哨戒任務についていたクレオメデスの艦長室。
アスランは渋い表情を隠さず、ヴァルターから手渡された報告書に目を通していた。
「……ハァ」
「不満ですか?」
「……俺が口を出す事ではないのは理解しています。本人が望んでいるならなおの事です」
報告書に書かれているのは、新しく軍に志願した者のリスト。
その中に先日テタルトスへ亡命してきた少女ミレイア・ロスハイムの名前が記載されている。
アスランが渋い表情を浮かべているのは、これが理由だった。
「その割に不満そうですよ。そんなに彼女を巻き込むのが嫌なら、連れてこなければよかった。保護を選択したのは貴方です、ザラ中佐」
「ですから俺が口を出す事ではないと言っているんです。妙な勘ぐりが止めていただきたいですね、ランゲルト少佐」
確かにミレイアをテタルトスに連れてきたのはアスランだ。
そういう意味ではヴァルターの言う事は正しい。
しかし軍に志願したこと自体は彼女の意思であり自己責任である。
それ等を踏まえてアスランは何も言わないのだ。
彼女が軍人となって戦う際には気にも掛けよう。
望むなら出来る限り力にもなろう。
危機的状況に陥ったなら助けもしよう。
だが、それだけ。
無論、アスランなりに責任は果たすつもりではある。
だがそれ以上干渉するつもりは毛頭なかった。
「失礼しました。では、こちらの命令書の方はどうされるのです?」
そう、アスランが渋い表情を浮かべていたもう一つの理由。
それがバルカナバート基地から通達があった緊急の命令書だった。
「ミュンヘンの襲撃。それに伴う作戦行動」
「ええ。緊急ですし、すぐにでも動く必要があると思いますが?」
「……分かっています」
しかし渡された命令書を何度読んでもアスランは納得ができなかった。
それは感情論による話ではない。
単純に腑に落ちなかったからだ。
ミュンヘン会談における防衛計画についてはアスランも何度も目を通した。
見る限り防衛計画に落ち度はなかった。
流石にあり得ないとまでは言わない。
それでも単純に襲撃するには難しい状況だった筈だ。
「……誰かが防衛計画を漏らしていた。いや」
この命令書を読む限り、考えられるのは――
「ザラ中佐?」
「いえ、クレオメデスの進路を変更。各パイロットに出撃準備をさせてください」
「了解しました」
ヴァルターに指示を出し終えたアスランはもう一度だけ表情を曇らせながら手元の命令書に視線を落とす。
「……セレネ」
防衛部隊に参加している筈の大切な女性を思いながら、アスランは席を立った。
◇
幾つもの煙が立ち上がる街並み。
それら蹂躙しようとする巨人と対峙する同盟のモビルスーツ。
モニター越しでその光景を眺めていたファウスト・クアドラード大佐は僅かに口元を歪めた。
《大佐、我々もそろそろ駆け付けるべきでは?》
「そうだな。そろそろ頃合いか……他の部隊にも命令を出せ」
独白にも似た呟きに通信をしていた副官が息を飲んだ。
事前にすべてを知らされていた彼は、ファウストの言葉の意味を知っていたからだ。
「こちらクアドラード大佐だ。全軍に告げる。我々はこれからミュンヘンに存在するすべて敵対勢力を排除する」
《……すべての敵対勢力をですか?》
それはつまり現在迎撃行動を取っている同盟、ザフトも同様に排除するという事だった。
「そうだ。この騒ぎ、単なるテロとは限らない。どこぞの勢力の策略という可能性も十分にある。無論、こちらの武装解除の要請に従うならばその限りではないが」
《要人の救出は?》
「今は事態の終息が最優先だ。それが必然的に要人救出にも繋がる」
《……り、了解!》
ファウストはコンソールを操作し、街全体の様子を確認しながら、頭の中で構図を描く。
「さあ、ここから始めよう。……新たな時代の幕開けだ」
どこか不吉な笑みを浮かべたファウストはすぐに表情を引き締めると、戦場に突入する部隊へ号令をかける。
その命令に従い、控えていたテタルトスのモビルスーツが次々と戦場へと飛び出していった。
◇
イレイズとシグルドの激突。
同時に繰り出された一撃が交差し、周囲に粉塵が舞い上がる。
爆発と共に上る爆煙。
相討ちかと思われたその時、煙の中から飛び出してくる機体がいた。
悠々と飛び出してきたのは不気味に光るモノアイが印象的な機体シグルドだった。
「フフ、流石と言っておこうかな、アオイ君」
カースは肩に受けた損傷に目を向けながら、楽しそうに笑みを浮かべる。
損傷しながらもあのタイミングで斬り返してくるとは予想外。
地球軍改革派のエースは伊達ではないという事だろう。
「しかし、それでも私の勝ちだがね」
カースの眼下にはVPS装甲が落ち、メタリックグレーの装甲を曝け出したイレイズの姿が見える。
ビームクロウを腹に受け、ミサイルポッドの爆発を真近で受けたイレイズは大破した状態で鎮座していた。
あれではパイロットが無事であろうとも動く事はできないだろう。
「さて名残惜しいが、君ばかりにかまけてはいられない。これで勝負を決めさせてもらおう」
ヒュドラを動かないイレイズに向け発射しようとトリガーに指を掛けた。
しかしその瞬間、カースの直感が警報を鳴らす。
「ッ!?」
その直感に従い、機体を引くとすぐにビームの一射が通り過ぎた。
「デスティニー!?」
「やらせるかァァァ!!」
背中の翼から光を放ち、アロンダイトを構えながら凄まじい加速でシグルドに肉薄してくる。
「やはりあの程度の連中では足止めも難しかったか」
所詮、彼らは最低限の訓練と僅かな実戦のみを積ませた言わば素人。
カース自身もエース級のパイロット相手に敵うとは微塵も思っていない。
「君もまた厄介な敵だ。故にここで消えてもらおうか、シン・アスカ君」
「セリス、アオイを頼む! ベアトリーゼはセリスの援護を! こいつは俺が!!」
デスティニーの鋭い剣撃を紙一重でかわしたカースは至近距離からヒュドラを叩き込んだ。
機体を呑み込むほど強烈な閃光がデスティニーに迫る。
ヒュドラの威力は折り紙つき。
いかにデスティニーでも直撃すれば撃墜、手足を掠めただけでも損傷は免れないだけの威力があった。
にも拘わらずデスティニーの動きは全く鈍らない。
「そんなもの!」
閃光が迫る直前で機体をバレルロール。
ビーム砲を回避したデスティニーはシグルドに向けてアロンダイトを振り抜いた。
強烈な対艦刀の一太刀。
それをカースはシールドを巧みに使い真正面から受け止めた。
「なっ、止めた!?」
「ッ、凄まじい斬撃だな。まともに受ければそれだけで真っ二つだ。しかし真っすぐすぎる」
押し込むデスティニーの剣を受け止めるシグルドのシールドから火花が飛ぶ。
完全に拮抗した状態。
先に動いたのはカースの方だった。
意図的にシールドを傾け、アロンダイトの軌道を逸らすとビームサーベルを逆手で引き抜く。
狙いはデスティニーの左腕。
「こいつ!?」
シンはこちらの攻撃を流しながら絶妙のタイミング。
並外れた技量だ。
シンは驚愕しつつ、回避運動を取った。
デスティニーはバランスを崩しながらもアロンダイトから左手を放し、サーベルの軌跡を回避する。
「このォォ!!」
そのまま右手でアロンダイトを無造作に振り上げシグルド目掛けて下段から振り上げた。
「良い反応だ。だが、先ほども言った通り、素直すぎるのだよ!」
シグルドは刃が届く前にデスティニーに蹴りを入れ、同時にヒュドラを発射する。
強烈なビームがデスティニーの右足を捉え、膝から下を消し飛ばした。
「ぐっ、まだまだァァ!!」
シンが咄嗟に左手で引き抜いたビームサーベルをブーメランのように投げつけ、シグルドの頭部に傷をつける。
「チッ、メインカメラが! 今の状態で君と戦うのは流石に不利か」
損傷を見て徐々に後退し始めるシグルド。
「逃げるつもりか!」
「フフ、君の戦うべき相手は私ではないよ」
「何!?」
その時、こちらに近づいてくる機影を確認する。
それは月に所属するモビルスーツであり、そしてストックホルム基地防衛戦においてシンが対峙した機体――ジンⅡ・アクティヴだった。
援護に来たのか?
いや、違う。
ジンⅡ・アクティヴは銃口を向け明らかにこちらを狙っている。
その隙にシグルドは距離を取っていくがシンにはそちらに構っている暇はなかった。
「テタルトスの!? 何で!?」
「こちらテタルトス軍リベルト・ミエルス大尉だ。直ちに武装を解除し、投降しろ。そうすれば命までは取らない」
聞こえてきたのは以前に接触したパイロットと同じ声、すなわちリベルト・ミエルスのものだった。
シンは以前の件での憤りを堪えながら、ライフルを突きつけてくるリベルトを咎めるように問いただした。
「どういうつもりだ? お前らは今の今まで何をやってた! しかも投降しろだって?」
「言葉通りの意味だ、シン・アスカ。今回の件、貴様らが仕組んだことでは無いかと疑われているという事だ」
「ふざけるな!!」
シンはアロンダイトを突きつけたまま、ジンⅡ・アクティヴを睨みつける。
周囲にはテタルトスのモビルスーツが次々と戦場へ介入してきているのが見えた。
しかも武器を向けているのはテロリストだけでなく、同盟やザフトの機体にもだ。
明らかに初めからこちらを殲滅する意図が感じ取れる。
「当然の反応だな。ならば問答は不要。この場で決着をつけよう」
「初めからその気だった癖に勝手な事を言うな!」
ビームサーベルを構え突っ込んでくるジンⅡ・アクティヴにシンのSEEDが弾ける。
「うおおおお!!!!」
「それでいい。全力で来い。それを俺は叩き潰し、運命と決別する」
空中で二機が刃を振るって激突する。
その間にも次々とテタルトスのモビルスーツが押し寄せ、徐々に同盟軍は後退せざる得ない状況に追い込まれていった。
◇
敵味方入り乱れる戦場。
テタルトス軍の強制的な介入により同盟軍とザフトはそれぞれバラバラに分断されながらそれぞれが離脱しようと動いていた。
すなわち撤退戦である。
そんな中、最も激しい攻撃に晒されていたのが、ミネルバとアークエンジェルである。
市街地から離れ遠慮なく攻撃を加えながら決して逃がさないとばかりに執拗にモビルスーツが追い掛けてくる。
「次から次へと。アレン達は?」
「未だ敵モビルスーツと交戦中です」
指示を飛ばすタリアの耳にテタルトス機からの降伏勧告が聞こえてくる。
「艦長、何度もこちらから戦闘停止の勧告をしていますが、テタルトス側の返答は武装解除して降伏しろの一辺倒です」
「くっ、どうしても私達を襲撃犯の仲間にしたい訳ね。メイリン、呼びかけを続けなさい。……無駄でしょうけどね」
今回の件の真偽がどうあれここで武装解除、もしくは降伏に応じてしまえば自分達がやったと認める事になる。
それだけは駄目だ。
何としてでもこのまま此処を切り抜けなければならない。
「会話の記録だけは取っておきなさい。アークエンジェルにも打電!」
気休めであろうとも、自分達が出来る事はしておくべきだ。
「「了解!」」
ミュンヘンから離れ、ストックホルムへ撤退を図る二艦に矢継ぎ早にミサイルが降り注ぐ。
ミサイルが直撃する度に爆発が艦を揺らし、さらに進路を阻むべく敵のモビルスーツが立ちふさがる。
「消耗している所を狙ってくるなんて」
「仕組まれていたってことかしらね?」
防衛の為の機体が迎撃に動くが、不利な状況である事に変わりはなかった。
これはこちらのエースがそれぞれ抑え込まれていたことが大きな要因として挙げられる。
ルナマリアとラクスはデストロイを押しとどめ、アレンは改修されたブリアレオスとの激戦に身を投じていた。
「そこ!」
ブリアレオスから発射されたビームライフルの一射を絶妙なタイミングで避け、距離を詰める。
接近戦の間合いに入ったエクリプスはサーベルでコックピットを貫通させた。
サーベルのビームに焼かれたパイロットは断末魔すら上げる事ができず、機体諸共跡形も残らずこの世から消え失せる。
「後、8機!」
仲間の仇とばかりに撃ちかけられるスキュラの砲撃。
「当たらない!」
エクリプスは前方に加速してスキュラを回避する。
当然、ブレアレオスは逃がすまいと追撃してきた。
そこでエクリプスは脚部をわざと地面につけ、無理やり、かつ急激に速度を落とす。
「ぐっ」
無論、そんな無茶な事をすれば機体脚部に凄まじい負荷をかける事になる。
しかしアレンはそれでも敵の虚を突くため無茶な機動を強行、弾けるようにブレアレオスの背後に回り込むとバズーカ砲を撃ち込んだ。
砲弾が敵機の右腕を吹き飛ばし、さらに発射した砲撃が片足を奪い取る。
バランスを崩したその隙を逃さずビームライフルで撃ち抜いた。
「これで残り7! チッ、流石にI.S.システムが発動していると厄介だな」
そもそもラナシリーズ自体のパイロット能力は非常に高い。
高性能な機体とI.S.システムが加われば、その反応速度は通常とはまるで違うものになる。
先ほどの攻撃が良い例だ。
完全に虚を突いた筈にも関わらず、一撃で仕留める事ができなかった。
「ハァ、ハァ、反応が鈍すぎる!」
ここに来てエクリプス自体がアレンの全力に徐々についてこれなくなってきていた。
その所為で反応が僅かに遅れ、機体が無傷とはいかず、装甲の所々に無数の傷が刻まれていた。
「しかも新型の性能も高いから余計に面倒だ」
ブリアレオスの機械のように正確かつ精密な連携と機動。
これは厄介であり、数まで揃っているとなると脅威としか言いようがない。
しかし、
「それでも、所詮イミテーションはイミテーションなんだよ!」
機械のように正確。
それはつまり特有の癖なども無く、正確ゆえに読みやすいということを意味する。
要するにパターンさえ読めれば恐れるに足りない。
アレンはライフルから背中のエッケザックスに持ち替えると再び敵陣へと突っ込んでいく。
「ハアアア!!」
振るった剣がブリアレオスの腕を裂き、返す刀で放った一太刀が深々と胴体を袈裟懸けに斬り裂いた。
さらにビームサーベルを投げつけ背後に回ったブリアレオスの頭部を破壊すると至近距離からバズーカ砲を撃ち込んで撃破した。
「残り5! このまま――ッ!?」
コックピットに甲高い音が響き渡り、レーダーに光が映し出される。
「新手!?」
振り返ったその先。
山間を抜けながらどこか見覚えのある形状を持った戦艦がウィンダムやイリアスといったモビルスーツと共に姿を見せていた。
全体を包む浅黒い装甲に突き出された砲門。
両舷に設置されたモビルスーツハッチ。
その姿はアークエンジェルを彷彿させる。
しかしドミニオンのような同型艦ではなく、一回り大きい上に形状も違う部分が多い。
「アークエンジェル級の新造戦艦?」
地球軍保守派のものと思われるモビルスーツと共に姿を見せた戦艦のハッチが解放される。
そこから現れた機体にアレンは思わず目を見開いた。
「あれは……よりによってあの三機か」
アレン達の前に飛び出してきたのはウィーン前線基地でも遭遇したヴォルケイノ、シュトゥルウム、ストリームの三機のガンダムだった。
「この状況で保守派まで……いや、デストロイや新型もいる以上は不思議じゃないか」
問題はこの状況をどう切り抜けるか、それだけだ。
デストロイの相手をしているルナマリア達はこちらに援護に来ている余裕はない。
「ハァ、俺だけでどうにかするしかないな」
武器を構え臨戦態勢に入った三機のガンダムと依然として周囲を飛び回るブリアレオスを睨みつけながら覚悟を決める。
「行くか」
アレンはゆっくりと息を吐き操縦桿を握りなおした。
◇
発せられた無慈悲な銃声。
銃弾がマユの体を貫くと彼女の体はそのまま仰向けに倒れこんだ。
「マユ!!」
血を流すマユにアイラが駆け寄ろうとするが、再び始まった銃撃がそれを阻む。
「お姉さま、伏せてください!」
会場に設置してある机の陰にアイラを引っ張り込み、銃弾から難を逃れた。
その隙に体勢を立て直した護衛役が銃で侵入者を牽制し、激しい銃撃戦が開始される。
「くっ」
カガリは銃撃をさける匍匐姿勢でゆっくりマユに近づく。
時折、頭上を通り過ぎ、近くで銃弾が弾けるたびに背中に冷や汗が流れた。
カガリもこういった修羅場を潜った経験はヤキン・ドゥーエ戦役で何度もある。
だが、あの頃とは違い最近では政治家としての活動を主としてきた。
なまらない程度で体を動かしてはいるものの、昔のようには軽々とは動けない。
「くそ、運動不足だな」
自分の運動不足に毒つきながら慎重に、机を盾にしながらマユをこっちに引っ張り込んだ。
「マユ、しっかりしろ!」
「うっ、くっ」
マユは脇腹を撃たれていた。
どうやら急所は外れているようだが、出血が多い。
放置しておけば命に関わる。
「応急処置だけでも」
マユの応急措置をしようとした時、侵入者の一人が銃を乱射しながら駆け寄ってきた。
「死ね!」
「くそ!」
「カガリ!?」
カガリの手に武器はなく、成す術はない。
せめてマユとアイラだけでも守ろうと覆い被さった時、飛び込んできた影が見えた。
金色の髪を靡かせながら、カガリ達の前に立ったのはテタルトスの制服に袖を通したレイ・ザ・バレルだ。
正確な射撃でカガリたちを狙っていた男を撃ち倒し、さらにもう一人を射殺する。
「よう! 調子はどうだ、レイ!」
「ハイネか」
横から飛び込んできたハイネがもう一人を素早く倒し、入り口付近にいた残りの敵も撃ち倒してゆく。
二人はかつては共に戦った仲間であり、お互いの癖も良く知っている。
息の合ったコンビネーションで会場に侵入してきた連中の大半が射殺する。
すると流石に不利と悟ったのか残った連中の動きが明らかに怯んだ。
「このまま畳み掛けるぞ!」
「了解」
ハイネとレイは机を盾に銃撃してくる連中も苦もなく撃ち倒し、残りは一人。
「クソォォ!! ならお前達だけでも!!」
残った男は銃を捨て、何かのスイッチを取り出すと指を掛ける。
「爆弾!?」
「させるか」
レイの一射が男の眉間を撃ち抜いた。
しかし、一歩遅い。
「伏せろ!」
男が倒れた時にはスイッチは押され、閃光と共に衝撃と爆風が会場全体を包み込んだ。
「うっ、お姉さま、大丈夫ですか?」
「ええ。何とかね」
爆発の影響で降りかかった細かい破片を振り払い、起き上がると会場は見るも無残な姿に変わっていた。
爆弾で破壊された壁や天井が会場を二分する形で崩れ落ちている。
どうやら保守派、イスラフィール達とは完全に分断されてしまったようだ。
「ご無事ですか?」
銃を持ったレイとハイネが近づいてくる。
怪我らしい怪我は見当たらない所を見ると無事にやり過ごしたらしい。
「私達はさっきの爆発で少し怪我をした程度で問題はないが、マユが……」
カガリの傍らには血を流したマユが倒れている。
撃たれた場所を布で抑えて止血しているが、早く治療を受けさせなければ不味い。
「カーライル議長は?」
「ご心配なく私は無事です」
話が聞こえていたのか特務隊の護衛を連れたレヴァンが歩み寄ってきた。
着込んだ服は汚れているが、大きな怪我はしていないようだ。
「レイ、そっちは?」
ハイネの問いにレイは難しい表情を浮かべて首を横に振った。
「ヴェルンシュタイン司令官は……駄目だな。死体も瓦礫で潰されているようだ」
あの様子では潰されなかったとしても、命は無かっただろう。
「幸いアルノルト議員はどうにか無事だが、他の何人かは命にかかわる程の重傷だ」
少し離れた場所でアルノルト達が横たわっていた。
その中には服が血で黒ずんでいる者もいるようで、素人目にも危険な状態である事が分かる。
「怪我人も多い。ここは危険ですから脱出しましょう。襲撃される危険もありますが、それはここに居ても同じことです」
「そうですね」
「……向こうとも分断されてしまったようだし、それしかないな」
レヴァンの提案に全員が頷く。
怪我人を迂闊に動かす事は危険。
しかしこの場に留まる方がもっと危険だ。
襲撃してきた連中がきたら今度こそ逃げ場がない。
「マユ、少しだけ我慢してくれ」
「アスハ代表、ここは私が背負いましょう」
「カーライル議長、しかし」
「私は怪我もしていませんし、怪我をした女性に背負わせる訳にはいかないでしょう」
カガリとアイラは互いの姿を見る。
大した怪我では無いにしろ、人を背負うとなると確かに厳しい。
「申し訳ありません、議長」
「お気になさらず。さあ、急いで」
マユの銃創部分に布を巻き付け、出来るだけ慎重にレヴァンの背に乗せる。
他の怪我人も応急処置を済ませると無事だった者が背に負い、非常用の通路の方へと歩き出した。
「では行きましょう」
ハイネとレイが先導し、背後には特務隊がつく。
これでもしも敵と遭遇した場合でも対応は可能になる。
非常用の通路は思った以上に幅が広く、天井も高い。
大人2人分くらいの高さはあるのではないだろうか。
カガリは歩きながら頭に叩き込んでおいた会場の地図を思い描く。
このミュンヘンに用意された会場には幾つかの非常用通路はすべて外へと繋がっている。
途中には避難シェルターとしても機能する部屋や外部と連絡を取る為の通信室、長い通路を移動する為の車などが設置されていた。
カガリ達が今歩いている通路はミュンヘンの街からかなり離れた場所へ繋がっていた。
流石に怪我人を抱えたまま街の外まで歩くのは現実的ではない。
途中に置いてある車を使うのが最善であろう。
出来る限り急ぎながら車が止めてある場所へ歩いていると、先頭にいたハイネが止まるように手で制した。
「何か来る。全員、一旦下がってくれ」
銃を構え全員が警戒態勢に入る。
すると聞こえてきたのは、何かの駆動音だった。
「車の音?」
「敵か?」
「さあな、とにかく警戒を怠るなよ」
何時でも発砲できるよう、敵であった場合に即座に射殺できるよう正面に銃口を向ける。
徐々に近づいてくる駆動音。
全員の高まる緊張感と共に車が姿を見せた時、驚いた声を上げたのは意外にも先頭で銃を構えたレイだった。
「……まさか!? どうしてこの場所に……」
近づいてきた車に乗っていたのは、カガリとも面識のあるセレネ・ディノ中尉だった。
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