機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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かつての輝き

 

 

 

 

 

 それはいつも通りの午後だった。

 

 雲はあれど天気は良い。

 

 気温も熱くも無ければ、寒くもない。

 

 季節的に言えば冬に近いものの、今日は丁度良い気温である。

 

 モビルスーツが上空を飛び回っている事はまあ、無粋と言えなくも無いが昼寝する分には何の問題もない。

 

 最近は戦闘もなく平和だ。

 

 仮初の平和だとは分かっているけど、それでもこのまま平穏が続くのを願うばかりである。

 

 「ああ、今日もいい天気だ」

 

 「おい、アオイ! アオイ・ミナト少尉! そんな所で何寝てんだよ!」

 

 「ん」

 

 無粋とも言える怒鳴り声に気持ちよく微睡んでいたアオイが目を開けると馴染の整備班の青年の顔が飛び込んできた。

 

 彼は同い年の同僚であり、訓練兵だった頃からの付き合いだ。

 

 ややお調子者のきらいはあるが、明るく話しやすい人柄を持っている。

 

 故に気兼ねがないという事でアオイとも良く話をする仲だった。

 

 「こんな所でよく寝てられるな、お前」

 

 呆れた顔の整備班の青年が寝転がるアオイに手を差し伸べてきた。

 

 分かってないなと笑いながらその手を掴む。

 

 「相棒の上なんだから最高の場所だよ、此処はさ」

 

 アオイが寝ていたのは長年共に戦ってきたイレイズガンダムMk-Ⅱの腹の上だった。

 

 移動用トレーラーに横たわる愛機の上こそアオイ最近のお気に入りだ。

 

 緊急の場合は即座にコックピットへ飛び込めるし、今くらいの気温なら昼寝に丁度良いのだ。 

 

 「物好きめ。それより整備の邪魔だから動かすってさ。だから昼寝は此処までだ」

 

 「分ったよ」

 

 名残惜しいとばかりにイレイズから降りると、これからの予定を考える。

 

 今日は完全なオフだ。

 

 緊急事態でも起きない限りは、休みとなる。

 

 シミュレーターに行くか、もしくは約束の時間より早くなってしまうが病院に向かうか。

 

 どうしようか迷っていると整備班の青年が声を掛けてきた。

  

 「アオイ、お前今日の予定は?」

 

 「え、ああ、えっと、何で?」

 

 「いや、暇ならちょっとつきあえよ。……いいもの先輩から借りてるからさ。これから整備班の連中の部屋で見ようと思ってな。お前も来いよ」

 

 最後の部分を小声で言った所で大体予想がついた。

 

 アオイも年頃の男だ。

 

 そういった類のものに興味がないと言ったら嘘になるが、生憎今日は外せない用事があった。

 

 「俺は休暇だけどお前らは違うだろ。仕事はどうするんだよ?」

 

 「少しくらいなら大丈夫だって。それよりどうだ?

 

 「悪いけど、この後病院に行かなきゃならないんだ」

 

 「病院? お前、どこか調子でも……あ、あの子か。エクステンデットだった、ステラ・ルーシェだっけ」

 

 「そうだよ。今日は久しぶりに外出の許可が下りたから、街に連れて行こうと思ってさ」

 

 ステラ・ルーシェはアオイ達と共に戦った仲間であり、エクステンデットと呼ばれる強化人間だった少女の事だ。

 

 戦う駒として利用され続け、どうにか助ける事には成功したものの、大きな犠牲と彼女自身に消えない後遺症を残す事になった。

 

 その為ずっと病院での生活が続いていたのだが最近、ようやく体調が安定してきた為、期限付きとはいえ外出の許可が下りたのである。

 

 「そうか。じゃ、お前はこの後デートかよ」

 

 暗くなりかけた空気を察したのか、整備班の青年は詳しい事には触れず、代わりに不機嫌そうな鋭い視線を向けてくる。

 

 アオイもそれに乗っかる事にして首を横に振った。

    

 「違うって。ステラは妹みたいなもので―――」

 

 「やかましい! あんな可愛い子と出かけられるだけでも有難いと思えっての!! こっちは毎日、毎日むさ苦しい男達と一緒に冷たいモビルスーツの装甲と睨めっこだってのに!」

 

 嫉妬に満ちた表情で睨みつけてくる青年。

 

 その視線だけで人が殺せそうな雰囲気である。

 

 正直、怖い。

 

 整備班は女日照り何て事を良く聞くのだが、彼も例外ではなかったらしい。

 

 「そ、そんなに睨むなよ。作ればいいじゃないか、彼女」

 

 「言って出来るなら苦労はないっての、全く!」

 

 何気なく発したつもりのアオイの言葉だったが、それが余計に彼の勘に触ったらしく先ほど以上に鋭い視線を向けてきた。 

 

 「これだからモテ野郎は!」

 

 その言い分には反論したかったが、これ以上揉めるとめんどくさいのであえて口を噤む。

 

 はっきり言ってアオイは自分がモテる類の人間ではないと思っている。

 

 容姿は普通だし、気の利いた事が言える訳でもない。

 

 最近再会した同期には何故かいつも睨みつけられている始末なのだ。

 

 そんなアオイの不満には気が付かずに青年は一通りの不満を吐き出したお陰か、少し冷静になったように息を吐き出す。

 

 「ハァ、世の中理不尽だよ。まあ、お前はあの子だけみたいだしまだマシな方だけどな」

 

 「は?」

 

 「世の中にはいるんだよ、最悪の悪魔みたいな男がさ!」

 

 落ち着いていたのに、思い出したように再び興奮し始める。

 

 傍から見ていたらただの不審人物にしか見えない。

 

 「悪魔?」

 

 「そうだよ、あんな美人を何人も! うらや―――いやいや、許せん!」

 

 「……いいからとりあえず落ち着け」

 

 そんな挙動不審ぶりが理由でモテないのではという本音をギリギリ押し殺し、無難な言葉を口にした。

 

 「俺は落ち着いてる! それより聞けよ!」

 

 聞いてもないのにわざわざ説明してくれた所によれば、同盟に美人ばかりを自分に侍らせる女たらしがいるらしい。

 

 その男はパイロットらしく、整備班の間ではかなり有名な人物だとか。 

  

 まあ嫉妬に満ちたあの表情と整備班にしか伝わっていない噂である事を考えると眉唾ものの話だろう。

 

 嫉妬の対象になっている男に少しだけ同情したくなった。

 

 というかそんな碌でもない噂なんか流しているからモテないんだと思う。

   

 「まあそいつも度々制裁を受けてるらしいけどな。とにかくお前もそんな奴みたいにはなるなって事だ。でないと俺や先輩達が黙ってないぞ。まあお前は大丈夫だと思うんだけどさ―――」

 

 「いや、うん、まあ大丈夫じゃないか」

 

 「けどお前最近妙な噂もあるしな」

 

 「噂?」

 

 「見た事のない物凄い金髪美人と一緒に歩いてたっていう話」 

 

 「な、ないない」

 

 金髪美人とは多分『あの人』の事だろう。

 

 だが知られる訳にはいかない。

 

 疑い出す青年に適当に相槌を打ちながら時計を見ると、いつの間にか約束の時間までそう余裕は無くなっていた。

 

 「悪いけど俺行くからな」

 

 「おい、何かやましい事でもあるんじゃないだろうな!」

 

 付き合っていられない。

 

 顔も見たことがないパイロットへの愚痴や自分への疑惑を語り続ける青年を置き去りにアオイは病院へと歩き始めた。 

 

 

 

 

 昔から病院という奴はどうにも好きになれなかった。

 

 もちろん怪我をすれば此処に運ばれ治療を受ける。

 

 傷や病気を治す場所こそ病院。

 

 そんな事は子供でも知っている常識だ。

 

 分かっているが長く戦場にいるアオイにとって誰かが死ぬ場所であるという印象の方が強く、どこか忌避感のようなものを感じていた。

 

 「ハァ、勝手な話だよな。分かってはいるんだけどさ」

 

 ため息をつきながら歩いている場所は軍の管轄下に置かれた特殊な病院である。

 

 一般の病人やけが人はおらず、軍人やその家族、特殊な背景を持つ者のみが入院している場所だ。

 

 アオイは自動ドアを潜り、勝手知ったるとばかりに迷いなく歩き出した。

 

 それもそのはず、この病院にはすでに数えるのも馬鹿らしい程に通い詰めている。

 

 眼を瞑ってもとまでは言わないが、病院の構造くらいは頭の中に入っていた。

 

 通路ですれ違う顔馴染になった看護師さん達に笑顔で会釈しながら、目的の部屋までたどり着くとコンコンと軽く叩いた。

 

 「アオイだけど」

 

 アオイがノックした途端「アオイ!?」という声が聞こえてきた。

 

 だが同時に「ちょ、まだ駄目よ!?」という制止の声も聞こえてきたが当の本人は気にしていならしくバタバタと走ってくる音が聞こえる。

 

 「アオイ!!」    

 

 扉を開けて出てきたのは金髪の髪を持つ無邪気な笑顔を浮かべた少女―――ステラ・ルーシェが半裸で飛び出してきたのである。  

 

 「ハァ!?」

 

 当然、アオイは自分の胸に飛び込んできた半裸の少女に対して何もできない。

 

 無邪気な笑顔を向けてくるステラに対しギリギリの引きつらない愛想笑いを浮かべるのが関の山だ。

 

 いい匂いがするとか、何処とは言わないが柔らかい部分が当たっているとか断じて考えてはいない。

 

 「ス、ステラ!? 今、着替えてる途中でしょう!!」

 

 慌てて飛び出してきたのはステラと同じ金髪の髪を靡かせ女性物のスーツに身を包んだ女性だった。

 

 一目見ても美人である事は間違いない。

 

 街を歩けば誰しも目を引く容姿である。

 

 それを自分自身知っているのか目立たないように極力、露出の少ない服を着込んでいた。

 

 しかしそれでも生来持ち合わせた色気を消せないようで、アオイも一瞬見とれてしまった。

 

 「た、大―――いえ、えっとル、ルシアさんが何で此処に?」

 

 変装の為か眼鏡を掛け、長い髪を束ねるようにしているのはルシア・フラガ。

 

 普段はネオ・ロアノークとして活動している地球連合改革派の中心人物である。  

 

 保守派との闘いや同盟、プラントとの協議でも忙しいはずの彼女が何故?

 

 そんなアオイの疑問に答える前にルシアは迫力のある笑顔を浮かべると、半裸のステラを部屋へと引っ張り込んだ。

 

 「少尉、今は取り込み中なのでもう少し外で待っていてください」

 

 「は、はい!」

 

 ようやく状況を思い出し、慌てて背を向けると「着替えてる途中で部屋を出たら駄目でしょう」という声が聞こえてきた。

 

 「怖! 大佐……目がマジだったよ」

 

 背筋が凍るとはまさにこの事だ。

 

 間違っても覗きなどと勘違いされないようにアオイは素早く部屋の前から離れると廊下に設置されているソファーに腰を下ろした。

 

 「ハァ、何か出かける前から疲れた。でも外はいい天気だな」

 

 窓から差し込む太陽の光。

 

 気持ちの良い陽気にこちらの気分も自然と穏やかなものになる。

 

 「今日は晴れて良かった。やっとステラの外出許可が出たんだし、雨じゃ味気ないもんな」

 

 しばらくのんびり外を眺めていると部屋のドアが開く音が耳に届いた。

 

 振り返れば綺麗に着飾ったステラが笑顔を向けていた。

 

 「アオイ、やっと着替えが終わった!」

 

 「ステラ、凄く似合ってる」

 

 「本当?」

 

 「ああ」

 

 「そうでしょう。選ぶのに苦労したんだから」

 

 満足そうに頷くルシア自身もステラに負けず劣らず良い服を着込んでいた。

 

 そういえばルシアはこういった服とかアクセサリーに人一倍こだわりを持っていると耳にした事がある。

 

 普段から男装を強いられている反動なのだろうか。

 

 「あ、そうだ。大佐は今日はどうしたんです?」

 

 「私はステラのお目付け役です。体調には問題ないと報告を受けてはいますが、万が一という場合もありますからね。二人にはお邪魔かもしれませんが」

 

 「からかわないでくださいよ。そんな事はありません」

 

 「フフ、では少尉、行きましょうか」

 

 「行こう、アオイ!」

 

 今日の外出をよほど楽しみにしていたのだろう。

 

 ステラがアオイの手を握り立ち上がらせると、グイグイと引っ張ってくる。

 

 まるで子供のようにはしゃぐステラの姿に自然と笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 女性と出かけるというのは男にとって一大イベントだとアオイは思っている。

 

 だから緊張だってするし、着ていく服一つに頭を悩ませる時もあるだろう。

 

 そんな一大イベントを前にアオイには見逃せない問題があった。

 

 もちろんステラやルシアとは気心も知れているし、緊張する事はない。

 

 だがそんな彼女達とどこに行けば良いのか皆目見当がつかなかったのである。

 

 何せずっと戦場で命のやり取りばかりしてきたのだ。

 

 遊んだ事なんてほとんどない。

 

 辛うじてスティング達と何度か出かけた事がある程度である。

 

 そんなアオイが二人の女性を楽しませる為にエスコートしようなんてのがもはや無謀としか言いようがない。

 

 だから―――

 

 「考えても仕方ないな。うん、見栄を張ってもしょうがない。二人に直接聞こう」

 

 余計な事は考えないようにした。

 

 情けない言い訳染みてはいると自覚しているが他に方法など思いつかないのだ。

 

 そう結論を出してアオイは取り合えず市街に車を走らせた。

 

 「気持ちいい!!」

 

 「ステラ、窓から顔を出すと危ない」 

 

 「平気、平気!」 

    

 「二人はどこか行きたい場所はあるかな?」

 

 「海!!」

 

 ステラの海好きは相変わらずのようだ。

 

 病室でも良く海に関する本や映像ディスクを見ている事が良くある。

 

 ある意味想定内の行先だったので、続いてルシアの方へ話を振る。

 

 「大佐はどうです?」

 

 「私はステラの付き添いですし……まあ強いて言うなら少し買い物がしたいくらいですね」

 

 「買い物。近くにあるショッピングモールでも大丈夫ですか?」

 

 「ええ。十分です」

 

 行き先はあっさり決まった事に内心安堵しながらアオイはアクセルを踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 アオイはここにきて自分の甘さを痛感していた。

 

 「……もう2時間か」

 

 戦闘後のような疲労感。

 

 ショッピングモールに設置されたベンチの背もたれに体を預けておく事すら億劫になってきた。

 

 片手に握ったジュースの缶もとっくの昔に空になっている。

 

 「ここまでとは、甘かった」

 

 もはやため息しかでない。

 

 目の前に広がっているのは何件目かのブティック。

 

 アオイはファッションショーとばかりに次から次に服を着替える二人の女性の観客になっていた。 

 

 「これはどうです、少尉?」

 

 「……トテモヨクニアッテイルトオモイマス」

 

 新たな服を片手に笑顔を浮かべるルシアとは対照的にアオイは引きつった笑顔を浮かべるのが精いっぱいだ。

 

 しかしそれにも気づかずルシアは楽しそうに次の服を物色し始めている。

 

 「そうですか! うん、ではこれも買いましょうか。あ、これも良いですね!」

 

 実に楽しそうだ。

 

 まあ普段が普段だけにこう言った機会は少ないのだろう。

 

 今日がルシアにとっての息抜きになるのなら、この程度の事いくらでも付き合うとも。  

 

 「ねぇ、まだ見るの?」

 

 反対にステラはファッションにはあまり興味がないのか、すでに飽き飽きしているようだ。

 

 「ステラ、貴方も女の子なんですからもっと身なりには気を使わないと。少尉にも嫌われてしまいますよ」

 

 「それはやだ」

 

 「ならきちんとしないとね」

 

 見る限りウキウキしながら新たな服を手に取る、ルシア。  

 

 どうやらまだまだ続くらしい。

 

 アオイが諦めと共に何度目かのため息をつこうとした時、予想外の人物から声が掛かった。

 

 「ミナト少尉?」

 

 「へ?」

 

 立っていたのは最近赴任してきたばかりの同僚であり、同じパイロットであるベアトリーゼ・フォルケンマイヤー少尉だった。

 

 一目見て可憐。

 

 全身から隠しきれない上品さを漂わせ、着込んだ服も育ちの良さを感じさせるには十分なものだ。

 

 容姿を含め何で軍人をしているのか疑問に感じる程である。 

 

 手に持った荷物から察するに生活用品を購入していたようだ。

 

 「何を嫌らしい視線でジロジロ見ている?」

 

 「別に見てないって。誤解を招くような事を言うなよ。ただ以外な場所で会ったから驚いていただけだ」

 

 「そうだと良いが。それでこんな場所で何をしている? 此処はお前から最も縁遠い場所だと思うのだが」

 

 「余計なお世話だよ!」

 

 確かにこんな高級ブティックなどアオイからは縁遠い場所に違いない。

 

 しかしそんな言い方をされれば、流石に少しムッとしてしまうというもの。

 

 「相変わらず口が悪い奴だな」

 

 「生まれつきだ」

 

 「嘘つけ」

 

 これで中身さえ良かったなら、男から引く手数多だろうに。

 

 「まあ冗談はさておき、此処で何をしている?」

 

 「単純に人を待っているだけだよ。俺はただの付き添い」

 

 「付き添い? ……アイツらのか?」

 

 「は?」

 

 ベアトリーゼが指さした先。

 

 そこには先ほど別れた整備班の青年が同僚を連れて歩いてきているのが見えた。  

 

 「何でこんな所に」

 

 驚いたのは向こうも同じだったらしく、手に持った荷物が地面へ落ちたにも関わらず気にした素振りはまるでない。

 

 まるでコメディでも見ているみたいに理想的な表情と反応でアオイに詰め寄ってきた。

 

 仕事はサボったのだろう。

 

 「な、アオイ!? お、お、お前、もう新しく来た子とデート!?」

 

 「誤解を招くような事をでかい声で言うな!!」

 

 「やかましい!」

 

 目は血走り、表情は嫉妬に満ちている。

 

 それは周りの同僚も同じらしく、全員が親の仇でも見るかのような目で睨みつけていた。

 

 怖ッ!

 

 こいつら全員こっちの話なんて聞いちゃいない。

 

 「お前の……お前の事だけは、信じていたのに」

 

 涙混じりに嗚咽を漏らす青年の姿に流石のアオイも即座に言い返す。

 

 「嘘つけ! 思いっきり疑ってたじゃないか!」

 

 「そんな事はどうでもいいんだよ、このモテ男が!」

 

 何かもう話し合うとかいう次元ではないようだ。

 

 どうしたものかと頭を悩ませていると、悪いタイミングという奴は重なるもので―――

 

 「アオイ、どうしたの?」

 

 買い物を終えたステラとルシアがブティックから出てきた。

 

 ステラは不思議そうに首を傾げていたが、ルシアはすぐに状況を察したのか額に手を当て天を仰いだ。

 

 その姿に整備班の面々はさらにヒートアップした。

 

 「お前、さらに別の美人と!?」

 

 「許せん!」

 

 「一人譲れ!」

 

 面倒くさ。

 

 もうどうでも良くなってきた。

 

 呆れつつため息をつく。

 

 どうしたものかと考えていると、そこで―――

 

 「……なるほど。屑め」

 

 「ちょっと待て! 聞き捨てならない。お前誤解してるだろ!」

 

 「何の話だ。私に近づくな」  

 

 「おい!」

 

 まるでゴミを見るかのようなベアトリーゼの視線にアオイも黙っていられない。 

 

 ていうか心外だ。

 

 「振られたからって熱くなるなよ」

 

 「……お前ら」

 

 一転して嬉しそうに肩を叩いてくる青年にキレそうになる。

 

 どいつもこいつも嬉しそうに頷いてるんじゃない。

 

 大きくなっていく騒動。

 

 一般の人にも迷惑になる程に混沌とした中、どうやって騒ぎを収めようか頭を抱えていると予想外の助け船が割り込んできた。

 

 「こんな場所で何の騒ぎだ? 一般人に迷惑をかけるな」

 

 「へ?」

 

 「あ、貴方は!?」

 

 「ロアノーク大佐!?」

 

 いつの間にか仮面を被ったルシア―――ネオが立っていた。

 

 どうやら見かねて助けに入ってくれたらしい。

 

 服まで男物に着替えている所を見るとこういった早着替えに慣れているようだ。

 

 突然現れた上官に全員が敬礼する。

 

 何というかこんな場所で全員が敬礼しながら直立不動で立っている。

 

 酷く滑稽な気がしてきた。

 

 「あ、あの、質問よろしいでしょうか?」

 

 「何だ?」

 

 「た、大佐が何でこんな場所に?」

 

 「ただの視察だが?」

 

 「し、視察ですか……」

 

 「……あの仮面付けたままショッピングモールに?」  

 

 「……何というか場違い極まりないよな」

 

 「……正直、恥ずかしい」

 

 ボソボソと小声で言い合う整備班メンバー。

 

 ていうか聞こえているから。

 

 「ッ、少尉、君はステラを連れて先に戻れ。私は彼らと話がある」

 

 「……はい」

 

 アオイはネオから目を逸らすと荷物を持ってステラと一緒にそそくさとその場を後にする。

 

 「アオイ、いいの?」

 

 「ああ、いいんだよ。触らぬ神に祟りなしさ」

 

 ネオはいつも通りの声色で落ち着いた様子に見えた。

 

 だが付き合いの長いアオイには分かる。

 

 今、ネオがとてつもなく不機嫌であると。

 

 せっかくの休暇を台無しにされた事もあるのだろう。

 

 しかし本当の理由はさっきの影口だ。

 

 「口は災いの元だよ」

 

 アオイは残された整備班の面々に同情―――

 

 「いや、全然同情しないけど」

 

 そう割り切るとさっさとショッピングモールの出口へと向かった。 

 

 

 この後、整備班がどうなったのかアオイは知らない。

 

 

 しかし彼ら全員(ちゃっかり離脱していたベアトリーゼを除く)がこの後死んだ目で働いていたとか。

 

 

 その様子見たアオイもネオを怒らせないようにしようと密かに誓う事となったのは此処だけの話だ。

 

 

◇   

 

 

 ショッピングモールを離れたアオイが向かったのは病院ではなく、ステラが行きたがっていた場所である海だった。 

 

 季節が夏であったなら、海に入る事も出来たかもしれないが、流石にもう無理だ。

 

 「ステラ、海には入らないようにね」

 

 「うん!」

 

 はしゃぎながら浜辺を駆けるステラにアオイも思わず笑みを浮かべる。

 

 「アオイ!」

 

 浜辺に座って物思いに耽っていたアオイにステラが飛び込んできた。

 

 ステラの腕が腰に巻き付きギュッと抱きしめられ、倒れ込むような格好になる。

 

 アオイは驚きつつも優しくステラの金髪を梳くように撫でていく。

 

 「えへへ」

 

 「ステラ、どうしたの?」

 

 「楽しくて、嬉しいから!」

 

 「そっか」

 

 楽しそうで良かった。

 

 仕方ないとはいえ普段は病院に押し込まれ、行動も制限されていればストレスも溜まるだろう。

 

 そういう意味で今日が彼女にとって良い気分転換になれば良い。

 

 「ねえ、アオイ」

 

 「なんだい?」

 

 「ずっと一緒に居てね?」

 

 微笑むステラにアオイは一瞬言葉を詰まらせる。 

 

 自分は戦場で何時死ぬかもわからない存在だ。

 

 勿論、死ぬ気などさらさらなく帰ってくる気ではある。

 

 しかし戦場は無慈悲な場所だ。

 

 何時死神の鎌が自分の命を刈り取りに来るかはわからない。

 

 でも、もしも仮に自分が死ねばステラはどうなる?

 

 考えただけでもゾッとする。

 

 改めて思うのだ。

 

 自分は死ぬわけにはいかないのだと。

 

 「……大丈夫だ、ステラ。一緒にいるよ」

 

 「うん」

 

 ステラは嬉しそうに笑いながらアオイの腕の中でゆっくりと目を閉じる。  

 

 

 

 

 

 まるで幸せな夢を見るかのように。

 

 

 

 

 そしてアオイは空を見上げる。

 

 

 

 

 雲一つない晴天。

 

 

 

 

 

 まるでこの平穏を表すかのように美しく澄んでいる。

 

 

 

 

 そしてアオイもまた目を閉じた。

 

 

 

 

 

 同じく夢の続きを見るかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「少尉、起きなさい」

 

 呼ばれる声に導かれるようにアオイは自分の意識がゆっくりと浮上していくのが分かった。

 

 それに逆らう事無くゆっくりと目を開ける。

 

 「う、うう」

 

 瞼を開けば見惚れるような美しい女性の顔が視界一杯に広がっていた。

 

 まるで日の光のようにキラキラと輝く金色の髪にアオイの目が奪われる。

 

 「……大佐?」

 

 条件反射的に見覚えのある顔の主の名を呼ぶ。

 

 「目は覚めた?」

 

 「はい」

 

 何故かルシアに膝枕された状態であったアオイはゆっくりと体を起こす。

 

 頭を打ったのか現状もはっきり分からない。

 

 少しでも早く思い出そうと周りの光景に目をやった。

 

 どうやら此処はどこかの浜辺らしい。

 

 そのまま周囲に目を滑らせると、一機のモビルスーツが頭から砂浜に突っ込むようにして転倒しており、さらにその機体の背中に組み付く形でもう一機が倒れている姿が見えた。 

 

 「あ」

 

 記憶がフラッシュバックし、すぐさま状況を思い出した。

 

 アオイは新型のウイングスラスターのテストに立ち会っていたのだった。

 

 しかし調整不足か、暴走か。

 

 途中で制御できなくなった機体を止める為に組み付いたまでは良かったのだが、勢い余って浜辺に激突してしまったのだ。

 

 「大佐、俺はどのくらい気を失っていましたか!? テストパイロットは無事ですか!?」

 

 「落ち着いて。気を失っていたのはほんの一、二分。テストパイロットは重傷ではあるけど、命に別状はないわ」

 

 見れば近くには応急手当を受けたと思われるテストパイロットが横たわっている。

 

 出血等は見られないが、添え木がしてある所を見ると骨折しているのだろう。

 

 「ハァ、良かった。でもあのスラスターはあぶないですよ」

 

 「まだ開発段階だから今後は調整されるのでしょうけど、パイロットは選ぶでしょう」

 

 「……前からとはいえ相変わらず新型機開発も熱が入ってますよね。統合戦争が終わって、もう結構経つのに」

 

 「今は外宇宙進出に目が向けられているとはいえ、世界情勢は相変わらず安定してないもの。仕方がない」

 

 確かにその通り。

 

 最近の情勢を見ていると分かる。

 

 近い将来また戦いが始まるだろうと。

 

 アオイは倒れ込むモビルスーツを見て、嘆息する。

 

 もうしばらく休む事はできないだろう。

 

 

 「……ハァ。だからあんな夢を見たのかな」

 

 

 そして空を見上げた。

 

 

 

 世界には未だ戦火が燻っている。

 

 

 

 あの日、見た青空とは程遠く、覆われた曇天は今の世界を示すように。 

 

 

 

 後に『第二次統合戦争』と呼ばれる戦いが、再びアオイを死地に誘おうとしていた。

 

 

 

 

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