機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第7話  エレボス攻防戦

 

 

 

 

 

 とあるホテルの一室で一人の青年が険しい表情でテレビのニュースに見ていた。

 

 内容は今、誰もが注目しているテロリスト『マクベイン・エクスキューター』に関するものだ。

 

 中身はあってないようなものなので青年も本気で見ている訳ではない。

 

 しかし彼ら『マクベイン・エクスキューター』に関する情報は些細なものでも集めておきたかった。

 

 「待たせたな」

 

 部屋に入ってきたのは同年代の青年。

 

 警戒しつつ部屋の外を確かめると、静かにドアを閉めて中に入ってきた。

 

 「どうやら同盟、統合、テタルトスで合同作戦を行うらしい」

 

 「それは予測の範疇だね」

 

 「ああ。だが気になるのは『マクベイン・エクスキューター』側に大きな動きが確認できない所だ」

 

 「という事は『エレボス』は囮かな」

 

 「かもな。何か仕込みがあるのは確かだろう」

 

 青年は自身の上着を羽織り、もう一度外へ向かおうとドアノブに手を掛けた。

 

 「それを確かめてくる」

 

 「一緒に行くよ」

 

 テレビを消し、二人は連れ立って外へと歩き出す。

 

 その部屋には荷物もなく、人が泊まっていた気配すらも感じられない程、冷たい空気だけが漂っていた。

 

 

 

 

 作戦開始時間より少し前。

 

『マクベイン・エクスキューター』が決起した拠点エレボス近辺にウリエルが護衛艦と共に姿を見せていた。

 

 エレボスは隕石を利用した基地で岩片から突き出るように建設された人工物が見えている。

 

 周囲には大きな障害物もなく待ち伏せの心配はないようだが、反面こちら側も近寄って奇襲するというには難しい。

 

 故に今回の作戦という事だ。

 

 レーダー範囲外から砲撃を加え、敵が混乱した所を一気に叩く。

 

 そこで重要になってくるのが機動力という訳なのだが、

 

 「アレが新装備?」

 

 格納庫で出撃準備を整えていたアオイはイレイズの為に用意された高機動用装備を前に思わずそう呟いてしまった。   

 

 「ああ。新装備の『ウイングス』だよ。お前の新型機に搭載される予定のウイングスラスターの試作版さ」

 

 「まるで天使の翼みたいだな」

 

 手渡された資料に目を通す。

 

 『ウイングス』は翼のような大型スラスターが2基搭載。

 

 他の追随を許さない圧倒的な機動性を誇る反面操作性を著しくダウンさせるという欠点もある。

 

 さらに翼の部分はシールドとしても使用可能であり、装備としての防御性能も高いようだ。

 

 「なるほど。昔に使ってたスカッドストライカーみたいなものか」

 

 アレも加速性には優れていたが、操作性は滅茶苦茶悪かった。

 

 正直パイロットの負担を無視したようなあの装備については言いたいことが山ほどあったが、それでも使いこなすのがパイロットの仕事だと何度もスウェンに言われたものだ。 

 

 「『ウイングス』の細かい動きの補正自体はW.S.システムの方でやってくれるはずだ。最初は面食らうかもしれんがすぐ慣れるだろ。問題は機体の方だ。もしも何か違和感を感じたらすぐに戻って来い。いいな?」

 

 「了解です」    

 

 コックピットに乗り込み、機体を起動させるとモニターの端にネオの姿が映った。   

 

 今回は出し惜しみはしない方針のようで最低限の護衛を残し、ネオも最初から出撃するつもりのようだ。

 

 《3分後に各艦からの一斉砲撃を行う。砲撃がエレボスに打撃を与えたと同時にモビルスーツ隊が出撃する。例の新型機が出てくる可能性もある、全機油断するな》

 

 「了解」

 

 ウリエルの正面にある陽電子砲の砲門が解放され、発射シークエンスが開始される。

 

 その時アオイはエレボスで何かが光ったように見えた。

 

 画像を最大拡大して見ると何か機械の枝のような棒がエレボスの周囲から伸びているのが分かる。

 

 「何だ?」

 

 アレが何かは分からない。

 

 だが『マクベイン・エクスキューター』が用意していたものであるのは間違いない。

 

 嫌な予感が膨らんでくる。

 

 それを伝える間もなく、三方向から陽電子砲が発射された。

 

 エレボスへと一直線に進む陽電子砲。

 

 しかしそれが目標に直撃することは無かった。

 

 突如エレボスを覆うように展開された光の膜によって防がれてしまったのだ。

 

 「まさか、アルテミスの!?」

 

 見た瞬間にそれのカラクリを見破ったネオの声でアオイにもようやく正体がつかめた。

 

 あれはかつて宇宙要塞アルテミスで使用されていた『光波防御帯』と呼ばれる防御装置だ。

 

 非常に堅牢な防御能力を持ち、アレを突破するには同種のビームシールドで干渉するか、発生機器を破壊するしかない。

    

 《何か仕掛けを用意しているとは思っていたが……艦長、出撃許可を! アレを排除しない限り砲撃は通用しない!》

 

 《モビルスーツ隊出撃! エレボスの光波防御帯の発生装置を破壊しろ!》

   

 ハッチが解放され、カタパルトへ運ばれた機体が次々と発進していく。

 

 《中尉、光波防御帯を突破するにはビームシールドが必要になる。今、ウリエルでそれに該当する機体はイレイズと大佐のオウカだけだ。雑魚の相手は俺がする、中尉はエレボスに向かえ》 

 

 「了解しました」

 

 イレイズがカタパルトに運ばれ、オペレーターの合図を待つ。

 

 《アオイ君、気をつけてね。進路クリア、発進どうぞ!》

 

 「ありがとう、アオイ・ミナト、イレイズガンダム行きます!」

 

 フットペダルを思い切り踏み込み、カタパルトから射出されると体に掛かるGに耐える為、歯を食いしばった。

 

 同時に背中の翼が開き、一気に速度を上げる。

 

 「なんだよ、この加速は!」

 

 その加速は今までの装備の比ではない。

 

 圧倒的な速度で移動するイレイズにアオイは驚愕しつつも、しっかり操縦桿を握ってコントロールする。

 

 グイグイと後続の機体を引き離し、エレボスまでの距離を詰めていく。

 

 「反応は良い。けど装備の速度に機体がついていけていないか。まあそれはシステムの方で補正してくれるおかげで影響は最小限に抑えられている。あとはこっちで合わせて行くしかない」

 

 方向変換や急制動など機体の挙動を確認、調整をしながら前進するイレイズの姿を捉えたのか、敵のモビルスーツが迎撃に現れた。

 

 「フローレスダガーにリゲル……あの新型はいないな」

 

 ならばこんな所で足止めされている訳にはいかない。

 

 ビームサーベルを抜き、敵の陣形の中へ突撃する。

 

 撃ちかけられた敵のビームを速度で振り切り、懐に入って胴を薙ぐ。

 

 ビームサーベルによって斬り裂かれたフローレスダガーは爆散し、発生した爆煙に紛れるようにビームライフルを連射する。   

 

 完全に虚を突かれた敵陣は隊列を乱し、防衛網に穴を空けた。

 

 「よし」

 

 空いた穴を見逃さずに飛び込むと目標であるエレボスへの路を駆け抜ける。

 

 逃がさないとリゲルが飛行形態で追いかけてくるが、加速したイレイズには追いつけない。

 

 「落ちろ!」

 

 宙返りし背後に向けて高エネルギー収束ライフルを発射、追ってきたリゲルを一網打尽に吹き飛ばした。

 

 そのまま敵の防御を潜り抜け、光波防御帯の間近まで到達する。

 

 「何だ、敵の防御が甘い。いくら新装備が速いからってこれは―――」

 

 誘われている?

 

 今の状況に強い違和感を持ち始めながらも、進み続けるイレイズ。

 

 だがそれを遮るように強烈なビーム砲が撃ち込まれた。

 

 「ッ!?」

 

 咄嗟にシールドを構え、ビームを受け止めるとイレイズを待ち受けていたとばかりにモビルスーツが一機待ち構えていた。

 

 それはコロニーの残骸で戦った奴とは違う。

 

 不審船と遭遇した際に現れた機体だ。

 

 あの時に戦った奴は白い装甲を持っていたが、こいつは紅い―――ワインレッドの装甲を持っていた。

 

 「紅いモビルスーツ?」

 

 アオイの脳裏にかつて対峙した機体が浮かび上がる。

 

 だがアイツではない。

 

 奴の色は血のような紅だったし、機体から滲み出る殺気の質が違う。

 

 「やっぱりあの機体群はマクベイン・エクスキューターのものだった訳かよ!」

 

 紅い装甲の機体に乗り込んでいた人物、ルドラ・アシュラもまた相対する敵の姿に眉を顰めた。

 

 「イレイズガンダムか。……アスト・サガミ、いやアオイ・ミナトか」

 

 思わぬ相手。

 

 いや、乗っている機体自体はルドラにとって因縁のある機体ともいえる。

 

 どちらにせよ、都合が良い。

 

 実際に扱ってこそ データだけでは分からないものも見えてくるというもの。

 

 「出来ればコーディネイターパイロットの方が良かったが、まあこの機体『リグ・シグルド』の性能を見せてもらうには丁度良い敵だ」

 

 『リグ・シグルド』

 

 ヤキン・ドゥーエ戦役で開発されたモビルスーツである『シグルド』のデータを基に開発された新型機。

 

 その性能は量産機でありながらも非常に高性能。

 

 「行くぞ」

 

 動き出したリグ・シグルドは挨拶代わりとばかりに腹部複列位相砲を撃ち込んできた。

 

 「当たるか!」

 

 強烈な一撃を紙一重の所で回避し、サーベルの間合いまで距離を詰めようと前に出る。

 

 しかしリグ・シグルドからの意外な攻撃がアオイの前進を阻んだ。

 

 腕部に装備されているビームカッターである。

 

 伸びた光刃がイレイズの急所を狙って一直線に突き進んできたのだ。 

 

 「な!?」

 

 虚を突かれたアオイは咄嗟に機体を捻る事で致命傷を避けた。

 

 しかしビームカッターの斬撃はイレイズの肩装甲を掠め、アオイはバランスを崩してしまう。

 

 それはルドラにとっては絶好の隙。

 

 「貰った!」

 

 両手からビームカッターを出現させ、イレイズに向けて斬りかかる。

 

 「舐めるな!」

 

 アオイは素早く操縦桿を動かし、スラスターユニットを前面に移動させるとビームカッターの一撃を翼の部分で防御した。

 

 「スラスターユニットで防御しただと!? シールドとしても使用できるという訳か」

 

 「離れろ!」

 

 一瞬硬直したリグ・シグルドに体当たりで引き離し、サーベルを上段から振り下ろす。

 

 それをビームシールドで受け止めたルドラは油断のない目付きでイレイズを睨みつける。

 

 「なるほど、アオイ・ミナト。その忌まわしい機体を与えられているだけはある」

 

 「こいつ、強い!」

 

 お互い一撃を受け止めた膠着状態。

 

 何度も離れ、そして剣戟を繰り出していく。

 

 幾重もの斬撃の鋭さが互いの力量を如実に示している。

 

 紛れもない強敵相手に二人の戦闘は激しさを増していった。

 

   

 

 

 先行したイレイズがリグ・シグルドで接敵した同時刻。

 

 三勢力から発進したモビルスーツ隊は『マクベイン・エクスキューター』の部隊と激突。

 

 エレボスを巡る攻防は一気に乱戦へと雪崩れ込んだ。

 

 そんな中でエレボスに向かっていたスウェンのAAAとネオのオウカは再びあの機体と相対していた。

 

 「あの機体は……」 

  

 「大佐と中尉で戦った敵ですね」

 

 進路を妨げるように立ちふさがったのは特殊装備を持つエース機。

 

 クロム・マイルの駆る新型機だった。

 

 「今度は負けん! この『シグルド・グラーフ』の真の力をみせてやる!」

 

 『シグルド・グラーフ』

 

 リグ・シグルドをベースに開発された強化兵及びSEED専用モビルスーツ。

 

 破格の高性能機であるリグ・シグルドをより強化し、常人を上回る力量を持つパイロットであろうとも100%の力を発揮できるように調整されている。

 

 「いけ!」

 

 背中のドラグーンを射出し、スウェンとネオを囲い込むように配置された砲塔から一斉のビームが発射された。

 

 「スウェン!」

 

 「ッ!」

 

 咄嗟に飛びのく二機。

 

 しかしそれをさせまいとシグルド・グラーフは背中の砲塔での攻撃を開始する。

 

 ドラグーンとビーム砲の連撃。

 

 降り注ぐビームは二機が逃れる隙間すら奪う、まさに暴風雨そのもの。

 

 しかも的確。

 

 完全に二機の退路を見切った上でそこに砲撃を繰り出してくる。

 

 逃がさないとばかりに作られた砲撃による檻だ。

 

 この状況ではあくまで防御に徹する他ない。

 

 「中尉の言っていた通りになった。このパイロット、前よりも手強い!」

 

 「貴様には借りがあったな! 此処で借りは返させてもらう! その後であの白い奴だ!」

 

 オウカへと砲撃を集中、さらにビームライフルでスウェンの動きを阻害。

 

 攻撃の手を緩める事無く、二機を追い込んでいく。

 

 「チッ」

 

 「貴様の空間認識力の高さはもう分かっている。無駄にドラグーンを使う愚は犯さん!」

 

 「舐めないでもらおうか!」

 

 ネオとてただ追い込まれている訳ではない。

 

 最初こそ防戦に徹していたが、徐々に反撃も加えていく。

 

 絶妙な動きで機体を操り、クロムの砲撃を紙一重で回避しつつ、反撃も忘れない。

 

 さらにスウェンとの連携が圧倒的な火力を持つシグルド・グラーフを抑え込んでいた。

 

 まるで綱渡りのような攻防。

 

 そんな膠着状態に先に焦れたのは経験の浅いクロムの方だった。   

 

 「チョロチョロと! 逃げるなァァァ!!」

 

 砲撃でオウカを釘付けにし、ビームサーベルで斬りかかる。

 

 オウカは避ける素振りすらない。

 

 確実に仕留めたと確信した瞬間、上方からの一撃がシグルド・グラーフに襲いかかった。

 

 「グアアアア!? ぐぅ、何!?」 

 

 いつの間にかシグルド・グラーフの死角に回り込んだスウェンがグレネードランチャーを叩き込んできたのだ。

 

 「貴様ら!」

 

 「まだまだ甘い。しかしお前は危険だ。此処で仕留めさせてもらう」

 

 二丁のビームライフルショーティーに持ち替え、同時にワイヤーアンカーを射出。

 

 シグルド・グラーフの腕に巻きつけると力任せに、引っ張り上げた。

 

 「なっ!?」

 

 ワイヤーによって無理やり体勢を崩された所を狙いビームライフルショーティーの射撃がシグルド・グラーフに襲い掛かる。

 

 絶え間ない連撃が肩装甲を撃ち砕き、脚部に大きな傷を刻む。

 

 一瞬の判断ミスから形勢は逆転し、一転してクロムが追い込まれてしまった。

 

 迂闊な自分自身に対する怒りで、砕けそうなほどに歯噛みする。

 

 「俺は……」

 

 過去の情景が脳裏を刺激し、怒りをさらに増幅させる。

 

 「俺はァァァ、もう二度と!!!」

 

 咆哮と共に弾けたのはクロムのSEED。

 

 感覚が今までとは比較にならないほど研ぎ澄まされ、すべてを同時に知覚する。

 

 「ウオオオオ!!」

 

 崩れた機体を無理やり立て直し、完璧なタイミングでドラグーンを操作。

 

 砲撃によってスウェンの攻撃のタイミングを狂わせた所にビームサーベルを一閃する。

 

 「ッ!?」

 

 ギリギリのタイミングで反応したスウェンだったが、腹の部分を浅く切り裂かれてしまう。

 

 さらにクロムは止まらない。 

 

 続けて蹴りを入れ、上段からの一撃。

 

 次から次に繰り出される斬撃がスウェンのAAAの装甲を削っていく。

 

 「これはSEEDか!?」

 

 先ほどまでとは動きも攻撃の精度もまるで別人だった。

 

 懐に入られたスウェンは盾を構えて下がるしかない。

 

 だが猟犬のように食い下がるシグルド・グラーフを引き離す事が出来ず、無数の斬撃によって見る見る内にシールドが傷だらけになってしまう。

 

 「スウェン、下がれ!」

 

 ドラグーンの包囲がスウェンに向いた隙にネオはガトリング砲でAAAから引き離すとバズーカ砲を撃ち出した。

 

 発射した砲撃は途中で弾け、細かい弾となってシグルド・グラーフに襲い掛かる。

 

 「チッ」

 

 いくら感覚が研ぎ澄まされていたとしても、細かい散弾を避ける事は難しい。

 

 その為、クロムは舌打ちしつつも下がる以外の選択肢を取る事が出来なかった。

 

 「助かりました、大佐」

 

 「対SEED戦術、頭に叩き込んでいたつもりでも直接相対していると簡単にはいかないか」

 

 SEEDの存在が戦場で確認されてもうすぐ10年近く。

 

 味方であれば頼もしい存在だが、敵に回せば恐ろしいのがSEEDである。

 

 そこで一般の兵士達でもSEEDに対抗できるようにと考え出されたのが対SEED戦術と呼ばれる。

 

 内容としては大まかに二つ。

 

 戦う時は極力一対一は避け、絶対に接近戦は挑まない。

 

 距離を取り、散弾で動きを止めて削っていくというものだ。

 

 SEEDの反応速度は異常である。

 

 接近されれば反応出来るのは同じくSEEDか強化兵くらいだ。  

 

 故に距離を取りつつ、反応出来ても避けきれない散弾砲を使い足を止めて援軍が来るのを待つか。相手が動けなくなるのを狙うというもの。

 

 消極策にも聞こえるがそれだけSEEDの力が脅威という事。

 

 それはヤキン・ドゥーエ戦役で叩きだされた戦果が物語っている。

 

 これらの基礎を作ったのはテタルトス月面連邦国のエースパイロットリベルト・ミエルスという男だ。

 

 彼の対SEED戦術がいつの間にか各陣営にも注目され始め、今では根無し草の傭兵ですらこれを取り入れているという。

 

 「おのれ!!」

 

 撃ち込まれる散弾を防御しながら、ドラグーンを操るクロム。

 

 しかし砲撃から逃れ自由になったネオを相手にSEEDを発動しているとはいえドラグーンで戦うにはクロムはまだ経験不足すぎた。

 

 「そこ!」

 

 ビームライフルの射撃が正確に砲塔を捉え、叩き落としていく。

 

 それはシグルド・グラーフが作り出した砲撃の檻に穴が空くも同然。

 

 「今度こそ仕留める!」

 

 そこに飛び込むAAA。

 

 ビームライフルショーティーの銃口をコックピットへ向けながらトリガーに指を掛けた。

 

 勿論、クロムもそれは知覚している。

 

 先ほどから回避運動を取ろうとスラスターを噴射させていた。

 

 しかし撃ちかけられる散弾がそれを許さない。

 

 「グッ、回避が間に合わない!?」

 

 銃口から発射された光がコックピットに迫り、クロムはある程度の損傷を覚悟する。

 

 

 だが、その前に割り込んできたモビルスーツがいた。 

 

 

 「アハハハハハハハハハハ!!!!」

 

 

 狂ったように響き渡る哄笑。

 

 掛かる負担などお構いなしの急加速で戦場に飛び込んできた機体はAAAに蹴りを入れ、さらにビームサーベルで斬りつけてきた。

 

 「新手!?」

 

 斬撃を飛び退いて回避したスウェンは姿を見せた機体に瞠目する。

 

 「……ガンダム」

 

 特徴的な頭部は間違いなくガンダムのもの。

 

 そして同時にその機体はどこか見覚えのあるものだった。

 

 「……データだけ見たことがある」

 

 「ええ。確か月面紛争の際に使用された―――」

 

 二機と相対するガンダムのコックピットに座る男は興奮のあまり笑みを止める事が出来ない。

 

 何故ならば久しぶりの戦場。

 

 男が暴れる事が出来る最高の舞台。

 

 「やっと、やっと来たぜ、この時がァァァ! ああ、焦がれる程に待ちわびた。この俺が、アルド・レランダーが再び戦場に立つこの時をなァァァ!!!」

 

 狂獣。

 

 かつてそんな忌み名で呼ばれた男は混乱と破滅を戦場にもたらす為、再び戦場へと姿を現した。

 

 

 

 

 予想外のエレボスの守り。

 

 これにより三勢力は想定外の攻勢を強いられる破目に陥った。

 

 そもそもが奇襲を想定して組まれた部隊。

 

 精鋭とはいえ数は十分とはいえず、思うような進撃を行う事が出来ずにいた。

 

 それは『マクベイン・エクスキューター』の首魁ウォーレン・マクベインの手腕もあったのだろう。

 

 だがそんな中、イレイズを除き最もエレボスに近づいていたのはテタルトスの部隊。

 

 先頭に立つのはヴィルフリート・クアドラードの駆る銀色のジンⅢ・レーヴェだ。  

 

 「マクベインめ。あんな仕掛けを」

 

 リゲルを切り捨てながら、エレボスを睨みつける。

 

 元々テタルトスに属していたウォーレン・マクベインとヴィルフリートは面識がある。

 

 兄であるファウストに心酔していたウォーレンは何かにつけてヴィルフリートに絡んできたのだ。

 

 今でこそ気にならないが当時はそれが鬱陶しくて仕方がなく、昔から口論が絶えなかった。

 

 特にヴィルフリートが統合からテタルトスへ帰還した際は、親の仇のごとく激高したと噂に聞いている。

 

 「だがその因縁も此処まで。決着はつけてやる」

 

 無数に浴びせかかる敵の砲撃を掻い潜り、エレボスへと接近したヴィルフリートは激しい戦闘を繰り広げる二機のモビルスーツを目撃する。

 

 「アレはイレイズガンダム―――アオイ・ミナトか。もう一機が報告に合った新型機だな」  

 

 二機のモビルスーツは高速で動き回りながら、砲撃と剣戟を繰り返している。

 

 「アオイ・ミナトは当然だが、あの機体のパイロットは何者だ?」

 

 攻防を見ているだけでも明らかに普通のパイロットとは一線を画しているのが分かる。

 

 『マクベイン・エクスキューター』のエースだろうか。

 

 「任務はエレボス攻略だ。悪いが行かせてもらう。なによりお前も俺になど助けてもらいたくはあるまい」

 

 その場はアオイに任せたヴィルフリートはビームシールドを展開し、エレボスの光波防御帯を突破しにかかる。

 

 ビームシールドと干渉し圧力と稲光が発生するがスラスターを噴射し、無理やり機体を押し込む形で突破した。

 

 後は剥き出しになった発生機器を破壊すれば光波防御帯を維持出来なくなる。

 

 「これでエレボスは丸裸だ!」

     

 ビームライフルによる攻撃が発生機器を捉え、次々と吹き飛ばしてゆく。

 

 それによって光波防御帯は消失。

 

 これでエレボスを守るものはない。

 

 「しかし此処までの乱戦になった以上、予定通りの遠距離砲撃は出来ない。そうなれば要塞内を制圧するしかないか」

 

 「行かせる訳にはいきませんね」

 

 当然の如く立ちふさがる敵。

 

 ヴィルフリートの前にはイレイズと戦っているものと同じ『リグ・シグルド』が姿を現していた。

 

 「新型か」

 

 「あの名高い『銀獅子』と戦えるとは光栄というもの」

 

 「誰だ、貴様?」

 

 「失礼。私の名前はサルワ・アシュラ、『マクベイン・エクスキューター』の末席を汚す者です。以後お見知りおきを」

 

 丁重な言葉使いだが、油断出来ない。

 

 その所作からも目の前にいるものが強敵である事は明白だった。

 

 「貴様も厄介そうだな。ウォーレンは出てこないのか?」

 

 「答える義務などありませんね」

 

 手の甲から伸びたビームカッターによる攻撃を躱したジンⅢ・レーヴェもまたビーム砲で牽制しつつサーベルを抜く。

 

 両者は互いの獲物を構えてスラスターを吹かせると正面から激突した。

 

 

 

 

 

 戦場は拮抗状態となり、各地で激しい戦闘が繰り広げられる。

 

 

 

 

 そんな中を一隻の高速シャトルが突入してきた。

 

 「高速シャトルだと?」 

 

 「まさか民間機か!?」   

     

 通り過ぎるシャトルの姿を目撃した者たちは一様に目を疑う。

 

 それはそうだ。

 

 こんな戦場のど真ん中を護衛も付けないシャトルが飛ぶなど自殺行為だ。

 

 にも拘わらずシャトルは悠々と戦場を駆けていく。

 

 「おい、そこのシャトル! 見ての通り此処は戦場だぞ、さっさとこの空域から逃げろ!」

 

 気をつかった統合のパイロットが呼びかけるが、シャトルからの返答はそんな彼にして正気を疑うものだった。

 

 《気遣い感謝する。だがその必要はない。何故ならこちらの目的地はエレボスだからだ》

  

 「は?」

 

 《それにこちらを気遣う前に目の前の敵に集中した方が良い。以上通信終わり》

 

 それきりシャトルからの通信は途絶え、シャトルは戦場を突っ切っていく。

 

 統合のパイロットは二の句も告げずただ呆然と飛び去るシャトルを見送った。

 

 明らかに無謀と言わざる得ない。

 

 それでもシャトルは足を止める事無く、無数の閃光が飛び交う中に飛び込んでいった。

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