機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第17話 世界の分岐点

 

 

 

 アイザックとミネルバがドック入りしてすでに二日が経過していた。

 ミュンヘン会談の警護に参加する事になったアイザックは搭載機を含め、修復と補給を急ピッチで進めている。

そんなアイザックの格納庫でイレイズのコックピットに座るアオイは前回の戦闘データの検証を行っていた。

 

 「やっぱり速い」

 

 モニターに映し出されている機体はテタルトス軍の新型機ジンⅡ・アクティヴであった。

 ジンⅡ自体はユニウス戦役以前から戦線に投入されている機体だ。

 その性能は改良によって新型機にも劣らず、パイロット達から信頼も高い傑作機の一つに数えられている。

 だが、ジンⅡ・アクティヴはそれとは一線を画している。

 

 「……性能差だけで勝負は決まらないとは言ったけど、やっぱりもうイレイズじゃ限界だよな」

 

 イレイズMk-Ⅱは本当に良い機体だ。

 それはずっとこの機体に乗り続けているアオイが一番よく分かっている。

 しかしジンⅡ・アクティヴのような新型機を相手にするにはもう力不足である事も事実だった。

 しかもその新型機を操るパイロットもまた並みではないとなれば、こちらも相応の対応が必要になってくる。

 

 「この反応、明らかに普通じゃない。あの紅い機体も含めて要注意だな。俺も大尉みたいにもっと訓練を積まないと」

 

 ただでさえアオイには才能というものが欠如している。

 切り札的な存在であるSEEDも発動させている時間がごく僅かという欠点がある。

 だから自身の技量を鍛え上げておくに越したことは無いのだ。

 

 「さて続きだ。また強敵と戦う事になった場合に備えないとな」

 

 起こり得る有事に備える為にアオイはキーボードを叩き、再びデータを精査を開始する。

 そこにコックピットを覗きこむ影が手元に映り込んだ。

 

 「此処に居たのか、ミナト少尉」

 

 コックピットに上半身だけを乗り込ませてきたのはベアトリーゼだった。

 こうして外見だけ見ていると、兵士たちから人気があるというのも良く分かる。

 制服に身を包んでいても、育ちの良さは隠せず、気品が漂ってきていた。

 体つきも女性らしく、仕草や姿勢も綺麗で実に様になっている。

 

 「……何をいやらしい目でジロジロ見ているんだ、気持ち悪い」

 

 中身がこれでなければ、それこそ引く手数多だろうに。

 

 こいつほど残念美人という名が相応しい女も居ないだろう。

 

 「そんなつもりで見ていた訳じゃない。それでどうしたんだ?」

 

 「お前に客だ。多分、ケイの事だろう」

 

 ケイはアムステルダムに置いていくこともできず、現在もアイザックで面倒を見ていた。

 しかしアイザックも軍艦である以上はいつまでもケイを乗せてはおけない。

 そこでアオイも暮らしていた孤児院で引き取る事にしたのだが、そこまでケイを連れて行くための手段がなかった。

 そこでアレンに頼み込み戦災孤児保護の担当者への繋ぎをしてもらったのだ。

 

 「分かった」

 

 不機嫌そうに鼻を鳴らしながらベアトリーゼはコックピットから出ていく。

 

 「もっと愛想を良くしろよな」 

 

 確かにジロジロ見たのはこちらが悪かったが。

 

 「ハァ、ステラや大佐に会いたいなぁ」

 

 無性にステラの笑顔やネオの優しさに癒されたくなった。

 最近は殺伐とした生活が続いている所為か、たまに彼女達に会いたくなる時があった。

 ステラは病院で薬は苦いから嫌だと我儘を言っているのだろうか。

 思い出すと微笑ましい気持ちになる。

 

 「ふふ。……そう言えば大佐はきちんと食事してるかな」

 

 アオイが一番気がかりな事はネオの事だ。

 ネオは未だに続くメキシコ戦線で指揮を執り戦線を支えている。

 スウェンがいるからそう簡単に押し込まれるとは思えないが、ネオの性格からしてかなり無理をしている筈だ。

 

 「早く戻りたいけど、ヨーロッパも差し迫ってるしな。って現実逃避してる場合じゃないだろ。急ごう」

 

 アオイはキーボードを片付けると、急いで待っている人の下へ向かった。

 

 

 「全く失礼な奴だ」

 

 ベアトリーゼは不機嫌さを隠すことなく、美人が台無しなしかめっ面でストックホルム基地内を歩いていた。

 それでも人の目、特に男性の視線を引きつけてしまうのは彼女の容姿がそれだけ整っている証だろう。

 そんな彼女が不機嫌な理由は先程のアオイの視線だった。

 無論、ベアトリーゼとてアオイが本気でやらしい視線でこっちを見ていたとは思っていない。

 だが長い付き合い故に何を考えていたかくらいは察しがつく。

 あの顔は碌な事を考えていなかった顔だ。

 訓練兵時代からの付き合い故にそれくらいの事は分かる。

 

 「あれ、アンタ、確かフォルケンマイヤー少尉だっけ?」 

 

 ベアトリーゼが振り返ると金髪の女性と連れ立った黒髪と紅い瞳を持った青年が立っていた。

 

 「……アスカ中尉、ブラッスール中尉」

 

 敬礼しつつ、悟られないよう慎重に二人に視線を滑らせる。

 

 シン・アスカ、そしてセリス・ブラッスール。

 

 アオイから話を聞いて驚いた。

 このシン・アスカ中尉はかつてザフトに所属し、アオイと何度も命のやり取りを行ったという。 

 さらに驚いたのが二人は別段憎み合うでもなく、昔から気の合う友人のように気安く接している事だった。

 お互い仲間を殺し、殺され、さらには自分の命を奪われそうになった事すらあった筈。

 だからこそ仲良く話しをしているのがベアトリーゼからすれば信じ難かった。

 ベアトリーゼとて仲間をザフトに殺された事は何度もある。

 改革派がプラントや中立同盟と友好的な関係を維持しているとはいえ、その頃の事をベアトリーゼ自身がすべて消化できている訳ではなかった。

 ベアトリーゼは複雑な心境を押し込め、努めて事務的に応答する。

 

 「……どうされましたか?」

 

 「あ、いや、アオイは一緒じゃないのか?」

 

 「ああ、ミナト少尉であればケイ少年の件で担当者の方とお話されていると思います」

 

 ケイの名前を出すと二人の表情が曇った。

 二人もアオイから事情を聴いているのだろう。

 

 「フォルケンマイヤー少尉はケイ君はどうなるか聞いてる?」

  

 「詳しい話までは。ミナト少尉が昔いた孤児院で引き取るという話も出ていましたが、距離がありますので。一時的にストックホルムの施設に預ける事になるのではないかと」

 

 その話をする為にアオイはわざわざアレンに頼む込み、会談準備に忙しい中で担当者と面会している。

 

 「そっか。じゃあ、フォルケンマイヤー少尉はアオイの代わりに雑用を済ませている訳か」

 

 「は?」

 

 「だって用があったからこんな場所にいるんだろ?」

 

 「え、ええ。そうですね」

 

 ベアトリーゼは一瞬、何故この場所に来たのか思い出せなかった事に焦りながら頭に手を置く。

 少し疲れているのか、頭が痛い。

 これからまた戦いが始まるかもしれないというのに。

 体調管理はきちんとしなくてはならない。 

 

 「補給の件で手続きを行っていただけです……すいません。少し体調が悪いようですので、失礼します」

 

 「大丈夫?」

 

 「お気遣い感謝します。でも大丈夫です。ミナト少尉に伝言でもあれば伝えますが?」

 

 「また今度顔を出すと伝えてくれ」

 

 ベアトリーゼは再び敬礼すると、ズキズキと痛む頭を押さえながら足早にその場を立ち去る。

 

 「ハァ、私ももっと気を引き締めないとな」

 

 でなければお節介なアオイに何を言われるかわかったものじゃない。

 容易に想像がつくその光景に若干顔を顰めつつ、ベアトリーゼはアイザックへ向けて歩を進めた。

 

 

 

 

 アムステルダムでの任務を終えたアスランは母艦であるクレオメデスと共にバルカナバート基地へ帰還を果たしていた。

 予期せぬハプニングもあったが、無事任務を果たすことができたのは良かったと言っていい。

 心残りがあるとすれば、捕縛すべき対象を発見できなかった事だろう。

 だがそれはアムステルダムに残してきた探索班に任せておけば、何らかの報告が入ってくる筈である。

 報告も兼ねて指令室まで顔を出すとそこにはファウストではなく、ゲオルクがアスランを待っていた。

 

 「報告は以上になります」

 

 「なるほど。ザラ中佐、良くやってくれた」

 

 「ハッ、ありがとうございます。しかし捕縛対象であるヴェクト・グロンルンドの発見には至りませんでした」

 

 「それに関しては部隊も残してきているのだろう? ならば構わん。データを回収できただけでも十分だ。データの方はどうなっているか?」

 

 「そちらは現在解析中です」  

 

 アスランもすべてに目を通した訳ではないが確か『e.s.system』とか言う名前のデータ群だ。

 確かにざっと目を通した感じはモビルスーツ関連のデータのようだが、このシステムについてアスランは少し懐疑的だった。

 他のデータは念入りに消去されていたにも関わらず、このデータだけが消さずに残されていたというのは明らかに不自然である。 

 一応罠である可能性も考え独立端末にて解析をさせているのだが、それも結果待ちだ。

 

 「もしもモビルスーツの強化に使えるならば、君の機体に搭載してみてはどうかな?」

 

 「……そうですね。それも調査報告が上がってきてからという事になります」

 

 「分かった。後で詳しいレポートを提出するように」

 

 「了解しました。それで今後は?」

 

 「クアドラード大佐の指示に従って、ミュンヘン会談に備えてくれ」

 

 「ハッ!」

 

 アスランは踵を返し部屋から退出しようとした直前で足を止め振り返ると一言だけ問いを投げた。

 

 「ゲオルク司令、これで今回の戦争は終わりですか?」

 

 「不服か?」

 

 「まさか、冗談じゃありません。戦争が早期終結するに越したことはありませんよ。でも、貴方はどうなのです?」

 

 ゲオルクはアスランの問には答えず、ただ笑みを浮かべているだけだ。

 答えるつもりはないと判断したアスランはそのまま部屋を後にした。   

 

 「流石に直球で聞いても答えないか。しかしやっぱり戦争を継続させるつもりか」

 

 先ほどの発言。

 手に入れたデータが使えるならばアスランの機体を強化すればいいと言っていた。

 つまりこの先も強力な機体が必要になってくるという意味で間違いない。

 本国では最新型の開発が順調に進んでいるという話も聞こえてくるくらいだ。

 

 「……まさか、あのデータの件も知っているのか」

 

 データを回収する際、幾つかあった不自然な点。

 それもゲオルク・ヴェルンシュタインが絡んでいるのか。

 

 「幾らなんでもそれは……考えていても埒が明かないか」

 

 益体のない考えを振り払い、母艦へ戻ろうと歩き始めると途中で見知った姿が見えた。

 

 「アスラン!」

 

 「セレネか」

 

 セレネの笑顔を見た瞬間、胸中に溜まっていた色々なものがスッと軽くなった。

 キョロキョロと周りを見て誰も居ない事を確認したセレネはアスランの胸に飛び込んでくる。

 

 「コラ、勤務中だぞ」

 

 「ごめんなさい。でも久しぶりだから」

 

 アスランは苦笑しながらセレネの頭を愛おしそうに撫でると、久しぶりの会話を楽しみながら母艦へと歩き出した。  

 

 

 

 

 ラディス・グエラは自分が注文したコーヒーを口に運びながら、テーブルを挟んだ反対側に座っている少女を呆れつつ眺めていた。

 反対に座っているのはアムステルダムで保護した少女ミレイア・ロスハイムである。

 彼女はテーブルの紅茶に手もつけずアスランから手渡された端末を食い入るように見つめている。

 

 「それ、そんなに面白いか?」 

 

 「ええ、とても」

 

 彼女が今読んでるのは本国で一般公開されているSEEDに関する文献だ。

 月ではポピュラーな類の考察文で珍しさはまるで無いものだが、地球に住んでいたミレイアには興味深いものらしい。

 

 「貴方は月に住んでいるのにSEEDに興味無いの?」

 

 「俺? 俺はお前ほどじゃねぇよ……ま、気持ちは分からなくもないけどな」

 

 ミレイアのSEEDに関する考えは聞いている。

 というか聞かされたが、共感できる部分は多くあった。

 要するに彼女は過去を捨て、今の自分から変わりたいのだ。

 その気持ちはよく分かる。

 ラディスは月の出身であり幼い頃から、多くのコーディネイターに囲まれて生きてきた。

 負けず嫌いな性格なラディスはコーディネイター相手に張り合う事も多かったが、一度も勝てた事はない。

 いつも力の差を見せつけられて終わった。

 そんな中でラディスに芽生えた感情はナチュラルとしての自分自身に対する失望と強力な力を持つコーディネイターに対する羨望だった。

 不甲斐ない今を捨て、自分もあんな風になりたいと心の底から願った。

 だからこそラディスは強化兵処理の施術に志願したのである。

 昔の自分から変わる為に。

 

 「今のままじゃ我慢ならないってのはよく分かる。だからこそ俺は強化処理を受けたんだからな」

 

 「へぇ、そういう所凄いね」

 

 「は?」

 

 「普通はそういうの口にする人は多くても、実行できる人は意外と少ないし。だから貴方は凄いと思う」

 

 「う、そ、そうかよ」

 

 面と向かって凄いと言われた事は無かったのでラディスは思わず照れてしまった。

 

 「そ、それより、そろそろ戻るぞ。俺も休憩時間が終わりだからな。後は部屋で読めよ。夕食の時にまた呼びに行くからよ」

 

 「うん」

 

 ミレイアがテーブルの上に置いてあった紅茶をすべて飲み干したのを確認するとラディスは食堂を後にする。

 

 「それにしてもミレイアは凄いな。初めてのシミュレーターであんな成績出すなんて。パイロットとしての才能があるのかもな」

 

 「私が?」

 

 「ああ。中佐もそれは認めてたしな」

 

 「……アスランさんが」

 

 考え込むように俯くミレイアを伴いながら士官室へ歩いていると、アスランが一人の女性が歩いている姿が見えた。

 

 「え、あれって……アスランさんの隣にいる人は誰?」

 

 「ん、ああ、セレネ・ディノ中尉だよ。中佐の婚約者さ」

 

 「……婚約者」

 

 「どうした?」

 

 「……別に」

 

 明らかに不機嫌そうなミレイアを見てラディスも少しだけ苛立ちを感じていた。 

 

 

 ドイツ、南方に位置する都市ミュンヘン。

 そこに四つの勢力が世界の今後を左右するであろう会談を行う為に一斉に集まろうとしている。

 アークエンジェルに搭乗しミュンヘンに先行していたマユとラクスはブリッジから眺める景色から殺伐とした雰囲気を感じ取っていた。

 

 「随分殺気だってますね」

 

 「そうですわね」

 

 会場を守るように展開されたモビルスーツと戦艦はそれでけで周囲を威圧しているようにも見える。

 だがそれはこれから始まる事を考えれば物々しいのはある種当然でもある。

 

 「この会談には各陣営のトップが集まる事になるのですから、仕方ない面もあります。カガリさんやアイラ様だけでなくプラントからもカーライル議長自ら主席されるようですし」

  

 「確かドミニオンが護衛についているんでしたよね? 私達もそちらの護衛に参加するんですか?」

 

 「いえ。基本的にグラオ・イーリスが護衛につくわ。それに加えて特務隊も護衛に参加するようだし、私達は私達の任務に集中しましょう」

 

 マリューが差し出してくれた飲み物を受け取りながら、マユが再び外へ視線を向けると黒い船体が近づいてくるのが見えた。

 

 「噂をすればね」

  

 ドミニオンだ。

 その周囲にはグラオ・イーリス所属のモビルスーツとザフト所属の機体が護衛についている。

 全機が新型機なのか知っている機体の面影を持つものもあるが、その中の一機であるオレンジ色に塗装された機体は見た事がない。

 

 「あれって新型ですか? 見た事ない機体ですけど」

 

 「多分そうね。名前は確か『ギア』だったかしら」

 

 ZGMF-3000 『ギア・ソルダート』

 

 ザフトが開発した次世代量産機でありザクの特徴を色濃く残しながらも、その性能はかつてのセカンドステージシリーズを上回る性能を持つ。

 既存のザクやイフリートなどと比べてもその性能や汎用性は非常に高く、前線兵士たちからの評価も高い。

 

 「周りの数機はイフリートの発展型のようですわね」

 

 ZGMF-250 『イフリート・アルジェント』

  

 ユニウス戦役でザフトが開発したモビルスーツの強化、発展型。

 最新型の機体が全軍に配備されるまで、ザフトの戦力強化を目的として開発されたもので、前大戦時のイフリートの戦闘データを参考に開発された。

 全体的なフォルムもより洗練され、さらに同盟からの技術協力によって、機体全体の性能向上も図られており、その性能は最新鋭の機体にも劣らない仕上がりとなっている。

 

 「あの機体は確か同盟から技術提供も行ったんですよね?」

 

 「ええ。軍の統合化計画の一環でね。それにしても特務隊が来るとは聞いていたけど、全機が新型とは大盤振る舞いね。まあ、あちらは任せておけばいいわ。もうすぐミネルバの方もこちらに来るし、ラクスさんは会場の警護、マユちゃんは二人の護衛を頼むわよ」

 

 「「了解!!」」

 

 

 アークエンジェルがドミニオンの姿を確認した頃、ストックホルムから発進したミネルバもまたアイザックと共にミュンヘン付近まで辿りついていた。

 

 「アレン、もうすぐミュンヘンに到着します」

 

 格納庫で機体の調整を行っていたアレンの下にルナマリアと他のパイロット達が集まってきた。

 

 「分かった。俺たちは全員、会談が終わるまでモビルスーツで待機する」

 

 「隊長、我々は警備に参加しなくていいんですか?」

 

 「それはハイネ達に任せるさ。俺達は不測の事態に備えておけばいい」

 

 エイブス達には負担を掛けてしまったが、ようやく機体も万全の状態まで修復できた。

 万が一の場合でも、すぐに動く事ができる。

 

 「ま、何も起きないに越した事は無いがな。全員、パイロットスーツに着替えて機体で待機!」

 

 「「ハッ!」」

 

 パイロット達が準備を整える為にロッカールームへ向かったのを見届けるとルナマリアが何か言いたげにこの場に残っている。

 

 「どうした?」

 

 「一応聞くんですけど、あの研究者、ヴェクト・グロンルンドの件はどうなりました?」

 

 「……あ、うん。報告は上げたし、キラと対処する事になったからお前は気にするな」

 

 ポーカーフェイスで淡々と答えるアレンにルナマリアはジト目で詰め寄る。

 

 「本当ですか?」

 

 「もちろんだ。俺を信じろ」

 

 「……信じられないですね」

 

 どうやらアレンに対する信用はゼロらしい。 

 

 「お前な……とにかくその話は後だ。今は警備に集中するぞ」

 

 ルナマリアは明らかに不満そうな態度を隠す事無くムスッとした表情を浮かべている。

 

 「そんな顔するな」

 

 「後で絶対教えてもらいますからね!」

 

 着替える為にロッカールームに向かうルナマリアを苦笑しながら見送る。

 

 「……アレは確実に追及されるな」

 

 ヴィクトリアの件もあるし、問題は山積みだった。

 アレンは盛大なため息をつきながら、自分もまた準備を整える為にエクリプスのコックピットへ向かった。

 

 

 

 

 ミュンヘンに用意された会場。

 此処はヨーロッパ戦線激化の影響を受け非常事態に備えてシェルターとしても使えるよう建造された特別な場所。

 ドームのように天井が覆われ、周囲には各陣営のモビルスーツが睨み合う形で防衛に着いている。

 それは会場の中も同じだ。

 万が一の場合に備え脱出用の非常通路も用意され、地下には数百人が数週間くらいなら生き延びられる水と食料が備蓄されている。

 そんな万全とも思える会場にすべての勢力の首脳陣が集まり、運命とも言える会談が始まろうとしていた。

 

 「各国首脳の方々。今回我々の要請を受け、このような機会を設けて頂けた事にまずは感謝したい。昨今世界で起きている武力衝突の件も含め、多くの事がこの場で話されるだろう。皆さんにとってこの場が有意義な時間となるように願っている。私はテタルトス月面連邦国軍事司令ゲオルク・ヴェルンシュタインという。以後お見知りおきを」

 

 主催国の代表として中央に座るゲオルクが立ち上がり、挨拶と共に一礼する。 

 同盟の代表者の一人として席に座るアイラの後ろに立ちながら、マユはゲオルクから感じられる威圧感に圧倒されかけていた。

 

 「……アレがテタルトスの現軍事司令」

 

 名前と顔くらいはもちろん知っている。

 しかし実際こうして対面するとこうも違うものか。

 マユはかつてギルバート・デュランダルと対面した経験がある。

 その彼ともゲオルクは違うタイプだ。

 油断すれば即座に喉元に食らいつかれているような、化け物が目の前にいるかのような錯覚を覚える。

 しかも厄介なのはゲオルク・ヴェルンシュタインだけではない。

 彼の反対側に座っているのは地球軍保守派の代表クレメンス・イスラフィールである。

 軍服を纏い、腕を組みながら鋭い視線でゲオルクを見つめるその姿からは一切隙が見当たらない。

 

 「保守派を纏めているだけはあるって事かな」

 

 だがマユが気になったのはその後ろに控えていた男だった。

 

 「アレは……」

 

 見覚えはない筈だ。

 でも、どこかで会ったような気もする。

 そしてその男もこちらを観察するように見つめている。

 その視線はお世辞にも好意的な感情は込められておらず、明らかな敵意が伝わってきた。

 名前は確かジェラール・フィレオルと言っただろうか。

 

 「マユ、どうしたの?」

 

 「……いえ、何でもありません」

 

 「そう、もうすぐ始まるわ」

 

 「はい」

 

 小声でアイラに諌められたマユは軽く頭を振ると護衛任務に集中し始める。

 

 各陣営の代表者の紹介を終えたのを確認したゲオルクが再び立ち上がると力強く宣言した。

 

 

 「ここにミュンヘン会談の開催を宣言いたします!!」

 

 

 ゲオルクの宣言と共に拍手が起こり、世界の行く末を決める会談が始まった。

 




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