機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第25話 過ぎ去った筈の暗闇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カオシュン基地から宇宙に向けて飛び立とうとしていたシャトルの中。

 シートに座るアスランは送られてきたデータの閲覧を行っていた。

 手元の端末に映っているのは今回の任務の詳細。

 内容は宇宙での統合軍の活動を見越した足場作りの先駆けだった。

 

 「大佐、宇宙に上がってまずはどうするんです?」

 

 緊張気味なミレイアと共に反対側の席に座っていたラディスが聞いてきた。

 

 「まずは宇宙からの迎えと合流して『ヴァルナ』に向かう」

 

 『ヴァルナ』とはテタルトス軍が『イクシオン』『オルクス』と共に作り上げた軍事ステーションの一つである。

 元々は『イクシオン』『オルクス』の二つをカバーする目的で開発が進められていた。

 しかし途中から外宇宙進出の為の足がかりとして使用される事になり、大型化され移動型のステーションとして運用されている。

 ユニウス戦役以前に地球圏より離れていたのだが、当時『ヴァルナ』の指揮を任されていたゲオルク・ヴェルンシュタインと共に地球圏へと帰還を果たしていた。

 現在は統合軍の拠点の一つとして運用され、根回しが良い事にアスランが開発させていたレグルス・エクィテスガンダムも運び込まれているらしい。

 

 「そこで新型の最終調整を行いながら、宇宙で動く事になる。本国との折衝なども行う事になるだろうな」

 

 「そう言った政治的な話は勘弁ですね」

 

 「心配するな。矢面に立つのはファウスト司令とイスラフィール代表だろう」

 

 現在統合軍をファウストが取り仕切り、政治面を司る統合政府はイスラフィールが代表を務めていた。

 月本国と話し合いを行うのは間違いなくその二人であり、アスラン達はよくて護衛役と言ったところだろう。

 とはいえアスランにもラディスの気持ちはよく分かる。

 今回の件は厳密には違うが要するにクーデターのようなものだ。

 アスランも予厄介事に関してある程度の心構えをしていたとはいえ、半ば強制的に巻き込まれたようなもの。

 先に大佐に任命したのもアスランを逃がさないというメッセージ的な意味がある事は明白だった。

 

 「……不本意だが、部下達を見捨てる訳にもいかないからな。そういえばミレイア、宇宙は初めてだろう?」

 

 「は、はい。そうなんです」

 

 「そこまで緊張しなくても君ならすぐに慣れる。ただ宇宙での戦いは地球とはまた一味違う。心構えだけはしておいた方がいい」

 

 「大佐……はい、頑張ります!」

 

 ミレイアはアスランに気遣いに感動したように目を潤ませ、それが面白くないようにラディスが鼻を鳴らしてソッポを向く。

 内心嘆息しながら端末に視線を戻すと丁度時間になったのか、シャトル内に放送が流れた。   

 

 《間もなく当機は発進いたします。シートベルトを締め、席から動かないようお願いしたします》

 

 搭乗員が全員席についているのを確認するとエンジンに火が入り、シャトルは宇宙に向けて飛び立った。

 体にかかるGを感じながら天に昇っていく感覚に身を委ねていると、しばらくしてフッと体が軽くなる。

 

 《無事に大気圏を抜けました。当機はこのまま合流ポイントに向かいます》

 

 「ハァ、緊張したぁ」

 

 「な、戦闘に比べて大した事なかったろ?」

 

 「ラディス達は慣れてるからでしょ」

 

 二人の和やかな会話を聞きながらアスランは窓の方へ視線を向けた。

 暗がりに煌めく星々を見て宇宙に戻ってきた事を実感する。

 その時、キラリと何かが光ったように見えた。

 

 「何だ?」

 

 星ではない。

 アスランが目を凝らしていると前方から直進してくる物体に気がついた。

 

 「速い!?」

 

 それは凄まじい速度で宇宙を駆け抜け、一瞬だけシャトルとすれ違う。

 

 僅かな邂逅。

 

 常人では捉えられないそれもアスランの目にははっきり見えた。

 

 あまりにも見覚えのある頭部。

 

 伸びる白い四肢。

 

 そして何よりも最も特徴的な背中にある蒼き翼。 

 

 間違いない。

 

 

 「……フリーダム」

 

 

 青い星へと吸い込まれていくモビルスーツの姿を目に焼き付けながらアスランは知らず知らずの内に拳を強く握り締めた。

 

 予感は確信に変わる。

 

 アレは――

 

 「……キラ」

 

 決着をつけるべきかつての友の名を呼び、アスランは鋭い視線を青い星へと向けていた。

 

 

 

 

 「ハァ」

 

 気落ちしたようにオスロ基地の休憩室でアオイは盛大なため息をついた。

 病室を抜け出し、こうして気分転換に来たもののどうも気分が沈んだままだ。

 こんな所をセリスにでも見られた日には「病室に戻りなさい!」と説教を受けてしまう。

 断っておくがアオイの怪我は軽症だ。

 頭や腕には包帯が巻かれてはいるものの、アオイ自身痛みは全く感じない。

 できれば消毒臭いあの病室とはさっさとオサラバしたいくらいだ。

 

 「こんな所にいたのかよ、アオイ」

 

 「シン」

 

 いつの間にか後ろにシンが立っていた。

 彼の怪我も大したものではなく、頭に巻かれた包帯以外は目立った外傷は見られない。

 

 「セリスが怒ってたぞ。後で謝った方がいい。本気で怒るとめちゃくちゃ怖いからさ」

 

 それはこれまでの入院生活で嫌という程思い知らされていた。

 実はこうして病室を抜けだすのは初めてではなく、何度か気分転換と称して外へ出た事があった。

 無論、シンも一緒にだ。

 しかし、運悪くセリスに見つかってしまい、二人して滅茶苦茶怒られてしまったのだ。

 可愛い顔に似合わないあの迫力は出来るだけ味わいたくは無い。

 

 「わ、分かったよ」

 

 「で、また考えてたのか? その、アイザックやフォルケンマイヤー少尉の事」

 

 シンから差し出された飲み物を受け取るとアオイは首を振る。

 

 「いや」

 

 全く考えていなかったと言えば嘘になるがこれ以上気を使わせるのも悪い。

 それにそろそろ落ち込むのも終わりにしなくては。

 

それこそ犠牲になった仲間たちに怒られてしまうだろう。

 

 ベアトリーゼなど「何時まで落ち込んでいるつもりだ? 呑気なものだな。そんな無駄な事をしている暇にさっさと仕事を片付けろ」なんて言われそうだ。  

  

 「俺が考えてたのはさ、これから戦う時どうしたもんかと思ってさ」

 

 「え?」

 

 「統合軍だよ。今度はアレと戦う事になるんだろうけどイレイズは完全にスクラップ。敵が来て戦おうにも機体がないんだ。パナマにも余裕はないだろうし」

 

 すでにパナマ基地の方へ現状報告は行っている。

 しかし向こうも統合軍誕生の影響で厳戒態勢のままらしく、返事はまだ来ていないのだ。

 

 「アレン達も任務で今は居ないし、俺の機体もあのジンⅡにやられたからな。くそ、アイツ! 次こそ!」

 

 シンはリベルトとの再戦をすでに考えているようだ。

 勝ち気な彼らしい。

 無論、アオイとてこのまま終わるつもりは毛頭ない。

 怪我が治り次第、また一から鍛え直すつもりだ。

 

 「こんな所にいた! この問題児共!」

 

 「げ」

 

 「あ、セリス」

 

 二人の後ろにはいつの間にか腰に手を当て仁王立ちしているセリスの姿があった。

 

 「全く怪我がまだ治ってないのに、こんな所で何やってんの!」

 

 「す、すいません」

 

 「い、いや、俺はアオイを連れ戻そうとして」

 

 「言い訳無用! さっさと戻ると言いたいとこだけど……ミナト少尉、パナマのロアノーク大佐から連絡が入ったから通信室に行って」

 

 それは待ちに待った連絡だった。これでパナマの状況を知る事もできる。

 

 「それからシンも宇宙に行く準備」

  

 「宇宙に?」

 

 「うん。機体の調整にパイロットが必要なんだって」 

 

 セリスの言葉にシンは目を見開いた。

 

 「機体って、俺の新しい!?」

 

 「多分ね。少尉も急いで」

 

 「了解」

 

 アオイは軽く頷くと通信室へと走り出した。  

 

 

 

 

 

 アラスカの大地に刻まれた深い傷跡。

 

 大地を大きく抉る形で残されたクレーターには水が流れ込んでいる。 

 

 その大きさは尋常ではなく、この場で起こった惨劇の大きさを物語っていた。

 

 「まさか、こんな形でアラスカを再び訪れる事になるとは思わなかったな」

 

 「確かに」

 

 この場所にはかつて地球連合本部『JOCH-A』が存在していた。

 

 しかし『ヤキン・ドゥーエ戦役』でザフトが行った『オペレーション・スピットブレイク』の最中に地下に設置されていた『サイクロプス』が起動し跡形も残らず消し飛んでしまった。

 

 アレンやキラ、アークエンジェルもあの戦いには参加していたから、その光景は目に焼き付いている。 

 

 あの時は肝を冷やした。

 

 サイクロプスに加えザフトの新型と圧倒的な物量相手にしなければならない危機的状況。

 レティシアやラクスが援護に来てくれなければ、生き延びる事はできなかっただろう。 

 

 「ヴェクトの指定した場所は『JOCH-A』のさらに地下という事だが」

 

 「結局、あの胡散臭い学者にいいように使われているだけのような」

 

 「俺だって癪だよ。それより指定されたポイントへ向かうぞ、ルナマリア。オーデン艦長、後はよろしくお願いします。ニーナ、モビルスーツ隊の指揮は君に任せる」

 

 「了解しました」

 

 ドミニオンに移乗し此処までついて来ていたニーナが軽く頷いた。

 本来ニーナはキラと共に宇宙に上がる予定だった。

 だが、今回は事が事だけにアレンとルナマリアの二人だけでは心もとないと付いて来てもらったのだ。

 元々彼女はドミニオンにも搭乗したエースパイロット。

 ニーナが居ればアレンやルナマリアも後顧の憂い無く動く事が出来る。

 

 「そちらも気をつけろ」  

 

 「分かっています」

 

 ブリッジから格納庫まで降りると別の意味で懐かしい機体がモビルスーツハンガーでアレンを待っていた。

 

 「用意してある機体がストライクとはね」

 

 『ヤキン・ドゥーエ戦役』でキラが搭乗していた愛機。

 

 GAT-X105『ストライクガンダム』

 

 今回はデータの回収が目的とはいえ、何があるか分からない。

 そこで大破したエクリプスに代わるモビルスーツを用意してもらったのだ。

 用意されたストライクは外見上の大きな変化は見られない。

 しかし中身は色々改良されているらしい。

  

 「私の機体はオルトリンデですね」

 

 ルナマリアに用意されたのは量産型ジャスティス、即ちオルトリンデだった。

 インパルスは大破したとはいえ、パーツはまだ残っている。

 しかしミネルバが動けないのでは性能を十分に発揮できないと判断し別の機体を用意していた。

 

 「初めての機体だ。無茶はするなよ」

 

 「大丈夫ですよ。此処に来るまでニーナとシミュレータをやり込みましたからね」

 

 「そうか。では頼りにさせてもらうぞ」

 

 「もちろんです」

 

 パイロットスーツに着替えたアレンはストライクのコックピットに乗り込むとヴェクトから手渡されたデータを確認する。

 

 「……入口はクレーターから少し離れた位置にあるみたいだな」

 

 背中にエールストライカーを装着させ、ドミニオンから発進するとオルトリンデを伴い、目的の場所に向かって飛び立った。 

 

 「この感じ久しぶりだな」

 

 アレンにとっても初めて搭乗したモビルスーツはストライクである。

 その為、イレイズ程ではないにしろ、ストライクにもそれなりに愛着というものがあった。

 小気味よく操縦桿を操り地面を滑るように機体を操作。

 目的地を見落とさないよう視線を左右に向けるとやや隆起した丘のような場所を発見する。

 サイクロプスの爆心地からは離れ、周りも木々に隠れて見えにくい。

 これは事前に情報を得ていないと確実に見逃してしまうだろう。

 

 「あそこだ。降りるぞ」

 

 「了解」

 

 ストライクが地面に着地した衝撃を感じつつ、念のためにレーダーを見るが敵影らしきものは何もない。

 それでも警戒を怠る事なく拳銃のセーフティーを外すとコックピットハッチを開く。

 思った以上に涼やかな風を受けながら地面に降りた。

 

 「確か、岩壁沿いに扉があるんでしたよね」

 

 「ああ。調べてみよう」

 

 丘の中腹部分にある岩壁を手で慎重に調べる。

 すると端の方で僅かな突起を発見する。

 一見岩が突き出しているだけのようにも見えるが、どうやら人工的に作られたもののようだ。

 蓋を開けるように突起を引っ張ると、案の定タッチパネルが顔を出した。

 

 「これだな」

 

 事前にヴェクトから聞き出していたパスワードを入力。

 ピーという機械音が鳴ると岩壁の一部が僅かに隙間を作った。

 そこを掴み力任せに扉を開くと人工物の通路が見えた。

 

 「流石に電源が落ちてますか」

 

 通路を覗き込んでも明かりもなく、真っ暗な空間が続いている。

 暗くて何も見えない。

 まるでこちらを呑み込もうとしているかのような不気味さを感じる。

 

 「どうしたんです?」

 

 アレンの胸中に言い知れぬ、何か嫌な予感ようなものが湧きあがってきた。

 これはかつて宇宙で感じたものと同じだった。

 

 「アレン?」  

 

 「いや、なんでもない」

 

 心配そうなルナマリアに笑顔を向けると、嫌な予感を振リ払うように軽く首を振った。

 

 「電源については仕方ないな。『JOCH-A』が吹き飛んだ時に主電源も一緒に駄目になったんだろう」

 

 「目的のデータは大丈夫なんですか?」

 

 「そっちは問題ないだろう。予備電源が動いているらしいからな」

  

 「了解」

 

 二人はライトを片手に通路の中に入るとあらかじめ教えられていた方向へ歩き始めた。

 

 

 

 

 内部へと侵入したアレン達を守るように周囲を警戒するドミニオン。

 その姿を偵察機として派遣されたイリアスが探知されないギリギリの距離から捉えていた。

 

 「距離がある分、映像は悪いが……間違いなくドミニオンだな。それでどうするつもりだ、カース?」

 

 偵察機から送られてきた映像をサリエルのブリッジから見ていたニコラスは隣に立つ男を見た。

 仮面をつけているから表情は読み取れない。

 だが、どこか楽しそうに見えるのは気のせいだろうか?

   

 「彼らの目的が停戦派議員達を月へ送り届ける事ならば我々にとっても面白くない」

 

 「こちらが陽動の可能性もあるが?」

 

 「そちらについてはすでに手を打ってあります」

 

 「アルネーゼ達か。用意の良い事だな」

 

 ある種皮肉ともとれるその発言にカースの傍に控える№Ⅰが鋭い視線を向けるが、ニコラスは涼しい顔で受け流す。

 

 「エリニス、私と一緒に来い。№Ⅰとジェラールはフリードマン少将の指揮下でドミニオンを攻撃しろ」

 

 「了解」

 

 「……カース様、やはり私も共に。もしもカース様の身に何かがあれば……」

 

 「私なら大丈夫だ。それよりこちらを任せる」

 

 カースは№Ⅰを宥めブリッジを後にするとジェラールが呆れたように肩をすくめた。

 

 「カースなら問題ないだろう。エリニスもいるならお前が心配する必要はないと思うがな」

 

 「カース様の身をお守りするのが私の役目だ。エリニスに任せられるものではない」

 

 「……それは単にお前がついて行きたかっただけ――ああ、いや、何でも無い。何でも無いから殺気を込めて睨むな」

 

 二人のやり取りにニコラスは溜息をつきながら号令を発した。

 

 「エンジン始動! イーゲルシュテルン、バリアント起動! ミサイル発射管コリントス装填、目標敵アークエンジェル級戦艦『ドミニオン』!」

 

 「私達はモビルスーツで待機します」

 

 「頼む」

 

 №Ⅰとジェラールが格納庫へ向かうと同時にサリエルのエンジンが点火され、ドミニオンの索敵範囲を踏み込んだ。

 「まずは挨拶だ。ウォンバット、撃てぇ!」

 

 サリエルから発射されたミサイルがドミニオンへと襲い掛かる。

 

 「敵艦の回避方向を予測。バリアントを叩き込め!」 

 

 「了解!」

 

 逃げ場を塞ぐべくレール砲による砲撃がドミニオンの側面に叩き込まれた。

 迎撃すら追いつかないある種奇襲となった攻撃。

 

 「これをどう捌く?」

 

 ニコラスが注視する中、ドミニオンが取った対応は前に出る事だった。

 エンジンを吹かし、前方へ一気に加速するとミサイルの直撃を避けて見せた。

 さらにその隙に主砲の狙いをつけていたのか、サリエルにビーム砲の一撃がラミネート装甲を掠めていく。

 

 「やるな!」

 

 掠めたビーム砲の振動に歯を食いしばりながらニコラスは敵艦への称賛を口にする。

 不沈艦と名高いアークエンジェルの活躍に隠れているが、ドミニオンもまた英雄と呼ばれるにふさわしい戦果を挙げている。

 現にミュンヘン事変においても唯一、大きな損傷を受けることなく離脱に成功している。

 艦長を含めたクルーたちの技量の高さは疑いの余地もない。

 

 「全く、アークエンジェルといい、ドミニオンといい、本当に惜しいな」

 

 的確に反撃してくるドミニオンに舌を巻く。

 ニヤリと笑みを浮かべたニコラスは、モビルスーツ部隊の出撃を命じる為に格納庫へと通信を入れた。

 

 

 

 

 真っ暗な空間を歩き続けるというのは思った以上に精神的な疲労が溜まる。

 さらに罠がないか確かめつつ、慎重に進まざる得ないこの状況。

 それがよりアレンとルナマリアの神経をすり減らした。

 

 「……もしもライトが無かったらと考えるとゾッとするな」

 

 「変な事言わないでくださいよ」

 

 壁伝いに手を這わせ歩き始めて10分くらい経過した頃だろうか。

 ようやく通路が終わり扉のようなものが見えてきた。

 その横にはパネルのようなものが設置されており、ボタンを押すと画面に明かりが灯る。

 

 「開けるにはまた暗証番号が必要ですか?」

 

 「ああ。それだけ万全を期しているという事だろうな」

 

 この先にあるのは昔、ヴェクト・グロンルンドが使っていた研究施設で、テタルトスともそれなりに関わりのある場所だと聞かされた。

 

 「なのになんで施設を破棄しなかったんですかね?」

 

 「もしかするとテタルトスはこの施設の存在を知らないのかもな。知っていたら何かしらの対策は打っているだろう」

 

 「じゃあ此処、アイツが個人の施設ってことですか? それは流石に……」

 

 「考えすぎならいいんだがな」

 

 パネルに暗証番号を入力し扉が解放される。

 見るからに怪しげな研究施設が姿があった。

 近くの壁にあるスイッチを入れ、明かりを灯す。

 暗闇に慣れていた所為か明かりに眩しさを覚えながら目を細めると荒れた部屋の惨状が目に飛び込んできた。

 

 「荒れてますね」

 

 「ああ。しかし誰かが荒らしたって訳でもなさそうだな」

 

 床に転がるフラスコを手に取ると、薄く埃が付いている。

 その他、途中で放棄された資料や端末も同じく埃を被っていた。

 しばらく誰もこの此処に足を踏み入れていない証拠だ。 

 とはいえ長居したい場所でもない。

 さっさと用事を済ませてしまおう。

 

 「データを回収してドミニオンに戻るぞ」

 

 「了解」

 

 持ってきた小型端末と生きている大型端末をコードで繋ぎ必要なデータを呼び出す。

 

 「他のデータも一応確認しておくか」

 

 重要そうなデータを選択しダウンロードを開始する。

 その間にアレンはもう一つ端末を取り出し、大型端末の前に置いた。

 

 「アレン、何やってるんです?」

 

 「念のためにな」

 

 後はデータがダウンロードされるまで待つだけなのだが、そこで大きな振動が研究室を襲った。

 部屋全体が揺れ、バランスを崩した器具が机から転げ落ちる。

 

 「アレン、これって!」

 

 「統合軍か――ッ!?」

 

 その時、アレンの体に悪寒が走る。

 

 「アレン?」

 

 ルナマリアが訝しげにアレンの顔を覗き込むと信じられないと驚愕の表情を浮かべていた。

 

 「そ、そんな、ま、まさか」

 

 「どうしたんです!?」

 

 ルナマリアの声が聞こえていないのか顔を顰め、アレン達が入ってきた場所とは反対方向に視線を向けた。

 するとコツコツと誰かが歩いてくる音が聞こえてきた。

 

 「統合軍?」

 

 即座に拳銃を構えたアレンに習いルナマリアも銃を向ける。

 反対側の扉が開き、姿を見せたのはルナマリアにとって忘れようがない存在だった。

 

 「アンタは!?」

 

 そこに現れたのは顔が全く見えない仮面を被り全身からにじみ出る殺意を纏った敵エリニスだった。 

 

 それだけではない。

 

 

 「ほう、此処で君と再会するとは思わなかったな――アスト・サガミ君」

 

 

 エリニスの後ろから姿を見せたのは軍服の上から黒いコートを羽織り、不気味な仮面で顔を隠した男だった。 

 その姿を見た瞬間、アレンの驚愕のあまり口を震わせ目を見開いた。

 

 「お、お前は……」

 

 あり得ないと。

 

 信じられないと。

 

 そんな精神的な動揺を隠せない。

 

 動揺するアレンが言葉を発する前にルナマリアが呆れたように軽口を叩いた。

 

 「何? 統合軍では仮装大会でも流行ってる訳?」

 

 ルナマリアの軽口に反応したのか、エリニスが銃口を向けてきた。

 しかしルナマリアの隣に立つアレンはそれすら目に入っていないとばかりに仮面の男の方を注視している。

 

 「アレン、さっきからどうしたんです?」

 

 その質問に反応したのかアレンは歯を食いしばり仮面の男の方へ口を開いた。

 

 

 「貴様……」

 

 

 今までこの男を忘れた事など一度もない。

 

 

 ある意味でこの男こそがアレンを激しい戦いの渦中へと巻き込んだのだから。

 

 しかしその戦いの中で男は宇宙に散った。

 

 決着はついたのだ。

 

 だからアレンはこの瞬間までこの男が生きていたなどとはまるで思っていなかった。 

 

 

 この男に関わった人物なら誰であろうとそうだろう。

 

 

 しかし現実に奴は此処に居る。

 

 

 それは再び悪意を振りまくこの男との対決が避けられない事を意味していた。 

 

 

 

 

 

 

 「生きていたのか……」 

 

 

 

 

 

 

 アレンは掠れた声で忘れる筈のない男の名を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――ラウ・ル・クルーゼ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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