ヴァルハラの格納庫に立つメタリックグレーの機体。
この機体こそアレン――いやアスト・サガミ専用に開発された新型機である。
組み上がりはしているが起動テストも殆どしておらず、現在は急ピッチで実戦配備への準備が進められている。
そんな中、コックピットのe.sデバイス調整を行っていたアレンの下にルナマリアが駆け込んできた。
「アレン、緊急連絡です。統合軍の動向を探っていたオーディンやイザナギが敵と接敵したそうです!」
ルナマリアから手渡された端末に目を通す。
「……統合軍本隊はアルテミス方面へ集中しているようだが」
「万が一囲まれたら脱出できなくなります。その前に――」
「就航したばかりの新造戦艦を増援に向かわせ脱出経路を確保する、か。俺達も合流せよと」
「でも機体調整まだ終わってないんでしょ」
「どうにかする。キラはトワイライトの調整で手が離せないだろうからな」
スイッチを入れ、機体を起動させるとメタリックグレーの装甲が白く色づく。
「行くぞ、準備しろ」
「ハァ、了解です」
ルナマリアがコックピットから出て行くとアレンは表示されたデータに目を落とした。
先ほどはああ言ったものの、この機体の実戦投入は早すぎる。
しかし時間もない。
多少無茶だろうとやるしかないのだ。
此処は一先ず整備班に任せ、アレンは別の機体の調整を行っているキラの下へ足を運ぶ事にした。
◇
テタルトスが建造した移動用軍事ステーション『ヴァルナ』。
外宇宙への進出を目的として建造されたこのステーションは現在、統合軍の拠点として宇宙で欠かせない存在になっていた。
その為、何時敵が来ても良いようにヴァルナの周りにはモビルスーツが展開され、過剰ともいえる警戒態勢を敷いている。
そんなヴァルナの司令官室ではファウスト・ヴェルンシュタイン司令官が最近赴任してきた秘書官の報告を受けていた。
「――以上がザラ大佐からの報告になります。アルテミスをどうするべきか、指示を求められているようですが?」
「例のレクイエムの件か」
以前のアルテミスであれば戦略的な価値はほぼ無い。
そのまま放置しても良いし、邪魔ならば破壊してもいい。
だがレクイエムを要した今のアルテミスであれば、占拠する価値は十分にある。
「はい。戦闘でレクイエムの砲塔が破損、コントロールルームも破壊されています」
「修復は?」
「調べさせた所では可能だそうです。ただし問題もあると」
「問題?」
「エネルギー供給に関してです。砲塔を修復し使用しても、戦闘で発射できるのは二発まで。これは戦闘でアルテミスのエネルギープラントが破壊されてしまった事が原因のようです。光波防御帯と併用使用する場合は一発撃てればいい方だと」
このまま修復しても、いざという時に使えなければ意味がない。
他の陣営に威嚇の意味では役に立つかもしれないが、それは弱点を知られなければの話。ならば――
「こちらから部隊を派遣し、レクイエムを使用可能にできるようにアルテミスの改修を行うように指示を出してくれ」
「そう仰られると思い、すでに準備は整えてあります」
秘書官が提示した資料に目を通すとファウストは満足気に頷く。
「いい仕事をしてくれた。ありがとう。他に何か報告はあるかな?」
「はい。後、二件ほど。まず先の作戦においてアルテミスから脱出した者がいたと報告がありました」
「脱走兵か?」
「いえ。元アルテミス司令官ジェラード・ガルシアが部下を連れて脱出を図ったようで。捕縛する為にザラ大佐が追撃部隊を派遣したそうです」
「もう一つは?」
「中立同盟――いえ、今は調和条約同盟でしたか。彼らは着々と戦力を宇宙に集結させ始めています」
中立同盟が新たに連合改革派とプラントを加えて『調和条約同盟』と名を改めた事はすでに世界中で知られていた。
基本的な事は以前と変わらないらしいが各国間とより関係を深め、共に危機的状況にも対処していくと声明を発表している。
「主戦場が宇宙に移る事を知っているからこその行動か。何か変わった動きは?」
「……まだ確定情報ではありませんが、同盟は月に何らかのアプローチを試みようとしているようです」
「なるほど」
それも当然の行動だった。
同盟にとってテタルトスの動向は最も注目するべき事柄。
仮にテタルトスが統合軍と歩調を合わせる事になれば、彼らは一気に不利になる。
その前に月とコンタクトを取っておきたいのだろう。
「月に関してはこちらも急がなくてはな」
「その準備も間もなく」
秘書官の言葉にファウストは再び満足そうに頷いた。
「君のような優秀な人間に来てもらって大助かりだな。イスラフィール代表に感謝しなくては」
「そのような事は……」
「謙遜は止せ。君は十分に優秀だよ。これからも期待している―――ベアトリーゼ」
統合軍の軍服に袖を通した秘書官ベアトリーゼ・ファルケンマイヤーはまるで人形のように無表情のままファウストに頭を下げた。
◇
破壊された戦艦やモビルスーツの残骸が犇めく、所謂暗礁宙域に一隻の小型船が身を潜めている。
一見すると一般の輸送船団などが使用している船と同型なのだが、些か様子が違った。
コックピットに座っているのは地球軍の制服を身に纏った兵士達。
彼らは戦闘のドサクサに紛れアルテミスを脱出してきた者達だった。
「敵影は?」
「今のところは確認できない。何とか撒いたようだな」
コックピットに座る二人の兵士は安堵のため息をつく。
脱出してからしばらく統合軍のしつこい追撃によって緊張状態が続いていた。
「たく統合軍はしつこいんだよ。俺らみたいな敗残兵くらい見逃してくれてもいいのにさ」
「ガルシア司令がいるからじゃないか?」
「私がどうしたと?」
噂をすれば影がさすとは良く言ったもの。
気が緩み雑談を交わしていた兵士達の下にガルシアが姿を現した。
「い、いえ。司令の体調を心配していたのであります!」
明らかな誤魔化しだったが、ガルシアは鼻を鳴らすだけで追及はしてこなかった。
「ふん。それで敵はどうだ?」
「今のところは敵影は確認できません」
「そうか」
「しかし司令。我々はどこに向かうのです?」
すでに地球連合という組織は存在しない。
宇宙に存在している拠点もすべて統合軍によって占拠されている。
つまり自分達には行き場など何処にもないのである。
「そ、それは……とにかく、此処を脱出してからだ!」
足音荒くコックピットから出ていくガルシアに兵士達は呆れたような視線を向ける。
「何にも考えてないって事か……」
「まあこんな状況じゃ仕方ないけど――ッ、何だ!?」
ブリッジに響く警戒音に兵士たちがコンソールへ飛びつく。
「敵か!?」
「そうだろうよ。統合軍だろうと、同盟だろうと変わらないさ」
「どうせなら同盟の方がまだ救いがあるけどな」
無駄口を叩きつつ船を安全な場所へ逃がす為、兵士が操縦桿を握りしめた。
手は汗でビッショリと濡れ、喉は緊張でカラカラに乾いている。
初陣の時と同じような気分になりながら、やるしかないと自分を叱咤する。
「よし行くぞ」
「了解」
隣に立つ同僚の声に僅かな安堵感を抱きながら頷くと、船の操縦桿を動かした。
◇
暗証宙域に進む統合軍所属のプレイアデス級。
アルテミスから脱出したガルシア達を追撃してきたその部隊を指揮していたのは地球から上がってきたばかりのリベルト・ミエルス大尉。
その傍にはテンペスタ―ズの三人が控えていた。
「たく、何でヴェルンシュタインの腰巾着が指揮を執るんですかね?」
「ハァ、貴方は何時も一言多いですよ」
「……ルーカス、口が過ぎるぞ」
ルーカスのボヤキにヴィクトルはため息をつき、ジョナサンが窘める。
そんなテンペスターズを気にも留めずリベルトはブリッジ中央のモニターを注視していた。
「大尉、目標を捕捉しました」
「良し、ようやくだな。散々逃げ回られたがここまでだ。降伏勧告を出せ。応じない場合は出撃したモビルスーツが敵艦を捕縛、もしくは撃沈せよ。それからテンペスターズにも出てもらおうか」
「俺達がですか? あんなネズミ相手に?」
「上官の陰口を叩いているよりは、よほど建設的だと思うがな」
「ぐっ」
どうやら先ほどルーカスが言った事は聞こえていたようだ。
「了解しました。テンペスターズ、出撃します」
三人は敬礼し、格納庫に向かう。
その道すがら不満を爆発させるようにルーカスが壁を殴りつけた。
「腰巾着が偉そうに! そもそも階級が同じブロバート大尉が指揮をすりゃいいのになんでアイツなんだよ!!」
ルーカスからすれば同じ階級であるジョナサンが部隊指揮をしてくれれば良かったと考えていた。
ずっとこの部隊を、すなわちテンペスターズを率いてきたのはジョナサンなのだ。
それをいきなり地球から上がってきた、しかもヴェルンシュタインの腰巾着と噂されるリベルトが指揮権を掻っ攫っていかれれば腹も立つ。
「そういきり立たないでください、ルーカス。無暗に突っかかる貴方も悪いです。それにあのリベルト・ミエルスの実力は本物ですよ」
「そりゃそうだけどさ」
「それにヴィルフリート・クアドラードの時よりマシでしょう」
クイと中指でメガネを押し上げるヴィクトルの指摘にルーカスも納得したように溜飲を下げる。
確かにそうだ。
もしもこれがヴィルフリートによる指揮で行われていたなら、もっと面倒な事になっていた筈だ。
「ま、確かに。今は地球だろ。どうしてんのかねぇ、少佐殿は」
明らかに侮蔑を含んだ口調にジョナサンが止めに入った。
「二人共、上官相手にいい加減にしておけ。それにクアドラード少佐なら宇宙に戻ってきているそうだ」
「げ!」
「そんな顔をするな。ユーラシア制圧戦における英雄の一人だぞ」
「それも疑わしいんですよね。あの少佐殿がねぇ」
ヴィルフリートが地球で大きな功績を上げた事はジョナサン達の耳にも入ってきていた。
宇宙での醜態を知る彼らからすれば信じがたいものだったが。
「とにかく任務は任務だ。行くぞ」
「「了解」」
三人は何時も通りの調子で自分達の愛機であるシリウス・ラファーガに乗り込むとそのままネズミ狩りへと向かった。
と言っても戦闘になる可能性はほぼ無いとジョナサンは考えていた。
アルテミスから脱した船はそう大きくはなく、モビルスーツを搭載できても精々二、三機が良いところ。
とても戦闘に耐えうる戦力ではない。
だが、任された以上は全力を尽くす。
それがジョナサン・プロバートの兵士としての矜持だった。
「あれか……」
出撃したテンペスターズの前に一隻の輸送船らしき船が姿を見せる。
反転し全速で離脱を図ろうとしているようだ。
「ハァ、マジであれだけかよ。護衛にウィンダムが三機だけってショボすぎだろ」
「油断するな。伏兵が潜んでいるかもしれん」
部隊を囲むように展開し船を包囲すると、命令通りに警告を発する。
「そこの船、こちらは地球圏統合軍である。指示に従い直ちに停船せよ。従わない場合敵対勢力と見なし撃沈する」
しかし船は止まる気配もなく警告を無視し、さらに速度を上げて逃げようと加速した。
「当然か。全機、攻撃を開始せよ!」
船を囲むように展開していたモビルスーツが一斉に攻撃を開始する。
「さっさと片付けるぞ! 援護しろ、ヴィクトル!」
「ハァ、熱くなりすぎて計算外の動きをしないでください」
先行するルーカスに釘を刺すヴィクトル。
その様子を後方で見ていたジョナサンはどうも嫌な予感がしていた。
別に根拠があった訳ではなく、長年戦場で生きてきた者の勘のようなもの。
それがジョナサンに油断するなと警鐘を鳴らしていた。
「気のせいであればいいがな」
戦況は有利どころか、本格的な戦いにすらなっていなかった。
護衛のウィンダムも粘ってはいるが、ルーカス、ヴィクトルの敵ではない。
二機は早々と撃墜され、残り一機もすでに風前の灯である。
「……これで終わりか」
最後に残ったウィンダムの腕が吹き飛ばされ、武装も破壊された。
もはや成す術は無い。
「止め!!」
ルーカスはビームサーベルをウィンダムへ振りかぶる。
だが、そこに予想外の介入者が現れる。
別方向から発射されたビームがシリウスの片腕を奪い、さらに連射された閃光がウィンダムからルーカスを引き離す。
「くそったれ! 腕をやられちまった!」
「何!? 援軍!?」
高速で近づいてきたものは白い装甲を持ったモビルスーツ。
輸送用のシャトルに運ばれ、ビームライフルを構えている。
背中にも目立つ武装を装備しておらず、シンプルな印象を持った機体だった。
「まさかこんな所で統合軍と遭遇するなんてな」
「近道したつもりが、とんだ災難じゃないですか」
白い機体のコックピットにはアレンと備え付けた非常用の座席に座るルナマリアの二人が居た。
「どうするつもりです? この機体、最低限の武装以外はまだ装備してないですよ」
「何とか追い払うしかないだろう」
アレンは素早く機体の状態を確認する。
ZGMF-X27A 『アンセム・イノセントガンダム』
統合軍との決戦に備えキラ・ヤマトが自身の機体と共に発案し、開発したアスト・サガミ専用の『SEED』対応機。
基礎設計はローザ・クレウスの企画したデータを基にキラ・ヤマトが手を加えたものを使用、フレームも『アドヴァンス計画』に沿って開発された新型フリーダム用のものを流用し、開発時間の短縮を図っている。
「すでに作戦は開始されてる筈です。このままじゃ間に合わないですよ」
「仕方ないだろう。だが、のんびりもしてられないな」
アレンはシャトルから離脱するとライフルでリゲルの包囲を散らし、素早く近接戦の間合いに飛び込む。
「何!?」
「どけ!」
腰のビームサーベルを振り抜く。
光刃がリゲルの脚部を斬り裂き、至近距離から発射したシールドに装備されたビーム砲の一撃がコックピットを貫通する。
「チッ、新型ガンダムだと! 同盟か!! 調子に乗るなよ!!」
「ルーカス!」
「二人とも待て! 迂闊に近づくな!!」
憤りに任せ前に出たルーカスとヴィクトルをジョナサンも追う。
「このシリウスは……」
「前に戦った連中です、アレン」
デュランダルの研究施設を発見した時に交戦したシリウスだとすればエース級。
かなり手強い。
だが、反面こいつらさえ突破できればこの局面を打開できる。
「なら、さっさと突破させてもらうぞ!」
「新型だろうと!」
「我々の連携の前では!」
ヴィクトルが肩のビーム砲とハンドガンランチャーでイノセントの動きを阻害しながら、その隙に回り込んだルーカスが背後からビームサーベルで斬りかかる。
だがイノセントは射線を見切りビームをすり抜けるように回避する。
「避けた!?」
「そこ!!」
斬りかかったシリウスの腕をイノセントの背中から放出されたビーム刃『ワイバーン』が斬り裂いた。
「背中にビームソードだと!?」
咄嗟に飛び退くヴィクトル。
だが、そのまま追撃としてシールドから発射されたグレネードランチャーが頭部に直撃する。
「ぐああああ!!」
「ヴィクトル!! こいつ!!」
残った左手で構えたサーベルで接近戦を挑む。
それは明らかに無謀な突撃。
しかし頭に血が上ったルーカスはそれに気がつかない。
「落ちやがれ!」
上段から振り下ろされたサーベルがイノセントの一撃によって腕ごと斬り飛ばされ、そのまま構えたライフルをコックピットに突き付けられる。
「なっ、え?」
「お前が落ちろ」
トリガーを引くと発射されたビームがシリウスのコックピットごとルーカスを焼き尽くした。
「ル、ルーカス!!」
「くっ……よくもやってくれた。ヴィクトル、下がれ」
「まだ来るか!」
両手にサーベルを握るジョナサンのシリウスがイノセントへ突撃する。
「アレン!」
「分かってる」
仲間をやられたからか、尋常な気迫ではない。
油断すればこちらが倒される。
イノセントもサーベルを構えてシリウスに応戦する。
「ガンダム!」
「どけェェ!!」
すれ違う二機。
煌めく光刃の軌跡が交差した瞬間、シリウスの下半身が斬り裂かれた。
「ぐっ」
さらに展開されたワイバーンの斬撃がシリウスの背中に直撃しスラスターを両断する。
「ぐあああ!」
スラスターの爆発で吹き飛ばされるシリウス。
「良し、離脱するぞ」
「了解」
損傷したウィンダムを掴むとイノセントは輸送用のシャトルと合流し戦域から離脱して行った。
「た、大尉!」
残されたヴィクトルは所々破損した自機をどうにか操り、ジョナサンのシリウスへ近づく。
背中を深々と裂かれ、大破したシリウスからの返事はない。
生きているのか、それとも死んでいるのか。
少なくともヴィクトルには判断できない。
ただ一刻を争う事だけは間違いなかった。
「くそ、くそォォ、ガンダムめ!!」
ヴィクトルは頭に浮かぶ最悪の想像に弱気になりかける自分を叱咤しながら、母艦へと連絡を入れた。
◇
新造戦艦が行った陽動作戦とガーティ・ルーが囮になってくれた事で、オーディンとイザナギはアルテミス周辺宙域からの離脱に成功していた。
イザナギへと着艦したレティシアは盛大なため息をつきながら、コックピットハッチを解放すると汗まみれのヘルメットを脱ぎ捨てる。
「フゥ」
戦闘後の全身を襲う疲労感に負けないよう叱咤しながらコックピットから降りると格納庫は大騒ぎになっていた。
損傷した味方機の修復。
怪我人の搬送。
ガーティ・ルーから脱出してきたクルーの受け入れ。
この喧噪も仕方がない状況だ。
さらに統合軍もこちらをそう簡単に見逃すはずはなく、追撃の可能性を考慮しておく必要がある以上は、警戒を緩める事もできない。
「お疲れ様です、ルティエンス少佐。補給を行っておきますので、少し休んでいてください」
「お願いしますね」
「は、はい! 新品同様に仕上げて見せます!!」
話掛けてきた若い整備士に笑顔で答えると、顔を赤くして意気込むように拳を握る。
やたら気合いの入っている整備士に首を傾げながら、休憩室に足を向けると呆れた様子でセリスが近づいてきた。
「……教官って、魔性の女とか言われそうですよね」
「いきなり何です? そんな事、言われた事なんてありません。それよりもアイテルはどうですか?」
「良いですよ。前よりも扱いやすくなってます」
休憩室に入ると先に戻っていた飲み物を用意したラクスが待っていた。
「お疲れさまです。二人共」
「ありがとう、ラクス」
「ありがとうございます」
飲み物を口にすると乾ききった喉が潤され生き返ったような気分になる。
「ハァ、ラクス、フラガ一佐は?」
「はい。今はブリッジに上がっていますよ」
「そう」
サタナエルの事を聞きたかったのだが。
彼ならあのパイロットにも気が付いた筈だ。
あの機体を操っていたのが―――ラウ・ル・クルーゼであった事に。
アレがもしもラウ・ル・クルーゼであるならば、出来るだけアストやキラには知らせたくない。
彼が生きていると知れば二人は今度こそ確実にクルーゼを倒そうと考えるだろう。
それこそ命を懸けてでも。
出来ればそんな無茶な事はさせたくない。
その前に彼を倒せれば――
「レティシア? どうされたのです?」
「また気分が悪いんですか?」
「え、いえ、それは……」
相変わらずの倦怠感をあるが、今はさほど体調は悪くない。
「教官、前にも言いましたけどきちんと検査を受けた方が良いです。もしもの場合ってありますし」
「私もそう思います、レティシア」
「二人共」
純粋に心配してくれる二人の言葉が嬉しかった。
とはいえ現状、簡単に頷く事もできない。
これから統合軍との戦いは激しさを増し、決戦へと向かっていくだろう。
アストの事や待ちうける強敵、自分と似たあのパイロットの事もある。
戦力が一機でも多い方が良い現状、肝心な時に戦線に居ないというのは不味いのではないだろうか。
どうすべきなのか―――
考え込んだ末にレティシアは結論を出した。
「いえ、大丈夫です。戦線を離れる訳にはいきません。今のところ身体の方はさほど問題はありませんしね。もしもこれ以上酷くなるようなら二人の言う通りにしますよ」
これはレティシアにとって運命の選択だった。
彼女はその事を知らない。
だがどのような形であれ、この道を選んでしまった。
この先に訪れる運命を知らないままに。
機体紹介2更新しました。