サタナエルとオーディンが戦闘を開始した直後。
戦場へ向かうプレイアデス級のブリッジでヴァルター・ランゲルトは一瞬だけ眉を顰めた。
電気のようなものが体を駆けたからだ。
「ランゲルト中佐?」
傍に控えた艦長の声にも反応せずに考え込む。
この感覚があるという事はこの先に彼女がいるという事だった。
単独で動く訳ではあるまい。
となると部隊単位で、何かの作戦行動を取っていると考えるべき。
「……あの男の情報だけに半信半疑でしたが、本当でしたか」
仮面の男の顔を思い浮かべて小さく呟くと再び艦長が声を掛けてきた。
「中佐、前方に戦闘らしき光を確認しました」
「ユングヴィにブースターユニットを装備させなさい、すぐに出ます。艦はこの場で待機」
「モビルスーツ隊の出撃は?」
「必要ありません。アポロン要塞から出撃してくる部隊の支援に徹していればいい」
「ミエルス大尉から出撃要請も来ていますが? 新型機のテストをしたいと」
ヴァルターは自分達の母艦に並ぶもう一隻のプレイアデス級に鋭い視線を向けた。
「無理やりついて来て勝手な事を……」
リベルト・ミエルスとヴァルター・ランゲルトはそれなりに長い付き合いである。
ゲオルク・ヴェルンシュタインに見出され任務も一緒にこなしてきたが、決して仲が良い訳ではない。
彼の境遇や立場には共感できるし、理解も出来る。
しかし根本的な所で相容れない。
彼は運命からの解放を口にしながら、自らそれに縛られている。
シン・アスカやデスティニーに拘っているのがその良い証拠だ。
だがヴァルターは違う。
「……私は思い通りになるものか」
決意と共に拳を握ると淡々と命令を下した。
「増援に備えて待機しろと伝えなさい」
「了解」
「後は任せます」
ヴァルターは格納庫に降りると準備を終えたユングヴィに乗り込む。
解放されたハッチの先に広がる宇宙。
そこから感じ取れる気配の方へヴァルターは迷いなく機体を出撃させた。
◇
オーディンに降り注ぐミサイル。
それらをすべて艦に届く前に撃墜され、宇宙に大きな炎の花を咲かせていく。
「左舷からさらにミサイル四! その後方よりイリアスが三!」
「迎撃! 主砲、撃てぇー!」
主砲の一撃でミサイルはすべて薙ぎ払われ、後方にいたイリアスも散らす事に成功する。
「ヴァナディス、アイテル、ジャスティスは?」
「ヴァナディスは捕捉できず、アイテル、ジャスティスは敵モビルスーツと交戦中!!」
奮戦するオーディンのすぐ傍ではベルゼビュートによってヴァナディスと引き離されたセリス達はカース率いる部隊と激闘を繰り広げていた。
「レティシア!!」
「君達の相手は私達だよ!!」
デブリの中を突っ切りスピードを上げたサタナエルはその勢いのままジャスティスに斬りかかってくる。
「速い!」
キラやアストにも劣らない速度の斬撃に舌を巻きながら、確実にジャスティスの急所を狙ってくる攻撃を防御する。
ビームシールドによって阻まれたビームサーベルを突き放すと、ラクスもまたサーベルを両腰から抜き連結させた。
「行きます!」
ハルバード状態となったサーベルを上段から叩きつけ、さらに下段から斬り上げる。
ジャスティスの連撃をシールドで捌くサタナエル。
「そこ!」
盾で捌くという事は攻撃を止めた一瞬でも動きが鈍る事を意味する。
ラクスはそこを狙い、脚部のビームブレイドが振り抜いた。
「チッ、戦上手になったものだ、ラクス・クライン!」
「今の私はルティエンスです! クラインではありません!!」
「フ、何にせよ、歌姫と呼ばれていた頃からは想像もできん実力者になった」
ビームブレイドを宙返りして回避したカースはビームライフルで狙撃する。
「くっ、今のもかわしますか。やはり強い」
「戦歴なら君にも負けてはいないのでね。この程度ならいくらでも捌けるさ」
ヤキン・ドゥーエ戦役でキラやアスラン、ムウの三人を同時に相手にしながら圧倒したという実力は健在という事だろう。
背中のリフターを分離させ、ビームをやり過ごしたラクスは再びサタナエルと距離を詰めた。
「接近戦ではやや不利だな。では――」
サタナエルの背中から数機の砲台が射出され、ジャスティスを囲むように展開された。
「ドラグーンユニット!?」
「かわし切れるかな?」
三百六十度からのオールレンジ攻撃。
無数のビームが四方八方からジャスティスに降り注いだ。
「ドラグーンの動きも速い!」
「この程度は序の口だよ。かつてはこれとは比較にならない数を操作した事もある」
各部の装甲は削られ、ジャスティスに傷を刻んでいく。
「まだです!」
リフターとドッキングし、ドラグーンの動きを阻害するようにビーム砲を発射した。
しかしそれもドラグーンにはかすりもしない。
「これで十分です!」
砲台の動きが鈍った隙に構えたブーメランと斬艦刀を投擲、サタナエルを挟み込むように攻撃する。
それもサタナエルに届く前にドラグーンの砲撃が消し飛ばす。
「ここです!!」
「ッ!?」
砲台の攻撃はブーメランと斬艦刀に向かいジャスティスから外れていた。
その間に前にでたジャスティスのビームサーベルがサタナエルのバズーカ砲を斬り裂いていた。
「全く、慣れとは恐ろしいな! 君も厄介なパイロットに育った!」
認識を改めたカースはジャスティスを撃破すべく、再び攻撃を開始する。
ジャスティスとサタナエルの激闘。
二機の激突と離れた場所ではセリスがオーディンの所属の機体と共に奮戦していた。
すっかり愛機となったアイテルガンダムヴァルキューレを巧みに操りながら戦うセリスは現在の状況に焦りの色を隠せない。
「不味い……このままじゃ」
距離を稼いだとはいえ此処はまだアポロン要塞の警戒範囲内だ。
時間を掛けすぎればアポロンからの増援が駆け付けてくる。
しかし早く片づけたくともレティシアは引き離され、ラクスはサタナエルとの戦闘で手一杯。
「教官の援護に行きたいけど」
レティシアが戻れば状況も変わる筈だ。
しかし道を阻むように立ちふさがる他の機体が邪魔をしてくる。
「そこを退いて!」
大剣『ヴァルファズルⅡ』をイリアスに叩きつけると刀身に仕込まれたビーム発生装置から光の刃が飛び出してくる。
刀身を囲むように飛び出たそれは剣を覆う強力なビーム刃となり、イリアスを盾ごと真っ二つに斬り裂いた。
『ヴァルファズルⅡ』は刀身自体に無数のビーム発生装置が配置され、通常の斬艦刀に比べても遥かに強力な刃を形成する事が可能になっている武装だ。
それこそアンチビームシールドで受け止める事は出来ない程の威力を持っている。
「迂闊に受け止めるから!」
大剣を横薙ぎに振るい敵モビルスーツを薙ぎ払うと、今度は見覚えのある機体が近づいてきた。
№Ⅰのイリアス・アキレスである。
「行かせはしない!」
「ッ!?」
邪魔な敵を斬り捨てレティシアの下へ向かおうとするセリスにイリアス・アキレスのビームサーベルが襲い掛かる。
「邪魔!」
「行かせんと言っている!」
イリアスの攻撃をかわし、強烈な斬撃を繰り出してくるアイテルの大剣を№Ⅰは凝視する。
真近で見ると良く分かる。
確かにアレは強力で凶悪である。
速度を乗せた大剣の斬撃は容易く盾ごと両断してくるに違いない。
音に聞こえたデスティニーの斬撃にも勝るとも劣らない。
故に選択肢が一つしかないとイリアス・アキレスはあえて果敢に前へ出た。
「前に出る!?」
「やりようはあるという事だ!」
タイミングを見極めた№Ⅰは盾を垂直に構え、刃ではなく刀身の腹を弾いた。
大剣はイリアスを捉えられず、脇へと逸れていく。
「その大剣、私には通用しない」
あの斬撃は受け止める事ができない。
止めようとすれば逆に斬り裂かれることは火を見るより明らか。
だから№Ⅰは盾で受け止めるのではなく、逸らす選択をした。
その方が受け止めるリスクよりは危険が少ないと判断したのである。
「このパイロット、腕を上げている!?」
「私はカース様を守る者! フリーダムだろうと、デスティニーだろうともう負ける事など許されない!!」
№Ⅰはラナシリーズの中でも特に変わった個体と言える。
その最たるものが成長性である。
エクステンデットはある装置によって経験の蓄積というものがほぼされない。
量産型エクステンデットあるラナシリーズも成長の段階で強化され、用途に合わせた特性が付与され成長などとは無縁と言える。
しかし№Ⅰを含む何人かのオリジナルを超える能力を持って生まれた特殊な個体は違った。
彼女達は最低限の強化のみで高い能力値を示す為にそれ以上無理な処置は施されない。
つまり経験を積み、成長する事が出来るということである。
「ハアアアア!!」
「さらに速い!?」
イリアス・アキレスの斬撃がアイテルのビームライフルを叩き切り、返す刀で装甲を傷つけた。
その斬撃の鋭さはそこらのエース級を軽く上回る。
「大剣じゃ小回りが利かない!」
腰のビームガンと機関砲で牽制しながら、武装をビームサーベルに持ち変える。
「武器を替えた程度で!」
「ここ!」
イリアスが再び踏み込んできたタイミングを見計らい身につけていた多機能マントを脱ぎ捨てるとその隙に死角へ回り込んだ。
―――最大の火力で薙ぎ払う!
「アサルト!!」
一対の砲身が跳ね上がり、イリアスにアサルトブラスターキャノンが発射された。
空間を焼き尽くす強烈な一撃。
マントに気を取られ、虚を突かれた№Ⅰは反応が遅れている。
「落とした!」
「舐めるな!」
イリアスはビームが直撃する前に装着された外部装甲をパージ。
外した装甲を機体の壁にする事でアサルトブラスターキャノンの砲撃から逃れて見せた。
「嘘でしょ!? あの状態から逃れてみせた!?」
「もしも反応がもう少し遅れていたら……撃墜されていなかったとしても戦闘不能にはなっていたかもしれない。同盟のエースはやはり皆、侮れないな。だからこそ此処で一機でも多くの機体を仕留める!!」
爆煙の中からアイテルの懐へ飛び込むと二丁のビームライフルショーティ―で牽制しながら対空ミサイルを叩き込んだ。
「ぐっ!!」
迎撃の機関砲を潜り抜けたミサイルがアイテルに降り注ぎ、アンチビームシールドを破壊する。
さらに連続で降り注いだミサイルの衝撃がセリスの意識を大きく揺さぶった。
大きく体勢を崩したアイテルにイリアスが止めの攻勢に移った。
「止めだ! ガンダム!!」
至近距離からコックピットを狙う二丁の銃口。
それを前にセリスのSEEDが弾けた。
「見える!」
発射された閃光をギリギリのタイミングで機体を寝かせて回避すると、そのまま足を振り上げる。
蹴りが片方のライフルショーティーを弾き、同時にスラスターを噴射。
無理やりに体勢を変え、回し蹴りを叩き込んだ。
蹴りが直撃した頭部はへしゃげ、カメラを守るレンズが砕け散った。
「メインカメラが!?」
頭部が損傷しモニターの映像が大きく乱れる。
これは大きな痛手だった。
敵の姿すら捉える事が難しい。
それでも№Ⅰは退くことをしない。
何故なら先ほど宣言した通り、負ける事は許されぬのだから。
「……私は!!」
№ⅠもI.S.システムを発動させる。
もはや馴染んだ感覚。
拡張した感覚に身を浸し崩れた体勢のまま敵機に反撃を試みる。
無理な体勢故か肩部のビーム砲はアイテルの装甲を掠めるだけに留まるが、そのまま右手で殴りつけた。
当然、PS装甲に対しそんなものは通用しない。
現にイリアスの右腕は使い物にならない程に半ばからへし折れた。
「それでも十分!」
残った左手のビームライフルショーティーがアイテルに迫る。
「ッ、この敵は!」
SEEDを発動させていたセリスは直撃を受けない様に神懸かり的な反応で機体を捻ると、ビームが腰部のビームガンを抉りさらに一発が脚部を貫通した。
「この程度!! 大した事はない!」
この場における攻防でセリスはこのパイロットを脅威であると認識した。
無論、以前からの戦闘で強敵であることは十分に分かっていた。
しかし成長し、おそらくSEEDに関する何かを使う事での爆発的な力の向上。
これは自分が考えている以上の脅威となる。だから――
「「負けない!!」」
二機は相手を仕留めるべく、再度懐へと飛び込んだ。
アイテルはサーベルを構え、イリアスはスティレット投擲噴進対装甲貫入弾を抜く。
交錯する一瞬の間。
踏み込んだアイテルのビームサーベルが相手の右腕を奪い、イリアスが投擲したスティレット投擲噴進対装甲貫入弾が敵機の左手に突き刺さる。
スティレット投擲噴進対装甲貫入弾が炸裂し、その爆発によって二機は大きく吹き飛ばされた。
「うぅぅ!! 止まれ!!」
セリスはアンカーを発射しデブリに突き刺して体勢を立て直す。
「相手も吹き飛ばされた? 機体の方は……」
PS装甲故に爆発で破壊される事は無く腕自体は無事だ。
しかし装備していたブルートガングは完全に破壊され、腕の動き自体も鈍い。
おそらく伝達系に異常が出ているのだろう。
「仕留められなかったのは悔しいけど、今の内に教官の方へ」
セリスはそのままデブリに紛れ、レティシアの援護に向かった。
◇
流星のように動く一つの光がオーディンの居る戦場へと到着しようとしていた。
それはイノセントを運んできたシャトルと同型のもの。
今はルナマリアのインパルスを格納して戦場へと向かっているのである。
「もうすぐ救援信号の出ていた宙域か。え~と、シャトルの方にもデータを入力しておかないとね」
このシャトルにはインパルスの装備を運ぶシルエットグライダーの技術が応用されており自動で母艦へ帰還させたり、コントロールして戦場の外で待機させたりできる優れものだ。
その分、非常にコストがかかっている為に簡単に使い捨てる事が出来ないのが難点と言えば難点なのだが。
「さて一応この辺で待機させておきますか」
ルナマリアが入力を終え、シャトルをデブリの陰へ待機させる。
「いつでも動かせるようにはしたから、これでオッケーかな」
シャトルの背部を解放しインパルスを出撃させると戦場へ向けて一気に駆け抜ける。
このまま戦場に突入する。
そう思っていたルナマリアの前に一機のモビルスーツが姿を見せた。
「あの機体……」
浅黒い装甲に背中に見える大きな翼、頭部の特徴的なアンテナ。
それはルナマリアの搭乗するシークェルインパルスに酷似した――いや、そうではない。
アレはかつてザフトの象徴的な意味合いで建造された機体デスティニーに酷似した機体であった。
漆黒の機体のコックピットに座るリベルト・ミエルスは近づいてくるインパルスの姿に戦意を漲らせた。
上官であるヴァルターに増援に対処しろと言われたリベルトはこうして敵がくるのを待ち構えていたのだ。
「インパルスか。機体の肩慣らしには丁度良い。この『ディアドコス』の性能を確かめるにはな」
LFSA-X009 『ディアドコス』
リベルト・ミエルス専用として開発された新型モビルスーツ。
この機体はユニウス戦役で投入されたデスティニー型のデータを独自に発展させたもの。
外見上はデスティニーに酷似しているが、中身は統合軍の技術によって大幅な変更と強化が加えられている。
背中のウイングスラスターをさらに高出力化させ機体全体のスラスターも増設、同時に武装もリベルトの好みに合わせたものに変更されている。
「では行くぞ!」
背中のウイングスラスターを解放し、対艦刀を握るとインパルスに向けて斬りかかった。
放出される光と共に圧倒的な速度でインパルスに接近する。
「黒いデスティニー!?」
ルナマリアはスラスターを全開にして機体を上昇させる。
その数瞬後、今までいた空間をディアドコスからの砲撃が通過していった。
「良い反応だ!」
「くっ!」
今の砲撃の合間にインパルスに接近したリベルトは抜き放った対艦刀を袈裟懸けに振り下ろした。
その一撃を盾を使って受け止めるインパルスだが、速度の乗った一撃に耐える事が出来ず吹き飛ばされてしまった。
「痛ッ! こいつ!!」
「この程度か!」
「舐めないで!」
追撃してきたディアドコスの斬撃を無理やり機体の体勢を変える事で回避したルナマリアはビームライフルで迎撃する。
「無理やり攻撃を避けた代償だな。体勢が悪い。それでは当たらん」
インパルスの射撃体勢は攻撃回避を試みた反動からかあまりに悪い。
その証拠にディアドコスには掠める事すら出来ずに空を切る。
「そんな事は言われなくても!」
インパルスはデブリにアンカーを射出し、後方に機体を引っ張りながら再びビームライフルを発射する。
今度は先程までとは違い完璧にディアドコスを捉えていた。
「やるな」
光学残像を発生させたディアドコスの動きを正確に捉えてくる敵パイロットにリベルトは素直な称賛を述べた。
「しかし砲撃戦なら私も遅れはとらん」
背中のビームキャノンを跳ね上げ、後退するインパルスに向けて撃ち出した。
インパルスを狙った凄まじい閃光がデブリ諸共薙ぎ払わんと真っ直ぐに突き進んでくる。
「避けられない!?」
アンカーを切り離し、出来るだけデブリの中へ紛れるように入り込むと両手のビームシールドを展開して防御体勢に入る。
「ぐぅぅぅぅ!!」
シールドにビームキャノンが直撃すると、衝撃と共に強烈な圧力が機体ごと背後へ押し込んでいく。
その隙に再び距離を詰めたディアドコスがクラレントを振り下ろした。
「ッ!?」
その斬撃がインパルスの右足を裂き、ライフルを斬り飛ばした。
「止めだ!」
「まだよ!」
宙返りして背中のグラムを切り離しディアドコスへ叩きつけるとビームガンで破壊する。
「チッ」
爆発の影響を受けこの戦闘で初めてディアドコスは動きを鈍らせた。
その瞬間を見逃さずに高エネルギー収束ライフル『ノートゥング』を叩き込む。
「いけ!」
インパルスの最大武装の一撃に流石にディアドコスも防御に回る。
「目くらましのつもりか」
「その通りよ」
掌に装備されたパルマ・フィオキーナの光がインパルスの傍で浮かんでいたデブリを貫通すると破裂するように周囲に飛び散った。
「まだまだ!」
さらに二つ、三つと砕かれた残骸が二機の姿を覆い隠していく。
「小賢しいな」
ディアドコスの周りを漂うデブリを持ちうる火力で一掃する。
その光景は身を隠したルナマリアにも丸見えだった。
「そこ!」
攻撃を隙を突くようにインパルスは両手にエッケザックスを構え上方から斬りかかる。
「想像以上に出来るようだな。だが!」
ルナマリアの攻撃を予測していたリベルトは先程の攻撃で予め構えておいたライフルを上方へ向ける。
ビームならかわされてしまうだろう。
ならかわせないようにすればよい。
銃口から発射された実弾が弾けインパルスの行く手を阻んだ。
「なっ、散弾!?」
機体を襲う衝撃にルナマリアは驚愕した。
散弾など大した事はない。
少なくともPS装甲には何の影響もあるまい。
だが、それはあくまで損傷の話。
PS装甲は実弾を防御できても、衝撃までは防御できないのである。
散弾によってインパルスの速度は明らかに鈍っていた。
「動きの鈍いモビルスーツなどただの的だ」
ディアドコスもまた掌に光を集め、上方へと飛び上がった。
「不味い!?」
「落ちろ!」
すれ違う瞬間に放たれる光。
パルマ・フィオキーナの一撃がインパルスを撃ち砕くべく発射される。
「ぐぅぅああああああああ!!!」
ルナマリアはもう一方のアンカーを射出し、無理やり軌道から逃れようと試みる。
しかし間に合わない。
ならばと咄嗟にエッケザックスを交差させパルマ・フィオキーナの攻撃を受け止めた。
二刀の斬艦刀は砕かれ、そのままインパルスの肩部を貫いた。
「何!?」
射線から逃れたインパルスはそのままアンカーに引っ張られ、別方向へ逃れていく。
「本当にやるな。仕留めたと思ったんだが」
パルマ・フィオキーナは確実にインパルスのコックピットに直撃した筈だった。
にも関わらずあのパイロットはその狙いを外して見せたのである。
「このまま追撃を――ん? 駆動系に異常が出ている。まあ初陣としてはこんな物だな」
無理する必要もないとリベルトは反転し、母艦へと帰還して行った。
デブリに隠れそれを確認したルナマリアは大きく息を吐きだした。
「カハァ! ハァ、ハァ、アレもスーパーエース級じゃない。シン並みじゃないの」
少なくとも真っ向勝負では明らかにルナマリアよりも確実に上。
アレを落とすには綿密な戦と対策を立てなくては駄目だ。
「ハァ、訓練し直さないと。それより機体は……」
幾つか武装を損失、右足を斬り裂かれているがこちらは大した事はない。
問題はパルマ・フィオキーナに貫かれた左肩だ。
「……破損した左肩から下は全く動かない。でもそれ以外の部分は問題なし。長時間の戦闘は厳しいかな。とにかくオーディンに合流する方が先決よね」
残った武装と機体状態を把握すると、敵機を警戒しながらオーディンの方へ機体を向かわせる。
その時、打ち上げられた光がこの辺り一帯を照らし出した。
「……撤退信号?」
オーディンのものではあるまい。
「という事は、敵が退いた?」
状況が良く分からない。
ルナマリアはデブリを避けつつ、急いでオーディンが居る場所へと機体を向かわせた。
◇
デブリの中を進むアイテルの背中に信号弾の光が降り注ぐ。
それが敵の撤退を意味する事を悟ったセリスは胸中に湧き上がる不安を押し殺すようにヴァナディスの姿を必死に探す。
「デブリが多すぎる。教官はどこに?」
まさか鹵獲されたという事はないと思う。
レティシアと戦っていたあの敵は異常なまでの殺気を発していた。
アレで鹵獲する気があったとは思えない。
「どこに―――えっ」
周囲を見渡していたセリスの目に宇宙に浮かぶモビルスーツの姿が飛び込んでくる。
装備から見て間違いなくヴァナディスだ。
しかし、装甲からは色が抜け落ち、出撃前のメタリックグレーに戻っている。
「あ、ああ……教、官」
信じられなかった。
信じたくなかった。
目の前に浮かぶヴァナディスガンダムのコックピットは『跡形もなく抉られていた』から。
それの意味する事は一つだけ。
セリスの目から涙が零れ、頬を伝う。
「う、ううう、うあああああああ!!!」
アイテルのコックピットにセリスの慟哭が響き渡る。
それから数分後、ヴァナディスを回収したセリスの口からレティシア・ルティエンスの戦死がオーディンに伝えられた。
◇
機体の調整を終えたマユ・アスカはヴァルハラの廊下を走っていた。
向かっている場所は軍用の港。
そこには帰還してきたフォルセティが接舷されている。
マユはそこに向かって走っていた。
「ごめんなさい。通してください」
クルーらしい人達に謝りながら、艦内に駆けこむと目的の人物を探して通路を走る。
そしてようやく見つけたその人物の背中に声を掛けた。
「アストさん!」
「……マユか。どうした?」
部屋に入ろうとしていたアストの顔を見た瞬間、今まで耐えていたマユの目に涙が浮かぶ。
ずっとアストを見ていたマユには分かる。
一見冷静なその表情は彼が辛い思いを耐えている時の顔だから。
感情が抑えられず、マユはアストの胸に飛び込んだ。
「マユ」
「アストさん、レティシアさんがぁ!」
「そうか。マユも、聞いたのか」
泣きじゃくるマユの頭をアストはゆっくりと撫でる。
彼女にとってレティシアはヤキン・ドゥーエ戦役からずっと一緒に戦ってきた仲間であり、姉のような存在。
マユには相当ショックだっただろう。
「ご、ごめん、なさい。私が、アス、トさんを慰め、ないといけ、ないのに」
「ありがとう、マユ。……俺は、大丈夫だ」
「アストさん」
マユを少しでも安心させたくてアストは笑みを浮かべた。
でもそれが余計に悲しく見えるのは何故だろうか?
そう考えてすぐに思い至る。
マユはアストとはヤキン・ドゥーエ戦役からの付き合いだ。
あの激しい戦いの中でも、そして今までもマユはアストの涙を見た事が一度もない。
レティシアの死を聞かされて尚、アストは悲しそうにはしていても涙は流していなかった。
もしかすると彼は泣けないのかもしれない。
彼の過去は聞いた。
大切な者を目の前で失い、そして家族からも『生まれてこなければ良かったのだ』と突き放された。
幼い頃から大切な者を失い過ぎたアストの心はもう――
「うぅぅ、アストさん、レティシアさん」
そのあまりの悲しさにマユの涙は止まらず、何時までも流れ出てきた。
「マユ、ありがとう」
アストはマユの頭を撫で続ける。
涙を流す彼女の声にアストはようやく実感が湧いてきた。
――レティシアは死んでしまったのだと。
その胸中には塞ぎようもない穴が空いたような、そんな空虚な想いに満ちていた。
この感覚には覚えがある。
友を失った時。
家族が家族で無くなった時。
何か大切な物を失った時に感じた感覚だ。
きっと死ぬまでこの穴が塞がる事は無い。
それでも――
「……俺は戦うよ」
アストは窓から見える星に目を向けた。
手の届かないその輝きこそ失ってしまった光だ。
それに誓うように改めて覚悟を決める。
アストはもう一度だけその光に手を伸ばすと、力強く拳を握った。
機体紹介2更新しました。