機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

50 / 82
第45話 蠢く戦場

 

 

 

 

 アルテミスに進軍する『グラオ・イーリス』艦隊。

 彼らにとって目下最大の脅威と言えるのはレクイエムによる砲撃だった。

 威力もさることながら、厄介なのがゲシュマイディヒパンツァーを装備させた戦艦の存在。

 アレを戦場の好きな位置に配置すれば、どこに敵がいようと狙撃できるからだ。

 

 故にどれだけ早くそこを落とせるか。

 

 それが今後の戦局を左右する事は誰の目にも明らかだった。

 

 「目標確認。結構な数がいるみたいだな」

 

 ムウの駆るアカツキを中心とした部隊は特殊装備のプレイアデス級を目視で捉えていた。

 

 「奥にいる特殊装備の艦を守る為に三隻の戦艦が護衛とはな」

 

 「それだけアレが重要って事でしょ」

 

 「ルナマリアの言う通りだな。少なくともアレを落とせば狙い撃ちされる事だけは無くなる訳だ」

 

 追随していたハイネとルナマリアがムウの独白に口を挟んできた。

 ハイネの口調はお世辞にも明るいとは言えない。

 気持ちは良く分かる。

 正直、護衛部隊は予想を上回る数だったからだ。

 

 「二人共! 気後れしても仕方ないでしょ!! さっさと終わらせてアレンの援護に行かないといけないんですから!」

 

 発破を掛けるルナマリアにハイネもムウも若干引き気味に頬を引きつらせた。

 

 「相変わらず勇ましいな、お前は」

 

 「可愛い顔してるのにねぇ。それじゃ男が寄って来ないでしょ」

 

 「余計なお世話! 私はアレンの補佐で手いっぱいです! そんなくだらない事言っている暇には敵の一機でも落としてください!」

 

 「はいはい。ま、おふざけはこの辺にして集中しますか。全機、予定通り目標は敵特殊艦だ!」

 

 「「了解!!」」

 

 ムウの号令に合わせ各隊長が率いる部隊が目標へ向かっていく。

 

 「まずは周りの邪魔な連中から排除するぞ」

 

 先行したアカツキの背中から誘導機動ビーム砲塔が分離される。

 素早く敵モビルスーツの死角へ移動した砲塔は容赦なく攻撃を開始した。

 

 「数だけ居たってな!」

 

 砲塔の動きについていけない敵機はあっけなくコックピットを貫通される。

 

 「ドラグーンか!?」

 

 「全機、対ドラグーン陣形!!」

 

 飛び回る砲塔に合わせ距離を取りつつ、バーストコンバットを装備したフローレスダガーが迎撃を図る。

 

 「おいおい、迂闊だろ!」

 

 ムウはビームライフルでフローレスダガーを撃ち抜いた。

 陣形を崩され動揺する、敵モビルスーツにビームライフルを連射。

 囲むドラグーンの砲撃が残った敵をすべて薙ぎ払った。

 

 「ドラグーンに気を取られすぎでしょ」

 

 ドラグーンの対策は昨今でも行われている。

 しかしそれでも普通のパイロットにドラグーンの対応は難しい。

 動き回る砲台へ意識を集中しすぎれば、他への注意が疎かになるのは当然なのだから。

 

 「くそ!」

 

 「本体を狙え!」

 

 ドラグーンに対するもう一つの対策。

 それがコントロールを行っている本体の撃墜だ。

 コントロールを落としてしまえばドラグーンもただのスクラップに過ぎなくなるのだから。

 数機のリゲルが陣形を組み、アカツキに対して攻撃を開始する。

 しかしアカツキに向けて発射されたビームはすべて装甲に反射されてしまう。

 

 「何!?」

 

 虚を突かれ反射されたビームに貫かれたリゲルが撃墜された。

 

 「ッ!? あの金色にビーム兵器は通じない!?」

 

 「ならば全機、実体弾で攻撃しろ!」

 

 ビームを弾くアカツキの特性に気が付いた隊長機は実弾での攻撃を指示する。

 だがそれはムウにとって脅威ではない。

 この機体の弱点など搭乗しているムウ自身が誰よりも把握しているのだから。

 

 「おっと!」

 

 撃ち込まれたミサイルをすべてドラグーンで撃墜。

 その隙に飛び込んできたインパルスが腰から抜いた斬艦刀で斬りつける。

 刃を受けたリゲルは真っ二つに裂かれ、他の機体は明らかに浮足立った。

    

 「戦場で動きを止める奴があるか!」

 

 浮足立った敵機をビームライフルで狙撃し、敵の防衛網に穴を空けた。

 

 「良し、各機、俺について来い!」

 

 「了解!!」

 

 対艦刀を握るハイネのリガル・ギアが先陣を切り、続くようにイフリート・アルジェントが敵陣へと突入した。

  

 「邪魔だ!」

 

 立ちふさがる敵モビルスーツを斬り伏せ、目標であるプレイアデス級へ狙いを定める。

 

 「ガナーギア部隊、攻撃開始!」

 

 「了解!」

 

 ガナーウィザードを装備したギアが一列に並び、主武装である高エネルギー長射程ビーム砲『オルトロス』を発射した。

 しかしオルトロスの砲撃は別のプレイアデス級が盾になり、阻止されてしまった。

 

 「自ら盾になる!? たく、そんなにあの戦艦を落とされたら困るって事かよ!」

 

 「なら、接近してやるだけですよ!」

 

 翼を広げたシークェル・インパルスが突入する。

 

 「敵を艦に近づけるな!」

 

 「落とせ!」

 

 弾丸のように加速するインパルスに戦艦からの砲撃が襲いかかる。

 しかしルナマリアは一切意を返さず、光線の雨の中を突っ切っていく。

 

 「ハアアアア!!」

 

 立ち塞がる敵を斬り伏せ、艦底部に回り込むと光を発する掌を突き出した。

 パルマ・フィオキーナの一撃がプレイアデス級の装甲を突き破り、大きく爆発する。

 

 「これで!」

 

 沈んでいく護衛艦を置き去りに上昇したインパルスは高エネルギー収束ライフルの銃口を特殊艦へと向けた。 

 

 「行け!」 

 

 収束ライフルから迸る閃光がプレイアデス級のブリッジに直撃した。

 

 「……あっけなさすぎる。守る気がないのか」

 

 戦艦が落とされ特殊艦の数も減った。

 しかし敵は残りの戦艦を守ろうとする素振りすらない。

 

 「やっぱり囮ですかね」

 

 ムウとハイネの懸念を裏付けるようにアルテミスで動きがあった。

 

 岩壁が解放され砲塔が光を発している。

 

 「第二射か!?」

 

 「味方がいる筈だろ――ッ!?」

 

 見れば射線上に居た統合軍の機体が次々と離脱体勢に入っていた。

 反面、プレイアデス級から脱出してくる者は誰もいない。

 

 「戦艦は無人って事か。やっぱり囮かよ!」

 

 「全機急速離脱!」

 

 ムウの号令に全機が一斉にその場からの離脱を図る。

 

 同時にアルテミスの砲塔から強烈な閃光が発射された。

 

 閃光が戦場を突き進み、巻き込まれた機体は容赦なく消し去られていく。

 

 「ぐぅぅうう!!」

 

 砲撃の衝撃、そして離脱の際に掛かったG耐えながら、ムウたちはやっと影響範囲外まで脱する。

 

 「やってくれる、敵の指揮官は!」

 

 「こうなると予測はしてたが、きついな!」

 

 攻撃隊は壊滅こそ免れたものの、大きく分断されてしまった。

 損傷し動けない機体も多数存在している。

 事前に戦艦がこちらを狙う囮であると予測していなければ、甚大な被害が出ていただろう。

 

 「だがこれも計算の内だ。全機、聞こえているな! 作戦通りに行動しろ! ヴェステンフルス、残りは頼む!」

 

 「了解! 片付けたら俺も行くからな!」

 

 予定通りハイネは残りの戦艦の排除へ動き、ムウとルナマリアは反転。

 それぞれが目的地の方向へ動き出す。

 その時、ムウの全身にあの感覚が走り抜けた。

 

 「ッ、これは……出て来たか。クルーゼ!!」

 

 戦場に現れた宿敵を感知したムウはアカツキを敵の方へ向かって進ませる。 

 

 邂逅はもうすぐそこまで迫っていた。

 

 

 

 

 二機のガンダム。

 

 トワイライトフリーダムガンダムとアイテルガンダム・ヴァルキューレ。 

 

 ユースティアガンダムの前に迫る二機のガンダムはアスランにとってある意味馴染み深い機体だった。

 

 一機はかつての親友が駆り、数多の伝説を作り上げた。

 

 そしてもう一機はアスランにとって忘れたくとも忘れ難い女性が搭乗していた機体だ。

 

 「……全く、これも因縁なのか」

 

 迫る二機のモビルスーツに思わず独白するアスラン。

 そんな感傷に浸る間もなくトップスピードで肉薄してきたフリーダムはビームサーベルを抜き放つ。

 

 「貴方は私が此処で!」

 

 「悪いが君に興味はない!」

 

 ビームサーベルの強烈な斬撃をオートクレールで弾き返し、脚部のビームサーベルを放出する。

 

 「ッ!?」

 

 サーベルを伴った蹴撃。

 フリーダムが機体を翻し、コックピットを狙った光刃を回避する。

 だが、それを見越していたアスランはすぐさまビーム砲を撃ち込んだ。

 

 「強い! でも!」

 

 ビームシールドで防御しながらレール砲を撃ち込んでくるフリーダム。

 

 「貴方をアストさんに会わせる訳にはいかない!」

 

 「関係の無い部外者が! 男同士の間に入るんじゃない!!」  

 

 機関砲で砲弾を排除。

 接近戦の間合いに飛び込むとオートクレールを横薙ぎに振るった。

 切っ先から伸びたビーム刃がフリーダムへと襲いかかる。

 

 「俺は奴を倒す! そうでなくては!」

 

 「なんでそこまでアストさんに拘るんです!?」

 

 マユはオートクレールの刀身にビームサーベルを叩きつけ、斬撃を受け止めた。 

 

 「奴は俺から大切なものをすべて奪ってきた! 何人も仲間が奴によって殺された!!」

 

 「勝手な事! 貴方も同罪でしょう!」

 

 「そうだ、否定はしない! しかし俺は奴を倒さなければ前には進めない!」

 

 衝撃と稲光が二機の間で弾け合う。

 

 「マユちゃん!? やらせません、ディノ少佐!」

 

 「違う、セリス・ブラッスール! 俺はアスラン・ザラだ!」

 

 リフターからドラグーンを射出し、向かってきたアイテルへと差し向けた。

 

 「この程度!」

 

 セリスは攻撃を避けつつビームライフルで動き回る砲台を狙撃する。

 

 「そこ!」 

 

 発射されたビームは正確にドラグーンの動きを捉えていた。

 しかしビームが砲台を撃ち落とす事無く、直前で弾かれてしまった。

 砲台側面に光の盾が展開されたからである。

 

 「ドラグーンにビームシールド!?」

 

 予想外に装備に驚きつつも、再びビームライフルで狙撃を行う。

 しかしすべて弾かれてしまい、逆にビームを撃ち掛けられてしまう。

 

 「くっ」

 

 アイテルは防御マントで攻撃を防ぎながら後退する。

 

 「ドラグーンのシールドを使わされるとは。流石だ、セリス・ブラッスール。しかし君の実力は月面紛争で承知済みだ!」

 

 鍔迫合うフリーダムを弾き飛ばし、複列位相砲をアイテル目掛けて発射する。

 ドラグーンの動きを警戒していたセリスは撃ち出された砲撃を前に防御に回らざる得ない。

 

 「ぐぅぅぅ」

 

 不利な体勢のままシールドで複列位相砲を防いだアイテルは吹き飛ばされ、体勢を崩されてしまった。

 

 「セリスさん!?」

 

 「俺の敵は奴だ! 君達に後れを取るつもりは無い!」

 

 「この!」

 

 ユースティアに向かって斬りかかろうと前に出る。

 

 その時、コックピットに敵接近の警報が鳴り響く。

 

 接近してきたのは巨体を持つ兵器だった。

 

 胸部から光を発し、フリーダムとユースティアの間を焼き尽くす強力な攻撃が放たれた。

 

 「なっ」

 

 フリーダムはアンチビームシールドを掲げ、その場から飛び退く。

 しかし強力なビーム砲故にシールドが耐えきれずに溶けてしまった。

 

 「シールドを溶かすほどの高出力なんて!」

 

 使えなくなったシールドを捨て距離を取るフリーダム。

 警戒しながら攻撃してきた巨体に方へ眼を向ける。

 

 「何?」

 

 「……アレが報告にあった『デモリッション』か」 

 

 GFAS-X2 『デモリッション』

 

 デストロイガンダムの後継機に属する機体。

 数多の武装と防御手段を持った外郭とコアとなるモビルスーツを搭載。

 モビルスーツサイズを超える大きさではあるものの、今までのデストロイ級に比べて大幅に小型化されている。

 脚部が排除され高出力大型スラスターを装備。

 問題だった機動性も確保されている。

 反面モビルアーマー形態はオミットされている。

 

 「あの機体の中央に搭載されているのは……ベルゼビュート?」

 

 デモリッションの中核に搭載された機体はベルゼビュートであった。

 まるで鎧を纏うように、中央に鎮座している。 

 

 「……目標確認。データ照合、『フリーダム』、『アイテル』と特定」

 

 デモリッションのコックピットに座るエリニスは感情も込めず淡々と呟く。

 以前のような苛烈さは鳴りを潜め、まるで機械のように虚ろな瞳でフリーダムとアイテルを見定めていた。

 

 「排除開始」

 

 デモリッションの腕が掲げられ、指先からビーム砲が発射される。

  

 「数は多いけど!」

 

 マユはすぐ様その場から飛び退き、攻撃をやり過ごす。

 翼をはためかせ、速度を上げて砲撃を回避したフリーダムはビームライフルを撃ち出した。

 しかしデモリッションは見た目に反する機動性を見せる。

 

 「な、避けた!?」

 

 デモリッションは驚くほど機敏に攻撃を避け、逆に攻撃を加えてきた。  

 

 「ぐっ、あの機体に、このパイロットは!」

 

 「中央にいるあの機体は、教官を倒した……デストロイ系の機体なら、懐に飛び込めば!」

 

 ユースティアのドラグーンを振り切ったアイテルは大剣を構えて突撃。

 大剣の刀身から発生させた無数のビーム刃をデモリッションへと叩きつけた。

 

 だが予想外の物が斬撃を阻む。

 

 「これは!?」

 

 シールド兼用の大型ビームクロウが大剣を受け止めていた。

 格納されていたベルゼビュートの上半身が解放され、そこからビームクロウを射出したのだ

 

 「だけど『ヴァルファズルⅡ』相手に!」

 

 『ヴァルファズルⅡ』の出力は通常の斬艦刀を遥かに上回る。

 アンチビームシールドでは防ぎきれるものではない。

 力任せに押し込もうとしたセリスだったが、背後に回り込んだ別のビームクロウがビームキャノンを撃ち込んでくる。

 

 「くっ」

 

 咄嗟の反応で機体を後退させるが、待っていたのはさらに激しいビーム砲の嵐だった。

 

 構えたアンチビームシールドは溶け、防御マントも一部が蒸発する。

 

 「何て出力!?」

 

 「セリスさん!? アイギス!!」

 

 トワイライトフリーダムから射出されたアイギスドラグーン。

 ドラグーンがアイテルを守るように防御フィールドを張り、ビーム砲をすべて防ぎ切った。

  

 「マユちゃん、ありがとう」

 

 「いえ、注意してください。この機体、今までのデストロイ系の機体とは違うみたいです」

 

 マユはアイギスドラグーンで砲撃を防ぎつつ、全砲門を解放。

 デモリッションへフルバーストを叩き込む。

 そしてフリーダムとタイミングに合わせ、セリスもアサルトブラスターキャノンを発射した。

 

 「「いけ!」」

 

 二機の最大火力。

 

 だがデモリッションは正面に陽電子リフレクターを展開。

 砲撃の全てが直前で防がれてしまった。

 

 「防御力は健在か」

 

 「やっぱり接近戦しかない!」

 

 マユとセリスは連携を組み、デモリッションの砲撃の中を突っ切っていく。

 

 すでにそこから離れていたアスランはアルテミスから入ってきた連絡に耳を傾けていた。

 

 《大佐、緊急連絡です!》

 

 「どうした?」

  

 《それがアルテミス後部のエンジンが始動! このままではエンジンが点火してしまいます》

 

 元々アルテミスは今存在するポイントとは別の場所に存在した。

 それがユニウス戦役後にユーラシアの意向により今の場所へと運ばれた経緯があった。

 後部に存在するエンジンはその為に設置されたもの。

 しかし、現在は使用しないという事で放置されていた。

 

 「何だと!? 何故……いや、止められないのか?」

 

 《現在、アクセスを試みていますが、こちらの操作を受け付けません》

 

 偶然のトラブルか。

 

 敵による工作か。

 

 それとも――

 

 「……サリエルはどうした?」

 

 《出撃中です。アルテミスの防衛任務についています》

 

 「そうか」

 

 何にせよ一度戻って状況を把握する必要がある。

 

 「一度戻る。作業を継続しろ」

 

 《了解しました》

 

 アスランは横目で戦闘を一瞥すると、アルテミスの方へ機体を向かわせた。

 

 

 

 アルテミスで起きた異変は艦隊の指揮を執っていたイザークも察知していた。

 

 「アルテミスが移動しようとしているだと?」

 

 「はい。先行した部隊からの報告では後部のエンジンが動いていると」

 

 この状況でアルテミスをどこに動かそうというのか?

 

 今、グラオ・イーリスの状況はどうにか五分と言ったところ。

 ハイネ達の活躍で特殊装備をもった戦艦の何隻かを潰す事には成功している。

 だが、レクイエムは未だに健在。

 戦力も統合軍側が上回っている事に変わりは無かった。

 にも関わらずアスランがこの状況を崩そうとするとはとても思えない。

 

 「……トラブルか?」 

 

 真っ先にそれが思いつく。

 だが、先のレクイエムの一撃のように敵の策である可能性も捨てきれない。

 思考していたイザークは結論を下す。

 

 「……砲撃継続。狙いは変わらずレクイエムだ。ただしアルテミスの動きは常に把握しておけ」

 

 「了解」

 

 「前線に部隊にも通達しろ。状況はどうなっているか?」

  

 「乱戦状態です。ただアンセム・イノセントガンダムだけ突出しています!」   

 

 オペレーターの報告に表情を曇らせる。

 

 「敵の新型が相手か……いや、アイツなら大丈夫だ」

 

 混戦模様の前線で戦う友人の身を案じながら、イザークは拳を握りしめた。 

 

 

 

 

 『グラオ・イーリス』と統合軍が激闘を繰り広げる最前線。

 敵と味方。

 それぞれが入り乱れる大混戦に陥っていた。 

 

 「同盟軍を進ませるな!!」

 

 「レクイエムへ向かえ!!」

 

 H・アガスティアのビームサーベルがブリュンヒルデに突き刺さり、飛行形態のスオウの射撃が敵モビルスーツを撃ち穿つ。

 

 一進一退の戦場。

 

 その中で一層激しい戦闘を行っている者達がいた。

 

 アンセム・イノセントガンダムと強化型アルタイル、そしてティアマトの三機である。

 

 「しつこいんだよ!!」

 

 ドラグーンとビームライフル。

 それらを組み合わせ、イノセントガンダムを追い込もうと攻撃を加えるラディス。

 しかしイノセントは驚くべき反応と動きですべてをかわし、逆に反撃を加えてくる。

 

 「そこ!」

 

 撃ち返されたイノセントのビームライフルがアルタイルの肩装甲を吹き飛ばした。

 

 「なっ」

 

 損傷自体は大した事は無い。

 しかし付けられた傷はラディスが冷や汗を掻くには十分なものだった。

 

 「くそが!」

 

 優雅さすら感じさせる白いモビルスーツを睨みつけ、ラディスの焦りは加速する。

 狙いを定めている筈なのに、一向にイノセントを捉えられる気配がない。

 

 「ラディス、何やってんの!」

 

 「分かってる! 何なんだ奴は!」

 

 イノセントを狙うティアマトの砲撃をフリージアの張ったビームフィールドが防いでいく。

 

 「ドラグーンのコントロールまで奴の方が上だっていうのか! 強化兵の俺よりも!」

 

 「お前の動きが単調すぎるだけだ」

 

 ラウやユリウスといった規格外のパイロットと戦った経験のあるアストからすれば、ラディスやミレイアの攻勢はぬるいと言わざる得ない。

 さらにアストはスラスターを使い加速をつけたまま体勢を変える。

 

 「甘い」

 

 ビームライフルの一撃がティアマトの肩に直撃させ大きく傷を負わせた。

 

 「きゃあああ!!」

 

 あり得ない複雑な軌道を取りながら、攻撃を加えてくる。

 速度と姿勢を保ったまま射撃を当てるだけでも脅威だが、体勢を崩す事無く正常な機動を維持する。

 これをあり得ないと言わず何と言う。

 

 「ミレイア!」

 

 「この程度問題ない!」

 

 ティアマトは複列位相砲で牽制を行いながら、同時にドラグーンを四方へ展開する。

 並みのパイロットを上回る精度とアルタイルを超えるドラグーンの数がイノセントへ襲いかかる。

 

 「大佐は私が守るんだから! アレンは下がってよ!」

 

 「ミレイア、俺は君の感傷に付き合っている暇はない」

 

 アストはすでに他の敵を見据えていた。

 ムウが彼を感知したように、アストもまた倒すべき敵が戦場へ出て来た事に気がついていた。

 そして先程フォルセティから届いた敵側の異変。

 一刻も早くアルテミスへ向かう必要がある。

 こんな所で足止めされている暇はないのだ。

 

 「馬鹿にして! 私だって強化されたんだから!!」

 

 ティアマトの火力を一斉に解放。

 ミサイルの雨とビームの網がイノセントを囲い込む。

 

 「これで!!」

 

 しかし攻撃は届かない。

 イノセントを守るように張られたフリージアのフィールドがそれを許さないからだ。

 

 「突破できない!? ラディス!」

 

 「分かってるんだよ!」 

 

 ラディスの援護を受けながら、ロングビームサーベルを両手で引き抜く。

 さらに隠し腕も展開してイノセントへ向けて斬りかかる。

 

 「砲撃が通用しないなら!」

 

 「接近戦か? 思考が透けて見えるぞ」

 

 無数の腕から繰り出される縦横無尽の斬撃。

 だがアストは焦らず、盾を上手く使って流す。 

 

 「この手の武装で俺を倒したいなら、アスラン以上の技量を持ってから来い!」

 

 「馬鹿にして!」

 

 「事実を言っただけだ」

 

 隠し腕のサーベルをライフルで吹き飛ばし、腹部に向けて蹴りを入れた。

 

 「くぅぅ!?」

 

 蹴りの衝撃がミレイアに伝わり、ティアマトは大きく反応が遅れた。

 その間に背後へ回り込んだアストはビームライフルをティアマトに突きつける。

 

 「落ちろ」

 

 気づいたミレイアは思わず凍りつく。

 

 かわせない。

 

 死ぬ。

 

 死を意識したミレイアだったが、そこにラディスが割り込んできた。

 

 「やらせるかよ、ガンダム!!」

 

 アルタイルの複列位相砲がイノセントガンダムを狙い撃つ。

 完璧なタイミング。

 攻撃を仕掛けようとしていた奴に回避する術はない。

 その証拠に複列位相砲はイノセントに直撃した。 

 

 「やったか!?」

 

 しかし複列位相砲は砕いたのは白いガンダムでは無く、彼の機体の持つシールドであった。

 

 「シールドだけ!?」

 

 投棄された盾にラディスの注意が奪われた一瞬。

 

 イノセントのビームライフルがアルタイルのライフルを破壊。

 

 そのまま肉薄すると背中のビームソード『ワイバーン』をアルタイル目掛けて放出した。

 

 「えっ?」

 

 ラディスの眼前が眩い光に包まれていく。

 

 ビームソードはコックピットを斬り裂き、アルタイルは大きく爆散した。

 

 まさに一瞬。

 

 ラディスは自分が死んだ事すら気が付かなかったに違いない。

 

 「嘘? ラディスを……こうも簡単に?」

 

 ラディスの腕前を知っているミレイアはあっさり彼を倒したアストに対して戦慄する。

 

 「うわああああ!!」

 

 恐慌を起こしたように叫ぶミレイアはイノセントに向けて砲撃を繰り返す。

 だがそれが当たる事は無い。

 ビームの射線を見切ったかのような軌道を取るイノセント。

 攻撃は敵機を捉える事もできず、ガンダムはティアマトを牽制しながらアルテミスの方へ駆けていった。

 

 「待て! 待てェェェ!!」

 

 内に芽生えた恐怖を振り払うようにミレイアの絶叫が木霊した。

 

 

 

 

 邪魔な敵を排除しながらアストは感覚に任せてアルテミスに向かって歩を進める。

 

 「……来た」

 

 全身に走る感覚があの男が近くにいる事を教えてくれる。

 

 「待っていたよ、アスト・サガミ君」

 

 彼は――カースはそこにいた。

 

 アルテミスを背にイノセントへ向けてライフルの銃口を向けている。

 

 カースはかつての彼が乗っていた愛機を彷彿される機体に搭乗していた。

 

 半円形のバックパックを背負い、砲台と思われる突起が幾つも見えている。

 

 「……プロヴィデンス」

 

 「さあ、この戦争もそろそろフィナーレだ。存分に戦禍を撒き散らすと良い、『カウンターコーディネイター』!」

 

 カースの高らかな声と共にアルテミスのエンジンに火が点った。

 




機体紹介を更新しました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。