機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第30話 鏡の自分

 

 

 

 アルテミスの司令――いや元司令であるジェラード・ガルシアは冷や汗を流しながらモニターに映る大軍の姿を凝視していた。

 モニターに映るは統合軍の艦隊。

 その戦力はアルテミスの駐留させている兵力ではとても勝ち目が見えない程の差があった。

 

 「あれだけの戦力を前に勝ち目などある筈が……降伏すべきではないでしょうか、ブレーズ大佐殿?」

 

 ガルシアが指揮官席に座るガスパール・ブレーズ大佐の顔色を窺うように話しかけた。

 話しかけたガルシアをギロリと睨みつけるようガスパールが視線を向ける。

 彼こそが現在ガルシアから指揮権を奪い、アルテミスを統括している司令官である。

 統合軍誕生に不満を持ちマケドニア要塞でのクーデターを企てたガスパール達だがファントムペインにより阻止され、ビクトリアからアルテミスへと逃れてきていた。

 

 「では貴様は此処で奴らに屈しろとでも?」

 

 「い、いえ、しかし」

 

 「もう少し時間があれば奴らを一網打尽に出来たが。しかしそれでも準備さえ整えば……今は時間を稼げ! そうすれば勝てる!」

 

 ガルシアの声など聞こえていないとばかりに、ガスパールは指示を飛ばし始めた。

 

 「……司令」  

 

 「う、うむ」

 

 傍に控えていた部下に頷き返す。

 ガスパールの言い分も分からない訳ではない。

 彼らが持ち込んできた『アレ』が使えるならば万に一つの勝機も確かにある。

 だがそれでも分が悪いと考えていた。

 そもそも勝ったとしてどうしようというのか。

 ガスパールは此処で連中を退ければ自分達に従う者も現れると言ってはいるが、忘れてはいまいか。

 すでに自分達の属していた地球連合など存在しないという事を。

 

 「つ、付き合ってはおられん」

 

 もはや話しても意味はないとガルシアは部下と共に誰にも気づかれぬよう、その場を後にした。

 それにも気が付かないままガスパールは展開された統合軍に挑戦的な目を向ける。

 

 「イスラフィールめ! 貴様の好きにはさせん!」

 

 そもそもあんな若造の力を利用していたのが誤りだった。

 だが、考えようによっては丁度いい。

 此処で邪魔な膿を吐き出し、すべて最初からやり直せばよいのだ。

 

 「地球連合の栄光は私が必ず取り戻す! モビルスーツ隊、出撃せよ! 敵をアルテミスに近づけるな!!」

 

 ガスパールの怒声が響き渡ると同時に出撃したモビルスーツ隊が統合軍を迎え撃つべく展開を開始する。

 

 

 それは号令は連合にとって瀬戸際の、統合軍にとって初の宇宙での大規模戦闘が開始された事を意味していた

 

 

 

 

 アスランはアルテミスを囲む形で展開された部隊の指揮を執りながら、戦闘を開始していた。

 ようやく完成した専用機を小気味よく機体を操りながら、感触を確かめるとアスランの顔に満足気な笑みが浮かぶ。

 

 「良い反応だ。前とは比べ物にならない」

 

 以前使った時は未完成だったから仕方ないとも言えるが。

 

 「これならば!」

 

 思いっきりペダルを踏み、スラスターを噴射させると機体が加速した。

 背中の大型スラスターによる推進力で一気に速度を上げたユースティアはそのまま敵陣へと突撃する。

 

 「統合軍の新型か!?」

 

 「新型だろうとたった一機で!」

 

 迫るユースティアにビームライフルを構えたイリアスが迎撃行動に入った。

 

 「イリアスやブリアレオス……最新機もそろっているようだな。各機、油断するな!」

 

 ビームライフルの射撃を回避しながら、オートクレールの間合いに入ると小細工抜きで一閃。

 剣から発生した強力なビーム刃がイリアスを抉り、シールドごと軽々と両断する。

  

 「なっ!?」

 

 「きょ、距離を取れ! 接近戦は不利だ!」

 

 「甘い」

 

 ユースティアから距離を取り、銃口を向けるイリアス。

 そんな敵に腹部の『アドラメレクⅡ』を発射する。

 強力な閃光がイリアスに防御の姿勢すら取らせず消し炭に変えると、今度はスラスターからドラグーンを射出した。

 

 「いけ!」

 

 素早く動き回る砲台に敵は翻弄され、認識する間もなく四方から発射されたビームによりハチの巣にされた。

 

 「なら接近戦で!」

 

 ドラグーンの作り出したビームの網の中を損傷覚悟で突撃する、イリアス。

 肩や腕を穿たれても気にせずユースティアに斬りかかる。

 

 「落ちろ!」

 

 「その勇気は買うが、迂闊だ!」

 

 次の瞬間、イリアスの腕が飛び、同時に頭部が裂かれた。

 

 「なっ!?」

 

 ユースティアが両手で握る二刀が煌めき、同時に両足のサーベルも解放され、上下左右と振るわれる。

 バラバラにされたイリアスは成す術なく爆散、それに紛れて発射されたビーム砲により遼機も全機薙ぎ払われた。

 

 「大佐に続け! ミレイア、初めての機体での宇宙戦だ。俺の後ろから離れるなよ」

 

 「了解!」

 

 ユースティアに続き戦場へ姿を見せたのは二機のアルタイルだった。

 一機はタキオンアーマーを身にまとい、細かい改修を受けたラディス専用機。

 もう一機は赤く塗装されたミレイア専用の機体である。

 

 「どけよ、雑魚ども!」

 

 ラディスはライフルで敵機を粉砕しながら、ビームサーベルを叩き込む。

 ビームで致命傷を受けた敵機にサーベルの刃が容赦なく突き刺さる。

 敵からの反撃をあっさりと潜り抜けエレメンタルドラグーンを放出、周りの敵機をすべて撃墜した。

 

 「アハ、ハハ、ハハハハハ!! こんなものか! こんなものなのかよ!!」

 

 面白いように落ちていく敵機の姿にラディスは万能感にも似た快感が駆け抜けた。

 敵はまるで群がるアリのようにアルタイルへと攻撃を仕掛けてくる。

 だが、遅い。

 敵の攻撃の射線を見切り、アルタイルを自由自在に操り、敵機を翻弄していく。

 

 「遅い、遅い、遅い!!」

 

 アルタイルはまるで水を得た魚のように生き生きとした動きで敵を屠る。

 重力に縛られた地球での戦闘を経験したからか、ラディスは機体を前以上に軽く感じていた。

 これはタキオンアーマーによる強化と今まで戦闘データの反映、そして今までの戦闘経験が大きく影響している。

 以前、アルタイルが実戦に投入された時、ラディスは初陣。

 強化を施されたとはいえ経験もない新兵だった。

 しかし今は違う。

 数多の戦場を越え、格段に成長している。

 強化兵としての力と合わさってラディスの力は並みの兵士では相手にならぬ程の技量を身につけていた。

 

 「ラディス、凄い」

 

 圧倒的な力で敵をねじ伏せるその様は戦闘経験の浅いミレイアにも尋常なものでは無い事は分かった。

 

 「私だって負けない。大佐の役に立つ為にも!」

 

 呼吸を整え、周りに意識を向けていく。

 強化され、研ぎ澄まされた感覚が肌で感じ取るように敵の殺意を感知する。

 

 「そこ!」

 

 敵の攻撃を回避しつつ動きを把握した一射が正確にコックピットを貫き、撃破する。 

 さらに放出したエレメンタルドラグーンによる牽制で敵の動きを阻害し、ライフルをもって撃墜していく。

 ラディスの荒れ狂うような戦闘とは対照的。

 冷静かつ冷徹な一撃が正確に敵を穿つ。   

 アルテミスを守る者にとって、悪夢とも言える光景がそこには広がっていた。

 

 「な、何だ……あの三機は!?」

 

 「あんな化け物に勝てる訳がない!」

 

 「ひ、怯むな! ハイぺリオン隊、前に出ろ!」

 

 部隊を守るように前面に出て来たのはユーラシアで開発された機体ハイぺリオンGと呼ばれた機体、所謂ハイぺリオンの量産機である。

 ウイングバインダー先端から発生させた光波防御シールド『アルミューレ・リュミエール』で防御の構えを取る。

 しかしそれは勢いに乗る三機には何の意味もないものだった。

 

 「そんなもので!」

 

 素早く回り込んだユースティアの斬撃がウイングバインダーごと斬り捨て、アルタイルのビームライフルが胴体を穿ち撃墜する。

 

 三機の猛攻。

 

 それに感化され勢いづいた統合軍が守備隊を押しつぶそうと一気に攻勢に出る。

 

 アルテミスの指令室でそれを忌々し気に見ていたガスパールは拳を握る。

 

 「思った以上に厄介な相手のようだな! 仕方がない、エクステンデット部隊を出せ!」

 

 アルテミスの隔壁が解放され数機のモビルスーツと複数の巨大な影が戦場へと姿を見せる。

 

 それはイリアス・アキレス、ブリアレオス・ゴライアス、そしてデストロイMK-2であった。

 

 「デストロイ級に、あの動きはエクステンデットか!」

 

 ウィンダムを斬り捨てたアスランは敵の乱れのない動きで、その正体を看破する。

 エクステンデットが相手では如何に精鋭であろうとも、損害は免れない。

 

 「全機、下がれ。アレはこちらでやる。ラディス、ミレイア!」

 

 「了解!」

 

 「分かりました!」

 

 二機がモビルスーツの迎撃に向かい、アスランはデストロイの方へ突撃する。

 それを見越したデストロイも砲口をユースティアに向け、発射体勢に入った。

 

 「それの火力は分かっている。けど当たりさえしなければ!!」

 

 アスランのSEEDが弾ける。

 

 するとコックピットに仕込まれたe.s.システムが起動する。

  

 感覚がいつも以上に鋭く、深くアスランの全身を駆け巡っていく。

 

 「これがe.s.システムの力か!」

 

 何時も感じている感覚以上の力を確かめるように操縦桿を握り締めた。

 発射された強烈な熱線がユースティアに襲いかかる。

 しかし、射線の軌跡がアスランにははっきりと見えていた。

 

 「ウオオオ!!」

 

 機体に急制動を掛け、射線から逃れデストロイの懐に飛び込むとオートクレールを一閃する。

 迎撃の為に展開された隠し腕は破壊され、脚部のビームサーベルを展開して蹴り上げると胸部の砲口を斬り潰した。

 

 「懐に飛び込めばその機体は本領を発揮できまい!」

 

 そのまま上昇したユースティアはデストロイへ剣を振り下ろす。

 オートクレールの一太刀が深々と頭部から腹部に掛けて大きく斬り裂き、真っ二つになった巨体はそのまま大きく爆散した。 

  

 「残り三!」

 

 ドラグーンを放出し、デストロイが防御できない速度でコントロールしながら急所を突く。

 ビームによって抉られた箇所から火を噴き、動きを鈍らせた所で胴体を横薙ぎに剣を斬り払った。

 アスランは無数のビーム砲の回避しながら横目で戦場の様子を見る。

 エクステンデットが乗り込んだ機体群はラディスを中心にミレイア達が援護に入る事で順調に数を減らしていた。

 

 「ランゲルト中佐がいればもっと楽だったかもしれないが……いや、それよりも敵の動きが気になるな」

 

 敵は明らかに時間稼ぎを狙った動きをしている。

 

 「何か隠し玉でもあるのか?」

 

 そのアスランの懸念が当たる形でアルテミス内が動き始める。 

 

 「ガスパール大佐、充填率75%」

 

 「良し、発射準備!」

 

 「しかし、まだ十分な――」

 

 「構わん、撃てれば良い! 隔壁解放、目標敵艦隊! 急げ!!」

 

 「り、了解!」

 

 アルテミスの中央が解放され、巨大な砲塔が姿を見せる。

 

 それはかつてウラノス要塞に搭載されていたロゴス派の切り札と同じものだった。

 

 「まさか――『レクイエム』か!?」

 

 アスランの推測通り、アルテミスに搭載されたものは『レクイエム』の改良版『レクイエムⅡ』である。

 レクイエムとは軌道間全方位戦略砲と呼ばれる連合の戦略兵器の事で、巨大ビーム砲と周辺に配置された複数の廃棄コロニーから成る。

 廃棄コロニーの内側にはビーム偏向装置『ゲシュマイディッヒ・パンツァー』が設置され、砲塔から発射されたビームはこの廃棄コロニーの内部を通過するとその軌道を変え、目標の対象物を破壊する事ができる兵器である。

 コロニーの配置を変更する事で自由自在に敵を狙い撃つ事ができるこの兵器はユニウス戦役で猛威を振るい、相対した者達の記憶に刻み込まれている。

 

 「あんなものを用意していたとは――狙いは艦隊か! 全艦、回避運動!!!」

 

 アスランの声に各艦がレクイエムから逃れるように左右に分かれて回避する。

 しかし逃さないとばかりにレクイエムの砲口が光を発し、発射された。

 

 宇宙を斬り裂く閃光。

 

 それは幾つかの艦艇を巻き込み、月の方向へと消えていった。

 

 「クレオストラトス、無事か!? 被害状況報告!」

 

 《こちらクレオストラトス。本艦に被害はありませんが、幾つかの艦艇に損害あり!》

 

 戦艦故に機敏に回避する事はできず、何隻かの戦艦が沈んだようだ。

 レクイエムによる被害で浮足立つ統合軍。

 その姿にガスパールはニヤリと笑みを浮かべた。

 

 「良し、敵は浮足立っている! 全軍、このまま押し込め! レクイエムⅡ再チャージ急げ!」

 

 レクイエムの砲撃により息を吹き返した保守派は統合軍を押し返そうと責め立てる。

 そして統合軍に突きつけられたレクイエムの砲塔は再び発射しようと稼働し始めた。

 

 「くっ、これ以上、撃たせる訳にはいかない!」

 

 オートクレールの一振りをデストロイのコックピットに投げつけ沈黙させると、スラスターを吹かしレクイエムの方へ突撃する。

 

 「邪魔だ!」

 

 ビーム砲とドラグーンでユースティアの邪魔をするハイぺリオンGを排除するとそこでアルテミスが光の膜で覆われた。

 

 「敵を近付けるな!!」

 

 「光波防御帯か! だからと言って!」

 

 次から次へと立ちはだかる護衛機の攻撃を避けながらアスランは機体を加速させ、アルテミスへ突っ込んでいく。

 

 「この!」

 

 「行かせるな!!」

 

 上方から突っ込んできたハイぺリオンGのビームナイフがユースティアに突きつけられる。

 それが機体に当たる直前で掴んで防いだアスランは力任せに腕ごと引き千切り、そのままコックピットを押しつぶした。

 

 「使わせてもらう!」

 

 ハイぺリオンGを掴んだままビームシールドを展開し、光波防御帯に接触する。

 最後の抵抗とばかりにユースティアを拒む光波防御帯を力任せに突破すると砲塔に向かってハイぺリオンを投げつけた。

 

 「諸共、落ちろ!」

 

 発射されたビーム砲がハイぺリオンを撃ち抜き、発生した爆発がレクイエムの砲塔に損害を与える。

 

 予想外の自体にアルテミス指令室は混乱状態に陥ってしまった。

 

 「敵からの攻撃により、レクイエムⅡ発射不能!」

 

 「敵モビルスーツ、防御帯内部に侵入!」

 

 「何だと!? 内部の防衛戦力で迎撃、予備部隊にレクイエムの砲塔を修復させろ!」

 

 「敵モビルスーツ、要塞内部に侵入しました!」

 

 「ッ!?」

 

 モニターに映ったのは片手に実体剣を持つ赤い装甲が特徴的なモビルスーツの姿。

 

 護衛のモビルスーツを一蹴し、光るツインアイが司令室の方へ向く。

 

 その姿はガスパール達にとって間違いなく死神そのもの。

 

 「ば、馬鹿な。こんな、こんな場所で私達は――」

 

 悲痛な叫びが届く筈もなく敵機はビーム刃を伸ばした実体剣で指令室に突きを放つ。

 

 何の抵抗もなく突き刺さった刃に巻き込まれ、ガスパール・ブレーズ大佐以下地球軍保守派のメンバー達は全員塵も残さず消え去った。

 

 「フゥ……指令室を落とした。全機、要塞を制圧しろ」

 

 指令室を破壊したアスランは光波防御帯の発生器を破壊しながら外へと出る。

 

 もはや大勢は決した。

 

 万が一にも保守派の逆転はあり得まい。

 

 「……要塞を制圧すれば作戦完了だな。後は―――」

 

 アスランは尚も戦闘が行われている方へ視線を向けると、そちらの方へ機体を向かわせた。

 

 

 

 

 イザナギを狙うサタナエルの攻撃から守ったアイギス・ドラグーンが放出した本体へと帰還する。

 戦場に現れた機体は三つ。

 それらはすべてヤキン・ドゥーエ戦役やユニウス戦役を戦った者であれば知らぬものはいない機体群だった。

 

 「こちらレティシア・ルティエンス少佐です。イザナギ、応答してください」

 

 「ルティエンス少佐か!?」

 

 「オーデン准将、援護に来ました。オーディンもすぐに到着する筈です」

 

 「助かる」

 

 「では援護に入ります。ラクス、セリス、行きますよ」

 

 レティシアは機体のスペックを再確認するように頭に思い浮かべる。

  

 ZGMF-X28A 『アヴローラ・ヴァナディスガンダム』

 

 レティシア・ルティエンス専用機として開発されたヴァナディスガンダムをキラ・ヤマトとローザ・クレウスの手で再設計された機体。

 武装自体はユニウス戦役時の状態でも十分な戦闘力を備えているとして変更は成されていないが、その分ドラグーンの性能向上が図られている。

 

 「基本は前と変わらないけど、性能は格段に上昇している。使いこなさないと」

 

 「無茶しないでくださいね、レティシア。私が前に出ます」

 

 「そうです。教官は下がっててくださいよ」

 

 アヴローラ・ヴァナディスガンダムの傍に二機のモビルスーツが控えていた。

 

 ZGMF-X29A 『クスィフォス・ジャスティスガンダム』

 

 ユニウス戦役で投入されたインフィニットジャスティスガンダムをキラ・ヤマトとローザ・クレウスの手で再設計された機体。

 目新しい武装は搭載されていないが、基になったインフィニットジャスティスガンダムが十分すぎる程に優秀な性能をもっていたが故にこの機体も破格の性能を持つ。

 

 ZGMF-X01A 『アイテルガンダム・ヴァルキューレR』

 

 月面紛争時に大破したアイテルガンダムを改修、同時期に投入された特殊装備『ヴァルキューレ』を固定装備として組み上げられた機体。

 元々高い性能をもっていたアイテルガンダムを現在の技術をもって改修を受けた事で月面紛争時とは比較にならない性能を持ち、現在のエース機を軽く上回る。

 

 「二人共、気遣ってくれるのは嬉しいですけど、過剰な気遣いは必要ありません!」

 

 イザナギと損傷したガーティ・ルーを守るようにドラグーンを展開すると、撃ち込まれたミサイルをすべて叩き落とす。

 その爆煙の中をジャスティスとアイテルの二機が武器を構えて突っ切ると敵陣へと突入した。

 

 「セリスさん!」

 

 「はい!」

 

 ジャスティスのビームブレイドがイリアスを蹴り、アイテルの大剣『ヴァルファズルⅡ』がブリアレオスを斬り捨てる。

 戦艦の周りに群がっていた敵機を二機が排除した隙にレティシアはビームサーベルでサタナエルに斬りかかった。

 振り下ろされたサーベルを余裕で受け止めるサタナエルにレティシアは歯噛みする。

 

 「やりますね。その機体、見覚えがあります。確かザフトの……」

 

 「フ、久しぶりかな、戦女神」

 

 「な、まさか、貴方は!?」

 

 「私の事などどうでもいいだろう。それよりも君がこの場に現れるとは、これも引かれ合う運命とでも言うべきなのかな」

 

 「どういう意味です」

 

 「私が答えずとも君自身が気がついているだろう?」

 

 ラウの言葉に困惑するも、その意味はすぐに理解できた。

 レティシアの体に再び電気が走ったようなあの感覚が駆け抜ける。

 

 「これはあのシリウスのパイロット!?」

 

 「君の運命の相手さ。存分に堪能するといい」

 

 サタナエルはヴァナディスを突き放し距離を取ると入れ替わるようにして、別の機体が現れた。

 

 「統合軍の新型?」

 

 新型機は背後から来る増援と共にヴァナディスの方へと近づいてくる。

 

 LFSA-X008 『ユングヴィ』

 

 エリュシオンガンダムのデータを基に開発された新型モビルスーツ。

 タキオンアーマーのデータを基に開発されたスラスターユニットによる高い機動性。さらに遠距離、中距離、近距離とすべての間合いで対応でき、ドラグーンやスナイパーライフルを用いた特殊作戦すら可能にする非常に高い汎用性を持つ。

 

 「また会いましたね、レティシア・ルティエンス」

 

 新型のコックピットで座っていたのはヴァルター・ランゲルトだった。

 来る前からレティシアが居た事を知っていたかのように笑みを浮かべる。

 

 「貴方は……」

 

 間違いなくあの機体に乗っているのは撤退戦で戦ったシリウスのパイロットだ。

 レティシアは警戒しながら敵モビルスーツを観察する。

 しかし次の瞬間、機体から砲塔が切り離され、ヴァナディスへと襲い掛かった。 

 

 「ドラグーン!?」

 

 駆け巡る直感。

 それに従い機体を左右に動かしドラグーンの砲撃を回避すると、ヴァナディスもドラグーンを放出する。

 

 「競い合いですか……望む所ですね」

 

 「くっ、戦い方まで似てるなんて」

 

 動き回るドラグーン同士の撃ち合い。

 お互いがお互いの動きを先読みし、損傷も撃墜もできない。

 まるで自身を鏡で見ているかのように同じ動きで砲塔を操作している。

 

 「……この気配、妙ですね。まるでその機体にもう一人――レティシア、貴方は」

 

 「何をブツブツと!」

 

 先に動いたのはレティシアだった。

 斬艦刀『アインヘリヤルⅡ』を抜いて斬りかかるとユングヴィもまた対艦刀『イシュタルⅡ』を構えて応戦、激突した刃とシールドが激しい火花を散らす。

 

 「貴方は何者ですか? 何故、私に――」

 

 「似ているかですか……それを聞いてどうするのです? アストにでも報告しますか?」

 

 「ッ!!」

 

 レティシアはユングヴィをシールドで下から突き上げ、斬艦刀を再び叩きつける。

 体勢を崩した状態で振るわれた斬撃。

 しかし隙を突いたにも関わらずあっさり盾で流したユングヴィは持っていた対艦刀をライフルモードへ変化させ、至近距離からヴァナディス目掛けて発射する。

 

 「あの体勢から!?」

 

 ギリギリ機体を逸らしビームを回避するとお返しに高出力収束ビーム砲を撃ち出す。

 だが、それも見切っていたとばかりにドラグーンで張り巡らせた防御フィールドで受け止めた。

 

 「反応は良いようですね」

 

 「貴方は――誰?」 

 

 互いに動きを感じ取っているのか致命的な隙が見当たらず、埒が明かない。

 敵はあまりにレティシアに似すぎていた。

 戦いぶりだけではない。

 聞こえてくる声も、アストの話から推測して顔もであろう。

 

 「戦いに集中しないと命取りになりますよ、レティシア。でも一つだけ答えましょう。貴方の予想とは違います」

 

 「え?」

 

 「私は貴方の『クローン』ではないと言っているのです」

 

 こうも簡単に自分の考えを見透かされた事にレティシアは戦慄する。

 

 「洞察力も優れている訳ですか」

 

 「おしゃべりはもう良いでしょう?……ドラグーンの撃ち合いだけではどうにもなりませんね。なら、私の得意分野で攻めましょうか」

 

 ユングヴィはスナイパーライフルを構えると、ヴァナディスを狙って撃ち出した。

 その射撃は正確無比。

 確実にヴァナディスの急所を狙っていく。

 

 「くっ、これでは!」

 

 シールドで防御しながらライフルで反撃を狙うがユングヴィがそれをさせない。

 

 「さあ、どこまで足掻けますか!」

 

 「舐めないでもらいましょうか!」

 

 コックピットを狙った一撃を紙一重ですり抜け、さらに放たれた一射を破損覚悟でアインヘリヤルで防御するとユングヴィへと突撃する。

 破損したアインヘリヤルを投げ捨てさらに放ってきたビームをシールドで受け流し腕部のビームガンから放出したサーベルで斬りかかる。

 

 「距離を詰められるとは、流石『戦女神』ですね」

 

 サーベルをシールドで止めたヴァルターとレティシアはコックピット越しに睨みあう。

 

 戦況は膠着状態へと陥っていた。

 

 ガーティ・ルーに群がる敵はラクスが、ヴァルターの連れてきた増援部隊はセリスにより迎撃されている。

 

 後は目の前のユングヴィとサタナエルさえどうにかできれば――

 

 そう考えていたレティシアの思惑を壊すかのように一機のモビルスーツが乱入してくる。

 

 

 「レェェェティィィシィィアァァァァァァァ!!!!!!!」

 

 

 獣を思わせる咆哮と殺気に思わず目を見開く。

 

 乱入してきたのはブリアレオス・ゴライアス、即ちエリニスだった。

 

 「アハ、アハハハハハ!!!! やっと見つけたぞ、レティシアァァァァ!!」

 

 ユングヴィとヴァナディスは弾け合い、ブリアレオスの攻撃を回避する。

 

 「……貴方、あんなケダモノと知り合いなのですか?」

 

 「知りませんよ」

 

 呆れながらも、しつこく斬撃を繰り出してくるブリアレオスをいなし突き放す。

 

 「レティシア、貴様を殺す! そして私はァァァ!!」

 

 「……貴方の名前、呼んでますけど?」

 

 「だから知らないって言ってるでしょ!」

 

 距離を取ったヴァナディスはドラグーンでブリアレオスを囲み、動けない様にビームフィールドを展開する。

 

 「なっ、こんなもので動きを封じたつもりかァァ!!」

 

 ブリアレオスはフィールドの起点になっているドラグーンを破壊する為にライフルを構える。

 

 「僅かに動きを止められただけで十分ですよ」

 

 エリニスの行動を読んでいたレティシアは虚を突く形でフィールドを解除する。

 同時に収束ビーム砲を叩き込み、ブリアレオスの片腕を破壊した。

 

 「ぐぅぅぅ、貴様ァァァ!!」

 

 「付き合ってはいられませんよ」

 

 距離を詰めたヴァナディスはビームサーベルを横薙ぎに払い、ブリアレオスの下半身を斬り捨てた。

 

 「レティシアァァァァァァ!! 殺してやる、貴様は必ずこの手で殺してやるぞ!!」

 

 「二度と来ないでください」

 

 撃墜されたブリアレオスを尻目に再びユングヴィと激しく斬り合う、ヴァナディス。

 

 「フフ、本当に流石です。ケダモノとはいえ、ああもあっさり倒すとは」

 

 「余計な世辞は結構です!」

 

 「でも、そろそろ時間切れですよ」

 

 ヴァナディスのレーダーに急速に近づいてくる機影が写し出されている。

 

 「アルテミスを落としたザラ大佐が向かって来ているのですよ。その後ろからは本隊も来ます」

 

 「ッ!?」

 

 不味い。

 本隊と共にアスランが来たら、他の敵を抑えきれなくなる。

 ラクスはガーティ・ルーやイザナギの援護で精一杯。

 セリスはイリアス・アキレス、ムウを含めた護衛部隊はサタナエルの相手に防戦一方だ。

 

 「何とか活路を――」

 

 「させるとでも?」

 

 ヴァナディスを逃がさないとユングヴィが斬りかかってきた。

 

 このまま囲まれれば全滅する。

 

 そんな考えが全員の脳裏を過る。

 

 その時、動いたものがいた。

 

 損傷していた筈のガーティ・ルーである。

 

 戦場のど真ん中を突っ切り、サリエルと激しい撃ちあいを行っていたイザナギとの間に割って入った。

 

 「なっ、イアン艦長、何を!?」

 

 乱れた映像に笑みを浮かべたイアンの姿が映し出される。

 

 《オーデン艦長、敵は我々が引きつけます。今の内に撤退を》

 

 「……イアン艦長」

 

 確かにそれが最善策かもしれない。

 損傷したガーティ・ルーでは敵からの追撃から逃れられない。

 かといって防衛しようにも戦力が明らかに不足しており、囲まれてしまえばそこで殲滅されてしまうだろう。

 なら、動けないガーティ・ルーを囮に離脱を図る。

 これが一番現実的だろう。

 

 「なら早く脱出を」

 

 《全員が逃げては艦を操作する者が居なくなってしまいます。残ってくれた者も志願者だけですからお気遣いなく》

 

 覚悟を決めたイアンの表情にセーファスはそれ以上、何も言えなくなってしまっていた。

 

 《お早く。長くは持ちません》

 

 「……御武運を」

 

 唇を噛みながらセーファスは絞り出したように呟く。

 

 《ありがとうございます。オーデン艦長》

 

 「全軍、撤退! オーディン、各モビルスーツにも打電!! 急げ、時間がないぞ!!」

 

 「了解」

 

 イザナギからの通信に戦場にいた誰もが歯噛みする。

 サタナエルと撃ちあっていたムウもまた思わずコンソールを殴りつけた。

 

 「ガーティ・ルーを……くそ!」

 

 嫌な記憶がよみがえる。

 かつて『ヤキン・ドゥーエ戦役』で起こった出来事。

 救援に訪れた先遣隊を見捨てざる得なかった時があった。

 あの時も自身の無力さを痛感させられたが、今回も同じだ。

 

 「どうした? 嫌な事でも思い出したかな、ムウ」

 

 「黙れ!」

 

 カースの挑発とも取れる声に苛立ちながら、ビームライフルで狙撃する。

 しかしサタナエルはビームを余裕で回避すると、シールドに接続されているバズーカ砲を発射してきた。

 砲弾が弾け、飛行形態のスオウを捉える。

 

 「ぐっ、散弾か」 

 

 「お前もガーティ・ルーと運命を共にするといい」

 

 サタナエルのビームサーベルの一撃がスオウに迫る。

 

 「舐めるな!」

 

 機体のスラスターを噴射させ、無理やり体勢を変えるとサーベルの斬撃の直撃を避ける事に成功する。

 しかしかわしきる事が出来ず、片方のウイングが斬り飛ばされてしまった。

 

 「チッ」

 

 「ほう、避けたか。腐ってもエンデュミオンの鷹。しかし――ッ!?」

 

 カースの直感が危機を感じ取った。

 何かが近づいてくる。

 被弾し体勢を崩すスオウを追撃するサタナエルの背後から迫る物体。

 クスィフォス・ジャスティスのファトゥムー02である。

 左右の端から伸びるニ対のビームウイングがサタナエルに襲いかかる。

 

 「ラクス・クラインか」

 

 宙返りでビームウイングを回避したサタナエルにジャスティスがハルバード状態にしたビームサーベルを振りかぶる。

 

 「フラガ一佐、今の内にファトゥムー02に!」

 

 「たく、情けない!」

 

 すれ違い様にムウはファトゥムー02を掴み、同時にジャスティスも戦域から離脱する。

 

 「フフ、逃げるがいい。今は生かしておいてやる、ムウ。その方が貴様には堪えるだろう?」

 

 カースは楽しそうに今、消えていく命の方へ視線を向けた。

 すでに同盟軍は離脱を図り、守るものの居なくなった戦艦は今、その役目を終える。

 

 「これは貴様の無力さが招いた結末だ」

 

 サリエルの陽電子砲が解放され、ガーティ・ルーに容赦なく突き刺さる。

 

 船体を貫通した閃光と共にガーティ・ルーは撃沈した。

 

 最後まで戦ったクルー達と共に。

 

 

 「フフ、フフハハハハハ、アハハハハハハハハハ!!!!」

 

 

 無力さを噛みしめながらガーティ・ルー最後の光を背に離脱していくムウの耳にこちらを嘲笑うカースの哄笑が響いていた。

 

 




機体紹介2更新しました。

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