機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第40話 ユリウス出撃

 

 

 

 

 アポロンの戦場は大きな転換点を迎えていた。

 ほぼ拮抗した状態で戦っていた統合軍と同盟軍に対するテタルトスの介入。

 彼らの参戦によって戦場はさらなる混戦へと突入した。

 それに一番衝撃を受けたのはファウストであった。

 

 「テタルトスの介入だと!?」

 

 「はい! プレイアデス級数隻の接近を確認しています。その後方からアンドロメダ級」

 

 「こうも簡単に協定を破棄してくるとは……」

 

 ファウストも数機のモビルスーツがテタルトスの防衛圏内に入り込んだ事は確認している。

 すぐにモビルスーツは撤退させ、テタルトス側には事故であると説明したのだが―――

 

 「こちらの言い分も聞かずに……初めから『狙っていた』と考えるべきか」

 

 現状、数はこちらが有利。

 しかし例え数で勝ろうとも、同盟とテタルトスを同時に相手にしては味方の被害は甚大なものになる。

 

 「……私の機体を用意しろ。前線で指揮を執る」

 

 「いいのか?」

 

 いつの間にか傍らに立っていたイスラフィールの問いかけにファウストは視線だけを向ける。

 

 「先程も言った筈だ。躊躇うつもりはないとな」

 

 「……お前の幸運を祈ろう」

 

 ファウストは自らの機体が待つ格納庫に向かう。

 そこには新型機が出撃の時を待つように佇んでいた。

 

 LFA-X07b 『バウ・バジリスク』

 

 バウをファウスト専用に強化、改修を施した機体。

 全身のスラスターを増設し、高機動バーニアユニットを装着した。

 武装もエンジン出力向上させた事でさらなる火力を確保し、高水準の性能を持つ機体へ仕上がっている。

  

 「こういう事態は避けたかったが……仕方ない」

 

 パイロットスーツを身につけ、バウのコックピットへ乗り込む。

 

 「ユリウス・ヴァリス……貴様相手に戦う事も想定済み。勝つのは私だ! ファウスト・ヴェルンシュタイン、出るぞ!」

 

 ファウストは新たな機体を駆り混迷する戦場は飛び出した。

 

◇ 

 

 

 敵味方が激突する戦場で一際目立つ二機のモビルスーツが居た。

 似通った形状を持ち、似通った武装を使う紅き翼の機体と黒い翼を持つ機体。

 翼からは光を発し、激突する剣檄はどれも必殺。

 巻き込まれたなら命はないと知っているが故に誰も彼らには近づかず、遠目に見ているだけだ。

 

 運命に選ばれた二人の戦いを。

 

 リベラシオンデスティニーとディアドコスの激突を。

 

 「ハアア!!」

 

 「オオオ!!」

 

 光の尾を引きながら二機は周囲を回り、離脱と激突を繰り返す。

 

 「アンタとは此処で決着をつけてやる!」

 

 対艦刀を片手に突撃してくる黒いデスティニーをシンは鋭い視線で睨みつけた。

 正直な話、リベルト・ミエルスの事をそう知っている訳ではない。

 だが、こいつには借りがあった。

 ミュンヘンでの借り、そしてセリスに関する借り。

 それを此処で返すのだ。

 

 「相変わらず、接近戦一辺倒か?」

 

 デスティニーの動きを阻害するように発射された散弾砲。

 細かい弾が加速するデスティニーに炸裂しコックピットを激しく揺らす。

 

 「ぐっ」

 

 「ここ!」

 

 明らかに動きが鈍った瞬間を狙ったリベルトの斬撃。

 対艦刀の強烈な一撃が受け止めたデスティニーを大きく吹き飛ばした。

 

 「ぐ、くそ、こいつ!」

 

 リベルトの猛攻を捌きながらシンは毒づいた。

 ハッキリ言ってやりにくい。

 それが偽らざるシンの本音だ。

 ミュンヘンで戦った時と同じ。

 シンの動きを研究し尽くし、対策を練った戦い方。

 鬱陶しい事この上ない。

 

 「どうした、シン・アスカ? その程度か!!」

 

 「うるさい!」

 

 怒鳴り返しながら敵の射撃を躱し、負けじとビームライフルを撃ち込んだ。

 しかしディアドコスはあっさりとビームを振り切ると反撃にビームキャノンを発射する。

 

 「この!」

 

 シンは咄嗟に機体を退き、ビームを回避する。

 

 「射撃も接近戦も隙がない!」

 

 敵の砲撃を回避しながら、自分の間合いである接近戦に持ち込む為に斬艦刀を振りかぶる。

 

 「ハァ!」

 

 しかし上段から振り下ろされた一撃はディアドコスの構えた盾によって捌かれてしまう。

 上手い。

 盾を使い機体への負荷を最小限で済ませた技量は並みじゃない。

     

 「良いのか? この距離、お前だけの間合いじゃないぞ!」

 

 ディアドコスの右掌が光を発し、デスティニーに向けて突き出される。

 掌に設置されたビーム砲『パルマ・フィオキーナ』だ。

 

 「舐めるな!」

 

 シンもまた左掌を突き出した。

 シールドによる防御が間に合わないならば、正面から迎え撃つのみ。

 

 二機の掌が激突し、発せられた光が交わる。

 

 普通に考えるならば一瞬早くパルマ・フィオキーナを発動させたディアドコスの勝利だ。

 機体を操るリベルトでさえそう考えていた。

 しかし予想に反し、デスティニーは無傷だった。

 

 「何かの仕掛けか……ん?」

 

 訝しむリベルトにデスティニーの光る掌が目に入る。

 

 「あれは……そうか。掌にビームシールドを展開できるのか」

 

 シンが使ったのはパルマ・スクードと呼ばれるパルマ・アルマの使用法の一つだ。

 掌全体にビームフィールドの膜を張り、あらゆる攻撃を弾く事が出来るのだ。

 ただしパルマ・スクードを使用している間、ビームシールドが使えないという欠点がある。

  

 「易々とはいかないという事か」

 

 「そう簡単にやられるかよ!」

 

 ディアドコスのライフルから伸びるロングビームサーベルを潜り抜けたデスティニーは斬艦刀を袈裟懸けに振るう。

 

 「デュランダルが選んだだけはある。だからこそ俺は貴様を、デスティニーを討たねばならない!」

 

 腰から発射されたビーム砲が斬艦刀の軌道をずらし、同時に放ったパルマ・フィオキーナが刀身を掴み砕いた。

 

 「ぐっ、何なんだよ!?」

 

 リベルトの声色からシンは薄ら寒いものを感じ取っていた。

 明らかに普通ではない。  

 冷静な中にも狂気染みた執着心が伝わってくるのだ。

 

 「前に言った筈だ。俺はお前と同じ立場の人間だと」

 

 「意味が分かんないんだよ! そんなものに付き合ってられるか!」

 

 折れた斬艦刀を投げ捨て、高エネルギー収束ライフルを発射する。

 強力なビームの一射を前にリベルトは機体を横に逸らすとビームはディアドコスを掠め、背後へ抜けていった。

 

 「あの位置で避けた!?」

 

 「この程度で! それがデュランダルに選ばれた人間の力か!!」

 

 「本当に! 何を言ってるんだ、アンタは!!」 

   

 「選ばれた人間が居るならば、選ばれなかった人間も居るという事」

 

 「え?」

 

 熱の籠っていた口調から一転、凍えるような冷たさを持った言葉にシンの背中に寒気が走る。

 殺意の乗った対艦刀をビームシールドで止めながら、ビームサーベルを抜き放つ。

 

 「本来、デスティニーを与えられるのは私だったと言っている」

 

 「何?」 

 

 ビームサーベルでディアドコスを引き離すデスティニー。

 しかしリベルトは再び距離を詰め、対艦刀を振り抜いてきた。

 

 「私こそ『デスティニープラン』によってデュランダルに選ばれた最初の人間だと言っているんだ!」

 

 「な!?」

 

 対艦刀の斬撃を防いだ振動に呻きながらシンの頭は鈍器で殴られたような衝撃を受けた。

 

 「シン・アスカ、お前が現れるまではな!」

 

 立て続けにリベルトの真実は紡がれていく。

 

 『デスティニープラン』 

 

 プラント前議長ギルバート・デュランダルが提唱した人類救済策。

 ユニウス戦役終盤に発表されたこの計画は、誰も知らないずっと以前から水面下で進められていた。

 

 例えば必要な施設の確保。

 

 例えば各陣営への諜報員の拡散。

 

 そして最も重要と言える―――計画の中核を為す、人員の確保。

 

 リベルト・ミエルスはデュランダルが自らが選んだパイロットであり、デスティニープランによって最初に選定された者だった。

 最初に話を聞かされた時も面食らったものだ。

 人類の救済。

 現状の変革を謳われても、まだ幼かった小僧にはピンとこなかった。

 それでも、聞かされた理想が崇高なものだという事は未熟な彼にも理解できた。

 だからリベルトはデュランダルの手を取ったのだ。

 やがて正式にザフトへ入隊し、裏ではデュランダルに協力しながら過ごす日々は忙しくはあったが、満たされていた。

 ヤキン・ドゥーエ戦役が勃発してもそれは変わらない。

 むしろ実戦を経て余計にデュランダルの考えに傾倒した。

 この世界を変えねばならないと。

 それからは目的を達成する為に――デュランダルからの期待に応える為に努力を続け自らを高め続けた。

 

 だが、彼の思う未来は訪れなかった。

 

 リベルトは突然計画の中核から外され、当時プラントに存在していたブランデル派を探る諜報員に回されてしまったのだ。

 何故?

 自分はミスもしていないし、順調に功績も上げていた筈だ。

 当然、納得できる筈もなくデュランダルへ問い詰めた。 

 自分はデスティニープランの中核を担っていた筈であると。

 

 だが返ってきた言葉は―――

 

 「済まないね、リベルト。君以上の適格者が見つかったのだよ」

 

 適格者の名はシン・アスカ。

 

 彼の予備として配置されたのはジェイル・オールディス。

 

 リベルトはもう必要ないとそう言われたも同然だった。

 

 「だが落胆する事はない。ただ君よりも彼らが優れている、それだけの事だ。君は君に与えられた役割をこなすだけでいい」 

 

 デュランダルが言うならその通りなのだろう。

 

 確かにデスティニープランとはそういうものだ。

 

 でも、リベルトは納得など欠片もできなかった。 

 

 努力してきたのだ。

 

 期待に応えようと脇目も振らず必死に駆け抜けてきた。 

 

 それはどうなる?

 

 無駄だったと?

 

 自分よりも選ばれた奴が優れているから諦めろと?

 

 そんな一言で納得しろと?

 

 出来る筈がなかった。

 

 その時だろう。

 リベルトの抱えてきた想い。

 信頼が憎しみに変わったのは。

 無条件にデュランダルを信じていた自分を恥じ、任務は最低限こなしながら、必ずデスティニープランを阻止すると決めた。

 反抗を企てた者にも密かに手を貸した。

 そしてデュランダルは倒れ、デスティニープランは頓挫したのだ。 

 

 「あの時ほど爽快な気分になった事は無い。奴も自分の選んだ人間によって倒されたならば本望だろうよ」

 

 「……アンタは」

 

 「だが、まだ残っている。お前達だ、シン・アスカ。お前とデスティニー、そしてジェイル・オールディス。それら奴の残した残滓すべてを消し去る事で私は奴の呪縛からようやく解放される!」

 

 「ッ!?」

 

 リベルトの怒気に応えるようにディアドコスの翼が解放される。

 光の翼を放出しながら速度を上げた斬撃がデスティニーに襲い掛かった。   

 

 「お前を倒す、シン・アスカ!」

 

 リベルトの言いたい事は理解できた。

 借り云々以前にリベルトはシンが倒さなくてはならない相手だと再認識する。

 何故ならば彼はシンの影であり、デスティニープランの陰だったから。

 同情できる部分もある。

 でも、だからと言ってやられる訳にはいかない。

 

 「ふざけるな! そんな勝手な理屈で殺されてたまるものか!」

 

 上段からの一撃を躱し、レール砲を叩き込む。

 

 「ぐっ、消えろ、デュランダルの亡霊め!」

 

 「そんな事を言いながら、結局議長に一番こだわってるのはアンタだろ!」 

 

 至近距離で炸裂したレール砲の爆発が強制的に二機を引き離す。

 それでも両者は退くことをせずに前に出る。

 

 「何も知らぬまま選ばれただけの人形が! 知った風な事を!!」

 

 ディアドコスの斬撃がデスティニーを袈裟懸けに斬り裂いた。

 

 「ッ!? ……こだわってないなら、アンタは何でその機体に乗っている! 黒いデスティニーに!」

 

 傷を負いながらシンも負けじとビームサーベルでディアドコスの肩を突き刺した。

 

 「本当に議長を憎んでいたなら、そんな機体に乗りたい何て思う訳ないだろ!!」 

 

 サーベルを突き刺したまま機体中央まで切り裂こうとするが、ディアドコスのパルマフィオキーナが肩ごとデスティニーを吹き飛ばす。

 

 「奴のすべてを消し去る為にこれ以上に相応しい機体はないと思っただけに過ぎん!」

 

 「それがこだわってるんだよ!」  

  

 同時に放った最大火力。

 ビームキャノンと高エネルギー収束ライフルが激突し、光が二人の視界を塞いだ。

 

 そして二人は同時に勝負に出る。

 

 次の攻防で決着をつける為に。 

 

 「シン・アスカ!!」

 

 ディアドコスは光の翼を解放しながら今までとは比較にならない速度で突っ込んだ。

 

 「リベルト・ミエルス!!」

 

 デスティニーもまた最大加速で正面へと飛び出した。

 

 「「ウオオオオ!!!」」

 

 絶妙のタイミングで突き出された対艦刀。

 しかし、この程度ならばシンの反応速度で十分に対応できるもの。

 だからすでにリベルトは仕込みを行っていた。

 

 「そこ!」

 

 「ッ!?」

 

 いつの間にか投棄していたシールドをライフルで破壊、デスティニーの近くで爆破した。 

 明らかにデスティニーの動きが鈍る。

 そこを狙って対艦刀の刃を突き放った。

 

 「私の勝利だ!」

 

 確かに対艦刀が目前に迫り、デスティニーに避ける術はない。

 リベルトが勝利を手に掴もうとしたその時、シンの力強い声と共に発せられた光がそれを遮った。 

 

 

 「いや、勝つのは俺だァァァァ!!」

 

 

 シンのSEEDの発現。

 それと共に発動するC.S.システム。

 瞬間的にシステムを解放したデスティニーから迫り出されたスラスターによって対艦刀をギリギリのタイミングで回避した。

 

 「ハアア!!」

 

 右手を横薙ぎに振るいの対艦刀の刀身を真っ二つに叩き折る。 

 その反動でディアドコスの体勢は大きく崩れた。

 

 「ッ!? どうやって――いや、何であろうと!!」

 

 それでもリベルトは攻勢の手を緩めない。

 SEEDの発現は計算の内だ。

 体勢を崩しながらもビーム砲を放ち、腰の装甲を破壊すると左手のパルマ・フィオキーナをデスティニーの腹部目掛けて突き放った。

 

 「ぐっ、それも読んでたさ!」

 

 シンはあえてをC.S.システムを解除、同時にデスティニーも左手を突き出した。

 先ほどと同じ攻防。

 だが、先ほどとは結果が違った。

 捉えたと思われたディアドコスのパルマ・フィオキーナは発射される前にデスティニーのパルマ・ジャヴェロットによって左腕ごと吹き飛ばされた。 

 

 「何!?」

 

 「そこだ!!」

 

 予想外の事にリベルトの動きが一瞬だけ止まる。

 シンはそこを見逃さない。  

 動けないディアドコスの腹部に向け、右手を突き出す。  

 掌に集まった光が短いながらも刃を形成した。

 

 「不味い!?」

 

 機体を捻り、回避運動を取るディアドコス。

 だがそれはもう間に合わない。 

 

 「遅い!」

 

 デスティニーのビーム刃が深々とディアドコスの腹部に突き刺さり、大きく火花を散らした。

 

 「ぐああああ!」

 

 へしゃげたコックピットに押しつぶされたリベルトは激しい痛みに襲われながらもデスティニーを見やる。

 

 「ま、ま、さか……」

 

 確かに見た。

 右掌に一瞬だけビーム刃が発生していた。

 対艦刀をへし折ったのも、ディアドコスに致命傷を与えたのも、掌から発生したビームサーベルだったのだ。

 

 「掌に、ビーム、サーベル、だと?」  

 

 パルマ・ラーマ。

 パルマ・アルマの使用法の一つで掌に高出力のビーム刃を形成し、接近戦で無類の威力を持つ刃を形成できる。

 ただし短時間しかビーム刃を形成できず、隠し武器的な要素の強いものだ。

 

 「そ、んな、隠し、玉を、もって、いたとはな」

 

 「……アンタは侮れない。手札を見せれば確実に対処してくる。だからC.S.システムだって一瞬しか使わなかったんだ。どうせ対処法を考えていたんだろ?」

 

 リベルトは言っていた。

 シンの戦い方すべてを研究したと。

 それはC.S.システムに関してもという事だ。

 故に真正面からSEEDを発動させて戦っていたとしても、対処されていただろう。

 だからこそ瞬間的に発動させた方が、虚を突けるとシンは判断したのである。 

 

 「結、局、奴の、言って、いた通り、か。――く、そ」

 

 「まだそんな事、言ってんのか! アンタはただデュランダル議長に認めて欲しかっただけだろ!」

 

 「わ、私、は」

 

 「でも、もうとっくに終わったんだよ、議長の事もデスティニープランも。……俺だって忘れる事はできない。けど、それでも過去を受け入れて、決着をつけて、そして前に進むと決めたから……だから『過去だけに拘っている』アンタには負けられないんだ」

 

 シンの言葉にもう微かな意識しか残っていなかったリベルトは僅かに唇を歪めた。

 

 「ハ、ハハ、ハ、もう、終わって、いた事。拘って、いたのは私だけ、なら、こう、なる、事も、必然か」

 

 装甲から色を失ったディアドコスの腕が動き、デスティニーを突き放す。

 

 「……け、じめ、くら、いはつけ、させてもらう」 

 

 リベルトは最後の力を振り絞り、自爆スイッチを入れた。

 

 「お、前は、彼女と、未来に、生きる、がいい」

 

 「ッ!?」

 

 咄嗟に距離を取るデスティニー。

 

 瞬間、ディアドコスは爆発し、宇宙に巨大な光の花を生み出した。

 

 「自爆……けじめって」

 

 リベルトなりの決着という事だろうか?

 乗っていた黒いデスティニーを自ら葬る事で、彼なりに過去にけじめをつけたという。

 

 「……なんだよ、それ」

 

 自分の勝手な想像を吹き飛ばす為、シンは頭を横に振る。

 

 「感傷に浸るのは後だろ」

 

 戦闘はまだ続いている。

 こんな所でのんびりしている場合じゃない。

 

 「戻ろう」

 

 デスティニーは踵を返し、奮戦する味方の下へ飛び立った。

 

 

 

 

 翼を広げ宇宙を駆けるユニバース・フリーダム。

 それを追うようにゼニスガンダムのビーム砲が襲いかかった。

 

 「ッ!」

 

 弾けるように舞い上がりビームを回避、ビーム砲を発射した。

 

 「小賢しい!」

 

 ジェラールは絶妙な機動でビームを避け、そのまま距離を詰めてきた。

 かつての好敵手の名を名乗るだけあって、ゼニスは手強い相手だ。

 しかし―――

 

 「だからこそ!」

 

 対艦刀の一撃をナーゲルリングで弾き、腹部に蹴りを入れる。

 そしてすれ違い様に振るったビームサーベルがゼニスのライフルを斬り捨てた。

 

 「何!?」

 

 「君が何者なのかは知らない。だけど、もしも君が『シリル・アルフォード』であるならばその動きは嫌という程良く知ってるんだ!」

 

 そう、良く知っているのだ。

 彼に勝つ為にキラは訓練を積んできた、

 何度も。

 何度も。

 アストと二人で己を鍛え、虚空の戦場を超えてきた。

 立ちふさがる『彼』を退けて。

 故に『シリル・アルフォード』の戦い方は良く知っている。

 その動きを再現するだけならば、キラが遅れを取る理由はないのだ。

 

 「貴様!」

 

 「亡霊は去れ!」

 

 連続で発射されるビーム砲。

 その射線もすべて知るもの。

 かわせない道理はない。

 

 「このまま――ッ!?」

 

 だがその時だ。

 電気が走るような感覚がキラの全身を駆け抜けたのは。

 

 「これは!?」

 

 忘れる筈はない。

 

 間違える事もない。

 

 『彼』が近くまで来ているのだ。 

 

 「どこを見ている!」

 

 発射されたミサイルがフリーダムの動きを限定させる。

 その隙に背中のビーム砲『スヴァローグⅢ』を構えて発射した。

 

 「落ちろ!」

 

 モビルスーツを呑み込む強烈な閃光。

 しかしそれはいつの間にか展開されていたドラグーンのビームフィールドによって阻まれた。

 

 「なっ!?」

 

 「もう君に構っている暇はなくなった」

 

 「貴様ァァァ!!」

 

 自分を無視するキラに激昂するジェラール。

 怒りのまま対艦刀を構えて突撃する。

 だが、それを邪魔するように別の機体が割り込んできた。

 フリーダムの前に立ち、対艦刀をシールドで受け止める。

 

 「お前は!」

 

 「ご無事ですか、ヤマト一尉?」

 

 フリーダムを守るように対艦刀の前に立ちふさがったのはニーナのリベルテ・ストライクガンダムだった。

 

 「ニーナ」

 

 「此処は私にお任せを。一尉はテタルトスの方へ」

 

 どうやらニーナはキラがテタルトスを気にしていたのか分かっていたようだ。

 

 「……此処は任せるよ、ニーナ」

 

 「お任せを」

 

 「逃がすとでも!」

 

 「貴方の相手は私です」

 

 リベルテ・ストライクはゼニスの腕を掴み、スラスターを全開にして無理やり別の場所へと押し込んで行った。

 ニーナの気遣いに感謝しながら自分の戦うべき相手がいる場所へと向かっていく。

 

 「彼が来る―――ユリウス・ヴァリスが」

 

 これから戦う相手は最強の男。

 今までの敵とは格が違う。

 

 「それでも僕は」

 

 キラは今までに味わった事のないプレッシャーを感じながら、操縦桿を握り直した。

 

 

 

  

 アポロンの戦場から筈かに外れた場所に陣取ったテタルトス軍。

 その中心に鎮座する旗艦アンドロメダ級戦艦アリストテレスの格納庫では今から出撃するモビルスーツ隊の出撃準備が行われていた。

 モビルスーツハンガーに固定されていた機体が、準備を終えると次々と宇宙へ飛び出していく。

 その光景を待機部屋から眺めながらヴィルフリートは自分の機体の準備が整うのを待っていた。

 

 「ヴィルフリート、機体の調子はどうか?」

 

 声を掛けてきたユリウスの方へ振り返るとヴィルフリートは思わず驚いてしまった。

 

 「大佐、パイロットスーツを」

 

 ユリウスは戦闘で滅多にパイロットスーツを着込む事が無い。

 曰く昔の上官に倣っているという事らしい。

 その所為で整備班が毎回冷や汗を掻いているというのは全員が知っている。

 出撃したユリウスを見送った整備兵の青い顔は正直同情するレベルだ。

 

 「今回戦う敵は私の宿敵だ。油断はできない」

 

 「それほどの相手ですか」

 

 「ああ。今日は私も全力でいかせてもらう。それで機体はどうだ?」

 

 「現在最終チェック中です。もうすぐ終わると聞いていますが……」

 

 そこでピピピという呼び出し音が鳴った。

 噂をすればという奴で丁度最終チェックが終わったという連絡だった。

 

 「いけます、大佐」

 

 「良し。ヴィルフリート、私達の目的は防衛圏内ギリギリの位置で戦闘を行う敵勢力の排除だ。私は敵のエースを叩く。お前は味方の援護を」

 

 「……『アレ』についてはどうなさるつもりで?」

 

 「月の防衛部隊とバルトフェルドに任せてある。上手くやるだろう」

 

 格納庫へ出たユリウスはヘルメットを被り、愛機であるディザスターのコックピットへ座った。

 

 「やっとパイロットスーツ着てくれましたね、大佐」

 

 いつもの整備兵が安心したように声を掛けてきた。

 

 「今回だけは特別だ」

 

 「いや、日頃から着てくださいよ」

 

 「離れないと吹き飛ばされるぞ」

 

 小言を聞き流し、コックピットハッチを閉じる。

 

 「本気で戦うのはヤキン・ドゥーエ以来か」

 

 獲物を狙う獣のような獰猛さを宿した瞳で解放されたハッチの先を睨みつけた。

 ユリウスの感覚が言っている。

 倒すべき敵はこの先にいると。

 

 「ほう、お前も私が分かるのか? 不幸な宿縁だな」

 

 かつて発したラウの言葉を口に乗せ、こちらに向かってくる宿敵の存在に僅かに口元がつり上がった。

 

 「良い覚悟だ。今日こそお前の存在を消してやる、キラ」

 

 高揚する気分を抑えながらユリウスはフットペダルを踏み込んだ。

 

 「ユリウス・ヴァリス、ディザスター、出るぞ」

 

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