機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第46話 因縁に導かれ

 

 

 

 戦闘を避けながらアルテミスへ向かったユースティアガンダムは後部にあるエンジン部分へとたどり着いていた。

  

 「……報告通りか。エンジンが稼働している」

 

 設置されたエンジンは所々で光を発し、今にも点火しそうな状態だった。

 アスランは機体をアルテミスへ着地させ、コックピットから飛び降りる。

 

 「状況はどうか?」

 

 「大佐、それが……」

 

 作業していた兵士の表情は暗い。

 差し出された端末に目を落とせば、その状況がすぐに把握できる。

 

 「アクセスできない。完全にロックされている」

 

 「はい。これでは現状、物理的な排除くらいしか方法がありません。しかしそうなるとレクイエムにも影響が出る事になります」

 

 レクイエム発射における姿勢制御などを司っているシステムは後部エンジンのシステムと直結されている。

 これを物理的に排除すれば、アルテミスに多大な影響が出る事は間違いない。

 

 「このままエンジンが始動したとして、どういう事になる?」

 

 「起動しているのは左エンジンですので方向転換する事になるかと……方角はアポロン要塞方面ですね」

 

 「アポロン……」

 

 今はレクイエムの砲首を『グラオ・イーリス』艦隊の方へ向けている。

 

 それが牽制となり彼らの進軍速度を遅らせていた。

 

 しかし方向転換するとなれば、柔らかい横腹を自ら晒す事になる。

 

 つまり隙ができるのだ。

 

 だが逆にレクイエムでアポロン方面の敵を一掃出来れば、同盟の敗北は決まったようなもの。

 

 隙を突くグラオ・イーリスの進撃が早いか。

 

 レクイエムで同盟の戦力を一掃するのが早いか。

 

 一種の賭けである。

 

 「ずいぶん悪辣な事をしてくれる」

 

 一体誰が仕掛けたものなのか。

 

 いや、誰であろうが最悪な仕掛けである事に変わりはない。

 

 何故ならこれによって双方共に被害が大きくなる事は間違いないからだ。

 

 「誰の仕掛けだろうと、これ以上後手に回る前に――」

 

 アスランの言葉は突然起きた振動によって掻き消された。

 

 「大佐、エンジンの起動を確認しました! 同時にレクイエムのチャージも!」

 

 「チッ、エンジンを止めようとしたり、破壊しようとすると自動的に作動するようにセットされていたか……」

 

 アルテミスのエンジンは今にも点火するように光を発している。

 

 「くそ、そのまま作業を継続! コントロールを取り戻せ! 防衛部隊にレクイエムを守るように伝えろ!」

 

 「了解!」

 

 地面を蹴り、ユースティアのコックピットに飛び乗った。

 

 「乗るしかないようだな、この賭けに」 

  

 忸怩たる思いを噛み殺し、アスランはレクイエム防衛の為に再び戦場へ飛び出した。

 

 

 

 

 ギアから放たれたオルトロスの砲撃が宇宙を駆ける。

 砲口から迸る一射は容赦なくプレイアデス級のエンジンを砕き、貫いた。

 

 「良し!」

 

 指揮を執っていたハイネは沈む戦艦を見つめながら、内心安堵する。

 潰した特殊艦は6隻。

 これで簡単に砲撃を曲げ、艦隊に向ける事は出来なくなった。

 少なくとも特殊管を再配置するまでの時間は稼げた筈。

 

 「とはいえ、アルテミスがあれじゃな」

 

 アルテミスはエンジンを動かし、その矛先を別方向へ向けようとしていた。

 狙いは艦隊ではあるまい。

 

 つまり―――

 

 「一杯食わされたってか。たく、やってくれるよ、敵の指揮官はさ」

 

 敵の手腕を称賛しながら、頭を掻いた。

 とにかく徒労に終わったのは仕方がない。

 こちらが囮であった以上は此処に留まる理由はもうなかった。

 

 「各機、俺達もアルテミスに向かうぞ!」

 

 事前の打ち合わせ通りにアルテミスへ向かおうと踵を返す。

 その時、敵機接近を知らせる警告音が鳴り響いた。

 

 「チッ、行かせないってか。どこまで見透かしてるんだよ」

 

 近づいてきた敵機に向けて銃口を構える。

 

 視界に捉えたもの。

 

 それは―――

 

 「何だ……あれは? モビルアーマーか?」

 

 通常の機体よりも少し大きめ。

 

 形状は『異形』そのもの。

 

 それはユニウス戦役に投入されたとある機体を基に開発されたものだった。

 

 YMAG-X15D 『スカージ・リュカオン』

 

 地球軍が開発した大型モビルアーマー『スカージ』の発展型。

 基本的な武装は変更されていないが、その加速力と機動力はさらに向上し、ドラグーンも高威力の中型と機動性重視の小型とに分かれ、使い勝手も良くなっている。

 

 「……艦隊は潰された。情けないとは言わない」

 

 統合軍とて特殊装備の艦を捨て駒などに使う気など無かった。

 守備部隊にはそれなりの錬度を持った連中が配備されていたのだ。

 それを排除したというなら、それだけ敵が強かったという事になる。

 スカージのコックピットに座る№Ⅰはプレイアデス級を排除したハイネ達を高く評価する。

 

 「油断はできない。私も全力で潰させてもらう!」

 

 スラスターを吹かし、最大戦速。

 速度を上げたスカージがハイネ達へと突撃する。

 

 「速い!」

 

 横っ跳びで突撃してきた異形をかわし、ビームライフルを発射した。

 しかしスカージはそれを物ともしない。

 単純な速度だけで振り切っていく。

 

 「何て速度だよ! パイロットに掛かる負担だってかなりものの筈!?」

 

 高出力スラスターによる急加速のみならず、急制動に方向変換。

 パイロットには殺人級のGが降りかかっている筈だ。

 それを苦も無くやってのけるとは。

 

 「散れ!」

 

 射出された大量のドラグーン。

 部隊を囲むように展開され、一斉に砲撃を開始する。

 

 「何て数だよ!?」

 

 ハイネはシールドを構えつつ、ドラグーンの包囲から逃れようと試みる。

 一切後先考えない。

 スラスター全開で上昇する。

 でなくればハチの巣にされて終わりだからだ。

 

 「ぐぅ」

 

 装甲に掠めたビームの衝撃と体を襲うGに耐えつつ、難を逃れる。

 だが、共に戦っていた部隊の大半が先の砲撃の餌食となった。

 さらに追撃として対艦ミサイルの嵐が襲い掛かる。

 

 「くそ!」

 

 ミサイルを叩き落とし、距離を取ったリガル・ギアを№Ⅰはギロリと睨みつけた。  

 

 「逃れるか。お前が隊長機だな」

 

 №Ⅰは矛先をリガル・ギアへと向ける。

 背中の砲塔、高エネルギー砲『アウフプラール・ドライツェーン』が火を噴いた。

 過剰とも言える火力をどうにか回避する、ハイネ。

 しかし掠めた右のシールドはドロリと飴のように溶け落ち、その用途を果たせなくなる。

 その過剰な砲撃の被害は仲間たちにも降りかかり、約半数近くがこの短時間に撃墜されてしまった。

 

 「ぐっ、計器の一部がイカレやがった。この火力、まともな撃ち合いじゃ勝負にならない。お前らは少し離れて体勢を立て直せ!」

 

 盾を捨て生き残った仲間たちに指示を飛ばしたハイネはスカージを引き付けるように牽制する。

 

 「逃がすと思うか」

 

 射出された新たなドラグーン。

 リガル・ギアの進路を塞ぐように立ちはだかる。

 

 「邪魔だ!」

 

 複雑な機動で砲台の動きを翻弄しつつ、腰のハンドグレネードを炸裂させた。

 閃光と爆発が一瞬だけ砲台の動きを鈍らせる。

 

 「そこだ!」

 

 その隙に放ったビームライフルがドラグーンを破壊。

 ハイネは見事、包囲網からの脱出に成功した。

 

 「なるほど。隊長を任されるだけはある。しかし―――」

 

 再び加速するスカージ。

 リガル・ギアを軽く上回るその推力をもって即座に追随してきた。

 

 「ッ!?」

 

 「逃がさないと言った筈だ」

 

 ハイネに追いついたスカージは側面から『ウェポンシザーズ』を伸ばしてくる。

 その武器はまさにハサミ。

 嫌な予感を覚えたハイネは胴を掴まれまいと咄嗟に足を振り上げる。

 ウェポンシザーズはリガル・ギアの脚部を掴み、そのまま押しつぶすようにして切断した。

 

 「ぐぁああ!!」

 

 やはり、掴まれれば一巻の終わり。

 ハサミの間に見えた光はビームのものであるならば、VPS装甲ですら役に立たないだろう。

 

 「この野郎!」

 

 引き抜いた対艦刀をウェポンシザーズに叩きつける。

 しかしビームコーティングが施されているのか、対艦刀の刃は通らない。

 

 「そんなものは通用しない」

 

 「だが隙は出来たろ!」

 

 対艦刀を弾き、スカージの懐は大きく開いた。

 その隙にハイネはビームサーベルを突きつける。

 

 「これで!」

 

 「甘い」

 

 ビームサーベルがスカージに直撃しようとしたその瞬間、リガル・ギアは突如出現した腕に殴り飛ばされてしまった。

 

 「なっ!?」

 

 混乱するハイネの眼前には姿を変えたスカージが佇んでいた。

 

 その姿はすでにモビルアーマーではなく――

 

 「モビルスーツだと!?」

 

 装甲が解放され表に出てきたのはモビルスーツ。

 

 光るモノアイ。

 

 禍々しさを表すような装甲。

 

 伸びるウェポンシザーズ。

 

 それがよりこの機体の異常さを示していた。

 

 「これがスカージ・リュカオンの本当の姿だ!」

 

 背後のバックパックから伸びたハサミの間からリガル・ギアを狙い撃たんと砲口が姿を見せた。

 

 「やばい!」

 

 水平に姿勢を保ちながら下降したリガル・ギアの装甲を閃光が容赦なく剥ぎ取っていった。

 

 「しぶとい」

 

 「化け物め! デストロイなんかとは別物だな!」

 

 高出力スラスターを用いた加速力。

 

 常識から外れた規格外の砲撃力。

 

 ドラグーンや対艦ミサイルを用いた制圧力。

 

 そして変形機構による汎用力。

 

 デストロイとの共通点は見られるが、スカージのそれは明らかに上位版と言える。

 

 しかもパイロットまで一流以上となれば手が付けられない。

 

 「となると真っ向勝負は――」

 

 ハイネは脳裏で勝つ為の情報を整理する。

 その時、何故か昔に対峙した敵の事を思い出した。

 

 ユニウス戦役最後の戦い。

 

 相手にしたのは漆黒の装甲を持ったガンダム。  

 

 機体性能はこっちが圧倒的に上だった。

 にも関わらず敵はその性能差を覆し、相討ちにまでもっていったのである。 

 

 「皮肉なもんだな」

 

 今の状況はまさに逆。

 あの時の敵の気分をハイネは味わっていた。

 

 「ま、だからって諦める気なんてないけどな」

 

 仲間達が命懸けで戦っているのに、自分だけ負けてはいられない。

 差し向けられたドラグーンと砲撃に背を向け、ハイネは出来うる限りの速度を持って離脱を図る。

 

 「逃がさんと言った」

 

 それを№Ⅰが見逃す筈もない。

 再びモビルアーマー形態へと変形したスカージはリガル・ギアを追って加速する。

 損傷したリガル・ギアとスカージでは推力に差があり過ぎた。

 距離は徐々に詰まり、ウェポンシザーズの脅威がリガル・ギアへと迫る。

 

 しかしその前に―――スカージを複数の砲撃が狙い撃った。

 

 「何!?」

 

 巨体に似合わない機動性で砲撃をどうにか回避。

 攻撃してきたものを視界に捉えた。

 

 「アレは――」

 

 視線の先にいたのはオルトロスを装備したギア部隊。

 数機が隊列を組んで獲物が網の掛かるのを待ち構えていた。

 №Ⅰはそこに来てハイネの目的を看破する。

 

 「逃げ回っていたのは砲撃部隊の体勢を整える為の時間稼ぎか!?」 

 

 「今だ!!」

 

 ハイネはすぐ様反転、スカージに向けて突撃する。

 

 「うおおお!!」

 

 「ッ!?」

 

 二本の対艦刀を突き刺し、スラスターを全開。

 スカージの進路を無理やり変えて、岩片へと叩きつけた。

 

 「ぐあああ!」

 

 「悪いな!」

 

 コンソールを素早く叩き、コックピットハッチを解放したハイネは外へと飛び出す。

 

 「自爆する気か!?」

 

 「気づいても、もう遅いって!」

 

 ウェポンシザーズで組み付いたリガル・ギアを引き離そうとするも、時既に遅し。

 ハイネを回収した味方機が距離を取った所でリガル・ギアは爆散。

 スカージ・リュカオンを巻き込んで、大きな火球を生み出した。

 

 「全機、撃てェェ!!」

 

 さらにオルトロスによる追撃。

 無数のビーム砲が火球の中に吸い込まれ、さらに炎を燃え上がらせる。

 

 「これであの化け物も」

 

 「ま、仮に撃墜は出来てなくても、結構な痛手は与えた筈だ」

 

 回収してくれたパイロットと共に希望的な観測を口にしながら、ハイネは未だ消えない火球の方に視線を向ける。

 

 あれだけの砲撃を受ければいくらあの化け物モビルアーマーと言えども―― 

 

 そう考えはするものの、やはり不安は拭えない。

 

 「……一度フォルセティに戻るぞ。体勢を立て直す」

 

 「了解しました」

 

 どの道一度は戻られば戦う事はできない。

 

 湧き上がる焦燥感を押し殺しハイネ達はフォルセティへの進路を取った。 

 

 

 

 

 プロヴィデンス。

 

 ヤキン・ドゥーエ戦役にて投入されたモビルスーツである。

 

 その性能とパイロットの技量も相まって当時最強の一機にかぞえられていた。

 

 アストもヤキン・ドゥーエ戦役で最強と相対した事がある。

 

 あの時は痛み分けだったが、今日はそうはいかない。

 

 故にアストは初めから全力で。

 

 躊躇う事無くSEEDを発現させる。

 

 e.s.デバイスの稼働。

 

 いつも以上に鋭くなった感覚に身を委ねトリガーを引いた。

 

 「クルーゼ!」

 

 一気に速度を上げ接近しながらビームライフルでプロヴィデンスにビームライフルを叩き込む。

 

 あの機体相手に遠距離戦は絶対的に不利。

 

 ドラグーンによる攻撃に晒される前に接近戦に持ち込む。

 

 「そう来ると思っていたよ」  

 

 だがアスト-の動きを読んでいたカースはすでに射出していたドラグーンをイノセントへけし掛けた。

 

 素早く、そして確実に砲台がこちらへ狙いをつけてくる。

 

 「ッ!?」

 

 走る直感に任せ、素早く操縦桿を動かす。

 アストの反応に応えたイノセントは完璧に追随し、走る光線を見事に回避して見せた。

 

 「ほう、素晴らしい反応だな」

 

 感心するカースとは裏腹にアストは冷や汗を流していた。

 分かってはいたが、今までに戦ってきた敵とは比較にならない精度。

 僅かでも気を抜けば、その時点で機体を無数の光線が貫く事になるだろう。

 

 「チッ、鬱陶しい程の数と精度だな!」

 

 ドラグーンの動きを感知すると同時に素早く反応。

 スラスターを全開にし、ビームの嵐を振り切っていく。

 

 「こればかりはユリウスよりも秀でていると自負しているよ!」

 

 その動きを読んでいたカースはイノセントに大口径ビームライフルを叩き込んだ。

 

 「くっ」

 

 強烈な攻撃をシールドで防御する。

 だが動きを鈍らせたイノセントをカースは見逃しはしない。

 砲台をコントロールしながら横薙ぎに払うプロヴィデンスの斬撃が炸裂した。

 ドラグーンのビームが機体に浅い傷を刻みつけ、斬撃を受け止めたナーゲルリングからは衝撃が伝わってくる。

 

 「ッ!?」

 

 「今のを止めるとは流石は『カウンターコーディネイター』だな!」

 

 「……この機体は」 

 

 立ちはだかる機体は明らかにプロヴィデンスの後継と言える力を有している。

 

 しかしどこか違和感のようなものを感じていた。

 

 e.s.デバイスにより、通常以上に研ぎ澄まされた感覚が、その違和感を見逃さない。

 

 「まさかサタナエルか!?」

 

 ZGMF-X97 『プロヴィデンス・ルキフェル』

 

 ヤキン・ドゥーエ戦役で投入されたプロヴィデンスのデータを基に開発された強化パーツをサタナエルに装着した機体。

 パーツ全体に配置された小型スラスター類とバーニアユニットによって非常に高い機動性を維持したまま、防御力強化に成功している。

 さらにドラグーンユニットも高出力化と同時にビームフィールドの発生が可能になっており、隙の無い機体へと仕上がっている。

 

 「この機体は以前のものとはまた別物だと思ってもらおう!」

 

 さらに速度を上げたドラグーンの動きに合わせ、プロヴィデンスもまた加速しながらビームライフルを発射してきた。

 

 言葉の通り、前とは別物。

 

 サタナエルの機動性に、プロヴィデンスの火力が加わった別個の機体である。

 

 「舐めるなよ!」

 

 より速く。

 

 より正確に。

 

 機体の操作を行いながら、アストは反応速度を上げていく。

 

 二機の戦いはもはや常人の立ち入る事ができない魔の空間と化していた。

 

 「ハアアア!!」

 

 ビームライフルを片手に、引き抜いたサーベルで砲台を斬り飛ばした。

 

 「恐ろしいものだな、君の力は! ―――いや、君達の力はというべきかな」

 

 「何だと!」

 

 「誰しも君らを羨むだろう、それ程の力を持っていたならば!」

 

 カースの怒声に合わせ発射されるビームライフル。

 急所を狙う一撃を捌き、アストもまたライフルを撃ち返した。

   

 「相変わらずのご高説だな! もう聞き飽きたんだよ!」

 

 「何度でも言うさ! それが真実なのだからね!

 

 上下に配置されたドラグーンによる同時攻撃。

 アストは機体を捻りつつ、ワイバーンを放出。

 回転する機体と共に伸びた光刃がドラグーンを叩き落とす。

 

 「人はあさましくも妬み、憎み、奪い合う! 君とて何度も見た筈だ!」

 

 「例えそれが真実でも人は変われる! これからだっていくらでも!」  

 

 「では変わったのか? ヤキン・ドゥーエから此処まで! 変わりはしない、何一つ!」

 

 激突する剣撃。

 

 サーベルとビームソードがシールドに弾かれ、二機は激しく鍔競り合う。

 

 「性急に答えを得ようとするから!」

 

 「ただ現実から目を反らしているだけだろう!」

 

 アストはプロヴィデンスの一太刀を機体を仰け反らせて回避する。

 しかしカースの攻勢は止まらない。 

 仰け反ったままのイノセントに向けてビームライフルの銃口を突きつけてきた。

 

 「ッ、行け!」

 

 アストは悪手と分かっていながらフリージアを射出する。

 展開されたフィールドがプロヴィデンスの攻撃を防御した。

 

 「ドラグーンか。しかし、私にそれは通じんよ!」

 

 カースの正確な射撃が基点となるフリージアを捉え、いとも容易くフィールドを無効化してみせる。

 

 「やっぱりか」

 

 アストは今まであえてプロヴィデンスに対し、フリージアを使用しなかった。

 それは武装の消耗を出来るだけ避けたいという思惑があったからだ。

 カースの特殊な空間認識力に加え、ドラグーンを操る技能は脅威的。

 使ったとしても囮にすらならない。 

 今のフリージアとて使う気は無かった。

 『使わされてしまった』のである。

 

 「ドラグーンなんて焼け石に水。無駄に装備を失うだけだ」

 

 奴を仕留めるとしたら接近戦しかない。

 そう決めたアストはプロヴィデンスに肉薄する。

 

 「ハアア!!」

 

 作られた光の網の目を抜け、斬艦刀を振り下ろした。

 容赦なく振り抜かれた一撃はプロヴィデンスの装甲を抉り、返す刀で放った一太刀は装着されていた数機のドラグーンを切り捨てる。

 それでも流石はカース。

 見事な機体動作で刃を避け、イノセントの背後に回り込み装着されたビームソードを突き出してきた。

 

 「オオオオオ!」

 

 研ぎ澄まされた感覚を総動員して、操縦桿を操作する。

 背中を抉るだろうビームソードを前にアストは防御ではなく反撃を選んだ。

 ワイバーンを展開し、プロヴィデンスの視界を塞ぎ、スラスターを逆噴射。

 刃が届く直前に背中から体当たりを食らわせた。

 

 「ぐっ」

 

 「そこ!」

 

 「舐めないでもらおう!」

 

 腰に装着されたビーム砲がイノセントに装甲に傷をつけ、振り向きざまの一撃がプロヴィデンスのビームソード発生装置を斬り潰した。

 

 「仕留め損ねた!?」

 

 カースの技量に舌を巻きつつ、次の攻撃を仕掛けようとする、アスト。

 しかしそこでアルテミスの異変に気がついた。

 

 「何? アルテミスが方向を変える、この状況で?」

 

 アレでは自ら攻めてくれと言っているに等しい。

 訝しむアストだが、ある事が脳裏を過る。

 

 「……レクイエムの矛先はどこに向かって―――」

 

 「アポロンだよ」

 

 アスランがこんな無謀な賭けに出てくるとは思えない。

 なら可能性は一つ。

 

 「レクイエムが発射されれば、アポロンに集結していた部隊は軒並み大打撃を受ける事になるだろう。それこそ陣営問わずにね」

 

 「貴様!」

 

 「君は此処で見ていると良い。新たに刻まれた戦禍が世界を蝕んでいく瞬間を!」

 

 「ふざけるな!」

 

 プロヴィデンスをかわし、アルテミスに向かおうとするが展開されたドラグーンがそれを許さない。

 イノセントの進路を塞ぐようにビームの檻が作り出される。

 

 「君の相手は私だよ!」

 

 カースの涼やかとすら言える声色に激しい苛立ちを感じながら、声を上げようとした。

 

 その時―――

 

 

 「いや、貴様の相手は俺だ! ラウ・ル・クルーゼ!!」

 

 

 「「ッ!?」」

 

 

 アストとカースは同時に声の主を感知する。

 

 誰も入れない魔窟ともいえる空間に飛び込んできたのは黄金のモビルスーツ。

 

 ムウ・ラ・フラガの操るアカツキだった。

 

 「来たか、ムウ!」

 

 「ムウさん!?」

 

 「待たせたな」

 

 アカツキはビームライフルを構えてイノセントとプロヴィデンスの間に割り込んできた。

 

 「アスト、こいつの相手は俺に任せてお前はレクイエムを止めに行け!」

 

 「でも、幾らムウさんでもクルーゼの相手は!」

 

 「おいおい、こいつは元々俺の相手だっての! いいから行け、命令だ!」

 

 「……分かりました。これを」

 

 斬艦刀『バルムンク』をアカツキへ譲渡。

 この場を任せたアストはアルテミスへと向かう。

 離れていくイノセントを視線で追いながら、立ちはだかるアカツキの姿にカースは失笑を漏らした。

 

 「アスト・サガミを行かせるとは。足止めのつもりか? 愚かだな」

 

 「何言ってる。足止めのつもりなんてないさ。貴様は此処で俺が倒すんだからな!」

 

 「思い上がるなよ、ムウ!」

 

 アカツキとプロヴィデンスは同時に動き出す。

 

 宇宙を舞う砲台と共に続く因縁の決着を着ける戦いが始まろうとしていた。  

 

 

 

 

 方向を変えるアルテミス。

 その動きに危機感を覚える『グラオ・イーリス』だが、防衛部隊の奮戦によりに上手く攻勢に出られずにいた。

 そんな中、グラオ・イーリス所属の機体で最もアルテミスに近い位置にいたのはアイテルとフリーダムである。

 しかし彼女達もまた立ちふさがる『デモリッション』に足止めを余儀なくされていた。

 

 「こんな所で足止めされてる訳にはいかないのに!」

 

 マユとセリスもレクイエムの砲塔が別方向へ向く事へ危機感を覚えていた。

 しかしデモリッションを突破しなくては、アルテミスへは近づけない。

 砲撃は止む気配すらなく、思う存分空間を蹂躙していく。

 

 「ッ!?」

 

 ビームシールドで防いでいるにも関わらず、二機のガンダムはその圧力と火力によって未だデモリッションの懐に入れないでいた。

 

 「マユちゃん、聞いて。こいつは私がやる。貴方はアルテミスに向かって!」

 

 「セリスさん!? でも!」

 

 「時間が無い、目的をはき違えないで! 私達の目標はレクイエムの破壊! それにアレンだってアルテミスに向かった筈。守りたいんでしょ!」

 

 「ッ……了解!」

 

 アイテルはビームシールドを最大出力で展開する。

 巨大な光盾が二機の姿を覆い、砲撃の脅威から身を守る。

 

 「行くよ!」

 

 「はい!」

 

 セリスは撃ちこまれた砲撃を防ぎつつ、デモリッションの注意を引きつける為に前に出た。

 

 「貴方の相手は私よ!」

 

 飛び回るビームクロウを弾き飛ばし、至近距離からアサルトブラスターキャノンを叩き込む。

 発射された砲撃はデストロイ級程の威力は無いが、アイテルの攻撃は強力なものだった。

 敵に防御態勢を取らせるには十分。

 マユはその間にアルテミスへと離脱した。

 

 「……逃げる?」

 

 蒼い翼を翻し去っていくフリーダム。

 

 その後ろ姿にエリニス自身、何か良く分からないものが少しづつ蓄積していく。

 

 それは何かドロドロとした感情だった。

 

 しかし今のエリニスにはそれが良く理解できない。

 

 浮かび上がるは自分の記憶。

 

 最初に見えたのはベットに寝かされた自分の姿だった。

 怪我をしているようで全身血で濡れ、特に顔面は原形が分からない程に潰れ、包帯でグルグル巻きにされている。

 

 元々軍人だったのか。

 

 戦闘に巻き込まれたのか。

 

 そこまでは覚えていないが、このまま放っておけば確実に死ぬだろう。 

 今にも死神に運ばれて行きそうな自分の傍に佇んでいたのはパイロットスーツを着た黒髪の男と研究者風の女性。

 

 《彼女を使われるので?》

 

 《このままでは死ぬわ。どうせ死体になるのなら有効に使わせてもらいましょう》

 

 そう穏やかな声色で言った女には狂気と決意が見て取れた。

 

 次に見えたのは戦場。

 

 先ほどまでの怪我は癒え、顔も綺麗すぎる程に治療されている。

 

 その顔は『今』と全く同じ顔だ。

 

 何の疑問も抱かず自分はモビルスーツに乗り、とある戦場へと向かっていた。

 

 作戦名『オペレーション・フューリー』 

 

 目標はオーブ。

 

 シグーディバイドと呼ばれた悪魔の機体の操縦桿を握り、そこを蹂躙する為に。

 

 だが、それは叶わない。

 

 何故ならばそこに光を纏った天使が現れたから。

 

 蒼き翼を翻し、圧倒的な力でもってすべてを蹂躙する熾天使が。

 

 ある者は斬り裂かれ、ある者は撃ち落とされる。

 

 圧倒的だった。

 

 アレには敵わない。

 

 自分も例外ではなく、あっさりと熾天使によって撃ち落とされてしまった。

 

 運よく生き延びたが、それでも結末は変わらない。

 

 ユニウス戦役最終決戦。

 

 そこでもまた形状の違うが蒼い翼のモビルスーツによって蹂躙されてしまった。

 

 結果的に生き延びても自分の末路は死んでいくだけ。

 

 漂う宇宙のゴミになる。

 

 そんな時だ。

 

 彼が自分を回収したのは。

 

 仮面を纏う男カース。

 

 彼によって救われた。

 

 だから恩義に報いる為に力が必要だった。

 

 その為ならば精神が壊れようが、他者の意識に乗っ取られようが関係ない事。

 

 リースという負け犬だって受け入れよう。

 

 そもそも初めから『その為に用意された個体』なのだから躊躇う理由もない。

 

 すべては自身を救ってくれたカースの為に。

 

 「……熾天使……いや、邪魔者は誰であろうとも」

 

 脳裏にへばり付く妄執を振り払い、斬りかかってくるアイテルへ砲口を向ける。

 

 「貴様らを排除する!」

 

 「私だって教官の仇討ちをさせてもらう!」

 

 「寝ぼけた事を言うな!」

 

 デモリッションすべての火力を解放。

 艦隊すら相手にできる砲撃を一機のモビルスーツへ集中させた。 

 

 「ぐぅぅう!!」

 

 砲撃と光盾が激突。

 強烈な稲光がセリスの視界を埋め尽くしていく。

 

 「馬鹿みたいな火力を!」 

 

 「しぶとい」

 

 砲撃の圧力に必死に抗いながら、改めてセリスはデモリッションの攻略方法を頭の中でシミュレートする。

 その中でやはり現実的なのは接近戦。

 デストロイ級との戦闘では基本となっているが、このデモリッション相手も同じ方策で問題ない。

 

 しかし課題が二つ。

 

 艦隊すら相手取る強烈な砲撃。

 

 核となるベルゼビュートがドラグーンでコントロールしている飛び回る盾と言っても過言ではないビームクロウ。

 

 これらを攻略しなくてはデモリッションの懐へ入る事さえ難しい。

 

 「この!」

 

 砲撃の合間にこちらの最大武装を叩き込む。

 しかし当然だがアイテルの最大武装『アサルトブラスターキャノン』は通用しない。 

 すべて陽電子リフレクターによって防がれてしまう。 

 

 「効くものか」

 

 「焼け石に水。嫌になるなぁ、牽制にすらならないなんて。ハァ、覚悟を決めますか」

 

 セリスは深呼吸すると意識を集中、SEEDを発現させた。

 

 鋭く広がる感覚。

 

 指先にまで行き渡る力を確かめ、操縦桿を握り直す。

 

 「機動性で勝負!」

 

 下した結論がそれだ。

 

 砲撃を防ぐ事は出来るが、隙はない。

 

 合間を縫って攻撃しても隙は生まれず、牽制にもならない。 

 

 ならば持ちうる機動性をフルに使い懐に飛び込むだけの事。

 

 後はセリスの腕次第。

 

 アイテルを飲み込むほどに野太い一撃であるスキュラを最低限、ギリギリの位置で回避する。

 そのままデモリッションへの突撃を敢行する。

 

 「どんなに強力だろうと当たらなければ!」

 

 撃ちかけられるビームの弾丸。

 

 それらを正確な機体操作ですべて躱す。

 

 上へ下へ。

 

 右へ左へ。

 

 複雑な機動を取りつつ、確実に前へと近づくアイテル。

 

 それでも強力な火力の影響は確実に機体を蝕んでいく。

 

 紙一重で躱す度に機体が炙られるように熱せられ、時に装甲を抉る。

 

 「こんなもの!」

 

 当たれば即死亡という綱渡り。

 

 そんなものを続け明らかに異常の出る機体を叱咤するように叫ぶ。

 

 纏ったマントの半分が燃やされ、装甲に無数の傷が刻まれる。

 

 だが、セリスはそれでも止まらない。

 

 前に。

 

 前に。

 

 前に進む。

 

 進み続け、敵を倒す為に。

 

 だがそこで案の定立ちふさがるビームクロウ。

 

 砲火へ加わり、こちらを食い破らんと牙を剥く。

 

 「邪魔ァァァ!!」

 

 シールドの役割を持つそれらに射出されたロケットアンカーが突き刺さった。

 アンカーの突き刺さった二つを引っ張り、激突させてコントロールを鈍らせる。

 そして発射された砲撃の中へと叩きつけて破壊した。

 その隙に一気にアイテルが距離を詰める。

 

 「ハアアアア!!!」

 

 大剣を構えデモリッションの核であるベルゼビュートへ斬り込んだ。

 

 「この距離なら!」  

 

 振り下ろされる大剣。

 しかしそれを前に敵も動き出した。

 中央装甲の一部が解放、ベルゼビュートを守るように砲口が姿を見せたのである。

 

 「ッ!?」

 

 セリスは咄嗟に機体を捻るも、無常にも発射された砲撃がアイテルの肩と足を吹き飛ばした。

 

 「ぐぅ!?」

 

 そのまま後ろへ流されそうになるも、直前でアンカーを発射。

 デモリッションの装甲へ突き刺し、離れないように機体を固定する。

 

 「この距離なら!」

 

 アサルトブラスターキャノンの一撃が至近距離から火を噴いた。

 砲火がデモリッションの装甲を破壊し、左腕の動きが格段に鈍る。

 

 「……損傷拡大。左腕部に深刻なダメージ」

 

 「この機会は逃さない!」

 

 素早く抜いた二本のビームサーベルをデモリッションの胸部へ突き刺す。

 

 「くっ、おのれ」

 

 突く刺さったサーベルの衝撃に呻きつつ、エリニスも至近距離からアイテルへ砲撃を発射した。

 

 「落ちろ、ガンダム」

 

 「この!」

 

 セリスは咄嗟にビームシールドを展開、砲撃を防御する。

 しかし至近距離故に凄まじい負荷と圧力がアイテルへ襲いかかる。

 

 「っぅぅぅ!」

 

 鳴り続ける警告音。

 

 異常を知らせる表示画像。

 

 限界なのは重々承知。

 

 しかしこの機は逃せない。

 

 だが損傷した肩の影響の為か、腕が限界を迎え火を噴き、爆発する。

 

 「ッ!?」

 

 「私の勝ちだ!」

 

 装着された装甲を排除。

 上半身が自由になったベルゼビュートが動けないアイテルへビームソードを降り下ろした。

 

 「いいえ、勝つのは私!」

 

 セリスがワイヤーを切り離し、腕の爆発を利用し斬撃を回避。

 さらにボロボロになった防御マントをベルゼビュートへ投げつけた。 

 

 「何っ!?」

 

 マントがエリニスの視界を遮る。

 

 時が止まったかのように一瞬だけ、デモリッションの動きが止まった。

 

 「落ちろ!」

 

 それを見逃さず、セリスは大剣を投げつけた。

 

 宙に漂うマント諸共ベルゼビュートに大剣が突き刺さる。

 そして刀身から発生したビーム刃が内部からベルゼビュートを食い破り、串刺しにした。

 エリニスは意識する間もなく押し潰され、肉片も残らず焼きつくされる。

 ベルゼビュートの爆発に巻き込まれ、残った装甲も連鎖的に宇宙の藻屑へ変わっていく。

 

 地獄から甦った悪魔は、戰女神に代わる戰乙女によって討ち倒された。

 

 「ハァ、ハァ……やりましたよ、教官」

 

 とはいえアイテルも限界だ。

 装甲はボロボロ。

 スラスターも破損し、武装も大半が使用不可。

 セリス自身ももはや戦える状態ではない。

 極度の疲労と衝撃による全身打撲。

 意識を保つことすら厳しい。 

 

 「酷いなぁ、これ。しょうがない……後は皆に任せるかな」

 

 爆散するデモリッションを見届けながら、セリスも意識を失った。

 




少し遅れてしまいました。
実は最近、今さらながらTwitterをはじめたのですが、使い方がよくわからずに四苦八苦してました(汗

機体紹介3を更新しました。
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