機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第14話 拳

 

 

 

 物々しい護衛と共に宇宙を進む戦艦。見覚えのないその戦艦の名は『アリストテレス』。

 『アンドロメダ級』とカテゴライズされたテタルトス軍の新たな旗艦である。

 大型化した船体と突き出された幾つもの砲門。

 搭載されているモビルスーツに、その巨体を進ませるに十分な推力を持った大型エンジン。

 すべてが通常の戦艦とは一線を画する戦艦となっている。

 その戦艦を先導するのはユリウスヴァリスのシリウス・ラファーガとレイ・ザ・バレルのH・アガスティア。

 それに続く形でテタルトス軍の精鋭たちが艦周辺を警戒していた。

 

 ≪大佐、そろそろ大気圏降下ポイントまで到達します≫

 

 「了解した。敵影も今のところ確認できない。補給の為、私とレイは一時帰還する。聞こえていたな、レイ?」

 

 ≪はい≫

 

 レイと共にアリストテレスの格納庫に着艦したユリウスはシリウスをハンガーに固定する。

 そしてコックピットから降り、近づいてきた整備兵に無事な事を知らせる為に手を挙げた。

 

 「お疲れ様です、大佐。補給の準備はできています。それよりいい加減にパイロットスーツくらい着てくださいよ。コックピットで空気漏れでもあったら」

 

 「戦闘での損傷であれば、私のミスだ、気にする必要はない。それ以外の要因については、君たちを信頼しているさ」

 

 プレッシャーをかけられ顔を顰める整備兵の肩を軽く叩き、レイの方へ足を運ぶ。

 

 「レイ、体の調子はどうか?」

 

 「特に問題はありません」

 

 レイはその特殊な生まれ故に体にある問題を抱えている。

 現在ではある科学者の功績と月での治療によって体の問題もたいぶクリアされはした。

 しかし環境の変化によっては状況が変わる可能性もある。

 留意しておくに越したことはない。

 

 「そうか。地球に下りれば環境も変わる。指揮を預かる者として体調管理は十分に気をつけろ」

 

 「ハッ!」

 

 本来であればユリウス自らが赴くべきなのだろうが、宇宙の方を疎かにはできない。

 あの降下作戦時に感じた見られているような感覚は未だにユリウスの中でしこりを残していた。

 

 「先導ご苦労だった。ユリウス・ヴァリス大佐」

 

 「……ヴェルンシュタイン指令」

 

 護衛を伴い声をかけてきたのはテタルトスで現在最も力を持つ男ゲオルク・ヴェルンシュタイン。

 鍛え上げられた巌のような体故か。

 元軍人という経歴からか。

 軍の制服を身に纏った姿がよく似合っている。

 今回、新造戦艦であり慣熟訓練を行っていたアリストテレスが前線に引っ張られてきたのも、すべては地球に向かうゲオルクを護衛する為であった。

 

 「地球では何があるか解りません。十分にご注意ください」

 

 「気遣い感謝しよう。しかし心配はいるまいよ。地上ではクアドラード大佐を含めた地球駐留軍がいる。それに今回護衛部隊を率いるバレル中尉もいるのだから」

 

 「全力で任務を遂行します」

 

 「期待している。では大佐、後は頼むぞ」

 

 「了解いたしました」

 

 ゲオルクは整備兵たちに声をかけながら、大気圏突入用シャトルの方へ歩いていく。

 その後に続くように現れたのはゲオルクに比べて若く、きっちりとスーツを着込んだ人物だった。

 

 「大佐、今回は申し訳なかった」

 

 「お気になさらず、アルノルト・ヴェルンシュタイン議員」

 

 アルノルト・ヴェルンシュタイン議員。

 名の通り、ゲオルク・ヴェルンシュタインの息子にあたる人物である。

 若く経験も浅いが父親譲りのカリスマと勤勉さを持っている期待の若手議員としても名を馳せている。

 その後ろには彼と志を同じくする数名の議員たちの姿もあった。

 

 「地球ではこちらのバレル中尉が護衛に付きます」

 

 「済まない。バレル中尉、当てにさせてもらう」

 

 「ハッ」

 

 ユリウスはアルノルトに期待している部分がある。。

 やや感情でものを考える部分もあるが、公私混同はせず、冷静な判断で物事を的確にとらえている。

 あとは経験さえ積めば、よい政治家になるだろう。

 何よりも彼に肩入れしている理由があった。

 その理由が彼が所属している派閥だ。

 現在テタルトス議会は戦争継続派と停戦派真っ二つに分かれ、日夜激論を戦わせている。

 アルノルトが属しているのは停戦派。

 今は外に目を向けるべきであり地球の紛争に介入して戦力を悪戯に消費すべきではないと訴え続けているのだ。

 

 「ようやく漕ぎ着けた会談だ。今回は何があっても成功させなくてはならない。前回のような結果だけは何としても阻止しなくては」

 

 「だから自ら地球へ?」

 

 「ああ。ゲオルク指令だけでは泥沼になるのは目に見えているからな」

 

 今回の会談が行われる事になった経緯。

 それはアルノルトら停戦派ともいわれる議員達の働き掛けによるものだぅた。

 この機会に停戦の合意が成されれば、停戦派が議会を抑え、戦争終結の道も開けるだろう。

 少なくともヨーロッパ戦線の状況は変わる。

 だからこそ彼らの身に危険が及ぶような事だけは避けねばならない。

 

 「レイ、何があってもアルノルト議員を守れ。それからクアドラードには注意しておけ。ゲオルクにもな」

 

 もしも地球で彼らの身に何かあれば、戦争は終わるどころか泥沼化する可能性が高くなる。

 それだけは絶対に避けねばならない。

 

 「……了解」

 

 議員たちの後に続き護衛任務に就いたレイを見送る。

 ユリウスは険しい表情のまま、補給を終えたシリウスのコックピットへ乗り込んだ。

 

 

 

 

 その場面に居合わせることになったのは偶然か必然か。

 アレンとしては偶然であると信じたい。

 険しい表情のルナマリアとアオイ、そして怯えたようにミレイアにしがみ付いているケイ。

 そんな四人に向けて銃を突き付けているのは、アレンにとっても予想外の人物だった。

 後から思えば不自然なほど人気のない公園でその姿を見た時、アレンは横にいたヴィクトリアの事も忘れ、駆け出していた。

 

 「アスラン・ザラ!」

 

 何故この場に奴が居るのか?

 

 ルナマリア達と何があったのか?

 

 そんな疑問が湧き上がるが、銃口を向けている以上はまともな事態ではあるまい。

 そう確信してアスランに向かっていく。

 

 「アスト・サガミ!」

 

 アスランもまた驚きつつも咄嗟の反応で走り寄るアレンの方へ銃口を向ける。

 

 「アスラン!」

 

 その時、アレンの後ろから銃を向けるアスランを制止するようにヴィクトリアの声が届いた。

 

 「チッ」

 

 一瞬の思考の後、銃口を下げる。

 そこに銃を奪おうとアレンが腕を掴み、アスランもまた銃を奪わせまいと抵抗しながら睨み合った。

 

 「何でお前が此処に居るんだ!? ルナマリア達に何をしていた!!」

 

 「それはこちらのセリフだ!! いつも貴様が邪魔を!」

 

 アスランは怒り任せにアレンの顔を殴りつける。

 

 「ぐっ、この!」

 

 アレンもまたアスランの顔面に拳を振るい、同時に銃を弾いて胸倉を掴み上げた。 

 

 「今回の会談といい、前回の降下作戦といい、テタルトスは何を考えて、いや、何をしようとしている!?」

 

 「何度も言わせるな! 貴様に応える義理は無いと言っている!! それに呑気にパイロットだけをやっている貴様には何を言っても分からないだろう!」 

 

 アレンの足を掛け、転ばすと馬乗りになって再び拳を振るう。

 

 「状況も弁えず、何も考えず、ただ持ちうる力を振るっているだけの貴様にはな!」  

 

 「ぐぅ、なんだと! 自分は違うとでも言いたいのか! 自分の思い込みだけで勝手に決め付けているそういう所がお前の独りよがりなんだよ!」

 

 アスランも両腕を掴み、アレンは思いっきり勢いを付け上体を起こして頭突きを喰らわせる。

 そしてすかさず体勢を入れ替えるとアスランの顔を殴りつけた。

    

 「ぐああ!」

 

 「自分の事は棚に上げて、何時も被害者面で、起こった出来事の不利益はすべて他人の所為! 反吐が出るんだよ!!」

 

 「こちらのセリフだ! 勝手に決めつけるな! 俺は自分の望んだ道を! この先の、変革した未来を求めているだけだ! それに貴様に関する事だけはその通りだろうが! 貴様の所為で何人の仲間が死んだと思ってる!!」

 

 「お互い様だろう!」

 

 何度も体勢を入れ替えながら殴り合う二人。 

 

 「……ハァ、やれやれ。男というのは仕方がないですね」

 

 そろそろ止めに入ろうとしたヴィクトリアの耳に、聞き覚えのある音が響いてくる。

 

 「モビルスーツ!?」

 

 アムステルダムでのモビルスーツの運用は作業用を除いて完全に禁止されている。

 違反すれば莫大な罰金とアムステルダムでの交易の禁止などのペナルティが課せられる事になる。

 だが、降りて来たのはテタルトスで作業用として使用されている非武装のフローレスダガーであった。

 スラスターの巻き起こす風が殴り合っていたアレンとアスランの動きを止める。

 

 「いいタイミングです、クアドラード少佐」

 

 「全く人使いの荒い。ザラ中佐、ランゲルト少佐、さっさと乗れ!」 

 

 アスランはアレンに蹴りを入れて引き離しフローレスダガーに走り寄ると、何故かミレイアの方に向けて手を差し伸べた。

 

 「来い!」

 

 「ミレイア、待つんだ!」

 

 アオイの制止を振り切り、ミレイアがアスランに走り寄ると一緒にフローレスダガーの掌の上に乗った。

 

 「アスラン!」

 

 「決着は必ず付けてやる! それまでにもう少しマシな機体を用意しておけ!」

 

 スラスターからの逆風を受けながらアスランを睨むアレンにヴィクトリアが近づいてくる。

 

 「ではアスト、また」

 

 憤るアレンに軽く微笑むとヴィクトリアは素早くフローレスダガーの手に乗り笑顔で手を振る。

 

 「ッ、ヴィクトリア!」

 

 「とても楽しかったですよ」

 

 空中に逃れたフローレスダガーを追う手段などなく、アレンは黙って見ているしかなかった。   

 

 「アレン!」

 

 「ルナマリア、ミナト少尉、何があった?」

 

 「それはこっちが聞きたいんですが……ゴホン、まあいいです。実は―――」  

 

 ややジト目でこっちを睨んでくるルナマリアだったが、切りかえるように咳払いすると状況を説明してくれた。

 ルナマリアはアオイ達に付き合う形でミレイア達のアムステルダムで難民受け入れ手続きを行った後で、街を見て回っていた。

 そして少し休憩しようと街外れにある公園に足を踏み入れた所で奴に遭遇したらしい。

 しかも銃で武装していた所をだ。

 そこで拘束されかけた所にアレンが現れたという事のようだ。 

  

 「なるほど、やっぱり何かをしていたって事か」

 

 「ええ、誰かを探していたみたいでしたけど、詳細は分かりません」

 

 「ミレイアの事は?」

 

 「尋問された時、テタルトスの人だって聞いてやたらミレイアが食いついたんですよ。SEED思想の事とか聞きたいって」

 

 アオイが辛そうに俯く。確かに食堂で話をした時もやたら興味をもっていたように見えた。

 

 だからといって―――

 

 「まさか自らテタルトスに行くとは誰が思う。弟を置いてまで……」

 

 ケイは何が起こったのか分かっていないようで、アオイの手を握りながら首を傾げている。

 

 「とにかく一度―――」  

 

 戻ろうと声を掛けようとした時、ポケットに仕舞っていた携帯端末から音が鳴る。

 訝しみながら端末を耳に当てると、聞きなれない声が聞こえてきた。

 

 《やあ、お前がアスト・サガミか?》

 

 「誰だ?」

 

 《お前が『カウンター』だと知っている者だよ》

 

 その言葉にアレンは端末を持つ手に強く力を込めながら、相手の声に耳を傾けた。

 

 

 

 

 フローレスダガーがカルキディウスの格納庫に到着するとアスランはミレイアの手を取った。

 

 「降りるときには気をつけた方がいい」

 

 「ありがとうございます」

 

 無事ミレイアは地面に足を付けると、物珍しいのか周囲を見渡す。 

 

 「それでさっきは話の途中だったが聞いてもいいかな、ミレイア・ロスハイム。何故、俺達に着いてきた?」

 

 「興味があったので。テタルトスやSEED思想に。いつか月にも行きたいと思っていたんです」

 

 「それで彼らを裏切ったのか? 弟の事も放り出して」

 

 アスランが咎めるように問うとミレイアは心外そうに反論してくる。

 

 「恩はありますけど、私は別に彼らの仲間になったつもりは無いです。それに弟にも……会って二か月も経ってないので、情とかありませんから」

 

 「どういう事だ?」

 

 「あの子は……父が愛人に産ませていた子で。戦争が始まってあの子の母親が死んだから、面倒見ろって押しつけられて。……あの子が悪いって訳じゃないけど、そんな、無理です」   

  

 「君の親は?」

 

 「母はとっくに出て行って……父は、どこかで愛人でも作ってるんじゃないですか?」

 

 ミレイアは父親に対しての軽蔑の感情を隠す事無く吐き捨てる。

 なるほど、つまり彼女にとって弟は軽蔑している父親を思い出す象徴という事なのだろう。

 理解はできるが、何も知らない弟を放り出す事に共感はできなかった。

 しかしそれを迂闊に口に出す事は無い。

 彼女を上手くこちら側に取り込めば、アスト達の情報も得られるからだ。

 そんな打算を隠し、出来るだけ好意的に聞こえるように話を続ける。 

 

 「事情は分かった。君の身の安全は保障する。だが君が乗り込むのは軍艦だ。ついてくるつもりならしばらく大人しくしている方が良い。それから聞きたい事もある」

 

 「はい」

 

 「お話はもう終わったようですね。特務の方はどうでしたか、ザラ中佐?」

 

 話しかけてきたヴァルターはいつも通りの笑顔で問いかけてくる。

 しかしアスランにはその質問に答える前に聞きたい事があった。

 

 「……ランゲルト少佐、何故奴と一緒に居たんですか?」

 

 「偶然、街中で出会っただけですよ。そちらの作業終了の連絡が来た後でね。まあまだ周辺の探索を行うと聞いていましたから、余計な事をさせないように監視していたつもりだったんですけど、失敗でしたね」

 

 楽しそうに笑うヴァルターの横顔が一瞬、彼女の笑顔にダブって見える。

 それがアスランの胸中に僅かな苛立ちを覚えさせた。 

 

 「……貴方は奴をどう思っているんです?」

 

 「気になりますか?」

 

 「……質問を変えます。貴方は奴を―――討てますか?」

 

 「もちろん」

 

 躊躇いなき頷くヴァルターに意外な思いを抱きつつ、その眼をジッと見つめる。

 

 「分かりました。後でその件に関しても話を聞かせてもらえますか?」

 

 「了解しました」

 

 ミレイアを伴い歩き出したアスランはこれからの行動指針を決める為、未だ情報収集を行っているC班へ連絡を取る事にした。   

 

 

 

 アレンとルナマリアは街の中心部から少し外れた場所、所謂歓楽街にあるバーに訪れていた。

 

 「ホントに此処で良いんですか?」

 

 「指定された場所はな。場所が場所だ、無理についてくる必要は無いぞ」

 

 「一人にしたら、また別の女をナンパしそうですからね」

 

 「だから、アレはたまたまというか。色々事情があってだな」

 

 言い訳しながらバーの扉を潜ると店の中は小奇麗で上流階級の人間と思われる客がゴロゴロいた。

 

 「ここってかなり高級なんじゃ」

 

 「みたいだな」

 

 高級感漂う店に臆したように入り口で立ち止まっているアレン達を見つけた店員が笑顔でこちらに近づいてくる。

 

 「お客様、お席の方へどうぞ」

 

 「いや、俺達は待ち合わせというか、呼び出されたというか」   

 

 「お名前を窺ってもよろしいでしょうか?」

 

 「……アスト・サガミだ」

 

 名前を聞くと「こちらへどうぞ」と店の一番奥にある席へと案内される。そこで待っていたのは、明らかに場違いな男だった。

 

 「よく来たなぁ、カウンターくん」

 

 来ている服は折れ目がつき、髪はボサボサ。

 口元の無精髭は整えられた様子もない。

 何とも冴えない男がソファーでグラス片手に酒を煽っている。

 

 「ほらほら座れよ。時間が勿体ない」

 

 警戒しながらソファーに腰掛けると、単刀直入に聞く。

 

 「貴方は誰だ? 何故、俺の事を」

  

 「つまらん質問だなぁ。まあいいか。私の名前はヴェクト・グロンルンド、ただの研究者だよ」

 

 研究者で、『カウンターコーディネイター』の事を知っているとなれば―――

 

 「メンデルの関係者か」

 

 「まあそんな所だなぁ」

 

 「それで、何の用だ?」

 

 「単にカグラの作品がどの程度なのか見たかったのと、私の実験に協力してもらいたくてね」

 

 ヴェクトの作品という言葉に反応してルナマリアがピクリと反応するが、アレンが手で制す。

 

 「実験だと?」

 

 「ああ。なぁに簡単な実験だよ。大丈夫、大丈夫。大したもんじゃないからね」

 

 「……胡散くさ」

 

 ルナマリアに全力で同意だ。

 絶対碌な目に合わないような気がする。

 

 「じゃあ、実験に協力してくれたら、君らにもそれなりに対価をやろうじゃないか。たとえば情報とかね」

 

 「情報ってなんの情報なのよ」

 

 「そうだな。じゃあ地球にあるテタルトスの実験施設の情報とかは?」

 

 「テタルトスの!?」

 

 「他にも色々あるけど? そうだなぁ、今君達を追っているテタルトスの部隊の事とか」

 

 その真偽はどうあれ、話を聞く価値はあるかもしれない。

 しかしアレンの警戒度は最大にまで引き上がっていた。

 実験の事や情報の出所など気になる事は山ほどある。

 だが、それ以上にこの男の目が気に入らなかった。

 その目はかつてデュランダルと対面した時とよく似ている。      

 まるでこちらを実験動物か何かと思っているような、そんな無機質な目だ。

 こいつはきっと命なんて何とも思っていない。

 必要なら子供ですら、容易く弄ぶに違いなかった。

 

 「……断ったら?」

 

 「分かってる癖に人が悪いねぇ、カウンターくん。……君以外にもカウンターはいるでしょ、そっちに協力してもらうだけさ」

 

 該当者は二人だけ。

 だが一人はこんな男に好きにできる程、容易い奴ではない。

 となると―――

 

 「ティアに手を出す気か」

 

 「さあね」

 

 アレンは奥歯をギリッと食いしばる。

 手を出さなかった事を褒めてやりたかったくらいだ。

 できれば今すぐこいつを始末したい。

 しかし、先のアスランとの遭遇とは違い、この場所で騒ぎを起こすのは不味い。

 それにこいつが握っている情報は確認しておく必要がある。

 

 「それで実験というのは?」 

 

 「さっきも言ったけど大したことじゃないよ。そっちのお嬢さんにもできれば協力してもらえると助かるけどねぇ」

 

 「私も?」

 

 「おい、ルナマリアは関係ないだろう!」

 

 「まあまあ、とりあえず話を聞いてからでもいいだろう?」

 

 ニヤニヤとこちらを小馬鹿にしたような笑みを浮かべるヴェクトにさらなる苛立ちが募る。   

 

 「協力してもらいたい実験はね――――」

 

 ヴェクトの語った実験内容にアレンは冷たい視線を向けたまま、動かない。

 

 「どうかな?」

 

 「……なるほど、概要は理解した。だが本当に協力するかどうかは、そちらの対価を示してもらってからだ。それ次第ではルナマリアを巻き込むもの以外なら協力してもいい」

 

 「まあそれも当然だよね。実験もそのお嬢さんじゃないといけないって訳でもないし、そっちの返事は話の後でいいよ。じゃあ対価としてまずは―――これかな」

 

 差し出された端末にはアムステルダム周辺で待機している追撃部隊の規模が示されていた。

 ベースに駐留している部隊を除き、現在アムステルダム近郊で待機しているのはテタルトスの新型艦カルキディウスとクレオメデスのみ。

 突破しようと思えば出来なくはない。

 

 「彼らの狙いの一つは私でね。君達をこんな場所に呼んだのも、彼らの目を誤魔化す為なんだよ」

 

 「アスラン達がこんな場所にいたのはお前を捕える為か」

 

 「私が他の陣営に肩入れする前に始末するか、捕縛しようって事だろうね。後は私の研究データの回収とかかな。昔助けた被検―――おっと患者か、教えてくれなきゃこうして上手い酒も飲め無かったよ。いやぁ、人助けはしとくもんだねぇ」

 

 「……いちいち胡散臭いわね」  

   

 同感だ。

 どうせ碌な話じゃないんだろう。

 助けたというのもどこまで本当の事なのやら。

 

 「ははは、どうせなら君達に囮になってもらえれば、その間に私も逃げられるんだけどねぇ」

 

 あくまでも軽薄に、しかし冷たい無機質な目をしたまま笑うヴェクト。

 それを全く笑う事も出来ず、アレンはただこの男を睨みつける事しかできなかった。

 

 

 いくつかの話を終え、店を出ると外はすでに日が暮れ夜の闇に包まれていた。

 アレンとルナマリアはドッと疲れが押し寄せてきたような気がして深々とため息をついた。

 

 「たく何なのアイツ! アレン、まさかあんな奴の言う事を聞くつもりじゃないですよね? 絶対信用できませんよ、アレ」

 

 「俺だって鵜呑みにするつもりはないさ。しかし放置もできない」

 

 あの男が語った情報の出所も気になるがそれ以上に気になるのが行おうとしている実験とやらの規模だ。

 詳しくは語らなかったが、どう考えても一個人で賄えるようなものではない。

 最新の機材を揃えるだけでも相当な額が必要だ。

 つまり後ろには相応のバックが存在している事になる。

 

 「考えるのは後だな。とにかく一度戻るぞ。アムステルダムから離脱する準備だ」

 

 「ハァ、結局そうなるんですね」

 

 先程も言ったがヴェクトの言う事を鵜呑みにするつもりは無い。

 しかしアスラン達が本当に特務を受けたテタルトスの部隊だというなら、不味い。

 これ以上アムステルダムに留まっていると包囲されてしまう可能性もある。

 

 「そうなったら少なくとも例の会談の間、アムステルダムから動けなくなる。……何が起こったとしてもな」

 

 「そうですね。今、外に二隻しかいない。なら突破さえできれば、逃げ切れる」

 

 「ああ。もちろん油断はできない。何かしらの策が必要になる。間に合うといいけどな」

 

もしもそれが上手くいけば、無事に離脱できるだろう。

 もちろん相応のリスクは伴うが。

 アレンは端末のスイッチを押しアイザックに離脱準備をさせる為に連絡を入れる。

 そして周囲を警戒しながら人通りの多い場所を選びつつ、艦が駐留している場所へと走り出した。 

 

 

 

 

 

 アムステルダム戦闘禁止区域の外側でカルキディウスとクレオメデスの二隻の戦艦が落とすべき標的を今か今かと待ち受けていた。

 モビルスーツは展開を済ませ、いつでも攻撃を開始出来る。

 何を待ち受けているか、そんなものは一つのみ。

 アイザックだ。

 自分達が追ってきた獲物がもうすぐアムステルダムから出立すると情報収集を行っていたC班から連絡が入ってきたのである。

 

 《クアドラード少佐、一応成果があったとはいえ完全に任務が終了した訳ではありません。クレオメデスはあくまでも支援に徹しますので》

 

 「了解した」

 

 愛機であるH・アガスティアのコックピットでアスランからの通信を切ったヴィルフリートは鼻を鳴らして意気込んだ。

 

 「ふん、望む所だ。貴様の手など借りるものか! これまでの汚名を今度こそ返上させてもらう!」

 

 その為に此処まで来た。

 

 その為に訓練を積んできたのだ。

 

 今度こそ不覚は取らない。   

 

 気合いの入れ操縦桿を握るヴィルフリートの視界に覚えのある形状の戦艦が見えた。

 

 あれこそ待ちわびた標的、アイザックに間違いない。

 

 「来たな、カメモドキめ! 全軍、攻撃開始! 落とすぞ!」

 

 「「「了解!!」」」

 

 アイザックが戦闘禁止区域から離脱した瞬間を狙い、左右に展開していたカルキディウス、クレオメデスからミサイルが発射される。

 ミサイルの嵐が次々とアイザックへと着弾した。

 

 「よし、このまま押し込む!」

 

 絶え間なく発射され続けるミサイルを先に甲板へ出撃していたイレイズ、イリアス、エクリプスとインパルスが迎撃する。

 だが数の差はどうにもならない。

 幾つかのミサイルがアイザックの至近距離で爆発し、その進路を鈍らせた。

 その隙をついてフローレスダガー部隊が接近、ビームライフルを撃ち掛けた。

 

 「第二部隊は背後に回り込め!」

 

 「ハッ!」 

 

 事前に待機していたジンⅡの部隊がウイングコンバットの推力を持って一気に背後へ回り込む。

 四方を囲まれたアイザックにもはや逃げ場はない。

 ただ撃沈されていくのを待つのみだ。

 

 しかし、そこで全くの別方向。

 

 アイザックを囲む形で攻撃を仕掛けていたカルキディウスとクレオメデスの反対側から襲撃を受ける。

 攻撃を仕掛けてきたのはアイザック所属と思われる数機のウィンダムだった。

 

 「やっぱりそう来たかよ!」

 

 敵の予測通りの動きにヴィルフリートは思わず喝采したいほどに哄笑する。

 アイザックとて自分達が待ち受けていた事は承知済みだった。

 ならば取るべき手段は限られてくる。

 数で劣る以上、正面突破は愚策。

 奇襲をもって当たる他ない。 

 

 「だが、所詮多勢に無勢だ! ランゲルト少佐!」

 

 「了解」

 

 その作戦をヴィルフリートは読んでいた。

 戦力を伏せていたのはこちらも同じ事。

 ヴァルターのシリウス・ラファーガと共に側面に伏せさせていたバーストコンバット装備のフローレスダガーが仕掛けてきたウィンダムに攻撃を開始する。

 発射されたビーム砲、ミサイルが戦艦に取りつこうとしている敵機を薙ぎ払う。

 

 「これで終わりだ!」

 

 ヴィルフリートは勝利を確信し、アイザックに止めを刺すべく突撃する。

 

 「流石だな、ヴィルフリート少佐は」

 

 クレオメデスのブリッジで観戦を決め込んでいたアスランは作戦立案から実行まできっちり行ったヴィルフリートの手腕を素直に称賛する。

 

 「決まりですか」

 

 「本気で言っているのか?」

 

 「は?」

 

 「この程度の劣勢で落とせるならば、『ヤキン・ドゥーエ戦役』でとっくに決着はついているさ」

 

 このアスランの呟きを正しく理解出来る者がこの戦場に何人いるだろうか?

 もはや勝敗は決したとクレオメデスの副官だけではなく、少なくともヴィルフリートを含めた大半がそう確信していた。

 

 

 しかし、それが甘かった事を次の瞬間、誰もが思い知る事になる。

 

 

 「ん、これは……」

 

 「どうした?」

 

 「レーダーに反応!? 上空から何か来ます!!」

 

 オペレーターの叫び声にアスランはやはりという思いを抱くと同時に即座に判断を下した。

 

 「クレオメデス、後退だ! モビルスーツも下げろ! 全機に通達!」

 

 「えっ?」

 

 「急げ!」

 

 アスランの命令により後退するクレオメデス。

 それを尻目にアイザックに突撃するヴィルフリートの部隊は降りてくるソレに気づかない。

 上空から発射されたビームの砲撃がアイザックに迫っていた部隊を撃破すると、凄まじい加速で下降してきたソレが刃を振り下ろしてきた。

 

 「何!?」

 

 鮮やかにフローレスダガーを袈裟懸けに切り裂き、H・アガスティアの前に一機のモビルスーツが現れた。

 

 背中には赤い翼。

 

 構えるは身の丈にも迫る大剣。

 

 「あれは!?」

 

 振り返りツインアイに光を灯す。

 アイザックを守るように降り立ったのはデスティニーリファイン。

 予想外の援軍に動きを止めたテタルトス軍を尻目に、デスティニーは動き出した。 

 

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