機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第24話 天上の翼

 

 

 

 統合軍によるユーラシア連邦侵攻。

 

 この戦いの結果ユーラシアが陥落した事により世界のパワーバランスは大きく変化した。

 

 全盛期よりも減退したとはいえ未だ強力な軍隊を率いる地球連合。

 

 宇宙の大勢力の一翼を担うテタルトス月面連邦国が派遣した地球駐留軍。

 

 それが一つになり誕生した地球圏統合軍。

 

 そこにユーラシアの勢力を併合した事により、他の国からも無視できない強大な勢力になっていた。

 未だに一兵卒間での地球軍、テタルトスとの確執は残ってはいるものの、それは時間が解決する問題であり、統合軍は概ね順調な滑り出しと言えた。 

 ユーラシアの戦力も取り込み(旧型ばかりで役に立たないという意見もある)、より精強となった統合軍は沸きに沸いていた。 

 そんな中、バルカナバート基地では作戦の功績称えた叙勲式が行われていた。 

 

 「先の戦闘ではご苦労だった。その功績を称え、勲章を授与する」

 

 講堂の壇上に立つファウストの言葉に従い秘書官が戦闘で活躍したパイロットたちの胸元へ勲章を付けていく。

 

 「そしてアスラン・ザラ。君を本日付けで大佐に任ずる。これからも頼むよ」

 

 「……私は中佐を任じられて日が浅い。にも関わらず大佐に昇格ですか?」

 

 「君の功績を考えれば当然だろう。降下作戦の成功、ゲオルク元指令の下した特務の達成、先の戦闘でのフリーダム撃破、さらにクリモフスク防衛基地の攻略。評価されるのは当たり前だよ。それとも不満かな?」

 

 煽てるように告げるファウストに内心嫌悪感が湧き上がる。

 それを表情には出さずアスランは頭を下げた。

 

 「身に余る大役ですが、謹んで」

 

 「期待しているよ、アスラン・ザラ大佐」

 

 「ハッ!」

 

 敬礼するアスランに満足そうな笑みを浮かべ、ファウストは講堂全体を見渡す。

 

 「今後も諸君の奮起に期待する!」

 

 「敬礼!」

 

 司会の男の言葉に合わせ、全員が一斉に敬礼するとそこで叙勲式は終わり、そのまま立食パーティーへと移る。

 政治家や官僚たちが参加するパーティーほど豪華とは言わないが軍人にしてみれば十分豪華な料理が幾つもテーブルに並べられている。

 先ほどまでの厳粛な雰囲気とは違い和やかに士官達が料理を口にしながら雑談をかわす。

 そんな中、アスランは所謂お偉方の挨拶回りに辟易していた。

 立場上こうした政治向きの仕事からも逃れる事ができないのは分かっている。

 だが、どうも性に合わない。

 しかし今回は元地球軍側の面子と初顔合わせも含まれているのだから、逃げられる筈も無かった。

 

 「浮かない顔ですね、ザラ大佐」

 

 髪の毛を背中で束ねたヴァルターが飲み物を片手に近づいてきた。

 

 「そういう貴方は場慣れしているようにも見えます、ランゲルト中佐」

 

 ヴァルターもまた今回階級を一つ上げ、中佐へ昇進を果たしていた。

 とはいえそれはヴァルターの実力があれば当然の事であり、むしろ昇進が遅かったとすら思えるほどだ。

 

 「何か悩み事ですか?」

 

 「いえ、あまりこういう場に慣れていないだけですので、お気になさらず」

 

 「義妹さんの事ですか? 確かに心配するのは無理ない事ですが……それともフリーダムの事ですか」

 

 相変わらず抜け目のないというか、人を見透かしてくる。

 こういう彼女とよく似たところは本当に苦手だ。

 確かにお偉方との挨拶で辟易していた事も事実だが、考えていたのは今ヴァルターが指摘してきた通り。

 セレネはミュンヘンでの戦いで行方不明、つまりMIAとなっていた。

 

 「……セレネの事であれば心配していませんよ。彼女は生きていますから。そしてキラも同じです」

 

 「フリーダムは貴方が倒したのでしょう?」

 

 「生きていますよ、キラは」

 

 これは確信している事だ。

 あの程度でキラが倒せるならば、とっくの昔に誰かが倒してしまっている。

 

 「敵を信じているのですか?」

 

 「信じているんじゃなくて、知っているんです。それより貴方の方こそゲオルク・ヴェルンシュタイン元指令の事はどうなのです?」

 

 ヴァルターがゲオルク・ヴェルンシュタインの腹心である事は周知の事実だ。

 その彼が死んだにも関わらず彼女に動揺した様子はまるでなく、ある種の不気味さを醸し出していた。

 

 「驚いてはいます。しかしだからといって何かが変わる訳じゃありません。私は今まで通りに職務を全うするだけです」

 

 「何も感じていないと?」

 

 「人は何時か死にます。早いか遅いか、それだけです。こんな時代ですから尚の事。まあそこに何を残せたか、やり遂げられたかというのもありますが……そういう意味ではヴェルンシュタイン元指令は十分に残せたのでは? 立派なご子息も居る事ですしね」

 

 言っている事は理解できる。

 彼女らしい意見であると納得もできた。

 しかし同時にそれが全く信用できないとも思った。

 彼女の言動が空々しく感じるのは穿った見方ともいえるが、信用もできなかったのだ。

 それでもどこか儚く見えたのはアスランが感傷的になっていたからかもしれない。 

  

 「お話し中失礼します、ザラ大佐」

 

 「ん、ラディスにミレイア・ロスハイム准尉か」

 

 声を掛けてきたのは無事初陣を終えたミレイアと中尉に昇進したラディスだった。

 

 「大佐、昇進おめでとうございます」

 

 「ああ、お前もなラディス・グエラ中尉。責任も一段と重くなる覚悟はしておけ」

 

 「ハッ!」

 

 そして隣に立つミレイアに声を掛けた。

 

 「ミレイア准尉、初陣ご苦労だった。体調はどうかな?」

 

 「はい、私は大丈夫です! ラディス中尉も居ましたし、ランゲルト中佐も助けてくれましたから!」

 

 「そうか」

 

 「それにしても大佐は凄いんですね! あそこまでの戦果を出しただけでなく、あのフリーダムを倒すだなんて!」

 

 「フリーダムを、知っているのか?」

 

 「勿論ですよ。アスト・サガミと並ぶ最初の変革者。『SEED因子』を持つ白い戦神と呼ばれたパイロットキラ・ヤマトでしょ!」

 

 興奮気味に語るミレイア。

 そういえば彼女は熱心なSEED思想の信奉者だった。

 結構な資料も読み漁っていたようだし、キラ達の事を知っていてもおかしくない。

 

 「凄くはない。確かにフリーダムは落としたが、パイロットはまだ生きているだろう。それに俺以上に戦果を挙げている人もいる」

 

 アスランは会場の端にいる男を見た。

 壁にもたれ掛かり傍で一人の少女と一緒にグラスを傾けていたのはヴィルフリートだった。

 彼こそ今回の戦闘でアスラン以上に戦果を挙げた人物である。

 話によれば獅子奮迅の活躍で敵を圧倒していたらしい。

 

 「そういえば彼、ずいぶん余裕が出てきましたね」

 

 「ええ。前はそれこそ抜き身のナイフみたいに近寄りがたかったですが、今はそれもない」

 

 何があったのかは分からないが、彼に心境の変化があったのだろう。

 それが彼を変化させたなら、良い事だと思う。

 

 「そんな事ありません。大佐は凄いんですから自信をもってください!」

 

 「ありがとう、ミレイア。これからの任務も危険が伴うだろうが、無茶はしないようにな。ラディス、彼女を守ってやれ」

 

 「了解です……アンタに言われるまでもないさ」

 

 ラディスの呟きに内心ため息をつきながら、聞こえないふりをするとアスランはパーティーの中心にいるファウストの方へ視線を向けた。

 

 一見、士官や高官たちと和やかな雰囲気で会話をしている。

 

 しかしその目は和やかな雰囲気からは程遠い、冷たい目をしていた。

 

 「……どう動く気か、ファウスト・ヴェルンシュタイン。いや、考えるまでもないか」

  

 「大佐、次の任務は決まっているのですか?」

 

 「……詳しくはまだ聞いていない。だがどこで戦う事になるかは予想出来る」

 

 「それは、何処です?」

 

 「これらからの主戦場は宇宙になる。すでにヴェルンシュタイン司令官は宇宙で部隊を動かしているという話だからな」

 

 その中でアスランは決着を付ける事になるだろう。

 

 かつての友と。

 

 想いを寄せた女性と。  

 

 そして倒すべき宿敵と。

 

 「……レグルスの完成を急がせる必要があるな」

 

 回収した例のデータの解析も終わっている頃だ。 

 決着をつける時はそう遠くないとアスランは拳を握りしめた。

 

 

 

 

 立食パーティーは時間が進むにつれて緊張感は薄れ、時折笑い声さえ講堂外に漏れ聞こえてくる。

 そんなパーティー会場を少し離れた位置で仮面の男カースが眺めていた。

 

 「……内心未だに敵意と疑念を抱えながら良くやるものだな。それともあれがファウスト・ヴェルンシュタイン殿のカリスマか」

 

 手に持ったグラスを傾け飲み物を呷っていると№Ⅰが足早に歩み寄ってきた。

 

 「カース様、例の件ですが確認が取れました。やはり無事でした」

 

 「場所は?」

 

 「アムステルダムです」

 

 「戦闘禁止区域か。№Ⅰ、連中の位置は確認できるか?」

 

 「調査中ですが……以前テタルトスが行った特務の所為か、同盟、ザフトの目が厳しくなっていますので調査は難航するかと」

 

 「ふむ。仕方ないか。一応調査は続行しろ。こちらでも情報収集くらいは行っておこう」

 

 カースが端末を取り出すと№Ⅰは珍しく僅かに嫌な表情を浮かべた。

 

 「そんなに嫌いか?」

 

 「……あの男を好きになれるような人物など、それこそ稀かと」

 

 「フ、確かに」

 

 カースは口元に笑みを浮かべながら、目的の男を端末に呼び出した。 

 

 

 

 

 

 オスロ基地にある医務室のベットで眠っていたレティシアは酷い倦怠感を感じながらゆっくりと身を起こした。

 

 「ハァ、最近本当に調子が悪い。……まるで何かに生気でも吸い取られたみたい」

 

 あのシリウスのパイロットに活力でも奪い取られたのだろうか。

 馬鹿馬鹿しいオカルトチックな事を考えていると医務室にラクスとセリスが入ってきた。

 

 「教官、起きて大丈夫なんですか?」 

 

 「ありがとう、セリス。疲れがたまっているんでしょうね、少し休めば良くなります」

 

 「無理してはいけませんよ、レティシア。最近はずっとそうですし、精密検査を受けた方が良いのでは?」

 

 「心配しすぎです、ラクス。この情勢ではそんな事言ってられません。いつ統合軍が動き出すとも限らないのですから」

 

 気遣ってくれる義妹に自然と笑みが浮かぶ。

 ラクスとは昔からの付き合いだから無理しても丸わかりだろう。

 だが今はそんな事は言っていられない。

 丁度聞きたかった事があったレティシアは話題を逸らすために別の話を振った。

 

 「そういえばアスト君は何処に行ったのです? 任務だとか言っていましたけど」

 

 昨夜様子を見に来たアストがそんな事を言っていた。

 しかしその雰囲気が妙にピリピリしていたというか、イライラしていたので気になったのだ。

 

 「アストはドミニオンと共にアムステルダムへ向かいました。詳しい概要は私も聞いていませんけど」

 

 「アムステルダム……」

 

 そういえばそこでヴィクトリアという名前の女性と会ったとか言っていた。

 レティシアと非常に似通っていたとも。

 

 「まさか……あのシリウスのパイロットが」

 

 「レティシア、私もあのシリウスとは交戦した事がありますが……」

 

 「私も交戦しました。教官の戦い方に、その」

 

 セリスもラクスも言葉を濁したが、あのシリウスの戦い方はレティシアと非常に似通っていた。

 

 機体制御。

 

 ポジショニング。

 

 高い精度を誇る狙撃を可能にした高度な空間認識力。

 

 仮にレティシアがあのシリウスに乗っていたら、ああやって戦うだろうと簡単に想像できるくらいには似ていたのだ。

 

 そしてもう一つ。

 

 全身を駆け巡った感覚。

 

 まるで鏡の中の自分が目の前にいるかのような――

 

 「どうやら私と無関係とはとても言い切れないみたいですね」

 

 「教官、あのパイロットは一体……」

 

 「それは私にもわからない。……それよりセリス、シン君たちの方は大丈夫なんですか?」

 

 「ええ、怪我も軽症です。ミナト少尉も怪我は大した事ありませんでした。でもアイザックやフォルケンマイヤー少尉の事では気を落ちしていましたけど」

 

 アイザックは沈んたとはいえナタルの機転のお陰か、乗員の大半は脱出に成功した。

 

 しかしベアトリーゼを含めた何人かは帰らぬ人となった。

 

 苦楽を共にした仲間が逝ったのだ。

 

 しかも自分が戦闘中にやられている間に。

 

 アオイでなくともショックだろう。

 

 「でもシンがついてますから大丈夫ですよ。あの二人、変に仲が良いんですよね。ちょっと嫉妬しちゃうくらいです」

 

 「そう」

 

 「レティシア、私達も一度宇宙へ上がろうと思っています。キラは新しい機体の調整する為、すでに宇宙へ向かいましたし」

 

 「キラ君が」

 

 そこまで事態は切迫しているのだと改めて痛感させられる。

 やはりのんびりベットで横になっている訳にはいかない。

 レティシアは未だに残る倦怠感を押し殺しベットから起き上がった。

 

   

 

 

 統合軍の誕生は戦闘禁止区域に指定されている都市アムステルダムでも少なくない影響をもたらしていた。

 治安維持の為に派遣されていたテタルトス軍と連合軍が合流し、それを警戒した同盟とザフトも連携を密にする。

 それがさらなる緊張をもたらし、都市全体が否応なくピリピリした雰囲気に包まれていた。

 そんな中、アレン達『グラオ・イーリス』はドミニオンを母艦としアムステルダムに到着していた。

 

 「……前来た時より、明らかに空気悪いですよね」

 

 「ああ。流石に戦闘にはならないだろうが、余計なもめ事は絶対に起こすなよ」

 

 「分ってますよ」

 

 「それでセイファート。アスカ達の居場所は分かっているのか?」  

 

 ナタルが胡散臭げに聞いてくる。

 彼女にはある程度の事情は話してあるが、そんな男からの情報を鵜呑みにはできないようだ。

 慎重な彼女らしいと言える。

 

 「ええ。ご丁寧に場所までデータで送ってきてますからね」

 

 「だが罠である可能性もあるんだろう。お前達だけで行くのは危険すぎる」

 

 「でも、今、部隊単位で踏む込む訳には行かないでしょう?」

 

 ただでさえアムステルダムの緊張が高まっている以上、迂闊な事はできないのが現状だ。

 統合軍側もこちらの動向は気にしている筈だからだ。

 

 「統合軍側には出来るだけこちらの目的を察せられないようにしたいですし」

 

 「分かった。何か起こった場合はすぐに連絡をよこせ。こちらでも何かしら対応を取る」

 

 「お願いします。行くぞ、ルナマリア」

 

 「了解」

 

 ヴェクトの下へ向かうのはアレンとルナマリアのみ。

 一応、かつらなどで変装し軍人であるとはバレないようしていく。

 何時でも援護可能なように数人は一般観光客に混じる形ですでに市街へと出ていた。

 アレンは帽子、ルナマリアは長髪のかつらで変装。

 服装は目立たないよう観光客風を装った格好に着替えると市街へ足を向けた。

 

 「相変わらず人ごみ凄いですね」

 

 「ああ。もしかすると前より人は多いかもしれないな」

 

 これもあの宣言の影響があるのだろう。

 戦闘に巻き込まれる可能性のある国にいるより、戦闘禁止区域であるアムステルダムに居た方が安全だと判断したのだ。

 溢れる人も観光というより荷物を抱えた避難民の方が多く見える。

 

 「それよりルナマリア、何で腕を組む必要があるんだ?」

 

 「この人ごみではぐれる訳には行かないじゃないですか」

 

 「ぐっ」

 

 確かにそうだが、その、くっつきすぎて胸が腕に当たっているというか。

 柔らかい感触が伝わって色々と困る。

 

 「どうしたんです?」

 

 「……いや、何でもない」

 

 余計な事は考えず、出来るだけ無心になりながら端末に記載された場所へとたどり着いた。

 

 「此処って前に来たバーですよね?」

 

 「ああ。とにかく入るぞ」

 

 アレン達が中に入ると前に案内してくれた店員が寄ってきて、店の奥へ案内された。

 

 「こちらです」

 

 案内された部屋を開けると個室のような形になっており、中央に地下へ続く階段が見えていた。

 

 「階段を降りて真っすぐ進んだ先でグロンルンド様がお持ちです。それからこれを」

 

 店員に渡されたのは何かしらの暗証番号が記入された紙とカードキーだった。

 

 「……ありがとう」

 

 どうやら此処もただのバーなどではないようだ。

 ルナマリアと顔を見合わせ、頷き返す。

 地下に降りると薄暗い明かりで照らされた空間にたどり着いた。

 大人が数人集まっても余裕で歩けるくらいの広さで、真っすぐに続く道が見える。

 全体像は、はっきり分からないが通路自体はしっかりとした作りになっており、簡単に崩落しないようになっているようだ。

 

 「こんなものどうやって用意したのかしら」

 

 「さあな。だが益々この件が厄介なものだって改めて分かったよ」

 

 警戒を怠らずゆっくり通路を進んでいくと大きな扉が見えてくる。

 

 その時、アレンは覚えのある感覚を感じ取った。

 

 「この感覚は」

 

 「どうしたんです?」

 

 「……いや、なんでもない。それよりもここのようだな」

 

 「カードと暗証番号を入力しないと開かないみたいですね」

 

 「さっきのか」

  

 扉の左側に設置された端末に暗証番号を入力。

 カードキーを通すとピーという音と共に扉がゆっくりと開いた。

 中は何かの研究施設を思わせる特殊な機材が散乱しており、まるでメンデルを思わせる光景が広がっていた。

 

 「ようこそ、カウンターくん。ちょっと遅かったなぁ」

 

 白衣を着たヴェクトが奥の方から歩いてくる。

 相変わらず身だしなみには頓着がないのか、白衣を着ている他は以前と同じようにだらしのない姿。

 しかしその目は変わらず無機質なものを見るかのように冷たい。

 やはりこいつにレティシアやルナマリア達を関わらせたくない。

 

 「ヴェクト・グロンルンド。マユ達はどこだ?」

 

 「そう焦るなよ。まあいいや、こっち」

 

 隣の部屋に案内されると何基かのポッドが並んでおりその中の一つにマユの姿があった。

     

 「マユ!?」

 

 「安心しなよ。今は治療ポッドに入っているだけだ。ただ銃撃されて時間が立ちすぎたのか、中々危険な状態から脱せないけどね」

 

 「助かるのか?」

 

 「それも君次第だよ、カウンターくん」

 

 マユの事すら交渉材料に使う気らしい。

 アレンは本気でヴェクトに対する殺意を抱きながら、怒鳴り声を上げた。

 

 「実験なら協力してやると言った筈だろうが!」

 

 「冗談だよ、冗談。安心しなよ、君からの返事をもらった後にちゃんと処置しておいたから」

 

 「本当だろうな?」

 

 「ああ勿論だよ。ちゃんと処理は済ませておいたさ。を私が信じられないかな?」

 

 当たり前だという言葉を必死に飲み込む。

 

 「それで、どうしてマユがここに居る? 何があった?」

 

 「それはお仲間に聞いたらどうだい」

 

 さらに別の部屋に案内される。

 そこではいくつかのベットが並び、包帯を巻かれた怪我人が寝かされている。

 そこに見知った顔が幾つか見えた。

 

 「アスト!?」

 

 「アレンにルナマリアか!」

 

 「ハイネ、カガリ達。それにやっぱりレイか」

 

 怪我人の側にはカガリやハイネ、レイ達がいた。

 

 「何でレイがいるの?」

 

 確かに正直、訳の分からない組み合わせである。

 

 「無事で良かった。しかし一体何があったんだ?」

 

 「私たちも色々聞きたい」

 

 アレン達はお互いの無事を確認し合うと早速情報交換を行う事にした。

 

 「という訳で俺達はアムステルダムに逃れてきたって訳だ」

 

 「なるほどな」

  

 会場で襲撃を受けたハイネ達は怪我人を連れ、救出に来たテタルトスの士官であるセレネ・ディノ中尉と合流。

 

 ミュンヘンから脱出を図った。

 

 どうにか見つからずにアムステルダムまでたどり着いたまでは良かったが、怪我人の中には一刻を争う人間もいた。

 

 しかし駐留している軍と合流すれば、テタルトス軍や連合軍にも自分達の存在が露見してしまう。

 

 今は何処に敵がいるか分からない状態。

 

 ハイネ達はテタルトス停戦派の議員達を確実に守る為にはギリギリまでその存在を隠匿すべきであると判断した。

 

 まずはレヴァン議長やカガリの伝手を使ってアムステルダム市長と連絡を取った。

 

 そして怪我人の為に秘密裏に医者を紹介してもらい、同時に今まで匿ってもらっていたという事らしい。

 

 何故、ヴェクトなのかという疑問はあるが、奴はこの都市では医者としてそれなりに有名らしい。

 

 勿論知られている名は偽名のようだが。

 

 「で、外はどうなんだ? こっちはニュースで入ってくる情報くらいしか知らなくてな」

 

 「状況は緊迫している。ユーラシアが落ちて以来、大規模戦闘は起きていないが、何時統合軍がスカンジナビアやジブラルタルに攻めてきてもおかしくない」

 

 「……いえ、それはないでしょう」

 

 ハイネとの会話に割り込む形で入ってきたのはベットから起き上がったアルノルト・ヴェルンシュタイン議員だった。

 

 「アルノルト議員、無茶をしては」

 

 「私は大丈夫です。今の現状を聞いたらのんびり寝て居る暇はありませんよ」

 

 傍で水を代えていたアイラをやんわりと手で制すとゆっくりと立ち上がりこちらに歩いてくる。

 彼はテタルトスの議員でもあり、ファウスト・ヴェルンシュタインとも血のつながりを持っている兄弟だ。

 アレン達とは別の視点で意見があるのかもしれない。 

 

 「アルノルト議員、先ほどのはどういう意味ですか?」

 

 「言葉通りです。今すぐに統合軍が地上の同盟やザフトに攻撃を仕掛ける事は無いと思います」

 

 「その根拠は?」

 

 「足場固めが出来ていないからですよ。正確に言うなら月のですが。ファウスト・ヴェルンシュタインは地上では周到に準備を進めていたのでしょう。しかし月は違う。ヴァリス大佐がそれを許さない。だから彼はまず宇宙での足場を固めようとする筈です。月本国と交渉を進める為に」

 

 アルノルトの話ではファウストは出来るだけ月本国とは敵対関係にはなりたくないという。

 本国であるというのもそうだが、奴らの目的である統一には月本国の戦力が必須だかららしい。

 

 「おそらくその為の交渉役としてアスラン・ザラを抱き込もうとしているのでしょう。彼は本国の兵士たちからの信頼も厚く、ヴァリス大佐達とも交友関係がある。彼が傍に控えているだけでも月の印象はまるで違うでしょうからね」

 

 「なるほど。では先に地上を攻めるという可能性はないのですか?」

 

 「可能性が全くないとは言いませんが、同盟、ザフト、改革派の戦力は侮れない。例え勝ったとしても相当の損害を統合軍は被る。そうなった時、今度は月本国が絶対に黙っていません」

 

 ユリウスなら確かにそんな絶好の隙を見逃したりはしない。

 ファウスト・ヴェルンシュタインもそれを理解しているからこそ、ユリウスに隙を見せないように動いている。

 月本国と抗する戦力を手に入れてから交渉しようとしているのも、ユリウスを警戒している為だろう。

     

 「だけどな、ユリウス・ヴァリス自体というかテタルトスの本国が統合軍に同調するって事はないのか?」

 

 「それは無い。少なくとも大佐はファウスト・ヴェルンシュタインに同調はしない」

 

 レイの言う通り、アレンも同意見だった。

 昔、ユリウスは未来を求めていると語っていた。

 だが統合軍のやり方はかつての連合のような強引さとファウスト自身のエゴが垣間見える。

 そんなやり方には従わないだろう。

 

 「あの、私達を月本国へ連れて行っていただけませんか?」

 

 「月へ?」

 

 「はい。おそらく今回の事態を受けて議会は戦争継続派が主権を握って居る筈。今は統合軍が誕生した事でその対処に追われているでしょう。ですが時間が経てば月本国でも統合軍との協調路線を推進する者たちが現れる可能性もあります。そうなればユリウス大佐がいくら軍を抑えていても……」

 

 そうなれば同盟は完全に追い詰められる。

 

 「その前に我々が戻り今回の件を詳細を話せば少なくとも月本国との戦争も終わり、統合軍を牽制する事にもつながります」

 

 「上手くいけば統合軍を瓦解させる事もできるか」

 

 そこまで上手くいくかは分からないが正面からぶつかり合うよりは犠牲も少なく、戦争も早期終結させられる可能性は高い。

 

 「しかし問題もあるのではないでしょうか?」

 

 問題を指摘したのは黙って話を聞いていたセレネ・ディノ中尉だった。

 彼女のアレンを見る目が厳しめなのは気のせいではないだろう。

 だがそれには触れずに聞き返した。

 

 「問題とは?」

 

 「月本国までどうやってたどり着くかという事です。ユリウス大佐はどんな理由があろうとも月本国へ誰も近づけない」

 

 「統合軍も動いているのだから当然か」

 

 「はい。その統合軍も私達が月に近づくのを知れば阻止しようとする筈です」

 

 「ユリウス達に感づかれないように月に近づくのは無理か?」

 

 「『イクシオン』や『オルクス』の防衛圏内に入れば確実に気が付かれます」

 

 月の表に存在する軍事ステーション『イクシオン』と裏側にある『オルクス』によって構築された防衛網に隙はない。

 ミラージュ・コロイド対策に近辺には機雷も設置されているようで、簡単には行かないようだ。

 

 「行けるよ、月。テタルトスの防衛網には意図的に作った穴があるからね」

 

 何時から話を聞いていたのかヴェクトがいつの間にか部屋の隅に立っていた。

 

 「どういう事です! そんな話聞いた事も」

 

 「当然でしょ。そもそも月の防衛網構築には私も関わってたし。アレを利用して私は地上に降りたんだ。知られてたら此処には居ないさ」

 

 「ッ!? 色々言いたい事はありますけど、それが本当なら気が付かれないように月まで行けるかも」

 

 「そのデータを持っているのか?」

 

 「手元にはないよあんなもの」

 

 「ならどこにあるんだ?」

 

 ニヤっと笑みを浮かべたヴェクトはこちらをからかうように告げた。

 

 「アラスカだよ」

 

 

 

 

 軍事ステーション『ヴァルハラ』のモビルスーツハンガー。

 そこでは一機のモビルスーツが最終チェックを終えロールアウトしようとしていた。

 

 「ようやく最終チェック完了。これで一段落かな」

 

 企画、設計、開発と結構時間が掛かってしまったが、その分出来は良い。

 後は実戦でデータを取りながら細かい調整を加えていけばいい。

 

 「キラ、機体はどうだ?」

 

 「イザーク、わざわざこっちに来たの?」

 

 「気になっていたからな。で、どうなんだ?」

 

 「何とか形になったかな。でもデータ収集と調整は続けていく必要があるけどね。そっちの戦艦はどうなの?」

 

 「完熟訓練は今のところは順調だ。それより地上から連絡が来た、ドミニオンがアラスカに向かったらしい」

 

 「アラスカ? 何でそんな所に?」

 

 アラスカは『ヤキン・ドゥーエ戦役』の際に起こった戦いによって廃墟と化している。

 今では何も無い筈だ。

 

 「そこまでは分からん。だが、何かあったんだろう」

 

 キラは何故か不吉な予感を覚えた。

 

 何故かはわからない。

 

 でも嫌な予感が止まらなかった。

 

 「……僕が援護に行くよ。機体の慣らしには丁度良い」

 

 「どうかしたのか?」

 

 「嫌な予感がするんだ」

 

 素早くパイロットスーツに着替え、ロールアウトしたばかりの機体へ乗り込む。

 

 「各パラメータ、機体設定完了、イオン濃度正常、『e.s.device』正常稼働、『ユニバース・フリーダム』システム起動」 

 

  ZGMF-X30A 『ユニバース・フリーダムガンダム』 

 

 今までのフリーダム型すべてのデータを基にキラ・ヤマトが自らの機体として設計した『SEED』対応機。

 火力以上に近接戦能力と機動性が徹底的に強化されており、ドラグーンを射出することなく、光の翼、ヴォワチュール・リュミエールの展開が可能になっている。

 ドラグーンはフリージアと同じ特性が付与されており、フィールドを展開することでトワイライトフリーダムのC.S.システム開放状態以上の速度を出す事も可能となっている。

 

 出撃準備が整ったフリーダムの頭上にあるハッチが次々と解放され、宇宙の暗闇が顔を覗かせる。

 

 《ヤマト、戦闘データは逐一こちらに転送しろ》

 

 「はい。クレウス博士もイノセントの方をよろしくお願いします」

 

 《ああ》

 

 フリーダムのスラスターに火が点り、装甲が色付く。

 

 「キラ・ヤマト、フリーダム、行きます!」

 

 フットペダルを踏み、キラは新たな愛機と共に宇宙へと飛び出した。

 

 蒼い翼が開き、同時に光の翼が現れる。

 

 凄まじい加速。

 

 追随を許さない程のスピードを出しながらフリーダムは地球の方へと向かっていく。

 

 その先でキラは道を阻むように展開されている部隊に気が付いた。

 

 「あれは……統合軍か!」

 

 数は多くない所を見ると偵察の部隊か何かだろうか?

 

 「何であれ、アラスカに向かうには突破するしかない!」

 

 キラは躊躇う事無くさらに機体を加速させる。

 

 すると敵もこちらに気が付いたのか戦闘態勢を取った。

 

 「あれは……フリーダム!?」

 

 「何でこんな場所に!?」

 

 「迂闊だ!」

 

 キラは腰から引き抜いたビームサーベルですれ違い様、瞬時に二機のリゲルを撃破する。

 

 「なっ、か、各機、迎撃しろ!」

 

 フリーダムの足を止めようと他のリゲルが追撃してくる。

 モビルアーマーへと変形し、フリーダムを追随しようと速度を上げた。

 

 しかし――

 

 「何!?」

 

 「リゲルが追いつけないだと!?」

 

 モビルアーマー形態のリゲルすらあっさりと引き離されてしまった。

 

 そして次の瞬間統合軍のパイロット達の前からフリーダムは姿を消す。

 

 「なっ、消えた!?」

 

 「どこに……うわぁぁぁ!!」

 

 フリーダムを見失い動きを止めたリゲルは上方より発射されたビームライフルによってあっさりと撃破されてしまった。

 

 「くそ!」

 

 「速すぎて捉えられない!」

 

 「そこをどけ!!」

 

 ライフル、サーベルを使い分け次々と敵機を撃破し、隊長機と思われるH・アガスティアすら一蹴した。

 キラはその勢いのまま母艦であるプレイアデス級へ向かっていく。

 

 「全砲門開け! フリーダムを落とせェェェ!!」

 

 プレイアデス級から発射されたビーム砲の雨がフリーダムに襲い掛かる。

 

 「そんなもの!」

 

 さらに機体の速度を上げ襲い掛かるビーム砲をかわす。

 射線から容易く逃れたフリーダムは背中からドラグーンを射出させた。

 

 「いけェェェ!」

 

 キラによって巧みに操られたドラグーンが砲台を、スラスターを、エンジンを正確に破壊する。

 その隙に距離を詰めたキラは斬艦刀を振りかぶり、そのままブリッジを斬り潰した。

 戦艦全体が炎に包まれ、プレイアデス級は宇宙の塵の一つに変わっていく。

 

 「うん。いい調子だ」

 

 斬艦刀を収納し、敵艦が撃沈したのを確認したキラは再び蒼い翼を広げて地球へ向かう。

 

 だが、キラは知らない。

 

 その先で思いもよらない再会が待ちうけている事など。

 

 この時、想像すらしていなかった。

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