機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第10話 冷たい殺意

 

 

 

 

 同盟軍とテタルトス軍による大規模な戦闘は一時的に鎮静化し、現在は散発的な小競り合いを繰り返していた。

 そんな幾度のなく繰り返された戦闘により、破壊されたモビルスーツの残骸が浮遊する大気圏に一隻のプレイアデス級が待機している。

 その艦底部には幾人かを乗せたシャトルが設置され、地球降下する為の準備が進められていた。

 

 「ザラ中佐、聞いておられるとは思いますがこのままバルカナバート基地に降下後、そのままヴェルンシュタイン司令からの特務について頂きますので」

 

 「ああ、了解している」

 

 シャトルの席に座っていたアスランは管制官からの通信に返事する。

 それを見計らって反対側の席に座っていたラディスが不機嫌さを隠しもしない様子で声を掛けてきた。

 

 「中佐、何故俺まで地球になんて行かなくてはならないのですか?」

 

 「ヴェルンシュタイン司令からの命令だ。地球での強化兵のデータを取っておく必要があると判断されたんだ。それにお前はもっと戦闘経験を積む必要がある。そういう意味では地球に行くのは悪い事じゃない」

 

 「それは理解していますが……」

 

 ラディスは不満そうに肘をついて窓の外に視線を向けた。

 彼からすれば宇宙で同盟に雪辱したいとでも考えているんだろう。

 

 「それにヴェルンシュタイン司令からの特務もある。気を引き締めておけ。お前が戦果を上げれば、すぐにでも宇宙に帰れる」

 

 「了解」

 

 アスランはそれ以上は何も言わず、手元の端末に視線を落とした。

 実はアスランとしても今回の特務に関しては別に人間に任せたかったというのが偽りのない本音だった。 

 

 「『レグルス』の完成度は未だ80%前後、これでは全力で戦えない。できればこっちを先に完成させたかったが、仕方がないか」

 

 レグルス・エクィテスはアスラン専用に開発させたモビルスーツだ。

 機体各部のスラスターから武装、OSまでアスランの意見と戦闘データが反映されている。

 完成すれば、それこそ手足のように操る事が出来るようになる。

 それ故に細かい調整はアスランが居なければ進まない。

 特務さえ入らなければレグルス完成に集中できたというのに。

 

 「仕方がないか。技師長に任せよう……それに奴も機体性能では不利だと悟った筈。ならあんな機体ではなく、相応の機体を用意してくる」

  

 その時までには絶対に間に合わせなくてはならない。

 今度こそアスランの求める決着を付ける為に。

 

 《大気圏に突入いたします。搭乗員は立ち上がらぬようお願いいたします》

 

 搭乗席に響くシャトル艦長の声に耳を傾けながら、アスランは端末を操作し続けた。

 

 

◇ 

 

  

 抉られた地面に空へと舞う煙。戦闘の後だと嫌が応にも気づかされるその場所に一隻の傷ついた戦艦が鎮座している。

 

 ディオネ級『カルキディウス』

 

 テタルトス軍が地上運用の為に開発した戦艦でやや大型ながらも高い巡行性能と十分すぎる程広大なモビルスーツ格納機構を持つ。

 さらに砲撃能力も高く、艦隊戦においても十分な火力を与えられた戦艦である。

 

 「突き刺さった瓦礫は全部外だ! それが終わらないと装甲の取り換えができないぞ!」

 

 「了解」

 

 整備班によって修復作業を受けているカルキディウス。

 損傷自体はビームによって吹き飛ばされた岩場が衝突した程度であり、エンジンには影響がなかった。

 動けるようになるのも時間の問題だろう。

 そんな中、ヴィルフリート・クアドラードは耐え難い屈辱に耐えながら訓練に明け暮れていた。

 

 「クソ、クソォ、クソォォォ!!!」

 

 地球軍改革派の追撃の為にカルキディウスを任され、幸先の良い事に敵のモビルスーツを発見する事に成功した。

 ヴィルフリートはこれまでの汚名を返上する為、意気揚々と出撃したまでは良かったのだが、結果は惨敗。

 負けた。

 完膚なきまでの敗北。

 言い訳もできないほど、あっさりと。

 

 「何だあの無様な姿は!」

 

 相手がいくら音に聞こえたイレイズガンダムとはいえ、こうもあっさりとあしらわれてしまうとは。

 しかも任されたばかりの新造艦を損傷させ、補足した敵を逃がしてしまうという失態。 

 これでは汚名を雪ぐどころか、逆にヴィルフリートの立場は悪くなる一方だ。

 

 「次こそ、次こそは!」

 

 必死に操縦桿を動かしているとシミュレーターの中を覗き込むようにしてヴァルターが顔を見せた。

 

 「少佐、少し根を詰め過ぎではありませんか?」

 

 「……何の用だ。艦の指揮は貴方にお任せした筈だ」

 

 ヴィルフリートが自分が指揮を執らない方が艦の兵士達の不満も出ないだろうと、ヴァルターに艦の指揮権を移譲したのだ。

 それもまた屈辱ではあるものの、自分の置かれている立場や抱かれている印象くらいは理解していた。

 ならば信頼されているヴァルターに任せた方が効率よく動く事もでき、ヴィルフリートはパイロットの方に集中できる。

 

 「単なる報告ですよ。艦の修復は間もなく完了します。我々はこのまま敵の追撃に移行しますので」

 

 「了解した。しかし敵の位置は分かるのか?」

 

 「予測はできます。彼らは間違いなくストックホルムかウィーン近くにある前線基地に向かうでしょう」

 

 「何故、そう思う?」

 

 「簡単な事です。ここヨーロッパで彼ら改革派が補給線を維持する事は難しい筈。隠密に動いていたとなればなおの事。ならば今までの補給はヨーロッパの外で行っていたと考えるのが妥当です。しかし彼らはすでに補足され、ヨーロッパの外へ逃れる事もままならない。ならば協力関係である同盟に頼ろうとするのは自然な事です」

 

 確かにここヨーロッパで他の改革派が動いているという情報は無かった。

 こちらが補足しきれていない可能性は否定しきれないが、それならば今補足している連中の援護にも現れそうなものだ。

 それもないとなれば彼らは少数と考えて、問題ないだろう。

 しかし―――

 

 「なら何故、今まで同盟に接触しなかった? 隠密行動であったにせよ同盟なら手を貸しそうなものだが」

 

 「その辺の詳しい事情は完全に推測でしか言えませんが、今になって同盟側と接触しようとしている理由はわかりますよ。アスト・サガミが改革派と合流したからです」

 

 「アスト・サガミだと!?」

 

 ヴィルフリートは驚愕したように、シミュレーターから身を乗り出す。

 

 アスト・サガミ。

 

 キラ・ヤマト。

 

 最初のSEEDと言われる二人の名を知らぬ者などテタルトス軍には一人も居ない。

 当然、ヴィルフリートも叩きだした戦果と共にその名前は知っていた。

 

 「ええ。先ほどの戦闘でイレイズガンダムに搭乗していたのは彼です。例の地球に降下してきた機体のパイロットの一人は彼だったようですね」

 

 「どうしてアスト・サガミだと分かった?」

 

 「前から興味があったんですよ、彼に。だから動きを見ただけで分かりました」

 

 ヴィルフリートは拳を強く握りしめる。

 先日戦った相手が同盟軍のエースだったとなればあれほどの実力者であった事も頷ける。 

 これはチャンスと捉えるべきだ。

 誰も倒せなかった奴を倒せば、今までの失態もすべて帳消しになる。

 

 「分かった。引き続き艦の指揮はランゲルト少佐に任せる。俺はこのまま地上戦の訓練を続ける」

 

 「了解しました。クアドラード少佐、無理はなさらないように」

 

 敬礼して艦橋へ戻っていくヴァルターの背中にヴィルフリートは憤りを込めて吐き捨てた。

 

 「……貴様らなどに分かってたまるものかよ。俺は―――」

 

 思い起こされる苦い記憶。

 

 常に兄と比較され、冷遇されてきた。

 

 いや、それだけならまだしも自分の存在そのものを無かった事にされた事すらある。

 

 ヴィルフリートにとって勝利こそが、自分の存在を守ることであり、生きるという事なのだ。  

 

 「俺は勝つ、必ず」

 

 怨嗟にも似た声で呟くとヴィルフリートは再びシミュレーターのスイッチを入れた。

 

 

 

 

 アレンは揺れる振動で目を覚ますと見慣れない天井に僅かに目を細める。

 寝起きで鈍った思考の中、すぐさま現状を思い起こすと士官室に固いベットから身体を起こした。

 

 「部外者だから贅沢は言えないが、あまりいい寝心地とは言えないな」

 

 アイザックは隠密性の高い任務を主眼に開発されたものらしく、長期間任務にも耐えられるように設備は驚くほど充実していた。

 だが同時に欠点もある。

 その一つがこのベットの固さである。

 これでは休めるものも休めまい。

 とはいえ最前線に配置された部隊などはベットはおろか、常に野宿が当たり前というのも珍しくない。

 それに比べればベットがあるだけ贅沢というものだ。

 

 「着替えるか」

 

 余計な考えを止め、凝った肩を解しながら起き上がると、隣のベットで眠っていた人物の艶めかしい姿が目に入った。

 

 「うぅん」

 

 「……ハァ。制服で眠る訳にはいかないのは分かるけどな」

 

 隣で眠っているルナマリアを見ながら思わずため息が出た。

 現在アイザックには余分な部屋の空きはなく、アレンは強制的にルナマリアと同室という事にされてしまったのだ。

 無論、アレンはエクリプスのコックピットで良いと突っぱねようとしたのだが、ルナマリアと整備班によって却下されてしまった。

 

 「戦場で男女の区別なんてしてる暇がないのは当然だけど……」

 

 シーツがはだけ下着姿が丸見えだった。

 下着に包まれた豊満な胸や綺麗で細い足もシーツの外にさらけ出されている。

 

 「こいつは」

 

 もしも襲われたらどうするつもりなのだろう?  

 

 「やめ、やめ。考えても碌な結論にならない」

 

 その時は、その時考えればいい。

 近くにあった制服を引っ掴み、急いで袖を通すと、一応ルナマリアにも声を掛ける。

 

 「そろそろ起きろ、ルナマリア。朝飯を食いっぱぐれるぞ」

 

 物資が不足し始めているアイザックでは食事量や時間もキッチリ決められており、遅れたら食事は無しとなる。

 そうなると昼食まで我慢出来なくはないが、それは出来るだけ避けたいところだ。

 

 「……もう、朝ですか?」

 

 「ああ。先に行くぞ」

 

 「えっ、ち、ちょっと待ってくださいよ!」

 

 「部屋の外に出てる」 

 

 返事の前に外へ出るとルナマリアの着替えが終わるまで、壁に寄りかかって待つ事にした。

 テタルトスの攻勢から逃げ延び、すでに数日が経過していた。

 アイザックは敵を警戒しつつゆっくりとだが確実に進み続ている。

 物資も心もとない以上、出来る限り急ぐべきなのだろうが、焦って敵に見つかってしまっては意味がない。

 

 「それも後、少しか」

 

 建設された前線基地までそう距離は無い筈、おそらく日が沈む前には到着できるだろう。

 無論、敵に遭遇しなければの話だが。

 

 「お待たせしました」

 

 「じゃあ行くか」

 

 着替え終えたルナマリアを伴い食堂に向かう。

 

 「後、少しで基地に到着ですね。ようやくインパルスの応急修理も出来るかもしれないですよ。これまでパーツが無くて、手が付けられませんでしたから」

 

 「インパルスは複雑な機構をしている分、デリケートだからな。仕方ない」

 

 雑談を交わしながら兵士たちで賑わう食堂に入り、食事の乗ったトレイを受け取る。

 

 「今日も固いパンとミルク、そしてスープですか」

 

 「スープが付いているだけいいだろう。俺はミルクだけでも十分だけどな」

 

 「アレン、まだ背の事を気にしてるんですか? 流石にもう伸びないと思いますよ」

 

 「くっ、いいんだよ……俺が好きなんだから」

 

 ルナマリアの小言を聞き流しながら空いている場所を探していると、知っている人物を見つけた。

 

 「おはよう、ミナト少尉、フォルケンマイヤー少尉」

 

 「おはようございます、大尉、中尉」

 

 「おはようございます」

 

 先に食事を取っていたアオイとベアトリーゼに挨拶をしながら前に座ると、こちらも食事を始める。

 固めのパンはお世辞にも美味しいとは言えないが、スープと一緒に食べれば十分にいける。

 この辺は調理師の腕なのだろう。

 質素な食事を味わいながら、ミルクを飲んでいるとベアトリーゼがジッとこちらを見ている事に気が付いた。

 

 「どうした少尉?」

 

 「いえ、大したことではありません。それにしても朝食も一緒とは大尉と中尉は仲が良いのですね」

 

 「パートナーですから。それを言うなら少尉達も仲が良いでしょう」

 

 「我々のは単なる腐れ縁です。私と彼が同期だったというだけの関係ですよ」

 

 アオイとベアトリーゼの二人は任官する前、つまり訓練兵時代からの顔馴染だという。

 どうやらその頃から二人はこういう関係らしい。

 

 「それに同期ではありますが、ミナト少尉は訓練途中で部隊に配属されて戦果を挙げられましたので、再会したのはユニウス戦役後ですが」

 

 「へぇ、いつも一緒でしたから恋人かと思ってました」

 

 「冗談はやめて欲しいですね。私にも男を選ぶ権利くらいあります」

 

 「そこまで言うかよ」

 

 「何か不満でも? それにお前にはあの子、ステラが居るだろう? それとも前に一緒にいた金髪の女の方か?」

 

 「ぐっ」

 

 そこでアオイは見るからに動揺した。

 事情はよく分からないが彼にも色々あるらしい。

 

 「そもそもお前は昔から無茶が過ぎる。傍から見ているだけでも心臓に悪い。ボロボロになった機体を修理している整備班は実に気の毒だ」

 

 「ミナト少尉はそんなに無茶をしているんですか? アレンといい勝負ですね」

 

 「ほう、セイファート大尉もか」

 

 胡散臭い敬語から素の言葉遣いに代わったベアトリーゼの説教からルナマリアと意気投合し、女性陣は和気あいあいと話を続けている。

 反面男性陣は実に肩身が狭い。

 

 「……少尉も色々大変だな」

 

 「……はは、大尉も心中お察しします」

 

 女性陣の小言をどうにか聞き流しながら、アレンとアオイは黙々と食事を進めていった。

 

 

 

 

 ゆっくりではあるが慎重に慎重を重ねたアイザックの航行は結局敵に捕捉される事無く、前線基地目前までたどり着く事ができた。

 後は通信を入れ、受け入れてもらうだけなのだが――

 

 「アレン、アレって」

  

 「ああ」

 

 アイザックのブリッジに集められたアレンとルナマリアは哨戒機からの報告を見て、思わず眉を顰めた。

 モニターに映し出された映像にはブリュンヒルデなどの機体と破壊され煙が上がる前線基地の姿が映し出されている。

 

 「地球軍か」

 

 「ですね。ウィンダムやイリアス。そしてアレだし」

 

 ルナマリアの視線の先。

 一番目立つ形で基地の敷地内に立っていたのは三機のガンダムだ。

 

 「ヴォルケイノ、ストリーム、シュトゥルム。よりによってアイツらか」

 

 どうやら到着するのが一歩遅かったようで、前線基地は保守派によって占拠されてしまっているようだ。

 

 「それだけじゃない。アレに見ろ。あの機体は……」

 

 並び立つ保守派のウィンダムと共に見覚えのない機体が鎮座していた。

 イリアスに比べるとややごつく大きめの印象を受けるが、そのフォルムは洗練されている。

 

 GAT-07A 『ブリアレオス』    

  

 連合が開発した新型量産機であり前大戦で投入されたアルゲスの後継機。

 アルゲスでは装備不可能だったストライカーパックが装備可能になっており、汎用性も向上させている。

 

 「保守派の新型か」

 

 「ええ。アレもイリアス同様かなりの性能を持ってます。見た目に反して機動性も高いです」

 

 「どうするんです、アレン。今なら捕捉されていませんけど」

 

 「……フォルケンマイヤー少尉、物資の方は?」

 

 「戦闘は無かったから弾薬の方は少し余裕があります。しかし食料などはそろそろ限界に近いですね」

 

 確かに敵に補足される事は無かったが、移動速度が制限されてしまった。

 それによって想定よりも多くの時間がかかってしまった為、食料や水は切迫した状況になっているようだ。

 離脱するにしてもストックホルムに辿りつくまではおそらく持たない。

 弾薬についてもこの先敵に捕捉されないという保証がない以上、余裕があるとも言えない。

 食料と水は他の街で補給する事もできるが、弾薬と推進剤はすぐにでも必要になる筈だ。

 

 「煙が上がっている所からみても占拠されてさほど時間も経っていないようだし、基地自体もそう大きな損傷は確認できない。どうにかして保守派を追い払いたいが……」

 

 「この戦力では難しいですよ。しかもあの三機もいるし」

 

 「有名なのか?」

 

 「メキシコ戦線でも派手に暴れまわっていましたからね、アイツら。腕も一流です」    

 

 「保守派のエースか」

 

 「これで『彼』までいたら状況としては絶望的でした。それでどうされますか?」

 

 ベアトリーゼの呟いた『彼』というのが誰か気になったが、今はそれよりもこの状況をどうするかの方が重要だ。

 

 「情報が足りない。せめて友軍の状態や敵の規模くらいは調べたい……潜入するか」

  

 「潜入ですか?」

 

 「ああ、もうすぐ夜だ。夜の闇に紛れて基地内に潜入する。問題は誰が行くかだが……俺が行こう。アイザックはもう少し距離を取って敵に発見されないように注意してくれ」

 

 敵の襲撃を警戒はしているだろうが、連中も占拠したばかりの基地内すべてを把握している訳じゃない。

 それにこの手の任務は慣れている者が行く方が効率的だ。

 

 「私も行きますよ、アレン」

 

 「ルナマリア、何を!?」 

 

 「私はインパルスが修復されないと動けませんし」

 

 「危険すぎる。お前はエクリプスで待機しろ、俺が行く」

 

 「アレンこそ一人で行くのは無茶です。今、この艦では私が一番身軽です」

 

 ルナマリアが言いたい事は分かるが―――やはり賛成はできない。

 危険すぎる。

 アレンが再び反対しようとすると、意外な所から助け船が出た。 

 

 「なら私も行きましょう」

 

 「フォルケンマイヤー少尉まで!?」

 

 「これでもそういった諜報活動は得意分野ですから。戦闘に出る訳ではありませんからアイザックの守りもミナト少尉がいれば事足りるでしょう」

 

 「しかし!?」

 

 「大尉、こうなったら説得は無理ですよ。こいつの性格は俺が一番よく知っていますから。少尉、俺の事を注意するくらいなんだから、無茶はすんなよ」

 

 「お前に言われる日が来るとは思わなかった。しかし忠告はありがたく受け取っておく」  

 

 アオイとベアトリーゼは乗り気で基地内へと潜入に関して打ち合わせを始めてしまった。

 出来れば止めたいが、アレンは所詮部外者。

 ルナマリアは止められても、ベアトリーゼは止められない。

 仮に上官命令で無理やり止めたとしても、今後の関係に遺恨を残す事になるだろう。

 ならば―――

 

 「仕方がない。ミナト少尉も言っていたが、無茶だけはするなよ、ルナマリア。作戦を詰めよう。地球軍の援軍もすぐに来る筈だし、テタルトスも追撃してきている筈だ。のんびりとはしていられない。急ぐぞ」

 

 「「「了解」」」   

 

 アレン達は周辺の地図と哨戒機からのデータを基に詳細を詰め始めた。

 

 

 

 

 ウィーン近くに建設された前線基地はマケドニア要塞や他の基地に比べてやや簡素な作りになっている。

 これは激化していくヨーロッパ戦線の重く見た同盟が国家の許可を取り急遽、建造したものだからである。

 とはいえ規模こそ大きくはないが基地としての機能を果たすには十分だった。

 その基地にアレン達潜入隊が茂みに隠れながら静かに近づいていく。

 

 「……やはり敵からの襲撃を警戒しているな」

 

 見張りの兵士の数が予想よりも多い。

 別段、ここは重要拠点という訳ではない。

 しかし保守派からすれば、ここを占拠しておけばストックホルムやジブラルタルも攻めやすくなる。

 だからこそ基地を破壊せず最低限の損傷で止めたのだ。

 

 「兵士の数は多いが、まだ慣れてない所為で隙が多いな。増援が来る前の今が好機か」

 

 あの兵士の数は労力を割いた以上、そう簡単にここは渡せないという意思表示に違いない。

  

 「ここからは作戦通りで行く。各自無茶はするなよ」

 

 「「了解」」

 

 アレンはあらかじめ目星をつけておいた最も人数が少ない位置に慎重に近づいていく。

 そして哨戒している兵士を茂みの中に引っ張り込んだ。

 

 「何だ!? 何――」

 

 動揺する兵士の首に腕を回して力を籠め、そのまま始末した。

 さらに近くにいたもう一人を押し倒し、手で口を覆うとナイフで素早く喉を裂く。

 返り血に気を付けながら、装備を奪うとルナマリアとベアトリーゼに手渡す。

 

 《おい、どうした? 何かあったのか?》

  

 「異常なし。哨戒を続ける」

 

 胸ポケットに常備してあった無線に返事を返すとスイッチを切り、死体を見つからないように茂みの中に隠した。

 こんな事をしても発見されるのは時間の問題だろう。

 急がなくてはならない。

 アレンは二人にハンドシグナルで指示を出しながら、基地内へと潜入した。

 潜入した基地内は思った以上に静かだった。

 部屋の前や廊下には殆ど見張りもおらず、外に比べて明らかに敵兵士たちの数が少ない。

 どうやら内部を警戒するよりも、外からの襲撃に備えているらしい。  

 誰も居ない近くの部屋に忍び込み、設置してある端末から基地内の情報を素早く引き出す。

 

 「流石に今の状況で端末に情報を入力するような間抜けな事はしていないか。しかし―――」

 

 キーボードを叩き、メイン端末に介入すると監視カメラの映像を呼び出す。

 するといくつかの部屋に人質らしき者が閉じ込められている姿が映し出されていた。

 

 「無事だったようだな」 

 

 映像を見る限り、閉じ込められているだけで暴行などの行為はされていないようだ。

 

 「保守派がベルリン条約を守るなんて意外ですね」

 

 「ベルリン条約は世界に向けて発表され、国際的にも効力を持つ戦時条約だ。蔑ろにはできない、特に昔の連合を再建しようと考えている保守派はな」

 

 「よし。では事前の打ち合わせ通り、俺が人質解放の方へ行く。ルナマリアは仕掛けの準備、フォルケンマイヤー少尉は格納庫で物資とモビルスーツの確保を」

 

 「「了解」」

 

 出来るだけこちらの発見を遅らせる為、カメラに細工を施すと三人はそれぞれの役目をこなす為、走り出した。

 

     

 

 

 基地内における作戦行動は順調そのものだった。

 ルナマリアは敵に見つからないように部屋やダクトを使って移動しながら、背負ったリュックから取り出した四角い物体を部屋へ設置する。

 慎重にダクトを移動していると流石に基地内が騒がしくなってきた。

 

 「もう限界ね。そろそろミナト少尉達も動く頃か。私も格納庫の方に」

 

 時間を確認しながらダクトから廊下へ降りると格納庫に向かって走り出した。

 

 だがその時、人の気配と共に銃声が響き渡る。

 

 「くっ」

 

 銃声と共に前方に飛んだのが良かったのか、銃弾を回避に成功する。

 同時に銃を構えて銃声が聞こえた方向へ突きつけた。

 そこには口元以外は髪の毛すら見えない程顔全体を覆うヘルメットのような仮面を被っている人物が銃を構えて立っていた。

 

 「貴方、誰?」 

 

 かろうじて分かるのは体つきから見て女性という事くらいだ。 

 ルナマリアは思わず息を飲んだ。

 顔が見えない事もそうだが、仮面女からにじみ出ている強烈な殺意がルナマリアの肌をチクチク刺すように伝わってくるからだ。 

 

 「……死ね」

 

 マイクでも使っているのか機械音のような声で呟くと仮面女は信じがたい速度で一気にルナマリアの懐に飛び込んできた。

 

 「なっ!?」  

 

 速い!? 

 

 咄嗟に体を伏せ、至近距離から突きつけられた銃を回避する。

 しかしそれを読んでいたように仮面女はルナマリアに蹴りを入れてきた。

 

 「ぐぅ」

  

 腕で防いだものの、仮面女はさらに追撃を仕掛けてくる。

 

 「しつこいわね!」

 

 ルナマリアは撃ち込まれた銃弾を避けるので精一杯で立ち上がる暇もない。

 たまらず廊下を転がり、仮面女の猛攻から逃れようと必死に逃げる。

 無様な姿に見えるかもしれないが、どうにか反撃の糸口を見つけなければ、やられてしまう。

 

 「この! 何時までも調子に乗るなぁ!!」

 

 持っていたリュックを投げつけ、仮面女の動きを鈍らせると体勢を立て直し銃のトリガーを引く。

 

 しかし次の瞬間、ルナマリアは信じがたいものを見た。  

 

 仮面女は最低限の動きだけで銃弾を回避すると壁を蹴って駆け上がり、飛び蹴りを放ってきたのである。

 完全に虚を突かれたルナマリアは蹴りをもろに受け、廊下に倒されてしまう。

 

 「ぐっはぁ」

 

 廊下に叩きつけられ、痛みで息ができなくなった。

 思わず蹲ろうとしてしまうが仮面女がそれをさせない。

 ルナマリアの肩を力任せに足で踏みつけ、押さえつけると銃口を向けた。

 冷たい銃口がルナマリアの額を狙って突きつけられる。

 

 「ア、アンタは……誰?」

 

 「死ね」

 

 ルナマリアの質問には答えず仮面女は殺意だけを叩きつけ、トリガーを引こうと指を掛けた。




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