機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第29話 新たな道へ

 

 

 

 満身創痍といえる様相で帰還を果たしたヴォルケイノ・カラミティ。

 母艦であるディオネ級のモビルスーツハンガーに収まり装甲から色が消えると大慌てで整備班が機体に取りつく。

 

 「消火剤! 危なそうな所には徹底的に掛けとけ!!」

 

 「医療班呼んだ方がいいですかね?」

 

 「んなもんは必要ないよ。それより機体の方を頼むよ」

 

 コックピットを下りたアルネーゼは大騒ぎの整備班に声を掛け、控室に向かうと途中落ち込んだ様子のカーラが目に入った。

 

 「……カーラ」

 

 「大尉、申し、訳ありま、せん。わた、しが、迂闊なばかりに」

 

 カーラは涙を堪え、悔しさを滲ませた声で頭を下げる。

 補給で一人先に撤退していた事を悔やんでいるのだろう。

 気持ちは痛いほど理解できた。

 アルネーゼとて幾重の戦場を駆けて来たのだ。

 仲間を失う度にこういった葛藤が責め苛む事も知っている。

 

 あの時、こうしていれば――

 

 自分がもっとうまく戦っていればと――

 

 何度考えた事か。

 だがその考えに意味はない。

 結局は自分の中で決着をつけねばならない事。

 だからアルネーゼは出来るだけ明るく声を掛けた。 

 

 「アンタの所為じゃない。すべては連中の力を見誤っていた指揮官である私の責任だよ」

 

 「大尉」

 

 「そんな顔してたらジルベールに笑われるよ。『鬼の目にも涙』だってね。この借りは十倍にして返してやろうじゃないか」 

 

 「はい」 

 

 柄にもない励ましだったが、カーラには上手く伝わったようで強張っていた表情が幾分和らいだ。

 

 「ご無事で何よりです、バルマ大尉」

 

 近づいてきたヴィルフリートが気遣うようにカーラを見ると軽く頭を下げた。

 

 「クアドラード少佐、援護を感謝します。貴方が来てくれなければもっと味方に被害が出ていました」

 

 「いえ、私など何の役にも立たず申し訳ない。味方の損害が最小限で済んだのはバルマ大尉の奮戦故です」

 

 ジブラルタルから離脱する際、敵からの追撃を最後まで阻み、殿を務めていたのがカラミティだ。

 レイダーが二機の新型ガンダムを抑え込んでいた間にカラミティが他の機体の追撃を阻止していた。

 その為に武装は大半を消耗し、機体自体もボロボロの状態だった。

 

 「そう言ってもらえると少しは気が楽になるね。それで?」

 

 世間話をしに来た訳でもないだろうと続きを促すとヴィルフリートはカーラを一瞥する。

 どうやら彼もカーラを気に掛けていたようだ。

 カーラもヴィルフリートの視線に気が付いたのか、顔を少し赤くしながら制服の袖で目元を擦る。

 それを見たヴィルフリートは僅かに口元を緩めるが、すぐに険しい表情に戻ると次なる目的地を告げた。

 

 「……命令が来ました。我々も宇宙に上がる事になります」

 

 「宇宙に」 

 

 「そうか。待ってな。今回の借りは必ず返すよ」

 

 燃え上がる気炎を瞳に宿らせながらアルネーゼは次の戦場に思いを馳せ、拳を握った。 

 

 

◇ 

 

 

 アラスカでの戦いを切り抜けたドミニオンはオスロ基地へ急ぎ帰還を果たした。

 目的であるデータは回収できた。

 任務は無事成功である。

 これで月へ向かう為の道筋は開けた事になる。

 しかしアレン達に喜びはない。

 何故なら予想外の再会が待っていたからだ

 あの男――ラウ・ル・クルーゼとの。

 

 「生きていたとはな」

 

 「うん」

 

 格納庫でフリーダムの調整を行っていたキラの表情は暗い。

 もしかするとヤキン・ドゥーエ戦役の頃を思い出しているのかもしれない。

 

 「ラウ・ル・クルーゼって、昔ザフトに所属していたパイロットですよね?」

 

 「ああ。奴は各陣営を煽り、『ヤキン・ドゥーエ戦役』を激化させた一因だった。俺もキラも奴とはそれなりに因縁がある」

 

 「ニーナは知ってる?」

 

 「話した事はないけれど、見た事はあるわ。何度か作戦で一緒になった事があるし。何ていうか近づきがたいという印象があったかな。でも統合軍に所属しているとは、厄介ね」

 

 キラと並んで作業をしていたニーナもラウの名を聞いて表情を固くする。  

 クルーゼ隊を当事者としてではなく、外側から見ていたニーナは彼の男の本質がある程度見えていた。

 彼は仲間ことなど何とも思っていないと。

 使い捨ての駒として扱っているだけ。

 部隊を率いる将にはそうした視点も重要なのだろうが、彼の場合を行き過ぎていると感じていたのだ。

 

 「奴の事は考えても仕方ない。その動向には注目しておかなければならないけどな。それよりキラ、俺の機体はどうなっている?」

 

 「ヴァルハラで調整中。でも実戦で使うにはまだ時間が掛かると思う」

 

 「クルーゼも動いている以上、悠長な事は言ってられない。俺はすぐにでも宇宙に上がる」

 

 「宇宙はキナ臭いからね。じゃ、僕も準備するよ。ニーナ、手伝って」

 

 「はい」

 

 「回収したデータの解析も忘れるな」

 

 「分ってるよ」

 

 回収したデータの解析をキラに任せ、アレンはルナマリアと共に格納庫を後にする。

 

 「何処に行くんです?」

 

 「グラディス艦長達の所だ。状況の説明をしておいた方がいいだろうしな」

 

 先の戦闘で撃沈寸前にまで追い込まれたミネルバ。

 当然だがクルー達にも大きな被害が出た。

 艦長であるタリアは元より、副長のアーサー達も負傷し、今も入院中である者も少なくない。 

 

 「メイリンが軽傷だったのは不幸中の幸いだったけど」

 

 「副長が庇ってくれたおかげだな」

 

 「そういえばマユちゃん、目を覚ましたんですよね?」

 

 「ああ。戻ってきた時に顔を見せたら、普通に動いていたよ」

 

 アムステルダムで治療を受けたマユはすでに傷を完治させ、リハビリの訓練まで再開している。

 医者曰く信じられない回復力であるとの事。

 ヴェクトが何かしたのではと勘ぐったが、マユの体に異常は発見できなかった。

 

 「やっぱりあの研究者の所為ですかね?」

 

 「だろうな。傷の完治は喜ばしいが、複雑な気分だ」

 

 「マユちゃん、アレンに会えて喜んでたでしょう?」

 

 「……普通だったよ。変な勘ぐりは止せ」

 

 マユと会った時に色々あった事は言わず嘆息する事で誤魔化すと丁度タリア達の病室にたどり着いた。

 

 「アレンです。入っても大丈夫でしょうか?」

 

 「どうぞ」という声が聞こえ扉を開けると、ベットの上で何かの雑誌を見ていたタリアが笑顔で出迎えてくれた。

 

 「傷の具合はどうですか、艦長?」

 

 「大分良いわ。まだしばらくは安静にと言われているけど、思ったより早く復帰できそうよ」

 

 「それは良かった」

 

 ルナマリアがお見舞いにもって来た花を看護師に手渡すと早速現在の情勢について報告を行う。

 タリアの表情が険しくなり、握ったシーツに力が籠った。

 

 「統合軍の事は聞いていたけど、状況はかなり切迫しているようね」

 

 「ええ。そこで俺とルナマリアは先に宇宙へ上がりたいと思います」

 

 持ってきた端末を手渡しデータを表示する。

 

 「例の新造戦艦と共に動くか。ミネルバがいつ動けるか分からない以上はそれしかないわね」

 

 「ええ。統合軍ものんびり構えてはいないでしょうから」

 

 「分りました。アレン、ルナマリア両名はこのまま宇宙へ上がりなさい。私達も出来るだけ早く戦線に復帰できるようにします」

 

 「「了解!!」」

 

 

 

 ジブラルタル基地が統合軍の襲撃を受けて数日。

 調査の結果、被害は思った以上に軽微だった事が判明した。  

 モビルスーツハンガーの一部が破壊されるなど無視できない被害はあったが、司令部や重要施設はすべて無事。

 基地内に保護されていた要人達にも怪我はなかった。

 これもザフト防衛部隊の奮戦があればこそ。

 それが無ければ援軍が駆け付けてくる前に要人たちはこの世には居なかったかもしれない。

 

 「ハイネ・ヴィステンフルス隊長、貴方に感謝を。よくやってくれました」

 

 「止めてください、議長。むしろここまで簡単に攻め込まれたなんて、逆に謝罪しなくてはならないくらいですよ」

 

 ブリ―フィングルームへ呼び出しを受けたハイネは、要人たちが集まる前でレヴァンから感謝の言葉を受けていた。

 その背後には戦場へ駆けつけてきたシンとアオイの姿もある。

 

 「そんな事はありません。貴方が居なければジブラルタルの被害は甚大なものになっていた。そしてアスカ中尉、ミナト少尉。二人にも同じく感謝を。貴方達の奮戦によって被害が最小限に抑えられました。兵士たちに代わって礼を言います」

 

 「いえ」

 

 「俺達は別に」

 

 お偉方の前での賛辞にシンもアオイも面映ゆい気分にさせられる。

 そんな二人の様子を微笑ましく見ていたレヴァンだったが、すぐに表情を引き締めると今後の事を話し始めた。

 

 「さて、もう話を聞いているかもしれませんが統合軍の動きが宇宙で活発になってきていると報告が入ってきました。主戦場もこれから宇宙へ移る事でしょう」

 

 「では宇宙に?」

 

 「ええ。しかしその前に我々もまた一つの決断をしなくてはなりません」

 

 「決断?」

 

 レヴァンの言葉に三人が顔を見合わせていると、背後の扉が開かれた。

 

 「え、た、大佐!? 何で此処に!?」

 

 ブリーフィングルームへ入ってきたのはパナマにいる筈のネオ・ロアノークだった。

 

 「少尉、話は後で。申し訳ない、遅れてしまいましたか?」

 

 「いえ、丁度良い時間ですよ、ロアノーク大佐。こちらへどうぞ」

 

 ネオが促された奥の席に着くアオイは思わず息を飲んだ。

 何て言っても中立同盟、プラント、連合改革派のトップが勢ぞろいなのだ。

 一兵卒でしかない自分がこんな所にいるのはあまりに場違いな気がする。

 

 「あの、俺達此処に居て良いんですか?」

 

 「……退室しろとは言われていないからな」

 

 アオイが囁くとハイネも若干戸惑い気味に呟いた。

 

 「話の続きを。我々は今回の事で今まで先送りにしていた件について決着を付けようと思っています」

 

 「先送りしていた件……同盟への参加ですね?」

 

 「ええ」

 

 ユニウス戦役時は敵対関係にあったプラントと同盟だが、昨今関係は改善され同盟参加も目前であると言われていた。

 それが先送りになっていたのはユニウス戦役からの遺恨が残っていたからだ。

 関係は改善されても、未だ双方に刻まれた恨みは消えず。

 それを懸念してレヴァン達は慎重に事を進めてきた。

 だが、今の情勢ではそんな猶予は残されていない。

 仮に統合軍が月を手中に収めたなら、次は確実に同盟やプラントを潰しに来るだろう。

 そうなる前にこちら側の結束を固め、月側の要人を確実に送り届ければ統合軍の拡大を防ぐ事が出来る。

 

 「ですが、ただ参加するだけではありません」

 

 「えっ?」

 

 困惑するハイネ達にレヴァンは笑みを浮かべながら、今後にとって重要な事実を告げた。

 

 「中立同盟、プラント、地球軍改革派は条約を結び、『調和条約同盟』として新たな道を歩み始めたいと思います」

 

 

 

 

 

 統合軍が動き出した宇宙では、日に日に緊張感が高まっていた。

 大規模な武力衝突こそ起こっていなかったが、それも時間の問題と考えられている。

 

 そして今、それを証明するかのように宇宙における統合軍最初の武力衝突が起きようとしていた。

 

 「アルミラ艦長、統合軍艦隊を捕捉したと聞きましたが?」

 

 戦いが起きようとしている宙域を目指すように進む戦艦オーディンのブリッジにレティシア、ラクス、セリス達が入ってくる。

 それを横目で確認した艦長であるテレサはため息をついた。

 

 「一応な。先行してくれているイザナギとガーティ・ルーが情報をくれたおかげだ」

 

 今回オーディンに与えられた任務は軍事ステーション『ヴァルナ』から出撃した統合軍艦隊の戦力分析と目的の調査だった。

 イザナギとガーティ・ルーが先行しすでに情報収集を開始している。

 オーディンも一緒に任務に就く予定だったのだが、ロールアウトした新型機のテストを行っていた為に出撃が遅れてしまったのだ。

 

 「艦隊が目指す場所はやはりアルテミスですか?」

 

 「そうだ」

 

 レティシアの後ろに控えていたセリスの質問に答えるように画面に宙域図が表示される。

 そこにはアルテミス目がけて進む統合軍艦隊の姿があった。

 

 「どうして今、アルテミスなのでしょうか? あそこは戦略的な価値など殆どない拠点だった筈」

 

 アルテミスはユーラシア連合に属する宇宙要塞である。

 ヤキン・ドゥーエ戦役では『アルテミスの傘』と呼ばれた防御装置により、ザフトを寄せ付けない強固な要塞として知られていた。 

 だがアークエンジェル隊との諍いの隙をついたクルーゼ隊に攻め落とされ、その後も碌な目に遭わなかったらしい。

 それでも敵に占拠されなかったのは、単に戦略的な価値が無いからである。

 今は場所をL3方面からL4方面に場所を移し、時に連合保守派やユーラシアの補給拠点として運用されていた。

 

 「未確認情報だが、アルテミスには今イスラフィールに従わなかった保守派の幹部たちが逃げ込んでいるらしい」

 

 「それを捕縛する為に……でも『アポロン』に逃げ込まなかったのは何故です? あそこはアルテミスとは規模も違います」

 

 『アポロン』とは地球連合保守派が新たに建造していた宇宙要塞の事である。

 ユニウス戦役で大打撃を受けた『ウラノス要塞』の代わりらしいのだが、その規模は今までの宇宙要塞とは比較にならない。

 故に宇宙における懸念材料の一つだと言われていた。

 

 「セリスの言う事も最もだけど、アポロン要塞は未完成状態だからかもしれない」

 

 「そうだな。連中の事情は不明だが、アポロンから離脱しアルテミスに向かった部隊の話もある」

 

 「宇宙での足場作りが出来てないって事ですか」

 

 「しかし反面、此処でアルテミスが落ちてしまえば、宇宙で統合軍はより動き易くなってしまうという事ですわね」

 

 つまり今回統合軍の狙いは自分達の敵対勢力の一つを潰す事。

 これが出来れば彼らは月との交渉を進め易くなる。

 

 「……戦闘に介入するんですか?」

 

 「我々に与えられた任務は情報収集だ。出来るだけ介入は避けたい」

 

 「でも黙って見ていても……アルテミスが持ちこたえられる筈は」

 

 「言いたいことは分かる、ブラッスール中尉。しかしイザナギ、ガーティ・ルー、そしてオーディンだけでは戦闘に介入するには戦力不足だ」

 

 テレサとてこれが最善手でない事は承知している。

 アルテミスが陥落すれば、こちらにも確実に影響があるのだから。

 しかし打開案もなく誰しも押し黙ったその時、沈黙を破るように突如オペレーターが声を上げた。

      

 「イザナギより緊急入電! 敵からの襲撃を受けているとの事です!」

 

 「艦長、私達が先行します!」

 

 「頼む! ……ルティエンス!」

 

 「何です?」

 

 「身体は大丈夫なのか?」

 

 テレサも最近レティシアの体調が思わしくない事は知っていた。

 そんな心配を吹き飛ばすようにレティシアは笑みを浮かべる。

 

 「私は大丈夫ですよ」

 

 「無理はするな」

 

 「了解」

 

 ブリッジを後にしたレティシア達を見送ったテレサは改めてポツリと呟いた。

 

 「あの笑顔、男共がコロッとやられても無理ないな」

 

 しかも本人にはまるで自覚なしと来ては性質が悪いにも程がある。

 そんなだから男に言い寄られてしまうのだ。

 現にオペレーターの何人かはレティシアの笑顔に見とれるように入口の方を向いている。

 

 「貴様ら、何時まで呆けているか! オーディン、第一戦闘配備!」

 

 「「「了解!」」」

 

 テレサの凄みのある視線に晒され動き出すオペレーター達。

 それに改めてため息をつくとテレサも気持ちを切り替え、指示を飛ばし始めた。

 

 

 

 

 ヴァルナから出撃したクレオストラトスを中心とした統合軍艦隊はアルテミスに向けて進路を取っていた。

 その目的はアルテミスへと逃げ込んだ保守派の幹部の捕縛。

 無論、戦場であるが故に目標の生死は問わないと命令を受けている。

 クレオストラトスのブリッジにパイロット陣を集めたアスランは宙域図を見つめながら、作戦概要の確認を行っていた。

 

 「以上が現状確認できているアルテミスに関する情報だ」

 

 「しかし俺達が保守派の尻ぬぐいをさせられるとは」

 

 「今は同じ統合軍。不穏な発言は慎め、ラディス」

 

 「すいません、大佐」

 

 アスランの忠告に謝罪を口にしながらもラディスは不服そうにソッポを向いた。

 そんなラディスを無視するように隣に立つミレイアが不思議そうに首を捻った。

 

 「アルテミスに逃げ込んだ戦力って艦隊を率いて攻略に乗り出す程のものなんですか?」

 

 「いや、アルテミスに事前配備されていた戦力を考えてもこれほどの艦隊を組む必要はない。だが我々の力を宇宙に示すという意味では絶好の機会という事だ」

 

 圧倒的な力でアルテミスを陥落させ、力を示せば月との交渉も進めやすくなるといった思惑があるのだろう。

 

 「……ユリウス大佐にそんな小細工が通用しないだろうが」

 

 「大佐?」

 

 「いや、とにかく情報通りなら敵の規模は大したものではない。しかし油断はするな」

 

 丁度ブリーフィングが終わったタイミングでアルテミスの姿が見えてくる。 

 連中もこちらが仕掛けてくる事を察知していたのかモビルスーツ部隊の展開が済まされていた。 

 

 「何機か最新鋭の機体もあるな。第一戦闘配備、主砲発射と同時にモビルスーツ部隊出撃、各艦に通達!」

 

 「了解!」

 

 「此処は任せる」

 

 「大佐、自ら出撃されるのですか?」

 

 「当然だ。完成したレグルス――いや、ユースティアの試験運用にも丁度良い。出るぞ」

 

 「ハ!」

 

 その場を艦長に任せアスランが格納庫に足を運ぶとそこには以前とは違う姿となったレグルス・エクティスガンダムが立っていた。

 

 LFSA-X006b 『ユースティアガンダム』

 

 アスラン専用機レグルス・エクィテスガンダムとして開発された機体を、戦闘データ及びアムステルダムで回収したe.s.システムのデータを基にさらに発展させ、より高性能化させた機体。

 背中には大型のスラスターが背負わされ、以前の戦闘データを参考に手を加えられた結果、細部がかなり変化している。

 さらにはコックピット内にもアムステルダムにて回収したe.s.システムも搭載され、企画当初から大きく違った仕様となっている。

 

 「少しよろしいですか、大佐?」

 

 パイロットスーツに身を包み長い髪を纏めたヴァルターがいつも通りに笑みを称えて近づいてくる。

 

 「何でしょうか、ランゲルト中佐?」

 

 「大佐、私は別行動を取っても構わないでしょうか?」

 

 「どういう事です?」

 

 「いえ、どうやら五月蠅い蠅が飛んでいるようですので。もちろん作戦が重要なのは理解していますから、最終的な判断は大佐に任せますが」 

 

 蠅というのは敵の事。

 どうやって発見したのかという疑問は沸くが、聞いた所で答えるつもりはないだろう。

 作戦自体もよほどの隠し玉でもない限りは覆る事はあるまい。

 

 「任せます」

 

 「了解しました」

 

 ヴァルターが自分の機体の方へ歩いていくのを見届けるとアスランも自分の機体へ乗り込んだ。

 

 「各部スラスター異常なし、武装、OS及び『e.s.system』正常稼働」

 

 キーボードを叩き機体状態の最終チェックを行う。

 

 「流石、技師長。いい仕事をしてくれた」

 

 予想以上の出来にアスランは思わず笑みが零れた。

 ユースティアの急な仕様変更にもきちんと対応してくれた技師長に感謝しながら操縦桿を握る。

 機体がカタパルトまで運ばれ、ハッチが開いた。

 

 「では後を頼む」

 

 《お気をつけて、大佐》

 

 「了解。アスラン・ザラ、『ユースティア』出る!」

 

 ユースティアが押し出され、宇宙に飛び出すと機体が紅く色付いた。

 スラスターの点火と同時に加速した機体はそのまま先陣を切るように直進していく。

 

 「まずは試させてもらう!」

 

 アスランは両手で腰にマウントしてあった『オートクレールⅡ』を抜き放つと展開済みの敵部隊へと突撃していった。

 

 

 

 

 

 アルテミスでの戦闘が始まろうとしていた時、戦闘宙域から僅かに外れた場所ですでに戦いが始まっていた。

 相対していたのは隠密で統合軍の動きを探っていたイザナギ、ガーティ・ルーとファントムペインの母艦、サリエルであった。

 

 「ミサイル迎撃! ガーティ・ルーを援護しろ!」

 

 セーファスの命令に合わせ発射された主砲がガーティ・ルーに降り注ぐミサイルを叩き落とす。

 

 「ヴィヒター隊、母艦に敵を近づけるなよ!」

 

 GAT-07M 『グロム・ヴィヒター』

 

 連合が開発した可変型高性能量産モビルスーツ『ヴィヒター』の後継機。火力よりも機動性に赴きを置いており、可変機構の改修とOSが改良された事でさらに扱いやすくなり、性能も向上している。

 

 「俺について来い!」 

 

 「了解!」

 

 飛行形態で戦場を掛けるムウのスオウが放った一撃がイリアスを撃ち抜き、そのままモビルスーツ形態に変形、振るったビームサーベルが敵機の胴体を斬り裂いた。

 降り注ぐビームの砲撃を飛行形態の加速で振り切るように回避すると、ガトリング砲でミサイルを迎撃、それに続く形でグロム・ヴィヒターが敵陣に突撃する。

 その機動性に翻弄され、フォーメーションを乱した所に攻撃を撃ちこんだ。

 

 「チッ、結構な数だな! 囲まれる前にどうにか突破口を――何ッ!?」

 

 ムウに電気のようなあの感覚が走る。

 それは長らく感じていなかったあの感覚。

 しかも、これはもう感じる筈のない相手のものだ。

 

 「まさか」

 

 同時に別方向からのビームが僚機のスオウを落とし、続けて発射された一撃がさらに味方機を叩き落とした。

 針の穴を通すような正確な射撃が次々と撃墜していく。

 

 「これは……この感覚は!?」

 

 ムウがビームの放たれた方向に振り返ると赤い機体サタナエル・ナハトが二基のスラスターユニットを吹かし凄まじい速度で突撃してくる様子が見えた。

 

 「速い!?」

 

 即座に間合いに入ってきた赤い機体は横薙ぎにビームサーベルを振るってくる。

 持ち前の反応と体全身を駆け巡る感覚に身を任せ、シールドで光刃を防ぐとムウの耳にあり得ない声が聞こえてきた。

 

 「ほう、これを止めるとは。流石はエンデュミオンの鷹と言ったところかな、ムウ」

 

 「……この感覚、その声、貴様……ラウ・ル・クルーゼ!?」

 

 「久しぶりだな、ムウ。しぶとく生き延びているようじゃないか」

 

 懐かしさすら感じるやり取りにカースは楽しげに笑みを浮かべる。

 しかしムウからすれば悪夢のようなものだ。

 

 「何故生きている!?」

 

 「さあ、何故かな!」

 

 力任せにスオウを弾き飛ばしたサタナエルは反転するとガーティ・ルーとイザナギの方へと向かって行く。

 

 「ぐっ、貴様!」

 

 「お前の相手は後でしてやる。№Ⅰ、エリニス、他の機体を排除しろ」

 

 「「了解」」

 

 カースは母艦を守る為、迎撃に動いたコウゲツをすれ違い様にロングサーベルで瞬時に斬り捨て、護衛のスオウをライフルで叩き落とす。

 その隙に僚機として現れたイリアス・アキレスとブリアレオス・ゴライアスがグロム・ヴィヒターを吹き飛ばし、ガーティ・ルーへの道を開いた。

 

 「行かせると思うか!」

 

 「カース様の後は追わせない」

 

 サタナエルの後を追わせまいとイリアス・アキレスが道を阻む。

 

 「くそ、こいつもエース級か!」

 

 「邪魔はさせない、ムウ・ラ・フラガ」

 

 ビームライフルショーティーの連撃を機体を仰け反らせて回避する、ムウ。

 しかしその間にサタナエルはイザナギとガーティ・ルーを射程内に入れていた。

 

 「作戦の邪魔をさせる訳にはいかなくてね。先に仕留めさせてもらおう」

 

 コウゲツの腕を斬り落とし、右足でコックピットを押しつぶす。

 そしてグロム・ヴィヒターの側面に回り込みシールドで串刺しにすると戦艦から発射されたミサイルに叩きつけて撃破した。

 

 「流石、同盟軍。錬度が高いな」

 

 敵を称賛しながら敵の迎撃を掻い潜りビームライフルでガーティ・ルーを狙い撃つ。

 ビームがガーティ・ルーの砲台を吹き飛ばし、エンジンにダメージを与えた。

 

 「イアン艦長、ガーティ・ルーの損害は?」

 

 「エンジン出力低下、航行に支障があります」

 

 「くっ、何て奴だ。迎撃のモビルスーツを相手にしながら、戦艦に攻撃を仕掛けるなんて」

 

 ガーティ・ルーの損害を聞きながらセーファスは敵パイロットの技量に驚嘆する。

 迎撃のモビルスーツとてただ闇雲に攻撃している訳ではない。

 敵が攻撃出来ないようにフォーメーションを組んでいる。

 それなのにサタナエルは攻撃を仕掛けつつ、一瞬の隙を突いて急所を正確に攻撃してくるのだ。

 並みのパイロットではあるまい。

 

 「ガーティ・ルーを守れ! 敵を近づけるな!」

 

 イザナギから発射されたミサイルが途中で弾け、サタナエルを引き離すように炸裂する。

 さらに煙幕も混じっていたのか、周辺の視界を覆い隠した。 

 

 「ほう、優れた指揮官の様だな。しかし、それで逃げられるとでも?」

 

 サタナエルは煙幕で視界が塞がれているにも関わらず、サーベルを逆手に持って背後に突き刺す。

 背後に向けた一撃が奇襲を仕掛けようとしたムラサメの胴体を貫き、そのままビームライフルを構えるとトリガーを引く。

 発射されたビームがガーティ・ルーの側面に直撃し、爆発を引き起こした。

 

 「なっ、視界を塞がれている筈、奴は一体?」

 

 「そろそろ決めさせてもらおう」

 

 煙幕から飛び出してきたサタナエルはサーベルに突き刺したムラサメを放り投げ、グレネードランチャーで爆発させた。

 視界を塞ぐほどの爆発と衝撃波がイザナギを襲う。

 距離を詰めたサタナエルはブリッジにライフルの銃口を向けた。

 

 「ッ!?」

 

 「これで」

 

 カースがトリガーを引き、銃口から発射されたビームがイザナギのブリッジを射抜かんと直進していく。

 

 同盟軍の時間が凍りついた。

 

 セーファス達の視界が閃光に染まり、そのまま包まれようとしたその瞬間、直前でビームが弾かれた。

 

 「何!?」

 

 見ればブリッジを守るように防御フィールドが張り巡らされている。

 

 「これは……なるほど、君が来たか。『戦女神』レティシア・ルティエンス」

 

 増援として駆けつけてくるモビルスーツ。

 

 同盟軍の新型機に違いない。

 

 もうじきこの場に現れる者に気がついた時、彼女がどう反応するのか。

 

 「不幸な宿縁だな」

 

 楽しむようにカースはさらに笑みを深くした。 

 




機体紹介2、用語集更新しました。

ペルソナ5やうたわれるもの、Fate/GOのイベントなどで遅れてしまいました。
しばらくは少し遅くなるかもしれません。
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