機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第26話 亡霊と蒼翼

 

 

 

 発射されたミサイルが地面に着弾する度に爆風と衝撃がドミニオンを大きく揺らす。

 

 「迎撃! ゴットフリ-ト照準!」

 

 撃ち掛けられたミサイルをイ―ゲルシュテルンが撃ち落とし、主砲のビーム砲がサリエルを狙い付ける。

 しかしビーム砲が発射される前にサリエルはポジションを変え、こちらに射線を取らせない。

 

 「敵艦、回避運動! ゴットフリートの射線が取れません!」

 

 「……こちらの手を読んでいる」

 

 ナタルは敵指揮官の手腕に思わず歯噛みした。

 サリエルがミサイルやレール砲もただ撃っている訳ではなく明確な狙いがある。

 ドミニオンを狙い通りに誘導し、よりこちらの対応を読みやすくしているのだ。 

 性質が悪い事にそこからドミニオンが逃れようと動く事も想定している為に、ナタル達は必然的に防戦を迫られていた。

 

 「直上からミサイル!」

 

 「くっ」

 

 さらにドミニオンを追い詰めていたのが、この手数の多さだった。

 サリエルは外見上アークエンジェル級に酷似している。

 しかし搭載された武装の数はドミニオンとは明らかに違う。

 指揮官の技量の高さと相まって、サリエルの猛攻は途切れることなくドミニオンを危機に追い込んでいた。

   

 「左舷よりイリアスが来ます!」

 

 「迎撃! ニーナは!?」

 

 「現在、敵のエースと思われる機体と交戦中!」 

 

 ニーナの駆るランドグリーズはイレイズMK-Ⅲとイリアス・アキレスを相手に戦っていた。

 エース級の二人を相手に立ち回れるニーナの腕前は流石と言える。

 しかし、それも長くは持たないだろう。

 

 「セイファート達は?」

 

 「反応は未だ……」

 

 予想以上に時間が掛かっている。

 何か予想外の出来事でも起きたのか。

 それとも――

 

 「……連中がセイファート達の方にも仕掛けたかだな」

 

 もしもそうだとしたら彼らが戻ってくるにも時間が掛かると思っていた方がいい。

 

 「それまでは手持ちの戦力で持たせるしかないか」

 

 敵艦からの降り注ぐ攻撃を捌きながら、ナタルは戦略を練り始めた。 

 

 

 

 

 

 ラウ・ル・クルーゼ。

 『ヤキン・ドゥーエ戦役』を経験した者であれば知らぬ者はいないザフトに所属していたエースパイロットである。

 その破格ともいえる操縦技能、指揮能力、卓越した戦略眼。

 どれを取っても一流。

 それだけに嫉妬の対象にもなっていたようだが、実力は誰しも認めていた。

 彼の率いたクルーゼ隊が特務隊とは別に特務を任されていた事からも、どう評価されていたかは推して知るべしであろう。

 そこにはザフト最強と謳われた男ユリウス・ヴァリスもいたのだから、手が付けられない。

 よくも生き延びられたものだと、今更ながら自分達に感心してしまう程だ。

 そんな男も第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦においてキラの手で倒された筈だったのだが――

 

 「生きていたのか……ラウ・ル・クルーゼ」

 

 仮面によって素顔は相変わらず見えない。

 しかし分かる。

 滲み出る憎悪と殺意。

 全身に走るこの感覚。

 そのすべてが目の前の人物がラウ・ル・クルーゼだと語っている。 

 

 「久しぶりかな、アスト・サガミ君。君と最後に話したのは『L4会戦』の時だったかな? という事は約5年ぶりか」  

 

 「……貴方は相変わらずか。裏で動き回っていたのは貴方だろう? 宇宙で感じたあの視線も」

 

 プラントに向かっていた輸送船を襲撃した事件や今回のミュンヘン事変も裏で彼が関わっていたとするなら不可解な部分も納得できる。

 

 「何をするつもりなんだ? 性懲りもなくまだ人類の破滅を望んでいるのか?」

 

 「フフ、確かにそれもあるが……今回は少し違う。今は下準備をしているだけだよ。私も以前は事を急ぎすぎていたかと反省してね」

 

 「下準備だと!」 

 

 相変わらず人を食ったような口調に苛立ちながら、カース――ラウに銃口を突きつける。

 するとラウを庇うように同じく仮面をつけた女が立ち塞がった。

 この女もラウと同じ。

 全身から滲みだす憎悪の感情が肌にチクチク突き刺さる。

 

 「そういえば彼女の事を紹介していなかったね。彼女の名はエリニス。君達にも縁の深い人物だよ」

 

 「エリニス?」

 

 聞き覚えのない名前だ。

 少なくとも心当たりはない。

 だが、ラウが縁のある人物と言ったからにはアレン達とも関係のある人物なのか。

 

 「エリニス、顔を見せてやると良い」

 

 「分かりました」

 

 エリニスはカチリと金具を外して、仮面を外す。

 

 「アンタは――」

 

 そこから現れた素顔にアレンのみならずルナマリアすら驚きを隠せなかった。

 

 

 「リース・シベリウス」

 

 

 かつてアレン達と共にユニウス戦役を戦った戦友の一人。

 髪は短くショートヘアになっているが顔立ちは間違いなくアレン達の知っているリース・シベリウスに間違いなかった。

 

 「どうして……」

 

 ルナマリアが驚くのも無理はない。

 彼女はユニウス戦役時における戦闘の後遺症によって心神喪失状態に陥った。

 医師の診断によれば生涯意識が戻る事はないと言われるほど重度の障害。

 仮に意識が戻ったとしても、まともな思考能力は持ちえないだろうとも言われていた。

 なのに――

 

 「リース、何で統合軍に?」

 

 「違う、私はエリニスだ。リースなどという女は知らない。私が知っている事は貴様らが排除すべき敵だと言う事だけだ!」

 

 発砲音が狭い室内に響き渡り、発射された銃弾がアレン達の前で弾け飛んだ。

 二人は机の陰に飛び込み、即座に銃を撃ち返す。

 

 「リース!」

 

 「うるさい! 口を開くな! 貴様の声を聴いていると何故か苛立つ!!」

 

 声を掛けたアレンにエリニスは果敢に銃弾を叩き込んでくる。 

 苛立つと言われて僅かに首を傾げる。

 そこまでリースに嫌われていただろうか?

 まあ好かれても居なかったし、良い上官という訳でもなかったから嫌われていたとしても不思議はないが。

 

 「クルーゼ、リースに何をした!?」

 

 「私は何もしていないさ。それよりも外にいる仲間を気にした方が良いのではないかな?」

 

 「くっ」

 

 「それに我々ものんびりとしているつもりもないのでね。先に用を済まさせてもらおう」 

 ラウの銃撃が正確に端末のモニターに直撃する。

 

 「なっ、この!!」

 

 ルナマリアの反撃を避ける為に身を隠したラウは未だしつこく銃撃を続けるエリニスを制止した。

 

 「エリニス、今はその辺にしておけ。退くぞ」

 

 「しかし、こいつらをこのままには――」

 

 「必要ない。目的は達成した」

 

 ラウの指示にエリニスは素直に銃を下ろすと、そのまま通路の方へ身を躍らせた。

 

 「クルーゼ!!」

 

 「悪いがここで失礼させてもらうよ」

 

 「待て!」

 

 こちらの銃撃から逃れるようにラウはエリニスを伴い姿を消した。

 

 「アレン、端末が!」

 

 見れば持ち込んでいた端末は銃撃によって無残な姿に成果てていた。

 あれでは取り込んでいたデータもすべてオシャカになっているだろう。

 

 「流石、クルーゼ。こっちの動きを読んでいたって事か」

 

 「そんな相手を褒めてる場合ですか?」

 

 ルナマリアの咎めるような声に苦笑しながら、アレンは大型端末の裏側に手を伸ばす。

 

 「それって……」

 

 「一応保険を掛けておいて正解だったな」

 

 アレンが取り出したのは念のために設置していたもう一つの端末だった。

 

 「全部のデータは移動できなかったが、月の移動経路情報だけは念のためにこっちにも移しておいた」

 

 「流石! 用意が良いですね、アレン」

 

 「万が一の場合を想定していただけだよ。それより俺達もドミニオンに急いで戻るぞ!」

 

 「分かりました!」

 

 急いで無事だった端末を回収すると入口に向かって走り出した。

 地面にミサイルが着弾し振動で通路が大きく揺れる。 

 パラパラと上から細かい破片が落ちてくる度に天井が崩れてくるのではとハラハラさせられるが、構ってはいられない。

 ここで天井が崩れて閉じ込められればアウトだ。 

 恐怖を押し殺し足早に通路を駆け抜け、どうにか外に飛び出す。

 

 「ドミニオンは?」

 

 ドミニオンは敵のアークエンジェル級と死闘を繰り広げていた。

 大きな巨体が空中で器用に交錯し、砲撃を交わし合う。

 だが火力の違いと群がるモビルスーツによってドミニオンは劣勢に立たされていた。

 

 「不味いな。アレじゃ離脱もままならない」

 

 急いでストライクのコックピットへ飛び込むと即座に機体を起動させる。

 

 「良し、行くぞ!」

 

 VPS装甲が展開され装甲が色づくと同時に空中へ飛び上がる。

 

 「そこ!」

 

 ドミニオンを狙うイリアスの腕をビームライフルで吹き飛ばし、すれ違い様にもう一撃撃ち込んで撃破する。

 

 《セイファート!》

 

 「遅くなりました、艦長。援護に入ります!」

 

 《頼む!》

 

 「ルナマリア!」

 

 「了解!」

 

 降り注ぐミサイルを割って入ったオルトリンデが機関砲で薙ぎ払い、その隙にストライクがドミニオンに寄ってくるイリアスを迎撃する。

 

 「チッ、流石に最新型のイリアスだ。動きが速い!」

 

 ドミニオンの主砲をその速度で振り切りながらイリアスがストライクに接近戦を挑んでくる。 

 その動きに淀みは無く、装備しているエールストライカーの性能をフルに生かしている証拠だ。

 

 「性能はそちらが上。だがそれだけで勝敗は決まらないんだよ!」

 

 横薙ぎに斬り払われたビームサーベルを機体を逸らし紙一重でかわし、イリアスを掬い上げるようにシールドを叩きつける。

 下方から殴られ、仰け反るように体勢を崩したイリアスに容赦なくビームサーベルを突き立てた。

 

 「ルナマリア、此処は任せる。俺はニーナの援護に――ッ!?」

 

 アレンに電気が走るような悪寒が走ると同時に撃ち込まれたミサイルを迎撃する。

 イーゲルシュテルンでハチの巣にされたミサイルは空中で爆散した。

 しかし舞い上がる爆煙は一時的だろうとアレンの視界を塞いだ。

 その隙を突いて突っ込んでくるモビルスーツが一機。

 モノアイの頭部を持ち血のように赤い装甲を持つ機体――『サタナエル』だった。

 

 ZGMF-X92Sb『サタナエル・ナハト』

 

 ユニウス戦役にてザフトが投入した対SEEDモビルスーツである。

 形状に僅かな変化が見られ、その性能は以前に比べても格段に向上しており、増設された全身のスラスターと背中に存在する二基のスラスターユニットによって非常に高い機動性を有している。

 

 「サタナエル……これはクルーゼか!」

 

 凄まじい速度で突っ込んできたサタナエルのビームサーベルをどうにかシールドで受け止めると通信機から楽し気な声が聞こえてきた。

 

 「こうして君と戦うのも久しぶりか。あの時の決着をつけるかね!」

 

 サナタエルのパワーにストライクは押し込まれていく。

 

 「やはりお前がその機体を……いやそもそも何故、お前がその機体を!?」

 

 「答える必要はあるかな? アオイ君もそうだったがその旧式の機体では本領は発揮できまい」

 

 「舐めるなァァ!!」

 

 力一杯操縦桿を押し込むが、ビクともしない。

 幾らストライクが改良を施されていたところでサタナエルとでは性能が違いすぎる。

 

 「フ、やはりそんな機体ではな!」

 

 サタナエルの強烈な一撃がストライクを吹き飛ばし、同時に入れられた蹴りがコックピットを激しく揺らす。

 

 「くそ!」

 

 「アレン!?」

 

 「君はイリアスの相手でもしていたまえ」

 

 サタナエルは援護に駆け付けようとしたオルトリンデをビームライフルで引き離すと、背中のウイングスラスターを噴射させストライクへビームサーベルで斬りかかった。

  

  

 

 

 ニーナ・カリエールは元ザフト特務隊を支援する為に結成された部隊出身の赤服パイロットである。

 そんなニーナが自分の長所を上げるとしたらどんな状況でも失わない冷静さと分析能力であろう。

 相手の動きを見ただけでだいたいの癖や特徴も理解できる。

 現在、相対している二機――イレイズMk-Ⅲとイリアス・アキレス。

 この敵に関してもすでにある程度の特徴はつかめていた。

 

 「このパイロット達は……」

 

 こちらの放つビームライフルを事もなげに回避する反応速度。

 確実に急所を狙ってくる射撃精度にアクロバティックな機動をものともしない機体制御能力。

 どれをとっても常人とは比べ物にならない。

 

 「特にイレイズのパイロットは尋常な腕前じゃない」

 

 こちらを狙い発射されたビームキャノンの砲撃を避ける為に後退する。

 ランドグリーズの装甲の一部が空中を焼き払う強力な熱量によって剥げ落ち、モニターの一部にも影響が出る。

 こんな強力な一撃を食らえばたとえシールドで防御してもただでは済まない。

 しかもその隙に背後からサーベルを構えたイリアス・アキレスが迫ってくる。

 

 「……落ちろ!」

 

 「そう簡単には」

 

 スラスターを噴射し空中で宙返りする事でサーベルの斬撃を回避、背後からビームライフルを叩きこむ。

 背を向けているイリアスに避ける術はない。

 しかし予想に反し、イリアスは背後からの射撃を見切っていたとばかりに避けて見せた。

 

 「今のを避ける……異常な反応……エクステンデット――ラナ・シリーズか」

 

 もちろんキラ達のようなスーパーエースである可能性もあるが、それはイレイズの方でイリアスは違う。

 今までの経験からニーナは正確に相手の正体を把握していた。

 

 「なかなかやるな。防戦に徹してるとはいえ俺達二人を相手にしながら、足止めするなんて」

 

 ジェラールが相手を賞賛に№Ⅰも同意する。

 

 「確かに戦い方は上手い。敵の動きを読むことに関しては大したものだと認めよう。しかしカース様が戦われている今、こんなところで足止めを食う訳にはいかない!」

 

 №Ⅰは躊躇わずに切り札を切る。

 それは相手の実力を認めたが故。

 何よりも守るべき存在であるカースの元へ駆けつける為に――

 

 

 『I.S.system starting』

 

 

 「終わりにする!」

 

 「動きが変わった?」

 

 斬撃はより鋭く。

 

 射撃はより正確に。

 

 嵐とような激しい攻撃がランドグリーズに襲い掛かる。

 

 「これは……あのシステムの」

 

 イリアス・アキレスからの苛烈とも言えるほどの攻撃に歯を食いしばって耐える、ニーナ。 

 しかし追い詰められたニーナを狙い撃つようにイレイズMk-Ⅲがビームランチャーを構えて待ち受けていた。

 

 「そんな量産機でよく頑張った。だが、ここまでだ!」

 

 「くっ」

 

 発射されたビームがランドグリーズの右脚部を奪い、イリアスの斬撃が限界の来ていたシールドを斬り裂いた。

 

 「これで防御はできないだろう。先に戦艦の方を落とさせてもらう!」

 

 イレイズMk-Ⅲの砲口がドミニオンのブリッジを捉えた。

 

 「ドミニオン!?」

 

 「行かせはしない!」

 

 「そこをどけ!」

 

 止めようとしたランドグリーズに再び猛攻を仕掛けるイリアス・アキレス。

 

 サタナエルと戦っているストライクは間に合わない。

 

 イリアスを相手にしていたオルトリンデも同様。

 

 誰しもの時間が凍りつく。

 

 

 

 その瞬間――蒼き翼が舞い降りる。

 

 

 

 上方から発射された閃光がイレイズのビームランチャーを破壊、凄まじい速度で下降してきたモビルスーツがイリアス・アキレスの右腕を即座に斬り飛ばした。

 

 「何!?」

 

 「アイツは!?」

 

 白い四肢と背負う砲身。

 

 見紛う事のない蒼き翼。

 

 あれは――

 

 「フリーダム」

 

 ニーナのランドグリーズを守るように降り立ったのはユニバースフリーダムであった。

 

 「ニーナ、無事?」

 

 「ヤマト一尉!?」

 

 モニターに映ったキラに冷静なニーナの表情が柔らかく緩む。

 それを見たキラも微笑むと、すぐに表情を引き締めて正面に向き直った。

 

 「ニーナ、君は一度下がってくれ。後は僕がやる」

 

 「……気を付けてください。あの二機只者ではありません」

 

 「了解!」

 

 翼を広げビームサーベルを構えるとイリアス・アキレスとイレイズMK-Ⅲと向かい合った。

 

 「フリーダム……新型機か」

 

 片手を失った№Ⅰは冷静に機体状態を把握すると残った左腕でサーベルを構えた。

 

 「たとえ新型であろうとも! ジェラール、援護を!」

 

 「了解だ」

 

 破壊されたビームランチャーをパージしたジェラールは残ったビーム砲とライフルでフリーダムを狙撃する。

 その間に回り込んだイリアスが別方向から斬り込んでいく。

 

 「新型の力を試させてもらう!」 

 

 キラのSEEDが弾けるとコックピットの内に仕込まれたデバイスが動き出す。

 

 同時にキラの感覚がいつも以上に研ぎ澄まされ、さらに深度が増していく。

 

 これがユニバースフリーダムに搭載された『e.s.device』の力だった。  

 

 『e.s.device』 

 

 正式には『energeia seed device system』と呼ばれるもので、SEEDの発動を感知するとコックピット内に仕込まれた特殊デバイスからパイロットに直接干渉、SEED能力の増幅、補助を行う事が出来るシステムである。

 C.S.システムに比べ機体やパイロットに掛かる負担も少なく、長時間の展開も可能になっているのが特徴だった。

 

 「行くぞ!」

 

 研ぎ澄まされた感覚を全身で感じ取りながらユニバースフリーダムが動き出した。

 そのフリーダムの上段からサーベルを振り下ろすイリアス。

 しかしその一撃がフリーダムへ届くことは無く、サーベルを持った腕が宙を舞った。

 

 「なっ!?」

 

 全く反応できなかった№Ⅰは驚愕で一瞬、動きを止めてしまった。

 

 「何やってる、動け!」

 

 「しまっ――」

 

 ジェラールの声に反応し咄嗟に機体を退く№Ⅰ。

 だがそれも無意味とばかりに繰り出されたユニバースフリーダムの斬撃によって胴体から真っ二つに斬り裂かれてしまった。

 

 「№Ⅰ!? チッ、コックピットは外れていたから無事だろうが、まさか№Ⅰを一瞬で倒すとはな!」

 

 №Ⅰの能力は他の個体に比べても遥かに高いもの。

 オリジナルであるラナ・ニーデルを上回る力をもって生み出された個体なのだ。 

 それをこうも容易く倒すとは。

 

 「それでこそ『白い戦神』! 俺が倒すべき相手だ!」

 

 ジェラールは使い物にならなくなったビームランチャーを切り離し、対艦刀を構えて前に出る。

 それに応じるようにキラも斬艦刀『ガラティーン』を抜き放ち、真正面から斬り結んだ。

 

 「待ちわびていたぞ、お前と相対するこの時を!」

 

 「この動きは?」

 

 「今日こそ貴様を討つ!」

 

 「くっ、気にはなるけど、今はそんな個人の感情は後だ!」

 

 空中で交錯する対艦刀と斬艦刀。

 繰り出される対艦刀の斬撃を軽々と捌いたキラは斬艦刀を振り下ろした。

 その一撃がイレイズの右肩部に深々と食い込み、抵抗もなく腕が胴体から斬り離される。

 

 「ぐっ、反応が桁違いに速い」

 

 「このまま落とす」

 

 「そうはいかない」

 

 コックピットを狙った逆袈裟からの刃をジェラールは脚部で食い止め、残った左腕でサーベルをフリーダムへと突き立てる。

 

 「これでどうだ!」

 

 虚を突いた一撃。

 並みの腕前であればこの一撃で勝負が付く。

 しかしキラの反応はジェラールの予想を上回っていた。

 光る線が走った瞬間、サーベルを握っていたイレイズの手首が斬り裂かれてしまった。

 

 「なんだと!?」

 

 ユニバースフリーダムの左腕から伸びたナーゲルリングⅢから放出されたビーム刃がイレイズの左腕を切り落としたのだ。 

  

 「化け物め!」

 

 腕を裂かれ仰け反りながらも残った武装で反撃に転ずるイレイズ。

 キラはビーム砲の一撃をかわし脚部に食い込んだ斬艦刀に力を入れそのまま振り抜いた。

 裂かれた脚部。

 そして逆袈裟へ振われた刃がイレイズを深々と斬り裂いた。

 

 「ぐおおお!」

 

 破壊された装甲から色が抜けたイレイズはそのまま地面へと落下していった。

 エース級の二機を排除したキラは即座に踵を返すと一斉にターゲットをロックする。

 

 「いけぇぇぇ!!」

 

 何時も以上の射撃精度を持って発射されたフルバースト。

 連射されたフリーダムの砲撃がドミニオンに群がっていたイリアスやブリアレオスに次々と突き刺さり薙ぎ払われていく。

 

 「全機、回避!」

 

 「間に合いま――うわぁああああ!」

 

 フルバーストの砲撃でコックピットを貫通されたイリアスは空中で爆散、避けようとしたブリアレオスも同じだ。

 キラの正確な射撃を前に避けるどころか、防御もままならない。

 成す術なく残骸へと変わった敵を確認するとドミニオンの方へ向き直る。 

 

 「後は――ッ!?」

 

 残りの敵を排除する為、動き出そうとしたキラに妙な感覚が襲い掛かった。

 

 「これは……まさか……」

 

 この感覚には覚えがある。

 

 いや、忘れるはずがない。

 

 全身を刺すような殺気の塊。

 

 その時、レーダーが反応すると同時に通常のモビルスーツとは比較にならない速度で接近してくる機体が見えた。

 

 「アレは『サタナエル』!?」

 

 ストライクをイリアスに任せてユニバースフリーダムの方へ接近してきたのはサタナエルであった。

 ビームライフルで牽制しながら、ビームサーベルで構えて突っ込んでくる。

 

 「なんでこの感覚があの機体から」

 

 戸惑いながらキラはビームライフルで迎撃する。

 それを速度を上げて振り切ったサタナエルはビームサーベルを振りぬいてきた。     

 

 「ッ!」 

 

 見るより前に身体が動く。

 フリーダムのナーゲルリングとサタナエルのビームサーベルが激突する。

 稲光が辺りを包む中、キラの耳に聞き覚えのある声が届いた。

 

 「№Ⅰとジェラールを一蹴するとは……流石、キラ・ヤマト君と言ったところか」

 

 「あ、貴方は……」

 

 通信機から聞こえてきた声にキラは思わず硬直した。

 

 「ラウ・ル・クルーゼ!?」

 

 「久しぶりだね、キラ君」

 

 あの日の光景が脳裏に蘇る。

 

 第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦。

 

 キラとアスラン、そしてムウ。 

 

 三機のモビルスーツを相手しながら圧倒するその力はある意味で最強と言われたユリウス・ヴァリスを上回っていたかもしれない。

 

 それだけ彼は強敵だった。

 

 その彼は確かにあの時、沈みゆく戦艦と共に消えた筈。

 

 「……生きていた、のか」  

 

 「君まで現れるとはね。ヤキンでの借りを返したい所だが、今サリエルをやらせる訳にはいかない。決着は今度着けるとしよう」

 

 サタナエルはビームサーベルの刀身をわざと消し、すれ違うようにユニバースフリーダムの斬撃を潜り抜けると回し蹴りの要領で背後から蹴りつけた。

 

 「この程度で!」

 

 蹴りを宙返りして回避したキラはレール砲でサタナエルを狙い撃つ。

 

 「本当に厄介な奴だよ、君は! だが!」

 

 だがそれを先に感知していたのかサタナエルはすぐさま距離を取り、レール砲を回避しつつシールドに装着していたバズーカ砲を撃ち出した。

 撃ち出された数発の砲弾は空中で弾け、散弾となってフリーダムに襲い掛かった。   

 「ッ!?」

 

 キラが後退しながら機関砲で散弾を迎撃したその隙にサタナエルはドミニオンと激しい砲撃戦を繰り広げていたサリエルと合流する。

 そしてサリエルの艦首部分にある砲塔が解放され、光を発し始めた。

 

 「陽電子砲!? ドミニオン!!」

 

 「右舷スラスター全開!!」  

 

 ナタルの声と共にドミニオンのスラスターが噴射され、サリエルから発射された陽電子砲をギリギリのタイミングで回避した。

 しかしドミニオンは無理な回避がたたり、艦首の一部を地面に擦り付けバランスを崩してしまった。

 その隙を突かせる訳にはいかないと警戒するキラだったが、サリエルはそのまま直進し、戦闘宙域から撤退していく。

 

 「敵は退いたか。それにしても……」

 

 「キラ!」

 

 「あ、アスト。その」

 

 「分ってる。奴の事だろう? とりあえずドミニオンに戻ろう。こちらの話やその機体の事も聞きたい」   

 

 「そうだね」

 

 キラは近づいてきたストライクと合流する。

 そして一度だけ離脱したサリエルの方へ視線を向けた。

 すでに敵艦の姿は遠く離れており、目視では小さい物体が見えるだけだ。

 しかし何故かカース――いや、ラウ・ル・クルーゼはこちらを見ているような錯覚を覚えた。

 

 「ハァ、考え過ぎても仕方ないな」

 

 新た姿を現した強敵の存在にキラはため息をつくと、ドミニオンの方へ近づいていった。

 

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