機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第19話 悪夢の銃弾

 

 

 

 仮面で素顔を覆い隠した女性エリニスは静かに、そして足早に格納庫を目指して閑散とした通路を歩いていた。

 小柄でありながらも、隙の無い佇まい。

 すれ違う者が居ても皆、階級に関わらず彼女から視線を逸らし、出来るだけ関わらないように道を開けていく。

 それは明らかな恐怖からくる行動だった。

 

 顔が分からないから――そうではない。

 

 所属している部隊がいわく付きだから――それも違う。

 

 理由は至極簡単。

 彼女自身から発せられる殺意と憎悪の感情。

 滲み出る不吉な気配、それが皆を遠ざけている。

 傍から見れば異常な光景であるが、エリニスからすれば気にすべき事でもない。

 彼女にとって周りの人間などどうでもいい存在だったからだ。

 騒がしい格納庫に入っても流石に手を止める者はいない。

 しかし逆に近づいてくる者もいなかった。

 エリニスはそれも気に留めず目的の人物がいる機体のコックピットの前に来ると許可もなく覗き込んだ。

 

 「やはりここに居ましたか、フェレオル大尉」

 

 呑気にイヤホンで音楽を聴きながら、コックピットで座り込んでいるのは現地球軍最強と名高いジェラール・フェレオル大尉だった。

 やや呆れ気味にため息をついたエリニスは咎めるように口を開いた。 

 

 「いい加減に余暇をコックピットで過ごすのはやめてもらいたいですね。整備班にも迷惑でしょうに」

 

 「エリニスか」

 

 ジェラールは非常時でなくともモビルスーツのコックピット内に常駐している事が多かった。

 エリニスには全く理解できない事だが、彼曰くここが一番落ち着くかららしい。

 

 「俺の勝手だ。それに整備中には流石に遠慮して他所へ行くさ」 

 

 「何故こんな狭苦しい場所で落ち着けるのか理解に苦しみますね。こんなもの鉄で出来た棺桶でしょう」

 

 何の感情も込めずエリニスはただ鋼鉄で出来た人形を見上げる。

 これはただの兵器。

 戦う為の道具にすぎない。

 だがジェラールは違うようで、肩を竦めながら反論する。

 

 「分かってないな。此処こそが俺達の居場所なんだよ。お前だって戦闘じゃ此処に命預けてるんだ。もう少し愛着くらい持ったらどうだ?」

 

 何処か楽しげに操縦桿を握るジェラールを理解できないとばかりにエリニスは首を横に振る。

 

 「くだらない。そんな事よりも、命令が下りました。行きますよ、月も動くようですから」

 

 「ああ。分かった」

 

 ジェラールはイヤホンを外すと待ってましたとばかりに哄笑する。

 

 彼の愛機もまた獲物を狙う獣のようにツインアイに火を灯らせた。

 

 

  

 

 

 美しい街並みにそぐわない大きな爆発跡。

 

 その上空を飛びまわる無数のモビルスーツ。

 

 戦場と化したミュンヘンの街から離れた位置に一際目立つ巨人が立っていた。

 それを見て好意的な感情を抱ける者はいないだろう。

 通常のモビルスーツサイズを明らかに上回る巨体。

 全身を覆う黒い装甲。

 突き出た長い砲身に胸部に光る砲口。

 その姿はすべてを壊す為に生まれた破壊神を彷彿させる。

 それは間違っていない。

 『デストロイ』の名を冠されたこの機体こそ、ベルリンを廃墟へ変えた忌むべき存在なのだから。 

 

 「アレン、あれってデストロイですよね?」

 

 「ああ。俺達の見間違いじゃないならな」

 

 アレンがモニターに呼び出したデータは目の前にいる機体とデストロイとの類似点を色濃く示している。

 

 「だが油断するなよ。どうやら改良型のようだからな」

 

 目の前にいるのは確かにデストロイの系譜に連なる機体である事は間違いない。

 しかし明らかに違う点も幾つかあった。

 その一つがその大きさだ。

 以前の機体に比べて一回り以上小さくなり、さらに機体全体もスマートになっている。

 

 GFAS-X1B 『デストロイガンダムMk-Ⅱ』

 

 ユニウス戦役に投入されたデストロイガンダムの強化した機体でデストロイに比べて一回り以上小型化されている。

 それでも通常のモビルスーツサイズを優に上回る巨体と強大な火力は健在であり、圧倒的な制圧能力を持っている。

 

 「あの大きさはベルリン条約に抵触しないようにって事か」

 

 本来デストロイのような大量破壊兵器の市街地使用はベルリン条約で禁止されている。

 あの機体はそれに抵触しないようにギリギリまでサイズを絞ったのだろう。

 

 「何でテロリストがあんな機体を?」

 

 アレばかりはジャンク屋などの伝手を使おうが、手に入るものではない。

 しかも改良されているとなれば、それなりの資金力と技術力が必要になる。

 

 となると――

 

 「……さあ、裏で誰かが糸を引いているのか。それよりも、来るぞ!」

 

 背中の砲身がこちらに向き、光を集めていく。

 

 高エネルギー砲『アウフプラール・ドライツェーン改』

 

 市街地を一撃で更地に変える強力な閃光が砲口から迸り、エクリプスとインパルスはタイミングを合わせ一気上昇した。

 

 「ぐっ!?」

 

 「チィ!」

 

 今まで居た空間を薙ぎ払う強烈なビームが通り過ぎていく。

 

 「小さくなっても相変わらず、滅茶苦茶な威力ね」

 

 出力が元々違う故にビーム砲の威力は桁違いで、直撃を食らえばモビルスーツなどあっさりと消し飛ばされてしまう。

 

 「でも弱点は知ってるのよ!」

 

 ビームサーベルを抜いたインパルスがモビルスーツ形態に変形したデストロイに近接戦闘に挑む。

 

 「……確かに接近戦は対デストロイ戦のセオリーだが」

 

 アレンが気になっていたのは、デストロイの形状の変化だった。

 ユニウス戦役ではあれだけ近接戦で痛い目を見てきたデストロイだ。

 何らかの対策が取られていても不思議ではない。  

 

 「考えていても埒が明かないか」

 

 気になりながらも突っ込むインパルスを少しでも援護すべく、スラスターを吹かす。

 デストロイを引き付けるように動きつつ、バズーカ砲を撃ち出した。

 迫る砲弾を迎撃するためにデストロイがビーム砲を発射した。

 

 「そう簡単には当たらない、だが!」

 

 しかしそれこそこちらの狙い。

 バズーカ砲への対処を優先し、他への注意が散漫になった。 

  

 「もらった!」

 

 隙が出来たデストロイの懐へルナマリアが突撃する。

 狙い通りビームはエクリプスの方に集中しデストロイの懐はがら空きになっていた。

 もはやビームサーベルの一撃は防ぎようがない。

 しかしそこで思いもかけなかったものが現れた。

 

 「何?」

 

 伸びてきたのは腕だ。

 腰部に隠されていた腕から伸びるビームサーベルが横薙ぎに振るわれ、インパルスに襲い掛かった。

 

 「隠し腕!?」

 

 野太い光の刃は通常のモビルスーツが使うものとは明らかに出力が違う。

 

 「不味い!! 避けろ、ルナマリア!!」

 

 アンチビームシールドで受け止められる出力ではない。

 

 「間に合わない!」

 

 ルナマリアは巨大ビームサーベルにアンチビームシールドを構えて受け止める。

 しかしアンチビームシールドは容易くビームサーベルによって半ばまで食い破られてしまう。

 

 「この!」

 

 盾の角度を変え隠し腕に蹴りを放ち、サーベルを逸らし、その間に離脱を図った。

 だが、デストロイが大人しく逃がすはずもなく両手を切り離し、指先に搭載されたスプリットビームガンで追い打ちをかけてきた。

 

 「くっ、そう簡単にやられないわよ」

 

 飴のようにドロリと溶けたシールドを投げ捨て、ビームシールドを展開しながら攻撃を捌いていく、インパルス。

 

 「ルナマリ――ッ!?」

 

 援護に出ようとしたエクリプスの前にエールストライカーを装着したブリアレオスが立ちはだかった。

 その数は10機。

 しかもどれも改修機なのか、通常機に比べ微妙な違いがある。

 

 「保守軍の新型」

 

 先ほども思ったがやはりおかしい。

 業腹な話だがムラサメなどに関しては手に入れる手段がある故にテロリストの仕業だとしてもある程度納得はできる。 

 しかしデストロイや最新鋭機であるブリアレオスの改修型など普通のテロリストが手に入れられる筈がない。

 

 「お前達はどうやってその機体を手に入れた?」

 

 ビームライフルの射撃をかわしながらエッケザックスをブリアレオスに叩き付ける。

 シールドで止められた対艦刀が火花を散らす中、何処かで聞いた事のある声がスピーカーから漏れてきた。

 

 《……敵機確認》

 

 「この声は……」

 

 あれはユニウス戦役終盤。

 ザフトがとある特殊モビルスーツを大量に投入してきた事があった。

 その時に接触した事のある声によく似ている。

 そのパイロット達は地球軍のエクステンデットの技術をもちいた強化人間で、確か名称は――

 

 「ラナシリーズだったな」

 

 《……エクリプス……アスト・サガミ……優先排除目標……》

 

 「俺の事を知っている?」

 

 《……システム、起動します》

 

 「まさか」

 

 それはギルバート・デュランダルが生み出したある種の災厄のようなものだった。

 特殊な力を持つ者に対抗する為、誰でもその力を使えるように疑似的に再現しもの。

 力を与える代わりにパイロットの負荷を無視し、最悪廃人に変えてしまう悪魔のシステム。   

 

 

 

 

 『I.S.system starting』

 

 

 

 機械的な声が響くとブリアレオスの肩と腰の装甲がスライドし、形状が変化した。

 握ったビームサーベルを正眼に構え、全機が一糸乱れぬ動きでエクリプスの方へと突っ込んでくる。 

 

 「I.S.システムだと、チッ!」

 

 アレンは反射的に機体を引きブリアレオスから距離を取りつつ、バスーカ砲でけん制する。

 しかしそれらをすべてを紙一重で回避したブリアレオスは連携し、四方から攻撃を加えてきた。

 その精度は先ほどまでとは明らかに違う。

 

 ライフルの射撃。

 

 サーベルの斬撃。

 

 スキュラの使い方や反応速度まですべてが格段に向上していた。

 

 これこそI.S.システムの力。

 

 特殊な催眠処置と投薬を用いてSEED発現状態を擬似的に再現する事が出来る。

 しかも処置時の副産物で使用者の人格や精神をある程度コントロールも可能というオマケ付きだ。

 

 「厄介な!」

 

 流石にI.S.システムを起動させたこいつらを相手にしながらデストロイの方まで手が回らない。

 

 「くそ! ルナマリア、もう少し持たせろ! ラクス、ルナマリアの援護を頼む!」

 

 このままでは不味いと判断したアレンは比較的近くにいるジャスティスにインパルスの援護を頼むと躊躇わずにSEEDを発動させる。

 

 弾けるような感覚と共に全身が研ぎ澄まされ、視界が急激にクリアになる。

   

 「行くぞ!」

 

 研ぎ澄まされた感覚に従い指先に力を籠めながら、アレンは四方を囲む敵機を突破する為、攻勢を開始した。

 

 

 

 

 ミュンヘンから順調に敵を引き離し奮戦するミネルバとアークエンジェル。

 同じ頃、アイザックとドミニオン、そしてザフト特務隊は未だミュンヘン市街地で要人救出の為に動いていた。

 その戦場でテロリストの排除に動いていたアオイのイレイズMK-Ⅱの前に一機の赤いモビルスーツが現れた。

 

 「赤いモビルスーツ!? シグルドか?」

 

 その機体は装甲が赤く塗装され、改修されたシグルドだ。

 ヤキン・ドゥーエ戦役で投入された機体ではあるが、その力は未だ侮れない高性能機である。

 

 「また珍しい機体を」

 

 ユニウス戦役でテロリストに使用されて以降、シグルドはテロリストの象徴的な機体として世界中に記憶された。

 その為シグルドを扱う勢力はほぼ皆無となり、戦地を転々とする傭兵ですら見たことがないという幻の機体とも呼ばれるようになっている。

 背中に装着された高機動スラスターユニットを噴射させ、ビームライフルで狙撃しながらこちらに迫ってくる。

 

 「あの速度でこの正確な射撃、只者じゃない!」

 

 こちらの動きを読んでいるかのような動きと確実に急所を狙ってくる攻撃。

 気を抜けば即座に落とされてしまう。

 アオイはシールドを掲げコックピットを狙う射撃を防ぐとこちらもビームライフルで応戦する。

 しかしシグルドはさらに速度を上げ、そのままビームを振り切って見せた。

 

 「速い! スラスターも強化されているのか!」

 

 イレイズのビームライフルを潜り抜けたシグルドはサーベルの柄を掴むと抜き打ちで斬り払ってくる。

 速度の乗った斬撃がイレイズの装甲を掠め、浅い傷を作り出した。

 

 「くっ、この動きは……どこかで?」

 

 一度距離を取り、再び速度を上げて迫ってくるシグルド。

 それを見たアオイも前方に加速し、敵機を迎え撃った。

 イレイズの右手から迫り出したブルートガングとシグルドのビームサーベルが真正面から激突、火花を散らして鍔迫り合う。

 

 「……誰だ!? 誰がその機体に乗っている!?」

 

 アオイは目の前の敵から奇妙なデジャヴを感じ取っていた。

 

 何処かで戦った事があるような―――

 

 いや、全く初見の敵と交戦しているような―――

 

 奇妙な感覚だった。  

 

 《流石に簡単には仕留められないようだな、アオイ・ミナト君》

 

 加工されているのか、非常に聞き取りにくい機械的な声。

 だが、その声を聞いた途端ゾクリと悪寒のようなものが走る。

 アオイは悪寒を堪えるように歯を食いしばると、自分を叱咤するように声を張り上げる。 

 

 「……誰だ!」

 

 《フフ……私の名はカース。世界に呪いの種を撒く者さ》

 

 「カース!?」

 

 思っても居なかった名前に思わず驚愕してしまった。

 

 カース。

 

 そう名乗った男をアオイも知っている。

 

 時にテロリストに扮し、時には地球軍のパイロットを務めた男。

 

 その正体はデュランダルの先兵であり、己が内なる感情に従って生きた人物である。

 

 しかしその男はすでにこの世には居ない。

 

 以前の戦いの中で倒された筈だからだ。

 

 生きていたのか、それとも別人が名乗っているだけなのか。

 

 「どっちにせよ倒すべき敵である事に変わりはないよな!」

 

 《同意させてもらおうか。君達は厄介な敵だよ。故にこの機会に仕留めさせてもらう》

 

 「ふざけろ!」

 

 力任せにシグルドを弾き飛ばし、こちらもビームサーベルを斬り払う。

 半円の軌跡を描く光刃。

 それに反応して飛び退くシグルドにすかさずビームマシンガンを突きつけた。

 

 「もらった」

 

 銃口から連続で発射されたビームがシグルドのコックピット目掛けて突き進む。

 しかしシグルドは最小限の回避運動ですべてかわして見せた。

 

 「なっ、今の位置で避けた!?」

 

 《それでは当たらんな》  

 

 側面に回り込んだシグルドが放った蹴りがイレイズの腹に直撃し、アオイは地上に落とされてしまった。

 

 「ぐああああ!!」

 

 《どうした? デュランダルが恐れた君の力、その程度ではないだろう》

 

 「ミナト少尉!?」

 

 「アオイ!? 今、援護に――」

 

 「シン、前から新手!」

 

 シグルドの襲撃を受けたアオイに気がついたシン達が援護に向かおうとするが、敵の増援が進路を阻む。

 

 《君達は彼らの相手をしているといい》

 

 増援に駆けつけた者達にその場を任せ、シグルドはシールドから展開したビームクロウを構える。

 

 「この!」

 

 追撃してきたシグルドから逃れるように地面を滑るイレイズ。

 そこにヒュドラの光が襲いかかる。

 

 《悪いが逃しはしない。借りもあるのでね》

 

 「借りだと、ぐっ!?」

 

 ヒュドラをシールドで受け止め、圧力に耐えるイレイズ。

 そこにシグルドの腰に装備されたミサイルポッドから発射されたミサイルが降り注いだ。

 VPS装甲の上から伝わる激しい振動に歯を食いしばり、アオイは建物の間を縫うように回避運動を取る。

 ミサイルとビーム砲の波状攻撃。

 それが地面を滑空するイレイズの周囲の建造物に次々となぎ倒していく。

 

 「くそ、被害が! 不味いな、シン達から引き離されてる。他の連中は何をやって……えっ」

 

 そこでアオイは気がついた。

 テロリスト相手に交戦しているのは自分達と同盟軍、ザフトだけで、地球軍保守派とテタルトスの機体の姿は確認できない。

 

 「……これって、くっ」

 

 爆発の煙幕に紛れて突っ込んできたシグルドのビームクロウをシールドでギリギリのタイミングで受け止める。 

 

 「このままじゃジリ貧だ。何とか体勢を立て直して」

 

 《させはしない》

 

 反撃に転じようとしたイレイズだが先手を取られた。

 下から掬い上げられる形で振るわれたシグルドの光爪が右足を食い千切られてしまった。

  

 「ぐぅ、まだァァ!!」

 

 バランスを崩しながらも放ったマシンガンの一撃がシグルドのライフルを吹き飛ばす。

 

 《チッ、流石と言っておこうか、アオイ・ミナト君。しかし!》

 

 シグルドは損傷の影響も気にする事なく、再びヒュドラを放つ。

 腹部から発射された閃光がイレイズのシールドを弾き飛ばすと、一足飛びに距離を詰めた。

 

 「チッ」

 

 盾の代わりにブルートガングを引き出し、上段から振り下ろされた光爪を受け止める。

 

 《その機体では君の本領は発揮できまい!》

 

 地面に倒れ込んだイレイズにもはや光爪から逃れる術は無い。

 死の爪を振りかぶるシグルド。

 その危機を前にアオイは最後のカードを切った。

 

 「……どいつもこいつも! 俺の愛機を馬鹿にするな!」

 

 弾ける感覚。

 SEEDの発動だった。

 アオイも体勢を崩しながらもビームサーベルを引き抜く。

 

 「うおおおおおお!!」

 

 《ッ!?》

 

 サーベルをシグルドの眼前に突き出す。

 

 それでもカースは速度を緩めず、アオイもまた手を止めない。

 

 交差する機体と刃。

 

 一方の刃が肩部を貫き、一方の刃が腹部を切り裂く。

 

 二つの刃が激突したと同時に切り離されたミサイルポッドが、二機を巻き込む形で爆散した。

 

 

 

 

 痛む体に鞭打って起き上がったマユが見たのは暗がりに満ちた会場の姿だった。

 会場全体を明るく照らしていたライトは落ち、非常用の照明に切り替わっている。

 天井も崩れ瓦礫が幾つか積み上がっていた。

 あの衝撃で会場全体が崩れなかったのはこの場所がシェルターとして作られているからだろう。

  

 「二人とも大丈夫ですか?」

 

 マユの体の下にはカガリとアイラの二人がいた。

 あの衝撃が起きた瞬間、マユは咄嗟に二人を押し倒し、庇うように覆いかぶさったのだ。

 

 「あ、ああ。私は大丈夫だ」

 

 「ありがとう、マユ。貴方は怪我は無いかしら?」

 

 「はい。問題ありません。それよりも」

 

 問題はこれからどうするかだ。

 幸いレヴァンには怪我はないようで特務隊の面々がガードについているのが見えた。

 怪我もないようだし、あちらは気にしなくてもよいだろう。

 ゲオルクやイスラフィールも無事だったようで、部下に指示を出している。

 しかし何人か怪我人がいるようで、所々からうめき声が聞こえてきた。 

 

 「できればさっさと脱出したいんですけど」

 

 「外の状況も分からない以上、迂闊に動くのは危険。怪我人もいるし外からの救援を待つのが得策か」

 

 「ええ。でもこの場所に留まるもの危険なのは変わらないですけど」

 

 確かにこの場所はシェルターになっているが、いつまでもつかは不明である。

 もしかすると次の攻撃でこの場所が崩れ落ちてきてもおかしくはない。

 仮に崩落が起きれば逃れる術はなく、そのまま潰れて死ぬ事になる。

 マユが脱出するべきか、判断に迷っているとゲオルク・ヴェルンシュタインが壇上に上がっていくのが見えた。

 

 「会場におられるすべてに方に申し上げる。このままこの場所に留まり続ける事は非常に危険だ。無論、外の状況が分からない以上迂闊に動けないという事も重々承知している。だが、今のこの状況はまぎれもなく非常事態である。だからこそ我々が動かなくてはならない」

 

 「どうするというのです?」

 

 「非常通路から外へ向かう。その途中には通信設備を備えた端末室もある。そこで状況も確認できるだろう」

 

 「しかし怪我人は?」

 

 「重傷者はいないようだが、もし怪我で動けない者は誰かが手を貸し後からついて来てもらいたい。他に怪我の無かった者は先行する」

 

 ゲオルクの意見に反対する者は誰もいなかった。

 危険なのは承知の上。

 今の状況を打開するには確かにそれしかない。

 情報不足の中では十分な対応だった。

 混乱する各陣営の代表を纏め、的確な指示を出したゲオルクの手腕は確かなもの。

 だが、マユはどこか奇妙な違和感のようなものを感じ取っていた。

 対応があまりにスムーズ過ぎる。 

 それは昔、デュランダルが『ブレイク・ザ・ワールド』が発生した時の対応に感じたものと同じだった。

  

 「まさか……」

 

 胸中に湧き上がる疑問をカガリ達にも伝えようとしたその時、いきなり会場に扉が乱暴に開け放たれた。

 その場に現れたのは味方の部隊ではなく、銃で武装したテロリスト達だった。

 

 

 数人の男が銃をいきなり乱射、そして――

 

 

 壇上に立っていたゲオルク・ヴェルンシュタインの体を撃ち抜いた。

 

 

 乱射された銃弾によって無数の銃創を作り出されたゲオルクの体は何の抵抗もなく床に倒れ込み、真っ赤な血の海を作り出す。

 

 

 その光景に誰もが思わず言葉を失う。

 

 

 だが、テロリスト達は違った。 

 

 「死ね!」

 

 ゲオルクを射殺した者とは別の男が構えた拳銃がカガリ達を狙って構えられる。

 

 「ッ、危ない!」

 

 マユは咄嗟にカガリとアイラを引き倒し銃を構える。

 

 だが、マユがトリガーを引くより先に、発射された銃弾が容赦なく彼女の体を撃ち抜いた。 

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