機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第1話  赤い亡霊

 

 

 

 C.E.76 世界は二度の大戦経験した。

 

 『ヤキン・ドゥーエ戦役』と『ユニウス戦役』

 

 いずれも世界全土を巻き込み、数多の犠牲を積み上げながら、ようやくの終結を見た。

 

 しかし争いの火種は未だ燻り続け、そして戦いの気配も消える事は無い。

 

 地球連合、プラント、中立同盟、そしてテタルトス月面連邦。

 

 世界に存在する4つの陣営が互いに影響し合い、再び戦火が世界を覆い始めていた。

 

 

 

 

 

 

 どこまでも広がる空を二つ影が駆け抜ける。

 その影は現在世界で最も有名で、実戦に投入されている兵器、モビルスーツと呼ばれる人型兵器のものだった。

 二機が駆けるのは中立同盟に属する赤道連合の軍事基地上空。

 今そこでは新型モビルスーツのテストが行われていた。

 一機は白い四肢と背中に特徴的な翼と装備された砲身が垣間見え、もう一機は赤みがかったピンク色の装甲を持ち、背中はスラスター以外には何もないシンプルな印象を持っている。

 

 「速度を上げる」

 

 「了解」

 

 二機は風を切り、雲を散らす。

 その速度は常人の目で追いかけるのも困難なほどに速く、時折複雑な機動を取りつつ順調に予定通りのコースを辿っていく。

 その内の一機、翼を持った機体のコックピットで挙動を確認しながら操縦していたパイロット、キラ・ヤマトはテストの工程をすべて終えた事を確認する。

 

 「全項目オールクリア。異常は検知されず」

 

 端末にチェックを入れたキラはもう一機のパイロットへ声をかけた。

 

 「機体のテスト終了。ラクス、基地に帰還しよう」

 

 《ええ、分りました》

 

 二機が高度を下げ、海上に出るとそのまま真っ直ぐに進んでいく。

 その先にはキラ達が駐留している赤道連合のマリアナ基地が見えてきた。

 海上に面したその基地はザフトのカーペンタリア基地にも似た雰囲気を持つ、赤道連合の軍事拠点である。

 元々は大洋州連合の侵攻に備えて建設された最前線の基地であった。

 しかしプラントとの関係が改善されつつある現在では少しずつ緊張も緩和され、基地全体にも余裕が生まれている。

 とはいえ長年、敵と刷り込まれた相手をそう簡単に信用する事も難しく、しばらくはこのまま戦力維持に務めるのが赤道連合の方針だと聞いていた。

 

 「マリアナ基地、こちらキラ・ヤマト、これから帰還します」

 

 《了解、進路クリア、二番滑走路を使用してください》

 

 管制官の指示に従い所定の場所へと機体を着地させると管制官からの賛辞の声が聞こえてきた。

 

 《お見事です。流石ですね》

 

 「大袈裟ですよ」

 

 《貴方ほど綺麗に機体を着地させるパイロットは此処にはいません。機体への負荷も抑えられていますし》

 

 管制官の賛辞に苦笑しながらピンク色の機体の着地を確認すると格納庫内に移動、モビルスーツハンガーに固定する。

 

 「お疲れ様でした。いかがですか?」

 

 「なかなか良いね」

 

 整備士の質問に答えながらコックピットから降りると手渡された端末のスイッチを入れた。

 

 「問題は大してないみたいだし、順調かな」

 

 キーボードを叩きながら、データを見て満足そうに頷くと近くに控えていた整備士に端末を渡す。

 

 「よし、大丈夫です。このまま調整を続けてください」

 

 「ハ! オルトリンデの方ですが、ルティエンス大尉に確認を取る必要は?」

 

 「そちらの方は僕が確認して、後でデータを送っておきますから」

 

 「了解しました!」

 

 「フゥ、まあ、慎重になるのも当然かな」

 

 急ぎ走り去る整備兵の後ろ姿を見送りながら、傍らに立つモビルスーツを見上げた。

 キラが調整を行っているこの二機は同盟で進められている虎の子、『アドヴェント計画』の試作機である。

 『アドヴェント計画』とは中立同盟の新型機開発計画の一つでヤキン・ドゥーエ戦役で多大な戦果をあげたフリーダムなどの量産化計画の事だ。

 現在同盟はこの『アドヴェント計画』で企画された機体を次期主力機として量産しようと計画している。

 その計画は着々と進行中であり、もしもテストで異常が出たら早急に調査する必要があったのだ。

 しかしどうやらそれも杞憂に終わったようだ。

 

 「お疲れ様です、キラ」

 

 「うん、ラクスもお疲れ様」

 

 キラはヘルメットを小脇に抱えた相棒であるラクス・K・ルティエンスに微笑みかけると手渡されたタオルを受け取った。

 

 「どうかしましたか?」

 

 「いや、君の名前にもようやく慣れてきたかなって」

 

 ラクスのフルネームは本来別のもの。

 事情があってある人物の妹として名前を改名したのだが、最初の頃は姉の方と混同して戸惑ってしまった。

 現在ではその違和感もようやく消え、慣れてきていた。

 

 「機体はどうかな?」

 

 「ええ、特にこちらも問題は見当たりませんでしたわ」

 

 ラクスから受け取ったデータを確認すると特に異常は無く、機体に問題は確認できない。

 すぐにでも実戦投入できるレベルだ。

 

 「うん、こっちもOKみたいだね。ラクス、今日の作業は終わりだから、もう休んでいいよ」

 

 「分かりました。ではスカンジナビア行きの準備をしておきます」

 

 「頼むよ」

 

 二人は近くこのマリアナ基地での任務を終え、スカンジナビアの方に向かう事になっていた。

 二年も滞在し結構愛着のある店なども出来ていたので残念だが。

 それも今の情勢を考えれば仕方がない。

 それは『ヨーロッパ戦線』と呼ばれる戦いの激化が原因だった。

 人々の声に上る地獄の地。

 誰もが知る地球上で最も戦闘が激しい場所。

 それがヨーロッパ。

 そこには集まっているのだ。

 地球軍、ザフト、同盟軍、そして地球へ進出してきたテタルトス。

 現在地球圏に存在するすべての勢力がヨーロッパを舞台に睨み合い、激しい攻防を繰り広げているのだ。

 

 「……テタルトスか」

 

 そこはかつての親友が所属する陣営。

 嫌な話だが中立同盟とテタルトス月面連邦国は今現在非常に険悪であり、ほぼ開戦状態と言っても差し支えないほど関係が冷え込んでいる。

 もしかすると再び彼と戦う事になる日も近いかもしれない。

 そして―――自分の対を成すあの男とも。

 

 「キラ」

 

 「……何でもないよ」

 

 心配そうに見つめてくるラクスに微笑みかけ、データの精査を行おうとすると走りよってきた兵士の1人が声をかけてきた。

 

 「失礼します、ヤマト一尉。スカンジナビアより、クレウス博士から連絡が入っています」

 

 敬礼しながら報告してくる兵士に内心苦笑しながら、「分かった」と返事を返す。

 

 「どうしたのです?」

 

 「ん、いや、何時になっても階級で呼ばれる事には慣れないなぁってね」

 

 ヤキン・ドゥーエ戦役では階級で呼んでいたのはごく僅かの人間だけ、ユニウス戦役では隠密に動いていた為に階級で呼ばれた事はほとんどなかった。

 にも関わらずユニウス戦役終盤ではカガリとの血縁関系によって暫定とはいえ准将の階級を与えられていたのだから、頭が痛い。

 それは流石にという事で戦後にきちんとした辞令で血縁関係を無視した、階級を与えてもらったのだ。

 

 「キラは一尉なのですから、もう慣れないといけませんよ」

 

 ずっと軍に籍を置いているだけあってラクスはその辺が厳しい。

 毎回この手の話題では勝てた試しが無かった。

 

 「分かってるよ」

 

 そうそうにお手上げし、端末から映像を繋ぐとそこには世界で最も有名な研究者ローザ・クレウスの姿が映し出されていた。

 

 ≪久しぶりだな、ヤマト≫

 

 「ええ、お久しぶりです、クレウス博士」

 

 一見研究者には見えない白衣をまとった女性。

 彼女こそ世界に知らぬものはいないとされるオーブの研究者ローザ・クレウス博士だった。

 非常に優秀な人物で中立同盟が開発したモビルスーツで彼女が関わっていない機体は存在しないと言われる程の研究者である。

 本人はモビルスーツには興味が無いと公言しており、現在の仕事も仕方なく受けているという事らしいが。

 

 ≪ああ。そういえばニーナがお前に会いたがっていたぞ≫

 

 「うっ」

 

 その名を聞いた途端、背後に立っているラクスから剣呑な気配が立ち上る。

 ニーナとはユニウス戦役時に共に戦った女性で、キラの部下のようなものだ。

 優秀でキラも深く信頼しているし、彼女もこちらを慕ってくれているのだが―――少々スキンシップが過激なのがたまに傷だ。

 

 「は、はは。えっとそれはまた今度話をしますよ。それよりどうしたんですか?」

 

 ≪お前が作成した機体の設計を見せて貰った。流石だな、私の方でも幾つか手は加えておいたが、基本はあれで問題ないだろう。データを送っておく。それから例のデバイスが完成した≫

 

 「本当ですか?」

 

 ≪ああ。テストがまだだがな。後は搭載してからだ。機体をこっちに寄こせ≫

 

 「はい。僕達ももうすぐそっちに向かいますから、一緒にスカンジナビアの方へ運びますよ。それよりもヨーロッパはどうです?」

 

 ≪ふん。世界情勢に興味は無いが、まあそっちが思っている以上に切迫しているようだ≫

 

 世情に興味がないと言いつつも、ローザは顔を歪めている。

 それだけ不味い状況らしい。

 

 「そうですか……やっぱり急いだ方がいいかもしれない」

 

 キラは硬い表情のまま、視線を横に向ける。

 

 

 

 そこにはフレームが剥き出しの組み立て途中の機体が二機、横たわっていた。

 

 

 

 『機動戦士ガンダムSEED eventual』

 

 

 

 宇宙から見る地球は青くとても美しく、誰しも目を奪われる。

 とてもあそこで今も生死を賭けた戦いが繰り広げられているとは誰も思わないだろう。

 そんな地球からの宇宙に上がってきた数隻の船があった。

 物資や人員を乗せたザフト所属のシャトルである。

 シャトルは出迎えに来ていたザフトの輸送船と合流するとゆっくり彼らの帰るべき場所であるプラントへ向け、航行を開始する。

 その周りには護衛の為に配置されたモビルスーツ『ザクウォーリア』と『グフイグナイテッド』が物々しい雰囲気を纏い任務を遂行していた。

 

 「全く、こんな任務に就かされるなんて冗談じゃないな」

 

 輸送船を操縦していたパイロットの青年がその光景を見て毒づくと計器をチェックしていた兵士がからかうように声を掛けた。

 

 「何だ、ビビってんのかよ?」

 

 「うるさい、お前だって知ってるだろ。ここ最近の輸送船行方不明事件の事」

 

 そう言われて兵士も合点がいったのか、納得した表情に変わった。

 最近プラントに向かう輸送船が行方不明になるという事件が数件起こっている。

 彼が不安そうな顔をしているのは、自分もそんな事件に巻き込まれるのではと思っている訳だ。

 

 「何だよ、そんな事かよ」

 

 「そんな事とはなんだよ。あれってさ、遭難事件じゃなくて、何者かに襲撃されたんじゃないかって噂があるんだよ」

 

 行方不明になった輸送船は事故に遭うような航路は取っていなかった。

 その上に前議長に関係する重要人物が護送されていたという黒い噂まで流れ、何者かが襲撃したのではないかという話が軍全体に広がっているのだ。

 この物々しいモビルスーツの護衛も、不測の事態に備えてというよりも、誰からの襲撃から守る為のものと言われた方がしっくりくる。

 移動している航路も今までのものとは違い、デブリの多い少し危険なものになっているしパイロットの青年が疑念を持つのも不思議ではない。

 

 「大丈夫だよ。何かあった時の為の護衛だろ。ま、最新型の機体じゃないけどさ」

 

 ザクやグフは二年前に勃発した『ユニウス戦役』から実戦投入されている機体であり、現在実戦配備が進められている新型機に比べると性能が劣ってはいる。

 それでも現場に立つ兵士達からの信頼は厚く、改修や強化を施され今なお前線に投入されており、その能力や性能も確かなものだ。

 

 「それに地球に行かされるよりは遥かにマシだと思うぜ。カーペンタリアはまだしもジブラルタルなんて絶対にごめんだね」

 

 「『ヨーロッパ戦線』か。確かに」

 

 兵士の軽口にパイロットの青年も気が紛れたのか、見るからに肩の力が抜けた。

 ニヤリと笑う同僚のおかげか先ほどまで感じていた物々しさも忘れ、軽い雑談を交わし始める。

 

 しかし、気を緩めたその瞬間―――護衛役として同道していたザクが上方から発射されたビームによって撃ち抜かれ、大きく爆散した。

 

 「何!?」

 

 「ッ、レーダーに反応あり……これはモビルスーツ!?」

 

 上方から急速に接近してきたのは赤い装甲とモノアイも頭部を持ち、背中に設置された二基のスラスターユニットが特徴的なモビルスーツだった。

 

 「あの、機体は……」

 

 通常の機体とは比較にならない速度で迎撃に向かうザクの懐に飛び込み、手に握ったビームサーベルで斬り払う。

 横薙ぎに振るわれた光刃がザクの胴体を捉え、いとも容易く切断すると即座にライフルを構え次の機体を撃ち抜いた。

 

 「速い!?」

 

 「くそ!!」

 

 襲撃してきた赤い機体は背中のスラスターユニットを噴射させ、ザクから連射されるビーム突撃銃をアクロバッティックな機動で軽々と回避する。

 

 「くっ、怯むな! 迎撃しろ!!」

 

 グフとザクが連携を取り、赤い機体を囲むように攻撃を仕掛けた。

 

 「落ちろ!」

 

 ターゲットをロックし、ビーム突撃銃のトリガーを引く。

 しかしその一射は敵機を捉える事無く虚空に消え、続けて別の機体が放ったビームも掠めることすらできないまま、赤い影だけを残して敵は視界から掻き消えた。

 

 「なっ、どこに? うああああ!?」

 

 ザクは何時の間にか下側に回りこんでいた敵が放ったライフルの一撃で急所を撃ち抜かれてしまった。

 

 「畜生、なんだこいつは!?」

 

 「後ろに目でも付いてるのかよ!!」

 

 こちらの射線を完璧に見切っているかのような動きですべての射撃を回避する敵機に誰もが戦慄する。

 

 「なら接近戦で!!」

 

 痺れを切らしたザクとグフがビームトマホークとテンペストビームソードを抜き、左右から挟みこむように切りかかる。

 だが上段から繰り出したビームソードの斬撃は最小限の動きで避けられ、さらにシールドから放出されたロングビームサーベルによってザクの両脚部が切断、バランスを崩してしまった。

 

 「ッ!?」

 

 「なんだと!?」

 

 脚部を失い無防備になったザクの中央にビームサーベルが突き刺さり、グフの方へ振り投げるとライフルで二機同時に撃破する。

 

 「化物かよ!!」

 

 残りの護衛機から追撃を振り切り、発射されたビームライフルがザフト機を次々と撃ち落としていった。

 

 その光景は悪夢の一言。

 

 この言葉しか出ない目の前の光景に軽口を叩いていた兵士も顔を青くし、ただ体を震わせている。

 そんな中、輸送船の操縦桿を握るパイロットは目の前で悪夢を振りまく赤いモビルスーツの事を思い出していた。

 

 あれはユニウス戦役最後の戦い『メサイア攻防戦』だった。

 

 中立同盟の象徴ともいえるモビルスーツ『ガンダム』をたった一機で完璧に押さえ込んだモビルスーツがいたのだ。

 

 「あ、あ、まさか……あの機体は……」

 

 赤いモビルスーツはすべての護衛機を排除すると加速しながらビームサーベルを構えて突っ込んでくる。

 もはや逃げ場はなく、守ってくれる味方機もいない。

 確定した死までの一瞬、思い出したその機体の名をパイロットの青年はポツリと呟いた。

 

 「……サタナ……」

 

 赤いモビルスーツの一撃で輸送船のコックピットは斬り潰され、船体は閃光に包まれた。

 

 

 その惨状を生み出したパイロットは何も語らず、背を向けるとすぐさまその場を後にする。

 

 

 生き残ったものは誰もおらず、破壊されバラバラになった残骸だけが残された。

 

 

 

 

 結局今回もまた地球から帰還した者達を乗せた輸送船がプラントにたどり着く事無く、消息を絶った。

 この事態にプラント最高評議会は臨時の閣議を開き、対応を協議していた。

 

 「……テタルトスでしょうか?」

 

 開口一番、硬い表情で資料に目を通していた議員が最も疑わしい存在を指摘した。

 テタルトス月面連邦国は『ヤキン・ドゥーエ戦役』終結後に建国された新生国家である。

 戦後の混乱に紛れプラントから離脱した者達がその中核を成し、地球からの合流者も含めて多くの人々が月へと集い、国を作り上げた。

 技術、人材の流出、敵対していた筈の地球軍離脱者の受け入れ、そして月独自の考えである『SEED思想』の拡散。

 当時から続く様々な事情からテタルトス月面連邦国とプラントの関係はすこぶる悪く、昨今でも小競り合いが絶えない敵対国家の存在を疑うのは自明の理と言える。

 

 「いや、地球軍という可能性もあるでしょう。最近では宇宙に新しい拠点の構築も進めているようですからね」

 

 「例の保守派ですか」

 

 「ええ。協力関係である改革派は劣勢ですし、宇宙でも保守派の連中が幅を利かせ始めているようです」

 

 地球の存在している主要国家の大半が参加し、形成されていた地球連合は現在二つの勢力に別れ、内戦状態に陥っている。

 一つは今までの体制から抜本的な改革を行おうとグラント・マクリーン中将が率い、プラントや他の陣営とも協調路線を取っていた現在では改革派と呼ばれている勢力。

 もう一つがかつての地球連合の威光を取り戻すべく力を持って統一を果たそうとする強硬派、今は保守派と呼ばれている勢力である。

 現在、地球では数多の国家を巻き込みながら、この二つの勢力が血で血を洗う激戦を繰り広げているのだ。

 

 「うむ、どちらにせよ、調査の為の戦力を送る必要がありますな」

 

 「しかしこちらも月を警戒しなくてはなりませんし、地球での『ヨーロッパ戦線』が落ち着かない限りは簡単に戦力を動かす事はできません。状況を好転させる為に同盟に対して働きかけや改革派に対してもできるだけ支援は行っていますが」

 

 「それに仮に襲撃者がいた場合、生半可な戦力を送って返り討ちになっても意味がない。ならばそれ相応の戦力を送るべきだ」

 

 「だから前線に配備すべき新型機を調査部隊に回せというのか?」

 

 意見が纏まらず紛糾する議会。

 その中央で黙って話しを聞いていた男が厳しい表情で立ち上がると声を上げた。

 

 「皆さん、落ち着いてください」

 

 「議長」

 

 立ち上がった人物、彼こそ現最高評議会議長レヴァン・カーライルだった。

 かつては前議長であるギルバート・デュランダルの側近として働いていたが、デスティニープランを巡って対立した過去を持った人物である。

 そんな経歴故か、デュランダルを彷彿させる非常に優れた政治手腕を持っており、プラント市民からの信頼も厚い。

 

 「議長はどう思われますか?」

 

 「私もこの事態を看過する事はできないと考えています。しかし現在、迂闊に戦力を動かせない事も事実です。ですからここは『グラオ・イーリス』の派遣を提案します」

 

 レヴァンの提案に半数が納得の、もう半分が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるが、それをあえて無視するように言葉を続ける。

 

 「元々こういう不測の事態の為に設立した独立部隊ですから、彼らが適任かと」

 

 「しかしあの部隊は色々と……」

 

 「他に代案が?」

 

 そう言われれば代案もない以上、口を閉ざすしかない。

 周りを見渡しこれ以上の意見が無いと判断したレヴァンは総括する為、あえて大きな声で告げた。

 

 「では輸送船行方不明の調査は独立部隊『グラオ・イーリス』を派遣するという事でよろしいでしょうか?」

 

 皆が頷いたのを確認すると議会は次の議題の話し合いに移っていった。

 

 

 

 

 輸送船が消息を絶って二日。

 プラント最高評議会の命令を受け、輸送船が行方不明となった宙域へ一隻の艦が派遣されていた。

 ユニウス戦役において大きな戦果を上げながらも数奇な運命を辿った、女神の名を冠された艦『ミネルバ』である。

 このミネルバこそ独立部隊『グラオ・イーリス』第一部隊の旗艦として運用されている戦艦であった。

 

 「目標ポイントまで、後5分です」

 

 「分ったわ」

 

 艦長席に座り指揮を執るタリア・グラディス艦長は指令書の内容に改めて目を通しながら表情を曇らせた。

 そのタリアの様子に気がついたのか副長のアーサー・トラインが訝しげに声をかける。

 

 「艦長、どうしました?」

 

 「……いえ、これがもしも何者かによる襲撃であれば厄介な事になると思っただけよ」

 

 「確かに。やはりテタルトスですか」

 

 「それを調べる為に私達が派遣されているのよ」

 

 世界情勢は混迷を極めている。

 各陣営が刃の矛先を向け合い、睨み合い、時に激突を繰り返す現状、さらに余計な事態は避けたいというのがタリアの本音だ。

 だから今回の件が単なる海賊等ならまだマシな方だろう。

 しかし提示された情報と彼女の豊富な実戦経験からくる推測が、それを否定していた。

 

 「艦長、評議会から指定されたポイントに到着します」

 

 タリアは管制官であるメイリン・ホークの報告にアーサーとの話を打ち切ると即座に頭を切り替えた。

 

 「アレン達は?」

 

 「ブリーフィングルームです」

 

 「いつでも出撃できるように準備させておいて」

 

 「了解」

 

 輸送船が行方不明となった場所に近づき、ブリッジが戦闘態勢に移行する。

 艦全体が戦闘準備に追われ、慌ただしく動き出す中ブリーフィングルームではパイロット達が集まり、情報の共有を行っていた。

 すでに全員がパイロットスーツに着替え、モニターに提示された情報に見入っている。

 そんな彼らの前に立ち、説明を行っているのはモビルスーツ隊を任されたサングラスを掛けている青年アレン・セイファートである。

 

 「以上が現在確認されている情報だ。現場に到着次第、調査に入る。何か質問は?」

 

 「隊長、仮にですけど、輸送船襲撃者が居た場合は撃墜してもよろしいのですか?」

 

 「そうだな。襲撃者に関してはできれば鹵獲するのが望ましいが、危険だと判断した場合は構わない、撃墜しろ」

 

 「了解」

 

 《もうじき目標ポイントに到着します。モビルスーツ隊各員は搭乗機にて待機してください》

 

 「よし、全員、機体へ搭乗。後は何時も通りに」

 

 「「「了解!!」」」

 

 メイリンの放送がブリーフィングルームに流れ、アレンの指示に全員が敬礼すると格納庫に向かって移動を始める。

 それを見送りアレンも格納庫に向かおうとすると赤い髪をしたセミロングの女性が近づいてきた。

 

 「アレン」

 

 「ルナマリアか。今回も頼む」

 

 「ええ」

 

 赤い髪の女性はルナマリア・ホーク。

 ユニウス戦役から共に戦ってきた戦友であり、お互いの信頼も厚く、今はモビルスーツ隊の副隊長も任されている。

 アレンにとっては長年一緒に戦ってきた相棒といっても差し支えない存在だ。

 

 「それより、いい加減そのサングラス外したらどうです? 似合ってないですよ」

 

 「ぐっ……いいんだよ。俺は目立つのは好きじゃないって知ってるだろ」

 

 「皆、アレンの素性は知ってるんだし、気にしなくてもいいと思いますけど」

 

 アレン・セイファートというのはユニウス戦役で使っていた偽名であり、アスト・サガミというのが本名だ。

 ただこの名前は色々目立つ上に、『グラオ・イーリス』の現状から考えてもあまり好ましいとも思えなかったので、この名を使用しているのである。

 

 「それより機体の方はどうだ?」

 

 露骨な誤魔化しにルナマリアはジト目を見つめていたが、すぐにため息をつきその話しに乗ってきた。

 

 「ハァ、まあこの話しは後で。今のところ大丈夫です」

 

 「そうか問題があればすぐに報告してくれ」

 

 二人は話をしながらブリーフィングルームを後にすると格納庫に向かう。

 

 「それにしてもこっちにも新型機を回してくれれば少しは楽になるんですけどね」

 

 「仕方ないな。新型は全軍に行き渡るまでは、こっちには回ってこないだろう」

 

 ルナマリアが愚痴る気持ちも良く分かる。

 現在ミネルバに配備されている機体はすでに戦線に投入されている既存機のみで、アレンやルナマリアもセカンドステージシリーズの改修機に搭乗していた。

 これは独立部隊である『グラオ・イーリス』の成り立ちに関係している。

 元々『グラオ・イーリス』は現在の状況に危機感を持った中立同盟、プラントの一部上層部があらゆる状況にすばやく対応できる遊撃部隊として設立したものである。

 同時に中立同盟とプラントの関係良好をアピールする為のプロパガンダ的な意味合いも強く、部隊員は同盟やザフトから選抜された者達で構成されている。

 その特殊な成り立ちと所属している者たちの経歴から、快く思っていない一部から嫉妬や反感を買っているのだ。

 モビルスーツや配属される人員などはその影響を受けており、既存の基地に立ち寄った時も冷遇に近い対応をされる時もある。

 故に新型モビルスーツなど議長や同盟上層部から指示でもない限りは、配備される事はまずあるまい。

 

 「ま、泣き言いっても始まらない。俺達は与えられた手札で勝負するしかないさ」

 

 「そうですね」

 

 雑談を交わしながら格納庫に到着するとルナマリアと別れ、アレンは自分の機体の元へ向かう。

 

 ZGMF-X51Sβ 『エクリプスガンダム・リビルド』

 

 ユニウス戦役で投入されたエクリプスガンダムを一度解体し、現在の技術を用いて再構築した機体である。

 

 「……こいつとも長い付き合いだな」

 

 長年付き合ってきた愛機の姿を少しだけ見つめ、コックピットに乗り込んで機体を立ち上げているとオペレーターであるメイリンからの通信が入った。

 

 《予定ポイントに到達しました。各モビルスーツは出撃してください》

 

 「了解!!」

 

 最終チェックを終えるとエクリプスがカタパルトに運ばれ、前方のハッチが開く。

 

 《進路クリア、発進どうぞ》

 

 「アレン・セイファート、エクリプス、出ます」

 

 ミネルバから出撃したエクリプスの背中に射出された専用の『エクリプスシルエット03』を装着した。

 この装備はフォースシルエットを改良、スラスター出力を強化した装備であり、『エクリプスシルエット』同様に武装ラックも搭載されている。 

 目新しい装備ではないがバランスという意味では一番優れた装備故にアレンは大抵この装備を使う事にしている。

 

 「良し、サーベラス、バロール問題なし」

 

 エクリプスがラックに載せている武装である高エネルギービーム砲『サーベラスⅡ』とレール砲『バロールⅡ』の調子を確認しているとザクやムラサメといった機体が続けて出撃してくる。

 そして最後に姿を見せたのはモビルスーツが普及した現在、戦場においては場違いともいえる小型の戦闘機だった。

 

 《進路クリア、発進どうぞ》

 

 「ルナマリア・ホーク、コアスプレンダー出るわよ」

 

 飛び出したコアスプレンダーに続き、モビルスーツの上半身と下半身、さらにフォースシルエットが次々に射出され、ドッキングすると一機のモビルスーツへと姿を変えた。

 

 ZGMF-X56Sβ 『インパルスガンダム・リビルド』

 

 エクリプスガンダムと同様に現在の技術を用いて再構築した機体である。

 大きな外見上の変化は無いが、チェストフライヤーはデスティニーインパルスの物を改修、各部にスラスターを増設し機動性を高め、さらにレッグフライヤーにもビームサーベルを装着する事で戦闘力向上を図っている。

 ドッキングを果たしたインパルスが合流し、全機の出撃を確認すると二手に別れ、調査を開始する。

 

 「各機、事前に通達していた通り、調査予定時刻は一時間だ。何も無ければ別ポイントに移動、再び同じように調査を行う」

 

 「「「了解」」」

 

 全機が散開し、デブリを避けながら輸送船の痕跡を探す。この辺りはデブリが多く、視界も良くない。慎重に手掛かりを探索していると、アレンの視界に光るものが見えた。

 

 「アレは?」

 

 エクリプスをそちらの方向に移動させたその瞬間、いきなりビームによる攻撃が一斉に襲い掛かる。

 

 「敵か!?」

 

 スラスターを逆噴射させ、攻撃を避けながら発射された方向へライフルの銃口を向けた。

 そこにいた機体はテタルトスのモビルスーツである『フローレスダガー』であった。背中に高機動戦闘仕様の装備であるウイングコンバットを装着し、ビームライフルを構えている。

 

 「ここにテタルトス?」

 

 《アレン、こっちにも月のモビルスーツが!?》

 

 ルナマリアからの報告に一瞬困惑するも、即座に指示を飛ばす。

 

 「全機、迎撃!」

 

 「「了解!!」」

 

 フローレスダガーのライフルを避けつつ前方に加速、腰からビームサーベルを抜くと上段から叩きつける。

 ライフルごと腕が容易に切り裂かれ、たたらを踏む敵機にさらに光刃を振るい、残った腕と足を瞬時に斬り裂いた。

 

 「悪いがお前には聞きたい事がある。こちらに来てもら―――」

 

 動けないフローレスダガーを回収しようとしたアレンだったが、そこに強力なビームが撃ち込まれた。

 強力なビームの一射がフローレスダガーに直撃すると木っ端微塵に破壊する。

 

 「チッ、増援。あれは『ジンⅡ』か」

 

 砲戦仕様のバーストコンバット装備を背負い、ビームランチャーの砲口を向けているのはテタルトス軍のモビルスーツである『ジンⅡ』だった。

 砲口から発射されたビームの閃光と共にミサイルの雨がエクリプスに一斉に降り注ぐ。

 

 「鬱陶しい!」

 

 アレンは上昇してビームの砲撃を回避すると背中のサーベラスⅡを跳ね上げ、ミサイルを吹き飛ばした。

 そしてそのまま一気に速度を上げると爆煙の中を突っ切りジンⅡへと肉薄する。

 

 「その手の装備に砲戦で相手をする気はないんだよ!」

 

 しかしエクリプスの行動を読んでいたのか、ビームランチャーの砲口はこちらの方に向けられていた。

 それでもアレンは速度を落とさず、ビームサーベルの柄に手を伸ばす。

 

 一瞬の攻防。

 

 砲口から発射されたビームは一直線にエクリプスに向かってくる。

 

 「ッ!!」

 

 アレンは神懸り的な反応で機体をバレルロールさせビームの奔流を避けると、逆さのまますれ違う瞬間にサーベルを抜く。

 その一振りがジンⅡの胴体を捉え、真っ二つに断ち切った。

 爆発を背に今度はルナマリア達が戦っている方向へ進路を取った。

 

 「はあああ!!」

 

 インパルスもまた余裕さえ感じられる動きでフローレスダガーの斬撃をかわし、至近距離から突きつけたライフルでコックピットを破壊する。

 しかも味方への援護も忘れておらず、敵を寄せ付けない。

 

 「全くしつこい。これじゃ鹵獲する隙もない」

 

 「ルナマリア!」

 

 インパルスの背後から対艦刀で切りかかるジンⅡにアレンはビームライフルで狙撃、腕ごと破壊する。

 その隙にルナマリアがCIWSを叩き込みながらシールドで殴りつけ、体勢を崩した所にエクリプスの一射が頭部を貫いた。

 

 「余計なお世話だったか?」

 

 「いえ、ありがとうございます、アレン」

 

 周囲の状況を見渡すと残ったテタルトスの機体は他の機体によってほぼ鎮圧されている。

 見れば他にも鹵獲できそうな機体が幾つかあるようだ。

 

 「アレン、この機体、鹵獲しますか?」

 

 テタルトスが今回の襲撃犯かはまだ分からないが、何かしらの手ががりくらいは得られるかもしれない。

 

 「ああ。だが慎重にな」

 

 「了解」

 

 インパルスと共に胴体が無事であったジンⅡを鹵獲しようとしたその時―――生き残っていた機体が突如爆発し始めた。

 

 「自爆!? 全機、敵から離れろ!!」

 

 全機が一斉に敵の機体から飛び退くと、ギリギリ爆発の影響範囲外に離脱する事に成功した。

 

 「ッ、無事か?」

 

 「……こっちは何とか無事です。他の機体も多少の損傷は受けているけど、全員大丈夫みたいですね」

 

 全機の反応がある事が分かり、アレンは安堵するように息を吐き出した。

 だが、何故こんな場所にテタルトスのモビルスーツが存在したのか、疑問が残る。

 海賊やジャンク屋、傭兵という事も考えられるが、どれも違うような気がする。

 

 「考えていても仕方がない。一旦戻った方がいいか。良し、ミネル―――」

 

 アレンは突如、殺意の籠った視線のようなものを感じ取ると背後に振り返りライフルを向けた。

 だが銃口の先に誰も居らず、ただ暗闇の宇宙が広がっているだけだ。

 

 「アレン、どうしたんですか!?」

 

 「い、いや。なんでもない」

 

 確かに誰かに見られていたような気がしたのだが。

 アレンはまとわり付く嫌な予感のようなものを振り払おうと首を振り、全員に一時帰還命令を下すともう一度だけ視線を感じた方向を見た。

 

 「今のは……」 

 

 そこにはやはり誰もおらず、ただ虚空の闇だけが広がっている。

 結局、終始嫌な予感は消えないまま、アレンはミネルバへ帰還する進路を取った。

 

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