地球連合軍最大の拠点であるマケドニア要塞。
既存の軍事基地とは根本的に規模が違うこの要塞では現在ヨーロッパ戦線打開に向け、更なる戦力増強に舵を切ろうとしていた。
その方針を打ち出し、半ば強硬した男こそマケドニア要塞の指令官ガスパール・ブレーズ大佐であった。
彼こそ前回保守派の極秘裏会合で激怒していた人物である。
「いつまでもあんな若造に好きにさせられるものか」
保守派の中には若いクレメンス・イスラフィールに対して反感を持つ者達も少なくない。
ガスパールもその一人である。
彼の手腕を認めていない訳ではない。
むしろイスラフィールの才覚とカリスマ性は本物である。
その強烈なまでの覚悟には恐怖すら覚える程だ。
しかし長年戦場で戦い抜いてきたガスパール達にとって自分よりも経験も浅く、若いイスラフィールに従う事には強い抵抗感があるのだ。
それでも付き従っているのは保守派の現状を考え、自陣営を纏め上げる旗頭が必要だと弁えているからだった。
「だが、それも改革派を討ち倒すまで。それが済めばあんな小僧に用は無い」
今回のマケドニア要塞の戦力強化も、来るべき時に備えた布石である。
ガスパールとしては新型であるブリアレオスの生産を進めたいところなのだが、高性能な分コストが高い。
反面イリアスは扱いやすく、量産コストもブリアレオスに比べば安価だ。
「やはりイリアスの強化プランを優先させるべきか」
イリアスの強化型はすでにロールアウトし、エクステンデット専用機としてテストに入っている。
だが、それも量産するには些か問題も残っていた。
あちらを立てればこちらが立たず。
ガスパールが頭を抱えながら、データを精査していると端末に通信が入る。
《お久しぶりですね、ブレーズ大佐》
「貴様か。何の用だ?」
《いえ、御承知とは思いますが久々にマケドニア要塞近くまで来ていましてね。私の部下も預けていますから、今度ご挨拶に伺おうかと》
「好きにしろ。どうせ補給もさせろというのだろうが。その分はこちらに手を貸してもらうぞ」
《承知しています。そういえば小耳に挟んだのですが、ウィーン近くにある同盟の前線基地に制圧作戦を仕掛けたとか》
ガスパールは僅かに顔を顰めた。
確かに現在、ウィーン前線基地に対して作戦行動を取っている。
だが、何故こいつがそれを知っているのか?
「貴様、それをどこから?」
《フフ、言ったでしょう。小耳に挟んだだけだと。ではひと先ずはこれで。僭越ながら作戦成功を祈っていますよ》
通信を切り、窓辺へと近づくと作戦が行われている方向へ視線を向ける。
「フン、余計なお世話だ。『彼』が増援に向かった以上、失敗はない。それにしても―――」
横目で机の上に置いてある書類の方を見る。
その表情は実に苦々しいものであった。
「……テタルトスめ。この時期に『会談』などと、何を考えている?」
それとも同盟の外交戦略か、もしくはプラントの働きかけによるものか。
どちらにせよ、厄介ごとである事に変わりはない。
ガスパールは嘆息しつつ、作戦が行われている方向へ視線を戻した。
◇
誰も居ない廊下を僅かに音を立てながら、アレンは友軍が閉じ込められている場所へと走っていた。
「外に兵士を配置してくれていたのが幸いしたな」
基地内に残っている兵士達の数はごく僅かで、残りはモビルスーツによる警戒と外の哨戒に駆り出されている。
これはアレン達にとって思わぬ幸運だった。だ
がそれもマケドニア要塞からの増援がたどり着くまでの間の話である。
増援がたどり着いた瞬間に自分たちは逃げ場を失う。
つまりいかに早く目的を達成するかという時間との勝負になる。
「確かこの辺りだった筈」
基地端末から落としたデータを確認しながら、曲がり角から目的の場所を覗き込んだ。
流石にここには人手を割いているようで、数人見張りとして立っていた。
「時間がない。……フォルケンマイヤー少尉、そっちはどうか?」
《予定通り、格納庫に到着しました。物資と地球軍のモビルスーツを確認―――ただ、同盟の機体は確認できず》
すでに連中に運び出されてしまったのか、それともすべて破壊されてしまったのか。
嫌な想像が頭を過る。
脱出の要はベアトリーゼが格納庫でモビルスーツを確保できるか、否かにかかっている。
自分達だけならともかく、人質を連れて脱出するには必須事項なのだ。
「地球軍の機体は確保できるか?」
《ホーク中尉の合図に合わせて、やってみます》
「……頼む。慎重に進むのはここまでだ」
《了解》
アレンは右手に構えた銃のセーフティを解除、そして左手にナイフを握る。
そしてタイミングを見計らい曲がり角から勢い良く飛び出した。
「何!?」
突如飛び出してきたアレンに完全に虚を突かれた形となった保守派の兵士は反応が遅れた。
アレンはその隙を見逃さない。
容赦なく銃弾を叩き込み兵士の眉間を撃ち抜くとナイフをもう一人の兵士に投げつける。
ナイフが兵士の腕に突き刺さり、持っていたライフルを廊下に落とした所に銃弾を数発叩き込んだ。
「くそ!」
動揺から立ち直った残りの兵士がライフルを構えるが、それはあまりに遅すぎる対応だった。
アレンは床に倒れた死体を蹴りつけて敵の視界を塞ぎ、死角から飛び出した。
「何!?」
兵士の腕を掴み上げ、眼前に銃を突きつける。
躊躇いなく撃ち込んだ銃弾が兵士の顔面を撃ち抜き射殺した。
見張りの兵士を始末したアレンは周辺に他の兵士達がいないことを確認すると、死体の懐から鍵を奪い部屋の扉を開けた。
「だ、誰だ!?」
少し広い薄暗い部屋に怯えるように蹲る人影とそれをかばうように数人の軍服を着た男達が立ちふさがっている。
軍服を着た者達は友軍のようだが、後ろに蹲っているのは服装から見て民間人のようだ。
年端もいかない少女や子供の姿も見える。
「落ち着いてください。自分は同盟軍独立部隊『グラオ・イーリス』所属、アレン・セイファート大尉です」
「グ、グラオ・イーリス……味方」
全員がホッと安心したように息を吐いた。
しかしこちらとしてはここで弛緩されては困る。
ある意味此処からが本番なのだ。
「申し訳ありませんが、時間がありません。まずは状況確認を行いたい。現状を報告してください」
「は、はい」
仕官と思われる男が掻い摘んでこれまでの事を報告してくれた。
今から約一日くらい前、ここ前線基地にとある一報が入ってきた。
内容は地球軍による戦闘に巻き込まれた為、救援に来てもらいたいという要請だった。
それは同盟軍にとって何時も通りの案件。
指揮官もそう判断し斥候部隊を派遣、救援活動を行う事を決定した。
しかしそれは同盟軍を誘い出す罠だった。
被害にあった民間人を救助し、無事基地に帰還した所に地球軍保守派からの奇襲を受けた。
普通の戦力であればストックホルムからの救援が来るまで持ちこたえることが出来たかもしれない。
しかし襲ってきたのは三機のガンダム。
その猛攻に晒されたモビルスーツ隊はほぼ壊滅。
僅かに逃げ延びる事が出来た者も居るが、司令官も含め戦死か捕虜の身になってしまったらしい。
「なるほど。それで民間人がここにいる訳ですか」
「ええ。落ち着いたらアムステルダムの方へ送る予定になっていたのですが……」
アムステルダムはベルリン条約で規定された戦闘禁止区域に属する都市の一つだ。
一昔前のコペルニクスと同じ立場のような都市になる。
確かにあそこなら戦闘に巻き込まれる心配はほぼ無いだろう。
「モビルスーツが残っていなかった訳も理解できました。基地内にあったデータは?」
「司令が戦死される前にロックを掛けられてました。まだ連中は解除できていない筈です」
「了解しました。……只今をもってこの基地は放棄、データを含めた重要なものはすべて破壊します。地球軍改革派所属の仲間が格納庫で脱出の準備を整えていますので、そちらに向かってください。俺は他の部屋に閉じ込められた人達の解放に向かいます」
「ハ!」
廊下に倒れ込む兵士の死体から装備を剥ぎ取り、味方に手渡すと残りの人質の下へ走り出した。
◇
額にポイントされた冷たい銃口。
肩を踏みつけ、殺意を込めて見下ろす仮面の女。
ルナマリアの命を奪おうと、仮面女は銃口に指を掛ける。
「死ね」
「……悪いけど、時間切れ!」
ルナマリアは手に握っていたスイッチを押す。
すると事前の仕掛ておいた爆弾が爆発、ダクトを伝い凄まじい衝撃波が通路に噴きだした。
「なっ!?」
爆発の衝撃でルナマリアを踏みつけていた仮面女の力が僅かに緩んだ。 その隙に仮面女を引き剥がし、痛む体に鞭打って走り出した。
「貴様!」
「そう簡単に死ねないのよ! 私はまだまだアレンの背中を守らないといけないからね」
「……アレン?」
追ってこない仮面女を振り切るように走り抜け、ルナマリアは持っていたもう一つのスイッチを押した。
仕掛けてきた爆弾が作動し、基地内を再び大きな振動が襲った。
「よし、これでデータベースも破壊できた筈。後は格納庫に……ぐっ、痛っ! あの女、思いっきり、蹴ってきて……ハァ、ハァ」
体の節々が痛む。
だが、こんな所で倒れてなんていられない。
またあの仮面女に襲われたら、今度こそ殺されてしまうだろう。
「その前に合流しないと」
ルナマリアは壁に預けていた身体を起こし痛みに耐えながら、どうにか格納庫に辿りつく。
そこでは激しい銃撃戦が行われていた。
「うわ、派手にやってるし」
格納庫はコンテナを盾に派手な撃ち合いが繰り広げられていた。
素早く状況を確認し味方と合流しようとするが、こちらを発見した保守派の兵士に狙い撃ちにされてしまう。
「くっ」
どうにかコンテナの陰に飛び込み難を逃れた。
しかし痛みで体が上手く動かない。
迫ってきた兵士に成す術なく、せめて一矢報いてやろうと銃を握った。
「昔に比べたら私だって上手くなってるのよ!」
覚悟を決めたその時、横から発砲された銃弾に保守派の兵士は撃ち倒された。
「ルナマリア、無事か!?」
「あ、アレン!!」
ルナマリアは安堵しながら駆け寄ってきたアレンの胸に飛び込んだ。
「おい。大丈夫なのか!?」
「う、ちょっと、き、きついかも。かなり手強い奴にやられちゃいまして」
「ジッとしてろ。トレーラーに運ぶ」
アレンはルナマリアを背負い、助けた民間人たちと共にコンテナの陰を利用して奥に止めてあったトレーラーに走り寄った。
「大尉、全員の乗車確認」
《こちらもウィンダムを確保しました》
「よし、脱出する。フォルケンマイヤー少尉!」
《了解》
ルナマリアを助手席に乗せ、アレンがトレーラーに乗り込む。
それを合図にベアトリーゼの奪ったウィンダムのトーデスシュレッケンが歩兵をすべて排除、ビームライフルが格納庫の隔壁を吹き飛ばした。
《先に行きます》
「頼む、予定通りアイザックと合流後、この地域より離脱する」
格納庫を飛び出したウィンダムに続くようにトレーラーも外に向かって走り出した。
◇
アレン達の作戦が開始される少し前、アイザックに待機していたアオイも出撃準備に追われていた。
調整を行いながら、機体状態の確認を行っていると、兵士の1人がコックピットを覗きこんでくる。
「少尉、哨戒機より報告がありました。連中を捕捉したと」
「分かった。じゃ、こっちも作戦通りに行くから、アイザックは所定通りの場所に移動してくれ」
「了解しました。スカッドストライカーの調整も終わりましたので、今回から使用可能です」
「ありがとう」
アオイは兵士に礼を言いながらコックピットのハッチを閉じる。
そして背中にスカッドストライカーを装着すると眼前にある隔壁が解放された。
「スカッドストライカー、異常なし」
スカッドストライカーは連合が高速機動戦闘用に開発した試作ストライカーパックである。
エールストライカー以上の機動性を持っているが、操作性はお世辞にも良いとは言えない玄人向きの装備になる。
まあアオイはユニウス戦役から使い慣れている分、普通のパイロットよりは使いこなせているから問題はない。
「アオイ・ミナト、イレイズガンダムMk-Ⅱ、出ます!」
スカッドストライカーのスラスターが噴射され、イレイズが前方に押し出されるように外へ飛び出す。
アオイは久しぶりに味わう強烈なGに歯を食いしばり、操縦桿を強く握りしめた。
「スカッドストライカーは久しぶりだけど!」
とてもブランクがあるとは思えない動きで機体を操る。
上手い具合にGにも慣れてくると、アオイはイレイズを前線基地の方へ加速させた。
こちらの事をすでに捕捉しているらしく、ウィンダムやイリアスが空中に飛び上がってくるのが見えた。
「結構数がいるな。だからこそ、こっちで引き付けないとな!」
アオイの任された役目は潜入したアレン達が脱出しやすくする為、基地周辺で警戒していたモビルスーツを引き付ける事。
危険な役目だが、これを仲間にさせる訳にはいかないとアオイ自らこの役目を志願した。
「大尉達の邪魔はさせない!」
速度を上げ、ウィンダムとすれ違う瞬間にビームマシンガンを発射した。
マシンガンの銃口から数発のビームがウィンダムの胴体に風穴を開け、撃破する。
「まだまだァァ!!」
相手のビームライフルの弾幕をその速度で振り切り、対艦バルカン砲とマシンガンを使い分けながら敵をイレイズの方へ引き付けていく。
「そうだ、そのままこっちに来い」
側面から迫ってきたウィンダムがスティレット投擲噴進対装甲貫入弾を投げつけてきた。
「あれはヤバイな」
アレをは所謂盾殺しだ。
真正面から受け止めればアンチビームシールドが確実に破壊されてしまう。
多くの敵機を相手に立ちまわる以上、今盾を失うような失態はできない。
飛んでくるスティレットをイーゲルシュテルンで破壊する。
捌ききれなかった貫通弾を突き出したブルートガングで弾き、近づいてきたウィンダムのコックピットを串刺しにした。
「悪いな」
ぽつりと呟きウィンダムから刃を抜く。
そしてすぐ様次の敵に向かおうとしたその時、コックピット内に警戒音が鳴り響いた。
「ッ!? 後ろ!」
飛んできた鉄球を機体を水平に寝かせて回避すると、上空から降下しながら攻撃してきた敵機にビームマシンガンを撃ち込む。
「やっぱり最初に戻ってきたのはお前かよ、シュトゥルム!」
攻撃してきたのはシュトゥルム・レイダーガンダムだった。
「たく、嫌な予感がしたんで早めに戻ってきて正解だったみたいだな!」
「ジルベールか! てことは囮はバレたな。相変わらず察しが良すぎるんだよ!」
アオイ達が基地にたどり着いた時、三機のガンダムは基地内に駐留していた。
一対一ならともかく、まともに戦ってはあっさり追い込まれるのは目に見えている。
だから基地近くでアイザック所属のウィンダムを囮に三機のガンダムをおびき出していたのだ。
「こんな所でお前の面を見るなんてな、アオイ・ミナト! メキシコ戦線での借りを返させてもらうぜ! ていうかここで仕留めないと姉御にまたどやされるんでね!」
「ジルベール・ブラジウス!!」
マシンガンの射撃を旋回して避けたレイダーは再び突っ込んでくる。
圧倒的な空戦能力を持つレイダー相手に空中での戦闘は不利だ。
スカッドストライカーも直線的な加速なら負けていないが、その分操作性が悪いという欠点がある。
「やっぱり真っ向勝負はリスクが高いよな。ならば!」
至近距離からのツォーンを防御しながら、バルカン砲でレイダーをけん制するとビームマシンガンを連射する。
しかしレイダーはバレルロールしてビームマシンガンの射線から逃れると、叩きつけるようにミョルニルⅡを振るってきた。
鉄球から伸びている棘から発生したビームスパイクがイレイズの正面から襲い掛かる。
「当たるかァァ!! 落ちろ!!」
「ぐっぅぅぅ!」
アオイは目一杯操縦桿を引き、さらに下方へと逃れると鉄球の棘が僅かに装甲を掠めていった。
「どうした、防戦一方だな!」
「うるさい、こっちにはこっちの事情があるんだよ」
「ああ、そうかい。でもいいのか? グズグズしてると姉御達まで戻ってくるぜ!」
「余計なお世話だよ!」
攻撃を加えては離脱していくレイダーの攻撃を地面スレスレの位置で捌く。
そして迫ってきたウィンダムを撃ち落としながらレイダーの動きを観察した。
あの機体の特性はその火力と加速力を利用した一撃離脱、ならば―――
「それならそれで、やりようはある!」
マシンガンとバルカン砲でレイダーを誘導し、肩に装備したビームブーメランを投擲すると同時に前方へ突撃する。
「そんなものに当たるか!」
「そう来ると思ったよ!」
ブーメランをビーム砲で迎撃するレイダー。
その迎撃する一瞬の間を狙い、アオイはレイダーの背中に組み付いた。
「ぐっ、な、離れろっての!」
「このまま押しつぶす!」
「できると思うな!」
イレイズに組み付かれたレイダーは降り落とそうと速度を上げ、無茶苦茶な軌道を取り始める。
思わず酔いそうな程にコックピットが激しく揺れるが、アオイは歯を食いしばりビームマシンガンを構えた。
「お、ちろォォォォ!!!」
レイダーの背中に向けて発射されたビームがウイングを吹き飛ばし、スラスターを損傷させる。
「ぐぉぉ!! この野郎がァァ!!」
レイダーは速度を落としながらも、逆制動を掛けモビルスーツ形態に変形するとイレイズを吹き飛ばした。
「アオイ!」
「ジルベール!」
イレイズが落下しながら発射したビームマシンガンとバランスを崩しつつも放ったレイダーのツォーンが空中で交錯する。
ビームマシンガンの一射がレイダーの頭部の半分を吹き飛ばし、ツォーンがイレイズのマシンガンごと肩部装甲を抉り飛ばした。
「ぐぅぅぅ!! まだ!」
アオイはどうにか体勢を立て直し、スラスターを噴射し地面に着地する。
レイダーもまた墜落だけは避けられたようで、少し離れた地点に着地したのが見えた。
その腕前は流石と言うべきだろう。
しかし倒し切る事はできなかったが、あの損傷は結構な深手。
「肩の損傷はひどいけど、戦闘には問題ない。今の内に―――」
手負いのレイダーに追撃をかけようとするが、それを阻むように幾重ものビームが降りかかった。
アオイは盾を構えて後退、撃ち込まれた強力なビームをシールドで防御する。
これは『スキュラ』だ。
モビルスーツに搭載される火器の中でも最強クラスの武装。
食らえばそれだけで致命傷になる。
「ぐっ、くそォォ」
踏ん張るようにスラスターを吹かす。
だが、無数の閃光と共に盾に圧力を掛ける強力なビームの一撃を抑えきれずシールドが弾き飛ばされてしまった。
アオイは後方に飛びながら両手でビームライフルショーティーを構え、敵機の方へ突きつける。
「アレは……戻ってきたのか、ヴォルケイノ、ストリーム!」
モニターには急速に接近してくる二機のガンダムの姿が映し出されていた。
「大尉、イレイズですよ!」
「ハァ、ジルベールの馬鹿め、またアオイの坊やに派手にやられてんじゃないか!」
傷ついたレイダーを守るように二機のガンダムがイレイズの前に立ち塞がる。
「久しぶりだねぇ、アオイの坊や」
「お久しぶりです、バルマ大尉。メキシコ戦線でやり合って以来ですか」
「まさかアオイがヨーロッパに居るとは思ってなかった。同期のよしみで私がアンタの止めを刺してあげる」
「カーラ・アルマディオ少尉か。悪いけど、そう簡単に倒されるつもりはないさ」
「そんなおもちゃみたいな旧型機で私たちの相手ができるとでも? ジルベールの阿保は油断したみたいだけどさ」
それはある意味事実だ。
イレイズMK-Ⅱの性能は決して低くはない。
しかし新型機を複数相手に出来るほど余裕がある訳でもないのだ。
先ほどのレイダーとの戦闘はあくまでもこちらが取った手が上手く嵌っただけに過ぎない。
次、同じ条件で戦えばこうも容易くはいかないだろう。
「簡単にいくとは思ってないさ。でも、今日はここまでだけどな」
「何?」
そこでその場にいた全員が何かが接近してくる事に気が付いた。
「この反応、戦艦?」
「アレは……まさか、テタルトス!?」
ウィーン前線基地の正面に位置する場所から現れたのはテタルトスの地上戦艦ディオネ級『カルキディウス』だった。
「まさか、改革派と手を組んだのか!?」
「さあね!」
ここまでがアレン達と立てた作戦だった。
潜入したアレン達を逃がす為、アオイは基地の外で派手に暴れて敵を引きつける。
しかしそれだけで確実に逃げられるという保証はない。
だからこちらを追ってきているテタルトスを利用させてもらったのだ。 追ってきているテタルトスを地球軍とぶつければ、離脱できる隙も出来やすくなる。
ガンダムを引きつける為に囮となったウィンダムは同時に追ってきたテタルトスを引きつけるという役目も担っていたという訳だ。
アオイは二丁のビームライフルショーティ―を連射、地面にビームを叩き込む。
ビームによって土煙が舞い上がり二機のガンダムの視界を塞ぐと即座に反転、加速した。
「あ、待て!」
「悪いけど、決着はまた今度だ! アイザック、砲撃開始!」
アオイの指示に従いカルキディウスが現れた方向とは逆。
すなわちウィーン前線基地を挟んだ反対に身を隠していたアイザックから無数のミサイルが発射され、周辺に降り注いだ。
ミサイルが基地や地面に着弾し、爆発と共に粉塵が舞う。
「急速離脱!!」
スカッドストライカーのスラスターを全開。
爆煙に包まれる基地内を突っ切り離脱を図るアイザックに向かって突き進む。
しかし燃え盛る基地をどうにか抜けた先で、イレイズの進路を阻むように別方向からの砲撃が撃ちかけられた。
「何!?」
機体を逸らし旋回する形で攻撃を回避すると、そこに二機のモビルスーツの姿が見えた。
一機はブリアレオスだが、もう一機は―――
「まさか……イレイズ!?」
装甲の色は青みを帯び、機体の形状もずいぶん違いがあるがアレは間違いなくアオイが搭乗しているイレイズガンダムの系譜に違いない。
GAT-X141-2 『イレイズガンダムMK-Ⅲ』
地球軍保守派が開発したモビルスーツ。
イリアスのプロトタイプに相当する機体であり、その性能はイレイズガンダムMK-Ⅱを軽く上回っている。
「データ照合、イレイズMKーⅢだって!?」
イレイズMK-Ⅲは背中に設置されたビーム砲を発射、腰にマウントしていた対艦刀『ネイリングⅡ』を抜くとこちらに向かって突撃してきた。
「速い!?」
ジグザグに捉えにくく動き、ビーム砲を回避しながら、こちらもビームライフルショーティーを発射する。
しかしそれをいとも容易く避けてみせたMK-Ⅲは対艦刀を振り下ろしてきた。
「こいつ!」
アオイは右のブルートガングで受け止めようと、腕を振り上げるがそこで異変に気がついた。
「右腕の反応が鈍い!? さっきの損傷の所為か!」
多分ビームライフルショーティーを連射し続けた反動で、元々悪かった状態がさらに悪化したのだ。
この状態では受けきる事ができないと判断したアオイは無理に機体を半回転させ、左側を敵の刃の正面に持ってくる。
「間に合え!」
左腕のブルートガングを振り上げ、ギリギリネイリングを受け止めた。 弾ける稲光と共に刃を交わり、二機の兄弟機を光が照らす。
「ぐっ、踏ん張りがきかない!」
無理な体勢での鍔迫り合い。
しかも相手のほうが勢いもある。
このままでは押し切られてしまう。
そこに側面に回り込んだブリアレオスのスキュラがイレイズMK-Ⅱに襲いかかる。
「くそ!」
足を振り上げMK-Ⅲを引き離す。
その反動で難を逃れるとイ―ゲルシュテルンで二機を牽制しながら、地面スレスレの位置を滑るように離脱を試みる。
だが、逃がさないとばかりに二機のモビルスーツは攻撃の手を休めない。
「……このままじゃアイザックも逃げ切れない。仕方ないか」
アイザックを逃がす為、この場に残る覚悟をアオイが決めた。
その時、イレイズMK-Ⅱを援護するように閃光が敵機に向かって放たれた。
「少尉、今の内に離脱しろ!」
「大尉!?」
振り返れば解放されたアイザックの格納庫からアレンのエクリプスがビームライフルを構えて援護射撃を行ってくれていた。
「急げ!」
「了解!」
エクリプスの援護を受けながら、反転したイレイズMK-Ⅱは脇目も振らず、アイザックの格納庫目掛けて突撃する。
もうバッテリーの残量もギリギリ、スラスターのガスにも余裕はない。 つまりはこれが離脱する為に最後のチャンス。
「届けよ、イレイズ!!」
スカッドストライカーのスラスターを全開にしてアイザックにギリギリ追い付いたイレイズは手を伸ばす。
それをアレンのエクリプスがガッチリと掴むと力任せに格納庫に引き入れた。
「エンジン全開、振り切れ!!」
アイザックのエンジンが最大出力で噴射され、戦闘宙域から一気に離脱を図る。
その間、格納庫から発射される各モビルスーツによる砲撃で敵は追い付く事も出来ずに振り切られた。
◇
速度を上げ姿が見えなくなっていくアイザック。
イレイズMK-Ⅲのコックピットでそれを見届けたパイロット、ジェラール・フェレオルは肩を竦めながら、近くのブリアレオスに指示を出した。
「退くぞ。任務は完了した」
「良いのですか、このまま逃がしても? 奴らはここで始末しておくべきだと思いますが? ミネルバが地球に降下したという情報も入っています」
ブリアレオスに搭乗していたのは仮面の女だった。
表情は見えないが、このまま敵を逃がす事に不満そうな雰囲気は十分に感じ取れた。
「ああ。奴らの行先は見当がついている。部隊を先回りさせてあるから問題はない。それに今回の命令は十分に果たしたさ」
保守派がここを襲撃した本当に理由は基地の制圧ではなく、基地の無力化だった。
もちろんウィーン前線基地を占拠、そのままこちらで利用できるのならばそれに越した事はない。
しかしそれは戦力を無駄に消耗させてまで行う必要はない事だった。
「奴らの追撃に関しては命令が下ってからだ。それよりも今はテタルトスの連中をどうにかする事が先だ。いいな、エリニス」
「……了解しました」
テタルトスと戦闘を行っている味方の援護に向かうイレイズMK-Ⅲ。
エリニスと呼ばれた少女はアイザックが逃れた方向を一度だけ振り返ると、イレイズMK-Ⅲの後を追って味方の援護に加わった。
キャラクター紹介を投稿、そして機体紹介を更新しました。