にユリウスは表情を曇らせる。

 こんな風に表情は険しく、どこか警戒感を滲ませているユリウスは滅多に見る事はない。

 

 「大佐?」

 

 「いや……少し気になる事があってな。私とレイはエウクレイデスに合流後、この宙域を調査して帰還する。臨時指令殿にはお前から報告しておいてくれ。後を頼むぞ」

 

 「……了解しました」

 

 「失礼します」

 

 敬礼するレイに返礼しながら、アスランは何か嫌な空気を感じ取っていた。

 

 「……面倒な事にならなければいいが」

 

 半ば願望に近い言葉を口にしながら、ブリッジに入るとクレオストラトスの進路をエウクレイデスとの合流ポイントへと向けさせた。

 

 

 

 

 見上げれば満天の星が煌めく美しい星空が眼前に広がっていた。

 キラキラと輝く星空は建造物の明かりに照らされている都市部や軍事基地周辺では碌に見る事もできない代物だ。

 そういう意味ではここへ派遣されてきた事も悪くは無い。

 というかこれくらいしか、良い事などなかった。

 見渡せばそこら辺に転がっているのは無残な姿になり果てたモビルスーツの残骸と破壊された建造物。

 さらには人とは思えぬ姿となった兵士や戦闘の巻き添えになった民間人の死体がゴロゴロ転がっている。

 まさに地獄と呼ぶにふさわしい惨状。

 出来れば今すぐに忘れ去りたいくらいには凄惨な光景だった。

 

 「ハァ、全く食欲なんて失せるな、こんな場所じゃ」

 

 仰向けに置かれた愛機の胴体に寝転がり、手に持ったチョコレートバーを口に押し込むと、無理やり水で流し込む。

 碌に味もしない質素な食事を終え、改めて寝転がり夜空を見上げていると、そこに声が掛けられる。

 

 「ずいぶん呑気なものだな、アオイ・ミナト少尉」

 

 名を呼ばれたアオイ・ミナト少尉は首を逸らすと地球軍の制服に身を包んだ少女が呆れた表情でこちらを見下ろしてくる。

 一見、あまりにこの場に似つかわしくないどこぞのお嬢様を彷彿させる上品な佇まいを持つこの少女は一応部下であるベアトリーゼ・フォルケンマイヤー少尉だった。

 

 「別にいいだろ、飯くらい。というかパンツ見えるぞ」

 

 「何処を見ているんだ、この変態め!」

 

 「見てないっての! 注意しただけだろ!」

 

 「ふん、どうだか。それより一応ここは敵陣だ。それにこんな場所で良く飯など食ってられるな」

 

 「次何時食えるか分からないんだ。時間がある時に食っておいた方がいいだろ」

 

 「それには賛同するがな。まあ、そんな馬鹿話はどうでもいい、それより報告だ」

 

 ベアトリーゼの表情が変わった事にアオイは飛び起きると気を引き締める。

 

 「上空から何かが降下してくる反応があるらしい。予測降下地点はここから結構な距離が離れているらしいが」

 

 「テタルトスか?」

 

 「さあな。そこまでは分からないそうだ。それでどうする、ミナト少尉?」

 

 「……調査に向かう。準備させてくれ」

 

 「了解」

 

 機体から飛び降りたベアトリーゼを見送りアオイは再び空を見上げると先程と変わらず満天の星空が広がっている。

 

 「……見える訳無いか」

 

 アオイは苦笑しながら、コックピットに乗り込むと機体を立ち上がらせた。




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