機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第44話 蘇った宿敵

 

 

 

 

 戦闘準備を整えたアルテミスは進軍してくる同盟を警戒し臨戦態勢に入っている。

 アスランもまたパイロットスーツを着込み、前線で指揮を執る為に出撃しようとしていた。 

 

 「そうだ、周辺に機雷を散布し、策敵を怠るな。同盟の機体がいつ懐に現れるかわからないぞ。それからサリエルの方も頼む。……ん、アレが」

 

 指示を出しながら格納庫に足を踏み入れたアスランの前に一際目立つ巨体が目に入った。

 肩から伸びる二対のバインダー。 

 各所に設けられたビーム砲。

 どう見ても普通のモビルスーツとはかけ離れている。

 

 ZGMF-X95SE 『ティアマト』

 

 ユニウス戦役で破壊されたレヴィアタンをテタルトスが回収、データを収集して再設計した機体。

 レヴィアタンよりも小型化され武装も減らされているがその分機動性は向上し、安定した性能を発揮できるようになっている。

 

 「適正があるとはいえミレイアに使いこなせるのか?」

 

 やや不安を感じないでもないが、他に候補がいないのだから仕方がない。

 

 「研究者たちはミレイアにさらなる強化を施すと息巻いていたが……」

 

 そこに丁度乗機に向かっていたラディスの姿を見つけた。

 

 「ラディス」

 

 「た、大佐。何か?」

 

 あからさまに不満げな表情で視線を逸らす、ラディス。

 何時もの反抗かとも思ったが少し違うように感じる。

 ラディスの視線に籠っているものは、強烈なまでの敵意。

 だが、アスランはそれにはあえて触れず、いつも通りに声をかけた。

 

 「ミレイアは新型だ。お前がフォローしてやれ」

 

 「分かってますよ……ですけど生憎、慣れてないので。……どうやったら大佐みたいに女性を上手く扱えるようになるんでしょうかね? 教えていただきたいですよ」

 

 「何?」

 

 明らかに挑戦的な物言いに流石のアスランも刺々しい声になってしまう。

  

 「いえ、色々噂を聞きましたので。ラクス・クラインとか、レティシア・ルティエンスとか。是非ご教授いただきたいものです。そうすればミレイアの事も―――ッ!?」

 

 ラディスの言葉は続かず、凍り付いたように口が動かない。 

 

 「どうした続けろよ」

 

 「っ!」

 

 アスランの目は何時もとは比べ物にならない程、冷たい怒気に満ちていた。

 

 「……お前がどんな噂を聞いたのかは知らない。質問に答える気もない。だが、上官に対しての口の利き方くらい覚えておけ」

 

 「くっ、俺はミレイアを」

 

 「振り向かせたいというならそうすればいい。お前の力でな」

 

 こちらには目もくれずそのまま立ち去るアスランにラディスは激しい屈辱を味わっていた。

 

 「ちくしょう……俺が、気圧されるなんて」

 

 一瞬でもアスランの怒気に飲まれかけた自分が情けない。

 

 「ラディス、出撃だぞ!」

 

 「……分かってるよ」

 

 整備兵から急かされ、ラディスは自身の機体に乗り込んだ。 

 アルタイルにはタキオンアーマーが装着され、防御力と機動性の向上が図られている。

 

 「良し、この機体なら前以上に動ける筈だ」

 

 《進路クリア、ティアマト、発進しろ》

 

 「了解。ティアマト、発進します!」

 

 出撃するミレイアの声を聴きながら、ラディスは操縦桿を握りしめる。

 

 「……アンタに言われるまでもないさ。ミレイアは俺が守る! 邪魔する敵はすべて消してやる!」

 

 《アルタイル、出ろ》

 

 「了解、ラディス・グエラ出るぞ!」

 

 ティアマトの後に続くようにアルタイルも出撃する。 

 

 ラディスの滾る思いを現すように殺意が機体から滲み出ていた。

 

 

 

 

  

 作戦時間が間近に迫るフォルセティの格納庫。

 モビルスーツハンガーに設置された機体が解放され、次々と宇宙へ出撃していく。

 そんな中、アストもまた出撃の為、イノセントの最終調整を行っていた。

 

 「各パラメータ調整終了、e.s.デバイス正常稼働、ドラグーンユニット『フリージア』設置完了、すべて異常無し」

 

 「アレン、まだ調整してたんですか?」

 

 顔を上げるとヘルメットを脇に抱えたルナマリアがイノセントのコックピットに上半身を乗り込ませていた。

 

 「今、終わった所だ。それでどうしたんだ? もうすぐ出撃だろう?」

 

 「出撃前にアレンの顔を見に来たんです」

 

 そのままコックピット内に踏み込んで来ると、顔を近づけてくる。

 

 「で、何があったんです? あの回収してきた機体に乗ってた人は知り合いなんでしょ?」

 

 どうやらユングヴィを回収してきた時の様子からそれとなく事情を察しているらしい。

 

 「目ざといな」

 

 「パートナーですから」

 

 得意そうな顔で笑みを浮かべるルナマリアにアストも苦笑する。

 どうも隠し事をしても彼女には通用しないようだ。

 

 「詳しい事は後で話すが例の件で少し進展があった」

 

 それだけで察したようでルナマリアの表情も真剣なものに変わる。

 

 「……なるほど。まあ隠そうとしなかっただけいいです。ちゃんと後で説明してもらいますからね」

 

 「分かってるさ」

 

 本心から言えばルナマリアを巻き込みたくない。

 だが言っても聞かないだろう。 

 

 「それさえ聞ければ十分です。戦闘では無茶しないでくださいよ。戦艦を叩いたらすぐに援護に行きます」

 

 「頼りにしている」

 

 これは本音だ。

 これほど長い時間一緒に戦ってきたのはキラを除けばルナマリアだけ。

 安心して背中を預けられる相手も必然的に彼女になる。

 

 「今日はなんだか素直ですね」

 

 「俺は何時も素直だ」

 

 「えぇ?」

 

 やたら失礼なリアクションをされた気がする。

 

 「お前な」

 

 「冗談ですよ、冗談! でも本当一人で突出しないように!」

 

 ルナマリアはそのままアストに顔を近づけ、頬に軽くキスをする。

 

 「では後で」

 

 ウインクし自機へと向かうルナマリアの背を呆然と見つめていたアストは我に返ると無自覚に頬を摩っていた。

 

 「アイツ……」

 

 彼女なりにアストの緊張を解してくれたのだろう。

 いつの間にか肩の力が抜け、気分が軽くなっていたのを自覚する。

 

 「肩肘張っても駄目だな。マユにも釘を刺されたばかりだし」

 

 次々と出撃していく友軍機を見守り、イノセントもカタパルトへ運ばれていく。

 

 《ヴェステンフルス隊、フラガ隊、ホーク隊は目標ポイントへ向かった。お前も頼むぞ、アスト。注意を引く為、派手に暴れてやれ》

 

 「了解」

 

 《アストさん、気を付けてください》

 

 「マユも。セリスも無茶はするなよ」

 

 《アレンにだけは言われたくないですけど。でも了解です!》

  

 マユ、そしてセリスは艦隊のミサイル攻撃に合わせアルテミスに接近する役目を担っていた。 

 ハッキリ言って、正面から対峙するアストなどより遥かにリスクの高い役割だ。

 それでも二人の実力ならきっと大丈夫な筈。

 そう信じるしかない。

 

 《進路クリア、発進どうぞ!》

 

 カタパルトが点灯し、オペレーターからの合図を聞くとアストはフットペダルを踏み込んだ。

 

 「アスト・サガミ、ガンダム、行きます!」

 

 イノセントが宇宙に飛び出す。

 そして用意してあった移動用ブースターを装着し、アルテミスの方へ加速した。

 

 《ミサイル発射! 各モビルスーツ隊は手筈通りに行動せよ!》

 

 フォルセティから発射されたミサイル群が一斉にアルテミスへ殺到する。

 アレは囮だ。

 あと何回かミサイルによる攻撃を行い、その中に紛れマユ達が進撃する事になっている。  

 

 「マユやセリス達が動きやすくなるようにしないとな!」

 

 アストは先行したモビルスーツ隊を追いながら、アルテミスから出撃してきた敵機の方へ意識を集中し始める。

 

 「派手にやれとの事だし、遠慮なく行かせてもらうぞ!」

 

 スラスターを噴射させたイノセントはビームライフルを構え戦場へ突入する。

 

 「そこ!」

 

 引き金を引き、ライフルから発射された光線がH・アガスティアの胴体を貫通した。 

 

 「イノセントか!」

 

 「この先には行かせん!」

 

 ジンⅡのバーストコンバットから発射されたミサイルを機関砲で排除。

 ビーム砲とライフルを撃ち出し、二機を撃墜する。

 さらに編隊を組んだリゲルが四方から襲いかかってきた。

 

 「流石、統合軍だな。連携も上手い」

 

 隙のない射撃を避け、前方へ加速する。

 三機とすれ違い様にビームサーベルで素早く同時に斬り捨てた。

 しかしすぐに別の三機編隊が近づいてくるのが見えた。

 

 「……単機では向かって来ず、必ず三機以上の編隊を組んでくる。アスランの指示か」

 

 敵機の攻撃を回避しつつ、ビームライフルで射撃。

 編隊を崩しつつ、サーベルで対処する。

 

 「何!?」

 

 素早く腕や足を切られ、敵モビルスーツがバランスを崩した。

 

 「そこ」

 

 敵の編隊が乱れ、浮足立った敵をビームライフルで撃墜する。

 しかし撃墜されたモビルスーツの残光から新たな敵影が迫ってきた。

 

 「次から次に」

 

 本命はこの先にいるのだ。

 こんな場所で消耗してはいられない。  

 

 「しかしこれでは味方の部隊も援護が必要だな。ルナマリア達が敵母艦を叩けば状況も変化するかもしれないが」

 

 ナーゲルリングでリゲルを裂き、グレネードランチャーが味方機に攻撃していたジンⅡを吹き飛ばした。

 

 「良し、このまま――ッ!?」

 

 攻撃に気づいたアストは咄嗟に機体を上昇させる。

 そのすぐ後に強烈なビーム砲が今までいた空間を薙ぎ払った。

 さらに展開された敵ドラグーンにより味方機が次々と撃墜されてしまう。

 

 「これは……」

 

 肌に突き刺さるように感じられるもの。

 

 これは殺意だ。

 

 だが熟練のパイロットにしてはあまりに素直すぎる。

 

 「アスランでも、クルーゼでもない。誰だ?」

 

 イノセントの前に現れたのはミレイアの駆る新型機『ティアマト』だった。

 

 「通常のモビルスーツサイズを上回る大きさ。あの火力は侮れない」 

 

 直ぐ傍にはラディスのアルタイルの姿もある。

 

 「傍にいる機体は強化兵用のモビルスーツか」

 

 「気をつけろ、ミレイア! 奴だ! ガンダムだ!」

 

 「言われなくたって!」

 

 ミレイアも当然分かっている。

 目の前にいるイノセントガンダムこそが、アスランを脅かす元凶である事を。 

 

 「大佐の所へ行くつもりでしょう。そうはさせない!!」

 

 肩から伸びるバインダーに搭載されたビーム砲がイノセント目掛けて発射される。

 従来のものとは出力が違う。

 アンチビームシールドでは防ぎきれない。

 アストはすぐさま回避運動を取り、ライフルで牽制する。

 

 「逃がさないよ、アレン!」

 

 「その声は……ミレイア・ロスハイム!?」

 

 ティアマトから聞こえてきた意外な人物の声にアストは息を飲んだ。

 

 「君が何故、統合軍のパイロットに?」

 

 「貴方には関係ない! 私が大佐を守る!」

 

 ビームを躱したイノセントに今度がドラグーンを差し向けてきた。

 

 「ミレイア、やめろ! ケイは君を」

 

 「うるさい!」

 

 ドラグーンの砲撃を避けるイノセントに想像以上の速度で追いすがったティアマトは引き出したロングビームサーベルを叩きつけた。

 

 「私に弟なんていない!」

 

 「聞く耳持たずか」

 

 ナーゲルリングでサーベルを弾き、ビームライフルのトリガーを引いた。

 至近距離からの一撃がティアマトの装甲を浅く傷つけ、同時にドラグーンを撃ち落とす。

 

 「くぅ、ドラグーンをこうも簡単に!?」

 

 「……付き合ってられない」

 

 アストの目は冷たくティアマトのコックピットに狙いを絞った。

 ケイには悪いが、此処は戦場。

 戦いの場で手加減できるほど器用ではない。

 躊躇いなくティアマト本体を狙って銃口を向ける。

 しかしそれをさせまいと回り込んだアルタイルが攻撃を仕掛けてきた。

 

 「貴様さえ倒せば! 大佐だろうが、黙らせられる!」

 

 シールド内臓の三連ビーム砲が火を噴く。

 

 「この感覚は……あの時の男か!」

 

 飛びのいてビームを回避したアストはライフルで反撃した。

 

 「当たるか!」

 

 以前よりも攻撃を回避したアルタイルの動きは良くなっている。

 

 「ずいぶん場慣れしてきたな」

    

 それだけパイロットが腕を上げたという事だろう。

 

 「そこだ!」

 

 腹部から発射された複列位相砲。

 それを機体を寝そべらせ回避したアストはそのままバズーカ砲を発射した。

 

 「ッ!?」

 

 咄嗟にシールドを囮に砲弾を防いだラディスは屈辱のあまりコンソールを殴りつける。

 今の攻防で仕留めるつもりだった。

 それが逆に撃墜されかかるとは。 

  

 「クソォォォ!!」 

    

 ティアマトの攻撃から逃れるイノセントを睨むその視線には怒りを越え、憎悪が籠っていた。 

 

 「落としてやるぞ、ガンダム!」

 

 「ラディス、一人で突っ込みすぎ!」

 

 ティアマトの発射した対艦ミサイルがイノセントの進路を塞ぐように降り注ぐ。

 さらにリゲルの編隊まで襲い掛かってきた。

 

 「チッ」

 

 機関砲でミサイルとリゲルを追い散らす。

 

 「逃がすと思うか!」

 

 アルタイルのドラグーンがイノセントに襲い掛かった。

 リゲルの編隊から繰り出されるミサイルの雨に周囲を飛び回る無数の砲台。

 ただ躱すだけでは追い詰められてしまう。

 

 「仕方ない」

 

 アストは温存したかった装備の使用を決断する。

 イノセントは背中から専用のドラグーンユニット『フリージア』を射出した。

 フリージアで敵のドラグーンを撃破。

 リゲルの連携を崩し、包囲に穴を空ける。 

 

 「どけ!」

 

 そのまま加速。

 敵とすれ違う瞬間、体勢を乱したリゲルの腹をナーゲルリングで斬り払う。

 編隊は完全に崩れた。

 アストは作り出したスペースに機体を突入させ敵の追撃を逃れた。

 

 「大佐の下へは行かせない、アレン!」

 

 一時は引き離したティアマトが追いすがってきた。

 

 「追ってきたか。子供の遊びに付き合うつもりは無い」

 

 シールドを背後に向けてビーム砲を発射し、ミサイルを迎撃する。

 

 「貴様は俺が倒す! そうすれば!!」

 

 アルタイルのドラグーンが再びイノセントを囲み、進路上へミサイルが撃ち込まれた。

 

 「くっ、しつこい」

 

 イノセントも再びドラグーンを射出。

 

 守るようにフィールドを展開し、ビームライフルを発射していく。

 

 飛び交うミサイルとドラグーン。

 

 群がる無数の敵モビルスーツを相手取りイノセントは激闘を繰り広げていった。

 

 

 

 

 フォルセティから発射されたミサイルは一直線にアルテミスへと向かっていく。

 

 「懲りもせずにミサイルでの攻撃か」

 

 並み居るミサイルの嵐の矢面に立ったのはアスランのユースティアガンダムだった。  

 迎撃の為の部隊はすでに配置済み。

 アスランは自分の担当範囲だけ守っていれば良い。

 

 「行け」

 

 背中のリフターからドラグーンユニットを切り離し、ミサイルの迎撃に向かわせた。

 複数の目標を同時に捕捉。

 

 「落ちろ」

 

 捕捉したミサイルを一斉にビーム砲で凪ぎ払った。

 撃ち抜かれたミサイルは大きな光の華となって宇宙に散る。

 その光に照らされながら、アスランは眉を潜めた。

 

 「これで終わりか? いや、そんな筈はない」

 

 あまりに呆気ない攻勢ではあったが、何かしら目的があるとみるべき。

 

 アスランの懸念が的中したかのように、再び新たなミサイル群がアルテミスに向かって迫ってきた。

 

 「何度やろうが、無駄だ。アルテミスには届かない」

 

 再びドラグーンで迎撃する。

 

 しかし今度は先程とは結果が違った。

 

 ミサイルを撃ち落とした瞬間、視界を塞ぐスモークが周辺を包み込んだ。

 

 「スモーク!?」

 

 そして立て続けに次のミサイル群が迫ってくる。

 おそらく先のミサイル群よりも僅かな時間差をつけ、発射してきたのだろう。

 

 「この戦い方は……」

 

 ミサイルを迎撃しながら敵指揮官の作戦に妙な既視感のようなものを感じた。

 

 指揮の執り方の癖のようなものが、頭に引っ掛かるのだ。

 

 心当たりを思い起こしていると脳裏にふと昔の光景が浮かんできた。

 

 「まさか……イザークなのか?」

 

 この戦場で相見えるとは思っていなかった。

 

 道を違えたかつての仲間。

 

 もう二度と道は交わらず、次に出会えば命のやり取りを行う敵同士。

 

 なのにアスランの口元には笑みが浮かんでいた。

 

 昔からイザークは何かとアスランに突っかかってきた為、戦略シミュレーションやチェスなど色々な事で勝負してきた。

 

 不謹慎ではあるがその事を思い出し、懐かしくなってしまった。

 

 「……各艦、各モビルスーツ、ミサイル迎撃! 時間差で来るぞ! シールド装備の機体はレクイエムとエネルギープラントを守れ!」

 

 エネルギープラントとレクイエムを守るように数機のバウが立ちふさがる。

 腕に装備されている盾は通常のものとは明らかに違う。 

 それはかつてシグーディバイドと呼ばれた機体に装備されていた『オハン』と呼ばれた武装だった。

 掲げたオハンから発生した巨大なシールドがレクイエム、エネルギープラントを守るように展開される。

 

 「あのシールドはミサイルでは突破できないぞ」

 

 ドラグーンによる砲撃で迫るミサイル、すべて叩き落とす。

 迎撃体勢は整い、万が一の場合に備えた防御も展開済み。

 もはやスモークが展開されようが、時間差でミサイルを撃ち込まれようが問題にならない。

 

 だが予想外にも同盟艦隊からは再びミサイルが発射されてくる。

 

 「第四波!? 通用しないと分かっていながら……」

 

 些か腑に落ちない。

 しかし黙っている訳にもいかず、ドラグーンで再びミサイルを撃ち落とした。

 

 そこで異変に気がついた。

 

 落とした数基には何の手応えもなく、大した爆発も起きなかったのだ。

 

 「デコイか?」

 

 敵の策に間違いない。

 それを見破る為、思考を巡らせていると、防衛部隊からの緊急通信が入ってきた。

 

 「大佐、熱源急速接近!?」

 

 「何!?」

 

 下方から発射されたミサイルがアルテミスへ直撃する。

 見れば数機のモビルスーツが攻撃体勢に入っているのが見えた。

 

 「この距離まで接近されながら気がつかなかった……ッ!? そうか、初めからモビルスーツをアルテミスに接近させる事が目的だったか」

 

 ミサイルによる攻撃はこちらの注意を逸らす為の囮。

 アスラン達を引き付け、熱源で発見されないよう、機体を停止状態にしてモビルスーツを接近させたのだろう。

 デコイと思われたミサイルは運搬用のブースターの役割を持ち、展開したスモークはモビルスーツの機影をギリギリまで捉え難くする為のものだったのだ。

 

 「やってくれるな、イザーク!」

 

 かつての仲間の手腕に惜しみ無い称賛を送ると、接近してきた同盟機の迎撃する。

 

 「フリーダム……マユ・アスカ。そしてアイテルの改良型、セリス・ブラッスールか」

 

 同盟を代表するエース達。

 彼女達の接近をこれ以上許せば、構築した戦線がズタズタにされてしまう。

 

 「アルテミスには接近させない!」

 

 ビームサーベルを両手で構えると、二機のガンダムを相手取り戦闘を開始した。

 

 

 

 

 激戦の続くアルテミス攻防戦。

 誰しもが戦闘に集中する中、アルテミス内部にある港で未だ出撃する気配の無い戦艦が接舷されていた。

 元ファントムペインの旗艦サリエルである。

 彼らとて遊んでいる訳ではない。

 ただ準備が整うのを待っていたのだ。 

 

 「カース様」

 

 格納庫にて準備が整うのを待っていたカースに№Ⅰが声を掛けてきた。

 

 「どうした?」

 

 「現在準備を進めようとしているのですがザラ大佐の監視が厳しく……」

 

 「ふむ」

 

 カースは顎に手を当て、どこか楽しげに呟いた。

 

 「……昔はもう少し感情的だったがな。大人になったという事かな、アスラン。モビルスーツの方はどうか?」

 

 「はい。そちらは概ね準備が完了しております。しかし――」

 

 №Ⅰが珍しく言い淀む。

 

 「どうした?」

 

 「……エリニスをまだ使われるのですか?」

 

 「不満か?」

 

 「不安定過ぎます。暴走の危険も大きい。結局、ヴィクトリア・ランゲルトについても―――そんな彼女に『アレ』を任せるなど」

 

 №Ⅰの視線の先にあるモニターに映り込んでいるのは格納庫には収まりきらない機体だった。

 強力な機体ではあれどその分、アレをエリニスに任せるとなればリスクが高まる。

 しかしカースは涼しい顔で首を振った。

 

 「ヴィクトリアの件を気にする必要は無い。博士には私の方から報告しておいた」

 

 「しかしエリニスは」

 

 「問題はないさ。処置は施してある。それよりも準備が整ったというなら、我々も出るぞ」

 

 「……了解しました」

 

 カースは珍しくパイロットスーツを着込むと格納庫に立つ、自身の機体の方へ足を向けた。

 その機体は半円形のバックパックを背負い、幾つかの砲塔を装着している。

 

 「カース様、今更機体の件は心配いらないとは思いますが無理だけは……」

 

 「ああ。分かっている」

 

 №Ⅰに手を振り、コックピットに乗り込むとサリエルのブリッジへ通信を入れた。

 

 「ニコラス、サリエルの今後の動きについては状況次第だ。判断は任せる」

 

 《了解しました》

 

 機体に接続されていた配線が外され、装甲に色が付いた。

 

 「さて、決着をつけようか、ムウ。そしてアスト・サガミ」

 

 ハッチが解放され宇宙までの道程が顔を出す。

 

 外では戦闘の光が絶え間なく続いている。

 

 それを見たカースは楽しげに笑みを浮かべると自らも戦闘に身を投じる為、フットペダルを踏み込んだ。

 

 

 

 「カースだ。プロヴィデンス、出るぞ!」

 

 

 

 かつて宇宙に名を馳せた天帝が再び戦場に姿を見せようとしていた。 

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