機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第5話  轟く声

 

 

 

 テタルトス月面連邦国。

 

 『第一次統合戦争』においてある意味最も被害を受けた国家である。

 

 地球降下させた部隊の大半の離脱。

 

 人員、技術の流出。

 

 それによる戦力低下。

 

 上げていけばキリがない。

 

 だがそれももはや過去の話。

 

 ここ最近はそれも盛り返し、地球における駐留部隊も再編が完了している。 

 

 仮に戦争が起きたとしても、万全の態勢で迎え撃つ事が出来るだろう。

 

 とはいえ現在のテタルトスの目が向いているのはあくまでも外―――外宇宙だ。   

 

 各国家も復興しているとはいえ、今までの戦争によりもはや地球の荒廃は極まっている。

 

 もはや地球に希望はない。

 

 テタルトス上層部はそう考え、新天地を外へと求めているのだ。

 

 その為に移動軍事ステーション『ヴァルナⅡ』などを開発し、外側に自らの勢力を伸ばそうとしている。

 

 だから地球圏内での争いには消極的な対応となっていた。

 

 しかしそれはあくまで上層部の話だ。

 

 現場にいる軍人たちは今もその練度を落とす事無く、日々の訓練を続けている。

 

 それを証明するかのようにテタルトス防衛の要、軍事ステーション『イクシオン』では今日も訓練中のモビルスーツが飛び交っていた。

 

 一際目立つのはやはりジンⅢだろう。

 

 最強の量産機と呼ばれるこの機体はすでにテタルトスの象徴とも言える。

 

 編隊を組み、一通りの訓練を終えたモビルスーツ隊がイクシオンの格納庫へと帰還すると、機体を降りたパイロット達が一糸乱れなく一列に並ぶ。

 

 そして先頭で指揮を執っていた銀色のジンⅢに向けて敬礼した。

 

 降りてきたパイロットこそ彼らの上官である『銀獅子』の異名を持つエース、ヴィルフリート・クアドラード中佐だった。

 

 「全員、大分動きは良くなってきたが連携はまだまだ拙い。後で今日の反省点を端末に送っておくので各自おくように」

 

 「ありがとうございました!」

 

 今日の訓練はこれで終了であり、各々が表情明るく格納庫から退出していく。

 

 しかし部隊長であるヴィルフリートの仕事はまだまだ終わらない。

 

 反省点の纏めに訓練メニューの見直し、機体の調整に上官への報告。

 

 やる事は多い。

 

 だがそれを怠る気はなかった。

 

 油断すれば死が持つのは戦場の常。

 

 部下を無駄死にさせない為にも、まずはヴィルフリート自身が気を引き締めなければならないのは当たり前の事だ。

 

 まずは先ほどの訓練データを纏める為、手元の端末を操作していると声が掛かった。

 

 「お疲れさまです、クアドラード中佐」

 

 「ん、ディノ大尉か。久しぶりだな」

 

 声を掛けてきたのはセレネ・ディノ大尉。

 

 言わずと知れたテタルトスのエースの一人だが、現在は結婚し前線からは離れている。

 

 「イクシオンに来るとは、何かあったのか?」

 

 「いえ、式典関係で同盟の使者の方の護衛についていたんです。丁度中佐の姿が見えたものであいさつを」

 

 「なるほど。君ならば護衛としても最適だし、納得の人選だな」

 

 セレネ・ディノは先の大戦で一時同盟と協力して動いていた。

 

 だから上層部は同盟との繋ぎ役として、そして護衛役として抜擢する事が多々あるのだ。

 

 「そうでもないですよ、私、グラオ・イーリスとか蛇蝎の如く嫌われてますからね。それも仕方がありませんけど」

 

 「そうか。アスランは元気か?」

 

 「ええ。最近は体の調子も良くて子供の面倒をよく見てくれてます」

 

 「前線に戻る気はないのか? 彼はもうモビルスーツには乗れないとはいえ、指揮官としては非常に優秀だ」

 

 アスランの実力は本物だ。

 

 ヤキン・ドゥーエ戦役から戦い抜いて来た豊富な戦闘経験。  

 

 統合戦争のアルテミス攻防戦における防衛指揮。

 

 その実績は誰もが認める所だ。

 

 しかしセレネは首を横に振る。

 

 「もう戦う気はないみたいです。アスト・サガミも消息不明ですからね」  

 

 「そうか。本人にその気がないのなら無理を言っても仕方ないな」

 

 「でもどうしてそんな事を?」

 

 「……最近、また不穏な空気が流れていてな。近々また戦いが起きるかもしれない」

 

 「各地で確認されてる例の所属不明の不審船ですか?」

 

 「ああ。同盟が接敵し、正体不明の新型機も確認されている。何かが起きるのは確実だろう」

 

 セレネの表情があからさまに曇った。

 

 彼女も結婚し、子供もいる。

 

 戦いなど起こって欲しくはあるまい。

 

 「そしてもう一つ、気になる事がある」

 

 「何でしょうか?」

 

 「君はシルベスター工廠近くに、囚人を収監する施設があった事を知っていたか?」

 

 「いえ」

 

 テタルトスにおける重要な場所の一つであるシルベスター工廠。

 

 特殊なモビルスーツやパイロット強化に関する実験を行っている施設だが、その近くに囚人の収監施設があるとは聞いた事がない。

 

 「どうやら囚人たちを使って強化兵に関する人体実験を行っていたという報告が上がってきていてな」

 

 「人体実験?」

 

 「ああ。今は実験は中止、施設もすでに破棄されたようなのだが……最近までとある人物がそこに収監されていたらしい」

 

 手渡された端末に表示されたデータを見てセレネは驚いたように目を見開いた。

 

 「彼は処刑されたと聞いていましたが」

 

 「生かされていたという事だ。詳細を確かめる為に当時の研究者などを尋問している途中だが、どうやら強化処理も受けていたようだ。そんな人物が数週間前に突然姿を消したらしい。見張りを皆殺しにして」

 

 思わず息を飲む。

 

 データを見る限り、単独での脱走は不可能だ。

 

 誰かが手引きしない限りは。

 

 つまり外部から彼を脱走させる為に手を貸した人物がいるという事。

 

 収監されていた人物の事はセレネも知っている。 

 

 彼を連れ出した奴の企みなど碌なものでない事は想像に難くなかった。

 

 「月にはもう居ないだろうが、今も捜索中だ。ディノ大尉も一応気にかけておいてくれ」

 

 「分かりました、もしも何かあった時は遠慮なく声を掛けてください。では私は奥さんとヴィクトリアさんと三人でお茶して帰りますので」

 

 「了解した」

 

 セレネはそのまま格納庫を出ると待ち合わせていた長い金髪の女性ヴィクトリアとヴィルフリートの妻と三人で談笑しながら歩いていく。 

 

 ヴィルフリートは金髪の女性の後ろ姿を見つめながら、少し感慨深い気分になる。

 

 彼女も保護された時に比べて随分元気になったようだ。 

 

 今は軍の事務関係の仕事を手伝いながら、子供を育てていると聞いた。

 

 最近では娘である双子の姉妹と仲良く歩いている姿をよく見かける。

 

 セレネや自分の妻とも交流があり、今回のようにたまに三人で一緒に出掛けているらしい。

 

 「元気になったのは良い事だな」

 

 それを見届けたヴィルフリートは自身の愛機であるジンⅢを見上げる。

 

 「戦いは起きる、必ず。その時は俺は俺の全力を尽くすのみだ」     

 

 以前とは環境も変わった。

 

 守る者もできた。

 

 戦う意思も以前のまま。

 

 ならば誰が相手でも戦う事に迷いはない。

 

 己が内の覚悟を改めて確認したヴィルフリートは、再び作業に没頭し始めた。

 

 

 

 

 廃棄コロニーでの戦闘を終え、無事ウリエルに帰還できたアオイは格納庫で顔を引きつらせていた。

 

 目の前には仁王立ちした整備班の面々が腕を組み青筋を立てている。

 

 その理由は格納庫に横倒しにされたアオイのAAAに違いない。

 

 「お前って奴は、よくもまあこんな状態にしてくれやがって」

 

 AAAはもはや見る影もなく、完全に大破した状態だ。

 

 四肢はもがれ、全身のスラスターはほぼ破損、装甲は剥がれ、武装は全壊。

 

 ネオが支援に来てくれたとはいえこんな状態でよくも帰還できたものだと我が事ながら感心する。

 

 「す、すいません。いや、でも、相手が強敵で」

  

 「んな事は聞いてるっつーの! だがなデータを見る限り、お前さんの無茶苦茶な機動も原因の一つのようだが?」

 

 「う」

 

 言い訳できない。

 

 デブリ帯でスナイパー相手に戦った時は確かに機体の負荷を無視した機動を取ってしまった。

 

 「ハァ、まあ、お前が無事に戻ってきたのが不幸中の幸いだけどよ。アレはもう直せないぞ」

 

 「そうだよな」

 

 アオイでも横たわるボロボロの機体が修復不可能である事は良く分かる。

 

 アレを直すくらいなら別の機体を用意した方が早い。

 

 「どうしたものかな」

 

 乗っていたAAAはスクラップ。

 

 こうなると他の機体に乗るしかない訳だが余っている機体は他にはない。

 

 しかしアオイが扱える新たな機体を回してもらえるかといえば、それも難しいだろう。

 

 仮に別の機体を申請してこちらに届くのに数か月は掛かりそうだ。

 

 かといってヴィンゴルヴで開発を進めている新型機はまだ未完成。

 

 八方塞がりだ。

 

 アオイが頭を抱えていると同じく考え込んでいた整備班長が諦めたようにため息をついた。

 

 「仕方ねぇか」

 

 「班長?」

 

 「ま、最終手段だがな。アイツを使うか」

 

 班長が視線を向けた先にあったのはアオイのかつての愛機であるイレイズガンダムMk-Ⅱだった。

 

 「Mk-Ⅱが使えるんですか!?」

 

 「馬鹿、言ったろうが。アイツはもう限界だってよ」

 

 「じゃあどういう事なんです?」

 

 「お前のAAAのパーツをMk-Ⅱに組み込む。まあ細かい部品から何から大部分が総取り換えになるだろうけどよ」 

 

 いつの間に用意したのかすでに設計図は出来上がっていたらしく、アオイに差し出してくる。

 

 こんなものを用意していたのなら初めから出してくれれば良いとも思う。

 

 しかしアオイの思っている程、簡単な話ではないらしい。 

 

 「そもそも改修を施しているとはいえMk-Ⅱ自体が古い機体なんだよ。もうパーツも殆ど残っちゃいない」

 

 「開発されたのは9年も前だものなぁ」 

 

 「ああ。当然、最新鋭の機体であるAAAとの互換性もない。そんなものを使っての改修となれば修理や整備、調整にも手間がかかる上に戦闘中でどんな不具合が起きるかもわからないぞ。それでもいいんだな?」

 

 「お願いします。このままじゃ戦えない」

 

 「そういうと思って準備だけは前々から進めてたんだよ」

 

 「本当ですか!?」

 

 「ああ。ま、次の戦闘くらいまでには何とか間に合わせてみせるって」

 

 班長がアオイの肩をポンと叩くと大声で整備班を招集する。

 

 「よし、集まれ!! 今からイレイズMk-Ⅱの大改修を行う!! 時間もあまりねぇからよく聞けよ!!」

 

 「おお!!」

 

 「よっしゃ!!」

 

 Mk-Ⅱの改修作業は整備班に任せる他はない。

 

 「お前は休んでろ」という半ば強制的な班長の言葉に従うように格納庫を後にする。

 

 とは言っても休んでいる暇はない。

 

 特にあの新型のパイロットのデータ検証はすぐにでもやるべきだ。

 

 「格納庫じゃつまみ出されるだけだし、自室でやるか」

 

 格納庫を出てエレベーターに乗り込もうとすると途中の階からネオが乗り込んできた。

 

 「あ、大佐」

 

 「休憩か?」

 

 「いえ、自室で正体不明機の検証をしようかと」

 

 「根を詰め過ぎないように。あ、時間があるのなら少し付き合わないか?」

 

 「分かりました」

 

 二人が向かった場所はネオの私室だ。

 

 アオイは部屋に入ると手早くコーヒーを入れる準備をする。

 

 これももう何度もしているからすっかり慣れてしまった。

 

 「すっかり手慣れたわね、中尉」

 

 振り返ればネオが仮面を外し、長い金髪を纏めながら穏やかな笑顔でこちらを見ていた。

 

 ルシア・フラガ。  

 

 それがネオの本名だ。

 

 ユニウス戦役から訳あって仮面を被り、正体を隠して活動している。

 

 とはいえもうあまり素顔を隠す必要もなくなったのだが、本人曰く仕事中は顔を隠した方が落ち着くらしい。

 

 「本当なら紅茶を用意したいんですが、時間がないですし今日はコーヒーで我慢してくださいね」

 

 「私、コーヒーも好きよ。紅茶程ではないけどね」

 

 ルシアの紅茶好きは本物だ。

 

 お茶の葉っぱから、道具までこだわり抜いている。

 

 以前碌に知りもしないまま道具に触ろうとしたら、本気で怒られた事がある。

 

 アレは恐ろしかった。

 

 アオイもルシアを怒らせないよう紅茶を淹れる為、ある程度勉強した程。

 

 だが流石に戦艦にまで紅茶セットを持ち込む気はないらしく、普段は食堂の紅茶で我慢しているようだ。

 

 誰かが部屋に入られた時に勘ぐられないようにというルシアなりの対策らしい。

 

 上手く入れられた事に内心安堵しつつコーヒーをルシアに手渡すと香りを楽しむようにカップに口を付けた。

 

 「おいしい」

 

 「ありがとうございます」

 

 ルシアの感想に満足しながら、アオイも席につく。

 

 しばらくコーヒーを飲みながらのんびりとした時間を過ごす。

 

 「あ、そういえばMk-Ⅱの件なんですが」 

 

 「報告は聞いたわ。仕方がないけど、できればスウェンのように上手く扱ってもらいたかったわね」

 

 「う、すいません」

 

 スウェンの機体は今回の戦闘でも被害なし。

 

 先ほど班長達が青筋立てて怒っていた要因はそれもあった。

 

 要するにもっと丁寧に上手く戦えという事だ。

 

 「まあ相手が強敵だった事は確かだけどね。しかしそれにしても貴方らしくない程追い込まれていたわね。機体に不具合でもあったの?」  

 

 「デブリ内でのスナイパー相手っていうのはありましたけど、それ以上にあの新型のパイロットですよ。奴は『SEED』持ちですね」

 

 「……そう、敵に『SEED』が。対SEED戦術を改めて各パイロットに徹底させておく必要がある」

 

 『SEED』の名を聞いたルシアの顔が強張るのがわかる。

 

 すでに『SEED』の存在は世界中に認知され、その研究も進んでいた。

 

 それは戦術面でも同じ。

 

 SEEDの脅威は言わずもがな。

 

 味方であれば頼もしいが、敵ならばその被害も甚大となる。 

 

 故に対抗策としての対SEED戦術の構築も各軍隊で必須のものとなっていた。

 

 「しかし結局、連中の手がかりは掴めず仕舞いですか」

 

 「そうね。だけど彼らは必ず動くでしょう。そして狙ってくるとすれば『メークリウス』ね」

  

 「例の式典ですか」

 

 「ええ。各勢力が集まる式典、テロを起こすにはこれ以上の機会はないわ。その前に叩きたい所だけど、手がかりが無い以上は難しいでしょうね。後は上次第」

 

 「上?」

 

 「式典では厳重な警備体制が敷かれる。しかしそこにグラオ・イーリスが配置されるかといえば疑問よ。精々周辺哨戒任務に回されるのが関の山。まあ、その辺はジュール司令に任せるしかない」 

 

 聞けば聞くほど不安材料しかない。

 

 憂鬱な気分になりながら、出来れば大げさになる前に連中を止められれば良いと思う。

 

 しかしそんな希望的観測はこの数日後に裏切られる事になる。

 

 

◇   

 

 

 宇宙に浮かぶ岩場の陰に隠れるように一つの物体が静かに移動していた。

 

 輸送船や旅客機などが通る各コロニーや月へ行く為の航路からは大きく外れており、明らかに普通の艦船ではない。 

   

 否。

 

 見ればそれは艦船などではなかった。

 

 突き出された砲門。

 

 大型の高出力ブースターユニット。

 

 中央にあるモビルスーツを搭載可能な、接続スペース。

 

 ソレは戦場に闊歩する兵器の類だ。

 

 所謂モビルアーマーと呼ばれるものに近いかもしれない。

 

 障害物を避けながら進んでいたモビルアーマーらしきものは目的地に到着すると速度を落とし、完全に停止する。

 

 すると突然何もなかった所から入口が出現、迎え入れるように左右のゲートが解放された。

 

 入口から内部に侵入すると、ゲートは再び姿を消す。

 

 内部は格納庫のような場所であり、ウリエルが遭遇した正体不明の新型機が所狭しと並んでいる。

 

 ゆっくりと格納庫に着陸したモビルアーマーらしきものが中央の装甲を解放すると、戦闘でボロボロになったモビルスーツが格納されていた。  

 

 アオイのAAAと交戦した新型機である。

 

 「くそ!」

 

 コックピットから降りてきた青年クロム・マイルは苛立ちを隠す事無く、ヘルメットを床へと叩きつけた。

 

 「あんな、あんな奴らに!!」

 

 怒りを押し殺す事もできず、歯噛みしながら拳を強く握りしめる。

 

 彼には自分がエースパイロットであるという自負があった。

   

 実戦経験こそ少ないものの、その技量は誰しも認めるものであり、此処まで追いつめられるなど思ってもいなかった。

 

 だが結果は御覧の通り、無様な姿。

 

 これを屈辱と言わずに何と言う。 

 

 「荒れているな、クロム」

 

 近づいてきたのは仮面の男ルドラ・アシュラ、その後ろには副官であるシルヴィアも付き従っている。

 

 「派手にやられたようだな」

 

 「次はこうはいかない。あのパイロット達にも遅れはとらない!」

 

 「そう願いたいものだ。次も負けましたでは話にならん」

 

 嫌味の籠ったその言葉に頭に血が上りそうになるが、事実は事実だ。

 

 この汚名を払拭するには結果を示すしかないのだ。

 

 「そういう時は労うものだよ、ルドラ」

 

 「サルワか」

 

 振り返ればルドラと同じく仮面で目元を隠した人物サルワ・アシュラが立っていた。

 

 同じ仮面で素顔を隠している二人だが、その雰囲気はまるで違う。

 

 常に厳しく刺々しい雰囲気のルドラと穏やかで柔和な空気を発しているサルワ。

 

 正反対の性格を持つ二人こそ、この場所をまとめる指揮官と副長であった。  

 

 「クロムが頑張ってくれたおかげで前回と今回の戦闘でデータは十分に取れたんじゃないか。無事に帰還した事を労うべきじゃないかな」

 

 「それも勿論、分かっている。だが叱責は必要だ。クロムは我らの中核を担うべき存在。ここで甘えて貰っては困る」

 

 「厳しいな。でも今回はかなりの難敵だったみたいだね」

 

 「相手はグラオ・イーリスだからな。実戦データを取るにはそれなりの相手でなければ意味がない。そういう意味では彼らは役立ってくれたよ」

 

 L4のゴミ捨て場で起きた戦闘はすべてルドラが仕組んだもの。

 

 新型機の戦闘データを取る為に起こしたものだ。

 

 L4だけではない。

 

 地球や宇宙で散発的な戦闘を利用し、新型機のデータ収集を行っていた。

 

 各地で確認されていた不審艦はこれらの部隊を運搬する役目を担っていたという訳だ。

 

 「ルドラ、『彼』がこちらに到着したと連絡が入りました」

 

 「そうか。シルヴィア、ミラージュ・コロイド解除、隔壁を解放しろ」

 

 「了解」

 

 格納庫の隔壁が解放され、一隻の輸送船が入り込んできた。

 

 「クロム、アレもお前と同じパイロットだ。精々歓迎してやるがいい。そして各々気を引き締めろ、いよいよだ」

 

 ルドラの鼓舞と共に全員が入ってきた輸送船から降りてくる人物に注目する。 

 

 ハッチが開き、数人の人間と共に野獣のような笑みを浮かべた男が降りてきた。

 

 「……駒はそろった。我々が動き出す時が来た」

 

 ルドラもまた笑みを浮かべる。

 

 そこには紛れもない歓喜と憎悪が籠められていた。

 

 

 

 

 統合軍における複数ある宇宙の拠点。

 

 その一つ。

 

 名は『エレボス』という。

 

 月と地球の中間に位置する拠点であり、統合軍がテタルトス月面連邦国を監視、もしくは侵攻する際の足掛かりとなるべき場所である。

 

 本来その役目を担う筈だったアポロン要塞は『第一次統合紛争』により壊滅的な打撃を受け、現在は放棄されている。

 

 その代わりとなるべく別の宇宙要塞の建造が進められているのだが、エレボスはその間の繋ぎとして機能している。

 

 繋ぎとはいえ役割は重要。

 

 当然、任された司令官もこれが出世の足掛かりだと思い、喜んで引き受けた。

 

 幸いな事に彼は部下にも恵まれた。

 

 副司令官であるウォーレン・マクベインは特殊作戦を任せられる逸材であり、他の部下も従順で反抗的な者はだれも居なかった。

 

 後は宇宙要塞完成まで問題が無ければ、上に行ける事は確実。

 

 

 だからこそ今、彼に突きつけられた現実についていけなかった。

 

 

 「これは……どういう事だ? マクベイン大尉?」

 

 

 彼の前には副司令官であるウォーレン・マクベインが銃を掲げた兵士達と共に立っていた。

 

 もちろんその銃口を司令官である自分に向けてだ。

 

 「今なら冗談で許してやる」

 

 「冗談でこのような事はしない」

 

 それは司令官にも分かっていた。

 

 このような状況でも誰一人騒がないし、助けがくる気配もない。

 

 つまり拠点内はすべてマクベインによって掌握されている事を意味する。

 

 「クーデターなど……何が目的だ、マクベイン!! 古巣のテタルトスに此処を売り渡すつもりか!!」

 

 「話した所で無意味だ。貴様のような俗物には一生理解できないだろうよ」

 

 マクベインは躊躇いなく銃の引き金を引くと寸分違わず司令の眉間を撃ち抜いた。

 

 予め準備していた兵士たちが射殺された司令官の死体を手早く片づけるのを見届けた後、マクベインは改めて背後に立つ部下達の姿を見渡す。

 

 「本当にいいのだな? 引き返すなら今が最後の機会だぞ」

 

 「今更何を!」

 

 「我々全員がすでに覚悟を決めております!」

 

 これから自分達が行うのは紛れもないテロ行為だ。

 

 それを正当化する気はないし、分かってもらうつもりもない。

 

 しかしそれでもやらねばならないのだ。

 

 先に逝った者たちの意思を無駄にしない為にも。

 

 世界を変える為にも。

 

 「行くぞ!」

 

 「ハ!!」

 

 全員が覚悟を決めた表情で敬礼する。

 

 それに応えるようにマクベインもまた雄々しき態度で歩き出した。

 

   

 

 

 

 その日、世界を生きる人々は知った。

 

 突如としてモニターに映し出された屈強の軍人達の姿を見て。

 

 新たな戦いが始まったのだと。

 

 

 《世界を生きる人々よ! 我々の言葉を聞くがいい! 私の名はウォーレン・マクベイン! 今は亡きファウスト・ヴェルンシュタインの意思を継ぐ者である!!》

 

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