大地から伸びるように大きくそびえ立ついくつものビル群。
その中で一際大きくそびえ立つビルの会議室、そこでは地球軍保守派の極秘裏会合が行われていた。
「―――以上が現状報告になります」
部屋の壁一面に設置されたモニターを背に立つ進行役の男が手元の報告書に記載された重要事項を読み上げる。
その内容に席に座った大半の人間が表情を曇らせた。
「やはり『ヨーロッパ戦線』は良くないな」
「ええ。同盟とプラントの連携によって思うように戦況が好転しなかった事も問題ですが、今回のテタルトスの部隊降下によってさらに状況が悪くなる事も考えられます」
今まで睨みあっていたとはいえテタルトスは積極的に攻勢には出ず、自分たちの拠点や他国との関係構築に重点を置いていた。
しかし今回の降下作戦により、一気に攻勢に出て戦況が変わっていく可能性が高まったのだ。
「これでは何の為の『マケドニア要塞』だ! 莫大な建設費用も掛かったというのに!!」
地球軍の制服に袖を通した禿頭の男が顔を赤くし憤りに任せて机を殴りつけた。
マケドニア要塞建設の際に掛かった費用を考えれば上手く機能していないように見える現状には憤慨したくなる気持ちも分からなくはない。
だがあの要塞があるからこそスエズ基地に対する攻撃も防げているのだから、一概に文句も言えないだろう。
「落ちつきたまえ。『マケドニア要塞』があるから同盟やザフト、テタルトスを牽制する事も出来ているんだ」
隣に座る将校の1人ニコラス・フリードマン少将が窘めるように声をかけるが、それでも怒りが収まらないのか再び机を殴りつける。
「ならば、状況を好転させる為にも『GFAS-X1』でも投入すればいいだろう! アレを戦場で暴れさせれば、それなりの損害は与えられる筈だ!!」
禿頭の男はそうとう頭に血が上っているらしい。
今回テタルトスの降下作戦阻止に動かなかった事が余程納得できなかったようだ。
そこで中央に座っていた一番若い男が初めて口を開いた。
「……言いたい事はわかった、少し落ち着いてもらいたい」
会議室に響いた背筋が凍るほどの冷たさと威圧感が籠ったその声に誰もが振り返る。
その男は地球軍の制服に身を包みながら腕を組み、鋭い視線で会議室を見渡していた。
「イスラフィール!? い、いや、失礼した。少し興奮しすぎてしまったようだ」
若干怯えるように禿頭の男は矛を収める。
クレメンス・イスラフィール。
彼こそが曲者ぞろいの地球軍保守派を纏め、率いている若き首魁であった。
「分かればいい。月の降下作戦については同盟が動く事も分かっていからな。下手に動けば無駄に戦力を消耗してしまっただろう。それと先程の『GFAS-X1』投入の件だがアレは欠陥品だった筈だな」
先の大戦で猛威を振るったGFAS-X1は絶大な火力を持ち、小さな基地程度であれば一撃で殲滅も可能なほどの制圧能力を持っている。
しかしその反面、巨体であるゆえに小回りが効かず懐に飛び込まれると碌に対処ができないという欠点も持ち合わせていた。
「しかしそれは現在改良も行っていますし、直掩機に関しても新型を―――」
「『ベルリン条約』があることを忘れるな」
『ベルリン条約』とはユニウス戦役終結後に締結された戦時法の事である。
ヤキン・ドゥーエ戦役やユニウス戦役では大量破壊兵器が使用され、さらに戦闘以外でも多くの被害を出す事となった。
そこで各陣営が協議の元、『GFAS-X1』の攻撃によって崩壊したベルリンにて締結したのが『ベルリン条約』である。
民間機及び医療関係車両などへの攻撃禁止、捕虜の扱い、Nジャマーキャンセラーの兵器使用に関する事など様々な取り決めがなされ、世界へ発表された。
その中には『GFAS-X1』など大型兵器の市街地使用の禁止も含まれている。
全面的に使用禁止にされなかったのは、当時の強硬派が粘った成果とも言えるだろう。
「国際的に効力を発揮するものだ。それを無視しては我々もロゴスと全く同じとなるだろう。それは避けねばならない」
「ハッ」
「しかし、『ヨーロッパ戦線』の現状に関してはどうにかせねばなるまい。その辺はこちらでも考えておこう」
「……あの、テタルトスと一時的に同盟を結ぶというのはどうでしょうか?」
思いもよらぬ提案にその場にいた全員が一斉に振り向いた。
「兵士達の間でもまずは改革派を打倒すべきとの声も強いですし、テタルトスと同盟を組めばヨーロッパ戦線の戦況も変わります」
「なるほど。イスラフィール様はどう思われますか?」
腕を組んだクレメンスは提案を口にした将校の方へ眼を向けた。
「一考の価値はある。しかし問題もあるな。我々からすればテタルトスはテロリスト達が集まって作られた国だ。同盟を組むという事は、彼らの存在を対等であると認める事と同義―――地球連合として簡単に容認できまい」
「も、申し訳ありません」
「いや、どんな意見も口にしなけれれば伝わらない。それに先程も言ったが一考の価値はある」
「では、パナマの方はどうなされますか?」
現在、改革派が拠点としているのがパナマ基地である。
ここを落とせば事実上改革派は敗北となる訳だが、率いているネオ・ロアノーク大佐は巧みな戦術と洗練された部隊を使い分け、尽く保守派の攻勢を退けていた。
「連中の要はロアノークだ。奴さえ落とせば連中は瓦解する」
「しかしロアノーク大佐は戦術家としても、パイロットとしても一流です。そう簡単には」
「そうだな、それが出来れば苦労はしない。それに改革派には同盟やプラントからの支援も行われているからな」
ネオ・ロアノーク大佐は普段から仮面を被り、その正体は誰も知らない人物である。
しかしその実力は紛れも無い本物であり、ユニウス戦役でも活躍したエースパイロットだ。
口で言うほど容易く倒せる相手ではない。
「……ネオ・ロアノーク大佐か。惜しいな、あれほどの逸材を無為に散らせたくは無いが」
イスラフィールが心底残念そうに呟くのを意外そうに見つめながら、ニコラスが資料を手に取る。
「もっとイリアスをこちらに配備して貰いたいが、ヨーロッパ戦線から回す訳にはいかんしな。しかも改革派は『GAT-07M』を上手く使って空中戦を仕掛けてくるのがネックだ。配備されているウィンダムではあの機動性にはついていけん」
「ああ。オーブの機体を模倣したムラサメモドキですか。こちらも『GAT-07A』を投入しては?」
「ロールアウトしたのは少数で、全く数が足りんよ」
ニコラスの読み上げる報告に耳を傾けながら、思案していたイスラフィールは顔をそちらに向けると表情を変えないまま淡々と呟いた。
「なるほど。フリードマン少将、すまないがしばらく現状維持で頼む……ヨーロッパ戦線の状況が変わるまでな」
「どうなさるつもりで?」
「『サリエル』を降下させる」
「『サリエル』、ファントムペインを使うのですか?」
「そうだ」
イスラフィールは会議は終わったとばかりに退室すると、何の迷いも無く歩き出す。
その背中からどこまでも冷たい覚悟が滲み出ていた。
◇
装甲を燃やす灼熱の空間に振動で揺れるエクリプスのコックピット。
アレンは眼下に広がる地球の姿を見つめながら、機体のコントロールに集中していた。
「たく、何時になっても大気圏ってのは!」
基本モビルスーツ単体での大気圏降下というのを好んでやる奴はあまり居ない。
技術の進歩と共にリスクは低下したが、危険な事に変わりはないからだ。
こんな事をやりたがる奴はそうは居ないだろう。
少なくともアレンは嫌いだ。
嫌な思い出もあるし、最初にキラと降下した時など二人揃って死にかけたほどである。
「まあ昔よりはマシだけどな」
キーボードを素早く叩き、機体の排熱システムを確認して姿勢制御を行うと右手からビームシールドを展開する。
本当であればバッテリーを消費しないアンチビームシールドの方が好ましいが先ほどの戦闘で失ってしまった。
「バッテリーはギリギリ大丈夫か」
バッテリー残量を確認しながら後ろから降下しようとしている僚機に指示を飛ばした。
「ルナマリア、フォースシルエットに換装しろ」
「でも、エクリプスシルエットも傷ついていますけど」
「俺の方は大丈夫だ、何とかする。それよりそのままじゃインパルスの方が不味い」
現在、インパルスが装着しているのが砲戦仕様のブラストシルエットである。
あの装備では大気圏を突破できても地上に降りることはできず、下手をすれば地面に激突してしまう。
「時間がない急げ!」
「ッ、了解!」
インパルスはブラストシルエットを切り離し、フォースシルエットに換装するとそのまま大気圏に突入する。
スラスターで姿勢を安定させ、二機は灼熱の空間を下ってゆく。
「問題はこっちだな」
先ほどルナマリアが指摘してきた通り、エクリプスシルエットはユリウスからの攻撃で傷を負っている。
ウイングが破壊された程度でスラスターは無事だと思うが、この目で見ていない以上は確実性がない。
「大気圏を抜けるまで持ってくれれば良いが」
しばらく振動に身を任せていると、紅く染まる視界が急に開けた。
「抜けた、後は―――ッ!?」
アレンが逆制動をかけた瞬間、エクリプスシルエットが爆発し衝撃でつんのめる。
「チッ、限界だったか!」
どうやらシリウスから受けた損傷が大気圏を突破した衝撃によって爆発したらしい。
咄嗟にエクリプスシルエットを切り離すと、直後に装備諸共爆散した。
「ぐッ、くそ。今の衝撃でバランサーまでイカレたか」
この際苦手などとは言っていられない。
機体を制御しつつ器用にキーボードを叩きながらスラスターを逆噴射させるが、上手く姿勢を保つ事が出来ない。
このままでは地上に激突する事になる。
「くそ、こんな所で死んでたまるか!」
「アレン!」
「来るな! お前はインパルスの姿勢制御に集中して―――」
「できませんよ!」
インパルスは落ちるエクリプスを掴み上げ、バランスを整えながらスラスターを噴射する。
「アレン、フォースシルエットを装備してください」
「しかし、それではインパルスが」
「大丈夫です!」
速度が落ち、減速したタイミングを見計らってインパルスがチェストフライヤー、レッグフライヤーを切り離す。
「なっ!?」
速度が落ちていたとはいえ、それでもかなりの加速がついていたコアスプレンダーは弾け飛ぶように吹き飛ばされてしまった。
「ルナマリア!!」
「ぐっぅぅ、だ、大丈夫です!!」
「なんて無茶な事を!」
吹き飛ばされたコアスプレンダーがどうにか体勢を立て直す姿を見てアレンは冷や汗をかきながら、残されたフォースシルエットを装着すると一気に逆制動をかけた。
「間に合うか!!」
徐々に、そして確実に近づいてくる地上。
できる限り減速しようとスラスターを全開で噴射した。
だが―――止まらない。
このままでは地面に激突する。
「どうにか―――あれは?」
見えたのは遠くに見えた建物と下る斜面。
それは丘か、山か。
「あそこなら!!」
アレンは素早く機体をそちらに向けてスラスターを噴射すると操縦桿とフットペダルを操作し、斜面にどうにか足をつけた。
「ぐおおおお!!!」
エクリプスは両手から発生させたビームシールドを地面に突き刺し、滑るように斜面を下っていく。
「ぐぅぅぅぅ」
コックピットに響く振動と衝撃に歯を食いしばる
しばらく滑るように下っていた機体の勢いが弱まるとどうにか斜面の途中で止まった。
しかしそこで限界が訪れたエクリプスから装甲の色が消え失せ仰向けになって倒れ込んだ。
「ハァ、なんとか止まったか」
アレンはヘルメットを脱ぎ捨てハッチを解放しすると上空を見上げる。
憎らしいほど晴れ渡ったいい天気だった。
視線を左右に滑らせ後ろを飛んでいたコアスプレンダーの姿を探すと、他のパーツと共にこの近くに着陸しようとしているのが見えた。
エクリプスが落ちた地点よりも離れた場所から轟音が響いてくるが、爆発したような気配は無い。
「あれならおそらくルナマリアも無事だな」
安堵のため息を漏らしシートに座り直すと機体状態を確認する。
すぐにでもルナマリアの下へ向かうべきかもしれないが、こんな時こそ冷静に現在自分が置かれている状態を正確に把握しなければならない。
「結構酷い状態だな」
積み重ねられた戦闘と大気圏突破のダメージで各部の損傷が酷い。
特に腕の関節部は全く動かない程に致命的な状態だった。
さらにバッテリーもほぼゼロ。
これでは機体を別の場所へ移動させる事もできない。
「せめてバッテリーだけでもどうにかしないと、動かすこともできないか」
次にこの場所がどこかという事だ。
爆発の衝撃でデータが飛んでいる部分もあるが直前までの位置情報からある程度割り出す事はできる。
「ヨーロッパのどこかか。激戦区に降りるとは、運がいいのか悪いのか。とにかく、機体をどうにかしないとな」
今のままでは機体を移動させる手段も、味方に連絡する手段もない。
まず人のいる場所に向かう必要があると判断したアレンはコックピットに常備してある非常用のサバイバルキットを取り出す。
「これを使う事になるとはな」
パイロットスーツを脱ぎ棄て予備の服を着込み、サバイバルキットの中身を確認する。
「予備の服が制服でなくて助かったな。それから数日分の食料と水か」
いくらなんでもグラオ・イーリスの制服は目立ちすぎる。
グラオ・イーリスではザフトと同盟との混成部隊という事で両軍とは違う制服が支給されていた。
デザイン的にはザフトに近いものだが、色に違いは殆どなく全員が統一されている。
これには将来的にプラントが同盟に加盟した場合、オーブやスカンジナビアも含め階級や制服などの違いなどを統一する必要がある為、その試験的な意味合いも含まれているらしい。
そんな制服でウロウロしていたら、地球軍保守派やテタルトスに見つかった場合、言い逃れができない。
「さてルナマリアの方は」
コアスプレンダーの降下した位置はここからさほど離れてはいなかった。
エクリプスに気休めのシートを被せて発見しにくくし、サバイバルキットを背負うとコアスプレンダーが着陸したであろう場所へと歩き出した。
不時着した可能性もある為、足場の悪い場所をできるだけ足早に進んでいくと斜面に突き刺さるように着陸しているコアスプレンダーの姿が見えた。
「ルナマリア!」
怪我をしているかもしれないと急いでコアスプレンダーへと走り寄る。
しかし―――
「え」
「あ」
そこには肌を晒し服を着替えている半裸のルナマリアが立っていた。
「アレン、無事でしたか! 着替えたらエクリプスが落ちた地点まで探しに行こうと思っていたんですよ!!」
ルナマリアはアレンの無事な姿に安堵の笑みを浮かべながら駆けよってくる。
しかしアレンはそれどころではない。
心配してくれた事は嬉しいのだが、肌と下着が丸見えの今の姿は刺激的過ぎる。
「ま、待て、服くらいきちんと着てくれ!」
「え、ああ、そうでした。少し待ってください」
アレンが後ろを向くと、ルナマリアは服を整えている音がゴソゴソと聞こえてくる。
前から思ってはいたがルナマリアはスタイルもいいらしく、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる。
メイリンが恨めしそうにしている気持ちも分からなくはない。
アレンも未だに背が伸びないかなぁと密かに気にしているからだ。
「……羞恥心とかないのか、お前は?」
「ん~別にアレンなら平気ですし」
どういう意味だと聞き返そうとしたが、止めた。
凄まじく面倒な事になりそうだったからだ。
「そんな後ろ向かなくても、アレンは見慣れてるでしょ」
「お前は俺を何だと思っているんだ、人聞きの悪い事を言うな!」
「でもレティシアさんとか、マユちゃんとかいるじゃないですか」
「何でそこでその二人が出てくるのか知らないが、お前の思っているようなものじゃない」
あからさまに話題を逸らすアレンに服を着替え終えたルナマリアは丁度良い機会であると、今まで気になっていた事を聞く事にした。
「前から聞きたかったんですけど、アレンとあの二人ってどういう関係なんですか?」
「なんでそんな事を聞く?」
「気になるじゃないですか」
そこで何でとは聞かない。
女というのはこういった話が大好きな事は重々承知しているからだ。
「そうだな、大切な人である事は確かだが」
「恋人じゃないんですか?」
「……ああ」
確かにマユは自分を好きだと言ってくれるし、レティシアとは男女の関係を持った事もある。
二人はアレンにとって大切な存在である事は間違いない。
しかしだからこそ、彼女達と恋人などの特別な関係になる事には非常に強い抵抗があった。
「それはなんでですか?」
「俺の生まれは知っているだろ。それに俺は―――人殺しだ」
『カウンターコーディネイター』
最高のコーディネイターであるキラを殺す為に人工的に生み出された存在であり、多くの敵を情け容赦なく屠ってきた『消滅の魔神』。
それがアレン、いやアスト・サガミだ。
この世界にはアストを憎み、恨んでいる人間は山ほどいるだろう。
―――あのアスラン・ザラのように。
「俺の罪は俺が背負うべきで、他の誰かを巻き込むべきじゃないと思う」
アスト・サガミという存在は間違いなくこの先も争いの渦中に居続ける事になるだろうという確信がある。
無残に死ぬまでだ。
そんな地獄に彼女達を引きこむ事はできない。
しかしこれはあくまでもアレン自身の考えに過ぎない。
だからイザークは本当にすごい。
彼は自分の罪を受け入れ、戦う事を分かった上で自分の大切に思う女性と歩む道を選択したのだから。
「なるほど……これじゃ、あの二人が何言っても駄目でしょうね」
「ん?」
「いえ、別に」
「幻滅でもしたか?」
そうなって離れていくなら仕方がないと思っているとルナマリアから意外な言葉が飛んできた。
「全然。むしろ納得したというか、アレンの境遇ならそう考えても仕方ない面もあるというか」
あっさりと受け入れたルナマリアに面食らいながらもアレンは気を逸らすように近くにあるチェストフライヤーの方に視線を向ける。
目立った損傷はないように見えるが、それはあくまで見た目の話。
中身まではここからでは分からない。
「インパルスの方はどうだったんだ?」
「う~ん、結構無理させたので詳しく調べてみないと分かりませんけど、負荷が掛かってしまった部分があるみたいです。戦闘には大きな影響は無いかもしれませんけど。でもドッキング部分はキチンと調査した方がいいですね」
「インパルスは構造的にも複雑だからな。楽観しない方がいい。バッテリーはどうだ?」
「そっちはギリギリですね」
ルナマリアと話し合い、やるべき事を確認し合う。
「つまり今すべき事は現在位置の把握、味方への連絡、そして機体の修復する為の部品及びバッテリーの確保ですかね」
「ああ。とにかく人のいる場所に行くぞ。後、分かっていると思うが俺達が『グラオ・イーリス』所属の軍人だって事は誰にも言うなよ、面倒な事になる可能性もある」
「了解です」
「それから機体をいつでも自爆できるようにセットしておけ。万が一に備えてな」
コアスプレンダーにも予備のシートをかぶせると、ルナマリアを伴い斜面に足を取られないように下へと降りていく。
ここは山ではなく、少し高い丘のような場所らしく特にトラブルも無く平地に出る事が出来た。
「降りる前に建物が見えた。とりあえずそこに行ってみるか」
「ええ。ここがどこかくらいは分かるでしょうしね」
とはいえここが本当にヨーロッパであるならば、現在最も地球で危険な場所には違いない。
余計なトラブルに巻き込まれる事だけは避けたい、そう思って歩いていた時だった。
段々と聞こえてくる音にアレンとルナマリアは思わず身を固くする。
「アレン、この音って」
「……モビルスーツのスラスター音だ」
咄嗟に近くの茂みにでも身を隠そうとするが、すぐ様駆けつけてきたモビルスーツの風圧に晒されてしまう。
「ぐっ、アレは地球軍のウィンダム」
「ああ。肩や腕に装甲に白線が入っていない所から見て保守派だな」
保守派と改革派のモビルスーツは殆ど同系統の機体が用いられている為に明確な違いがない。
識別信号も勿論出ているが、味方同士で誤射がありうるという事で改革派の方には肩や腕に白い線の塗装が施されている。
嫌な予感を覚えながら、上空に留まる三機を見上げているとジェットストライカーを装備したウィンダムはスピーカーを通して声をかけてきた。
《そこの二人、動くな。聞きたい事がある》
3機のウィンダムが地上に降りてくるとコックピットからパイロット達が顔を出した。
ヘルメットの所為で顔が良く見えないが、声からすると結構若い。
「……新兵か?」
「見ろよ、そっち凄い良い女だぜ」
「後にしろよ。この近くで何かが落下してきたような音とか聞いた事はないか? どんな些細な事でもいいんだけど」
「下手に隠しだてはするなよ」
二人はその質問の意味する所を察する。
この三機のモビルスーツは降下してきたエクリプスとインパルスの事を調査しにきたのである。
「……すいません、俺達は何も知りません」
「なるほどな。一応聞かせてもらうがお前達の関系は? こんな場所で何をしているんだ?」
いかに新兵でもそう簡単に解放してくれるとは思っていない。
だかこういう事態になる事は事前に想定済み。
事前に打ち合わせ通りに口を開こうとしたアレンの腕にルナマリアが抱きつくと、不自然な程の笑顔を浮かべる。
「私達、最近結婚したばかりの夫婦なんです、ね、アナタ」
アレンは内心動揺しながら、できるだけ違和感のないように笑みを浮かべる。
「……ええ、そうなんですよ」
事前の打ち合わせでは、兄妹だった筈なのだが―――
何を考えてるんだと問い詰めようにも、すでに言葉は発せられてしまった。
もうこれでいくしかない。
「ほう」
「うわ、ショックだわ! 俺スゲェ好みなのにさ!」
「いい加減にしとけって、で、どこに行こうとしてたんだ?」
「いや、どこという訳でもなくて。最近物騒なので各地を転々としているんですよ」
こちらの答えに納得していないのか、リーダーらしき男はコックピットの上からこちらを観察しているように見える。
アレンもルナマリアも今のやり取りで誤魔化せたとは微塵も思っていなかった。
情報が不足している以上、どうしても違和感は消し切れない。
それなら逆に考えればいい。
向こうから情報を持ってきてくれたのだと。
連中が機体から降りてくれば、そのままパイロットを倒し、機体を奪う。
山賊みたいなやり方で嫌だが、この際贅沢は言っていられない。
「信用できないな。お前達には悪いがこのまま基地まで御同行願おうか」
「そうこなくっちゃな。女は俺がもらうぜ」
「お前バレたら殺されるぞ。この前も無茶してたし。それに本部の方からはその手の事は決してするなって厳命してるって話だしさ」
「バレなきゃ少しくらい大丈夫だって。それに本部の連中に現場の事が分かる訳ないだろ」
どうやら普段からこういった下品な事をしているという事か。
末端の兵士とはいえ、あの軽薄そうな男もそれを容認する周りにも問題があるだろう。
ルナマリアなど笑顔を浮かべながらも、嫌悪感を滲み出しつつ怒りを堪えている。
というか腕が痛い。
連中が動いた所に合わせこちらも動こうと銃を掴みやや前傾姿勢で動き出すタイミングを窺っていると再び別の音が聞こえてきた。
新たに聞こえて来たのは先程と同じモビルスーツのスラスター音だ。
「待て、レーダーに反応!! この反応は!?」
3人ともすぐさまコックピットに乗り込むと同時に飛び上がり迎撃体勢に入った。
しかし次の瞬間、1機が避ける間もなくコックピットを撃ち抜かれ、空中で爆発する。
空中を覆う爆煙の中から勢いよく飛び出してきたのはアレンにとって見覚えのある、いや、とても懐かしい機体だった。
「あれはイレイズガンダムか!?」
2機のウィンダムの前に現れたのは背中にエールストライカーを装備したイレイズガンダムだった。
ウィンダムのビームライフルを機体を捻ってやり過ごし、そのまま接近戦を挑む。
当然、ウィンダムも黙ってはいない。
サーベルを構え、突っ込んでくるイレイズを迎え撃った。
交錯する一瞬、イレイズはウィンダムの繰り出した斬撃を上空に飛び上がって回避する。
そのまま敵機の後ろ側へ逃れると近くの岩場に着地して反転、背後からビームサーベルを一閃。
反応が遅れ、背中からサーベルの一撃を受けたウィンダムの胴体はビーム刃によって成す術無く切り裂かれ、爆散した。
「上手いな」
あのイレイズを操っているパイロットの腕前にアレンは感心したように声を出した。
最小限の動きで攻撃をかわしつつ、敵を撹乱し、仕留める。
まるでお手本のような戦い方だった。
残りは一機。
仲間がやられ、不利であると判断した残ったウィンダムは離脱を図る。
しかしそれも別方向からの射撃でジェットストライカーを破壊され、続けて発射されたビームによってあっさり撃墜されてしまった。
「アレって地球軍の新型か」
「確かイリアスでしたよね」
ビームライフルを構え、同じくエールストライカーを背負ったイリアスが視界に入ってくる。
肩と腕に白い線が入っている所から見て、どうやらアレは改革派の機体らしい。
「なんでここに改革派が?」
「さあ。だが、さっきの連中よりは話ができそうだ」
アレンはこちらに降りてくるかつての愛機を昔の記憶を思い出しながら複雑な表情で見つめていた。