機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第18話 埋まらぬ溝

 

 

 

 ミュンヘン会談が開催される二日ほど前。

 明かりもついていない暗がりの部屋で男が一人、手元の端末に目を落としていた。

 部屋にいたのは不気味な黒い仮面を纏い素顔を隠した男、カースだった。

 彼は慎重に、そして素早く端末を操作し画面に表示されたものをチェックしていく。

 端末に映し出されているのはモビルスーツを含めた兵器の数と、とある場所の見取り図だった。

 

 「……ほぼ予定通りか」

 

 男は微かに口元をつり上げる。

 その時、扉を軽くノックする音が聞こえてきた。

 同じ間隔で音は三回。

 事前に取り決めていた通りの合図に男は手を止めず、淡々と告げた。

 

 「入れ」

 

 「失礼します」

 

 入ってきたのは軍服を纏った長髪の少女、№Ⅰだった。

 隙のない流れるような動きで部屋へ素早く立ち入ると、カースに向かって一礼する。

 

 「……すべて予定通りに手配が完了いたしました」

 

 「ご苦労だった、№Ⅰ」

 

 一言労うと差し出された報告書を手にする。

 こちらもまた予定通り。

 №Ⅰが良い仕事をしてくれたようだ。 

  

 「良くやってくれた、これでパーティは十分に盛り上がるだろう」

 

 「しかし、あのような者たちが本当に使えるのでしょうか?」

 

 「問題ないさ。彼らだからこそだ、№Ⅰ。その手の『経験』はこの世界の誰よりも豊富。だからこそ、結果も自ずとついてくる。仮に失敗したとしてもソレはソレで構わない」

 

 「え?」

 

 思ってもみなかった意外な発言に№Ⅰは呆けた表情を浮かべた。

 普段から感情の起伏が少ない彼女にしては非常に珍しい光景である。

 それを見つめながらカースはさらに笑みを深くした。

 

 「重要なのは歯車が回る事。動かす事ができればそれでいい」

 

 そこで生まれた波紋は世界に反響し、多大な影響を与えていくだろう。

 どんな形であろうとも、確実にだ。

 

 「№Ⅰ、お前の相手は分かっているな?」

 

 「はい」

 

 「お前の相手はこの世に生み出された最高のコーディネイターだ。油断するな」

 

 「万事抜かりなく。私が必ず。……カース様は、静観なさいますか?」

 

 カースは端末を閉じると№Ⅰが差し出したコートを羽織る。

 

 「私は私で動くさ。そうだな、彼の――アオイ・ミナト君の相手でもさせてもらおうか」  

 

 「了解いたしました」

 

 そのまま部屋を後にする。

 

 そして二人が消えて10分も経たぬ内にその部屋は跡形もなく消し飛んだ。

 

 それこそ何も残らぬように、念入りに。

 

 

 

 

 ゲオルク・ヴェルンシュタインの開会宣言と共に開始されたミュンヘン会談。

 時折休憩を挟みつつも、早数時間が経過していた。

 幾つかの議題が話し合われ、一時はこのまま会談が終わるのではと見ていただけのマユ達でさえ錯覚するほど穏やかな空気が流れている。 

 しかし、それもここまでだった。

 議題となるのはこの戦争に関する事。

 最大の激戦地、ヨーロッパ戦線に関する話だったからだ。

 

 「そもそもこの戦争の口火を切ったのは、テタルトスだろう。ヨーロッパ戦線激化の原因はそちらにあると思うのだが?」

 

 イスラフィールの言う通りこの戦争が起こるきっかけ、それはテタルトスの地球進出が原因の一つだと言われている。 

 強引な地球進出によって刺激された地球軍は警戒を強め、マケドニア要塞を建造し、それに引きずられる形で同盟もまた戦力強化に舵を切らざる得なかったのだ。

 

 「良く言う。近隣諸国の事など考えず、内戦に明け暮れている連中の言う事か。そんなお前たちに見切りをつけた国々からの要請で我々は地上に降りたのだ」

 

 ゲオルクの言う事も間違いではなかった。

 ユニウス戦役から続く地球連合の内紛、ロゴス崩壊の余波による各国の混乱により、連合からの離脱を望む国は多かった。

 そしてテタルトスもまた地上への足掛かりを求めていた事もあり、そういった国々との利害が一致し、バルカナバート基地建設に至ったのである。

 

 「そんな我らの言い分も聞かずに無理やりマケドニア要塞を建設した挙句、ヨーロッパで猛威を振るっている。元凶はそちらの方だろう」

 

 「曲解はやめていただきたいものだな。アレこそテタルトスや同盟の脅威から各国を守る為に必要なものだ」

 

 「私たちが脅威ですか?」

 

 アイラが険しい視線でイスラフィールを見つめる。

 だがソレにも全く意を返さないとイスラフィールは涼しい顔で発言を続ける。

 

 「現にテタルトスと同盟は戦闘禁止区域に指定されているアムステルダム付近でも平気で戦闘を行っている。さらにアムステルダム市街でも騒ぎがあったとか。しかもテタルトスの方は特殊部隊を動かしているという噂もある」

 

 「戦闘禁止区域内で戦闘は行っていないし、何の問題もあるまい。市街の騒ぎについても口論程度の大したものではなかったと報告を受けている。特殊部隊については、呆れてものも言えない。噂は噂に過ぎん。それを鵜呑みにするなど、地球連合代表の程度が知れるというものだ」

 

 話し合いは完全に平行線をたどっていた。

 このままでは再び物別れという展開も十分にあり得ると誰しもが思っていた時、今まで黙っていたカガリが横から口を挟んだ。

 

 「このまま話し合っていても埒が明かないだろう。とりあえず今までではなく、これからの事を話し合った方が建設的だと思うが」 

 

 「私もアスハ代表の言う通りだと思います」

 

 カガリに同調したレヴァンに続く形でアルノルト達停戦派の議員達も声を上げ始める。

 

 「我々はお互いの腹の探り合いをしに来た訳ではない筈だ」

 

 「うむ、まずは停戦。そこから各陣営同士の溝を埋めていけばよいだろう」

 

 テタルトス停戦派の議員達の声が大きくなるにつれて、他陣営からも停戦に関する話し合いが行われ始める。

 

 「妙ね」

 

 「ええ、あの二人が何の反論もせずに黙って聞いているだけなんて」

 

 あれほどの舌戦を繰り広げていた筈のゲオルクとイスラフィールは先ほどまでとは正反対に黙って成り行きを見守っているだけで一言も話さない。

 まるで事前に打ち合わせでもしていたのではないかと勘ぐってしまうくらいだ。

 結局、二人は停戦については口を挟まず協議は順調に進んでいく。

 そして話が纏まろうとしたその時、黙っていたイスラフィールがようやく口を開いた。

 

 「なるほど。停戦については良いだろう。しかし、その後についてはどうするつもりだ? ユニウス条約のような休戦条約を結び、再び戦端が開かれるまで互いを牽制し合うのか?」

 

 「何をおっしゃりたいのですか、イスラフィール代表?」

 

 「単純な話だ。このまま停戦したとしても結局何も変わらない。ならばそれ相応に世界も変わらねばならないという事だ」

 

 イスラフィールの発言で議会は再び緊迫感に包まれる。

 その中でマユは何となくゲオルクの方を見た。

 するとゲオルクは楽しげな笑みを浮かべてはいるものの、特に反応もせずに静観しているだけだ。

 

 「……何を考えているの?」

 

 底知れない何かを感じ取り困惑する。

 そんな中でもイスラフィールの発言は止まらない。

 

 「つまりイスラフィール、貴方は彼のギルバート・デュランダルのように世界を変革しようというのか?」

 

 「あんな夢想家と一緒にしないでもらいたいものだ。私は変革などと大それた事を言うつもりはない」

 

 「では、一体何が言いたいのですか?」

 

 レヴァンの質問に鋭い視線を周囲に向けたイスラフィールは淡々と、そして確かな覚悟を感じさせる声色ではっきりと口にした。

 

 「統一だ」

 

 「ッ!?」

 

 「世界を統一する。そうすれば戦いも……いや、些細な争いは消えずとも、今のような大規模な戦闘は起こらないだろう」

 

 「貴方がそれを成すと?」

 

 「そうだ。この際、はっきり言っておこう。俺は此度の停戦に反対はせん。しかし統一を諦めるつもりは毛頭ない。必ず実現する」

 

 イスラフィールに迷いはない。

 傍から見ていただけのマユでさえ、彼が本気であるという事はハッキリと理解できた。

 

 「それは武力を行使してもという事ですか?」

 

 レヴァンの再度の問いかけ。

 それにも全く躊躇う事無くイスラフィールは頷いた。

 

 「そうだ。話し合いで解決できればそれに越したことはあるまい。しかし世界にはどれだけ言葉を尽くそうと理解し合えない者たちも居る。各々相応の事情を抱えているのだから、それも当然の事。そのような者たちとの話し合いなど時間の無駄だ」

 

 「だから力尽くで支配するというのか。そんな事をすれば今以上の犠牲が出る!」

 

 「だろうな。しかしそれはこのままの状況が続いても変わるまい。だからこそ俺がやるのだ。例え夥しい数の犠牲が出るとしても、どれだけの屍が積み上がろうと、必ずやり遂げる。それこそが今までの犠牲に報いる唯一の道。これ以上の犠牲を出したくないと言うならば、各々この場で我らが軍門に下れ。それで戦争は終わる」

 

 重苦しい空気と共に場を沈黙が支配する。

 誰も口を開かない。いや、開けないのだ。

 今回の会談の趣旨が停戦協議にあるというもの理由だが、イスラフィールが統一という目的の為にどんなカードを切ってくるか誰も予想できなかったからである。

 そんな会場で最初に口を開いたのはカガリだった。 

 

 「クレメンス・イスラフィール。貴方の言っている事も分からない訳じゃない。仮に統一が為されれば、確かに大きな戦争は無くなるだろう。しかしそれは武力によって無理やり為されるものではないと思う」

 

 「先ほども言った筈だ。話し合いなどそんな事をしていては何時になるかわかったものではない。それともその間に積み上げられる犠牲を容認するのか、カガリ・ユラ・アスハ代表?」

 

 「買いかぶってもらっては困る。私は正義の味方などではなく、単なる政治家だ。優先すべきは国益であり、国民。平和は勿論、歓迎するが、侵略は御免だ」

 

 カガリの言葉にイスラフィールは黙ったまま聞き入っている。

 

 「イスラフィール、私達がやるべき事はまさに積み上げていく事だ。無論、屍などではなく、私たちができる事をな」

 

 「詭弁だな。今やるべき事をやらずして何が政治家か」

 

 「そのやるべき事が私と貴方では違うという事なのだろう、クレメンス・イスラフィール。少なくとも私は貴方の侵略行為を是とする事はない。もちろん対話あれば何時でも応じる準備がある事だけは先に伝えておこう」

 

 意見の隔たりは埋まらない。

 

 イスラフィールが言葉では通じないと対話を切って捨て、カガリは最後まで言葉を尽くすという。

 

 概ね議会もこの二つの意見に分かれる形となる。

 

 露呈したこの明確な溝こそ、ミュンヘン会談における最大の収穫だったのかもしれない。    

 

 重い空気が漂う会場。

 

 それを打ち破ったのは立っている事も出来ないほどに強烈な振動だった。

 

 

 

 当然、その強烈な振動は会場の外で待機していたミネルバにも当然伝わっていた。

 予期せぬ振動で整備班の方で少し怪我をした者もいたがコックピット内で待機していたのが幸いしパイロット陣に怪我は無かった。

 

 「今のは……ブリッジ、何があった?」

 

 エクリプスのコックピットからブリッジに通信を繋いだアレンの耳に慌てたメイリンの声が聞こえてきた。

 

 《攻撃です! 遠距離からの強力なビームによる砲撃だと思われます!》

 

 《ビームによる攻撃って、一体誰が?》

 

 「落ち着け、ルナマリア」

 

 確かにそれも気になるが、それ以上に気がかりなのは――

 

 「メイリン、会談の方はどうなったんだ? 各国要人達は?」

 

 《砲撃は会場付近に直撃した模様。それにより周辺の建物にも大きな影響が出ているようです。要人達の安否ついては現在不明》

 

 会場はシェルターにもなっているから、簡単に潰される事はないだろう。

 しかし何度も攻撃を受ければ話は別。

 中にいるマユ達の安否を気にしていると新たな情報が飛び込んでくる。

 

 《所属不明のモビルスーツが多数接近中。モビルスーツ隊は直ちに出撃してください》

 

 カタパルトまで運ばれたエクリプスの背中にエクリプスシルエットが装着され、ハッチが開かれる。

 

 《要人たちの救援にはアイザックに行ってもらいます。モビルスーツ隊は他の部隊と共に敵モビルスーツの排除を。頼むわよ、アレン」

 

 「了解。アレン・セイファート、出ます!」

 

 ミネルバから出撃したアレンが見たのは大きく抉られた地面と崩れ落ちた建物の残骸だった。

 ミュンヘン会談開催に際して万が一に備え周辺には立ち入り規制が為され、住民には会談開催までの間だけ別の場所へ移っている。

 警備についていた人間以外、人的被害はほぼ無いだろうが――

 

 「この威力、通常のビーム砲ではありない。どこかに固定砲台でも設置しているのか? しかし……」

 

 ミュンヘン周辺の警戒は数日前からかなり厳重だった。

 たとえ遠距離でも砲台を設置すれば気が付かない筈はない。

 

 「ミラージュ・コロイドですかね?」

 

 「それは……可能性としてなくはないが」

 

 ルナマリアの言葉にアレンは思わず否定の言葉を口にしそうになるが、すぐに考えを改める。

 非常に高いステルス機能を発揮するミラージュ・コロイドだが本領を発揮するのは宇宙空間での使用であり、地上では使い難い。

 しかし使い難い装備であろうとも、使えなくはないのだ。

 脳裏に過る嫌な考えを振り切る間もなく、正面から次々と敵と思われるモビルスーツが近づいてきていた。

 

 「ウィンダムにムラサメ!?」 

   

 それだけではなくザクなどのザフト系の機体の姿まである。

 迫ってくる敵は混成部隊とも言うほど機体群に統一性はなく、どこの軍隊が使用しているのかは特定できない。

 

 「テロリストか。それにしてはずいぶん装備がいいが」

 

 「だとするとどこから手に入れたんですかね?」

 

 「蛇の道は蛇。金さえあれば手に入れようと思えば入手できなくはない」

 

 現在、ベルリン条約によって規制されモビルスーツを普通の一般人が手に入れる事は難しくなっている。

 これは『ブレイク・ザ・ワールド』やユニウス戦役で起きたモビルスーツテロの影響があった為だ。

 しかしモビルスーツの入手と使用には規制がかなり厳しくなったとはいえ、まだまだ抜け道は存在しているのが現状だった。

 言いたくはないがジャンク屋などの伝手を使えば軍の最新鋭機でもない限り、モビルスーツの入手は可能ではあるのだ。

 

 「まさか」

 

 攻撃を仕掛けてくるウィンダムやムラサメを見つめながら嫌な予感が膨らんでくる。

 敵が乗っている様々な種類の機体は主犯を特定させない為のものなのだろう。

 逆を言えば今回の件をどの勢力の所為にもできるという事だ。

 

 「誰の仕業か知らないが、嫌なやり方を――ッ」

 

 そこでアレンの脳裏に何かが掠めた。

 

 それが何かは分からない。

 

 昔の記憶か、それとも―――

 

 しかし、前に宇宙で感じていた嫌な予感が益々膨らんでいく。

 

 「ああ、くそ!」

 

 袈裟懸けに振るわれたウィンダムのビームサーベルを逆に持ち手ごと斬り飛ばす。

 同時にコックピットをサーベルで焼き潰した。

 そしてすかさず飛行形態で翻弄してくるムラサメをビームライフルで狙撃する。

 

 「ルナマリア、出来るだけ市街地から敵を引き離す。それから街に被害を出さないように派手な攻撃は控えろ」

 

 「そんな無茶ですよ」

 

 「分ってる。だが、後で難癖付けられても嫌だろ」

 

 『お前達が派手に暴れたせいで街は滅茶苦茶になってしまった』とか言われてカガリ達が不利になるような事は避けたい。

 だからこそ今回の武装は火力の控えたものを選んでいる。

 エクリプスシルエットの装備ラックにセットされた武装は改良された対艦刀『エッケザックス』改とハイパーバズーカ砲の二種類。

 強力な火器であるサーベラスなどは敵ごと建造物を薙ぎ払ってしまう可能性があったから今回は控えたのだ。

 

 「勿論出来る限りでいい。だがお前なら出来る、ルナマリア」

 

 「うっ……こういう時だけそんな事言うんだから、たち悪いよね、ホント。分かりました!」

 

 赤面したルナマリアの返事にアレンも笑みを浮かべる。

 

 「良し。さっさと片付けて俺達もアイザックの支援に向かうぞ!」

 

 「了解!」

 

 フォースシルエット装備で突き進むインパルスの姿を頼もしい気持ちで見守りながらバスーカ砲で援護する。  

 続け様に発射された砲弾が敵を撹乱し、そこを突いて斬り込んだルナマリアが敵モビルスーツを引き離しながら排除していく。

 二機のガンダムの洗練された動きと精密な連携に敵はただ翻弄され、撃破された。

 まるで戦闘のイロハなど何も知らない素人のように。

 

 「手応えがないですね」

 

 「ああ。それなりに訓練は受けているようだが、実戦経験のない新兵みたいだな」

 

 それだけ敵の攻勢は脆い。

 連携すら碌に取れていない有様だ。

 

 「これなら!」

 

 敵をけん制しながらウィンダムの腕を斬り飛ばすインパルス。

 そのまま止めを刺そうとしたその時、腕に敵のウィンダムが組み付いてきた。

 

 「なっ」

 

 「死ね! 宇宙の化け物!」

 

 「まさか、ブルーコスモス!?」

 

 「自爆する気か! ルナマリア、離れろ!」

 

 聞こえてきた声に一瞬、驚愕する。

 だがすぐに正気に戻ったルナマリアがウィンダムに蹴りを入れて突き放す。

 そして援護に入ったエクリプスのビームサーベルがウィンダムの胴体諸共パイロットを焼き殺した。

 

 「大丈夫か?」

 

 「ええ。少し驚きましたけど」

 

 「ああ。ある意味予想通りだがな」

 

 『ブルーコスモス』

 

 反コーディネイター思想を掲げる主義者達の総称。

 この世界でこの名前を知らない者などそうはいないだろう。

 母体とされたロゴスの存在がユニウス戦役で露見されるまで、この世界で猛威を振るっていたテロリスト達なのだから。

 

 「距離を取れ。自爆でもされたら面倒だ」

 

 「了解」

 

 アレンの脳裏に浮かぶ過去の光景。

 それを振り払うように首を振る。

 敵の攻撃を捌きながら先ほど以上の鋭さと容赦のなさで光刃を振るいウィンダムを屠っていく。

 

 「……お前らは何時まで経っても!」

 

 テロに対する明確な怒りを込めながら攻撃を繰り出しつつ、感情を抑え込むように深呼吸する。

 

 「落ち着け。他の部隊も動いているんだ、敵はもうすぐ排除できるはずだ」 

 

 先に迎撃を行っていたアークエンジェルとラクスが搭乗しているジャスティスも敵を順調に排除しているのが見える。

 そこに特務隊も加われば、鬼に金棒だろう。

 今確認できている敵のモビルスーツは自爆にさえ気を付ければ脅威にならない事は誰の目にも明らかだった。

 なら、後は――

 

 「じゃあ後は会場に攻撃を仕掛けたビーム砲だけか。ミネルバ、敵ビーム砲の位置は?」

 

 《もう少し待ってくだ―――えっ? これって……》

 

 「どうした、メイリン?」

 

 そこでアレンも気が付いた。 

 

 通常のモビルスーツを優に超える大きさを持った物体が近づきつつある事に。

 

 「アレン……あれは」

 

 「チッ、なるほどな。固定砲台などではなく、よりによってアレとはな」

 

 近づいてきた物体に舌打ちしながらアレンは操縦桿を強く握りしめた。

 

 

 

 

 ミネルバと別れ、会場で要人の救出作業を開始する為、アオイたちもまたモビルスーツで出撃準備を行っていた。

 

 「まずは俺達が周辺の敵を排除、そして安全が確認されたら陸戦隊が要人救出の為に内部に突入する。いいな?」

 

 「「「了解!」」」

 

 アオイのイレイズMK-Ⅱとベアトリーゼのイリアスが出撃すると後に続くようにデスティニーリファインとランドグリーズも飛び出してくる。

 

 「シン、それにセリスさん、二人の方が階級が上なんだし、指揮権はやっぱり」

 

 「いいんだよ。アイザックについて俺達は何も知らないんだしさ」

 

 「うん。私達、お客さんだしね」 

 

 シンとセリスは今回、アイザックの乗船する形でついて来ていた。

 これはアイザックの戦力不足を懸念したアイラの配慮だったのだが、シンにとってもありがたい話だった。

 何故なら妹のマユが要人の護衛任務についていると聞いていたからだ。

 スカンジナビアでセリスのリハビリに付きっ切りだったため、最近はマユともメールでやりとりするくらいで殆ど会っていないかった。

 やや不謹慎ではあったが、この機会に久しぶりに顔を見ておきたかったのである。

 なのにこんな事になるとは。

 

 「……マユ」

 

 会場は一種のシェルターになっていると聞いている。

 だからマユは多分大丈夫だとは思う。

 それでも正直な話、すぐにでも会場内部に駆け込んでマユの安否を確認し、助け出したかった。

 でも――

 

 「シン、マユちゃんなら大丈夫。あんなに強いんだからね」

 

 「……ああ」

       

 「急いで周辺の敵を片付けて俺達も救出活動の支援に行こう」

 

 「アオイ、セリス、ありがとう」

 

 事情を知る二人の気遣いに焦燥で重苦しくなった胸中が少しだけ軽くなった。

 シンは自分を落ち着かせるために大きく息を吐き出し、操縦桿を握りなおす。

 

 「ミナト少尉、アスカ中尉、ブラッスール中尉、敵が来るぞ」

 

 ベアトリーゼの声に意識を戻すとこちらに向かってくる敵が見えた。

 近づいてきたのはムラサメ。

 全機、飛行形態でこちらに突撃してくる。 

 

 「シン!」

 

 「ああ、行くぞ!」

 

 デスティニーが翼を広げ、アロンダイトを構えると敵陣に向かって一気に踏み込んだ。 

   

 「はあああ!!」

 

 大剣でムラサメを斬り落とし、ランドグリーズがガトリング砲でハチの巣にして撃破する。

 

 「敵の技量は大したことなさそうだな。それにしても流石だな、シン。俺も負けてられない」

 

 アオイもまた二機の奮戦に負けじと前に出ようとしたその瞬間、ソレが来た。

 

 かなり距離は離れているがこの位置からでも十分に見える。

 

 それにアオイの意識もまた引き付けられた。

 

 「アレは……」

 

 その巨体に嫌な記憶が蘇ってくる。

 

 そしてもう一つ。

 

 巨大な影とは反対方向。

 

 そちらからイレイズMK-Ⅱに向かってくる機影に気が付いた。

 

 「敵!?」

 

 凄まじい速度。

 

 デスティニー達と戦っている連中とは明らかに違う動き。

 

 一足飛びでイレイズに近づいてきたのは――

 

 

 「……赤いモビルスーツ!?」

 

 

 アオイの目は一直線に向かってくるビームライフルを構えた赤い機体を捉えていた。 

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