機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第36話 乾坤一擲

 

 

 

 

 同盟の宇宙ステーション『アメノミハシラ』の会議場は息の詰まる緊張感に満ちていた。

 調和同盟のトップがそれぞれ半円形の机に座り、中央のモニターを注視している。

 映し出されているのはこれから実行される作戦の概要。

 今、提示されている作戦こそ戦争の結末を、いや同盟の行く末を決めると言っても過言ではない。

 

 「―――以上が今回の作戦となります」

 

 テレサ・アルミラ大佐の説明を聞き終えたトップ達の顔は一様に暗い。

 示された敵軍の脅威と自軍の置かれている立場の危うさ。

 何よりもこの作戦のリスクの高さが高官達の表情を暗くさせていた。

 同盟の目的はあくまでも保護した停戦派議員を月本国へと送り届ける事。

 そしてテタルトスと停戦を行い、統合軍の動きを封じ込める。

 統合軍と停戦に至れるかは交渉次第だが、今のように一触即発という状況からは脱する事ができるだろう。

 そんな今後を左右する重要な作戦の概要。

 それは――

 

 「アポロン、アルテミス、二つの要塞を同時に攻撃とは……」

 

 二つの要塞に対し同時に攻撃を仕掛けるというものだった。

 数で劣る同盟が戦力を分散させざる得ない作戦を立案したのには当然理由がある。

 まず最終的な目的である議員達を月へ送り届けるにはテタルトス防衛網の隙を突いて侵入しなくてはいけない。

 だが、その侵入経路のすぐ傍、月の境界線付近に存在しているのがアポロン要塞だ。

 普通にテタルトス防衛網に突入しようとしても、その前にアポロンにより捕捉されてしまう。

 だからまずはアポロンの注意を引き付ける必要があった。 

 そしてもう一つの理由、それがアルテミス要塞に設置されたレクイエムの排除である。

 統合軍が接収し、改修しているこの砲台の射程はアポロン要塞にも届く。

 同盟が全戦力をアポロンに振り向けようにも、背後からはレクイエムの砲塔が狙いを定めているのだ。

 

 「アポロンの方へ集中すれば、レクイエムの砲塔が狙っている。だが先にレクイエムを落とそうにも、今度はアポロンの兵力が黙っていないか」

 

 「匿名で届いた情報によればテタルトスと統合軍が極秘に会談を行い、月は統合の動きに関知しないという約定を交わしたそうです」

 

 「そんな情報が当てになるのか?」

 

 「勿論、鵜呑みにせずに情報の裏付けを進めています。しかし提供された情報と敵の動きや部隊の配置は一致しています」

 

 「……そんな高度な情報を一体誰が?」

 

 湧き上がった疑問にざわつく中、周囲を落ち着かせるようにアイラが声を発した。

 

 「確かにそれも重要ですが、それは後で。それよりも問題があります。戦力不足です」

 

 中立同盟は調和同盟と名を改め改革派及びプラントとも協力関係になっている。

 一見して戦力が増強されたようにも見えるが、そう簡単な話ではない。

 地上の防衛戦力に加え、宇宙の拠点であるヴァルハラ、アメノミハシラをガラ空きにする訳にもいかないのだ。  

 

 「それについては少し提案があります。レクイエム攻略戦を独立部隊『グラオ・イーリス』に任せたい」

 

 アイラの対面に座っていたレヴァンの提案に誰しも顔を見合わせた。

 

 「『グラオ・イーリス』は確かに優秀な人材もそろっていますが、流石に彼らだけでは……」

 

 「勿論、彼らだけに任せるつもりはありません。我々も特務隊を派遣します」

 

 するとレヴァンの背後に立っていたハイネが一歩前に出る。

 

 「割り込む形で失礼します。ザフト特務隊隊長を任されています、ハイネ・ヴェステンフルスです。まずアルテミスに対する攻撃についてですが、あくまでもレクイエムの破壊が目的であり、要塞攻略をする訳ではありません」

 

 モニターが点灯し、現在のアルテミス要塞の情報が提示された。

 

 「データによれば統合軍はレクイエムの構造的欠陥を補うためにアルテミスの後部に岩片を使って新たに施設を増設しています。おそらくここがエネルギープラントであると考えられるます。なら此処を破壊してしまえば、レクイエムは撃てなくなる」

 

 「当然、それも統合軍は把握しているでしょう?」

 

 「はい。統合軍はそこに守備を厚くしてくる。だから我々は砲塔を狙います」

 

 画面に映し出されたアルテミスの前方にグラオ・イーリスの部隊、そして後方からザフトが仕掛ける構図が表示された。

 

 「両面からの砲撃で敵を牽制しながらモビルスーツ戦に持ち込み、注意を引き付けた所で伏せていた別動隊をアルテミス内部に突入させ、砲塔を破壊する。破壊してしまえば長居する必要はありませんから、そのまま離脱します」

 

 「これならアポロン方面に戦力を振り分けられる。離脱した部隊も余力が残っているなら、そのままアポロン攻略の援護に回ってもいいか」

 

 「はい。勿論、これは作戦が上手くいった際の手順ですし、統合軍もそこまで甘くはないでしょう。しかし現在の戦力を均等に振り分けた作戦となると――」

 

 「よりリスクが高まる」

 

 「ええ。特にアポロン要塞では。幸い『グラオ・イーリス』の実力は本物です。ザフトから出向した者も多く、彼らとならば現場での急な連携も取りやすい」

 

 「なるほど」

 

 確かにこれならば本命であるアポロン要塞の方へ戦力を集中できる。

 その分『グラオ・イーリス』の方にかなり負担を掛けてしまう事にはなるが、此ればかりは仕方がない。

 アイラは隣に座るカガリの顔を見ると険しい表情のまま頷いた。 

 

 「分かりました。それで行きましょう」

 

 一同に反論はない。

 

 全員の一致を確認し、作戦会議は終了する。

 

 同盟の決死の作戦が始まろうとしていた。

 

 

 

 上層部の方針が決定した同盟の動きは素早かった。

 あらかじめ用意していた艦隊にモビルスーツを搭載し、すぐさま出撃準備を整えていく。

 そんな喧噪の中でシンは渋い顔でセリスとマユを見つめていた。

 

 「そんな顔しないでよ、シン。私もマユちゃんも大丈夫」

 

 「そうですよ。兄さんは自分の任務に集中してください」

 

 「でもなぁ。やっぱり心配だし」

 

 今回、マユとセリスはレクイエム破壊へ向かい、シンはアポロン要塞の方に参加する事になっていた。 

 向かう場所は二つとも非常に危険な戦場である。

 命令とはいえ大切な恋人と妹と別行動を取る事がシンには心配で気が気ではない。

 

 「アポロン要塞の方は激戦区になります。兄さんの力が必要なんですから」 

  

 「そうだよ。心配なのはこっちだから。キラさんとかミナト少尉達が一緒とはいえ、無茶しないようにね!」

 

 「ぐっ、わ、分かってるって」

 

 逆に心配されてしまったシンは罰が悪そうに頭を掻くと真剣な顔で二人に告げた。

 

 「とにかく二人共、絶対に死ぬなよ」

 

 「もちろん。シンの方こそ」

 

 「他の人達をお願いします」

 

 「ああ」

 

 シン達が話をしている近くでは、キラがモビルスーツの調整を行っていた。

 

 「外部装甲アドヴァンスアーマー異常なし、各パラメータ正常。『リベルテ・ストライカー』、調整完了」

 

 「ありがとうございます、キラさん。本来、機体調整は私がやるべきなのに」

 

 「構わないよ。この機体については僕が一番詳しいからね」

 

 キラはかつての愛機の面影を持つ機体に笑みを浮かべる。

 

 ADT-X01b1 『リベルテ・ストライクガンダム』

 

 キラ・ヤマトの破壊されたヴァルトライテのパーツをストライクに移植した機体。

 ストライクがベースになっているとはいえ、その外見と中身はほぼ別物になっており、性能も特殊機にも劣らない。

 専用アドヴァンスアーマーを装備し、背中にも専用のストライカーパックである『リベルテ・ストライカー』を装着している。

 このストライカーは『デスティニーシルエット』のデータを参考に開発されており、全開加速時には光の翼が発生、幻惑機能こそないものの、若干の防御効果を持つ光を放出する。

 

 「こりゃ、ストライクも化けたな。俺が乗ってた奴とは別物だ」

 

 頭を掻きながらムウがリベルテ・ストライクを見上げていた。

 

 「ムウさん。アカツキは良いんですか?」

 

 「ああ。何時でも使えるように調整だけはしてたらしいからな。チェックももう済んでる」

 

 ムウは今回、フォルセティと共にアルテミス方面へ向かう事になっている。

 アポロン要塞攻撃の指揮を執るように要請されていたのだが、ある理由からアルテミス方面へ回してもらっていた。

 

 「ムウさん、レクイエム攻略に志願したのは……」

 

 「ああ。今度こそクルーゼと決着をつけないとな」

 

 ムウには分かっていた。

 決戦前に都合よく届いた精度の高い情報。

 アレを送りつけてきたのは間違いなくクルーゼだと。

 

 「野郎、あんな情報を送ってきたのも戦闘をより激しくする為だろうさ。好きにさせるかよ」

 

 「気をつけてください。何を狙っているか分かりません」

 

 「ああ。でも気をつけるのはお前さんもだぜ、キラ」

 

 「分かってます」

 

 自分を殺す為に生まれた男――ユリウス・ヴァリス。

 アストでも相討ちに持っていくのがやっとだった最強の敵であり、乗り越えるべき壁。

 もう覚悟は決めている。

 

 「無茶するなよ」

 

 ポンと肩を叩き、ムウはアカツキの方へ歩いていく。

 

 「ムウさんも。ニーナ、君も無理だけはしないようにね」

 

 「お気遣いありがとうございます。無理するつもりはありません。この後にも差し支えますから」

 

 ニーナのこの後という言葉にキラは表情を固くする。

 そう、この戦いを終えた後にもやるべき事があるのだ。

 負ける訳にはいかない。

 そんなキラの顔を見ながら、ニーナは少し意地悪そうに笑みを浮かべた。

 

 「キラさんのお世話をするのが私の楽しみであり、役目ですから。私は今後も貴方について行きます」

 

 「あ、ありがとう、ニーナ」

 

 ニーナの献身ぶりにややたじろぎながらも、キラはどうにか笑顔で返した。

 

 「随分、楽しそうなお話ですわね」

 

 背後から聞こえた声にキラは思わず竦み上がった。

 先ほどの意地悪な笑みの理由を察しキラは内心ため息をつく。

 伝わる怒気をどう静めようかと頭を抱えながら、引きつった表情のままキラはゆっくりと振り返った。

 

 

 

 

 各艦の準備が進む中、アストは何故ついてきたルナマリアとオーディンの艦長室に呼び出されていた。

 理由はテレサの顔を見れば何となく想像できる。

 こう見えて家族だ。

 暮らした期間は短くても、互いがどういう人間かは理解している。

 

 「ルティエンスの件は済まなかった。すべては私の采配ミス。責任は私にある」

 

 「それは違いますよ。戦場なのだから仕方ありません」

 

 テレサはアストの顔を見つめる。

 

 「ハァ、お前には罵倒する権利くらいはあるんだぞ」

 

 「昔、貴方が教えくれた事ですよ。『どんな理不尽な事だろうと現実は現実だ。泣こうが喚こうが何も変わらん。なら今何ができるか、何をすべきかその頭で考えて動け』ってね」

 

 「懐かしい事を」

 

 頬を緩めるテレサにルナマリアは何か聞きたそうに首を傾げた。

 

 「アレンとアルミラ艦長は確か」

 

 「ああ。私がこいつの保護者だ」

 

 「母――い、いや、あ、姉代わり見たいなものかな、アハハ」

 

 母親と言いかけた途端にテレサから発せられた殺気に冷や汗を掻きながら、慌てて訂正する。

 テレサは孤児同然になったアストを引き取ってくれた恩人である。

 しかし昔から年齢に関する話題をすると酷い目にあわされた。

 

 「少しデリカシーが足りないです、アレン」 

 

 「分かるか?」

 

 「ええ。大体何時もこんなものですから」

 

 ルナマリア、幾らなんでもそれは酷くないだろうか?

 アストはそんな事を思いながら二人からのジト目をかわすように「ゴホン!」とせき込む。

 するとテレサが呆れた様子で頭に手を置いた。

 

 「全く、思ったよりは元気そうで安心した」

 

 どうやら彼女もアストの事を気にしていたらしい。

 ましてや現場の指揮を執っていたのがテレサであるなら、誰より責任を感じていたに違いない。

 

 「だが、女の扱いはまだまだだな。そんなんじゃ私も安心して死ねんぞ」

 

 「アルミラ大佐、それは冗談にしても」

 

 アストの非難の籠った視線にテレサは苦笑にながら手を振る。

 

 「勘違いするな。私とて死ぬ気はないさ。しかし戦場である限り絶対はない。それは身に染みて分かっているだろう?」

 

 「それは……」

 

 テレサはアポロンに向かい、アストはアルテミスに行く事になる。

 もしもの場合、これが今生の別れになる可能性もあるのだ。

 レティシアのように。

 

 「だからこそ、まあ、何だ。お前の顔を見ておこうかと思ってな」

 

 それがアストを呼び出した理由らしい。

 確かにそういう事もあるのかもしれない。

 だが――

 

 「死ぬつもりなんてないんでしょう? 指揮官である貴方が死ぬって事は部隊の全滅を意味する。貴方はそれをさせない」

 

 「買い被りだよ。今回も多くの兵を死なせてしまった。無論、全力は尽くすがな。とにかく呼びつけたのはお前に釘を刺す為だよ」

 

 「俺ってそこまで信用がないですかね」

 

 「無いな」

 

 にべもなく断言されてしまった。

 

 「良いな? 無茶だけはするなよ」

 

 「分かってますよ」

 

 「なら、フォルセティに戻れ」

 

 アストはテレサの気遣いに感謝しながら、敬礼すると部屋を出た。

 ルナマリアもそれに続こうとするが、その前に呼び止められた。

 

 「ルナマリア、だったな?」

 

 「あ、はい」

 

 「……アストを頼む。見ての通りの鉄砲玉だからな」

 

 頭を下げるテレサ。

 伝わるのは家族を案じる想い。

 それを感じ取ったルナマリアはそれを受け止めるように敬礼する。

 

 「了解です! 私にお任せください!」

 

 「頼む」

 

 多くは語らない。

 ただ男の身を案じる想いは共通。

 その祈りを託し、そして託され、テレサとルナマリアは敬礼をかわし合った。

 

 

 

 

 統合軍によって陥落したアルテミス要塞は以前とは違う外見へと変化させていた。

 防御力強化の為に接合された岩片により外見が一回り大きくなり、後方部にはエネルギープラントが追加。

 レクイエム発射に必要なエネルギー供給の問題も解決している。

 ユースティアに乗り、外からアルテミスを眺めていたアスランはふと昔の事を思い出した。

 アレはヘリオポリスから脱出したアークエンジェルを追撃した時の事。

 アークエンジェルはアルテミスに向かう進路を取り、それを阻むためにアスランは奪取したばかりの機体で出撃したのだ。

 

 「……まさか『足つき』が向かおうとした要塞を自軍の拠点にする日が来るとはな」

 

 不思議な気分になりながら笑みを浮かべていると、同時に脳裏に浮かんできた機体の姿に一気に頭が冷えていく。

 

 「そういえば奴と――イレイズと本格的に戦闘したのもその時だったな」

 

 せめてあの時に奴を落としておけば、仲間もそして彼女も失う事はなかったのかもしれない。

 

 「……アスト・サガミ」

 

 思い浮かべる宿敵の姿にアスランの拳に力が入っていく。

 どこか感情的になっている事は自覚しているし、原因も分かっていた。

 それはヴァルターから『レティシア・ルティエンスの戦死』を聞かされたからだ。

 アスラン自身、レティシアの事は吹っ切れている。

 これは戦争だ。

 誰かの手で倒される事もあるだろうし、邪魔ならばこの手で倒そうとも思っていた。

 それでも――

 

 「……くそ!」

 

 守り切れなかった宿敵に対してどうにもならない怒りの感情が湧き上がってくるのだ。

   

 「報告にあった白いガンダムは奴に間違いない。ならようやく対等の条件で戦える。今度こそ決着をつけてやるぞ、アスト・サガミ」 

 

 《大佐、アポロン要塞から連絡が入っています》

 

 「分かった。すぐに戻る」

 

 アスランは気分を落ち着けるように息を吐き出すと交代の部隊と入れ替わるようにして要塞へと帰還した。

 

 

 

 

 アルテミス要塞は先の戦闘で破壊された内部を含め、復旧が急ピッチで行われた。

 そのおかげか以前よりもより堅牢な要塞として生まれ変わったと言っても過言ではないだろう。

 問題があるとすればアルテミスの傘が部分的にしか展開できなくなった点が挙げられる。

 これは時間が無かった為にレクイエムの方へ優先的にエネルギーを回すように修復が施された為だ。

 無論、重要部分には展開できるように配慮されているし、増設された岩片はそれを補う防御力強化の意味も含まれている。

 そんな生まれ変わったアルテミス要塞を母艦から眺めていたラディスはテーブルを挟んで対面に座るミレイアに声を掛けた。

 

 「どうしたんだ、ミレイア?」

 

 「何か、大佐が凄く不機嫌っていうか、イライラしてる感じなのよ。ラディス、何か知らない?」

 

 「……俺が知るわけがないだろう」

 

 ラディスは面白くなさそうに鼻を鳴らす。

 此処最近常にミレイアの話題はアスランの事ばかりだ。

 無自覚とはいえミレイアに好意を抱いているラディスが面白くないと思うのも当然だった。

 

 「ふん、どうせ女の事でも考えてたんだろ」

 

 良くないとは思いつつ、ラディスはついつい余計な事を言ってしまう。

 案の定、ミレイアの機嫌は急降下、明らかに悪くなった。

 

 「何それ。大佐はそんな人じゃない」

 

 「……ミレイアは何も知らないんだ。これプラントに居た連中には有名な話なんだけどさ、大佐には昔、婚約者がいたんだよ。ラクス・クラインっていう」

 

 「クラインって、ティア・クラインと同じ」

 

 「そうだ。希望の歌姫ティア・クラインの姉だよ。ま、その人は事故で死んだらしいんだけどさ、実は大佐はそのラクス・クラインの護衛役の女とも付き合ってたっていう話があるんだよ」

 

 「何を根拠に……」

 

 「言ったろ、有名な話だって。ヤキン・ドゥーエ戦役中とかその女の名前を叫んでるのを聞いてる奴がいるんだよ。ディノ中尉の事だってどこまで本気だったんだか」

 

 「やめて!」

  

 ミレイアの叫びに近くにいた兵士達も何事かと振り返る。

 だが渦中の二人はそれに気がつかない。

 

 「俺が言いたいのはさ、大佐はミレイアの思っているような人じゃないって事なんだよ。だから」

 

 「ふざけないで! そんなのは大佐に嫉妬した連中が流したただの噂でしょ!! そんなものに振り回されて!」

 

 足音荒くその場から立ち去るミレイアの背中を見ながらラディスは拳を握りしめた。

 ミレイアが見てきたアスランの働きはまさに英雄。

 ラディスが何を言おうとも届かないのかもしれない。

 

 「……戦果だ。大佐を上回る戦果を上げれば、ミレイアの目を覚める筈だ」

 

 湧き上がる自分の感情に未だ気が付く事無く、ラディスは戦意を高めていく。

 その時、見計らったように警報が鳴り響いた。

 

 「これは!?」

 

 《哨戒機が接近中の艦隊を補足。調和同盟軍と思われる。各員はすぐに戦闘態勢に移行せよ》

 

 響く艦内放送に呆然としていたラディスの口元が歪んでいく。

 

 「ハ、ハハハ! このタイミングで来てくれるなんてな!!」

 

 此処で戦果を上げれば、ミレイアの目も覚める筈だ。

 

 「同盟如き、俺が全機叩き落としてやる!」

 

 ラディスは笑みを張り付けたまま、格納庫に向かって走り出した。

 

 今までにない闘志を燃やしながら。

 

   

 

 

 テタルトスの軍事ステーション『イクシオン』に接舷されているのはテンペスターズの母艦であるアリスタルコスだった。

  

 「調子はいいようだな」

 

 外で行われているテンペスタ―ズの演習を見ているのはテタルトスの制服に袖を通したヴィルフリートだ。

 モニターでは三機のモビルスーツが見事な連携で配置してあったデブリを破壊する様子が映し出されていた。

 

 「誤差もほぼ無し。大したものだな」

 

 一度は統合軍に所属していた筈のこの戦艦が何故テタルトスに居るのか?

 それはこの艦の指揮を預かるヴィルフリート・クアドラードと共に統合軍からテタルトスに帰還したからである。

 元々ヴィルフリートは統合軍に志願して参加していた訳ではない。

 怪我を癒している間に勝手に所属させられていただけ。

 兄であるファウスト・ヴェルンシュタインのやり方にも賛同できなかった。

 元々兄弟仲も良くはないし、付き合ってやる義理も無い。

 

 「クアドラード少佐、ヴァリス大佐が格納庫にお越しになられたようです」

 

 「分かった」

 

 格納庫に降りたヴィルフリートを待っていたのは、ユリウスとモビルスーツハンガーに立つ新型機だった。

 

 「ヴァリス大佐、これが」

 

 「ああ。これが最新鋭モビルスーツ『ジンⅢ』だ」

 

 LFAー09 『ジンⅢ』

 

 『ジンⅢ』は紛れも無くテタルトスの最新型モビルスーツである。

 コンバット装備には対応していないが、背中に設置されたウイングスラスターと各部に設置された姿勢制御バーニアによって高い加速性と機動性を確保。

 さらに洗練されたOSと改良されたコックピットブロックによってパイロットを選ぶ事無く操縦可能になっている。

 本来最新機として配備される予定だった『バウ』が統合軍に流れてしまった為に急遽、極秘で開発された経緯があり、徹底した情報規制をしていた為に統合軍ですらその存在を知らない。

 カタログスペックを確認したが、性能は最新機である『バウ』すら上回っているだろう。

 

 「これが此処にあるという事は――」

 

 「お前の予想通りだ、ヴィルフリート。同盟が動いたと連絡が入った」

 

 その知らせに知らず知らずの内にヴィルフリートは拳を握りしめる。

 

 「……万が一に備え、我々も出撃する。アリスタルコスにも発進準備をさせろ」

 

 「了解!!」

 

 格納庫を去るユリウスの背中を見つめながら、ヴィルフリートは改めて決意を固める。

 

 「……相手が誰であろうとも俺はただ全力で戦うだけだ。堂々と真正面からな」

 

 それこそが愚かだった過去の自分に打ち勝ち、失った同胞に報いる術だと信じて。

 

 ヴィルフリートは自分の機体へと歩き出した。

 

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