機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第9話  懐かしき愛機の中で

 

 

 

 

 アレンとルナマリアが案内されたのは微妙な雰囲気の空気に包まれた士官室だった。

 いつかのラクスとは逆の立場だと昔を思い出しながらアレンは目の前に立つ人物を観察する。

 アレン達と向き合っているのは部隊を指揮する立場にあるアオイ・ミナトとベアトリーゼ・フォルケンマイヤーの二人である。

 あの後、ウィンダムを撃墜したアオイ達にアレンとルナマリアは保護という形で彼らの母艦へと連れてこられた。

 一昔前であればあり得ない事だったが、彼ら地球軍改革派と同盟、プラントは協力関係だった事が幸いしたと言える。

 不時着という名の墜落をしたあの丘で使い物にならなくなった機体の回収も先に依頼し、その間これまでの経緯と状況を説明、情報交換を行おうと此処に集まった訳だ。

 

 「―――というのがこちらの事情だ」

 

 「なるほど。前に遭遇したテタルトスの部隊はその降下部隊を援護する目的で動いていたって事ですか」

 

 聞けば彼らがここに来る前にテタルトス軍と鉢合わせになり遭遇戦に陥ったという。

 どうやら先の戦いでテタルトス軍が降下準備が整っていたにも関わらず、降下しなかったのはアオイ達との遭遇戦が関係していたらしい。

 

 「それでそちらはなんでヨーロッパに居るんだ? メキシコ戦線もやはり厳しいものだと聞いていたが?」

 

 激戦区であるヨーロッパ戦線の陰に隠れてはいるものの、保守派と改革派の戦いはアメリカ大陸を二つに割る形で激しい攻防を繰り広げている。

 正直な所、ヨーロッパに戦力を送り込む程の余裕があるような状況ではないと思っていた。

 

 「ええ。しかし俺達もヨーロッパの方をないがしろにはできないんですよ。特にマケドニア要塞はね」

 

 「情報収集の為に派遣されたという訳か」

 

 「貧乏くじもいいところだかな」

 

 「……言葉使いには気を付けろよ、フォルケンマイヤー少尉。二人は俺達より階級が上なんだからさ」

 

 「失礼」

 

 一応アレンは大尉、ルナマリアは中尉の階級を与えられている為、この部隊を指揮しているアオイたちよりも上の立場になる。

 と言ってもアレン自身は階級で呼ばれる事に慣れていないから気にしていない。

 それにしてもフォルケンマイヤー少尉はその可憐な見た目に反してやたらと荒っぽい性格らしい。

 基本的な所はルナマリアに似ているし、気が合うんじゃないだろうか。

 

 「アレン、何か変な事考えませんでしたか?」

 

 「い、いや別に」

 

 鋭いルナマリアをどうにか誤魔化し、話を戻す。

 

 「それでサガミ大尉達はどうされるのですか?」

 

 「今の俺はアレン・セイファートだよ。できるだけ早く友軍と合流したいと思ってはいるが、簡単にはいかないだろうな。逆に聞くが君たちはどうするつもりなんだ?」

 

 「俺達は補給もかねて一度ヨーロッパから離脱しようかと思っていたんですけど。テタルトスの妨害に合ってしまって」

 

 「……それでどうしたものかと思案していた所にお二人を発見したという訳です」

 

 どうやら例の遭遇戦で完全に目を付けられてしまったらしい。

 その所為で補給等も厳しい状況に置かれつつあるとの事。

 テーブルに置かれた周辺の地図に目を通しながら、アレンはある場所に目を付けた。

 

 「これはあくまでも提案だがストックホルム基地に向かうのはどうだろうか?」 

   

 「スカンジナビアの?」

 

 「ああ。あそこに行けば補給も出来るし、君達の欲している情報も手に入る。同盟からしても改革派の情報は得たい筈だ」

 

 「しかしそこまで物資は持つんです?」

 

 「……この位置からだと敵と遭遇しなければ、どうにかと言った所です」

 

 ベアトリーゼの試算では弾薬などはギリギリ持つかもしれないが、スラスターの燃料等は不足する可能性が高いようだ。   

 だがヨーロッパに居る限り完全に戦闘を回避できるとは思えない。

 脱出するにしても同じ。

 どちらにせよリスクはあるのだ。

 

 「なら、この近くにある前線基地に向かうというのはどうです?」 

 

 アレンの横にいたルナマリアが地図の上を指差した。

 

 「前線基地?」

 

 「ええ。確かストックホルム基地の南くらいにテタルトスや保守派の敵の動きを監視する為に建設された前線基地がある筈です」

 

 今、自分達が居る地点がルーマニアの北西部。

 そこからさらに北西にあるウィーン辺りに同盟軍の基地がある。

 そこで補給を行いある程度の情報を得て、ストックホルム基地を目指すというのがルナマリアの案だ。

 確かに脱出の為の強行突破や無理してストックホルム基地に向かう強行軍よりは現実的だろう。 

 

 「分かりました、その案で行きましょう」

 

 この案はアオイ達にとっても悪い話じゃない。

 実際、ヨーロッパに入る前から同盟と合流する事も視野に入れてはいた。

 だが保守派の間者ではと疑われても面倒な事になるとギリギリまで避けていたのだ。

 その点今はアレンやルナマリアがいる。

 関係者が居てくれるなら疑われることもない。

 

 「よろしくお願いします、セイファート大尉、ホーク中尉」

 

 「ああ。こちらこそよろしく頼む」

 

 お互いの現状を打開できる取っ掛かりを得られた事に安堵しながらアレンとアオイは差し出された手を握り、握手を交わした。

  

 

 

 テタルトス月面連邦軍バルカナバート基地は常に喧噪に包まれている。

 これはテタルトス地球最大の拠点である事も関係しているが、軍の中には地球出身者も多く所属している為、此処で働く事が嬉しいと感じている者が多いからという理由もある。

 無論、月でもこうした対策は練られているが、宇宙での生活に閉塞感を覚える者も少なくないだの。

 

 「地球生まれがはしゃいでいるな。重力がそんなに恋しいか」

 

 そんな基地内を一人、不機嫌さを隠す事無く歩いていたのはヴィルフリート・クアドラード少佐である。

 ヴィルフリートは先の戦闘後、指令であるゲオルクにより地球への降下を命じられていた。

 理由は激化するヨーロッパ戦線の支援という事らしいのだが、当然そんな理由で誤魔化されるヴィルフリートではない。 

 要するに厄介払い。

 左遷以外の何物でもない事は明白。

 そうでないなら部下であるテンペスターズも一緒に地球降下を命じられていたはずだからだ。

 しかし今回辞令を受けたのはヴィルフリートのみ。

 これが左遷でなければなんだというのか。

 さらに苛立つのがすでに噂が広まっているのか、明らかに侮るような視線を向けてきている者もいる始末。

 全く忌々しい話だった。

 

 「しかしよりによってバルカナバートとは」

 

 ここにはヴィルフリートが世界で一番関わりたくない人間が居るのだ。

 だがどれだけ嫌であろうとも命令である以上、従うしかないのが軍人である。

 

 「くそ」 

 

 ヴィルフリートは若干の緊張を押し殺し指令室の前に設置してある呼び出しボタンを押した。

 

 「……ヴィルフリート・クアドラード少佐、着任の挨拶に参りました」

 

 「入れ」

 

 「失礼します」

 

 指令室の中には数人の士官とそれに囲まれる形で地上方面の指揮官であり、ヴィルフリートの兄ファウスト・クアドラード大佐が笑顔を浮かべて待っていた。

 

 「久しぶりだな、ヴィルフリート少佐。お前が地上に来てくれたのは頼もしい。頼りにさせてもらうぞ」

 

 「……ハッ」

 

 やっぱり思った通りだった。

 ヴィルフリートを見つめるファウストの目。

 この目だ。

 笑顔を浮かべてはいるが、他の者の事など歯牙にも掛けないとばかりに無感心なファウストのこの目が昔から大嫌いだ。

 だが、これも分かっていた事、今更目くじらを立てても仕方がない。

 それにファウストはいつも通りだが、やはり周りの目は明らかにこちらを歓迎していない。

 厄介者が来たとでも思っているのだろう。

 怒りと屈辱で腸が煮えくり返りそうだった。

 

 「お前にはランゲルト少佐と共に部隊を率いてもらう」

 

 「よろしくお願いします、ヴィルフリート少佐」

 

 「こちらこそ」

 

 金髪の女としか思えない人物ヴァルター・ランゲルトの差し出してきた手を握る。

 ヴァルターはテタルトス内部でもその容姿と実力から名を知らぬ者はいない人物だ。

 だがそれ以上に現最高司令官であるゲオルク・ヴェルンシュタインの腹心としても有名である。

 決して信用できない。

 

 「さて着任したばかりで申し訳ないが、早速任務に就いてもらう。内容はヨーロッパに入り込んでいる地球軍改革派の発見及び殲滅だ」

 

 手渡された資料によれば、地球軍改革派と思われる機体や戦艦が度々確認されている。

 前の降下作戦が幾分遅れたのも改革派の機体と遭遇戦に突入した所為だと記載されていた。

 

 「これ以上引っ掻き回されると今後の作戦に支障が出る可能性もあるからな。ここらで退場してもらいたい」

 

 「了解しました」

 

 「言うまでもない事だが、油断はするなよ。相手はおそらくアオイ・ミナトだ」

 

 アオイ・ミナト。

 

 ユニウス戦役で戦果を挙げ名の知れた地球軍のエースパイロットである。

 相手にとって不足はない。

 こいつらを落とせば今までの汚名を返上できる。

 

 「それからもう一つ。降下作戦の決行日時に二つの物体の降下が確認されている。ザラ中佐からの報告では同盟軍の機体が二機、地球に降下したと報告があった」

 

 「ッ!? エクリプスとインパルスか!」

 

 ヴィルフリートに屈辱を与えた二機のモビルスーツ。

 奴らが地球に降下している事は知っていたが、まさかここヨーロッパに降りていたとは。

 初めて地球に来たことを感謝したくなった。

 

 「単独で動けるとは思えんが、一応気に留めておけ」

 

 「ハッ! 失礼します」

 

 部屋に入ってきた時とは一変し、気炎を上げながらヴィルフリートは退出する。

 それを見たヴァルターは苦笑しながら、ファウストの方へ向き直った。

 

 「よろしいのですか、あれで? 改革派の相手などそれこそ強硬派に任せておくべきでは?」

 

 「あれでいい。さっきも言ったが改革派を早めに潰しておきたいのは事実だ。君には悪いがアイツの面倒を見てやってくれ」

 

 「了解しました」   

 

 ヴァルターが退出するとファウストの端末にメールが送られてきた。

 淀みない手つきでメールを開き、内容を確認する。

 

 「……なるほど。強硬派―――いや、クレメンス・イスラフィールが動く。……少し急ぐか」

 

 誰にも聞こえないようにポツリと呟いたファウストはしばらく考え込んむ。

 

 「大佐?」

 

 「いや、ここを頼む」

 

 ファウストは端末をロックするとそばに掛けてあったコートを掴んで部屋から出る。

 その表情には薄く笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 地球軍改革派エレクトラ級地上戦艦『アイザック』

 それが今アレン達が身を寄せている戦艦の名前だ。

 地球軍で運用されていたハンニバル級を改良、小型化したもので、隠密性と機動力に優れた設計になっているらしい。

 その分、モビルスーツの格納数はかなり減ってしまったようで、現在アイザックに収容されているのは回収されたエクリプスなどを除けばイレイズとイリアスなどごく僅かだけ。

 こうして格納庫の二階から全体を見渡していても、人員の数もかなり制限されているらしい。 

 

 「改革派もこっちに余分な戦力を割いている余裕はないって事ですかね?」

 

 「単純に隠密行動という意味合いもあるんだろう」

 

 あまりに過剰な戦力は隠密作戦では邪魔になる事も多い。

 あくまでも隠密に素早く目標を達成し動くことが求められる以上、多くの機体はただ目立つだけだからだ。

 

 「今更ですけどいいんですかね、私たちの機体を弄らせても」

 

 「構わないだろう。特別な技術が使用されている訳じゃないし、ユニウス戦役時に同じセカンドステージシリーズは地球軍に奪取されてるからな」 

 

 「それもそうですね。私達の機体は使えるようになるんですか?」

 

 「エクリプスはもうすぐ動かす事もできるようだが、インパルスの方は結構難航しているらしい」

 

 整備兵から話を聞いてもインパルスの複雑な合体機構は修復も難しいようで、時間もかかる。

 せめてもの救いはイリアスなどの機体の部品がある程度代用可能で応急修理くらいならどうにか出来ると分かった事だろう。

 いかに腕が良いエンジニアでも部品がなければ修理する事ができないのだから。

 それでも応急修理に過ぎず、過度の戦闘には耐えられないとも言われている。

 完璧な修復は友軍と合流し、基地に戻ってからでないと無理という事だ。

 

 「それにしても……」

 

 「何です、アレン?」

 

 「いや、その服なんだが」

 

 「ああ、まさか地球軍の制服に袖を通す事になるとは思ってませんでした」

 

 「そうじゃくて、その、他にサイズは無かったのか?」

 

 ルナマリアの言う通り今アレン達は艦内では目立つからという理由で支給された地球軍の制服に身を包んでいる。

 だがルナマリアの服はサイズが合っていないようで、その、色々ときわどい事になっていた。

 正直、目のやり場に迷うというか、ルナマリアはこういう所が無頓着なのが困る。

 もう少し着方をどうにかしてくれと言おうとした瞬間、凄まじい振動が艦全体に襲いかかった。

  

 「きゃああ!」

 

 「なっ、むぐぅ!」

 

 ルナマリアを受けめたまでは良かったが、振動の所為でバランスが取れず二人して折り重なるように倒れ込んでしまった。

 

 「一体何が!?」

 

 胸に押しつぶされて息が出来ない。

 柔らかかったり、苦しかったり、良い匂いがしたり、その色々と不味いのでルナマリアの腕を軽く叩き、上体を起こしてもらった。

 

 「は、早く退いてくれ」

 

 「すいません」

  

 揃って立ち上がり、階段近くに設置してあるインカムでブリッジに連絡を取る。

 

 「ブリッジ、何があった?」

 

 《テタルトス軍です! 偵察に出していたこちらの哨戒機を補足した模様!》

 

 先程の振動は近くで起きた戦闘によるものだったらしい。

 このままでは艦が見つかる可能性も高いし、敵を極力引き離す必要もある。

 即座に状況を判断したアレンはインカムに向かって叫ぶ。

 

 「俺が出て時間を稼ぐ! その間に艦を離脱させるように指示を出してくれ! ミナト少尉、機体を借りるぞ」

 

 《は? ちょっと!》     

 

 「今、エクリプスとインパルスは動かせないし、俺達が合流した事はまだ伏せておいた方がいい」

 

 越権行為かもしれないが、今はこれが最善だと思う。

 下手に合流したことを知られると驚異と認識される可能性がある。

まともに戦えない現状、テタルトスを警戒させる必要はない。

 少なくとも前線基地に辿りつくまでは。

 

 「ミナト少尉は艦の指揮に集中してくれ。ルナマリア、お前はブリッジに上がって詳しい状況を確認するんだ」

 

 「了解!」

 

 アレンは手摺を乗り越え、格納庫に飛び降りると近くに立っているイレイズに走り寄った。

 

 「あの!」

 

 「機体を借りる。許可は取った」

 

 整備兵に文句を言われる前にコックピットに乗り込むと、素早く機体を立ち上げる。

 コックピットは少し変わっているようだが、基本は昔に乗っていた奴と同じだ。

 懐かしい感覚に自然と笑みが零れる。

 

 「改革派のOSも随分洗練されているんだな。これなら弄る必要はないか」

 

 OSのチェックを終え、VPS装甲を展開すると背中にエールストライカーを装着する。

 

 「ブリッジ、ハッチを開けてくれ」

 

 《撤退完了が完了したら、合図を送ります。後でフォルケンマイヤー少尉も援護に向かいますから、俺の機体を壊さないでくださいよ!》 

  

 「努力する。アレン・セイファート、出るぞ!」

 

 アオイの悲鳴めいた文句を聞き流し、格納庫から飛び出すと狙撃されない様に地面を滑るように滑空する。

 変わってはいても、身体に染みついたこの感触は忘れようがない。

 

 「随分使いやすくなってる。良い感触だ」

 

 機体の挙動を確かめるような機動を取りながら、モニターに周辺データを表示した。

 この辺りは積みあがったような高い岩場も多く、死角なる箇所も多い。

 その分、大型の戦艦などは移動しづらいがアイザックであればそんなに時間がかかる事無く戦域からの離脱も可能だろう。 

 手足のように機体を操り縫うように岩場を抜けた先では片腕を損傷したウィンダムがH・アガスティアに追い詰められている姿が見えた。

 

 「やらせるか!」

 

 ビームライフルで牽制し、ウィンダムを守るべくH・アガスティアの前に割り込んだ。

 

 「下がれ!」

 

 「え、りょ、了解」

 

 損傷したウィンダムを後方に下げるとラH・アガスティアがイレイズに銃口を向けてくる。

 さらに後ろには高い岩場を避けるように空中に浮く戦艦の姿が見えた。

 

 「テタルトスの地上艦か」

 

 以前にデータを見たことがあった。

 

 確か名前は―――

 

 「『ディオネ級』だったな」

 

 地球軍やザフトの地上艦とは違い空中を移動し、高い火力と巡航速度を持つのが特徴だった。

 

 「せめて『アイザック』が離脱するまで足を止めないと」

 

 その前に邪魔なH・アガスティアを落とす。

 

 「まずはお前からだ!」

 

 ライフルの先から発生させたロングビームサーベルを片手に斬り込んでくるH・アガスティアを迎え撃つ、イレイズ。

 アレンは光刃の軌跡を見極め、ロングビームサーベルを回避すると横腹に蹴りを入れて突き放す。

 その隙にライフルで狙撃するが、H・アガスティアは体勢を崩しながらもそれをシールドで受け止めた。

 

 「チッ、簡単にはやらせてくれないか」

 

 新型を任されているだけあって、中々の腕前らしい。

 しかし致命的な弱点がある。

 

 「明らかに地上慣れしてないだろ!」

 

 地上戦と宇宙戦では戦い方が全く違う。

 地上では重力、気候、地形などモビルスーツで戦う上で様々な干渉が存在する。

 アレンも最初に地上に降りた時は上手く戦えなくて焦ったものだ。

 こればかりはいくらシミュレーターで訓練を積んだところで実際に戦って経験しなければ分からない。

 特に宇宙での戦い方しか知らない奴は重力に慣れるまでは異常にスラスターを使うのですぐに分かる。

 目の前の敵はその典型だった。

 見れば戦艦から出撃してくるジンⅡやフローレスダガーのパイロット達も不慣れな連中が多いらしい。

 

 「フォルケンマイヤー少尉、敵は不慣れだぞ!」

 

 「了解! スラスターを使い過ぎだ!」

 

 出撃してきたベアトリーゼが動きの鈍い敵を狙い撃ちにして撃破していく。

 

 「地上に慣れていないところ悪いが、手を抜く気は無い」

 

 空気抵抗を考えず連射してくるH・アガスティアのビームライフルを避けながら接近する。

 

 「切り替えが遅いんだよ!」

 

 シールドで殴りつけ、同時にビームサーベルで一閃する。 

 ビームサーベルが左脚部を切り飛ばすと、H・アガスティアを蹴り落とした。

 落下途中で体勢を立て直そうとしているが、もう遅い。

 

 「もらった!」

 

 ビームサーベルをコックピットを突き立てようと接近する。

 しかし、そこで思いがけない一撃がイレイズの側面から襲い掛かった。

 

 「ッ!?」

 

 別方向から発射されたビームだ。

 しかも遠距離からの。

 回避は間に合わない。

 

 「なら!」

 

 持っていたライフルをビームの射線上に囮として投棄。

 機体を上昇させてやり過ごすとライフルが破壊された爆煙に紛れ、一気に敵に向けて加速する。

 通常距離を取って攻撃するスナイパーが位置を知られては終わりだ。

 

 「こいつ!?」 

 

 しかしこの相手は並みのパイロットではなかった。

 次々と針の穴を通すような精度で、イレイズを狙ってビームの閃光が押し寄せてくる。

 遠距離からにも関わらずこの精度、只者じゃない。

 シールドでビームを防ぎながら、目標の姿を捉えるとビームライフルショーティーを発射する。

 

 「敵はシリウスか!」 

  

 イレイズが発射したビームライフルショーティ―の一射を紙一重のタイミングで避けたシリウス。

 後退しながらロングビームライフルを発射、同時に腹部のヒュドラを撃ち込んでくる。

 ロングビームライフルはこちらの動きを誘導する為の囮。

 敵の本命は体勢を崩したところに叩き込んだヒュドラだ。

 確実にこっちを仕留める為にコックピットを狙ってきている。

 

 「舐めるな!」

 

 神懸かり的な反応で機体を捻り、横腹の装甲を掠らせながらもヒュドラを回避するとビームサーベルで斬りかかった。

 それを見越していたのか、シリウスもまたビームサーベルを抜いて応戦、互いの斬撃が火花を散らした。

 

 「この動き、この機体のパイロットは……」

 

 似ている。

 アレンにとっても非常に身近で、大切な人の動きに。

 

 《……その動き、もしかしてイレイズのパイロットはアスト・サガミ?》

 

 動きだけでこちらの素性を見破った? 

 

 それにこの声は―――

 

 一体何者なのか問い詰めたいがここで返事を返しては、わざわざ違う機体で出撃した意味がないとあえて黙り込む。

 しかし、こちらの思惑など見透かしているかのように話を続けてくる。

 

 《なるほど、降下してきた貴方達はすでに改革派と合流していた訳ですか。それは我々にとっても好都合です》  

 

 「ッ!? その声は……お前は一体?」

 

 もはや隠しても意味がない。

 疑問に思っていた事を呟くと、敵機から楽しそうな声が聞こえてきた。

 

 《貴方もラクスと同じ反応ですね。そんなに似てますか、彼女に?》

 

 「ッ!」

 

 力任せに弾き飛ばし、持ち替えたビームライフルショーティーを発射する。

 しかし相手も脅威的ともいえる反応で回避すると、肩のビーム砲でけん制してきた。

 

 「お前は誰だ! 何故、彼女と!」

 

 《……私はテタルトス地球駐留軍少佐ヴァルター・ランゲルトです》

 

 「ヴァルター、その名前、男?」

 

 《さあ、どうでしょうね!》

 

 至近距離から発射したビームが互いの装甲を削り、二機の距離を離そうとする。

 距離を取った戦いは相手の土俵だ。

 案の定、ロングビームライフルの銃口はこちらを向いている。 

 

 「まだだ!」    

 

 咄嗟に右足でロングビームライフルの銃身を蹴りつけ、銃口を逸らす。

 その瞬間、発射されたビームが肩部を抉り、掠めていく。

 

 《今のを避けますか!》

 

 「これで!」

 

 同時にシールドを投棄、左手で抜いたビームサーベルを振り上げるとライフルの銃身を叩き切った。 

 

 《流石にやりますね!》

 

 「簡単にはやられない。それに俺の標的はお前じゃないんでね」

 

 《ッ!?》

 

 シリウスを無視し、横に向けてビームライフルショーティーのトリガーを引いた。  

 狙いはテタルトスの戦艦―――ではなく、その横にある岩場だ。

 ビームの直撃を受けた岩は吹き飛ばされ、戦艦の側面部に激突する。

 

 《艦に損傷を!?》 

 

 大した損傷ではないにしろ、あれではしばらく動けまい。

 その時、上空に撤退を示す信号弾が打ち上げられた。

 アイザック所属のウインダムが信号弾を打ち上げたらしい。

 どうやらアイザックは上手く戦闘宙域から離れられたようだ。

 

 「悪いが今日はここまでだ! ファルケンマイヤー少尉!」

 

 「分っている!」

 

 《逃がすとでも!》

 

 「邪魔だ!」

 

 サーベルを投げつけ、両手に握ったビームライフルショーティーでシリウスをけん制しながら後退する。

 それに合わせ信号弾を打ち上げたウィンダムが周辺にスモークと閃光弾を戦艦に向けて発射した。

 

 《追わせないつもりですか!?》

 

 「お前の事は気になるけどな!」

 

 アレンはシリウスを振り切り、味方と合流すると戦域からの離脱を図った。

 

 「……追ってこない?」

 

 しばらく進んでも敵機が追ってくる気配はなかった。

 

 「大尉、このままアイザックに合流します」

 

 「了解。それにしてもミナト少尉に謝らないといけないな。結構手酷くやられてしまった」

 

 「必要ないですよ。いつも無茶ばかりするミナト少尉にはいい薬だ。その惨状を見て、いつも自分の為に皆が肝を冷やしている事を自覚すればいい。それに貴方だからこそその程度の損傷で済んだんです。それだけあのパイロットは手強い相手だった」

 

 確かに手強い敵だった。

 

 名前はヴァルター・ランゲルト。

 

 あの声といい、動きといい、あまりに似すぎていた。

 

 もしかすると彼女の関係者だったのだろうか?   

 

 「……ハァ、なんにせよ。アレが追ってくるとなると頭が痛いな」

 

 今後の道のりの険しさに頭を抱えながら、アレンはベアトリーゼ達と共に母艦への帰路についた。




色々オリジナルの用語が増えたので今回、用語集を作ってみました。
ネタバレ等は無いと思いますのでよろしくお願いします。
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