第一次統合戦争。
古き力は潰え、新たな力が生まれた戦い。
数多の犠牲を生み出し、世界の縮図を一変させたこの大戦からすでに三年の時が流れていた。
世界を取り巻く情勢や各陣営の勢力図は大きく変化し、かつての面影はすでにない。
それでも尚、戦いの炎は消える事なく燻り続けていた。
◇
暗く音も聞こえない静かな部屋。
そこは所謂牢獄と言われるもの。
パッと見ても物こそ殆どないが、清潔感はなく酷く薄汚れている。
そんな清掃すら行われていない部屋に一人の男が座り込んでいた。
髪の毛は伸び、口元の髭は伸び放題。
着ている服もみすぼらしくボロボロになった囚人服。
一見ただの浮浪者だと言われても不思議はない。
しかし一点だけ男は普通の浮浪者とは違っていた。
目だ。
飢えた狼のようにギラギラした鋭い目付き。
部屋に入った者は全員噛み殺すとばかりのその目付きと殺意はこの場所に収監された当初から変わっていなかった。
所構わずふりまく殺気に、管理を任されている者でさえ気圧されてしまい近づく者は居ない。
しかし当の本人にはそんな気はなく、ただただ今自分に襲い掛かっている『退屈』という名の敵との格闘に終始していた。
「……暇すぎる」
なんせ此処には娯楽がない。
まあ牢獄故に当然と言えば当然なのだが、やることが何もないというのは本当に辛い。
退屈で死にそうなんて事を言っていた奴が昔にいたが気持ちが良く分かる。
体でも動かせれば別なのかもしれないが牢獄もそこまで広くはない。
できる事といえば精々筋トレくらいのものであった。
「筋トレとか飽きたし……というかもうやったし」
ここに入れられて以降は大体筋トレが時間を潰す為の手段の一つとなっていたが、そればかり続けていても飽きるのである。
こんな事ならば研究者共のいけ好かない実験にでも付き合っていた方がまだ楽しいというもの。
「ああ、今度はイライラしてきた、くそ!」
怒りのボルテージが急激に上昇し、自分でも抑えられない衝動へ変わっていく。
「くそ、くそ、くそ!!」
入口の扉を思い切り蹴りつける。
もちろんそんな事で鋼鉄で出来た扉を破壊できる訳も無く、しかしそれでも怒りの衝動は彼に蹴りを放つのを止めさせない。
「あああ!! くそ!!」
抑えきれない苛立ちに支配され、さらに蹴りを繰り出しそうとしたその時、普段は決して聞こえない音が聞こえてきた。
コツコツと響く音。
それは廊下を歩く誰かの足音に相違なく、男の衝動を掻き消してしまう程の異常事態だった。
何せ此処には基本的に誰も来ない。
男の事を恐れているからだ。
故に人が来るなど精々食事を運んでくるくらいであり、もちろん今はその時間ではない。
それ以外の来客などここしばらく無かった事だ。
「……一体誰だ? いや、この退屈を紛らわしてくれるなら誰でもいいか」
男は久しぶりに感じる高揚感に身を浸しながら、足音に聞き入っていく。
まずはどうするか?
大人しく話を聞くだけでもいいのだが、それでは面白くない。
思い切り喧嘩を売って殴り合うか。
不意打ちを食らわせてボコボコにするか。
女であれば存分にその体を堪能してもよい。。
予想外に訪れた娯楽に男は口元をつり上げていく。
そんな事を考えている間にも足音は男の居る牢獄の前にたどり着いていた。
「……まずはどんな奴か顔を拝んでからだな」
牢獄の扉が開く。
同時に男の顔が驚愕に染まった。
「お前は……」
解放されていく扉の前に立っていたのは―――
「久しぶりと言えばいいのかな?」
聞こえにくい、くぐもった声で男に語り掛けてきたのは黒いコートに身を包んだ人物。
男が本能に任せて手を出さなかったのはその人物を見知っていたからに他ならない。
「ハ、確かにその面を見るのは久しぶりだ。けどよ、『中身』も俺の知っている奴とは限らないだろうが」
見知っているのは事実。
しかし目の前に立っていた人物は不気味な仮面を身につけ素顔は見えない。
その素顔まで知っているとは限らないのだから警戒するのは当たり前だ。
仮面の人物もそれを見越していたのか、特に反論する事無く頷いた。
「確かに。しかし君にとってそれはどうでも良い事なのではないか?」
「何?」
「私が誰であろうとも君にとって有益であるのなら、問題にはなるまい」
男の心理を正確に突いた言葉に自然と笑みが零れる。
「なるほど。で、何の用なんだ?」
仮面の人物は口元に薄く笑みを浮かべると、要件を口にする。
それは酷く退屈で刺激の無い生活を送っていた男にとって、歓喜すべきもの。
ようやく得られた最高の娯楽を前に獣は喜んで仮面の人物の招きに応じた。
無論、それがただの勧誘などでない事は分かっている。
例えそれが悪魔の誘いだったとしても、男は何一つ後悔はしない。
ここから逃れられるならば、悪魔にだって魂を売るだろう。
何故ならこの場所こそが―――『退屈』という最悪の地獄だったのだから。
◇
C.E.79
世界にとって大きな変化が生じる分岐の時だったと言っても過言ではない。
幾重にも行われた大戦の傷跡は薄れ、荒廃した街の復興の道筋もようやく立ってきている。
そして時が満ちたとばかりに各勢力は新たな道を模索し始めていた。
地球圏統合政府、調和条約同盟、テタルトス月面連邦国。
世界に席巻するこれらの勢力は未知のフロンティアである外宇宙進出に目を向け、着々とその準備を推し進めている。
元々荒廃した地球から離れ、安住の地を宇宙に定めていた故に、どの勢力にも後れを取らぬとばかりに競ってである。
かつてのように表立った敵対行動はないものの、一応は表立った武力衝突は鳴りを潜めていた。
だが全てが順調に進んでいた訳ではない。
その一つが『アムステルダム商工連合』の誕生だった。
条約により非戦闘区域に指定されたアムステルダムに存在する企業群が中心となり誕生した組織である。
結成目的は円滑な経済運営を行う為、連携強化を図る為のもの。
最初はそれこそ極小規模な組織であったのだが、徐々に巨大になり今や世界経済にとっても無視できない存在になりつつあった。
さらに自警団と称し『防衛隊』と呼ばれる武装組織まで存在しているという噂すらある程である。
もちろん各勢力も何もしていなかった訳ではない。
かつての『ロゴス』にならぬようこれらの存在を危惧し、勢力拡大を食い止めようと動きはした。
しかし大戦で疲弊した世界にとって特別な経済区域でもあるアムステルダムの存在は欠かせず、またそれを知る彼らも自分達の存在を売り込むように各勢力圏へと根を伸ばしていった。
結果として彼らは国際的な国家という訳ではないものの、各勢力圏に多大な影響力を持つに至ったのである。
さらに外宇宙進出に反対するように地球圏ではテロが頻発するようになる。
曰く外宇宙進出の前に地球の復興が先だ。
曰く人類が外宇宙に出るのは早すぎる。
曰く外宇宙を人類の足跡で汚すべからず。
言い分は様々あれど要するに今のやり方は気に入らないという事らしい。
戦いの火は未だ消えず。
世界は新たな戦いの時代を迎えていた。
◇
暗闇の中でも映える特徴的ともいえる白亜の艦。
『ヤキン・ドゥーエ戦役』からずっと戦場に伝わる伝説―――不沈艦と称された戦艦アークエンジェル。
それらを彷彿させる一隻の戦艦が宇宙を駆けていた。
名を『ウリエル』
『第一次統合戦争』にてファントムペインの戦艦『サリエル』との戦いによって撃沈されたガーティ・ルーの代わりに同盟軍が投入した新型戦艦である。
アークエンジェル級の特徴を受け継ぎながらも、次世代の戦艦として構想された新造戦艦であり、その性能はアークエンジェルやミネルバすらも上回る。
現在は独立部隊『グラオ・イーリス』の第三部隊の主力艦として試験運用されており、今日も任務を兼ねたデータ収集が行われていた。
その艦長席に座っているのは今は無き名鑑オーディンの副長を務めた事もあるヨハン・レフティ大佐だった。
「各セクション、状況を報告せよ」
「各部署、火器管制、エンジン、すべて正常、異常の報告はありません」
「データ収集は?」
「継続中」
「そうか。これが最終報告のデータ収集になりますので、最後まで気を引き締めるように伝達を」
「「了解」」
オペレーターの報告を纏めつつ、ヨハンは内心安堵のため息をついた。
「……これでデータが揃えば任務完了ですね」
思えばここまでも気苦労が絶えなかった。
本来であればこの『ウリエル』は独立部隊グラオ・イーリスの旗艦としても運用予定がなされていた。
しかし例のごとく反グラオ・イーリスともいえる者たちにより、それが遅延。
さらには第一次統合戦争にて戦果をあげた『フォルセティ』こそ旗艦に相応しいなどと言い出す始末。
そもそもそのフォルセティとて彼らの妨害により、就航が大幅に遅れたというのに。
そんな上のゴタゴタに人事の方まで影響が出た。
ヨハンはまさにそれの直撃を受けてしまったのである。
予定されていた別艦の艦長は延期させられ、他の部署をたらい回しにされた挙句、試験運用艦の艦長代行をせよときたものだ。
「本来であればオーデン大将閣下が艦長を務める筈だったというのに」
だが、それも此処まで。
データが揃い本格的な運用が開始されれば、正式な艦長が任命されるだろう。
予定ではかつての上官であるアルミラ少将がその役割に就くという。
そうなればヨハンの肩の荷も下りるというものだ。
そんな訪れるかどうかも分からない未来予想図に思いを馳せていると、背後にあるブリッジの扉が開いた。
入ってきたのは仮面を被り、素顔を隠した人物ネオ・ロアノーク大佐だった。
「艦長、艦の進捗状況はどうか?」
「今の所、問題なしかな」
最初こそ仮面姿に面食らったものの、ネオ自身が見た目ほど取っ付きにくい人物でなかった事なども手伝って、すぐに違和感なく接するようになった。
さらに改革派を率いていたその手腕も本物で、気苦労が絶えないヨハンとしても大助かりだった。
「これでようやく僕の役割も終わりかな」
「このままレフティ大佐が艦長を務められるとばかり思っていましたが」
「勘弁して欲しい。これ以上、上の連中の相手をしていたら胃に穴が空いてしまうよ」
冗談めかして言ってはいるが、ヨハンとしては本気も本気だ。
正直、除隊を考えたくらいには、ここしばらくの心労は堪えるものだった。
現在の同盟上層部は昔とは違い、一枚岩という訳ではない。
それは調和条約同盟が設立された際の弊害とでもいうべきものだ。
当時は統合軍の誕生により、かつての中立同盟やプラントは明らかに追い詰められた状態だった。
それを脱する為、やや強引に条約を結んだ弊害がここにきて影響をもたらしていた。
「こちらとしては貴方のような優秀な人が艦長の方が助かるんですがね」
「正式な艦長とて優秀だとも。あのアルミラ艦長らしいからね」
「それはあくまで噂では? 同盟軍の部隊指揮を行っているアルミラ少将を上層部がグラオ・イーリスに移動させるとは思えませんが」
「嫌な事言わないでくれよ」
「失礼。では任務の方は?」
ネオは苦笑しながら、本題を切り出した。
「今回は最近目撃されている不審船の調査です。所属、目的、すべて不明。捕捉したテタルトスの部隊も途中で見失ったらしい」
「この辺を根城にした海賊か、何処かの勢力の密輸船。それとも噂に聞く商工連合の防衛隊の船か」
「その詳細を調べに行くのさ。まあ『防衛隊』とは思いたくないね。彼らの存在はあくまでも噂だし」
「公然の秘密という奴でしょう。商工連合が密かに武装組織を所有している事は誰もが知っている事だ」
「それが公になるとまた面倒な事になってしまうのさ。特に彼らはこちらの懐事情にも詳しいからね。周辺の宙域図を出してくれ」
モニターに映された宙域図。
とはいえこの辺には何も特徴的な物は存在しなかった。
数年前に建設された非戦闘区域所属のコロニー群からも離れた位置にあり、同時に各勢力圏内にある軍事施設やコロニーからもある程度距離がある。
そういう意味ではここは死角であり、確かに海賊が活動するにはうってつけともいえる。
しかし身を隠すという意味ではここはさほど向いているとはいえなかった。
岩場や宇宙ゴミは少なく、隠れる場所がないのだ。
「そう考えると海賊の線は薄いかな」
「ええ。しかし以前に不審船を発見したテタルトスの正規軍が見失ったというのが気にかかる」
海賊やテロリストは大体が一世代から二世代前の装備を使用する事が多い。
単純に調達が難しいというのが、その理由である。
特に昨今では条約によって規制された為、表立ってジャンク屋などからのモビルスーツや戦艦といった兵器調達が難しいのが現状なのだ。
そんな連中が最新鋭の兵器を有したテタルトスの部隊から無事に逃げおおせるというのは、些か腑に落ちないというのがネオの見解であった。
「確かに。ただテタルトス側も本気で追撃しようとした訳ではないみたいだからね。発見した部隊も補給に急いでいたという話だし」
「どちらにせよ、ある程度の警戒は必要という事でしょう?」
「それは勿論」
今の所、怪しい艦船の陰は見えない。
それともウリエルの姿に不審船も警戒しているのか。
「ふむ、一度ウリエルの機関を停止させて様子を見るか。ダミー射出、船体を覆い隠せ。ただし目立ちすぎないように数は絞るように。それからモビルスーツ隊に出撃準備を」
「私も格納庫で待機する」
「いや、大佐は此処で補佐を頼む。モビルスーツ隊はカル・バヤン大尉に任せておけば良い」
「了解した」
隕石を偽装する為のダミーがウリエル全体を覆い隠すように数個放出される。
これでエンジンを停止させれば遠目にも発見しづらくなる。
後は今までの目撃情報から推測される出現ポイントに張り込めばよい。
「さてこれで上手く釣れるか」
「釣りの基本は焦らず待つ事だよ、大佐」
ウリエルは静かに獲物が姿を見せるのを待つ。
そしてブリッジクルーが焦れ始めるくらいには時間が経った頃、ようやく獲物が姿を見せた。
「レーダーに反応。例の不信船のようです!」
「よし、目標がこちらの射程に入り次第、エンジン始動! 停船勧告を出せ!」
不審船はウリエルの存在に気が付いていなかったのか、突如姿を見せた白亜の戦艦に驚いたように方向を変えた。
「こちらの勧告は無視か」
「予想していた事だが……足を止める。砲撃開始、ただし当てるな」
ウリエルからの砲撃が不審艦の足を止めるように発射される。
それを振り切るべく速度を上げる、不審艦。
しかしそのまま逃がすはずもない。
ウリエルは最新型の戦艦であると同時に高速艦でもある。
並みの艦に速度で負けることは無い。
現に速度を上げた筈の不審艦とウリエルの距離はみるみる内に縮まっていく。
このままでは捕縛されるのも時間の問題であると悟ったのだろう。
不審艦は側面に設置されたハッチを解放。
数機のモビルスーツが飛び出してきた。
それはかつて地球連合が主力としていた機体ウィンダムである。
「モビルスーツか」
「旧型のウィンダムとはいえこれだけの数を」
「モビルスーツ隊に出撃命令!」
「了解!」
こうなる事は事前に想定済み。
故に何ら遅れもなくウリエルも予定通りに動き出す。
前面部分に設置されたハッチが解放され、モビルスーツ隊が出撃する。
『スオウ』などの既存の機体と共に先頭に立つのは現在同盟の主戦力の一翼を担う機体だった。
MBF-M5α 『アドヴァンスアストレイ・アデプト』
テタルトスの『ジンⅢ』、統合軍の『バウ』と言った破格の最新鋭量産機の登場に危機感を強めた同盟が開発した『アドヴァンスアストレイ』の正式後継機。
設計を一から見直し、プラント、連合改革派の技術協力も得た事で高かった機動性にさらに磨きがかかっており、アドヴァンスアーマーも標準装備となっている。
標準とは違い黒く塗装された機体を操るのはモビルスーツ隊の指揮を任されているスウェン・カル・バヤン大尉だった。
「全機、敵を迎撃しろ。船の足を止める事も忘れるな」
「了解」
スウェンは背中に装備された宇宙戦用高機動装備『ジラント』のスラスターを吹かし、向かってくる敵との距離を一気に詰める。
無論敵も応戦してくる訳だが、正直にいえば脅威足り得ない。
その証明に撃ちかけられたビームライフルの一撃はすべてスウェン機を掠める事無く、後方へと消えていった。
そのまま射程圏内まで飛び込むと腰に装備したビームライフルショーティ―を抜き、一撃の元に撃墜した。
「ウィンダムではもはや相手にならない」
背後から斬りかかられたビームサーベルを素早く躱し、逆にサーベルで斬り返す。
ウィンダム自体は決して悪い機体ではない。
登場当時は地球連合の主力機であった実績は確かなものであり、安定しており癖も少なく扱いやすい。
しかしそれはもはや昔の話だ。
現在配備されている各勢力の主力機とでは性能があまりにも違いすぎる。
現に不審船から出撃した敵モビルスーツをウリエルの部隊が危うげなく撃退していた。
このまま駆逐するのも時間の問題だろう。
スウェンは残り機体の対処を味方に任せ、船の足を止めようとビームライフルショーティーを構えた。
だがそこに予想外の邪魔が入った。
船外に飛び出してきた新たな機体がスウェンの射撃を阻むように立ちふさがったのである。
「何だ、あの機体は……」
見たこともない機体。
モノアイの頭部に形状からしても明らかに既存の機体とは一線を画するものだと分かる。
「新型? 一体どこの機体―――ッ!?」
発射された強力な砲撃が機体を僅かに掠め、繰り出された斬撃がスウェンの眼前に迫る。
それをギリギリのタイミングで捌く事に成功したスウェンは一旦距離を取った。
しかし正体不明機は予想外のスピードですぐさま距離を詰めてくる。
「こちらの動きについてくるか」
スウェンの乗るアドヴァンスアストレイ・アデプトは紛れもない新型機だ。
それにこうも追随してくるとは。
敵はビームライフルショーティーによる牽制も物ともせず、腕から発生させたビームカッターで斬りかかってくる。
「出来れば鹵獲したい所だが」
それをさせてくれるほど甘くはない。
そこでさらにもう一機、新型機が不審船から飛び出してくるのが見えた。
スウェンを隊長機と認識しているのか二機同時に襲い掛かってくる。
「まだいたのか」
追い詰められた訳ではないが、厄介な事に変わりはない。
しかしスウェンは余裕を崩す事はない。
「もう一機は頼む、ミナト中尉」
「了解!」
乱入してきたのはスウェンの機体とは正反対に白く塗装されたアドヴァンスアストレイ・アデプト。
搭乗していたのはユニウス戦役から名を馳せたエースパイロットであるアオイ・ミナト中尉だった。
小気味よく操縦桿を操りながら敵の攻撃を回避すると、腰から抜いたビームサーベルを構える。
「投降しろ! でないと撃墜する!」
通信機越しに叫ぶアオイの声に敵からの反応はない。
「なら!」
斬撃をシールドで捌きつつ、蹴りを入れて突き放すと背中の装備『ジラント』に装着された予備のビームライフルを切り離した。
それを狙撃して敵機の眼前で爆破。
動きを止めた一瞬の隙。
そこを見逃さず懐に飛び込むと、敵機の腹にビームサーベルを突き刺した。
さらにスウェンもまたビームライフルショーティーで両手、両足を吹き飛ばし戦闘不能に追い込んでいた。
「流石、大尉! このまま爆破させずに!」
「中尉、離れろ!」
「ッ!?」
スウェンの声に咄嗟に飛びのくと、別方向から発射された無数のビーム攻撃が周辺に降り注いだ。
「ぐっ」
シールドを掲げながらスラスター全開で距離を取る。
しかし動けなかった敵機は撃破されてしまう。
「味方ごと……まだパイロットは生きていたんだぞ!」
「あれは」
砲撃が行われた場所。
そこにはまた別の機体が佇んでいた。
機体の形状は先ほどの新型機と類似点があるが、背中の装備が明らかに違う。
あれも新型機という事か。
「不味い。あの艦も落とすつもりだ」
「させない!」
砲撃が開始される直前にアオイはシールドを掲げ射線上に割り込み、撃たせないとライフルを構えた。
しかしそんなアオイを嘲笑うように、敵からの攻撃が開始される。
「なっ!?」
背中から発射された無数の砲撃は途中で折れ曲がり、アオイの背後に居た不審船へと直撃する。
「まさか!」
「ゲシュマイディヒパンツァー!?」
砲撃が突き刺さり、火を噴いた不審船は成す術なく爆発した。
「ぐッ!」
爆発の衝撃から逃れるアオイとスウェン。
その僅かな間に砲撃を行った敵機は反転し、姿を消していた。
「くそ!」
「これはまた。厄介な事になりそうだな」
「そうですね」
木っ端微塵に破壊された見たこともない機体の残骸を見つめながら、漂う新たな戦乱の気配にアオイは拳を強く握りしめた。
これが『第二次統合戦争』と呼ばれる戦いの幕開けになるとは知る由もないまま。