機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第33話 別れの時

 

 

 

 

 青紫の装甲を纏ったモビルスーツ。

 その機体はヤキン・ドゥーエ戦役からこれまで最強の名で呼ばれてきた男の象徴たるモビルスーツだった。

  

 LFSA-X007 『ディザスター・グリューエン』

 

 テタルトス最新型モビルスーツ。ユニウス戦役で実戦投入されたグロウ・ディザスターをさらに洗練させ、強化した機体。

 元々規格外の性能を誇っていた機体を強化しただけあって、他の追随を許さない圧倒的な性能を持つ。

 

 「文句のない仕上がりだな」

 

 機体を操り感触を確かめたユリウスは微かに笑みを浮かべ、さらに速度を上げる。

 浮かぶデブリを物ともせずに突き進む。

 常人の感覚からすればはっきり言って異常。

 普通ならぶつかるリスクを考え、速度を落とすもの。

 さらに異常さを際立させていたのが、ディザスターの軌道。

 デブリの位置をあらかじめ把握しているかのように紙一重でかわしていく。

 一糸乱れぬ動きでだ。

 これを異常と言わずに何と言う。

 

 「さて哨戒機は……アレか」

 

 最速で哨戒機の反応が途絶えたポイントへたどり着いたユリウスは、その光景に思わず賛辞を送った。

 

 「流石と言った所か」

 

 駆け付けた現場には破壊されたモビルスーツが、そこらに浮かべられていた。

 武装とメインカメラ、両手足は破壊され、コックピットへの攻撃は外すというオマケ付き。

 

 

 ――相変わらずの腕前という訳だ。 

 

 

 「……来る!!」

 

 

 ユリウスの体に走る感覚が察知すると同時に直上から迫る一条のビーム。

 あいさつ代わりという事だろう。

 ディザスターが機体を捻り、ビームを避けるとすぐに反撃へと転じた。

 ライフルを構えての狙撃。

 敵機の姿を確認した訳ではないにも関わらず、位置を完璧に把握しているかのような迷いのない一射だった。

 同時にスラスターの光が軌跡を描き、ビームの一撃を回避していた。

 赤く染められた装甲に宇宙で光を放つモノアイ。

 二基のスラスターユニットが噴射され、デブリの中をあり得ない機動で動くモビルスーツ。

 

 「その機体に乗っているとはな」

 

 かつて相対したモビルスーツに乗る相手に苦笑しながら、ユリウスはフットペダルを踏み込んだ。

 赤と青紫。

 デブリを挟む形で二つの閃光が宇宙を走る。 

 障害物を縫うように動き、衝突する気配すらない。

 普通のパイロットが見たら卒倒しかねない機動を二機のパイロットは平然と行っていた。

 この二人がどれだけ隔絶した技量なのかは言わずもがなだろう。

 デブリの間を動き回る二機は互いの隙を伺いながら同時にビームライフルを発射した。

 交差するビームは標的を射貫く事無く虚空へ消え去る。

 その瞬間、二機は同時に前に出ていた。

 抜いたサーベルが高速でぶつかり合うと弾けた稲光が周囲を照らした。

 

 「フフフ、腕は鈍っているどころかさらに向上している。流石だなユリウス。それでこそだ」

 

 「腕を上げたのはそちらこそでしょう―――クルーゼ隊長」

 

 サタナエルに乗る兄弟とも呼べる男にユリウスは苦笑しながら剣を引いた。

 ラウとユリウス。

 二人はその血筋と生まれから兄弟と呼んで差し支えない関係だった。

 互いに相容れない目的を持ちながらも長い期間を共に過ごし、強い繋がりで結ばれている。

 その奇妙な信頼は別れていた間も僅かも揺らぐことは無い。

 

 「もう隊長ではないさ。それに今の私はカースだよ」

 

 「なるほど……その機体を見れば何があったのかは大体想像がつく。これまでの行動についても。それよりもこんな茶番を仕掛けた理由は何です?」  

 

 哨戒機を撃墜せず、パイロットを生かしたまま放置。

 さらに母艦に奇襲を仕掛けるチャンスもありながらも襲撃地点に潜伏していた事。

 すべてはユリウスを誘う為のものだろう。

 

 「何、一つ頼みがあるだけさ。……統合政府イスラフィール代表とファウスト・ヴェルンシュタイン軍事司令、この二人との会談を行ってもらいたい」

 

 ユリウスは現在、どの勢力だろうが月の勢力圏に入れないよう厳重に規制を敷いていた。

 その理由の一つが議会の混乱である。

 アルノルト・ヴェルンシュタインを初めとした停戦派議員達の欠員によって、議会は戦争継続派が主導権を握っている。

 しかし息つく間もなく予期せぬ事態がおきた。

 統合軍の誕生である。

 これには議会も慌てた。

 地球駐留軍が丸ごと抜けてしまったのだから。

 もはや戦争継続などとは言っていられず、この先どうするのかと日夜議論している状況だった。

 そこに他勢力の介入が起きれば、テタルトスは瓦解してしまう可能性もある。

 だから余計な政治工作や諜報活動をさせないようにどんな勢力だろうと月へと入れなかったのである。

 

 「場所はそうだな……懐の月でとは言わんさ。古巣の『ヴァルナ』か月境界線に存在する『アポロン』辺りで、会談を行うのは議員ではなくお前かエドガー・ブランデルで良い」

 

 伊達に付き合いは長くない。

 こちらの思考は読んでいるという事だろう。

 

 「……私がそれを受けるとでも?」

 

 「フッ、簡単には頷かないだろうさ。だがお前にとっても悪くない話だ。特にイスラフィール辺りと話すのはな」

 

 「どういう意味だ?」

 

 「奴はお前と同類なのさ。お前とは別の方法で人類の先を目指している。方法論が違う故に相容れないだろうが、敵の姿を見ておく事も悪くはあるまい。そして見返りも用意しよう。情報の提供と―――キラ・ヤマトとの対決を」 

 

 「……これも貴方の目的に近づく為に必要な事なのか?」

 

 「そうだとも言えるしそうでないとも言える。今は準備期間だよ、ユリウス。私は種を蒔いているだけさ」

 

 「なるほど……」

 

 ユリウスはしばらく考え込むようにジッとサタナエルを見据えると答えを出した。

 

 「その話を受けよう」

 

 「……では詳細は後日、連絡を入れさせてもらう」  

 

 用事は済んだとばかりに踵を返すサタナエル。

 そこでカースは再びユリウスへ声を掛けた。

 

 「そういえばユリウス、一つ言い忘れていた。レイの事だ。彼を助けてくれた事、感謝する」

 

 「……私はただ選択の機会を与えただけ、何もしていない」

 

 「そうか、お前らしいな。……ユリウス、そのままお前はお前の道を進むがいい。相容れなくとも、私はお前の行く道の邪魔をするつもりはない。お前の幸福を願っている……我が兄弟」

 

 「私もだ」  

 

 矛盾した事を言っている事は二人共重々承知していた。

 

 二人の願いは相容れない。

 

 真逆の事を願っている。

 

 何を言おうと最後は結局ぶつかり合う事になるのかもしれない。

 

 それでも、どんな結末だろうと二人はそれを受け入れるだけ。

 

 憎しみも、悲しみも、後悔もないのだ。

 

 それ以上、言葉を交わす事無く各々の方向へと飛び去った。

 

 別の道を行く二人の軌跡を暗示しているかのように。   

 

 

 

 

 相変わらず厳戒態勢を敷いたままのヴァルナは重苦しい空気に包まれていた。

 アルテミスが陥落し、連合保守派は壊滅させたものの、宇宙に敵はまだ多く存在しているのだから。

 そんな中傷ついた機体と共に帰還を果たしたヴィクトルは集中治療室で眠り続けているジョナサンの姿を肩を落として眺めていた。

 

 「大尉」

 

 戦闘に介入してきた白いガンダムに撃墜されたジョナサンはどうにか一命を取り留めていた。

 だが、その傷は深く二度とモビルスーツに乗る事は出来ないという。

 ルーカスが生きていれば「仇を討ちにいくぞ!」とでも言って即座に動き出すに違いなかった。

 しかしなまじ冷静すぎるヴィクトルにはそれが出来ない。

 あの時に否応なく悟ってしまったからだ。

 

 ――何をしてもあの白いガンダムにはかなわないと。

 

 悔しさはある。

 このまま終わりたくないという気持ちも。

 だがそれでも動けなかった。

 ヴィクトルの心は完全に叩き折られてしまっていた。

 

 「こんな所で何をしている?」

 

 俯いたまま病室を眺めていたヴィクトルは聞こえてきた声の方へ視線を向けるとそこには意外な人物が立っていた。

 

 「……ヴィルフリート・クアドラード少佐」

 

 ヴィルフリートは黙ってヴィクトルの隣に立つと病室の中を覗き込む。

 しばらく目を伏せ、一礼すると再びヴィクトルへと向かい合った。

 以前とは何かが違う。

 ヴィルフリートから感じていた焦燥感が消え、その表情には力強さと覚悟があった。

 感じ取れるその強さ思わずヴィクトルは目を逸らしてしまう。

 

 「……どうやら相当手酷くやられたようだな」

 

 「くっ」

 

 反論しようとヴィルフリートを睨みつけるが、すぐに言葉を失ってしまう。

 

 「それでお前は此処で終わるのか?」

 

 すべてを見透かしたようなヴィルフリートの物言いに流石のヴィクトルも苛立ちが増してくる。

 

 「……貴方に何が分かる。あのガンダムの強さも知らない貴方に! いや、功名心と戦果だけを求め、仲間を犬死させてきた貴方に分かるものか!!」   

 

 吐き出すヴィクトルの苛立ちにもヴィルフリートは黙って聞いているだけ。

 それがまた苛立ちを増幅させていく。

 

 「だから――」

 

 「……返す言葉もない。お前の言う通りだ。無残に部下の命を散らしてきた俺がこんな事を言う事自体恥知らずである事は重々承知している」

 

 ヴィルフリートは反論する事もなくこちらの言い分を認めた。 

 そのあまりにも意外な対応にヴィクトルの怒りも削がれてしまう。 

 

 「しかしだからこそこんな所で燻っていても仕方ないのではないか? 俺とは違うというならば尚の事『テンペスターズ』として立つべきだ」

 

 「ッ!? ……『テンペスターズ』は終わりですよ」

 

 どの道一人ではどうしようもないとヴィクトルは思わず自嘲する。

 

 「……終わりなどではない。まだお前がいる。お前達の強さを知る俺がいる。断じて終わりなどではない」

 

 「クアドラード少佐」

 

 「立て、ヴィクトル・シアーズ。お前は俺のような者とは違うのだろう? だったら立てる筈だ。そして戦う意思があるならばもう一度俺の所へ来い」

 

 そう言ってヴィルフリートは立ち去った。

 ヴィクトルを信じていると振り返る事もなく。

 

 「……何というか、まるで別人ですね」

 

 それほどの体験をしたという事なのか。

 あのヴィルフリートでさえ変わり、前を向いている。

 にも関わらず自分は此処で何をしているのか。

 いつの間にかヴィクトルは固く拳を握り、体に熱でも入れられたかのように内側が滾っていた。

 

 「こういうのはルーカスの役だったんですけどね。……大尉、情けない所を見せて申し訳ありませんでした。借りは返してきます」

 

 ヴィクトルは眠るジョナサンに一礼するとヴィルフリートの後を追うように歩き出す。

 その背には先ほどまでとは違う強さが宿っていた。 

  

 

 

 

 戦闘を終えヴァルハラへの道を進んでいるフォルセティ。

 ガルシアを捕縛するするという目的は達成できなかったが、回収した彼の死体が持っていたディスクを得る事には成功した。

 ヴァルハラへの道すがらブリッジではガルシアから手に入れたデータの確認が行われていた。  

 

 「しかし何でジェラード・ガルシアはデータの入ったディスクを持っていたんだ? アルテミスの司令ならそんなもの必要ないだろう」

 

 イザークの指摘にアストは何となくガルシアの考えを何となくだが悟った。

 

 「おそらく自分の身の安全を図る為の保険と後はどこかの勢力に恩でも売るつもりだったんじゃないか? 自分の証言だけでは疑われる可能性が高い。でもディスクに入った物的証拠があれば信憑性は増すしな」

 

 「しかしならディスクさえ手に入れば、それこそガルシアの命の保証はないという事になると思うがな」

 

 「多分、ディスクにはすべてのデータが入っている訳じゃない。まずはディスクを渡し信用させてから自分の持っている情報を小出しに渡すつもりだったんだろ。身の安全が保障されるまで」

 

 「なるほど」

 

 そんな雑談をしているとディスクの解析が終わったのか、モニターにデータが表示される。

 

 「これは……『レクイエム』か?」

 

 エネルギープラントに繋がれたケーブル類とアルテミスからせり出す形で突き出た砲塔。

 間違いない。

 ユニウス戦役で投入された『レクイエム』に間違いない。

   

 「報告で上がってきた統合軍艦隊を薙ぎ払った閃光というのはこいつか」

 

 「要塞が占拠された際にレクイエムも接収されている筈……不味いな、位置が悪い。もしもレクイエムが統合軍に使用されると月に向かおうとする艦隊はすべて狙い撃ちされてしまう」

 

 「月へ向かう連中を支援する意味でもレクイエム破壊は必須事項という訳か」

 

 「ああ。データを見る限り数発しか撃てないようだが、統合軍がそのままにしておく理由はない。使う以上は改修するだろう。その前に動きたいところだが……無理か」

 

 「送ったルナマリアを支援も間に合うかどうかだからな」

 

 今、フォルセティにはルナマリアは居ない。

 彼女は重要任務に就くオーディンを支援する為の援軍として先ほど出撃したばかりだ。

 先にぶつかったヴィクトリア達の部隊がオーディンの向かう方向へ移動していると哨戒機から報告を受け援軍を送る事にしたのである。

  

 「どうした?」

 

 「いや、フリージアの調整が終われば俺も援護に行けるんだが」

 

 「今はいざという時に備えておけ。無理をして肝心な時に動けないのでは意味がないぞ」

 

 「そうだな」

 

 イザークの言う通りだ。

 今はルナマリアを信じて、任せるしかない。

 そう思いながらもアストは不吉な予感が拭えず、耐えるように拳を握る事しかできなかった。

 

 「そういえばアネットはどうなんだ? もうすぐ生まれるのだろう?」

 

 「ああ。できれば付いていてやりたいんだが、この状況ではな。それに本人も今は仕事に集中しろと言っていた」

 

 「彼女らしいな」

 

 アネットも今の情勢の中で皆の事を案じているのだ。

 イザークの事も心配だろうに。

 

 「お前もたまには顔くらい見せろ。でないとアイツは不機嫌になる。お前とキラの事を色々な意味で心配しているからな」

 

 「……済まない。昔から彼女には心配かけてばかりだ」

 

 「そう思うなら今度家に寄れ。俺だけじゃ宥めきれんからな」

 

 「分かった」    

 

 

 

 

 ヴァルハラから出撃したオーディンは敵からの襲撃を警戒しながら慎重に航行していた。

 追加装備によるミラージュ・コロイドを展開しており、簡単には見つからないとはいえ、万能ではない。

 最近ではミラージュ・コロイド対策はどの陣営でも必須事項となっており、それ専門の部隊まで居るくらいだ。

 

 「アルミラ艦長、前方に機雷源」

 

 「またか。流石に月周辺は抜かりがない」

 

 「アポロン要塞も近いですから仕方ないでしょうけどね」

 

 「ルートの確認の方はどうなっている?」

 

 「おおよそ七割と言った所です。カゲロウが上手くやってくれているおかげです」

 

 MBFーM3E『カゲロウ』は中立同盟が開発した隠密性に優れたモビルスーツである。

 ユニウス戦役でも同盟の諜報活動はこの機体が中心となり、今も改修が施され現場で使用され続けている傑作機だった。

 

 「このまま順調にいけば良いんですけどね」

 

 「順調だからこそ、なんか不気味な感じがします」

 

 そうであって欲しいと願いながらもテレサの軍人として培ってきた経験が楽観できるような状態ではないと警鐘を鳴らす。

 パイロットスーツを着込み傍に控えているレティシア、ラクス、セリスの三人も同様にその表情からは余裕がない。

 彼らが行っている任務の重要性から言えばそれも当たり前なのだが。

 現在、オーディンが行っているのは月に向かう為のルートが本当に使えるのかどうかの検証だった。

 勿論、テタルトスや統合軍に悟られないように慎重に慎重を重ねた上での調査である。

 もしもアラスカで回収したデータが使えない場合、同盟は自ら罠に飛び込む事になる。

 今回のデータを提供してくれたのは何者なのか経歴自体が曖昧な不審者ヴェクト・グロンルンド。

 そんな胡散臭い人物のデータを鵜呑みにするほど迂闊な者は同盟には存在しなかった。

 

 「此処まではデータ通り。信憑性は高いと判断すべきか」

 

 「調査を続行しますか?」

 

 レティシアの問いにテレサは少しだけ考え込む。

 アラスカのデータに信憑性がある事は確認できた。

 これ以上、この場に留まり敵に発見される方が致命的だろう。

 

 「……深入りして見つかったら元も子もない。ミラージュ・コロイド生成装置で誤魔化すのもそろそろ限界だ。引き上げ時かだな」

 

 モビルスーツを帰還させ、最小限度のスラスターで反転したオーディンは一瞬だけエンジンを吹かし再び来た道を戻るように慎重にその場から離れていく。

 

 此処までは同盟の思惑通り。

 

 油断もなくトラブルもない。

 

 順調だったと言っていい。

 

 しかし彼らの想定外があったとするなら、それは同盟の動きを予め読んでいた者がいたという事だった。

 

 宙域からずいぶん離れ、このまま危険区域を脱しようとした瞬間、甲高い音がブリッジへと響き渡った。

 

 「レーダーに反応!! 直上より急速に近づいてくる熱源あり!! これは……『サタナエル』です!!」 

 

 「ッ!? エンジン始動、最大加速!!」

 

 オーディンがなりふり構わず加速すると同時にサタナエルから発射されたバズーカ砲が炸裂し、周囲に散弾が撒き散らされる。

 それが直撃したオーディンは強い衝撃と振動によって動きを鈍らされてしまう。 

 

 「同盟の戦艦――オーディンだったかな? 此処に居るという事は……やはりアラスカでデータは回収されていたという事か。それはそれで構わないのだがね、見逃す訳にもいかない」

 

 ビームライフルがオーディンの側面部を撃ち抜き、ミラージュ・コロイド生成装置を吹き飛ばした。

 

 「さて、この場から生き延びられるかな?」

 

 続けて発射されるビームライフルが次々と直撃し、確実にオーディンを削っていく。

 

 「ぐっ、残ったミラージュ・コロイド生成装置を緊急パージ! ルティエンス!」

 

 「了解! ラクス、セリス!」

 

 頷く二人と駆けだしたレティシアは格納庫に立つヴァナディスのコックピットに飛び込むと相変わらずの体調に辟易しながら機体を起動させる。

 

 「……ハァ」

 

 「レティシア、大丈夫ですか?」

 

 「大丈夫ですよ、ラクス」

 

 心配そうにこちらを見ているラクスを安心させようとレティシアはあえて微笑んだ。

 

 「では行きましょう」

 

 「「了解!」」

 

 三機のモビルスーツが飛び出すと、サタナエルが迎え撃った。

 

 「来たか」

 

 「ラウ・ル・クルーゼ!!」

 

 レティシアがドラグーンを射出すると正確な操作による全方位攻撃がサタナエルに襲いかかる。

 しかしカースとて特殊な空間認識力を持つパイロット。

 この程度を捌くは造作もない事だった。

 

 「甘いな」

 

 カースは平面飛びのような機動でドラグーンの攻撃を回避すると無造作に構えたビームライフルが容易く動く砲台を捉えた。

 

 「ッ!?」

 

 「流石、戦女神。このドラグーン操作は私以上かもしれないな。しかし正確すぎる。故に読みやすいのだよ!」

 

 ビームの射撃やドラグーンの配置、すべてを把握しているかのようにサタナエルは攻撃を回避していく。

 

 「貴方に通用しない事は百も承知! 二人は気にせず、突っ込みなさい!」

 

 ドラグーンから発射されたビームの隙間を潜るようにラクスとセリスがビームサーベルを構えて突撃する。

 ジャスティスの斬撃をシールドで弾き飛ばし、アイテルの攻撃を宙返りでやり過ごす。

 そこを見計らったようにサタナエルの行く先へビームライフルが発射される。 

 

 「ふむ。同盟のエースは伊達ではないな」

 

 「此処で貴方を倒します!」

 

 「残念ながら君の相手は私ではないよ」

 

 「えっ」

 

 その時、突き刺さる殺意がレティシアに向いている事に気がついた。

 

 「これは――ッ!?」

 

 レティシアは自機を守るようにドラグーンを配置、ビームフィールドを展開する。

 次の瞬間、ヴァナディスに向けて発射された強力なビームがフィールドによって弾き飛ばされた。

 

 「……あの機体は」

 

 いつの間にか背後に見覚えのある機体が佇んでいた。

 

 

 

 ―――そして、哄笑が響き渡る。

 

 

 

 「アハ、ハハ、アハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

 

 

 広げた悪魔のような翼を持ち、両腰、両肩に接続されたビームクロウ。

 

 

 さらに大きな鎌を携えて不気味さをより色濃くしているその機体はレティシアにとって地獄から蘇ってきた悪夢そのもの。

 

 

 

 「やっとこの時が来た、来た、来たんだァァ、貴様を殺せる時がァァァァァ!!! レティシアァァァァァァァ!!!!」

 

 

 宇宙に響く哄笑と咆哮。

 

 

 ZGMF-X90Sb『ベルゼビュート・メガイラ』

 

 

 この機体こそレティシアを地獄へ引き込もうとする過去の亡者そのものだった。

 

 「存分にやるがいい、エリニス。それこそがお前の本懐だ」

 

 「ウオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 スラスター全開でヴァナディスへ突撃したベルゼビュート・メガイラがビームソードを叩きつけた。

 

 「くっ」

 

 ギリギリのタイミングで斬撃を受け止めたレティシアだったが、勢いがついたベルゼビュートを止める事ができない。

 受け止めたシールドごとヴァナディスを押し込んでいく。

 

 「味方から引き離すつもりですか!?」

 

 「落ちろォォォ!!」

 

 「レティシア!?」

 

 「教官!?」

 

 「行かせんよ、君らの相手は私達だ」

 

 サタナエルと援軍として駆けつけた数機のモビルスーツがジャスティスとアイテルを押し留め、ヴァナディスはベルゼビュートに押される形で引き離される。

 

 「ぐっ、このままじゃ、い、意識が!!」

 

 体にかかるGは今のレティシアにはきついものがある。

 たまらず蹴りを入れて引き放すが、ベルゼビュートはそのまま食らいついてきた。

 

 「レティシアァァァァ!!」

 

 大鎌『ネビロスⅡ』が上段から振り下ろされる。

 

 「そんな大振りで……い、いちいち、叫ばないと攻撃出来ないんですか、鬱陶しい」

 

 体調の悪さを押し殺しビームサーベルでネビロスⅡを斬り払うと至近距離からグレネードランチャーを叩き込む。

 

 「そんなものがァァァ!!」

 

 機関砲で叩き落としたグレネードランチャーの爆煙の中を突っ切り、再びヴァナディスへ斬撃を叩きつけた。

 

 「今日こそ、今日こそ、私は貴様を殺す!!」

 

 「貴方はやはり……リース・シベリウス」

  

 「そんな負け犬と一緒にするな!! 私はエリニス!! エリニスだ!! カース様の目的をかなえる為の先兵だ!!」

 

 シールドの上から強烈な斬撃を叩き込み、ヴァナディスを吹き飛ばした。

 

 「くぅぅぅぅぅぅ!! ハァ、ハァ、こんな時に……」

 

 肩から射出された二つの大型ビームクロウが強烈なビームを発射しながら突っ込んでくる。

 

 「この程度!」

 

 掠れる意識を繋ぎとめ、ビーム砲を回避しながらアインヘリヤルで迎撃した。

 だが待ち受けていたのはベルゼビュートの腰から射出されたもう一対のビームクロウ。 

 普段のレティシアであれば対処できた筈の攻撃。

 しかし今は普段とは違い明らかな不調。

 反応が僅かに遅れ、シールドと斬艦刀を吹き飛ばされてしまった。

 

 「うっ、くっ」

 

 懐に飛び込んだベルゼビュートはヴァナディスにビームソードで突きを放つ。

 

 「死ねェェェェェェェ!!」

 

 目も眩む閃光がレティシアの視界を埋め尽くしていく。

 刃の速度は緩む事無く正確にヴァナディスへと突き出された。




機体紹介2、更新しました。
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