機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第49話 天使に抱かれて

 

 

 

 

 展開されたバウの特殊シールド『オハン』

 ドラグーンシステムの応用でシールドから射出されたフィールド発生装置によって巨大かつ強力な防御シールドを展開できる特殊兵装。

 まさに鉄壁の防御を誇るこの兵装を前にハイネ達攻撃部隊は手こずらされていた。

 

 「チッ、面倒な装備だな、アレは!!」

 

 飛行形態のスオウを操りながら、ハイネは思わず毒づいた。

 その気持ちは攻撃隊の誰もが思う所だった。

 ビームやミサイル。

 遠距離からの攻撃はすべて防ぐ上、接近戦を仕掛けようにもバウがそれをさせないように動く。

 さらに接近に成功したとしても、流石は最新鋭の機体。

 パイロットも精鋭ぞろいらしく、すべて上手く捌かれてしまう。

 

 「攻撃だけじゃなく防衛にも手を抜かないってか。指揮官の性格が出てるぜ」

 

 味方ならば頼もしいのだろうが、敵に回せばすこぶる厄介だ。

 

 「それでもやるしかないんだけどな!」   

 

 敵部隊に向けビームライフルで牽制しつつ、バルカン砲を発射する。

 しかし隊列を崩す事もできずオハンのビームシールドによって全弾防がれてしまった。

 

 「けどそれは織り込み済みだ!」

 

 スオウの後方から連携を組んだグロム・ヴィヒターが突っ込んでくる。

 弾幕を張り、敵シールドギリギリの位置まで接近すると四方へ散開した。

 同時に発射されるミサイル。

 バウはそれを防ぐ為、それぞれ防御体勢に入った。

 

 「そこ!!」

 

 その隙に別方向から突撃するシークェル・インパルス。

 当然、バウもその接近には気が付くもすでに遅い。

 翼から放出される光を纏いグロム・ヴィヒターを上回る速度で間合いを詰めると斬艦刀を突き出した。

 

 「落ちなさい!」

 

 シールドでカバーしきれない死角を突いた一撃はバウの装甲を軽々と貫通。

 腹部に深々と突き刺さりパイロットを斬り潰した。

 

 「これでようやく三機目!」 

 

 さらに追撃して、数を減らそうとするが敵はすぐさま体勢を立て直しインパルスを引き離しにかかる。

 

 「くっ」

 

 「流石に手強いな。フォルセティは?」

 

 振り返った先には速度を上げアルテミスに向かう戦艦の姿が見える。

 あのまま外壁に取りつき、内部に侵入するつもりなのだろう。

 

 「ルナマリア、こっちは俺達でどうにかする。お前はフォルセティの援護に向かってくれ!」

 

 「分りました!」 

 

 反転したインパルスを見送り、再び攻勢に入るハイネ。

 その少し離れた地点に砲撃を繰り出しながらフォルセティがアルテミスの外壁へ取りつこうとしていた。

 狙われた砲撃を避けつつ、船体が窪んだ岩陰に身を顰める。

 それを確認したイザークは待機していた格納庫で陸戦隊を叱咤するつもりで声を張り上げた。

 

 「行くぞ、くれぐれも油断するな。目的はコントロールルームの確保だ!」

 

 「「了解!!」」

 

 パイロットスーツに身を包み武器を構えたイザークが先陣を切るように床を蹴った。

 

 「艦長、どうされました?」

 

 陸戦隊の一人が表情の優れないイザークを気遣うように声を掛けてくる。

 

 「いや、少しな」

 

 こういった作戦になるとどうしてもあの件を思い出すのだ。

 

 今は無きヘリオポリスの事を。

 

 あの時こそ、自分の行く末の分岐になっていた。

 

 そう思うと何とも複雑な気分である。

 

 しかし―――

 

 「あの時とは違う」

 

 思い浮かぶ家族の顔。

 

 自分には絶対に守らねばならない存在が出来たのだ。 

 

 故に退くという選択はない。

 

 改めて気を引き締めアルテミス内部へと足を踏み入れる。 

 

 敵はすでに侵入を察していたのか、格納庫に入った瞬間に銃弾が飛んできた。

 

 「チッ、簡単にはいかないか」

 

 全員が格納庫に置いてあったコンテナの陰に身を潜め、銃弾を避けながら隙を窺う。

 

 「敵も必死だな。しかしこんな所で足止めされている暇はない!」

 

 敵からの銃撃に攻めあぐね、無理やりにでも突破口を作り出そうと考えていた時、轟音と共にインパルスが突入してきた。

 

 「ルナマリアか!?」

 

 「下がって!」

 

 ルナマリアの警告にイザーク達は迷わず床に伏せる。

 同時に開始された激しい機関砲の銃撃音が格納庫に響き渡る。

 インパルスの機関砲によって積みあげられたコンテナごと敵兵はすべて排除された。

 

 「助かったぞ、ルナマリア! お前はフォルセティの護衛を!」

 

 「了解! 艦長も気をつけて下さい」

 

 外へ飛び出すインパルスを尻目にイザーク達は内部へと突入していく。

 

 同じ頃。

 

 別の突入口ではイノセントガンダムとユースティアガンダムが激しく鍔迫り合いを行っていた。

 

 「行かせはしない!」

 

 「アスト・サガミィィィィ!!」

 

 フォルセティを叩こうとするユースティア。

 

 行かせまいとするイノセント。

 

 オートクレールとビームサーベルが何度も交差し、光が弾け飛んでいく。

 

 「ぐっぅぅぅ!!」

 

 噴射されるスラスター。

 

 高速で移動しながら壁や床に擦れる装甲。

 

 苛烈な剣撃とバルカン砲の応酬で床は抉れ、壁は無惨に破壊されてしまう。

 

 それでも二人は止まらない。

 

 激しい剣の応酬を繰り広げていく。

 

 「どうやら此処ではその剣を上手く振れないようだな!」

 

 「貴様!」

 

 確かに狭い要塞内部ではオートクレールを上手く使えなかった。

 しかも過剰な火器も使用できない。

 立場は逆だが第二次ヤキン・ドゥーエ攻防の焼き直しのような展開だ。

 それがアスランの闘志にさらに火を灯す。

 

 「前と同じだと思うなよ!」

 

 片方のオートクレールを収納し、代わりにビームサーベルを構える。

 

 「実体剣を盾に使う気か!」

 

 アストもまたナーゲルリングを引き出し、上段から繰り出されるユースティアの斬撃を受け止めた。

 

 「ぐっ、この!」

 

 押し込まれる刃を弾き飛ばし、バルカン砲を撃ち込んだ。

 狙うは破損し崩れかけになっている壁。

 砲弾が撃ち込まれた壁は崩れ落ち、イノセントとユースティアの間に瓦礫が積み上がった。

 

 「そんなもので!」

 

 この程度の瓦礫などモビルスーツの火力なら簡単に排除できる。

 機関砲で邪魔な物を排除しようとトリガーに指を掛けた。

 しかしそこでアスランの手が止まる。

 

 「まさか」

 

 すぐにモニターを拡大する。

 イノセントから降りていくアストの姿が映っていた。

 

 「モビルスーツを乗り捨てた? 生身でレクエイムを止める気か!」

 

 それはアスラン個人としての意思以上に統合軍として阻止せねばならない事だった。

 もしもレクイエムが落ちれば、その時点でアルテミスも同じく落ちる。

 物量で勝っていても、要塞が陥落すればその時点で勝負が決まってしまうだろう。

 

 「させるものか!」

 

 手持ちの銃を構え、アスランもまた外へと飛び出す。

 

 そのまま銃撃の音が響く方向へと走り出した。

 

 

 

 

 イザーク達がアルテミス内部へ向かったのを見届けたルナマリアはフォルセティを守る為に戦線へと復帰していた。

 ハイネ達もバウとの攻防から、すでにこちらの防衛に加わっている。

 

 「しかし数が多いわね」

 

 統合軍の攻勢は衰える事を知らない。

 数で圧倒しながらこちらを沈めようと迫ってきている。 

 

 「……アレンは」

 

 先行した筈のアストの姿は何処にも見えない。

 通信にも応答なしだ。

 彼に限ってやられたという事はないだろう。

 だが、位置が分からないのは流石に心配であった。

 

 「アレンなら心配ないさ」

 

 インパルスの横に並ぶハイネのスオウ。

 ライフルで敵を牽制しながらルナマリアの心情を見透かすよう軽く言った。

 

 「アイツが簡単にやられる筈がないからな」

 

 「それはそうですけどね」

 

 それでも気になるものは気になるのだ。

 

 「何にせよ、此処を守り切らなきゃ、アレンの所にはいけないぞ!」

 

 「分ってます!」

 

 敵の砲撃を奪い取った『オハン』のシールド防ぎ、反撃とばかりに高エネルギー収束ライフルを発射。

 強力なビーム砲の一撃が敵の陣形を崩した。

 

 「良し、あそこから一気に―――ッ!?」

 

 前に出ようとした同盟を阻止するように砲撃とミサイルを撃ち込んでくるのは黒いアークエンジェル級サリエル。

 まるでこのタイミングを狙っていたかのような嫌らしい攻撃で部隊の陣形を乱してくる。

 

 「こっちが攻勢にでようとしたタイミングで!」

 

 「上手いですね、あの艦の艦長は」

 

 さらには追い詰めた筈のバウも体勢を立て直し、サリエルと連携を始める始末。

 おかげでこちらは完全に出鼻を挫かれてしまった。

 

 「チッ、くそ。あの艦のお陰でやりづらい!」

 

 モビルスーツとの連携も巧みさ。

 

 こちらの動きを見透かし、絶妙なタイミングで妨害を行ってくる戦術眼。

 

 さぞ名の通った艦長が艦の指揮を執っているのだろう。

 

 「たく、まずはあの艦を叩くぞ!」 

 

 サリエルの砲火を潜りつつ、攻撃を指揮しようとしたハイネは目の前に現れた機体に瞠目する。

 

 「なんだと!」

 

 スカージ・リュカオン。

 

 変形する事も出来ないのか、モビルスーツ形態のままだ。

 

 見ただけでも分かるが全身ボロボロでとても戦える状態ではない。

 

 それでも機体越しに発せられる殺気はまるで衰えていなかった。

 

 「知ってるんですか、あのカニモドキ」

 

 「ああ。痛い目にあわされた挙句、機体も捨てなきゃならんほど追い詰められた」

 

 あの時も倒した気配が無かったから気にはなっていたが、まさか本当に無事だったとは。

 さらにあんな状態にも関わらず、戦闘区域から離脱しなかった事も驚きだった。

 

 「なるほど。手強い相手って事ですね。……後、見覚えのあるもの持ってます」

 

 片方しかないウェポンシザーズは破損したモビルスーツの腕が掴んでいる。   

 その特徴的な金色の装甲は十分に見覚えのあるものだった。 

 

 「アカツキのか」

 

 「ではフラガ一佐は」

 

 「いや。断定するにはまだ早いぜ。腕しか持ってないからな。それよりも油断するな、あんな状態でも奴は手強いぞ」

 

 「了解」

 

 正直、ハイネ達の攻勢を受けた後でアカツキを倒したというのは信じがたいが。

 何にせよ油断できる相手でない事だけは確かだった。

 武器を構えるインパルスとスオウ。

 相対するスカージのコックピットに座る№Ⅰは限界に近い状態でありながら、戦意を漲らせている。

 

 「サリエルは、やらせない」

 

 №Ⅰがチラリと視線を向けるとサリエルは敵を牽制しながら、ゆっくりと後退していく。

 

 「それでいい。お前達の相手は私だ!」

 

 「しつこいんだよ!」

 

 変形したスオウの射撃をあっさり回避する、スカージ。 

 まるでダンスを踊るかのような鮮やかさに攻撃を仕掛けた筈のハイネの方が動揺する。

 

 「損傷していながらなんて動きを!」

 

 「……お前はあのパイロットか」

 

 動揺するハイネの反面№Ⅰは冷静にスオウのパイロットを看破する。

 

 「借りを返させてもらう」

 

 ウェポンシザーズから発射された一撃は旋回するスオウの進路上へ正確に突き刺さる。

 

 「くっ」

 

 ハイネは急制動を掛けて進路を無理やり変更。

 ビーム砲をギリギリやり過ごす。

 

 「あの損傷でこの射撃。化け物かよ!」

 

 「ハイネ!」

 

 スオウに砲撃を仕掛けるスカージへ距離を詰めたインパルスのビームサーベルが振るわれる。

 しかし不意を突いたに近い一撃であったにも関わらず、無造作に振り払ったウェポンシザーズによって防がれてしまった。

 

 「甘い」

 

 爪と剣の鍔迫り合い。

 損傷している分、スカージの方がやや押され気味。

 しかし№Ⅰは巧みな操作でわざとシザーズを引いた。

 するとインパルスはバランスを崩してしまう。

 

 「落ちろ」

 

 斬り上げられたビームサーベルがインパルスの眼前へ迫る。

  

 「この!」

 

 ルナマリアは機体を逸らし、同時に背中に装備された迎撃用のビーム砲でスカージを狙撃。

 斬撃が装甲を滑るように掠め、放ったビーム砲がスカージの装甲に穴を穿つ。

 だが№Ⅰはそれすら意を返さない。

 すぐ様、繰り出した蹴りがインパルスの腹へ直撃、吹き飛ばされてしまった。

 

 「ぐっぅう!」

 

 「ルナマリア、連携!」

 

 「了解」

 

 体勢を立て直したインパルスとスオウがスカージを挟撃する。

 突っ込んできたスオウの斬撃を捌き、インパルスの一撃を斬り潰す。

 

 「な、何なんだこいつは!」

 

 「全く寄せ付けない!?」

 

 「邪魔はさせない」

 

 №Ⅰはそのまま二機を無視し、フォルセティを防衛しているイズモ級へと突撃していく。

 

 「狙いはフォルセティか!」

 

 「やらせない!」

 

 全力でスカージを追撃する。

 しかし追い付けない。

 敵はスラスターを全開にし戦艦の砲撃すら構わず、突撃していく。

 それは死すら恐れない特攻だった。

 

 「死ぬ気かよ!」

 

 「誰が死ぬものか」

 

 ウェポンシザーズのビーム砲がイズモ級の砲台を吹き飛ばす。

 そして艦底部まで入り込むとビームサーベルを突き刺した。

 

 「まだ動け、スカージ」

 

 力任せにサーベルを振り抜き、艦の底へ穴を空けると、ビーム砲を発射。

 そのまま撃沈させる。

 

 「くそ! あのままじゃ全部落とされる!!」

 

 「させるものですか!」

 

 インパルスの翼が開き、動きを止めたスカージとの距離を一気に詰めた。

 

 「そこまでよ!」

 

 「また邪魔する」

 

 スカージの迎撃の一太刀。

 それをルナマリアはギリギリブルートガングで受け止める。

 しかし敵の反応の速さ故に完璧な防御とはいかず、肩に光刃が沈み込んだ。

 

 「くっ」

 

 揉み合いのような状態。

 ルナマリアはスラスターを吹かしスカージを艦隊から引き離そうとするが、推力の違いかもう一隻のイズモ級の方へ流されてしまう。

 

 「この状態でなんてパワー!?」

 

 「このまま斬り裂く」

 

 「それは遠慮するわ!」

 

 裂かれながら逃げられないようにスカージの腕を掴んだインパルスはパルマ・フィオキーナを発射。

 至近距離からの一撃が光刃諸共腕部を消し去った。

 

 「ぐっ」

 

 「今度こそ!」

 

 「まだまだ」

 

 体勢を崩しながらもスカージの後部から残っていたドラグーンを射出された。

 

 「ドラグーン!?」

 

 「いけ」

 

 動く砲台がインパルスを引き離し排除。

 そのまま方向を変えたスカージは最後に残ったウェポンシザーズのビーム砲を発射した。

 狙いはイズモ級のブリッジ。

 

 「やめろ!」

 

 ドラグーンの網を突っ切り、阻止しようとするハイネ。

 しかしもう遅い。 

 成す術無く閃光に焼かれたブリッジは跡かたも無く消え去り、イズモ級は爆発を起こした。

 

 「この!」

 

 接近したスオウのビームサーベルがスカージの残った腕を断ち斬った。

 これでスカージは両手を失った。

 残る武装はウェポンシザーズのみ。

 

 「ハイネ!」

 

 畳みかけるように聞こえたルナマリアの声に反応したハイネは咄嗟に飛び退く。

 ドラグーンごと射線上へと捉えたインパルスの高エネルギー収束ライフルが火を噴いた。

 

 「いけ!」

 

 強烈なビーム砲がドラグーンを消し去り、スカージの半身を消し去っていく。

 

 「……私の勝ちだ」

 

 爆発する機体。

 

 スカージはこれで落ちた。

 

 もはや復活もできまい。

 

 しかしそれでも№Ⅰは勝ちを宣言する。

 

 それはハイネやルナマリアも認めざるえなかった。

 

 落ちたのはスカージだけではない。

 

 こちらの戦艦であるイズモ級もだ。

 

 船体はそのままアルテミスへと落ちていく。

 

 落下すると同時に発生した爆発は確実にアルテミス内部へと影響を与えた。

 

 それが突入した陸戦隊にも影響を与える事は確実。

 

 炎が燃え広がる要塞をハイネ達は悔しさを噛みしめながら見つめていた。

 

 

 

 

 振動が続く要塞内をアストは銃を構えて走っていた。

 

 「侵入者だ!」

 

 「殺せ!」

 

 目ざとくこちらを見つけた兵士の銃撃を飛んで躱し、壁を蹴って懐へ入り込む。

 無重力だからこそできるアクロバットに驚く兵士達。

 アストはその隙に敵の顔面に銃口を突きつけた。 

  

 「迂闊だぞ」

 

 淡々と引き金を引き、二人の兵士を殺害する。

 穴の開いたバイザーから血が漏れ出し、兵士達は力が抜けたように宙へと浮かんだ。 

 兵士の死体から武器と端末を奪い、情報を取得しながら目的地へと向かっていく。

 

 「いつの間にかこの手の潜入工作にも慣れたな」

 

 ヘリオポリスに居た頃には考えらなかったと自嘲する。

 感傷にも似た複雑な感情を押し殺し、目標の近くまでたどり着いた瞬間、銃声が鳴り響いた。

 

 「ッ!?」

 

 咄嗟に身を翻し、空いた部屋へ飛び込んで銃撃を躱す。

 

 「いつの間にかこんな所まで入り込むとは油断のできない奴だ」 

  

 「アスラン」

 

 振り返ると銃を構えパイロットスーツに身を包んだアスランが立っていた。

 

 「わざわざ追ってくるとはご苦労な事だ!!」

 

 銃を撃ち返し、部屋から飛び出す。

 アスランの技量は良く分かっている。

 一か所に留まり続けるのは危険。

 奪い取ったマシンガンでアスランを一か所に抑え込みながら、目的の部屋まで走り抜ける。

 しかしアスランの技量はアストの考えている以上のものだった。

 

 「そんなもので!」

 

 銃撃の合間を狙って飛び出したアスランは床や壁、天井を蹴ってこちらとの距離を一気に詰めてくる。

 さっきのアストのアクロバットとは比較にならない動き。

 

 「くそ」

 

 アストはマシンガンの銃身を盾に銃撃を防御。

 だが次の瞬間に飛んできた蹴りがアストの腹に直撃する。

 

 「ぐっ」

 

 咄嗟に背後に飛んでダメージを軽減するものの、その衝撃は思った以上に大きなものだ。

 

 「アムステルダムで殴り合った時から思っていたが、生身の方も多少マシになっているじゃないか」

 

 「それはどうも」

 

 「だが、その程度か?」

 

 相変わらず死神のようなアスランの視線に冷や汗が流れる。

 

 「俺だって遊んでいた訳じゃないんだよ!」

 

 マシンガンを投げつけると同時に前に飛び出す。

 銃を躱したアスランを狙って顔面に拳を叩き込んだ。

 

 「ぐっ」

 

 ヘルメット越し故にダメージは少ないだろうが怯ませる事ぐらいの効果はあった。

 そのまま銃を掴み床へ捨てると、アスランを壁へと叩きつけた。

 

 「グハァ! 貴様!」

 

 「いい加減にしろ。何時までこんな事を続けるつもりだ!」

 

 「貴様と決着をつけるまでだ! それもこの戦いで終わる!」

 

 アスランは振り上げた肘をアストの背中に叩きつけ、拘束から解放されると床に落ちた銃を拾いに走る。

  

 「させるか!」

 

 逃がすものかとアスランに掴みかかるアスト。

 二人は揉み合いながら殴り合う。

 

 「お前は未来を求めていたんじゃないのか!」

 

 「求めているさ! ヤキン・ドゥーエ戦役のような悲劇が繰り返されない未来をな!」

 

 「その結果がこれかよ!」

 

 「人を変える為には時に劇薬も必要という事だ!」

 

 「お前が悲劇を繰り返してどうする!」

 

 「貴様に言われるまでもない! だが綺麗事だけで世界をどうにかできる訳もない!!」

 

 怒声と殴打の音が鳴り響く。

 

 「やらなければならないんだよ! 手を血で汚そうと人を変える為に! 世界を変革する為に!」

 

 「思い上がるな! 一個人の思惑だけで世界をどうにかしようなんて!」

 

 「何もしない貴様よりはマシだ! それだけの力を持ちながら何もしようとしない貴様よりはな!」

 

 馬乗りになるアスランの殴打がアストの腹部にめり込んだ。

 アストの意識が飛びかけるが、そのままアスランを殴り、蹴り上げて引き離す。

 

 「アスト!」

 

 「アスラン!」

 

 お互い床に転がる銃を拾い構えた瞬間、突如今までとは比較にならない振動が要塞内部を襲った。

 

 「な!?」

 

 「爆発!?」

 

 とても立っていられない。

 崩落してきた瓦礫を避け、再び銃を向け合う二人。

 そこに第三者の声が聞こえてきた。

 

 「アスト!」

 

 「イザーク!?」

 

 陸戦隊と共にイザークが走り寄ってくる姿を見たアスランは銃で牽制しながら後ろに飛んだ。

 

 「アスラン!」

 

 「やっぱりさっきの艦隊の指揮を執っていたのはイザークだったか。やってくれたな」

 

 かつてのライバルからの称賛にイザークの胸中に感傷的な気持ちが湧き上がってきた。

 それを押し殺し、銃撃を開始しようとした時、再びの爆発が起きる。

 それによって崩れてきた瓦礫が通路を塞いでしまった。 

 

 「チッ」

 

 もうアスランの姿は見えない。

 しかし死んではいないだろう。

 

 「助かった、イザーク」

 

 「アスランと生身で接近戦など自殺行為だぞ」

 

 差し出されたイザークの手を掴んで立ち上がったアストはすぐに状況を確認する。

 

 「それでどうなんだ、レクイエムは?」

 

 「制御室から発射中止を試みているが、システムにアクセスできない。レクイエムの陽電子リフレクターの解除は可能。しかしエネルギープラントの方はかなり念入りにプロテクトがされていて時間内には無理だ」

 

 「そうか。やっぱり直接レクイエムを破壊するしかないな。俺が行く」

  

 「アスト、しかし」

 

 「リフレクターが解除されてから破壊に動いていたら間に合わない。解除と同時に破壊する」

 

 それはレクイエムの射線上、しかも敵のど真ん中に向かう事を意味する。

 最も重要で危険な役目だった。

 しかし任せられるのは現状アストしかいない。

 

 「……頼む」

 

 「了解。そんな顔するなよ、勝つんだろ?」

 

 アストから差し出された拳に拳をぶつけ合う。

 

 「ここも危険だ。早く脱出しろよ、イザーク」

 

 「ああ」

 

 イザークは任せる事しかできない悔しさと無力感に苛まれながら、去っていく友人の背中を見送った。

 

 

◇ 

 

 

 急いで駆け戻ったアストはイノセントのコックピットへ乗り込む。

 

 「急がないとな」

 

 即座に機体を立ち上げると、要塞から脱出を試みる。

 しかし宇宙ではユースティアガンダムが待ち構えていた。

 

 「ッ、アスラン!?」

 

 「ここで待っていれば来ると思ったぞ!」

 

 出口から飛び出すイノセントを狙いユースティアは複列位相砲を発射した。

 すでにSEEDを発現させているアスランの射撃は完璧。

 避ける事は困難であると察したアストもまたSEEDを発動。

 ビームシールドで複列位相砲を防御する。

 しかしその隙に踏み込んできたユースティアの斬撃が迫ってきた。

 

 「チッ」

 

 「限定空間の時みたいにはいかないぞ!」

 

 実体剣の一撃をサーベルで弾き、反撃として袈裟懸けに一太刀を入れる。

 

 斬り合いの最中、上段からの一撃を止めたアストは逆手に抜いたビームサーベルを抜き打ちで斬り払う。

 

 払われたサーベルの一撃が実体剣を真っ二つに叩き折った。

 今までの攻防の中で蓄積されたダメージによって限界を越えたのだろう。

 

 「くっ、まだまだ!」

 

 折れた刀身をイノセントへ投げつけ、残った実体剣を叩きつけた。

 上段から振り下ろされた一撃がイノセントの装甲を縦に斬り裂く。

 

 「この程度!」

 

 二刀を振るい猛然と立ち向かう。

 

 「落ちろ!」

 

 「ふざけるな!」

 

 ユースティアはすべての刃を解放し、イノセントへと猛威を振るう。

 

 片手に実体剣『オートクレールⅡ』

 

 さらに片手、片足のビームサーベル。

 

 三本の刃が軌跡を描く。

 

 対するイノセントはサーベルを逆手に実体剣を盾代わりに構えていた。

 

 左腕の実体剣ナーゲルリングで光刃を弾き、ビームサーベルで攻撃を加える。

 

 それはまさにオーブ沖で起こった決戦の、いやヤキン・ドゥーエ戦役の再現だった。

 

 「アスト・サガミィィィィ!!」

 

 「アスラン・ザラァァァァ!!」

 

 SEEDの発現とシステムの発動。

 

 加えて過去の再現がより二人の精神を高揚させ、咆哮と共に剣撃を繰り出していく。

 

 その攻防は両者の実力も相まって見事なまでの拮抗状態になっていた。

 

 しかしそれも長くは続かない。

 

 二機の戦いは決着に向かって動き始める。

 

 「ウオオオオ!!」

 

 装甲に付く裂傷を物ともせず光刃の嵐を潜り抜けたイノセント。

 振るった一撃がユースティアの左腕を斬り飛ばした。

 

 「ッ、こんなもので!」

 

 蹴り上げた一撃が実体剣ナーゲルリングを叩き折り、左腕の関節に損傷を与えた。

 

 「これで攻防一体とはいかないだろう!」

 

 「舐めるなァァ!!」

 

 イノセントの蹴りがユースティアの蹴撃を止め、繰り出したサーベルが袈裟懸けに胴体を斬り裂いた。

 

 「ぐぅぅぅぅ!! 機体性能はこちらの方が上の筈だ!?」

 

 「忘れたか! 俺は何時だって不利な状況で戦ってきたんだよ!!」

 

 イレイズ然り。

 

 イノセント然り。

 

 その経験は訓練では決して身に付かない力をアストに与えている。

 

 それこそがアスランとの間にある越えられない壁なのだ。

 

 「クソォォォ!!」

 

 「遅い!」

 

 さらなる一撃がユースティアの腹を抉った。

 

 コックピットに走る稲光に照らされながら、アスランは白いガンダムを睨みつける。

 

 強い。

 

 アスト・サガミの力はやはりアスランを上回っている。

 

 このまま負けるのか?

 

 否。

 

 断じて否だ!

 

 「負けるかァァァァ!!」

 

 負けるものかと咆哮を上げ、振り上げた実体剣の切っ先。 

 

 「ッ!」

 

 「逃がさん!」

 

 機関砲による牽制で回避しようとしたイノセントのバランスを崩す。

 そして発射された閃光が肩部を撃ち抜いた。 

 

 「ぐあああああ!!」

 

 イノセントは爆発が巻き起こるアルテミスの方へと落ちていく。 

 

 アスランは止めを刺すべく巻き上がる爆発の炎の中を突っ切り、落下していく白いガンダムへと斬りかかった。

 

 「今度こそ俺の勝ちだ!!」

 

 爆炎が視界を塞ぐも敵の姿を見失ったりはしない。  

 

 「これで止めだァァァ!!」

 

 炎を斬り裂き、未だバランスを崩したままのイノセントに向けて突きを放つ。

 

 確信した勝利。

 

 アスランはこの戦い完璧に動いた。

 

 油断もせず、機体性能を100%引き出し、機会も逃さなかった。

 

 あえて欠点を挙げるなら、些かの冷静さを保て無かった事だろう。

 

 しかしそれは戦場に出る兵士なら誰しも味わう高揚感だ。

 

 相対していたアストでさえも、それは同じ。

 

 しかしだから気づかなかったのだ。

 

 イノセントの落下軌道が常に一定に保たれていた事に。

 

 

 「いや、お前には負けない、アスラン!!」

 

 

 ユースティアの刃が届く前。

 タイミングを見計らっていたアストはフットペダルを踏み込んだ。

 その瞬間、寝そべるイノセントはスラスターを噴射させ僅かに上昇。

 必然的にイノセントの背中がユースティアの眼前に現れる。

 そこには冷たい砲口が待っていた。

 

 「ッ!?」

 

 それはアスランが警戒していたイノセントの武装である対PS装甲弾を備えたバズーカ砲。 

 発射された砲撃は無慈悲にユースティアに直撃した。

 

 最後の一撃。

 

 それは間違いなくユースティアに致命傷を与えた。 

 

 頭部は吹き飛び、腕を失い、装甲は剥がれ、フレームも剥き出しになっている。

 

 もはや戦闘不能。

 

 勝敗は決した。

 

 それでもまだアスランはイノセントへ攻撃を仕掛けようともがいていた。

 

 「お、俺は」

 

 アスランは全身の痛みに耐えながら残された腹部の複列位相砲を発射しようとトリガーに指を掛ける。

 

 だが、アストは止まらない。

 

 彼にもまた守るものがあるからだ。

 

 「終わりだ、アスラン!!」

 

 最後の情け。

 

 満足に発射できるかもわからない砲撃で自爆するよりはこの手で。

 

 アストは機体を翻し、爆煙の中に背部ビームソード『ワイバーン』を放出した。

 

 強烈な一撃がユースティアの半身を斬り裂いていく。

 

 「……さよなら、アスラン・ザラ。もしも別の出会い方があったなら俺達は―――」

 

 裂かれたユースティアの半身は爆炎が巻き起こるアルテミスの中へと落ちていった。

 弾切れを起こしたバズーカを切り離し、最後に残った武器を握る。

 

 「……行こう。レクイエムへ」

 

 スラスターを吹かし、目的の発射口へと向かっていく。

 途中邪魔をする敵は残ったワイバーンで撃退。

 爆発を避けながら、砲口へとたどり着いた。

 

 「ハァ、ハァ」

 

 未だリフレクターは張られたままだが、問題はない。

 残った武装高エネルギー収束ライフル『アガートラム』を構える。

 

 「腕が動かないか」

 

 アスランの攻撃の為かイノセントの腕が垂直まで上がらない。 

 

 これでは『アガートラム』の発射にも影響が出る。

 

 「正確な狙いはつけられないが、仕方ない」

 

 そこで丁度時間が来たのかレクイエムに光が集まっていく。

 

 「イザークは間に合わなかったか」

 

 こうなれば内部に突入して直接レクイエムを破壊するしかないだろう。

 

 突入する際のビームシールドの展開くらいなら今の腕でもいけるはず。

 

 無論、アストの命は助からないだろうが。

 

 「こちらは間に合ったし問題ない。後はキラに任せよう」

 

 親友である彼なら上手くやってくれるだろう。

 

 覚悟はすでに決めている。 

 

 そのままリフレクター内へ突撃しようとしたその時、紅い翼の機体が近づいてきた。

 

 「アレン!!」

 

 「ルナマリア!? 何やってる、早く離脱しろ!!」

 

 「そっちこそ! 碌に腕も動かない癖に何言ってんですか!」

 

 インパルスがイノセントの背中に組み付くと、動かない腕を持ち上げる。

 

 「リフレクターの解除も出来てない! 『アガートラム』が撃てたとしても!?」

 

 「大丈夫ですよ、仲間を信じてください」

 

 その言葉通り、フォルセティから解除成功のメールが届く。

 残り時間僅かな所で間に合ったのだ。

 

 「ルナマリア、お前は離れろ! このタイミングじゃ離脱もできない!」

 

 「言ったでしょ。私は貴方のパートナーだって。貴方が地獄に行くなら私もお供します」

 

 「何でそこまで」

 

 モニターに映るルナマリアが笑みを浮かべ、爆音に紛れながらも紡いだ言葉がアストの耳に届く。

 

 「……物好きな奴だな」

 

 「その物好きは結構いますけど」

 

 「たく」

 

 ルナマリアの軽口に肩の力が抜けたアストは息を吐き出す。

 

 その眼下。

 

 光を集める砲口は今にもそれを解放しようと口を開ける。

 

 アストもまた銃口を向けるとリフレクターが解除された。

 

 「アレン!」

 

 「了解! いけぇぇぇぇ!!」

 

 発射された『アガートラム』

 

 強烈な一撃が砲口に突き刺さり、僅かに遅れてレクイエムも光を吐き出す。

 

 

 発射された光に包まれた二機のガンダムは見えなくなり―――消えてしまった。

 

 

 それでも刻んだ確かな傷はレクイエム内部で爆発を起こし、発射されたビームの光は宇宙を裂く事無く消えていく。

 

 

 爆発はレクイエム全体に及び結果、発射は不可能となった。

 

 

 それは戦いが終わりを迎えた事を意味していた。

 

 

 この約五分後。

 

 

 仲介に入ったテタルトス月面連邦国からの申し入れにより地球圏統合軍と調和同盟軍の間に停戦の知らせが入る。

 

 

 後に『第一次統合戦争』の名で呼ばれる事になる戦いは終わりを告げた。 




次回、最終回です。
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