機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第32話 魔神の帰還

 

 

 

 ヴァルハラへと帰還を果たしたオーディンとイザナギは急ぎドックに収容され、同時に整備班が取りつき、修復作業が開始された。

 

 「どんな感じだ?」

 

 《オーディンは補給が終わればすぐにでも出られますが、イザナギの方は結構酷いですね》

 

 オーディンは損傷も殆どなくすぐにでも動ける状態だが、ガーティ・ルーを守っていたイザナギは幾つか深刻な損傷を受けていた。

 

 「では済まないが、すぐにでも出れるようにしてくれ。報告しておいたミラージュ・コロイド装備も忘れないように」

 

 《了解》

 

 整備班からの報告を聞いたテレサは深刻な表情で手元の資料に目を落とす。

 

 「帰還早々に次の任務とは。しかもこれは……」

 

 テレサが益々表情を曇らせていると、そこに丁度呼び寄せようとしていたレティシア達パイロット組がブリッジへ入ってきた。

  

 「アルミラ艦長、次の任務が入ったと聞いたのですが?」

 

 「耳ざといな、ルティエンス。その通りだ」

 

 手元の資料をレティシアに手渡すと、後ろからセリスとラクスも一緒に覗き込む。

 

 「これは」

 

 「かなり危険な任務ですわね」

 

 「ああ。イザナギが出れないのは痛い。援軍の要請はしてあるが」

 

 「時間がないですか?」

 

 「次の行動が同盟の行く末を決めると言っても良い。時間が経てばその分リスクも上がる。お前達にも無理をさせてしまうがよろしく頼む」

 

 テレサの険しい顔に三人もまた気を引き締めるように敬礼する。 

 休息も取れないまま、再び次の戦場へ向う三人へ申し訳なさを感じながらもテレサは敬礼を返した。

 

 

 

 

 男は夢を見ていた。

 変わり映えのしない、いつも通りの夢。

 ただ見ている側からすればそれは悪夢という以外何者でもなく、吐き気すら催してくる。

 しかしそれに抗う術はない。

 そしていつも通りの光景が飛び込んできた。

 

 最初に姿を見せたのは二機のモビルスーツ。 

 

 一機は背中の装備を自在に変え、もう一機は持ちうる火力と機動性をもってこちらを圧倒していく。

 

 二機の脅威をどうにか退けて、次に現れたのは蒼き翼を持つ機体。

 

 何度攻撃を加えようと規格外ともいえる機動性で全てを回避され、強力な火器ですべてを薙ぎ払ってしまう。 

   

 それから逃れた先でそこでも再び敵が現れる。

 

 何度挑んでも、何度戦っても勝てない相手が。

 

 それは―― 

 

 

 「うぁあああああああ!!」

 

  

 いつも通りの結末を迎えた悪夢から飛び起きる。

 そこはモビルスーツのコックピット。

 いつの間にか眠ってしまったのだと気が付いたジェラールは息荒く、額の汗を袖で拭う。

 

 「ハァ、ハァ、ハァ、くそ!」

 

 苛立ちに任せ、コンソールを殴りつけると嫌悪と恐怖に抗うように歯ぎしりする。

 

 「また夢か。ここ最近、毎日だな」

 

 徐々に自分が蝕まれていくような感覚に目眩を覚える。

 魔神と戦った時もそうだった。

 

 ≪懐かしいと思わないか? 貴様とは何度もこうして戦った事があったな≫

 

 ≪お前は……誰だ?≫

 

 ≪答えはもう知っているだろうが!≫

 

 あんな事をジェラールは口にするつもりは無かった。

 気が付けば自然と言葉が出ていたのだ。

 まるで自分ではない別の誰かが話をするかのように。 

 そしてアラスカでのフリーダムとの戦闘も同じ。

 かつての仇敵にでも出会ったかのように――

 

 「違う、違う、違う! 俺は……ジェラール・フィレオルだ。断じてお前じゃない!」

 

 自分を確かめるように拳を握る。

 そして手元の端末から伸びるイヤホンを耳につけると陽気な音楽が流れてきた。

 落ち着く。

 コックピットに座り音楽を聴いているこの時間こそ、ジェラールが自分が自分である事を確かめられる最も安らぐ瞬間だった。

 しばらく音楽のメロディーに聞き入っているとコンコンとハッチを叩く音が聞こえてきた。

 

 「フィレオル大尉、少しよろしいですか?」

 

 ハッチを解放するとそこには金髪を束ねたどこからどう見ても女にしか見えない人物、ヴァルター・ランゲルト中佐が立っていた。

 ジェラールは地球から宇宙へ上がり、命令によりアルテミス攻略戦の増援部隊として派遣されていた。

 結局、戦闘自体に加わる事は無かったが、余力が残っていると判断されこうして連合の残党狩りへと駆り出されたという訳だ。

 

 「何の御用でしょうか、ランゲルト中佐?」

 

 正直、名前を聞いた時はどんな英傑なのかと思っていただけに、まさかこんな可憐な人物とは思っても見なかった。

 名前からして男性なのだろうが――いや、性別は関係ない。

 重要なのはヴァルターが優秀かどうかだけなのだ。

 

 「追撃部隊の先駆けとして派遣されたリベルト・ミエルス大尉の部隊が損害を受けたと報告を受けました」

 

 「損害?」

 

 逃れた残党に追撃部隊に打撃を与える事が出来る戦力など残って居なかった筈。

 しかもテンペスターズと呼ばれたエース達も参加していたと聞いている。

 そんな状況で反撃が出来るとは思えない。つまり――

 

 「何か予期せぬ事が起きたという事でしょうか?」

 

 「ええ。同盟の新型ガンダムと遭遇したらしいのです」

 

 「新型ガンダム!?」

 

 「ガンダムとの遭遇戦によりテンペスターズの内一名が撃墜、もう一名が意識不明の重傷、残った一名の機体もほぼ大破した状態」

 

 差し出された端末に映し出されているのは、白い装甲を持ったモビルスーツ。

 間違いなくガンダムだった。

 

 「傷ついた隊を一旦ヴァルナへ下げ、我々がミエルス隊の支援に入ります。その過程で可能なら新型ガンダムの追撃も行うようにとの事です」 

 

 「了解しました」

 

 去っていくヴァルターを敬礼しながら見送ると、ジェラールは修復された愛機イレイズMk-Ⅲを見上げる。

  

 「ガンダムか……今度こそ、俺は俺のままで貴様に勝つぞ――シリル!」

 

 

 

 

 統合軍の戦闘から離脱したアンセムイノセントガンダムはどうにか母艦となる戦艦へとたどり着いていた。

 ミネルバを彷彿させる形状を持ちつつ、アークエンジェル級やイズモ級の技術が使用されている事が見て取れた。

 戦艦の名は『フォルセティ』

 独立部隊『グラオ・イーリス』の新たな旗艦となるべく開発された同盟の新造戦艦である。 

 本来は部隊設立と共に就航予定となっていたのだが、グラオ・イーリスに反発する勢力の妨害によって開発が遅れに遅れ、最近になってようやく日の目を見る事ができた。

 

 「フォルセティがこうして宇宙で活動している所を見ると何か感慨深いですね」

 

 「ああ。ずっと開発が遅れていたからな」

 

 「遅れていたんじゃなくて、遅らされてたでしょ」

 

 「言いたい事は分かるが、迂闊な発言は控えろよ」

 

 開いたハッチからフォルセティの格納庫へ入り、イノセントをハンガーへ設置すると整備班が一斉に取りついた。

 

 「大尉、中尉、ご苦労様です」

 

 「ああ、機体の調整を頼む。それからあのウィンダムの方もな」

 

 「ハッ」

 

 「あ、ねえ。私のモビルスーツは届いてる?」

 

 「はい。中尉の機体も現在最終調整中です。それから艦長がブリッジでお待ちになっていますので」

 

 「了解」

 

 床に転がしたウィンダムを整備班に任せてルナマリアと一緒にエレベーターに乗り込む。

 

 「そういえば艦長って誰が任されたか聞いてますか?」

 

 「いや。急ぎだったからな。宇宙に上がってきてからはイノセントに付きっ切りだったし」

 

 まあ誰であれグラオ・イーリスの旗艦であるこの艦を任された以上、相当優秀な人物には違いない。

 一体誰なのか興味を持ちつつ、ブリッジに入ると意外な人物が艦長席に座っていた。

 

 「遅いぞ。作戦はとっくに終わってしまった」

 

 「えっ?」

 

 「イザーク!?」

 

 艦長席に座っていたのはアレン達にとっても旧知の仲であるイザーク・ジュールだった。

 

 「お前がフォルセティの艦長だったのか。道理でヴァルハラに居ない訳だな」

 

 「まあ急遽決まったからな。アルミラ艦長や他のベテランを押す声もあったんだが、今はどこも手一杯だ」

 

 「むしろお前の方が気兼ねしなくていいさ。とにかくよろしく頼む、ジュール艦長」

 

 「こちらこそ頼りにさせてもらうぞ」

 

 イザークと握手をかわし、ブリッジメンバーをと顔合わせを済ませる。

 何人か新人が混じっているようだが、他はすべて経験豊富な士官が配置されているようだ。

 ルナマリアが新人の女性士官と挨拶をしている間にイザークに此処に来るまでに遭遇した敵の事を説明する。

 

 「なるほど。そんな場所にウィンダムがな」

 

 「単純に連合の残党を追っていただけかもしれないが、それにしては部隊の規模も大きかった。パイロットに直接話を聞ければ良かったが、すでに死亡していたからな。ウィンダムから何か分かればいいが……」  

 

 エース級も何人か含まれていたようだし、少し気にかかる。 

 

 「ん、どうやらその件で連絡が入ったようだぞ」

 

 イザークが手元のスイッチを入れると格納庫と繋がり、整備班長の厳つい顔が映し出された。

 

 ≪ウィンダムのレコーダーの解析が終了しました≫

  

 「早かったな」

 

 ≪コックピット周りの損傷は見た目ほど酷くありませんでしたからね。レコーダーが無事だったのが幸いでしたよ≫

 

 「それで?」

 

 ≪とりあえずこいつを聞いてください≫

 

 班長が端末を操作するとスピーカーからレコーダーに記録された音声が聞こえてきた。

 

 [何としても……時間を稼ぐ……ガルシア司令を……コロニーへ]

 

 ≪この後すぐに撃墜されたのか音声は此処までです。他は周辺のマップデータくらいで目ぼしいものは何も≫  

 

 「ご苦労だった。何かあれば報告を上げてくれ」

 

 ≪了解≫

 

 イザークと班長のやり取りを聞きながら、アレンは音声記録の件を考えていた。

 

 「どうしたんです、アレン?」

 

 「……ガルシア司令、まさかジェラード・ガルシアか」

 

 「知っているのか?」

 

 「一応な。正直、思い出したくない類の人間だ」

 

 アレはヤキン・ドゥーエ戦役時の話だ。

 崩壊したヘリオポリスから脱出したアークエンジェルは補給を受ける為にアルテミスへ寄港した事があった。

 その時に司令官としてアレン達の前に現れたのがジェラード・ガルシア司令だった。

 

 「詳細は省くが昔、酷い目に遭わされてな。でもまだアルテミスで司令官をやっていたとは思わなかった」

 

 「なるほど。司令官が脱出していたとなれば、奴らが執拗に動くのも」

 

 「艦長、俺達もガルシア捕獲に動くべきだと思うが? 奴なら有益な情報を持っている可能性もある」

 

 「統合軍の情報は出来るだけ欲しい所だな。連中がまだ捕まっていないなら――」

 

 ウィンダムに残されていたデータからガルシアの行方を予測する。

 周辺宙域には統合軍がうろついているから、そう遠くには行けない筈。

 

 「奴が向かうとしたら此処しかない」

 

 モニターに表示された場所にアレン、ルナマリア共に顔を顰めた。

 

 「よりによってそこですか」

 

 「開発中のコロニー群があるポイントだな」

 

 イザークが指し示したのはアムステルダム主導で開発が進められているコロニー群がある場所だった。

 此処もアムステルダム同様戦闘禁止区域に指定され、各陣営の軍隊が駐留する事も地球と同様だが宇宙における経済の中心として機能する予定になっていた。

 

 「しかし此処にも統合軍が網を張っている筈ですよね?」

 

 「船を輸送船か何かに偽装するか……もしくはコロニー群に入る前の商船でも捕まえて一緒に入港するか。やり方は色々あるだろうが、おそらくガルシア達はコロニー付近に隠れていると考えて間違いない」

 

 「できればコロニー内に入られる前に捕縛したい。でないと面倒な事になる。フォルセティをコロニー群に向けろ。それからお前には話がある」

 

 アレンはイザークに連れられブリッジの外に出る。

 神妙な表情のイザークにアレンは自然と気を引き締めた。

 

 「で、話というのは?」

 

 「……お前、いつまでアレン・セイファートを名乗っているつもりだ?」

 

 「いきなり何だ?」

 

 「アムステルダムでアイツと会ったと聞いた。今はアスラン・ザラを名乗っている事もな。アイツにとって再びアスラン・ザラを名乗る事は相当の覚悟が必要だった筈だ」

 

 アスランはかつてアレックス・ディノという偽名を使っていた。

 これは奴の父親であるパトリック・ザラの件を考慮した結果、必要と判断したからと考えるのが自然だ。

 にも関わらず元の名を名乗る。 

 これがどれだけリスキーな事かはアレンにも十分に理解できた。

 

 「それでもまたアスランを名乗ったのはお前と本気で決着を付けるつもりだからだろうな。お前も覚悟を決めないと前のようにはいかんぞ」

 

 アムステルダムで会ったアスランの目にはアレンへと敵意とは別に気炎のようなものが宿っていた。

 そこに滲ませていたものは覚悟。

 これまでの因縁に決着をつけるというアスラン自身の決意の現れだ。

 次に戦う時はそれこそすべてをぶつけてくるに違いない。

 

 「そうだな。イザーク、忠告感謝する。ありがとう」

 

 「なっ、礼を言う前に覚悟を決めろ! 本気になったアイツは手強いぞ。何だかんだで負けず嫌いだからな、アイツは」

 

 「フフ、ああ」

 

 アレンはこの先で訪れる戦いを想像しながら、決意を新たに歩き出した。

 

 

    

      

 フォルセティの航行は順調そのものであり敵に遭遇する事もなく、コロニー群がある宙域にまでたどり着いていた。

 ガルシアが乗る船の探索はブリッジの方に任せ、格納庫でイノセントの調整を続けてたアレンは隣に立つルナマリアの機体を見上げた。

 

 ZGMF-X57Sb 『シークェル・インパルスガンダム』

 

 受領したオルトリンデのパーツやシークェル・エクリプスガンダムのデータ用いインパルスをルナマリア専用機として改修、強化した機体。

 ルナマリアの特性に合わせ、近接戦用の武装が充実、さらに背中のアタッチメントを改良してタクティカルシステムにも対応できるようになっており、汎用性も増している。

     

 「じゃ、アレン先に出ますね」

 

 「頼む。無茶だけはするなよ」

 

 「了解!」

 

 コックピットから顔を出していたルナマリアはアレンに笑顔で手を振るとシートに座ってハッチを閉じる。

 そして乗機の操縦桿を馴染ませるようにゆっくりと手を這わした。

 

 「デスティニーシルエット04、装着完了。各部正常、接続部に異常なし」 

 

 《ルナマリア、あくまでも標的の確保が最優先だ。出来るだけ交戦は避けろ。それからコロニー周辺には絶対に近づくなよ》

 

 「了解です。ルナマリア・ホーク、シークェル・インパルスガンダム、行くわよ!」

 

 カタパルトから押し出された機体が宇宙へと飛び出すと背中の翼が開き、光が放出される。

 

 「ぐっ、かなりの速度! それでも使いこなさないと!」 

 

 デスティニーに比べれば放出される光の量は少ないがその速度は通常のモビルスーツの比ではない。

 

 「目標は……」

 

 コンソールを操作し宙域図を呼び出す。

 地図上に幾つかのマーカーが幾つか表示されている。

 一つはコロニー群。

 もう一つが統合軍だ。

 

 「アレが目標の部隊か」

 

 ルナマリアに与えられた任務は陽動。

 ガルシア達を狙う統合軍の斥候の妨害、排除し引き離すのが目的である。

 その間に別部隊がこの付近にいるガルシアを確保するのだ。

 居場所はまだ判明していないが、戦闘が始まればガルシア達はここぞとばかりに動き出すだろうというのがアレンの見解だった。

 

 「ま、何らかの動きはあるでしょ」

 

 機体を敵部隊が動いている方向へ向かわせた。

 慎重に散乱している岩を回避しながら進んでいると何かを探す統合軍の部隊を発見する。

 

 「居た!」

 

 予期せぬ形で現れた敵に動揺を隠せない統合軍。

 そこを見逃さず、ビームライフルよりやや大きな銃身を持つ高出力エネルギー収束ライフルを前面にせり上げトリガーを引いた。

 強烈な閃光が狙い通りに直進するも、敵は左右に飛んで攻撃を避ける。

 しかしそれがルナマリアの狙いだった。

 ビームはそのまま背後にあった大岩を砕くと岩片をまき散らし、敵のフォーメーションを大きく崩す。

 

 「行くわよ!」

 

 腰からエッケザックスを抜くと隊列を崩した連中に突撃した。

  

 

 

 ルナマリアの戦闘が始まった頃合いを見計らいガルシア達を捕縛すべく別動隊が動き出す。

 フォルセティから出撃していくスオウ、ムラサメと言った機体の後にカタパルトに姿を見せたのはアンセム・イノセントガンダムであった。  

 背中には今まで背負っていなかったバスーカ砲やライフル、腰には斬艦刀など今までになかった武装を装着している。

 

 「おおよそ八割程度か。後は機体の微調整とフリージアの準備が終われば、万全な状態で動けるな」

 

 素早くキーボードを叩き、機体の状態を確認しているとブリッジから通信が入った。

 

 《ルナマリアが予定通りに接敵した。機体の調子はどうだ?》

 

 「何とかいける」

 

 《では作戦通りに頼む》

 

 「了解」

 

 カタパルトに光が灯り、発進準備完了の合図が出る。

 そこで先ほどの会話が頭を過った。

 

 「覚悟か……そうだな」

 

 操縦桿を握りしめると大きく息を吐き、そして――

 

 

 「――アスト・サガミ、ガンダム行きます!」

  

  

 長らく使っていなかった本名を口にすると、機体を発進させた。

 スラスターが点火され、イノセントが宇宙を駆ける。 

 

 「ん、相手側も考えている事は同じだったようだな」

 

 戦闘しているルナマリア側とは別に動いている連中がいる。

 連中もこの戦闘に紛れて対象を確保しようとしているのだ。

 

 「目ざとい奴がいるようだな。……指揮しているのはヴィクトリアか?」

 

 いつかの食えない女性の事が脳裏に浮かび、思わず顔を顰めてしまう。

 

 「さっさと探し出さないと面倒な事になりそうだ」

 

 あの秀頭の男を追う事になるなんて、アルテミスに初めて入った時は思いもしなかった。

 微妙な気持ちになりながら岩石を避けていくと、早速敵と遭遇する。

 

 「リゲルか。その機動性もこの場所では上手く発揮できないだろう!」

 

 ビームライフルがリゲルの動きを鈍らせ、シールドのビーム砲を発射した。

 

 「そこ!」

 

 ビームが敵を撃破すると遼機として控えていた別のリゲルがライフルを連射しながら突っ込んでくる。

 アストは岩壁を盾に攻撃をやり過ごし、敵の虚を突くように飛び出すと敵機にビームサーベルを突き立てた。 

 容赦なくコックピットに突き立てた光刃が敵パイロットを焼き殺す。

 

 「次」

 

 表情を変えぬまま撃破したリゲルからサーベルを引き抜き、さらに向かってくる敵の方をビームライフルで狙撃する。

 岩場を縫うように移動するイノセントはまるで水を得た魚のように戦場を動き回る。

 アストの反応をダイレクトに反映しているのではと思う程の、機敏な動作に敵パイロットは動揺したように声を上げた。

 

 「何なんだ、あの反応は!?」

 

 「攻撃が当たらない!?」

 

 ビームは掠める様子もなく宇宙の暗闇の中へ吸い込まれてしまう。

 それどころか悠遊と飛び回るイノセントによってリゲルは大半が撃ち落とされてしまった。

 

 「くっ、此処は一旦退いて、体勢を立て直すべきだ」

 

 「しかし探索は――」

 

 反論しようとした兵士はビームに焼かれ、乗機は宇宙の藻屑と変えられてしまう。

 味方は全滅。

 もはや探索など行っている場合ではない。

 

 「くそったれ!」

 

 「逃がしはしない」      

 

 イノセントは反転しようとするリゲルの足を斬り飛ばし、ワイバーンでウイングを破壊する。    

 

 「落ちろ」

 

 ビームサーベルを振り上げたその時、強力な閃光がイノセントへと降り注いだ。 

 

 「増援か」

 

 リゲルを蹴りつけ反動でビームから逃れたアストは攻撃してきた相手に向けてライフルを発射する。

 イノセントの攻撃を防ぎながら近づいてきたのはイレイズMk-Ⅲだった。

 

 「Mk-Ⅲ!? クルーゼの部隊か? いや、奴の気配はない」

 

 単純にMk-Ⅲだけがこの場に現れただけなのか?

 余計な疑問を棚上げし、敵機を迎え撃つべく剣を握った。

 

 「こんな所まで追ってくるとは、しつこい奴だ」

 

 「ガンダム、俺は、貴様達を倒す! 俺が俺である為に!」

 

 「ん、このパイロット、いつもの冷静さがない」

 

 確かジェラールとかいう名前だった。 

 卓越した技能と正確な射撃、機体制御、どれをとっても一流。

 アストにはかつて戦ったパイロットとダブる事も多々あった為に警戒していた敵の一人だ。 

 しかし今はそれがない。

 正確に言えば焦りによって冷静さを欠いているような感じがする。

 

 「ならばこの隙は見逃さない。このまま押し込むまで!」

 

 イレイズの斬撃を捌き、盾で突き放すとサーベルを一閃、敵機の装甲を斬り裂いた。

 

 「ぐっ、俺が……」

 

 ジェラールはイノセントの圧倒的な動きについていくことができない。

 至近距離から突きつけたビームライフルも斬り裂かれ、ビーム砲の一撃も紙一重の動きでかわされてしまった。

 

 「動きについていけない?」

 

 呆然と呟くジェラールにアストは構う事無く攻撃を仕掛け、腕を落とした。

 

 「なら!」

 

 「ッ!?」

 

 苦肉の策としてトーデスシュレッケンで切り落とされた腕を破壊すると爆発に紛れて岩片の影に姿を隠した。

 

 「逃げられたか。……まあ、今はガルシアの確保が先だ。ようやく動いたみたいだしな」

 

 イノセントはそのまま戦域から逃れようと動き始めたガルシア確保に動く。

 それを岩片から確認したジェラールは思いっきり操縦桿を殴りつけた。

 

 「クソ!! ハァ、ハァ、ハァ」

 

 ジェラールは歯噛みしながら荒い呼吸を整えようと努めて深呼吸を繰り返す。

 

 「落ち着け、いつも通りに――いや、それじゃ駄目だ」

 

 脳裏に昔の事が思い起こされる。

 

 ジェラールは元々一般的なナチュラルの家庭に生まれだ。

 その出自に特殊性はない。

 普通に育ち、世界を見て、地球軍へと志願する。

 理由は実に陳腐なものだが、家族を、仲間を守る為、そして英雄になる為。

 才能があったのかモビルスーツに乗っても死ぬ事無く戦い、世界は少しづつ変化しても、ジェラールはいつも通りに任務をこなし確実に戦果を挙げ続けた。

 そんな時に転機が訪れた。

 ジェラールはユニウス戦役終盤、ロード・ジブリールの目に留まったのである。

 呼び出された彼はパイロット能力強化の実験に使われた。

 大した事のない実験だと眠らされ、ジェラールが目を覚ました時にはすでに戦争は終わっていた。 

 何の為の実験だったのかと当初は落胆したものだ。

 しかしジェラールには変化が起こっていた。

 モビルスーツに乗った際の感動は今でも忘れられない。

 明らかに広がった感覚と向上した技能によって、ジェラールは今まで以上の戦闘力を発揮できるようになっていた。

 

 

 ―――まるで別の自分になったかのように。

 

 

 それからは調子よく、順当に戦果を挙げ続け地球軍保守派最強と呼ばれるようになった。

 しかし旨い話には裏がある。

 そう、当然問題が発生した。

 戦いを重ねる度に記憶の齟齬と夢という形で見たこともない光景と感じた事のない感情が湧き上がってきたのだ。

 

 生々しいそれは確実にジェラールを侵食し、精神的な限界に追い込まれた。

 

 その時、彼が現れた。

 

 カース。

 

 不気味な仮面を付けたその男はジェラールに真実を聞かせた。

 「君はもうすぐ消えてなくなるかもしれない」と。

 すべてはジェラールに力を与えた実験の影響だと。

 その実験――それは全く関係ない赤の他人に別人の記憶を植え付けるというもの。

 ジェラールは別の人物の技量や記憶を知らずに移植されていたのである。 

 植え付けられたものの名前はシリル・アルフォード。

 かつてザフトに存在したエースパイロットだった。

 何故、ザフトのパイロットの記憶だったのか?

 そんな事はどうでも良い。

 顔も知らない男の記憶と感情。

 それがジェラールを少しづつ蝕み、乗っ取ろうとしている。

 要するにそれは内側から食われていくのと同じ事だった。 

 

 

 「俺は……お前などに負けない。負けてたまるか!」

 

 

 ジェラールはどうにもできない過去を振り捨てるかのように首を振るとイノセントを追うように岩片から飛び出した。 

 

 

 

 

 邪魔な岩を排除し、しばらく進んだ先でアストはようやく目標を発見していた。

 戦火から逃れるように小型の輸送船がコロニー群へ逃げ込もうと歩を進めている。

 

 「悪いが行かせる訳にはいかないんだよ、ジェラード・ガルシア司令」

 

 バルカン砲で船の足を止めて、正面へと回り込むと投降を呼びかける。

 

 「こちらは同盟軍独立部隊『グラオ・イーリス』所属、アスト・サガミ大尉だ。直ちに投降しろ」

 

 《ぐ、き、貴様は、あの時の小僧!?》

 

 「久しぶりですかね、ガルシア司令殿。降伏してくだされば、命の保証はしますよ。貴方もアルテミスで俺達の身を案じてくれたようですし、その恩に報いる事もできるかと」

 

 ライフルを突きつけ、投降を促すアストにガルシアは悔しそうに俯く。

 

 《本当に命を保障してくれるのか?》

 

 「もちろん」

 

 《何が目的なんだ?》

 

 「統合軍及びアルテミスに関するデータと情報です。持ってるでしょう、アルテミスの司令だった貴方なら」

 

 《ぐっぅうう……分かった》

 

 「船はそのまま俺の後をついてきてください。ガルシア司令はこちらに移ってもらいましょう」

 

 もう抵抗する気もないのか、宇宙服を着たガルシアが外へ出てくる。

 そのまま手に乗せようとした瞬間、ビームによる攻撃が迫る。

 

 「Mk-Ⅲか!」

 

 輸送船を貫通しようとしたビームを盾で防ぐと、攻撃してきたイレイズMk-Ⅲを迎撃しようとライフルを発射する。

 

 「そんなものはァァ!!」

 

 ビームはイレイズを掠め、ビームキャノンを吹き飛ばす。

 しかしそれでもイレイズは止まらない。

 残った腕でビームサーベルを構えて突っ込んできた。

 

 「自棄にでもなったのか!」

 

 「うおおおおお!!」

 

 アストは腰からバルムンクを抜きイレイズを迎え撃つ。

 上段から振り下ろされた一撃。

 それに合わせてカウンター気味に斬艦刀を振るうとサーベルごとイレイズの腕を斬り裂いた。

 

 両腕を失い、イレイズの戦闘力はない。

 

 もはや勝敗は決した。

 

 しかしまだジェラールは最後の足掻きを見せる。

 

 「まだだ!」

 

 イノセントの刃がコックピットに届く前に足を振り上げ斬撃を逸らし、距離を取った。

 

 「これでどうだ!」 

 

 残った武装である背中のビーム砲のトリガーを引く。 

 

 これはジェラールの最後の攻撃。

 

 だがそれでも――

 

 「俺には届かない」 

 

 ビームを回避し止めを刺そうとバルムンクを構えた瞬間、アストに悪寒が走る。

 

 「何!?」

 

 上方から発射されたビームが輸送船をあっさりと破壊した。

 

 「レーダーの範囲外から!?」

 

 イノセントのレーダーの外側からの狙撃。

 正確無比の脅威の射撃精度。

 スナイパーライフルを構え戦場に姿を現したのはアストの予想通りにヴァルターの駆るユングヴィだった。

 

 「お久しぶりですね、アスト」

 

 「ヴィクトリアか」

 

 「フフ、なるほど新しいガンダムは貴方もの物でしたか」

 

 「どこまでも目ざとい奴だな。イレイズを囮に使い、俺の注意を逸らしたという訳か」

 

 「お相手したい所ですが、どうやらのんびりとはしていられないようですので、今日はここで失礼します」

 

 ユングヴィは装甲から色を失ったイレイズを掴むと、そのまま戦場から離脱していく。

 

 「ヴィクトリア!」

 

 「ザラ大佐は貴方と決着をつけたがっています、アスト。貴方も相応に覚悟を決めた方がいい」

 

 「覚悟なら決まったさ」

 

 「そうですか。ではまた」

 

 ユングヴィが戦域から離れると付近にいた統合軍は撤退を開始する。

 

 「してやられたか」

 

 アストがため息をつきながら振り返ると完全に破壊された輸送船の姿が見えている。

 あの惨状では乗員に生存者は見込めない。

 

 「仕方ない、帰還を――ん?」

 

 そこで船の残骸の近くに浮く宇宙服を着きている死体がある事に気がついた。

 

 「まさかガルシアの……」

 

 アストはその死体を掴むとフォルセティへと向かって飛び去っていった。

 

 

 

 

 

 月周辺はかつてない程の緊張感に包まれていた。

 軍の指揮を執るユリウス・ヴァリス大佐の命令により、交易船などを除きあらゆる勢力を勢力圏内に入れるなという命令が下されているからである。

 当然、軍の動きも活発になり繰り返し哨戒部隊が出撃するほど、厳重な警戒を敷いていた。

 

 その宇宙を一隻の戦艦が悠然と哨戒任務についている。

 

 テタルトス軍の旗艦であるアンドロメダ級戦艦『アリストテレス』

 指揮していたのは現在軍を統括しているユリウス・ヴァリス大佐だった。

 いつも通りに任務をこなしていたアリストテレスだが、オペレーターからの報告が重苦しい緊張感をもたらした。

 

 「大佐、偵察に出していた哨戒機からの通信が途絶えました」

 

 「どうしますか、大佐?」

 

 「……まずは敵の規模を確認する。部隊を――ッ!? これは……まさか?」

  

 「大佐?」

 

 常に冷静なユリウスの表情が驚愕に染まっている。

 

 まるであり得ないものを見たかのような――

 

 「ディザスターを用意しろ」

 

 「は? 大佐、自ら出撃されるのですか?」

 

 「そうだ。急げ!」

 

 「ハ、ハッ!」

 

 ユリウスはすぐ様格納庫に降り、制服のまま愛機のコックピットに乗り込む。

 

 「大佐、パイロットスーツを」

 

 「必要ない。それより機体の出来を見せてもらうぞ」

 

 「い、いや、しかし――」

 

 整備兵の言葉を最後まで聞かずにコックピットハッチを閉じるとカタパルトに機体が運ばれる。

 アリストテレスのハッチが開き、青紫色の装甲が色付いた。

 

 「この感覚は……」

 

 ずっと引っ掛かっていた事の答えがすぐそこにある。

 それを直感で感じ取ったユリウスは自然と笑みをこぼした。

 

 「確かめさせてもらう。ユリウス・ヴァリス、ディザスター、出るぞ!!」




機体紹介2、用語集更新しました。
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