機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第27話 想いと剣

 

 

 

 ドミニオンからの追撃がない事を確認したサリエルは第二戦闘配置へ移行する。

 格納庫に着艦したサタナエルからカースが床に足を付けると、損傷した機体から№Ⅰが駆け寄ってきた。

 

 「カース様! ご無事ですか!?」

 

 「ああ。それに気にかけるべきはそちらの方だろう、№Ⅰ? 怪我はないのか?」

 

 そこで自分が撃墜されてしまった事を思い出したのか、№Ⅰが申し訳なさそうに肩を落とした。

 

 「申し訳ありません、カース様。前回の事と言い、すべて私の責任です。如何なる処分も」

 

 「気にするな。相手が新型のフリーダム、キラ・ヤマトだったのだから」

 

 今回も概ねカースの予測通りに事が運んだ。

 連中の回収すべきデータは潰し、戦力も削った上でドミニオンはアラスカに足止めだ。

 あれだけの攻撃を受ければしばらくは動けまい。

 仮に連中がデータを回収できていたとしても、それはそれでやりようはあるのだから。

 その中で誤算があったとすればそれはキラのフリーダムの存在である。

 あれが現れた事でドミニオンを落とす事ができなかった。 

 

 「まあ、それも些末な事。問題はやはり、キラ・ヤマトのフリーダムか」

 

 キラの乗っていた新型機は破格の性能をもっていた。

 統合軍側の方に保険もかけているとはいえ、あの性能は脅威だ。

 

 「こちらのそれなりの機体は用意しておかなければならないか」

 

 「カース様、お身体の方は大丈夫でしょうか?」

 

 「ああ。問題はない」

 

 カース――ラウはその生まれからある種の欠陥を抱えていた。

 かつてはそれで命すら危うい状態だったが、それも今は解決済みだ。

 少なくとも今すぐに命の危機に瀕する事は無くなっていた。

 

 「これも友に感謝しておくべきかな」

 

 

 

 

 第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦。

 

 

 キラ達に破れ戦艦の大爆発に巻き込まれたラウは搭乗機がボロボロになりながらもどうにか生き延びていた。

 損傷していたとはいえ搭乗機であるプロヴィデンスがPS装甲を搭載していた事が九死に一生を得る結果になっていた。

 だが、それも長くは続かないことも分かっていた。

 その証拠に体全身を激しい痛みが襲っていた。

 PS装甲であろうとも衝撃までは殺せない。

 戦艦の大爆発に巻き込まれた衝撃がラウの体を痛めつけていたのだ。

 

 「……フ、フフ、ここまでか」

 

 所詮この身は偽り。

 こうして人知れず、朽ちていくのもいいだろう。

 気がかりがあるとすれば――

 

 「……ユリウス。お前はお前の道を行けばいい。そしてレイもな」

 

 消えゆく命を感じながら目を閉じる。

 

 「命に執着しないのは君らしいといえば君らしいが、しかしまだ早いのではないかな、ラウ」

 

 聞こえてきたのはラウと同じように縛られながらも、自らの道を歩もうとしている友の声だった。

 

 「君か……クロード」

 

 半壊したプロヴィデンスのコックピットに入り込んできたのは友人であるクロード・デュランダルであった。

 

 「お互い派手にやられたようだな、ラウ。それはともかく君にとっては残念かもしれないが死なせる訳にはいかない。世界はこれから動く。そこに君が居なくてはつまらないだろう?」

 

 傷ついたラウの体を抱え上げ、モビルアーマーの方へ運んでいく。  

 

 「体の事も心配ないさ。対応は考えてある。上手くいくかは未知数だが今よりはマシだ。まあ上手くいったとしても数年は様子見をする必要があるだろうが、働きすぎの君にはいい機会だよ。ゆっくり体を休めるといい」

 

 「……ではお言葉に甘えさせてもらおうかな」

 

 ラウの意識はそこで途絶えた。

 次に目を覚ました時、ラウはとある施設に運び込まれていた。

 『アケロン』と呼ばれたその施設はクロードが作り上げた研究施設である。

 アケロン自体は小惑星を改良したもので、テタルトスの軍事ステーションである『ヴァルナ』とも似通っている。

 普段からデブリ帯の中に身を置き、ミラージュ・コロイドで姿を隠している為に誰にも発見する事が出来ない。

 さらに迎撃用に設置されたビーム砲台にブースターユニットを備えている為に万一の場合でも移動も可能という、要塞顔負けの装備が施されている。

 ラウはこのアケロン治療を受け、傷を癒した。

 主治医であったヴェクト・グロンルンドの試作実験型ナノマシンの実験などにも協力しながら、動き出す時を待っていたのだ。

 

 

 

 「カース様?」

 

 「いや、お前と初めて出会った頃の事を思い返していただけだよ」

 

 №Ⅰとラウが出会ったのはユニウス戦役中盤。

 戦況は激化の一途を辿り、ラナ・シリーズが実戦投入され、ギルバート・デュランダルが世界に向けロゴス打倒の演説を行った頃だった。

 当時にラウは陰でクロードの支援を行いながら地球軍ファントムペインの一員として動いていた。

 当然、ネオ・ロアノーク達に感づかれないようにだ。

 その過程でとある一団が連合の研究成果――ラナ・シリーズを私物化しようとしているという情報が入り、ラウが調査に向かった。

 そいつらは所謂企業関係の人間だった。

 残されていた資料によれば、コストのかからない強化人間の開発が目的だったらしい。

 つまり連中が行っていたのは、口にするにも憚られる人体実験の数々。

 それはラウにとっても忌々しい幼い頃の記憶とダブるものだった。

 

 だから――排除した。

  

 一人残らず、この世から消し去った。

 

 保護した実験体の大半は死亡していたが、数少ない生き残りの中にいたのがラナ・シリーズ初期型の№Ⅰだったのだ。

 

 「そうですか。あの日から私の命はカース様のもの。お好きに使われてください」

 

 カースは恭しく頭を下げる№Ⅰに苦笑しながら肩を竦める。

 

 「気負いすぎだ、№Ⅰ。今は休め。これは命令だ」

 

 「……了解いたしました」

 

 素直に頷き格納庫を出ていく№Ⅰを見届けたカースはサタナエルの調整に向かおうと踵を返すとエリニスが近づいてきた。

 

 「カース様、ブリッジより連絡です。予定通り、ジブラルタルの方に向かったそうです」

 

 「そうか。なら後はアルネーゼ達に任せておけばいい」

 

 「我々は向かわないのですか?」

 

 「この位置からでは間に合わんよ。マケドニア要塞の方はどうだ?」

 

 「そちらも予定通りでした。ブレーズ大佐達がクーデターを目的に動いていたようですが、こちらの仕込みで彼らの動きを察知したイスラフィール代表によって抑えられたようです。それでも多少の戦闘と被害により、要塞内の混乱は未だに続いているようですが」

 

 目を付けていた通りに動いてくれる。

 思惑通りの展開にカースは思わず口元を歪めた。

 ガスパール・ブレーズ大佐達がイスラフィールを快く思っていないことは知っていた。 

 当然、統合軍の話が出ればイスラフィールに取って代わろうとする事も予想済みだった。 

 だから以前からマケドニア要塞に出入りしこちら側の人間を内部に潜入させていたのだ。

 

 「ブレーズ大佐達は捕縛されたのか?」

 

 「いえ。事前に脱出経路を用意していたらしく、賛同者を率いスエズからビクトリアに逃れ、宇宙に上がったようです」

 

 「何処までも分かりやすい」

 

 彼らが宇宙に上がって行く場所など限られている。

 探し出す事は容易だろう。

 

 「我々も宇宙へ上がる。準備しろ、エリニス」

 

 「ハ……カース様、一つよろしいでしょうか?」

 

 「何だ?」

 

 「……リースとは何者なのです? 私と関係があるのですか? それにあの男や何よりもあの機体ブリュンヒルデ……よく分かりませんが、あれらを思い出すと苛立ちが募ってくる」

 

 エリニスは感情を抑えるように拳を握る。

 最近、常に苛立ちを感じていた。

 そのきっかけは――あのモビルスーツ『ブリュンヒルデ』

 正確にはブリュンヒルデを操っていたパイロット。

 奴の事を考えるだけで、腸が煮えくりかえるような怒りが沸き起こってくる。

 それだけならまだしも、その感情がまるで抑えられない。

 これは今までにない、初めての出来事だった。

 

 「気になるかな、エリニス」

 

 「勿論です」

 

 その返事にカースは酷く楽しそうな笑みを浮かべた。

 

 「……リースとは――」

 

 続く言葉にエリニスは今までにない程の衝撃を受ける。

 同時に納得もしたし、何よりも―――

 倒すべき怨敵の名前が知れた。

 

 「……レティシア・ルティエンス」

 

 エリニスのその声には今までにない憎悪という名の熱を帯びていた。

 

 

 

 

 木々が並び立つ林の中。一台の大型トラックが碌に舗装もされていない道を走っていた。

 荷台にはモビルスーツと思われるものが積まれ、シートで覆い被されている。

 そのトラックの助手席にアオイは座っていた。

 

 「なあ、本当にこの道で大丈夫なのか?」

 

 今、トラックが通っている道はマケドニア要塞から来る部隊の哨戒ルートに程近い。

 アイザックでヨーロッパを動き回っていた頃に得た情報なので正確とは言えないが、この近辺が危険な事は間違いない。

 何故ならこのルートのずっと進んでいった先には、ザフトの拠点であるジブラルタルが存在するのだから。

 しかし心配気味に聞くアオイの事など気にしないとばかりに運転しているフードの男は淡々と答えた。

 

 「……大丈夫だと言った」

 

 一見胡散臭いフードの男と何故アオイが一緒に行動しているかと言えば、成り行きとしか言いようがない。

 オスロ基地でネオと連絡を取ったアオイは自身の報告とパナマの状況確認を行った。

 

 《久しぶりだな、少尉》

 

 「大佐もお元気そうで。すでに報告は読まれたとは思いますが、アイザックが沈められてしまいました。フォルケンマイヤー少尉を含めた優秀な人員も何名も失い、これはすべて俺の責任です」

 

 《いや、責任を問われるべきは私だろう。むしろ少尉は限られた人員しか配備されなかった中で良くやってくれた》

 

 ネオの気遣いに再び罪悪感が湧き上がってくるが、気持ちはすでに切り換えた筈だと密かに自分の膝を叩いた。

 

 「……大佐、ステラは元気ですか?」

 

 《ああ。元気だよ、少尉に会いたがっていた》

 

 「そうですか。俺の方も元気だと伝えてください。パナマの方はどうなっていますか?」

 

 《現状は前と変わらずメキシコ付近で睨み合いだ。だが、どうやらフリードマン少将は不在らしいからな。そういう意味では楽な方だよ》

 

 ネオが口元で微かに笑みを浮かべる。

 

 「そうですか……でも大佐、無理はしないでください。食事とか睡眠とかきちんと取ってます?」

 

 画面に映るネオは仮面を被っており、他人が見てもその表情を読み取る事はできないだろう。

 しかし付き合いの長いアオイにはネオが疲れているという事がすぐに分かった。

 咎めるようなアオイの声にネオは嬉しそうに笑みを深めた。

 

 《私は大丈夫だよ。それよりも少尉に渡したいものがある》

 

 「渡したいもの?」

 

 《君の新たな力だ。輸送機に運ばせているから、送ったポイントへ向かってほしい》

 

 ネオが指定してきた場所はジブラルタル近郊。

 近郊とはいえその距離はずいぶん離れており、同盟と統合軍の活動領域が重ならない空白地帯のような地点だが。

 

 「何でジブラルタル近郊なんです? オスロ基地じゃ駄目なんですか?」

 

 《できればそうしたいが統合軍が動いていて近づくことができない。かといってパナマに戻ってくるような余裕はないだろう。それに情報によれば統合軍の一部隊がジブラルタルの方へ動いているという話もある》

 

 「ジブラルタルに……どうして今ジブラルタルを、いや、その話同盟には?」

 

 《勿論、すでに送っているよ。少尉は荷物を受け取ったらジブラルタルに向かい、もしもの場合は援護に入れ》

 

 「了解!」  

    

 そうして指定された場所へ向かった訳なのだが、問題があった。

 どうやってそこに向かうかである。

 同盟は統合軍を警戒して動く事ができない。

 もう少し早ければドミニオンに同乗させてもらうという手もあったが、それももう無理だった。  

 だからアオイは難民に扮し、各種交通機関を使って目的地近くまで向かう事にした。

 オスロからアムステルダムに向かいそこから別の街までたどり着いた所までは順調だったのだが、そこで問題が起きた。

 偶発的な同盟軍と統合軍との小競り合いが起きたのである。

 それにより鉄道は止まり、バスも通れず、結果立往生する羽目になってしまった。

 もう普通の手段では目的地までたどり着けない。

 だからアオイは同盟の伝手を頼り傭兵を雇い護衛と目標ポイントまでの運搬を依頼する事にしたのだ。

 そうして今に至る訳なのだが―― 

 

 「やっぱり不安だな。この辺りはマケドニアの哨戒の部隊が来る筈だけど」

 

 不安な表情を隠さずにフードの男の方を見る。

 傭兵なんてやっている以上は訳アリなのは分かるけど、ここまで胡散臭い奴が来るとは思っていなかった。

 まあ素性を隠しているアオイの事も相手は同じように思っているだろうが。

 そんなアオイの様子も気にせず、フードの男は相変わらず感情を籠めないまま口を開いた。

 

 「連中は動かない。いや、動けないだろうな」

 

 「どういう事だ?」

 

 「……要塞内でゴタゴタがあった。クーデターでも起こったのかもな」

 

 「何でそんな事を知っているんだ?」

 

 「噂話だ。要塞から逃げ出した兵士でもいたんじゃないか?」

 

 確かに統合軍誕生に関して全員が納得していたとは思えない。

 不満を持つ者たちが反旗を翻したとしてもおかしくはないのだが、あそこまで用意周到に準備する連中がそんな不穏分子に対して対策を練ってなかったというのには不自然さを覚えた。    

 

 「……それよりお前も傭兵なのか? それとも同盟軍の兵士か?」

 

 「何でそう思う?」

 

 「その訓練された動きを見れば馬鹿でもわかるだろ」

 

 男は目ざとくこちらの素性を看破してくる。

 伊達に傭兵なんて危険な職業を生業としている訳じゃないという事だろう。

 

 「……聞いてどうするんだ?」

 

 警戒しながら腰に忍ばせた銃を掴んだ。

 だが、それでも男はただ前を見てトラックの運転を続けながら問うてくる。

 

 「ただ聞きたいだけだ。何でお前は戦う? 復讐か? それとも生きる為か?」 

 

 何故、そんな事を聞いてくるのか分からなかったが、茶化す気にもならなかった。

 それはフードの男の声が真剣なものであると気が付いたからだ。

 

 「……そりゃ色々あるさ。守りたい人達もいるし、何よりも託されたものもある」

 

 「……託された?」

 

 「ああ。先に逝った仲間や義父からさ。彼らの為にも無責任な事だけはしたくない」

 

 義父はアオイの在り方を示してくれた。

 アウルは戦場の無常さを教えてくれた。

 スティングは守るものを――ステラを託してくれた。

 他にも多くの人の言葉や行動がアオイを形作っている。

 その人達に背を向ける事はできない。

 

 「綺麗ごとを言う気はない。俺のやっている事は人殺しだ。でも、だからこそ逃げる訳にはいかないんだ」

 

 これからも誰かの死を――仲間を失い続け、誰かの仲間を奪っていく。

 それでも逃げる事だけはできない。

 

 「誰かの為という事か……」

 

 「そういうお前はどうなんだ? 何で戦う?」

 

 「……俺はただ倒したい奴がいた。そいつを倒しそして――」

 

 フードの男はそこで初めて笑みのようなものを漏らした。といっても苦笑したようなものだったが。 

 どうやら勝ちたかった相手が居たらしい。そいつを倒す事だけを考えて来たのだと、本物になるとフードの男は語った。

 詳しい事情までは分からないが、話の概要から察すると彼はステラ達と同じような境遇なのかもしれない。

 勝ちたいという気持ちは分からないでもない。

 アオイもかつては憎しみに飲まれかけた事がある。

 その時は何が何でも相手を殺したいと思ったものだ。

 でもその時にアオイにはステラがいた。

 彼女が自分を憎しみから救ってくれたのだ。

 

 「アンタの詳しい事情は知らないから偉そうな事は言えないけど。多分勝ったって何も変わらないと思う」

 

 「何?」

 

 「勝っても負けても、アンタはアンタじゃないか。アンタが変わる事は出来ても、他の誰かになる事はできないと思う」

 

 フードの男が初めてこちらを見た。

 その眼は真っ直ぐアオイを見据えている。

 一歩間違えばそのまま殺意に変わるのではと思えるほどに鋭い。

 それでもアオイは言葉を止めなかった。

 

 「俺の守りたい子もそうだよ。兵器としてずっと扱われ続けて心身共にボロボロになった子がいてさ。でもどんなになってもその子はその子だ。他の誰でもないよ」

 

 「……俺もそうだと言うのか?」

 

 「ああ」

 

 男は少し考えるようなそぶりを見せると、初めて微かな笑みを浮かべた。

 

 「ふん、一応忠告として聞いておいてやる」

 

 「素直じゃない奴」

 

 アオイも男に向けて笑みを向ける。 

 

 トラックの中の張りつめた空気が弛緩する。

 

 その時、大きなスラスター音と共にスピーカーから声が聞こえてきた。 

  

 ≪そこのトラック! ここは戦闘宙域である! 直ちに退去せよ!!》

 

 木々の隙間から見えたのは統合軍のイリアスだった。

 

 「……おい、ここに統合軍は来ないんじゃなかったのか?」

 

 「……噂話って言っただろうが。絶対にとは言ってない」

 

 ≪トラック、停止しろ!≫

 

 威嚇のつもりかイリアスはトラックの進路を塞ぐようにトーデスシュレッケンを撃ちこんでくる。

 

 「何が止まれだよ! トラックごと破壊する気か!」

 

 「チッ、仕方ない。おい、ここまでだ! トラックを降りろ!」

 

 「ハァ!?」

 

 「目的地はすぐそこだ! あのイリアスは俺がやるから、お前は走れ!」

 

 反論する間もなくトラックが急停車するとフードの男が外に飛び出し、それに続くようにアオイもトラックから飛び降りる。

 フードの男は荷台に上り、シートを剥がすと載せてあったモビルスーツが姿を見せた。

 

 「これって『ハイぺリオン』か?」

 

 この機体はユーラシアで開発されていた機体でデータ上では知ってはいたが実物は初めて見る。

 

 「何やってる! さっさと行け!」

 

 「分かったよ。ここまでありがとう! 俺はアオイ・ミナトだ! お前の名前は?」

 

 コックピットに入ろうとする男は振り返るとフードを取った。

 長い黒髪に思った以上に整った顔。

 同年代の青年の姿にアオイは少し驚いた。

 

 「俺の名前は―――」

 

 イリアスの放ったトーデスシュレッケンの爆音と男の声が重なるが、アオイにはきちんと名前が聞こえていた。

 

 「死ぬなよ!」

 

 「お前もな!」

 

 その場は任せアオイは全速力で木々の間を走り抜ける。

 しばらく走り続けていると後方から凄まじい轟音が響き渡った。

 振り返ればハイぺリオンが徐々にイリアスを引き付け、この場所から引き離していくのが見える。 

 こっちに気を使ってくれたという事だろう。

 アオイは感謝しながら必死に走っているとやや開けた場所に鎮座しているコンテナの姿が見えてきた。

 コンテナの上には木の葉のついたネットが被せられ、上空から発見できないように細工されている。

 運んできた輸送隊が敵から発見し難いようしていたのだろう。

 

 「あれか!」

 

 そのまま走ってコンテナの方に近づき設置されたパネルに暗証番号を入力する。

 

 「コンテナに設置された自爆システム解除」

 

 この番号を入力しないままコンテナを運ぼうとしたり、中身を奪おうとすると設置された自爆装置が働く事になっている。

 慎重に番号を入力し、パネルに手をかざす。

 

 「アオイ・ミナト」 

 

 アオイの声に反応しコンテナの扉が開き、中に足を踏み入れるとそこには鋼鉄の巨人が自分を動かす主を待っていた。

 

 「エクセリオンか」

 

 GAT-X002 『ユニオン・エクセリオンガンダム』

 

 エクセリオンガンダムの正式後継機。

 背中に存在する二基の高出力ウイングスラスターがやや大型化したが、出力は段違いに増しており機動性も向上している。

 さらに鹵獲したアルカンシェルの技術も投入され、ミラージュコロイドを散布して幻惑、防御としても活用できるようになっている。 

 

 アオイはパイロットスーツに着替え、エクセリオンのコックピットに乗り込むとシステムを立ち上げる。

 

 「VPS装甲展開、武装チェック完了、機体状態オールグリーン、W.S.システム正常稼働、エクセリオンガンダム起動!」

 

 コンテナの天井が左右に開閉され、空が正面に見えてくる。

 そこでレーダーに敵の反応が映し出された。

 

 「3機のイリアス――統合軍。別動隊か?」

 

 もしくは先に遭遇した連中が呼んだ援軍なのかもしれない。

 ハイぺリオンの反応はすでになく、かなり離れてしまったようだ。

 もしかするとすでに敵を片付けた後で離脱したのかもしれない。 

 

 「さっさと片付けてジブラルタルに向かう!」

 

 アオイはコンテナの天井が開き切るのを待たずにエクセリオンの最強武装であるアンヘルⅡを構えると躊躇う事無くトリガーを引く。

 銃口から発射される強烈なビームがコンテナの天井を破壊し、空を飛ぶイリアスを消し飛ばした。

 

 「何!?」

 

 「敵か!?」

 

 舞い上がる爆煙の中から飛び出してきたモビルスーツにイリアスのパイロットたちも目を見開いた。

 

 「まさか」

 

 「エクセリオンだと!?」

 

 背中の大型ウイングスラスターを噴射させ、加速したエクセリオンは瞬く間にイリアスの懐に飛び込んで来る。

 

 「速い!」

 

 イリアスのパイロットが盾を構える暇も与えず、エクセリオンのビームサーベルが左手を奪った。

 

 「ぐっ、まだ!」

 

 残った右手で構えるビームライフル。

 しかしそれもエクセリオンを捉えられずに空を薙ぐのみ。

 次の瞬間、背後に回ったエクセリオンの一撃で腹を抉られ、撃墜された。

 

 「な、何だ、今の動きは?」

 

 イリアスのパイロットが驚くのも無理はない。

 今のエクセリオンの動きは明らかにおかしかった。

 まるでパイロットが反応する前に機体が先に動いていたのではないかと錯覚するような、そんな反応だった。

 その時、イリアスのパイロットの脳裏にある種の噂話が思い出された。

 それはW.S.システムに関する妙な噂だった。

 曰くエクセリオンに搭載されていた初期型のW.S.システムはパイロットの操作より前に機体を動かすというものだ。

 初めて話を聞いた時はそんな馬鹿なと気にも留めなかった。

 しかし実物を見るとそうとしか思えない反応で動いている。

 

 「そ、そんな馬鹿な事が!」

 

 恐怖に駆られ、ビームライフルを連射するイリアス。

 しかしエクセリオンには届かない。

 ウイングスラスターの推力でビームを振り切り、空中でバレルロールしながら的確に攻撃をかわしていく。

 

 「くそ、くそ!」

 

 焦りが射撃の精度を落とし、判断力を鈍らせる。

 それを見越したエクセリオンが発射したビームライフルがイリアスの足を直撃した。  

 

 「ぐあああああ!」

 

 バランスを崩し、地表へ落ちていくイリアス。

 どうにか体勢を立て直そうとしたその時、エクセリオンのアンヘルがイリアスに向けられている事に気が付いた。

 

 「あ」

 

 避けられない。

 無慈悲な銃口から発射された強烈な閃光がイリアスを包み、パイロットの視界を焼いていく。

 死の恐怖を抱く間もなく蒸発したパイロット諸共、イリアスは爆散した。

 

 「フゥ、良い調子だな。前よりも機体が馴染んでる気がする」

 

 これもW.S.システムのお陰だろう。

 

 「でもこいつまた勝手に動いたんだよな」

 

 アオイが動かす前にエクセリオンはイリアスの攻撃を避けていた。

 背後に回り込む時もシステムのお陰か流れるようにできた。

 動きを補助してくれる程度なら文句はないのだが、アオイが動かすよりも機体が先に動くというのは少し不気味なものを感じさせられてしまう。

 

 「まあ気にする必要もないんだけどさ……とにかくこのままジブラルタルへ向かおう」

 

 アオイは一度だけ別れたハイぺリオンが居た方角を振り返る。

 

 「……無事でな」

 

 アオイはそう呟くと今度こそ振り返る事無く、ジブラルタルの方へと機体を向かわせた。 

 

 

 

 

 その部屋は上流階級の人間が住んでいるような場所だった。

 高級感が漂ってはいるが、決して派手ではなくある種の上品さもある。

 そんな部屋のベットに一人の少女が眠っていた。

 少女の眉が僅かに動き目を覚まそうとした時、一人の男が部屋へ入ってきた。

 慣れた様子でベットの方へ近づいていくと丁度少女が目を覚ます。

 

 

 「おはようと言うべきか、ベアトリーゼ・フォルケンマイヤー少尉」

 

 

 いつもと変わらない冷徹な覚悟を滲ませた男―――クレメンス・イスラフィールはベアトリーゼに声を掛けた。




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