機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第43話 怨念を断つ

 

 

 

 

 

 アルノルト達停戦派を乗せたシャトルはようやく月面都市コペルニクスを目視で確認できる位置までたどり着いていた。

 しかし安心するのはまだ早かった。

 操縦悍を握るレイの前には無数のモビルスーツが展開されている。

 都市に向かう為には此処を突破する必要があった。

 しかしシャトルには武装はついておらず、モビルスーツもない。

 

 「迂闊に突っ込めば、すぐに落とされる」

 

 どう切り抜けるべきか思案していたレイの肩をアルノルトがポンと軽く叩いた。

 

 「……レイ、通信回線を開いてくれ。私が話をする」

 

 「良いのですか?」

 

 現在の議会がどういう方針で動いているのかは不明だ。

 仮に統合軍についているなら、口封じとして撃墜される可能性もある。

 

 「このままではどうにもならない。それにこれ以上時間をかければ、同盟軍が持たないだろう」

 

 「了解しました」

 

 通信回線を開きアルノルトがマイク片手にモビルスーツ隊に呼び掛けた。

 

 「テタルトス月面防衛隊。私はアルノルト・ヴェルンシュタイン議員である。色々と疑問はあるだろうが、急ぎ議会へ向かわねばならない。道を開けてもらいたい」

 

 アルノルトの呼び掛けに戸惑ったように指揮官機のモビルスーツが動きに止めた。

 

 《失礼だが、本当にアルノルト・ヴェルンシュタイン議員なのか確認したい。イクシオンまで同行してもらう》

 

 「そんな時間はない! 急ぎ議会に向かわねばならないと言った筈だ!」

 

 もしもイクシオンに同行すれば解放されるまでどれほど時間が掛かる事か。

 

 《し、しかし》

 

 尚も渋る指揮官。

 焦りを抑えアルノルトがもう一度声をかけようとした。

 そこで別の通信が入ってきたのか、指揮官は「少し待て」と視線をはずす。

 

 《えっ? わ、分かりました。……失礼しました、ヴェルンシュタイン議員。コペルニクスの発着場へ。車を用意しているそうです》

 

 「助かる。だが、誰が許可を出した?」

 

 《エドガー・ブランデル司令であります》

 

 レイとアルノルトは思わず顔を見合わせる。

 どうやらエドガーには話が通っているらしい。

 

 「ディノ中尉か」

 

 「多分。であれば彼女は無事な筈です。今の内に発着場に向かいます」

 

 「頼む」

 

 防衛隊の間を抜き、シャトルはコペルニクスに向けて舵を切った。

 

 

 

 

 「邪魔だァァァ!!」

 

 咆哮と共に発射されるビーム砲。

 ヴァニタス・ゼニスの複合火線兵装『スヴァローグⅢ』の砲撃である。

 スキュラ級の一撃ではあるが当たらないなら、何の問題もない。

 容易く躱したニーナは砲塔を格納する一瞬を狙いレール砲を撃ち込んだ。

 

 「ぐおおお!? な、何故だ! 何故、フリーダムでもない雑魚にこうも手こずる?」

 

 レール砲の直撃を受け、吹き飛ばされたジェラールは怒りに任せて吐き捨てる。

 

 「自己分析すらできなくなったら、終わりです。悪いですが、勝負を決めさせてもらいます、ジェラール・フィレオル」

 

 「黙れ! 俺は! お、俺は……シリル・アルフォードで……ぐぅぅぅ」

 

 頭を押さえ痛みに耐えるジェラールにニーナは淡々と告げた。

 

 「自分を見失ったものが戦いで勝てる訳ないでしょう!」

 

 ジェラールは確かに強い。

 その技量は地球軍最強と謳われるだけはある。

 だが、それは通常の状態での話。

 錯乱している今は隙だらけとしか言いようがない。

 動きを読んだかのようなビームライフルの一撃がヴァニタス・ゼニスの腕に直撃する。

 

 「な、何故?」

 

 「まだ分かりませんか? まあ、答えを教えてやるほど私はお人好しではないので言いませんけど」

 

 「貴様ァァ!!」

 

 翼を広げるリベルテを狙い、再びビーム砲が発射される。

 しかしそれすらも掠める事すらできない。

 

 「くっ!?」

 

 「無駄です」

 

 ニーナは即座に接近してビームサーベルを振るい、残った腕を切り落とした。

 

 「よ、避けられない」

 

 「でしょうね」

 

 ニーナは戦闘からしばらくジェラールの異変に気が付いた。

 最初はそれこそキラすら手こずる動きをしていたというのに、徐々に動きが乱れ始めた。

 要はチグハグなのだ。

 一人乗りのモビルスーツに二人のパイロットが座っているのと同じだ。

 しかも意思統一されていない故に上手く機体が動かせていない。

 あれなら新兵でも乗せておいた方がマシというもの。

 どんな新型機も宝の持ち腐れである。

 

 「おのれェェェ!!」

 

 両腕を失ったヴァニタス・ゼニスの最後のあがき。

 体勢を崩しながらも蹴りを繰り出す。

 

 「読んでいると言ったでしょう!」

 

 逆手に持ち替えたサーベルを斬り上げ、脚部を切断。

 懐が大きく開いた所にブルートガングを突き込んだ。

 ヴァニタス・ゼニスの腹部にブルートガングが深々と突き刺さり、装甲から色が抜け落ちた。

 

 「お、俺は……だ、誰……お、れ、は」

 

 かろうじて致命傷だけは避けていたジェラールは出血と全身の痛みに気づかぬまま呻き続ける。

 

 「……誰……」

 

 呻いている間に指が当たったのかコンソールに置いていたプレーヤーから音楽が流れ出す。

 聞いた事のある曲に不思議と安堵する。

 これは内側から食われるような恐怖を忘れる為にジェラールがいつも聞いていた曲だった。

 

 「ああ……俺は……」

 

 最後の最後。

 ようやく取り戻した自分を離さぬように、ジェラールはゆっくり目を閉じた。

 

 「……さようなら、自分を忘れた哀れな人」

 

 ニーナは素早くブルートガングを引き抜くと、味方の援護に向かう為、踵を返した。

  

 

 

 アポロン要塞内部に不時着する形で侵入したオーディン。

 容赦なく撃ち掛けられる敵モビルスーツからの攻撃により、エンジン部分は破損。

 砲塔も半数が破壊されている。

 もはや撃沈寸前である事は誰の目にも明らかであった。

 

 《アルミラ艦長、オーディンはすでに限界だ。退艦命令を》

 

 イザナギからの通信にテレサは拳を握り込んだ。

 長年愛着をもってきた戦艦の末路がコレとは。

 自身の力不足が恨めしい。

 だが――

 

 「いえ、まだ早い。議員達が月に到着したという連絡は来ていません」

 

 《しかしこのままでは》

 

 セーファスの危惧は理解している。

 とはいえこのまま退艦してはイザナギの負担が大きくなってしまう。

 せめて統合軍の動きを鈍らせる事さえ出来れば。

 オーディンの現状と目的達成の為に必要なプロセス。

 それらをすり合わせ、最適な答えを模索する。

 

 「オーディンのエンジンは何基生きている?」

 

 「え? えっと半分程度です」

 

 「……陽電子砲の発射は可能か?」

 

 「出力は半分も出ませんが撃つだけなら」

 

 オペレーターの報告を元に考えをまとめていたテレサは覚悟を決めた。

 

 「……陽電子砲発射準備。同時にエンジン臨界」

 

 「艦長!?」

 

 《アルミラ艦長、それは》

 

 「はい。アポロン要塞内部でオーディンを自爆させれば、かなりの打撃を与える事が出来る」

 

 それで統合軍を混乱させられれば時間も稼げる上に、イザナギの負担も軽くなる。

 

 「申し訳ありませんが、脱出したクルーたちの収容をお願いします」

 

 《分かっている》

 

 「総員退艦! 陽電子砲発射を10分後にセット。我々はイザナギに向かう! 直援のモビルスーツに護衛させろ!」

 

 「ハッ!」

 

 「これが最後だ! ついでに全弾発射! 撃ち尽くせ!!」 

  

 オーディンから発射された主砲が敵艦を薙ぎ払い、ミサイルがアポロン要塞に突き刺さる。

 それを見届けたクルー達が急ぎブリッジから離脱していく。

 テレサもそれに続くように扉を潜ると、一瞬だけ振り返る。

 

 「……今までご苦労だった」

 

 色々な記憶が脳裏に蘇る。

 しかし感傷に浸っている暇はない。

 テレサはブリッジに敬礼すると素早く踵を返した。

 

 

 

 

 キラが目を覚ますと、何も映らないモニターが目に入る。

 コックピット内に異常は見られないが、コンソールやモニターからは光が失われていた。

 どれほど意識を失っていたのだろうか?

 頭を振り、意識をはっきりさせるとキーボードを取り出した。

  

 「戦闘はどうなった? ユリウス・ヴァリスは?」

 

 キーボードを素早く叩き、機体状態を確認しながら状況把握に努める。

 

 「……機体はどうにもならないな。スラスターは幾つか生きてるけど、大破したも同然か」

 

 それでもディザスターは破壊し、ユリウス・ヴァリスはすでに動けない筈。

 しかし友軍の戦闘は続いている。

 せめて状況だけでも確認しなくてはならない。

 

 「モニター……ついた!」

 

 メインカメラが破壊されている所為か映像がずいぶん乱れている。

 

 「外の様子を見れるなら十分だけど」

 

 結構流されてしまったようで、アポロンが少し離れていた。

 オーディンは撃沈寸前。

 イザナギがそれを守るように踏ん張っている姿が見えた。

 

 「くそ! この機体じゃ援護に行くことも!」

 

 歯がゆい現状にコンソールを殴りつけるしかない。

 

 だがそこでキラの願いを聞き届けたかのように、一つの陰が近づいてきた。

 

 

 

 

 オーディンの攻撃により振動が続くアポロン要塞。

 今にも崩れ落ちそうな要塞内部をディザスターを乗り捨てたユリウスが淡々と進んでいた。

 時折銃声のような音が聞こえてくる。

 侵入した同盟軍と統合軍で撃ち合いを行っているのだろう。

 しかしユリウスは全く興味の無い様子で積み上がった瓦礫を避け、天井ギリギリの位置を飛び越える。

 泳ぐ魚のように器用な動きで進んでいくユリウスだが、その表情はお世辞にも良いものではなかった。

 何かを懸念したような険しい顔。

 拳を握りながらその視線は刃のように鋭い。

 

 「……流石は最高のコーディネイターと称えるべきか。ディザスターを失う事になるとはな」

 

 先ほどまでの戦闘を頭の中で反芻しながら通路を進んでいると広い空間に出た。

 

 「ここも崩れているようだな」

 

 ユリウスがたどり着いた場所はアポロン要塞の入り口の一つだった。

 しかし何らかの爆発でも起こったのか入口は瓦礫で完全に埋まってしまっていた。

 

 「格納庫は奥の方か……ん?」

 

 通路から周辺を観察していたユリウスに気になるものが見えた。

 入口から少し離れた場所。

 そこにモビルスーツと思われるものが崩落した瓦礫の下敷きになっているのだ。

 

 「使えるな」

 

 幸いな事にモビルスーツに積み上がった瓦礫は大した量ではない。

 手持ちの火器でコックピット周辺の瓦礫だけなら十分に排除できる。

 爆弾を仕掛け、素早く物陰に飛び込んだ瞬間、大きな爆発が起きた。

 

 「さて、上手くいったか?」

 

 爆煙が晴れユリウスが顔を出すと計算通り、コックピットを塞いでいた障害物は排除されていた。

 しかし瓦礫の下から姿を見せたモビルスーツに思わず眉を顰めてしまった。

 

 「……ガンダムとはな」

 

 複雑な心情を押し殺し、一応銃構えてコックピットハッチを解放する。

 

 「パイロットは……生きている。女か?」

 

 助けてやる義理はない。

 だが―――

 

 「此処で放り出されれば命は無い……運が良かったな。貴様には付き合ってもらう。情報が得られるかもしれんからな」

 

 緊急用の簡易シートを取り付け、そこにパイロットを拘束する。

 これで多少無茶な機動をしようとも、コックピットに叩きつけられる事はあるまい。

 シートに座ったユリウスはキーボードを取りだし、機体の把握を始めた。

 

 「なるほど、この機体は言わばデュランダルの遺産の一つという訳だ。メインスラスターの消耗が激しい。戦闘の影響か……機体名は『アンフェール』」

 

 操縦桿を握り、感触を確かめながら機体を起動させる。

 

 「起動確認。VPS装甲、機体挙動、システム異常なし。まずは邪魔な瓦礫を排除する」

 

 上半身を起こし、腕を上げると残っていた瓦礫が崩れ落ちる。   

 そして収束ビーム砲を発射。

 ビームが入口を塞いでいた障害物を飲み込み、排除した。

 

 「行くか」

 

 アンフェールはスラスターを吹かし、宇宙へと飛び出した。

 己の感覚に従いながら、目標を探す。

 フリーダムは致命傷を受け、もはや戦えないのは確実。

 しかしキラはまだ生きているし、戦意を失っていない筈だ。

 

 「ならば来る」

 

 ユリウスはそう確信していた。

 戦場を抜け、待機していた母艦アリストテレスに連絡を入れる。

 

 「私だ。アリストテレス、聞こえるか?」

 

 《大佐、ご無事でしたか!》

 

 「ああ。それより私のジンⅢを用意しろ。すぐに出る」

 

 《は?》

 

 オペレーターの返事を待たず、格納庫へ着艦する。

 

 「大佐、この機体は……」

 

 「統合軍の機体だ。中にパイロットもいるから捕縛しろ。丁重にな」

 

 「ハッ! 大佐、休まれないのですか?」

 

 「ああ」

 

 整備士の心配そうな声に大丈夫だと手を振ると、格納庫に立っているジンⅢに飛び移った。

 これは通常のジンⅢとは違いVPS装甲を装備、スラスターの増設を行った強化型の機体である。

 

 「ディザスターには遠く及ばんが、普通の機体よりはマシに動けるだろう」

 

 装甲がパーソナルカラーである青紫に染まり、ユリウスは再び戦場へ出撃する。

 

 「ユリウス・ヴァリス、出る」

 

 母艦から飛び出したジンⅢはスラスターを最大出力まで上げて、加速する。

 整備班が見れば卒倒しそうな、急加速。

 それをユリウスは涼しい顔で乗りこなす。

 進路上にあるデブリをビーム砲で消し飛ばし、アクロバットのような機動を取りながら状態を確かめると満足そうに頷いた。

 

 「悪くないな。さて、状況は……」

 

 テタルトス軍と統合軍が互角の戦いを繰り広げており、同盟軍はやや押され気味ではあるものの、粘り強く持ちこたえていた。

 

 「流石に同盟は戦い慣れている」

 

 同盟はヤキン・ドゥーエ戦役から不利な状況で戦う機会が多かった。

 その経験が彼らを踏みとどまらせているのだ。

 

 「キラ、どこだ?」

 

 攻撃を仕掛けてきた敵機を瞬殺し、アポロン要塞へ近づいていく。

 その時、一層巨大な爆発がアポロン要塞内部から起こり、炎が吹き上がる。 

 それに合わせたかのように一機のモビルスーツが近づいてきた。

 

 「あれは……」

 

 形状はずいぶん変わっているが、ユリウスにとっても因縁のモビルスーツに違いない。

 操るパイロットも想像通りだ。

 

 「最後の最後でその機体に乗ってくるとはな」

 

 偶然か。

 

 それとも運命なのか。

 

 皮肉な気分になりながらユリウスは笑みを浮かべた。

 

 そして相対するキラは青紫のジンⅢを警戒するように顔を強張らせる。 

 

 「ユリウス、新しい機体を用意して来たのか!」

  

 キラはもう一度自分が搭乗している機体状態に目を向ける。

 今、彼が乗り込んでいるのはフリーダムではなく、リベルテ・ストライクだった。

 ジェラールとの激しい戦闘を終え、駆けつけてきたニーナにフリーダムを任せリベルテ・ストライクを借り受けたのだ。

 

 「ストライクは万全とは言えないけど、十分にやれる」

 

 所々傷を負ってはいるが、戦闘には支障はない。

 機体を扱う丁寧さは流石ニーナだ。 

 

 「行くぞ!」

 

 二機が発射したビームライフルが装甲を掠め、同時に斬り込んだ大剣が火花を飛ばす。

 

 「まさかストライクとは! だがお前の最後の機体としてこれ以上相応しいものはないな!」

 

 「お互い様だろう!」

 

 素早く位置を入れ変えながら、激しく斬り結ぶ。

 斬艦刀の一撃がジンⅢを斬り裂き、ビームライフルがストライクの装甲を吹き飛ばした。

 

 「お前は此処で消えろ、キラ!」

 

 「まだ拘るか!」

 

 「当然だ!」

 

 二機の性能はほぼ互角。

 

 戦闘を重ねた分だけ、リベルテ・ストライクの方が不利だろうか。

 

 背中に装備されたリベルテ・ストライカーはすでに全開。

 

 アポロンの岩壁を高速移動するジンⅢをビームライフルで牽制しながらキラは食らいついていく。

 

 「私が心変わりするとでも思っているのか? だとしたらふざけている! 積み重ねてきた過去はお前が考えている以上に重い!」

 

 それはもはや怨念と言っても差し支えない。

 

 ユリウスから発せられる殺意にキラは改めて身震いした。

 

 それだけの事があったのだと理解している。

 

 だが、それでも。

 

 いや、だからこそ負ける訳にはいかなかった。

 

 自分を大切に思ってくれる人達の為にも!

 

 「うおおおお!!」

 

 爆炎の中を突っ切り、横薙ぎに振るうとライフルを斬り飛ばした。 

 

 「ッ!?」

 

 「別に貴方を変えようなんて思っていない! だが僕らの事情をこの先の未来に引きずる必要はない!」

 

 「だからこそお前を消そうとしているのだ!」

 

 二人の咆哮を表す発射されるビームの光が互いの機体に傷を負わせた。

 高速ですれ違いながら、激しい撃ち合いを展開する。

 

 「それこそ怨念だろう! それで一体何を得た!」

 

 「未来へ至る教訓と力だ!」

 

 突き出された対艦刀の一撃がストライクの左腕を抉り、突き出した斬艦刀がジンⅢの脚部を斬り裂いた。

 

 「その怨念は此処で断つ!」

 

 爆炎を避けるように回り込んだキラはビーム砲でジンⅢの頭部を破壊し、斬艦刀片手に突撃する。

 

 「やってみせろ!」

 

 迎え撃つユリウスもまた対艦刀を構えて突き出した。

 

 「ハアアアア!!」

 

 「オオオオオ!!」 

 

 二機の激突。

 

 爆炎に晒されながらも緩まぬ一撃が交錯する一瞬。

 

 刃が互いの機体を貫いた。

 

 そして次の瞬間。

 

 二機のモビルスーツは刃を敵に突き刺したまま、アポロンの爆炎に飲み込まれ、姿を消した。

 

  

 

 

 アポロンの攻防が佳境に差し掛かった頃、アルテミス要塞では敵の進撃に備え、防衛戦力の展開が進められていた。

 

 「大佐、八割方配置完了いたしました」

 

 アルテミスの管制室で士官からの報告を受けたアスランは手渡された端末を拝見する。

 

 「このまま進めてください。他に問題点は?」

 

 「サリエル所属モビルスーツの配置が未だ」

 

 「作戦を通知したなら放っておけばいい。彼らに関しては自由にやらせろとの命令だからな」

 

 アスランは未だにサリエルを含めたファントムペイン組を味方と考えてはいなかった。

 先の戦闘でも気になる動きを見せていた。

 信頼して後ろから刺されたのでは目も当てられない。

 

 「彼らの監視は続行するように命令を」

 

 「ハッ!」

 

 士官の一人が下がった所に所在無げに立っていたミレイアが近づいてくる。

 

 「大佐」

 

 「待たせて済まなかったな、ロスハイム准尉。先の戦闘では機体が損傷したと聞いているが、怪我はないか?」

 

 アスランが安否を尋ねるとミレイアは暗い表情から一転、笑みを浮かべて頷いた。

 

 「はい!」

 

 「ならいい。次の戦闘も激しいものになるだろう。それまでしっかり体を休めておけ」

 

 アスランは素早く端末を操作するとミレイアに差し出した。

 

 「呼び出した理由はコレだ。君にはロールアウトした新型機に搭乗してもらう」

 

 「私が新型に?」

 

 端末に表示された機体にミレイアは目を輝かせる。

 この機体は自分が搭乗していたアルタイルとはまるで別物だった。 

 

 「ああ。研究者達から君が最も適正が高いと報告があった。後で整備班へ顔を見せておくといい」

 

 「分かりました」

 

 ミレイアはこれでアスランの力になる事が出来ると拳を握って気合いを入れる。

 しかしすぐに悩むように俯いた。

 

 「悩みごとか? なら解消しておいた方が良い。でないと死ぬ事になりかねない。俺で良ければ相談に乗るが?」

 

 「えっと、大佐は―――」

 

 「お話し中、失礼します!」

 

 アスランとミレイアの間にラディスが割り込んできた。

 

 「整備班からロスハイム准尉を連れてくるように言われました」

 

 「そうか。ミレイア、相談事については」

 

 「いえ……大丈夫ですから」

 

 「何かあれば相談に乗る。出来る範囲で力になるから、何時でも言ってくるといい」

 

 「はい!」

 

 アスランに敬礼し管制室から退出するとミレイアがラディスに噛み付いた。

 

 「どういうつもり、ラディス?」

 

 「そっちこそ、何を言うつもりだったんだよ。前にも言っただろ、大佐はお前が思っているような人間じゃない」

 

 「またそれ」

 

 「そんなことよりも見てたか、ミレイア。俺はあのフリーダムと互角に戦ったんだぜ!」

 

 苛立たしげにミレイアはラディスを睨みつける。

 

 「いい加減にしてよ! アンタの事なんてどうでもいいし、私が何をしようがアンタには関係ないでしょ!」

 

 「ミレイア、俺は!」

 

 ミレイアはラディスを振り払い、そのまま駆けだしていく。

 

 「……くそ。もっと戦果が必要だ。もっと、もっと!」

 

 走り去るミレイアの背中を見つめながら、ラディスは血が滲む程強く拳を握った。

 

 

 

 

 戦闘準備を進めてたのはアルテミス側だけではない。

 攻撃していた『グラオ・イーリス』も仕切り直しを迫られていた。

 

 レクエイムの発射による艦隊の損耗。  

 

 部隊の再編成や作戦の練り直し。

 

 指揮を任されているイザークにはずべてが頭の痛い話だった。

 

 「全く、こんなカードを伏せていたとはな。アスランらしいと言えばらしいが」 

 

 モニターに映し出されていたのは艦上部に特殊な装備を設置していプレイアデス級戦艦だった。

 円形の装置を起動させる事でゲシュマイディヒパンツァーを展開、出力調整したレクイエムのビームを歪曲する。

 レクイエムはフルパワー時の威力には及ばないだろうが、直撃すれば艦隊はひとたまりもない。

 

 「コレの破壊は必須事項だな。敵艦の探索は?」

 

 「フラガ一佐とホーク中尉の部隊が偵察を行っています」

 

 「戻ってきたらすぐにブリーフィングを始める。それまでは各自休ませておけ。……最後の休息時間になる」

 

 「了解」

 

 イザークがブリッジで頭を悩ませていた頃、アストは自室のベッドに座りヴィクトリアから渡されたディスクの中身を確認していた。

 入っていたのは『能力移植』に関する詳細。

 そして幾つかの重要な事柄のデータがまとめてある。

 

 「……お前は本気で抗うつもりだったんだな」

 

 データは念密な調査の上で精査したものだろう。

 そうでなくてはこれほどの情報を集める事は難しい筈だ。

 ヴィクトリアがどれだけ本気だったのかが否応にも伝わってくる。

 

 「そしてヴェクト・グロンルンド……奴については予想通りか」

 

 静かに怒気を発しながら記載されていたヴェクト・グロンルンドの情報に目を通した。

 予想通り奴は昔、メンデルで研究を行っていたらしい。

 しかし研究者仲間からも異常であると判断された奴はメンデルから出奔。

 研究者名簿からも除名されたらしい。

 それからは月のコペルニクスで移り住み、研究を続け、ヤキン・ドゥーエ戦役後はテタルトス月面連邦国に所属。

 強化兵や新型モビルスーツのOS開発などに関与。

 一定の実績を残したものの、ユニウス戦役終盤、混乱に乗じ姿を消したらしい。

 

 「アムステルダムでアスランが探していたのは奴か」

 

 流石にテタルトス軍の機密事項に関しては明記されていなかったが、これまでの情報を合わせるとそういう結論になる。

 

 「ヴェクト・グロンルンドは必ず始末する。その前に目の前の戦いに集中しないとな」

 

 一旦、情報の閲覧を止め、別の端末を取り出すと先程の戦闘データを呼び出した。

 確認すべき事は山ほどある。

 

 e.s.デバイスのデータ収集。 

 

 ドラグーンユニット『フリージア』の動作確認。   

 

 イノセントガンダムの機体調整。

 

 休んでいる暇など欠片も――

 

 「アストさん!」

 

 自室の扉が開き、そこにはマユが立っていた。

 

 「ッ!? マユ。どうした?」

 

 ジト目でこちらを睨みながら、近づいてくる。

 

 どうやらかなりご立腹らしい。

 

 「どうした、じゃありませんよ! 艦長からも偵察隊が戻るまで休めと言われたでしょう!」

 

 「分かっているさ。だが、これだけは済ませておかないとな」

 

 マユは怒った顔から一転、不安そうな表情を浮かべるとアストの胸に飛び込んでくる。

 勢い余った二人はそのままベッドへ倒れこんでしまう。

 

 「どうした? 最近やたら甘えん坊じゃないか」

 

 「子供扱いしないでください。私だってもう大人なんですよ」

 

 拗ねたような声を出しアストの胸元に顔をうずめてくる。

 

 確かに感触的には十分に大人だ。

 

 あえてどこがとは言わないが。

 

 「私、心配なんです。アストさんがアスラン・ザラに引っ張られてるみたいで」

 

 「引っ張られてる?」

 

 「はい。あの人の拘りというか執着にアストさんも引きずられているような気がします」

 

 「……そうか。俺は大丈夫だよ、そこまでアスランに固執しちゃいないさ」

 

 アストが固執しているとしたら、アスランよりもクルーゼの方だ。

 奴だけは必ず倒さなくてはならないのだから。

 

 「絶対、無茶しないでください」

 

 「ああ」

 

 マユの気遣いに感謝しながら、優しく頭を撫でた。

 手入れが行き届いているのか、サラサラで滑るように指の間を滑り落ちていく。

 少し癖になりそうな、変な気分になりながらアストはマユを抱きしめていた。

 

◇  

 

 艦隊を立て直し、部隊を再編制したグラオ・イーリス。

 帰還した偵察機からの情報を得たイザークは主要メンバーを集めてブリーフィングを行っていた。

 主要メンバーと言ってもモビルスーツ隊を率いるムウや特務隊隊長のハイネなどは勿論副隊長クラスも招集され、ブリーフィングルームの人口密度はとんでもない事になっていた。

 ハッキリ言って狭い。

 

 「見てもらった通り、偵察機から得られた情報は以上だ。アルテミスを基点に三方向に敵艦が展開されている。まずはこれを叩く必要がある」

 

 「でなきゃレクイエムで俺達を撃ちたい放題って訳か」

 

 ユニウス戦役で使用されたゲシュマイディヒパンンツァー搭載の廃棄コロニーよりも機動力は遥かに上。

 配置も取りやすく、戦艦故に守りやすい。

 

 「まずはこれらの艦隊をヴェステンフルス、ホーク、フラガの三名が率いる部隊で潰してもらいたい」

  

 「正面はどうするんだ? これらが囮に使われる可能性だってあるだろ?」

 

 ムウの鋭い指摘。

 確かに戦力を分散しすぎれば、正面から攻められた際に対応できない。

 

 「フラガ一佐の指摘の通りだ。勿論、アルテミス側にも攻撃を仕掛けるつもりだ。いくら戦艦を潰してもレクイエムが健在では意味がないからな」

 

 イザークから提示された作戦の概要はこうだ。

 ミサイルによる波状攻撃。

 だがそれは囮でミサイルに紛れモビルスーツ隊をアルテミスの懐に送り込みレクイエムを破壊するというものだ。

 

 「当然だが、これに気が付かれない為に正面にもモビルスーツを配置する。仮にこれが失敗しても艦を叩いた別動隊を回り込ませる」

 

 「それも失敗した場合は?」

 

 「アルテミスに直接乗り込み、コントロールを奪うかエネルギープラントを破壊するしかない」

 

 告げられた作戦概要。

 それは全員に決死の覚悟を抱かせるのは十分なものだった。

 

 「おそらくこれがこの戦争最後の戦いになるだろう。その分、激しさも増す。ここに居る全員が命を捨ててようやく目標達成出来るか、否かだ」

 

 イザークの言葉に改めてこの作戦の危険さが伝わってきた。

 

 「……生きて戻れなどと無責任な事は命令を下す立場の俺が口にする資格はない。言えるとしたら一つだけだ」

 

 傍で控えていたアストには見えた。

 イザークが小刻みに拳を振るわせているのが。

 それは恐怖ではない。

 指揮官として彼らを見送る事しかできない無力さに憤っているのだ。

 決して忘れはしないと、胸に刻みつけるように全員の顔を一通り見渡す。

 

 

 「勝つぞ!」

 

 

 実にシンプルな言葉だった。

 

 それ故に胸に響いてくる。

 

 皆が顔を見合わせ、笑みさえ浮かべて立ち上がる。

 

 

 「「「了解!!」」

 

 

 全員がイザークに向かって敬礼した。

 

 この場に帰ってこれる者が何人いるだろう?

 

 パイロット達の大半が死を覚悟している筈だ。

 

 それでも。

 

 自分が倒れても他の誰かに託すことが出来る。  

 

 彼らもまた散っていった誰かから受け継いできたからこそ、それを知っている。

 

 だからアストもそれに倣って敬礼する。

 

 此処に戻れなくとも、誰かが自分の意思を受け継いでくれると信じているから。 

 

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