機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第23話 儚い落葉のごとく

 

 

 

 

 心地よいまどろみの中、馴染み深い声が聞こえてくる。

 

 「では申し訳ありませんが此処は頼みますね、アスト」

 

 「ああ、二人とも気をつけてな」

 

 「はい。本当ならヤマト一尉の傍についていたいのですが……」

 

 「ニーナさん、貴方は任務に集中しても大丈夫ですよ。キラには私がついていますので」

 

 「それは私のセリフです、ルティエンス大尉。ヤマト一尉の面倒を見るのは私の役目」

 

 「……二人とも頼むから喧嘩は勘弁してくれ。正直、怖い。それより時間が無くなるぞ」

 

 「分かりました。アスト、後でレティシアの所に顔を出してくださいね」

 

 「ああ」

 

 扉が閉まる音を聞きながら、僅かに感じる痛みと共に目を覚ます。

 視線を横に向けると傍で険しい表情を浮かべながら何かを見ている友人の姿が見えた。

 

 「……アスト、此処は?」

 

 「目が覚めたか、キラ。此処はオスロ基地の医務室だよ。怪我は軽症らしいが、無理せず寝ていたほうがいい」

 

 「大丈夫だよ、これくらい」

 

 ベットから身を起こすと僅かに痛みが走るが、我慢できない程ではない。

 手に力を込めて、異常がない事を確認すると改めてアレンに向き合った。

 

 「それであれから何日経った? 戦闘は、皆はどうなったの?」

 

 「あれから三日くらいだ。皆、一応無事だよ。……そうでないものもあるけどな」

 

 キラの乗っていたフリーダムやエクリプスなどは完璧に大破。

 母艦であるミネルバ、アークエンジェルも動けない程の損傷を負ってしまったという。

 技師たちによれば沈まなかったのが奇跡的だとか。

 軍も混乱状態で未だ警戒態勢のままらしい。

      

 「レティシアは体調不良で今は休んでいるし、ラクスやニーナもさっきまで居たんだが交代で哨戒任務についたよ」

 

 「そうか。テタルトスの動きは……」

 

 「丁度いいな。テレビを見ろ。ご丁寧に教えてくれるらしい」

 

 アレンは部屋に備え付けてあるテレビの方を向いた。

 そこにはニュースと共にテタルトスの軍服を纏った人物が演説を行っていた。

 

 《全世界の皆さん、私はテタルトス月面連邦国地球駐留軍指揮官ファウスト・クアドラード大佐であります。本日は皆さんにお知らせしたい事があり、この場を設けさせていただきました》

 

 「彼は……」

 

 間違いない。

 以前に戦ったテタルトスの指揮官だ。

 

 《先日起きたミュンヘン事変と呼ばれる武力衝突。戦いを止める為の会談があのような惨事へと変わり、無残な街の姿に開催に関わった国の人間として慚愧の念に堪えません》

 

 《しかし世界は未だ混沌の只中にあり、ここで膝を屈してはそれこそあの惨状を生み出した者達の思うつぼです。そこで我々はこれらの状況を打開すべく一つの結論に達しました》

  

 「結論?」

 

 「大体予想できるけどな」

 

 かつてギルバート・デュランダルの行った演説と同じように世界中の人間がテレビの画面に釘付けとなる。

 

 《我々テタルトス地球駐留軍と地球連合軍は一度その枠組みを解体し一つに統合、新たに『地球圏統合軍』として生まれ変わる事を宣言いたします》

 

 《その名の通り我々はこの地球のみならず、宇宙を含めたすべてを統合、統一を目指します。これは一つとなる事で世界から無用な争いを一層、平和な世界の実現に向けて邁進していく事を目的としたものです》

 

 《皆さまの中にはかつての地球連合を思い浮かべる方もいらっしゃるでしょう。しかし我々はかつての連合とは違う。ナチュラル、コーディネイターといった生まれで差別はしません。人類を一つとし新たなステージへと上がらせる事こそが我々の役割であると考えています》

 

 《無論、異を唱える国々もある事でしょう。対話で解決できない場合残念ながら武力を行使せざる得ない場合もあるかもしれない。しかしよく考えていただきたい。このまま争い続けていても、世界は疲弊していくだけで平和が来る事などあり得ないと。だからこそ我々はこの道を選択しました。そしてこれは亡き我が父の最後の願いでもあります》

 

 「父親?」

 

 何故、ここでファウストの父親の話が出てくるのか理解できなかった。

 ここで父親の事を口にする以上は何らかの意図がある筈。

 だが、クアドラードの名を持つ有名な人物に心当たりはない。

 訝しむアレン達の疑問にファウストがすかさず答えを提示する。

 その答えはアレン達のみならず、味方であるテタルトス陣営にも衝撃を与えた。

 

 《私の本当の名はファウスト・ヴェルンシュタイン。ミュンヘン事変において平和の為に命を散らしたゲオルク・ヴェルンシュタインの息子であります》

 

 「なっ!?」

 

 「ゲオルク・ヴェルンシュタインの息子!?」

 

 《私の父は心より平和を望み、誰より人類の行くべき道を案じておりました。ミュンヘンの会談に自ら応じたのもその志故です。私はその志を継ぎたい。皆さんが志を共に同じ道を歩まれる事を強く望みます》

 

 演説が終わり、沈黙だけが世界を支配する。

 だが、ニュースを流していたアナウンサーもいつも的外れな事を言うコメンテーターも、街頭で立ち尽くす人々もこれから世界を暗雲が包み込む事になるということだけは理解していた。

 演説を聞き終えたアレンがテレビを消すとキラはポツリと呟く。 

 

 「地球圏統合軍か。彼らは初めからこうするつもりだったって事かな?」

 

 「そうだな。連中の不可解な動きもそれである程度説明できる」

 

 例の降下作戦で下した部隊を戦線に投入してこなかったのも、殆ど動きを見せなかったのも、今回の件に備えて戦力を温存したかったからだろう。

  

 「くそ! 結局後手に回るだけか!」

 

 「あのデストロイも彼らが譲渡したと見るべきだね。上層部はどう動くつもりかな?」

 

 「カガリ達の行方も掴めていないからな。今は残った議員達がまとめているが、統合軍の出方によっては不味い事になるかもしれない」

 

 ファウスト・ヴェルンシュタインは世界を統合、統一すると言った。

 ならば同盟に対しても強硬な姿勢を崩さないだろう。

 

 「アスト、僕は宇宙に上がるよ」

 

 「宇宙に?」

 

 「うん。状況がこうも切迫している以上、例の機体がすぐにでも必要だ。それに嫌な予感もするし」

 

 「確かにな」 

 

 彼らが今回、周到に準備していた事はほぼ間違いない。

 しかも念入りにだ。

 となるとテタルトスと保守派の仲立ちをするような形で裏で動いていた奴がいると考えるのが自然だ。

 さらに現状、戦力不足は否めない。

 アレンやキラだけでなく、シンやアオイと言ったエースパイロットたちも機体を失っている。

 新たな機体がすぐにでも必要だ。

 その時、アレンの懐にある端末から着信を知らせる音が鳴る。

 端末を取り出した瞬間、思わぬ相手からの連絡に声を上げてしまった。

 

 「なっ!? まさか――」

 

 「アスト?」

 

 「マユからだ」

 

 アレンはキラにも聞こえるように通話のボタンを押す。

 しかしそこから聞こえてきたのはマユの声ではなく、アレンが最も声を聴きたくない男のものだった。

 

 《やあ、聞こえているか、カウンターくん》

 

 「ヴェクト・グロンルンドか……何故、お前がマユの端末をもっている?」

 

 《そう怖い声を出すなよ。こっちにも色々あるんだからさ。それより例の話、そろそろ答えが欲しいんだけどね》

 

 「ニュースを見てないのか? 今はそれどころじゃない」

 

 《そう言わずにさ。マユちゃんや確かカガリちゃんだよな、ヒビキの作ったコーディネイターの片割れは。あ、あっちは手が加えられてないんだっけ。まあ、どうでもいいか。とにかく彼女達の行方が知りたいんだろ?》

 

 「貴様……」

 

 《取引だよ、前と同じさ》

 

 アレンは端末を握り潰すのではないかと思うほど力を籠める。

 

 「アスト」

 

 「分かってる」

 

 無理やり感情を押さえつけ、出来るだけ冷静に声を出す。

 

 「……マユ達はアムステルダムに居るのか?」

 

 《それは了承という事でいいのかな?》

 

 「前に言った通りだ。ルナマリアを巻き込むもの以外なら――」

 

 そう言いかけた所でいきなり医務室の扉が開く。

 そこには不服そうな顔したルナマリアが立っていた。

 何も言わずアレンに歩み寄り端末を素早く奪い取る。

 

 「実験でも何でも付き合ってやるからさっさと場所を教えなさい!」

 

 「お、おい」

 

 「アレンは黙っててください」

 

 《やあ、お嬢さん、君も居たのかい? ま、了承してくれて良かったよ》

 

 「いいからさっさと教えなさい」

 

 《せっかちだねぇ。じゃあデータ送っておくから確認してよ》

 

 通話が切れると同時に端末にデータが送られてきた。

 表示されている地図はアムステルダム市街地のものに間違いない。 

 

 「アレン、あの胡散臭い研究者の事、やっぱり自分だけで対処するつもりでしたね」 

 

 ジト目でこちらを睨んでくるルナマリアにアレンは思わず一歩後ずさってしまった。 

 

 「うっ、そんな事はない。ここに居るキラやニーナにも協力してもらうつもりだった」

 

 「で、何で私に声かけないんですかね? 私だって当事者ですし」

 

 「いや、その、奴には出来るだけお前を関わらせたくなかった」

 

 「……気持ちは嬉しいですけど、少しは頼ってください! アレンは前から一人で抱え込みすぎなんですよ」  

 

 レティシア並みの説教が始まってしまった。

 その様子を見たキラが苦笑しながらアレンの肩を叩く。

 

 「まあまあ。でもアスト、彼女も言う事も間違ってないよ。そういう気遣いは君らしいけど」

 

 「キラ、しかし奴の素性も含めてこの件は本当にヤバい。しかも提示された内容は――」

 

 「それも分かってる。どうなのかな、ルナマリアさん? アストの言う事も間違ってない。この件は根が深い。成果が得られるまでにかなりの時間が掛かると思う。危険が伴うし深入りすると君の人生自体台無しになる可能性も十分にある。それでも?」  

 

 「……勿論です」

 

 真剣な顔で頷くルナマリアにアレンはどうしても確認しなければならない事を問いかけた。

 

 「何故、そこまでするんだ、ルナマリア? これは上からの任務じゃない。お前がそこまでする必要はないんだぞ」

 

 「それはアレン達だって同じでしょ」

 

 「俺には理由があるさ」

 

 「私にだってあります」

 

 「それは一体」

 

 真剣な表情を浮かべていたルナマリアが一転した悪戯した子供のような無邪気な笑顔に浮かべる。

 

 「私はアレンのパートナーですから」

 

 

 

 

 

 ファウスト・ヴェルンシュタインの演説から十日あまり。

 ユーラシア連邦はかつてない程の緊張感に包まれていた。

 軍は統合軍の侵攻に備える為、中心都市であるモスクワを守るように各基地が臨戦態勢に移行。

 会議場へ集まったユーラシアの重鎮達は連日の協議を行っている。

 今日もまた緊急召集によって会議場に駆けつけていた。

 一様に表情が固く、真剣な目で中央に設置されたスクリーンを見つめている。

 

 「以上がテタル、あ、いえ、地球圏統合軍から送られてきたメッセージとなります」

 

 統合軍より送られてきたデータを読み上げた進行役の男性が若干の怯えを滲ませながら会場を見渡す。

 すると正面に座っていた男が力任せに机を殴りつけた。

 

 「ふざけるな!」

 

 机を殴った男の近くにいた議員もそれにつられるように立ち上がった。

 

 「何が統合軍だ! かつての連合とは違うだ! 奴らは結局何も変わっていない!」

 

 「ええ。要するにこれは無条件降伏せよと言っているようなものですよ」

 

 送られてきたメッセージに会場全体が怒号に包まれ、進行役の男性もあたふたと戸惑っている。

 そんな一触即発の会場に水を差すように隅に座っていた議員の一人が口を開いた。

 

 「しかし降伏する以外にはどうしようもないと思われますが……」

 

 「何だと!」

 

 「統合軍の戦力は明らかにこちらを上回っています。最新鋭のモビルスーツも揃っていますし……質でも量でも我々に勝ち目はありません」

 

 図星を突かれ興奮しきりだった会場が一転して静まり返る。

 事実、ユーラシアの戦力は統合軍に遠く及ばない。

 主力として戦線に配備されているのは改良されているとはいえすでに二年前の機体であるウィンダム。

 最新鋭機の開発も行っているとはいえ、それも形になっていない状態である。

 

 「あの男から提供された機体群の研究はどうなっているのだ?」

 

 「解析、研究させていますが時間が足りません。それにその件もあるからこそ降伏すべきです。交渉する余地が残されている今のうちに」

 

 「……やはりあの男は統合軍側の人間だったか」

 

 「どうでしょうね。そう単純な話とも思えませんが……何にせよ我々は悪魔と取引をしてしまった。後戻りはできません」

 

 その時、会場内にスーツ姿の秘書らしき男が会場内に駆け込んでくると軍人らしき恰幅の良い男に耳打ちする。

 

 「な、何!?」

 

 「どうされたのです?」

 

 「ミュンヘン会談を襲撃した連中がこちらの勢力圏に逃げ込んできたらしい。それを追って統合軍の部隊が侵攻を開始したと」   

 

 

◇  

 

 

 ユーラシア連邦の国境線に張り付く形で展開されていた統合軍の部隊。

 命令を受けた彼らは次々とモスクワ目がけて進軍を開始する。

 名目上は逃げ込んだ襲撃者たちの追撃という風になってはいるが、あくまで名目上の話。

 統合軍がこれを機に一気にユーラシアを併合してしまおうという思惑は誰の目にも明らかであった。

 しかしいかに戦力で上回っていようとも、簡単に制圧して終わりとはならない。

 ユーラシアを降伏させるためには途中に守りの為に建設されていた幾つかの軍事基地を落とさねばならないからだ。

 そこで統合軍は軍を出来るだけ広域に展開させ、スモレンスク、サンクトペテルブルクなど複数の軍事基地を同時に攻略する作戦に出た。

 

 その一番槍。

 

 大きな障害として立ちふさがるクルスク前線基地に圧倒的な戦闘力で突撃するのは三機のガンダム。

 ヴォルケイノ、ストリーム、シュトゥルウムだった。

 

 「ウィンダムとかダガーLとか旧型ばっかりだけど、結構数がいるな」

  

 「本当。でも私達の敵じゃないけどね」

 

 「毎回言ってるだろう。油断するんじゃないよ、アンタ達!」 

 

 「「了解!」」

 

 胸部のスキュラがダガーLを消し飛ばし、発射されたミサイルが敵陣形を崩す。

 

 「ふん、今日は久しぶりに私も前線で暴れさせてもらおうかね」

 

 アルネーゼが不敵に笑いコンソールを操作する。

 ヴォルケイノに装備されていた武装がパージされ、腰から二刀の対艦刀が顔を出した。

 

 「ジルベール、カーラ、援護しな!」

 

 「了解、姉御!」

 

 「分りました!」

 

 レイダーの鉄球が敵機の胴を打ち砕き、フォビドゥンが発射したフレスベルグの曲線を描いた火線がウィンダムを破壊。

 その隙を突いたカラミティが対艦刀を構えて突撃した。

 

 「無駄死にしたくなければ退きな!」

 

 器用に振るわれる二刀が容易く敵を斬り払い、激しい剣舞が敵モビルスーツを撃破する。

 それを阻もうとした機体の攻撃はすべてフォビドゥンによって防御され、レイダーの鉄球の餌食となって空中に消えた。

  

 ユーラシアの部隊を圧倒していたのは三機のガンダムだけではない。

 

 三機のガンダムとは別に基地へと進軍したディオネ級から出撃したのは銀色に塗装されたジンⅡ・アクティヴ。

 一早く戦場にたどり着いたジンⅡ・アクティヴは躊躇いなく激戦区へと斬り込んでいく。

 その機体に搭乗していたのは再起したヴィルフリート・クアドラード少佐であった。

 新たな機体であるジンⅡ・アクティヴを手足のように扱い、敵機にビームライフルを叩き込んでいく。

 

 「祖国を守る為に命を賭けるか。見事な覚悟だ」

 

 ヴィルフリートは旧式のモビルスーツでありながら一歩も引かない敵に対して称賛の言葉を贈る。 

 

 「俺には無かったものを持つお前達を俺は心から尊敬する」

 

 かつてのヴィルフリートは自分の為だけに戦っていた。

 

 そこには覚悟もなく、守るものもない。

 

 故にあっけなく敵に敗れ、地に落ちた。

 

 しかしそれは前の話。

 

 今はもう違う。

 

 兄も血筋も関係ない。 

 

 愚かな自分の所為で命を散らした者たちの為。

 

 自分を再起させてくれた少女の言葉に報いる為に。

 

 「俺も全力でお前達を倒す! それこそが俺が出来る唯一の返礼だ!」

 

 発射されたビームの雨の中を全く臆することなく速度を上げつつビームサーベルを振り抜いた。

 成す術なく切り裂かれたストライクダガーは空中で爆散する。

 

 「全力で向かって来い!」

 

 ヴィルフリートは両手で構えた刃を振るいながら、果敢に敵陣の中に突撃していった。 

 

 統合軍のエースパイロットたちが戦場を駆け、戦況を有利に運ぶ。

 

 それでも粘り強く持ちこたえるのはユーラシア最後の意地か。

 

 しかし物量の差はいかんともし難く、戦況は確実に統合軍側へと傾いていった。 

 

 そしてモスクワに最も近い、即ちユーラシアにとって最後の防衛線とも言えるクリモフスク軍事基地に一隻の戦艦が近づいていた。

 

 アスラン率いるクレオメデスである。

 

 「中佐、敵基地を確認しました」

 

 「あれがユーラシア最後拠点、クリモフスク防衛基地か」

 

 クリモフスク防衛基地。

 

 ユーラシア連邦の中核であるモスクワを防衛する為に建設された軍事基地だ。

 その規模は決して侮れるものではない。

 

 「クレオメデス戦闘態勢に移行、主砲による牽制射撃の後、モビルスーツ発進! 各所に通達!」

 

 「「了解!」」

 

 「後の指揮は任せます」

 

 「ハッ!」

 

 アスランはその場を副官に任せ格納庫へ降りるとそこでラディスともう一名の新人が待っていた。

 

 「聞いていると思うが今回の作戦目的はクリモフスク基地の無力化だ。ユーラシアも後がない以上、死にもの狂いで来る。常に警戒を怠るな。それから君は初陣となる。無茶はしないようにな、ミレイア・ロスハイム」

 

 「はい」

 

 准尉の階級を与えられ新人のパイロットとして配属されたミレイアに声を掛けると意外にも緊張していない様子で答えた。

 パイロットスーツを着込み敬礼を返してくるミレイアの姿に苦々しい感情が僅かにせり上がってくる。

 彼女はパイロットとして訓練を受け始めて一か月程度しか経っていない。

 にも関わらず前線に配属されてきた事もアスランの気持ちを苛立させていたが、一番気にかかったのは彼女が自らの意思で強化処置を受けた事だった。

 ラディスと違い軽度のものらしい。

 だが、アスランにとって強化処置というのは受け入れがたい嫌悪感があった。

 だがそれは過ぎた感傷に過ぎないと、自分の中に飲み込む。

 

 「戦場の空気を感じ取るだけでいいんだ。ラディス、面倒を見てやれ」

 

 「了解です」

 

 やけに素直なラディスに拍子抜けしながら自分の機体の下へ歩いていくと整備兵が走り寄ってきた。

 

 「中佐、ガーネットの応急修理は出来てますけど……」

 

 「何か問題でもあるのか?」

 

 「いえ、ここ何度か大きな戦闘を繰り返した所為か、機体全体にガタがきてるんですよ。本格的なオーバーホールか、いっそ全面改修でもした方がいいくらいです」

 

 「そうか」

 

 それも無理ない話だった。

 戦闘した回数こそ少ないもののガーネットが相対してきた相手は紛れもない強敵ばかりだったのだから。

 

 「できればあっちの新型機の方に搭乗する事をお勧めしますけど」

 

 整備兵の視線の先には見たこともない新型機がモビルスーツハンガーに収められていた。

 

 LFA-07 『バウ・アルゴル』

 

 テタルトス最新型主力機。

 テタルトスの高性能機であるH・アガスティアやシリウス・ラファーガといった機体の戦闘データを参考に開発された機体。

 量産機としては破格の性能を誇り、エースパイロットや指揮官クラスに配備され始めた新型モビルスーツである。 

 

 「アレの性能は折り紙付きですよ。量産機とは思えないくらいに高性能ですしね」

 

 「いや、あれはランゲルト少佐に任せた方がいいだろう。俺はガーネットの方が性に合っている」

 

 整備兵の肩をポンと叩き、ガーネットのコックピットへ乗り込むと先陣を切る形で戦場へと飛び出した。

 クリモフスク防衛基地ではすでにモビルスーツの展開は済んでいたらしく、迎撃体勢に入っていた。

 

 「流石に黙って見ている筈もないか。全機、油断するな」

 

 「「了解!!」」

 

 先行するガーネットの後を追うようにラディスのジンⅡ・アクティヴとミレイアのフローレスダガーⅡが戦場を駆ける。

 

 「中佐、速い。追いつけない」

 

 「無理して追う必要はない。腹立たしいけど、中佐の腕は本物だからな。ミレイアは中佐の言う通り戦場に慣れるだけでいい。そのまま俺についてこい」

 

 「り、了解」

 

 ミレイアのフローレスダガーを守りつつ、ラディスのジンⅡ・アクティヴが前に出る。

 

 「邪魔だ、雑魚ども!!」

 

 ビームサーベルを上段から振り下ろし、ウィンダムの頭部からコックピットまでを斬り潰し、側面から迫ってきた敵機をビームライフルで撃破した。

 

 「凄い」

 

 瞬時に二機の敵を落としたラディスの腕に驚嘆しながら、ミレイアもまた負けじとライフルを構えた。

 

 「私だって訓練を積んできたんだから、臆してどうするの!」

 

 ウイングコンバットのスラスターを吹かし、ビームを避けながらトリガーを引く。

 

 「そこ!」

 

 正確に敵モビルスーツのコックピット射貫き撃墜、さらにミサイルでダガーLを吹き飛ばした。

 

 「やった! このまま!」

 

 攻撃をかわしながら敵部隊に攻撃を加えていくミレイア。

 しかし初陣故の油断か、背後に回ったウィンダムの存在に気が付かない。

 

 「ッ、ミレイア、後ろだ!」

 

 「えっ、キャアアア!?」

 

 気が緩んだ一瞬の隙を突き、回り込んだウィンダムの一撃がフローレスダガーの片腕を吹き飛ばした。

 

 「ミレイア!? こいつ!!」

 

 ミレイアを傷つけた敵に怒りの籠った視線を向けたラディスは感情のまま突撃する。

 

 「よくもミレイアを――ッ!?」

 

 しかしその前にウィンダムは別方向からのビームによって撃破されてしまった。

 ウィンダムだけではない。

 周りにいた敵機が次々と射貫かれていく。

 

 「これはランゲルト少佐か」

 

 ヴァルターの駆るバウ・アルゴルがビームライフルを構えつつ、周りの敵機を一掃すると二機に近づいてきた。

 

 「二人共大丈夫ですか?」

 

 「俺の方は問題ありません。ミレイアの方も……損傷自体は軽微です。機体も爆発はしません」

 

 「そうですか。ミレイア・ロスハイム准尉、もっと周りをよく見なさい。敵は常にこちらを狙っているのだと、意識して訓練通りにやれば大丈夫です」

 

 「は、はい」 

 

 「グエラ少尉、彼女のサポートをしながら一度後退してください。大事ないとはいえ、命取りになる可能性もあります」

 

 「了解」

 

 後退していく二機を守るように立ちはだかるヴァルターにウィンダムの編隊が襲い掛かる。

 

 「機体の慣らし運転には丁度いいかもしれませんね」

 

 操縦桿の握りなおし、フットペダルを踏み込むとバウをウィンダム部隊目がけて突撃させた。

 

 「加速性問題なし。操作性も――」

 

 撃ちかけられたビームを軽々とかわし、すれ違い様のビームサーベルで敵機をあっさりと斬り捨てる。

 

 「うん、問題ありませんね。良い機体のようですね、バウは」

 

 ヴァルターは機体の挙動に満足したように頷くと踊るような軽やかな動きで敵部隊を翻弄していく。

 

 「ランゲルト少佐が上手くやってくれたようだな。あちらは任せておけばいいか」

 

 敵を撃破しながらアスランが一直線に向かっていた場所はクリモフスク防衛基地の指令室だった。

 そこを落とせばこの戦闘も終わりとなる。

 

 「可能性は低いが同盟が出てくる事も考えられるからな。さっさと蹴りを付けさせてもらう!」

 

 ライフルでビーム砲台と道を阻むウィンダムを次々と撃墜。

 指令室が目の前に迫った所に見慣れないモビルスーツが立ちはだかった。

 

 「……ガンダムか」

 

 特徴的な頭部は見間違えようもない。

 アスランの前にいるのは『ハイぺリオン』という名で呼ばれた機体である。

 かつてユーラシア連邦が自国製モビルスーツ開発計画に基づき開発したものだ。

 だが当時の大西洋連邦のダガー系主力とする事を決定した為にこの機体は僅かな数しか制作されなかった。

 量産試作機も開発されたものの、それもあくまで少数に留まっている。

 

 「ユーラシアがこんな機体を開発していたとはな」

 

 ハイぺリオンから発射されたビームキャノンがガーネットの肩を掠める。

 アスランは後退しながらやり過ごし、ライフルでけん制しながらシールドに内蔵された三連ビーム砲を発射する。

 モビルスーツの装甲をいとも容易く貫通し得る威力の一撃。

 しかし、ハぺリオンは腕から展開した光の膜で三連ビーム砲をあっさりと弾いて見せた。

 

 「ビームシールド!? 光波防御体か……」

 

 これがハイぺリオン最大の特徴だった。

 現在各陣営に普及しているビームシールドはこの機体に装備されたアルミューレ・リュミエールと呼ばれる防御シールドが原型となっている。

 アスランもビームシールドの防御力の高さは十分に知っていた。

 しかもこのパイロットは結構な腕前をもっているらしく、中々隙を見せないのも厄介だ。   

 

 「この動き……只者じゃない。ユーラシアのエースか」

 

 アスランの放った射撃を紙一重で回避するハイぺリオンのパイロットの動きは普通のパイロットのものとはかけ離れている。

 

 「厄介なお前を先に倒させてもらうぞ!」

 

 ハイぺリオンが落ちれば敵の士気を挫く事にもつながると判断したアスランは腰に装着された実剣オートクレールで斬りかかった。

 一足飛びで懐に飛び込んだガーネットの一撃を再びビームシールドで受け止めるハイぺリオン。

 

 「この手応え、やるな」

 

 何合かの打ち合いによって激しい稲光が二機を包む。

 アスランはビームシールドにオートクレールの先端を押し付けたままビーム刃を発生させハイぺリオンに向けて放出する。

 至近距離から発生したビーム刃が突きのようにハイぺリオンを吹き飛ばし、完全に体勢を崩した所にビームライフルと三連ビーム砲を発射した。

 しかし機体全体を光波防御帯で覆ったハイぺリオンには通じない。

 

 「厄介な防御能力だな。しかしその機体はバッテリー機、長くは続かないだろう!」

 

 その証拠にハイぺリオンはすぐ様、シールドを展開していたギミックを格納した。

 

 「悪いがやりようはいくらでもあるんだ!」

 

 再びオートクレールで斬りかかったガーネットを迎え撃つハイぺリオン。

 

 「そこだ!」

 

 斬撃をシールドで止めた瞬間を狙い脚部から放出したサーベルを蹴り上げる。

 ハイぺリオンを捉えた一撃は容易く右脚部を砕く。

 それでもビームマシンガンで反撃してくる辺りやはり油断ならない。

 

 「ハアアア!!」

 

 マシンガンの射撃を投棄したシールドを囮にして避け、別方向から回り込むともう一本のオートクレールを振り抜いた。

 二刀のオートクレールによる連続攻撃。

 伸びた光刃がハイぺリオンの腹部を裂き、もう一方の袈裟懸けの斬撃が左腕を斬り落とす。

 

 「このまま――ッ!?」

 

 しかし敵もさるもの。

 そう簡単にはやられないとばかりに背中から展開されたギミックが光波防御体をビームランスへと変えてガーネットへ突き出してくる。

 

 ガーネットに対するカウンターとなった一撃。

 

 それがアスランの眼前へと迫る。

 

 「うおおおおおお!」

 

 同時にアスランのSEEDが弾けた。

 

 スラスターを絶妙に操作し、機体を沈みこませるとコックピットから外れ、ランスが頭部の半分を抉り取る。

 

 瞬間、二機の距離はほぼゼロ。

 

 すれ違う一瞬で突き出したオートクレールがハイぺリオンの腹部へ深々と突き刺さる。

 

 さらに振り返り様に放った斬撃が背中を深々と斬り裂いた。 

 

 「仕留めたか?」 

 

 モニターの映像が乱れ目視では上手く確認できない。 

 背中のスラスターを破壊した事で地面に落下していったが、あれで倒せたかは不明だ。

 しかし機体に致命傷を与えた事は間違いなく、パイロットが生きていたとしても戦線復帰は不可能だろう。

 

 「良し、基地内に潜入して司令部を制圧しろ!」

 

 残った敵を薙ぎ払いながら、突入部隊を援護する。

 

 この数分後、突入部隊が司令部を制圧しクリモフスク防衛基地は陥落。

 

 他の軍事基地も時同じくして次々と降伏し完全に戦う力を失ったユーラシア連邦は統合軍に降伏した。

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