機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第28話 ジブラルタル襲撃

 

 

 

 

 ゆっくりと目を覚ましたベアトリーゼの耳に飛び込んできた声は予想すらしていない人物のものだった。

 

 「おはようと言うべきか――ベアトリーゼ・フォルケンマイヤー少尉」

 

 目覚めたばかりだと言うのに肌で感じ取れる程の威圧感。

 冷徹な覚悟を滲ませた男クレメンス・イスラフィール。

 敵対していた保守派の首魁が目覚めた時に目の前に居るなど誰が想像できようか。 

 

 「……此処は」

 

 ベットの上で両手を縛られ、視線だけを動かし部屋の様子を観察する。

 見たこともない部屋に目の前に居る敵の首魁。

 考えるまでもなく、自分は敵に捕まったのだと理解する。

 

 「捕まった」

 

 徐々に記憶が蘇ってくる。

 ミュンヘン会談で起きた襲撃。

 アイザックに襲い掛かるテタルトス軍。

 自分はテタルトスの指揮官機によって撃墜されてしまったのだ。

 

「私をどうするつもりだ? どんな拷問を受けようが、仲間の情報は渡さない」

 

 ベアトリーゼが威嚇するように睨みつけると、イスラフィールは肩を竦める。

 その眼差しはどこか憐れむようにも見えた。

 

 「拷問などと的外れもいいところだ。もう少し聡明かと思っていたがな」

 

 「……何?」

 

 「情報が欲しいならもっと効率のいい方法を使う。……何より情報なら以前からずっと手に入っている。そうだろう、ベアトリーゼ?」

 

 何を言っているのだ、この男は?

 

 なんでこちらに同意を求めるような口調で話しかけてくる?

 

 いや、まさか――

 

 ベアトリーゼの中に湧き上がった疑惑に困惑や拒絶といった感情が入り混じり、頭の中がパニック状態になる。 

 それでも表面上平静を保てたのは、日頃から培ってきた訓練の賜物だったのかもしれない。

 だが、今回はそれが余計にベアトリーゼを苦しめる結果となった。

 冷静であるが故にイスラフィールの言葉の意味が正確に理解できてしまったのだから。

 表面上冷静さを保っているようでベアトリーゼの動揺は収まる事無く、胸中をかき乱していく。

 

 

 「理解が早い。お前の考えは正解だよ、ベアトリーゼ」

 

 

 イスラフィールは何の感情も込める事無く淡々と事実をベアトリーゼに突きつける。

 

 

 「―――情報を流していたのはお前だ」

 

 

 理解していた事だが改めて突きつけられると、想像以上のショックだった。

 叫び出しそうな屈辱と憤りを押さえつけ出来るだけ冷静にイスラフィールに問いただす。

 

 「……何時、私に?」

 

 少なくともベアトリーゼ自身にそんな自覚は無かった。

 そうなると自分の知らないうちに何か細工をされたと考えるのが自然。

 しかし事実はベアトリーゼの考えている以上に残酷だった。

 

 「何かしたというなら初めからと言っておこう」

 

 「初め、から?」

 

 「そうだ。初めから、お前が生まれた瞬間からだ、ベアトリーゼ」

 

 「っ!?」

 

 「ベアトリーゼ・フォルケンマイヤー、ドイツ在住の資産家夫婦の長女として誕生。幼少の頃に両親の仕事上の都合でアメリカに移住。荒れる世界情勢と元々空軍パイロットだった父親の影響を受け、軍に志願。ユニウス戦役で初陣を経験、その後に改革派へ参加。お前の経歴だがどこか間違っているか?」

 

 間違っていない。

 ベアトリーゼ自身の経歴である。  

 だが、それもイスラフィールの言葉を信じるならば――― 

 

 「すべて我々が作った偽りの経歴だよ」

 

 ベアトリーゼは自身の中に罅が入る音を聞いた。

 今まで信じていたすべてが嘘?

 父も母も、一緒に学んできた友人達も全部が嘘だった?

 

 「そんなこと、信じられる訳がない!」

 

 「なら父親と母親の顔が思い出せるか? 友の顔は? お前が住んでいた場所は?」

 

 イスラフィールの問いにベアトリーゼは答えられない。

 家族の顔が、友人の顔が、思い出の場所が全く思い出せなかったからだ。

 まるで初めからそんなものは無かったのだと言わんばかりに。

 

 「な、何故……いや、私が眠っている間に細工を……」

 

 「往生際の悪い。そう思いたいなら思っておけ。先の経歴で真実なのはお前が地球軍に志願し訓練を受けたという部分だけ、後はこちらの創作だ」

 

 「あ、あ、ああ」

 

 今まで自分を支えてきたベアトリーゼのすべてが壊れていく。 

 

 「お前はこちらが作った人形だ」

 

 「あ、あああああああああああ!!」

 

 ベアトリーゼの絶叫が部屋に木霊する。

 それすら意を返さないとばかりにイスラフィールは無表情のままベットへ歩み寄った。

 

 「予定よりも少し早いが戻ってきてもらうぞ」

 

 ベットで暴れるベアトリーゼの腕を無理やり掴むと手に持った薬を注入する。

 

 「眠るがいい。目覚めたときには余計な事は忘れている」

 

 「あ、ああ、あ、悪、魔め」

 

 「そうだ。俺は悪魔で外道だ。そんな事は重々承知しているとも。それでもやらねばならない。それが必要なら俺は躊躇う事無く手を汚そう。恨みたければ恨むが良い」 

 

 ベアトリーゼの意識が遠のき、体から力が失われていくのを感じる。

 自分でいられる最後瞬間、脳裏に浮かんだのは共に戦ってきた戦友の顔だった。

 

 「す、まない、ア、オイ」

 

 完全に意識を失ったのを確認すると外で待機していた研究者達が抱えた機材と共に部屋の中に入り、ベアトリーゼを医療カプセルのようなものに運び入れる。

 

 「イスラフィール代表、予定通りでよろしいのですか?」

 

 「構わない。使える駒は多いほうがいい。それとも不満でもあるのか?」

 

 「いえ、しかし、その、彼女は……妹君でしょう?」

 

 「違うな。血縁上は確かに異母兄妹だが、『コレ』はあの女の妄執が生んだ人形。断じて兄妹などではない」

 

 冷たいながらも確かな怒気を含ませながら、吐き捨てる。

 それに当てられたように固まった研究者達を尻目にイスラフィールは外に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 統合軍が宇宙での動きを活発化させようとしている――そんな情報が同盟を駆け巡った。

 当然のことだが同盟としても黙っている訳にはいかず、各部隊が警戒の為に哨戒任務についている。 

 そんな中、ヴァルハラ付近を航行していたオーディンだけは別行動を取っていた。

  

 「アルミラ艦長、地球から緊急通信です。ジブラルタルが統合軍の部隊に襲撃を受けていると」

 

 「それで宇宙から増援を回せと?」

 

 オペレーターからの報告に艦長席に座るテレサは渋い表情を隠さない。 

 緊張感漂う今の宇宙から戦力を回せというのは無茶が過ぎる。

 主戦場が宇宙へ移行する事は誰もが予想し得ているだろうに。

 しかしだからと言って無視もできない。

 ジブラルタルはザフトの拠点であり、同盟にとっても重要な場所。

 仮にジブラルタルが落ちれば、次はそのままスカンジナビアに矛先が向いてもおかしくない。

 

 「仕方ないな。準備が出来ているのはあの機体のみ……格納庫よりアスカ中尉を呼んでくれ」

 

 「ハ!」

 

 彼ならばジブラルタルの事も詳しいし、適任だろう。

 

 「アスカ中尉、出撃後に我々は任務に就く。機体調整に出ているルティエンス達を呼び戻せ」

 

 「了解」

 

 テレサは戦いが起きている地球から全く別の方向へと視線を向ける。

 何も見えない宇宙の先。

 戦いの火蓋が切って落とされようとしているその場所にオーディンも足を踏み入れようとしていた。

 

 

  

 

 ジブラルタル基地はヤキン・ドゥーエ戦役以降も地球上に存在するザフト拠点の1つである。

 ユニウス戦役時は地球連合のスエズ基地攻略の拠点として使用され、戦争終盤にはロゴス幹部達が逃げ込んだヘブンズベース攻略作戦『オペレーション・ラグナロク』に参加する勢力の集結地点にもなった。

 現在でもスカンジナビアと連携を取りながら、マケドニア要塞を抑える要として重要な役割を担っている。

 だがジブラルタル基地は今、統合軍の部隊による襲撃を受けていた。

 全面に展開されるザフトの部隊。

 その中にはアムステルダムから無事に帰還を果たしたハイネ達特務隊も混じっていた。

 

 「チッ、こうも簡単に攻め込まれるとはな」

 

 ギアを操るハイネは斬りかかってきたイリアスをビームトマホークで容易く返り討ちにすると、戦況を確認する。

 統合軍の数はそう多くはないが海上と陸地の両面から攻撃を加えて来ていた。

 ジブラルタルを攻め落とそうとするには数が少ない。

 だが、本気で攻めてきていない訳ではなかった。

 水中からの襲撃はフォビドゥン系のモビルスーツのようだが、アッシュ部隊に任せておけばいい。

 問題は陸地からの攻撃だった。  

 奇襲に近いレイダーの上空からの襲撃により混乱した戦線を残りの2機のガンダムが斬り崩す。

 まるで自分達だけで基地を破壊すると言わんばかりに猛威を振るっていた。

 防衛の為に出撃したザクやグフが苛烈な砲撃の前に成す術なく撃墜されていく。

 

 「狙いは……何だ? たく、お偉方もいるってのに……もしかしてそれが狙いか? いや、何にしろ、連中を止めないと被害が増える一方だな!」

 

 ハイネは暴れまわる三機のガンダムの方へ機体を向かわせる。

 

 「ザフトの新型機のお出ましか!」

 

 ジブラルタル基地で暴れていた三機の前に現れたオレンジ色のギア。

 それを見たアルネーゼは笑みを浮かべる。

  

 「その性能を見せてもらおうかね!」

 

 「お手並み拝見ってね。俺が行きますよ、姉御!」

 

 「アンタは下がって! 私が行くよ!」

 

 「ハァ!?」

 

 前に出ようとしたジルベールを押しのける形でフォビドゥンが前に出る。

 ゲシュマイディヒパンツァ―でビームを弾いたカーラがニーズへグを構えて突撃した。

 

 「落ちろ!」

 

 「こいつに遠距離戦は不利か!」

 

 射撃の効果が薄いと判断したハイネもビームトマホークを抜きフォビドゥンを迎え撃つ。

 空中でトマホークと鎌が交錯、火花を散らして激突する。

 

 「カーラの奴、気合いが入ってるな」

 

 「フフ、気になる男に格好つけたいってところだろうね」

 

 「ああ、クアドラード少佐ですか」

 

 カーラは最近、統合軍の上官であるヴィルフリート・クアドラード少佐と仲がいい。 

 というよりもカーラが一方的にヴィルフリートに懐いてる感じだろうか。

 ジルベールも作戦前に何度か話をしたが、カーラが懐くのもよく解る良い上官だった。

 噂ではかなり悪く言われてたので、どんな奴なのかとも思ったが完全に肩透かしだった覚えがある。

 人の噂など鵜呑みにできないという事だろう。

 

 「嫉妬するかい、ジルベール?」

 

 「勘弁してくださいよ、姉御。俺はもっとお淑やかな子が好みなんですよ。じゃじゃ馬は無理っす」

 

 ただでさえ日頃から気苦労が絶えないというのにカーラみたいな跳ね返りは御免である。

 

 「ジルベール、聞こえてるから! 帰ったら覚えときなさいよ!」

 

 「うげ」

 

 「ハハハ、とんだ藪蛇だったね!」

 

 軽口を叩きつつも手は止めない。

 カラミティの強烈な砲撃がザクを消し去り、レイダーの鉄球がグフを蹴散らす。

 猛攻を前にザフトの部隊は二機を押しとどめる事も難しくなっていた。

 

 「落ちろ!」

 

 レイダーを狙うバビの攻撃をモビルアーマー形態で回避し、そのまま背後に回って組み付くとビームクロウで胴を裂く。

 半壊した状態でなおも往生際悪く暴れるバビに口元からツォーンを叩きこんだ。

 

 「悪いが、空中戦でこのレイダーに勝てると思うなよ!」

 

 爆散した敵機の煙を払うように鉄球ミュルニルⅡを頭上で回転させながら、ジルベールはバビを寄せ付けない。

 レール砲と鉄球のコンビネーションに援護に駆け付けたグフも動きを止めざる得ない。

 そこを狙ったカラミティの砲撃が空を焼き払った。

 

 「戦場で動きを止めるなんて馬鹿なのかい!」

 

 胸部のスキュラ、背中のシュラークから発射された砲撃は正確にグフを貫き、バビのフォーメーションを崩す。

 その隙を見逃さず、突撃したレイダーによって空中のバビは次々と屠られていった。

 

 「くそ!」

 

 「アンタの相手は私でしょうが!」

 

 フォビドゥンの相手をしながら二機のガンダムの猛攻に押される防衛部隊の姿にハイネは思わず歯噛みする。

 そして同時に連中の目的にも確信が持てていた。

 二機のガンダムが目指している場所は管制塔などがある施設群だ。

 あそこにはアムステルダムから避難してきた同盟の首脳が集まっている。

 当然、テタルトス議員達も一緒である。 

 

 「やっぱり狙いはお偉方か! 行かせるかよ、そこどけ!」

 

 ハイネの放ったビームはすべてゲシュマイディヒパンツァーによって歪曲されてしまう。

 かといって接近戦に切り替えても、巨大な鎌が待ち受けている。

 

 「性能じゃ負けちゃいないが、相性悪すぎだろ!」

 

 ギアはザフトの最新機だけあってその性能はかなり高い。

 統合軍のイリアスやH・アガスティア、最近投入されたバウなどと比べても遜色ない性能を持っている。

 目の前のガンダムとも十分互角に戦えている。

 だが、それとは別に今の武装でビームを歪曲させるゲシュマイディヒパンツァ―を攻略するのは困難だった。

 

 「こんな事ならブレイズウィザードじゃなく、スラッシュウィザードでも持ってくりゃ良かったぜ。ま、それでも負ける気はないけどな!」

 

 上段から振り下ろされた鎌を力一杯トマホークで弾き、フォビドゥンの懐が無防備になる一瞬を狙ってハンドグレネードを切り離した。

 

 「なっ!?」

 

 グレネードが炸裂し、カーラの眼前を閃光が焼く。

 爆発の衝撃と共に吹き飛ばされたフォビドゥンにミサイルを叩きこんだ。

 

 「きゃああああ!!」

 

 「よし、このまま引き離して――ッ!?」

 

 フォビドゥンを引き離し、カラミティとレイダーの後を追うとしたハイネの背後から別の機体が急速に接近してきた。

 

 「ま、まさか、ヴィルフリート少佐!?」

 

 「銀色のモビルスーツ!? ジンⅡ・アクティブって奴か!」

 

 凄まじい速度で突撃してきたジンⅡ・アクティブの放った斬撃がギアに襲い掛かる。

 

 「速い!」

 

 ハイネは迫るビームサーベルを持ち前の反応でギリギリシールドで受け止める。

 シールドで阻まれたサーベルの閃光がモニターのチリチリと弾け、視界を若干塞いだ。

 

 「少尉はやらせん!」

 

 「少佐、どうしてここに?」

 

 ヴィルフリートの部隊はあくまで控えとして戦闘区域から離れた位置で待機していた筈。

 

 「余計なお世話だとは思ったが、援護にきた。怪我はしていないか?」

 

 「え、はい。ありがとうございます、少佐」

 

 「……一度補給に下がれ。ここは俺がやる」

 

 下がるフォビドゥンを援護するようにヴィルフリートの振るった一撃がギアを弾き飛ばし、続けて放ったビームキャノンが構えたシールド諸共機体を吹き飛ばした。

 

 「ぐぅ、やるな! 統合軍のエースかよ!」

 

 「そんな大層なものじゃない。俺はただの一兵士だ」

 

 「そうかよ!」

 

 ブレイズウィザードからミサイルを発射し、ジンⅡ・アクティヴに叩き込む。

 近接防御機関砲で迎撃する敵機にハイネはそのまま近接戦を挑んだ。

 

 「さっさと蹴りをつけさせてもらう!」

 

 「全力で来い!」

 

 構えたビームサーベルがビームトマホークと激突する。

 空中で立ち位置を入れ替えながら、二機のモビルスーツが何度も斬り結んだ。

  

 「手強い! こいつに手こずってる暇はないってのに!」

 

 「勝負の途中で考えごとか! そんな事で俺は倒せん!」

 

 カラミティとレイダーに気を取られたハイネはヴィルフリートを攻めきれない。

 それどころかハイネの動きを見切ったジンⅡ・アクティヴが空いた左手で引き抜いたビームサーベルがギアの肩を斬り裂く。

 

 「ぐっ」

 

 「全力で来いといった筈だ!」

 

 「こいつ、強い!」

 

 幸い傷は浅く、動きに支障が出るものではない。

 しかしヴィルフリートは手を緩める事無く、続けて攻撃を加えてきた。

 繰り出された斬撃はすべてが必殺であり、隙は全く見当たらない。

 ハイネはシールドを使っての防戦を強いられていた。

 

 「この!」

 

 地面ギリギリを滑るように移動しながら無数に放たれる斬撃をシールドで受け流す。

 できればすぐにでも援護に駆けつけたい焦燥に駆られるが、ヴィルフリートの攻撃を捌くので精一杯だ。 

 

 しかしその間にもレイダーがバビの包囲網を抜けようとしているのが見えた。

 

 「そこ、ハァァ!」

 

 レーダーの鉄球をもろに受けたバビを地面に叩き落とし、作られた隙間を狙ってイリアスが次々と押し寄せていた。

 

 浮足立った防衛隊は統合軍の思惑通りに戦線を崩されてしまった。

 

 数では圧倒的に勝っているとはいえここを突破されればザフトはかなり不利な状況に追い込まれてしまう。

 

 「ジルベール、ザフトが体勢を立て直す前にさっさとやりな!」

 

 「了解!」

 

 そのままジルベールがバビ部隊を突破しようとした時、その機体は降りてきた。

 

 

 高度から放ったビームライフルの射撃がイリアスに次々と突き刺さり、撃破していく。

 

 

 その精度は非常に高く、ザフトをかき乱していたイリアスの半分が撃墜され、同時にハイネと相対していたジンⅡ・アクティヴを引き離した。

 

 「このタイミングで増援かよ!」

 

 狙われたジルベールは必死に回避運動を取りながら上空に存在する敵機に視線を送る。

 

 

 そこにいたのは特徴的な赤い翼と背中に背負う二本の大剣を携えた機体だった。

 

 「デスティニーインパルス? いや、同盟のデスティニーか?」

 

 降り立った機体はかつて自分が搭乗した事もあるモビルスーツと酷似していた。

 イリアスを撃墜した以上敵ではないだろうと判断し通信を繋ごうとしたハイネの耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 「こちらシン・アスカ中尉!」

 

 「シン!?」

 

 通信機から聞こえてきたかつての仲間の声にハイネは思わず目を見開いた。

 

 「ハイネか!?」

 

 「お前なんで此処に?」 

 

 「ジブラルタルが襲撃されてるって連絡が入って増援を送るようにこっちに命令が来たんだよ。とにかく話は後だ、援護に入る!」

 

 「……頼む!」

 

 新型のコックピットに座るシンは改めてスペックを確認する。

 

 

 ZGMF-X31A 『リベラシオン・デスティニーガンダム』

 

 

 ユニウス戦役に投入された「リヴォルトデスティニーガンダム」をザフトから提供された「デスティニーガンダム」のデータを用いて改修を施した機体。

 新たに追加された装備であるパルマ・アルマ以外に武装面での大きな変更は無いが、内部には大幅な改良と強化が施されC.S.システムの反動も最小限に抑えられた。

 シン・アスカ専用機として調整が加えられ、彼の力を最大限発揮できるようになっている。

 

 「良し、これ以上好きにさせるか!」

 

 背中からコールブランドを抜くと光の翼を解放する。

 

 「行くぞ!」

 

 動き出したデスティニーはザクを狙っていたイリアスの間合いに踏む込むと斬艦刀を一閃する。

 想像もしていなかったデスティニーの動きに反応しきれないイリアス。

 棒立ちになったまま斬艦刀で袈裟懸けに斬り捨てられた。

  

 「は、速い!」

 

 「動きが捉えられない!?」

 

 イリアスの放つビームライフルはすべて空を切り、デスティニーを掠める事もできない。

 それどころか姿を捉える事すら困難だった。

 

 「何だ、残像なのか!?」

 

 「落ちろ、この野郎!!」

 

 我武者羅にライフルを発射するがどれもデスティニーの残像を撃ち抜くだけで本体を捉えられない。

 

 「遅いんだよ!」

 

 逆袈裟からの斬撃が敵を斬り捨て、さらに投擲したスラッシュブーメランがイリアスの腹部に直撃した。

 

 「これ以上やらせるか!」

 

 さらに速度を上げ斬艦刀を振るい続けるデスティニーによって基地内に進入していた敵モビルスーツの大半が斬り裂かれていった。

 

 「くそ、このタイミングで新型か!」

 

 デスティニーを脅威と見たジルベールは正面からの対峙を避け、その空戦能力を生かした撹乱戦法に出た。

 速度を上げながら旋回し、デスティニーにレールガンで牽制しながら、ツォーンで背後から狙撃する。

 しかしそれも見切ったとばかりにデスティニーは全てを避けきり、逆に反撃に転じてきた。 

 

 「避けた上に反撃かよ。掠り傷一つ付けられないとか、こいつも化け物だな!」

 

 「こいつは統合軍の隊長機か!?」

 

 レイダーは先ほど以上に旋回速度を上げる。

 しかしデスティニーもまた翼を広げ、光を放出しながらレイダーに追随する。

 その速度はジルベールの予測を遥かに上回っていた。

 

 「レイダーが振り切れないどころか、追いついてくる!? パイロットだけでなく機体も化け物かよ!」

 

 「逃がすかよ!」

 

 「けど、それで勝てると思うな!」

 

 デスティニーに攻撃を加え、動きをこちらの思惑通りに誘導しながら背後へと回り込む。

 

 「そこだ!」

 

 計算通りのタイミングでジルベールは渾身の一撃を叩き込んだ。

 

 「落ちろ!」 

 

 絶好のタイミング。

 いかにパイロットが化け物であろうとも、流石に防御に回らざる得ない。

 それがジルベールの狙いだった。

 動きを止めたその時に至近距離からツォーンを撃ち込めば新型だろうと損傷は免れないと判断したのだ。

 振り抜いたミュルニルの鉄球がデスティニーに襲い掛かる。

 しかし、デスティニーは振り返り左手を突き出すだけで、防御する素振りも見せない。

 

 次の瞬間――デスティニーの掌から閃光が走り、視界を焼く。

 

 同時に鉄球が破壊され、閃光の延長線上にいたレイダーの左肩が吹き飛んだ。

 

 「ぐあああ! くそ、掌に武装……誘われたっていうのか!?」 

 

「外したか!?」

 

 シンが使った武装はパルマ・アルマと呼ばれるもので、デスティニーに装備されていたパルマ・フィオキーナの発展型である。

 状況に応じて三つの使用方法が存在し、今使用したのはパルマ・フィオキーナの強化版であるパルマ・ジャヴェロット。

 これはパルマ・フォキーナに比べ威力も射程も向上しており、アンチビームシールドによる防御すら貫通する破壊力を持つ武装である。

 

 「……何とか致命傷だけは避けたが」

 

 ジルベールは敵の誘導に嵌められた事に毒づきながら損傷を確認する。

 ギリギリのタイミングで機体を捻った事が幸いしたのか、肩の装甲が奪われただけで戦闘に支障はない。

 それでも左腕の動きは大分鈍くなってしまった。

 

 「くっ」

 

 「ジルベール、下がりな。その損傷じゃ新型相手は無理だよ」

 

 「……了解。俺いつもこんなのばっかりだな」

 

 損傷した機体状態 を把握しながら、ジルベールは後退を図る。

 

 「逃がすかよ!」

 

 「追わせると思うかい!」

 

 レイダーを追うデスティニーにカラミティーのスキュラが動きを阻み、援護に駆け付けたイリアスが攻撃を仕掛けてきた。

 

 「次から次へと!」

 

 邪魔な敵を斬り捨て、カラミティの砲撃を回避すると地面に向けてビームライフルを発射する。

 ホバーで滑るように地面を走り、撃ち込まれた数発のビームライフルを回避したアルネーゼはシンの射撃精度に舌を巻いた。

 

 「やる。新型を任せられるだけあるって事か。潮時かね」

 

 もはや流れは完全にザフト側へと傾いている。

 この作戦の要は奇襲から敵が持ち直すまでの短い時間で目的を達せられるかにかかっていた。

 途中までは順調だったが、ザフトの新型の粘りと乱入してきた新型モビルスーツの驚異的な戦闘能力により戦力はズタズタにされてしまった。

 さらに今いる自分達の位置も悪い。

 ジブラルタルへ深く入り過ぎており、このままでは体勢を立て直したザフトの部隊に包囲殲滅されてしまう。 

 ただでさえ戦力的に不利な状況。

 これ以上の時間経過は味方の犠牲を増やすだけでメリットはない。

 

 「全軍撤退しな! イリアス部隊、私達が殿を務めるよ。味方の脱出を援護――何!?」  

 

 アルネーゼが命令を下そうとした瞬間、イリアス部隊が別方向から発射されたビーム砲によって撃破されてしまった。 

 いや、撃破ではない。

 消滅したと言った方が的確であろう。

 イリアス部隊は発射された強烈な閃光に飲み込まれ、残骸すら残さず消えてしまった。 

 

 「並の威力じゃないね」

 

 モビルスーツの持つビーム兵器にしては過剰ともいえる威力である。

 攻撃力だけなら目の前の新型機を上回るかもしれない。 

 アルネーゼがモニターを拡大させ、目標を確認する。

 

 「アレは……エクセリオン、アオイの坊やか」

 

 後継機なのかデータで閲覧した事のある機体とは違いがあるが間違いなくエクセリオンだった。

 アンヘルを構えてこちらに狙いをつけている。

 

 「何とか間に合ったか!」

 

 「その機体、アオイか!?」

 

 「下がれ、シン!」

 

 連結させたアンヘルを切り離し、二丁を両手で構えるとトリガーを引いた。

 発射された強烈なビーム砲が僚機として控えていたイリアスを吹き飛ばし、続けて発射された一撃がカラミティのミサイルポッドを破壊する。

 

 「チッ、ここまでだね。全機、急速離脱!」

 

 「逃がすかよ!」

 

 「バルマ大尉!」

 

 反転したカラミティを追うデスティニーとエクセリオン。

 凄まじい速度で追ってくる二機のガンダムにアルネーゼは覚悟を決めたように笑みを浮かべた。

 

 「流石にこいつら相手に逃げ切れない。ここが私の死に場所か」

 

 戦場に立つ以上、こうなる事は常に覚悟していた。

 ただせめて死ぬなら仲間の為に。 

 そういう意味では此処は悪くない死に場所だ。

 なによりも―――  

 

 「ザフト相手ってのが良いね。ま、約一名別勢力の奴もいるけど。そこまで言うのは贅沢ってもんだよ」 

 

 何だかんだでずっとザフト相手に戦ってきた。

 戦いの度に仲間を奪われ、逆にやられた分だけ奪ってきた。

 それは因縁というには十分すぎる。

 地球軍保守派だ、統合軍だと色々世界は様変わりしているが、そんな事は二の次。

 今までの借りを返すには絶好の相手に相違ない。

 

 「それじゃ行きますかね!」

 

 アルネーゼは重い装備をパージし、対艦刀を構えようとしたその時、上空からデスティニーとエクセリオンに向けて攻撃を仕掛けた機体がいた。

 

 「レイダー!? ジルベール、何やってんだ!?」

 

 「姉御、今の内に後退して!」

 

 「余計な事してんじゃない!」

 

 「少しは格好つけさせてくださいよ! 此処まで良いとこ無しなんですから!」

 

 ビームサーベル片手に突っ込んでくるエクセリオンの一太刀をシールドで受け止めながら、ジルベールが叫ぶ。

 

 「指揮官に簡単に死なれたら、部下の恥でしょ! 姉御にはまだまだ頑張って貰わないとね! さっさと行って下さい! 長くは持ちませんよ!」

 

 「アンタ……」

 

 血が滲む程操縦桿を握りしめると、絞り出すようにジルベールとの最後の言葉を交わした。

 

 「……私もそう遠くない内にそっちに行くから、恨み事はその時に聞くよ。派手にやりな!」

 

 「了解!! ま、恨みごとなんてありませんけどね!」

 

 ジルベールもまた軍人。

 覚悟はとうに出来ている。

 

 「カーラをよろしく!」

 

 「任せな」

 

 エクセリオンの斬撃を止めながら行かせまいとデスティニーにレールガンを叩き込んだ。

 

 「こいつまだ!?」

 

 「ジルベール、お前!」

 

 「決着をつけようぜ、アオイ!」

 

 弾け飛ぶエクセリオンとレイダー。

 レイダーの片腕からは火花が散り、損傷の深さを物語っていた。

 

 「降伏しろ! そんな機体状態じゃ戦えないだろう!」

 

 「大きなお世話だよ! 敵に心配されるいわれは無いね!」

 

 動く腕でビームクロウを構えるとツォーンを発射しながら突撃する。

 

 「アオイ!」

 

 「こいつは俺がやる。シン、他の敵の排除を!」

 

 背中のウイングスラスターを噴射させ、正面からレイダーと激突した。

 

 「ハアアアアアア!!」

 

 「今日こそお前を!!」  

 

 空中で交差する光刃と光爪。

 爪がエクセリオンの頭部を狙って突き出され、刃がレイダーの目掛けて振るわれる。

 だが爪がエクセリオンを捉える事はなく、空を斬った。

 

 「くっ、速い!」

 

 「お前が遅いんだ!」

 

 下方から斬り上げられた斬撃がレイダーの右脚部を斬り捨て、さらに振るった一太刀が背中の翼を斬り払う。 

 

 「ぐぅぅ、まだだァァァァ!!」

 

 「ジルベェェェェェル!!!」

 

 最後の攻防。

 アオイは盾を捨て左手で抜いたビームサーベルでビームクロウごと右腕を斬り払う。

 宙を舞うレイダーの腕。

 もはやレイダーに戦闘継続能力は殆どなかった。

 

 「終わりだ!」

 

 「まだだ!」

 

 そう――レイダーの武装が無くなった訳ではなかった。

 

 「ウオオオ!!」

 

 最後に残った武装、頭部のツォーンが光を発し、宙を舞う右腕を撃ち抜いた。

 

 「ッ!?」

 

 エクセリオンを包む爆煙。

 そこに紛れ背後からもう一撃、ツォーンを発射する、レイダー。

 

 「殺った!」

 

 反応しきれない。

 勝ったとそう判断するジルベールだったが次の瞬間、信じられないものを見た。

 不意を突いた筈にも関わらず、エクセリオンはスラスターを噴射させ宙返りする事でツォーンを避けてみせた。

 

 「なっ!?」

 

 あり得ない。

 完璧な奇襲だった筈。

 それをエクセリオンは神懸かり的な反応でツォーンの閃光を避けてみせた。

 まるで見えていたのかと思える反応で。 

 

 「俺の、勝ちだァァァァ!!」

 

 そのままエクセリオンは右手のビームサーベルを振り抜いた。 

 光刃がレイダーの腹部を深々と斬り裂き、コックピットに損傷を受けたジルベールもまた致命傷を受けた。

 

 「グハァァ!! く、くそ……」 

 

 破損した部品が容赦なくジルベールに突き刺さり、ひしゃげたコックピットが容赦なく体を押しつぶした。

 

 「ジルベール」

 

 「け、結局、お前には、一度も、勝て、なかった……か」

 

 吐血しながらも、どこか満足したように笑みを浮かべるとジルベールは目を閉じる。

 損傷したレイダーの腹部が火を噴き、そのまま爆散した。

 

 「アオイ、大丈夫か?」

 

 「ああ、大丈夫だ」

 

 バラバラに爆散したレイダーの残骸を見ながらアオイは複雑な感情に支配されていた。

 今までずっと戦ってきた相手だ。

 手強かったし、何度も煮え湯を飲まされた。

 そんな相手を倒したというのに素直に喜ぶ事ができなかった。

 

 「……ハァ、友達だったって訳でもないのに。こういうの一生慣れないんだろうな」

 

 でも、それでいいのかもしれない。

 これを忘れてしまったら大事なものも一緒に捨ててしまう事を同じ気がしたから。

 

 「アオイ、ジブラルタル基地から通信だ。指定された格納庫に機体を降ろせってさ」

 

 「了解」

 

 胸中に浮かぶ複雑な感情を誤魔化すように息を吐くと、アオイはシンと共にザフトから指定された場所に機体を向かわせた。




機体紹介2更新しました。
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