機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第15話 再会

 

 

 

 アイザックがアムステルダム近郊で戦闘に入る少し前に時間は遡る。

 スカンジナビアが所有するマスドライバー『ユグドラシル』

 ここは軍事基地であるストゥール基地と隣接し、常に賑わいを見せている施設だった。

 現在この施設ではモビルスーツ、デスティニーリファインの発進準備が進められていた。

 マスドライバーに設置されたデスティニーリファインは外部装甲を身にまとい、腰から下には大型のブースターが取り付けられている。

 

 「各部正常、予備バッテリー接続、アドヴァンスアーマー、外部スラスター、排熱システム、ブースターユニット、すべて異常なし」

 

 コックピットで機体の調整を行っていたシンの元に管制官からの通信が入ってくる。

 

 ≪アスカ中尉、機体の準備はどうか?≫

 

 「最終チェック完了」

 

 ≪了解。発進許可が下りるまで待機してください≫

 

 「了解」

 

 準備を整えたシンはシートにもたれかかると、盛大な溜息をついた。

 ここまでの急な行程変更で疲れていたというのもある。

 本来であればオスロでミネルバと合流し、アムステルダムへ向かう予定だった。

 だが、アレンからの緊急連絡によって予定を変更する事になってしまった。

 しかしシンが本当に溜息をつきたい理由はその件ではない。

 デスティニーリファインの次にマスドライバーから射出される機体とパイロットこそ、シンが溜息をつきたい最大の理由だった。

 

 STAーS6 『ランドグリーズ』

 

 これまでの量産機や試作されたSOA-Xシリーズのデータを基に開発されたスカンジナビアの次世代新型量産機である。

 ブリュンヒルデを含めた今までの量産機のデータを基に開発され、タクティカルシステムを使用せずとも宇宙戦、空中戦、地上戦、さらに軽い調整で水中戦までこなせる万能機となっている。

 

 「なあ、やっぱりセリスはここで待ってた方がいい」

 

 「私は大丈夫だよ。先生からも許可は取ったし」

 

 ランドグリーズのコックピットにいたのはパイロットスーツを着込んだセリスだった。

 リハビリを終え、今回の戦闘からセリスは正式にパイロットに復帰する事になっていたのだ。

 

 「でもな」

 

 「もう結論は出たでしょ」

 

 実はこの話、ここに来るまでに何度も行っている。

 シンの心情としてはセリスには二度と戦場に出てほしくはなかった。

 しかしセリスは一緒に戦うと主張して譲らなかったのだ。

 何度も何度も話し合い、結局シンが折れる形でセリスのパイロット復帰を認めることになってしまった。

 

 「アレンやルナたちが危ないんだし、ミネルバも先行したんだから、時間もない。シン、私を信じて」

 

 「……解ったよ。セリス、無理はするなよ」

 

 「それ私のセリフなんだけどね。絶対無茶しちゃ駄目だよ」

 

 ≪アスカ中尉、ブラッスール中尉、許可が下りた。準備はいいか?≫

 

 「大丈夫です」

 

 「こっちもです」

 

 準備が整ったデスティニーリファインが固定され、シンは操縦桿を強く握る。

 

 ≪進路クリア、発進どうぞ!≫

 

 「シン・アスカ、デスティニー、行きます!!」

 

 デスティニーリファインに接続されたブースターユニットが点火。

 マスドライバーのレールを伝って空へと飛びだすと一気に天上へと登っていく。

 そして幾ばくか遅れデスティニーを追うようにランドグリーズが射出された。

 

 「ぐっ」

 

 「くぅう」 

 

 身体に掛かるGに耐えつつ揺れるコックピットの中で操縦桿を握りしめ、機体の挙動を確認していると急に体が軽くなった。

 

 「大気圏を抜けた。セリスは……付いてきてるな」

 

 レーダーで現在位置を確認すると二機はきちんと予定通りのコースを辿っていた。

 

 「よし。脚部ブースターユニット、切り離し。突入角度計算、アドヴァンスアーマー排熱システム起動、姿勢制御、セリス!」

 

 「こっちのアドヴァンスアーマーも異常なし。大丈夫!」

 

 ブースターを切り離し、予定ポイントへたどり着いた二機は再び大気圏へ突入する。

 機体の姿勢制御を行いながら振動が続く灼熱の空間を駆け抜ける。

 

 「このまま!」

 

 大気圏を抜け蒼い空と大地が視界に広がる。

 シンはすかざす計器を操作し、現在位置の確認に入った。

 

 「予定ポイントより、若干のズレがある。セリス、少し移動を」

 

 「シン、レーダーに反応。これは……戦闘、アレンたちがいる戦艦の反応がある!?」

 

 「もう始まってるか。俺が先行する、セリスは援護を頼む!」

 

 「ちょっ、シン!?」

 

 セリスの返事を待つ事無くシンはデスティニーを戦場へ向けて加速させる。

 「外部スラスターパージ! 予備バッテリー作動! いくぞ!!」

 

 余分な装備は外し、光の翼を展開する。

 そしてアロンダイトを背中から抜き放つと最大戦速で戦場へ飛び込んでいく。

 

 「全く、出撃前に無茶するなってあれほど言ったのに! 後でお説教だね!」

 

 体勢を立て直しつつセリスが後方から放ったビームランチャーがアイザックに迫る敵部隊に直撃。

 ビーム砲の一撃に晒された敵部隊がフォーメーションを崩す。

 シンはそこに割り込むと容赦なくアロンダイトを振り下ろした。

 

 「やらせるかァァァ!!!」

 

 振り下ろした対艦刀がフローレスダガーをバターのようにたやすく両断する。

 そしてアイザックへ攻撃を仕掛けていた部隊を率いる隊長機に向き合った。

 

 「こちら同盟軍所属シン・アスカ中尉! アイザック、聞こえているか!」

 

 「シン!? 何とか間に合ったか」

 

 甲板に立つエクリプスと通信が繋がり、シンの見ているモニターにアレンの顔が映し出された。

 

 「アレン、無事ですか? 全く急な作戦変更で焦りましたよ!」

 

 今回の件。

 これは敵に囲まれる可能性を危惧したアレンがマスドライバーを用いた降下作戦に切り替えるように打診したのだ。

 

「悪かったな。こっちも時間がなかったんだ」

 

「それはわかりますけどね。とにかく話は後で! セリスもすぐに来ますから!」

 

 突然の乱入者にたじろいでいたフローレスダガーも正気を取り戻したのか、ビームライフルで攻撃を加えてくる。

 だがその攻撃にひるむことなく翼を広げ、デスティニーは敵陣へと斬りこんでゆく。

 

 「そんなものに当たるか!」

 

 機体を時に翻し、時に旋回させながら数多のビームを回避する。

 

 「遅い!」

 

 すれ違い様に大剣を一閃する。

 アロンダイトの強烈な一撃を捌くこともできず、フローレスダガーは成す術なく切り裂かれ、空中で爆散した。

 

 「まだまだ!」

 

 高速で動き回るデスティニーが斬撃を繰り出す度にフローレスダガーが次々撃墜されていく。

 

 「チッ、増援か! しかしたかが一機、増えたところで!!」

 

 あと一歩でアイザックを落とす事が出来た筈だと憤るヴィルフリート。

 二刀のビームサーベルでデスティニーリファインに突撃した。

 その斬撃を盾で受け止めたシンは握る操縦桿に力を込めて睨み返した。

 

 「アンタが隊長機か!!」

 

 「邪魔だ! そこをどけェェ!!」

 

 「誰が退くかよ!!」

 

 弾け飛ぶと同時に再び激突、すれ違い様に火花が散る。

 

 「隊長機だけはある! けど!!」

 

 シンは今の攻防でヴィルフリートの技量を見抜いた。

 確かに優れた技量を持ち合わせている。

 射撃も正確で、機体制御も上手い。

 でも、それだけだ。

 このパイロットには何かが足りない。

 それが何かまでは知ったことじゃないが、今のこいつは恐るるに足りない。

 

 「このまま押し切る!!」 

 

 デスティニーの赤い翼から発せられる光から生み出された光学残像。

 ヴィルフリートを幻惑しながら間合いを詰める。

 

 「速い!?」

 

 「はあああ!!」

 

 予想外のスピードに虚を突かれる形でヴィルフリートは反応が鈍った。

 その隙を見逃さず、さらに速度を上げるデスティニー。

 一瞬、二機がすれ違う。

 デスティニーがアロンダイトを振り抜いた瞬間、H・アガスティアの右腕が宙を舞っていた。

 

 「なっ!?」

 

 「おおおお!」

 

 「くっ!」

 

 残像を伴う立て続けの連撃にたまらず後退するH・アガスティア。

 だが、逃がさないとばかりに放たれたデスティニーの斬撃が今度は左足を斬り飛ばした。

 

 「ぐぅ!」

 

 「落ち―――ッ!?」

 

 さらにH・アガスティアに畳みかけようとしたシンだったが、それを阻むようにビーム砲の一射が割り込んできた。

 しかもその精度は他の機体の比ではない。

 先読みしたかのような正確な一撃がデスティニーを穿たんと狙い撃ってくる。

 巧みな射撃に動きを止められ、H・アガスティアから引き離されてしまう。

 

 「何だ!? 他とはレベルが違う!!」

 

 シンはこの射撃を行っている厄介な敵の方へ視線を向ける。

 そこには長い砲身を持つライフルの銃口を寸分違わずデスティニーに向けるヴァルターのシリウス・ラファーガの姿があった。

 

 「あいつか!」

 

 「アレを避けるとは大した反応です。しかしいつまで避けきれますかね」

 

 「こいつ!?」

 

 デスティニーの装甲を掠めていくビームの閃光。

 そのたびにシンの背中に冷や汗が滴る。

 

 「近づけない!?」

 

 シンもビームライフルを構え、シリウス・ラファーガを狙う。

 しかしその時にはシリウスはポジションを変え、別方向からの狙撃に切り替えていた。

 

 「くそ!」    

 

 先ほどのH・アガスティアと比べても遥かに手強い敵だ。

 デスティニーリファインとの相性の悪さもある。

 デスティニーリファインには長距離射程の武装は存在しない。

 オリジナルデスティニーには高エネルギー長射程ビーム砲が装備されていたが、リファインでは動力の問題からオミットされていた。

 さらに言うのであれば技術の差がある。

 非常に認めたくない話なのだが、長距離からの狙撃に関しては相手はシンよりも一枚も二枚も上手であった。

 

 「くっ、接近さえできれば!」

 

 「それをさせないのが腕というものですよ」 

 

 「シン!」

 

 シリウスのビームからデスティニーを守るように盾を掲げたセリスのランドグリーズが割り込んでくる。

 

 「大丈夫?」

 

 「セリス、助かった」

 

 「アレの相手は私がするから、シンはアイザックの援護に回って!」

 

 「けど、アイツ只者じゃない。セリスは危ないから」

 

 「シンこそ、危ないでしょ。それからさっきの突撃も! 無茶しないって約束したでしょ!」

 

 「うっ、い、今はそれどころじゃないだろ」

 

 「また誤魔化して!」

 

 その会話を聞いていたのか、若干イラついたような表情を浮かべたルナマリアが割り込んでくる。

 

 「アンタ達、今は戦闘中だっての! いちゃつくなら後にしなさいよ!! たく、何年たってもアンタ達は!」

 

 「ルナ! 元気だった!!」

 

 「状況考えて、状況! そんな挨拶は後にしなさいよ! 援護!」

 

 「「了解!」」

 

 シンが攻撃してくる部隊をズタズタにしたため、アイザックに対する攻撃は少し緩んでいる。

 流れを変えるにはここが踏ん張り所だ。

 

 「俺が前に出る! セリスはアイツの相手をしてくれ!」

 

 「ええ!」

 

 シリウスの相手をセリスに任せ、シンはアロンダイトを片手に再び敵陣へと突っ込んでいった。

 

 

 

 

 戦場から少し後方へ下がり、援護に徹していたクレオメデスのブリッジでアスランは僅かに眉を顰める。

 

 「……デスティニーと同盟の新型か」

 

 デスティニーについては前大戦で交戦した経験がある。

 パイロットを含め厄介な機体だった。

 傍で援護を行っている同盟の新型についても高い性能を持っているるようだ。

 だが、データの収集ができるこの状況は好都合ともいえる。

 特務は一応片付いているし、今回の作戦も特務に付き合わせた形となったヴィルフリート達の顔を立てる為のもので無理する必要は全くない。

 

 「さて、どうするか……」

 

 「中佐、ご命令通り後方へ哨戒機を向かわせたのですが、予測された通り近づいてくる艦影を発見したと報告が上がってきました」

 

 「何が来る?」

 

 「……ミネルバです」

 

 「やはり伏兵」

 

 そもそも寡兵であるアイザックがアムステルダムから出てきた時点で何かあるとは考えていた。

 戦力差は歴然で、しかも待ち伏せまでされている。

 それを突破しようというのだ。

 何もないと考える方がどうかしている。

 

 「……このままでは逆に挟撃される。戦略家としても侮れない訳か」

 

 「中佐?」

 

 「いや、哨戒に向かった部隊にミネルバを足止めさせろ。だだし無理する必要はない。時間を稼ぐだけでいい。それから……ガーネットの用意とラディスを出撃させろ」

 

 「よろしいのですか?」

 

 「強化兵の戦闘データ収集も任務の内だ。正し命令には従えと伝えておけ」

 

 「了解」 

 

 アスランはその場を艦長に任せ、格納庫の方へと向かう。

 そこではある種、懐かしさを覚える機体が待ちうけていた。

 

 「ガーネットか。レグルスが使えないから地上用として持ってきたが、使う事になるとは思わなかったな」

 

 LFSA-X001 『ガーネット』

 

 ユニウス戦役でアスランが搭乗していたモビルスーツ。

 当然ユニウス戦役時に比べても強化されており、性能も信頼に足る機体だった。

 

 「中佐、ガーネットの整備は完了しています」

 

 「ありがとう。アクティヴの方は?」

 

 「はい。すでにグエラ少尉に合わせた調整も終わっていますから、何時でも出撃可能ですよ」

 

 「了解。ラディス、聞こえているな。デスティニーの相手は俺がする。お前はクアドラード少佐を回収しろ」

 

 「俺が? しかし、俺はエクリプスの方に」

 

 「命令だ。深追いはするな」

 

 「チッ、了解」

 

 ラディスの返答を聞きながら機体を立ち上げるとジンⅡ・アクティヴと共に戦場へと踏み出した。

 

 「……後はいかに損害を抑えるか、だな」

 

 アスランは未だ攻防を繰り返す戦場を見ながら、誰にも聞こえない小さな声でポツリと呟いた。

 

 

 

 

 迫りくるミサイルを迎撃したアレンは出撃してきたジンⅡと赤い機体に目を見開いた。

 

 「あれはジンⅡの改修型に……確かアスランの、ガーネットとかいう機体だったな」

 

 宇宙で戦ったあのレグルスとかいう機体よりは戦闘経験もある分マシなのだろうが、エクリプス自体が万全とは言い難い状態のままだ。

 予定外にアムステルダムからの離脱を強いられ、修復作業は中途半端な状態であった。

 

 「この状況で出てくる! ミネルバに気が付いたか!」 

 

 アレンの策は二つ。

 アイザックを囮にして上空から降りてくるシン達による奇襲を行う事。 そしてもう一つがミネルバだ。

 オスロから発進したミネルバがカルキディウスとクレオメデスの背後を突き、混乱した隙に離脱を図る予定だった。

 アスランが直接出てきたという事はミネルバが駆けつけてくる前に蹴りを付けるつもりなのかもしれない。

 

 「シン、気をつけろ!」

 

 「ッ、新型!?」

 

 腕から発生させたビームサーベルでデスティニーに切りかかるガーネット。

 斬撃をギリギリのタイミングで潜り抜けたシンは回り込みながらアロンダイトを叩きつける。

 ガーネットのシールドが対艦刀を止め、さらに叩きつけられたビームサーベルをデスティニーの盾が防ぐと互いの眼前を稲光が照らし上げた。

 

 「それ以上、好きにはさせない、デスティニー」

 

 「このォォ!!」

 

 シンが力任せに弾き飛ばそうとするが、ガーネットがそれをさせない。 シールドに角度を付け、刃を滑らせる事で対艦刀を受け流したのだ。

 

 「こいつ!?」

 

 たたらを踏むデスティニーに脚部ビームサーベルの追撃が襲い掛かる。 

 

 「この程度!」

 

 機体を僅かに後退させ、斬撃を回避したシンは反撃に移ろうと再びアロンダイトを構える。

 しかしガーネットの攻勢はまだ終わらず、上下左右から次々と斬撃が飛んできた。

 

 「どんだけ器用なんだよ、アンタは!!」

 

 「その大剣を手足のように扱う君ほどじゃない! ラディス!!」

 

 「了解」

 

 デスティニーをかわしたジンⅡ・アクティヴが損傷しながらもまだアイザックに対する攻撃を加えようとしているH・アガスティアを抱え上げる。

 

 「な、何を! 放せ、グエラ少尉!」

 

 「そうしたいのはやまやまですが、命令ですので」

 

 暴れるヴィルフリートをラディスはクレオメデスの方へ無理やりに引っ張っていく。 

 

 「撤退するつもりなのか?」

 

 「アレン。今がチャンスですよ」

 

 アイザックに対する攻撃の要を担っていたのはあの損傷したH・アガスティアだった。

 それがどんな形であれ後退し、艦に対する直接攻撃の勢いも緩んだとなれば、確かに絶好の機会。

 

 「……アスランに乗せられたような気がして癪だが、四の五の言ってられないか。アイザック、離脱準備! ミナト少尉、シンとセリスの援護を! フォルケンマイヤー少尉は予定通りに頼む!」

 

 「「了解!」」  

 

 アイザックが動くと同時にイレイズとイリアスも予定通りの行動に出た。

 

 「逃がして堪るものか!」

 

 「お、おい!」

 

 アイザックの狙いに気が付いたのか、後退していたH・アガスティアが無理やりジンⅡ・アクティヴを振り払い、イレイズの方へと向かっていく。

 

 「ミナト少尉!?」

 

 「こっちは大丈夫だ! そっちは自分の役目を果たせよ!」

 

 「言われるまでもない!」

 

 H・アガスティアは片手、片足を失いそれでもサーベル片手に斬り込んでくる。

 

 「ガンダム!」

 

 迎え撃つイレイズMk-Ⅱは構えたシールドでサーベルを受け止めた。

 

 「退けよ! そんな状態で向かってくるなんて!」

 

 「黙れ! 俺に、俺には撤退という選択肢は無い! 貴様らをこの手で討ち果たすまでは!」   

 

 「無駄死にしたいのか!」

 

 「黙れと言った筈だ! 敵に情けを掛けられる覚えなどない!!」

 

 力任せにビームサーベルを押し込んでくるH・アガスティア。

 しかし損傷の影響か。

 パイロットであるヴィルフリートの焦りか。

 あまりに攻撃が荒い。

 これならいくらでも捌くことができる。

 アオイは一瞬だけ歯を食いしばり、そして反撃に転じた。 

 

 「なら、俺も容赦しない!」

 

 H・アガスティアのサーベルをすくい上げるように上方へ弾き飛ばす。

 

 「ッ!?」

 

 「ハアアア!!」

 

 同時にシールドを捨てたイレイズは腰のビームサーベルを抜き打ちで斬り払う。

 居合いのように放たれた斬撃がH・アガスティアの残った腕を切り落とし、さらにもう片方の手で抜いたサーベルで突きを放つ。

 

 「くそ!」

 

 コックピットを狙った一撃はヴィルフリートの直前の回避運動でかわされてしまう。

 しかしそれでもサーベルはH・アガスティアの左胸部へ深々と突き刺さった。

 

 「ぐあああ!」

 

 「あのタイミングで避けたのは流石か! でも!」

 

 「やらせるか!」

 

 割り込んできたのはジンⅡ・アクティヴ。

 複合型ビームライフルから伸びるロングビームサーベルをアオイは咄嗟にせり出したブルートガングで受け止めた。

 

 「Mk-Ⅱかよ!」

 

 「くっ、このパワー!? 新型か!」

 

 「いくら伝説の機体だろうと、もはや旧型! そんなのでこのアクティヴの相手ができるとでも思ってるのか!」

 

 ジンⅡ・アクティヴのビームサーベルがブルートガングを力任せに押し返してくる。  

 

 「旧型だからって、俺の愛機を舐めるなよ! モビルスーツの性能だけで勝てると思うな!」

 

 パワー勝負ではジリ貧になるだけだと判断したアオイは咄嗟に剣を引く。

 ジンⅡ・アクティヴの斬撃を受け流し、バルカン砲でけん制しながら一旦距離を取った。

 

 「接近戦で勝てないなら距離を取ったら勝てるとでも!」

 

 ジンⅡ・アクティヴが構えるのは肩に設置された高出力ビームキャノン。

 直撃を受ければ、モビルスーツだろうと戦艦だろうとひとたまりもないだろう。

 しかしアオイはあえて正面から突撃する。

 

 「馬鹿が! 落ちろ!」

 

 砲口から発射されるビームの光。

 それは寸分違わず一直線にイレイズ目がけて突き進んでくる。

 その正確さは強化兵の面目躍如というところか。

 

 「うおおおお!!」

 

 ビームが直撃しかけたその時、アオイのSEEDが発動する。

 紙一重のタイミング。

 装甲に閃光が掠めながらも避けたイレイズはバレルロールしながら、ジンⅡ・アクティヴとの距離を一気に詰める。

 

 「あの位置で避けただと!?」

 

 その動きはラディスにとってあまりに予想外だったのか、ビームを避けながら突撃してくるイレイズに対して一瞬だけ、反応が遅れた。

 

 「そこだァァ!」

 

 煌めく光刃の一太刀がビームランチャーの銃身に傷を負わせた。

 

 「チッ、損傷は軽微だが、これでは使い物にならない……貴様ァァ!!」

 

 激高しながらビームランチャーをパージするジンⅡ・アクティヴ。

  

 「よくも俺に傷を!!」

 

 「避けられたのは驚きだな!」

 

 アオイとしては必殺ともいえる、撃墜した筈の一撃だった。

 少なくとも戦闘不能になってもおかしくない。

 しかしジンⅡ・アクティヴは常人とはかけ離れた反応で致命傷を避けて見せたのだ。

 

 「エクリプスに借りを返す前にお前から!!」

 

 「お前の相手なんてしてられない。それより、後ろに注意した方がいいぞ」

 

 「何!?」

 

 イレイズにビームライフルを向けようとしたジンⅡ・アクティヴの背後からいつの間にか投擲されたビームブーメランが迫っていた。

 

 「ビームランチャーを避けた時か!? 小賢しい!」  

 

 ラディスはシールドのガンランチャーでビームブーメランを吹き飛ばす。

 その時アオイはすでにジンⅡ・アクティヴとの間に距離を取っていた。

 

 「逃がすと―――」

 

 イレイズを追おうとするジンⅡ・アクティヴ。

 しかしアイザックの方から発射された強力なビーム砲。

 甲板に立つイリアスの背中に装備されたランチャーストライカーの主武装超高インパルス砲アグニの一撃が道を阻んだ。

 

 「……チッ。ハァ、任務でしょ、分かってますよ、中佐」

 

 部隊を分断するアグニの砲撃を忌々し気に見つめながらジンⅡ・アクティヴは撃墜されかかったH・アガスティアを回収しクレオメデスへ踵を返す。

 それを尻目に戦場を切り裂く砲撃はアイザックを側面から攻撃する戦艦、即ちカルキディウスへ直撃する。

 エンジンのすぐそばから爆発が起き、煙を上げて船体が横へ傾いた。

   

 「良し、信号弾! アイザック、エンジン点火! 急速離脱!! ルナマリア、フォルケンマイヤー少尉、味方機の離脱を支援!」   

 

 「「了解!!」」

 

 アレンの指示で信号弾が上がると敵と交戦していた味方がアイザックへと帰還する為、動き出す。

 その中でシンとアスランだけは一進一退の攻防を続けていた。

 

 「「ハアアア!!」」

 

 すれ違い、互いに刃がシールドで阻まれ火花が散る。

 

 「くそ!」

 

 シンはアスランによって完全に足止めされていた。

 脇を抜こうとしても道を阻まれ、撃墜するにも技量の高さでそれをさせない。

 

 「どうした? その程度か!」

 

 アスランからの見え透いた挑発に思わず頭に血が昇りそうになる。

 だが、ゆっくりと息を吐き落ちつきを取り戻すと、アロンダイトを構え直した。

 冷静さを欠いて倒せる相手ではない。

 すべてを目の前に居る敵に集中する。

 動きを乱さないデスティニーにアスランは意外そうな声を出した。

 

 「……意外だな。もっと熱くなるタイプだと思ったんだが」

 

 「……アンタこそ、アレンの事になると冷静を無くす癖によく言うよな」

 

 両手、両足からビームサーベルを構えるガーネット。

 そしてデスティニーはアロンダイトを正眼に構える。

 

 互いの隙を窺い、そして同時に踏み込んだ。

 

 左からの蹴撃をシンはあえて左腕を差し出し、損傷しながら受け止めるとガーネットの右腕にアロンダイトを突き刺した。

 

 「これで!」 

 

 シンはそのまま腰から抜いたビームサーベルでコックピットを狙う。

 

 だが―――

 

 「甘い!」

 

 ガーネットに腕を掴まれながら頭突きを受けたデスティニーに右足の光刃が奔る。

 

 「ぐっ」

 

 デスティニーの胸部を袈裟懸けに傷がつき、咄嗟に繰り出した蹴りがガーネットの腹に直撃した。 

 

 「仕切り直しか」

 

 「やっぱり強い」

 

 シンは距離を取りつつ、相手と自分の状態を比較する。

 機体の損傷度はほぼ同等。

 いや、アドヴァンスアーマーを装備していた分、こちらの方が傷は浅い。

 機体性能はこちらが上のようだが、武装の消耗度では不利。

 特に近接戦闘での手数は向こうの方が有利だろう。 

 どうすべきか迷うシン。

 だがそこに予想外の援軍が現れた。 

 

 「シン!」

 

 「その声、アオイか!?」

 

 近づいてきたイレイズから聞こえてきたのは懐かしさすら感じる声だった。

   

 アオイ・ミナト。

 

 運命のように出会い、戦場で幾度も殺し合い、そして共に戦った不思議な間柄の人物。

 ある意味では戦場のシンをよく知り、そしてシンが最も理解している人物だった。

 

 「退くぞ!」

 

 「ッ、了解!!」

 

 イレイズがスカッドストライカーを切り離し、ビームマシンガンで破壊して煙幕を生みだした。

 その隙にヴァルターと相対していたランドグリーズと合流し、戦場から離脱を図る。

 アスランはあえてそれを追わず、見逃した。 

 

 「……思ったよりもやられたな」

 

 ガーネットの損傷だけでなく、味方も想像以上の損害を被っていた。

 いや、あの『消滅の魔神』相手にこの程度で済んだ事を褒めるべきなのかもしれない。

 ヤキン・ドゥーエ戦役でザフトの部隊は奴とキラの二人によって次々と壊滅させられていったのだ。

 あの戦果、今見ても背筋が凍る。

 

 「大丈夫ですか、ザラ中佐?」

 

 「ランゲルト少佐、お見事な手並みでした。流石ですね」

 

 奴らを相手に味方の損耗を抑えられたのはヴァルターのおかげだ。

 敵のエースを抑えながらも遠距離からの狙撃で味方のポジションを確保していたのである。

 

 「こちらの相手もかなり手強かったですよ。こちらの癖を知っているかのような感じでしたしね。……もしかすると彼女の関係者だったのかもしれません」

 

 「何か?」

 

 「いえ。それよりも残念でしたね、彼と決着をつけられなくて」

 

 彼というのはデスティニーのパイロットではあるまい。

 

 「……俺と奴の決着はこんな不本意な機体で行うものではありませんよ」

 

 決着をつける時は、互いに全力で。

 その時こそ全力で奴を叩きつぶすのだと内心意気込みながらアスランは去っていくアイザックの姿を見つめていた。

 

 

 離れていくアイザックの姿を見ていたのはアスランだけでは無かった。

 クレオメデスの士官室を宛がわれていたミレイアもまたその姿を冷めた目で見つめていた。

 

 「……落ちなかった」

 

 その声色には安堵よりも確かに落胆の色が濃く混じっていた。

 彼女にとってアイザックもすでに過去の存在になりつつある。

 忌まわしい過去すべてを払拭し新しい道を、変革を望む彼女にとってアイザックに対して恩よりも、煩わしさの感情の方が強くなっていた。

 

 「でも、もう会う事もないし、どうでもいいかな。それより何時月に行けるのかな? アスランさんに聞いてみようかな」

 

 今までの戦闘の事などどうでもいいと言わんばかりに、どこか楽しそうにミレイアは空の彼方に存在する理想郷の姿を思い浮かべた。

 

 

 

 

 そこは数百人が集まるには十分すぎる会場。

 閑散としながらも立派な内装としっかりとした建造物はそれなりの歴史を感じさせる。

 集まるのは地球軍の制服を身にまとう将校達と政治家と思われるスーツを着込んだ男達だった。

 全員が追い詰められたような危うさを感じられる表情を浮かべているのが特徴的である。

 重苦しい空気の中、この場を取り仕切る初老の男が重い口を開いた。  

 

 「さて、では会議を始めよう。我らユーラシアの未来の為に」

 

 




機体紹介、更新しました。
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