機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第8話  いつかの閃光

 

 

 

 それは誰の目から見ても、明らかに異常な行動だった。

 

 何の武装も持たないただのシャトルが戦場の中心目掛けて突っ込んでいくのだから、自殺志願者と勘違いされても文句は言えない。

 

 それでも速度を一切落とさず、進む姿はある意味で大したものだ。

 

 だがそんなものを見逃すほど『マクベイン・エクスキューター』の面々は甘くなかった。

 

 異常な行動故に敵の作戦ではないかと勘ぐるのは無理のない事だろう。

 

 数機のモビルスーツがライフルの銃口を向けながら、シャトルを撃墜しようと近づいてくる。

 

 「くるぞ。数は2」

 

 「了解」

 

 シャトルは後部に設置していたブースターを切り離すと曲芸染みた機動でモビルスーツからの攻撃を躱しながら前進し始める。

 

 一撃、二撃とすり抜けていく様はモビルスーツのパイロット達からすれば信じがたい光景だろう。

 

 ただのシャトルがモビルスーツの攻撃を躱して、突き進んでいくのだから。

 

 だが当然機体を操るパイロットや搭乗員にも負担は掛かる。

 

 「くっ、結構きついな」

 

 「モビルスーツに乗って戦うよりは楽でしょ」

 

 「いや、こっちのがきつい。戦ってた方がマシだよ」

 

 シートに体を固定しているだけというのは精神的にもキツイものがあるらしい。

 

 隣に座る搭乗員の言葉に操縦していたパイロットが笑みを浮かべるとさらに速度を上げるべく、操縦桿を押し込んだ。

 

 「じゃ、もう少し速度を上げるからしっかり捕まってて」

 

 「ああ、任せる」

 

 アクロバットな機動でモビルスーツからの攻撃をすべて避けたシャトルは包囲網を突破し、そのままエレボスの格納庫に突撃。  

 

 船体を地面で擦りながらも無事に内部へと侵入を成功させた。

 

 「流石だな、俺は内部を調べる」

 

 「こっちはモビルスーツを奪っておくよ」

 

 「奪うならリゲルにしとけ。アレは機動力も高くて離脱しやすい」

 

 「了解」

 

 搭乗員の青年はシャトルのコックピットから飛び出すと慣れた動きでエレボス内へ足を踏み入れた。

 

 

 

 アルド・レランダー。

 

 かつて月で起こった月面紛争と呼ばれた戦いで当時テタルトスの新型機『ベテルギウス』を奪取した『狂獣』の異名を取ったエースパイロットである。

 

 そして搭乗している機体の名は『ベテルギウス』

 

 テタルトスで開発されているエース用モビルスーツ群『LFSAーX』シリーズのプロトタイプに当たる機体だ。

 

 昔とは違いその背中にはスラスター以外の装備はなく、武装もライフルやサーベルといった基本装備のみ。

 

 それでもベテルギウスから発せられる気配は決して油断できない凄みがある。

 

 当時任務で月面付近にいたネオやスウェンもアルドや搭乗していた機体の名前は勿論知っていた。 

 

 その後の顛末も。

 

 「処刑されたと聞いていたがな」

 

 「まあ色々あってよぉ、最近まで牢獄の中で軟禁状態だったんだよ。だからさぁ!」

 

 狂気すら感じ取れる笑みを浮かべながら、アルドは近くにいたスウェンに向かってビームサーベルを振りかざした。

 

 「ストレス溜まりまくってんだよォォ!!」

 

 アルドの強襲に後退して逃れたスウェンはビームライフルショーティーを叩き込む。

 

 至近距離からの攻撃。

 

 仕留める事は出来ずとも動きを鈍らせる効果はあった筈。

 

 だがそんなスウェンの目論見はアルドの想像以上の動きによって覆された。

 

 「当たるかよ!!」

 

 「避けた、あの位置で!?」

 

 ベテルギウスは最小限の動きだけでビームを回避し、再びスウェンに攻撃を繰り出してくる。 

 

 これらの動きは機体性能だけのものではない。

 

 パイロットの異常な反応だ。

 

 「SEED、いや」

 

 SEEDにしては爆発的な反応の差異がない。

 

 スウェンにはこれまでの経験でSEEDなのか、そうではないのかが理解できる。

 

 だから簡単に正解にたどり着いた。

 

 「という事は強化兵か」

 

 「ほう、大した洞察力だな!」

 

 「貴様が分かりやす過ぎるだけだ」

 

 軽口を叩くものの、内心焦りが募る。

 

 ビームライフルショーティーを連射するが、掠りもしない。

 

 化け物染みた反応速度で機体を操り、ビームの射線から逃れているのだ。

 

 さらに振るわれるサーベルは流石に鋭く、的確にこちらの急所を狙ってくる。

 

 機体性能も向こうが上。

 

 そしてネオもシグルド・グラーフの相手でこちらを掩護する余裕はないとなると―――

 

 「どうした? 逃げてばかりかよ!」

 

 「ッ!」

 

 スウェンはベテルギウスを近づけないよう牽制しながら、反撃の糸口を探ろうとする。

 

 だがそれすらも見透かしたとばかりにアルドは懐に入った瞬間、AAAを蹴り飛ばした。

 

 「グッ」 

 

 「アハハハハ、どうした、どうした! こんなものか!」

 

 「舐めるな」

 

 体勢を崩しつつワイヤーアンカーを近くの敵機に飛ばし、こちら側に引き寄せると足場として踏みつける。

 

 続けて漂うデブリにアンカーを飛ばすと引き寄せた反動を利用し、ベテルギウスを翻弄しながらライフルを連射した。

 

 「曲芸かよ! いいねぇ、お前は俺を飽きさせない。楽しいなぁ!」

 

 「遊んでいるのか、この男は」

 

 アルドの楽しそうな哄笑に言い知れぬ嫌悪感を抱く。

 

 スウェンとて今の今まで銃を取って戦ってきた。

 

 敵の命を奪い、仲間を奪われてきた。

 

 だから戦いそのものを否定する権利はないのかもしれない。

 

 それでも奪う事を、戦いを楽しいと思った事は一度たりとも無いのだ。

 

 「貴様を生かしておいた事はテタルトスのミスだな」

 

 「ほう、ではどうするんだ?」

 

 「決まっている、俺が此処で落とすだけだ」

 

 「そうかよ、お前の名前は?」

 

 「スウェン・カル・バヤン」

 

 「俺を落とすというならやってみろ! 出来るものならな、スウェン!!」

 

 闘志を漲らせたアルドとスウェン。

 

 刃を構えた両者は何度となく激突を繰り返していった。

  

    

 

 

 エレボスで起きた攻防戦は徐々に『マクベイン・エクスキューター』側が劣勢になりつつあった。

 

 初期こそ思惑通りにいかなかったとはいえ、総合的な数自体三勢力側の方が上。

 

 しかも送り込まれたのは精鋭部隊であり、いかに高い士気を維持していた『マクベイン・エクスキューター』と言えども容易く撃退する事は出来なかった。

 

 にも関わらずアオイの目の前にいる紅い機体のパイロットは焦る事無く、冷静にこちらの攻撃を捌いてくる。

 

 「やっぱり何かおかしい」

 

 「どうした、攻撃の手が緩んでいるぞ?」

 

 あからさまな挑発は聞き流す。 

 

 そもそもこいつの戦い方からして気に入らない。

 

 何度も攻防を繰り返せば敵の好む戦法くらいは分かってくる。

 

 こいつは根っから近接戦を好むインファイターだ。

 

 なのにこいつの攻めはどこか手を抜いている。

 

 「お前の方こそ何を考えてる? 手を抜いてる事くらいバレバレだぞ!」

 

 「ふん、なるほどな。ナチュラルとは思えん実力と経験からくる洞察力。侮れないな」

 

 ルドラはどこか感嘆した声を出しつつ、周囲を見渡すと統合、テタルトス、同盟と各勢力がエレボス内部へと侵入しようとしている姿が見える。

 

 「今少しだな」

 

 「戦闘中に余所見か!」

 

 横薙ぎに払った一撃をシールドで弾いたルドラはお返しに上段からビームカッターを叩きつけた。

 

 「お前達は何をしようとしている? 『マクベイン・エクスキューター』の目的は何なんだ!!」

 

 「我らが首魁殿が宣言した通りだとも。間違った今の世界を正すのさ、力を持ってな」  

 

 「力を持って正す? 結局ただのテロって事だろうが!」

 

 「何を言う、元々あった本来の姿に戻すだけだ。まあ貴様のような劣等種には理解できるとは思っていない」

 

 「そんな勝手な理屈が理解できるものか!」

 

 何処までも見下した物言いにカチンとくるが、これ以上は何を言っても無駄なのだろう。

 

 振り切られたビームカッターをシールドで力任せに弾き飛ばすとサーベルを下段から斬り上げた。

 

 光刃がリグ・シグルドの装甲を抉り、撃ち込んだイーゲルシュテルンがライフルを破壊する。 

 

 「舐めるな、ナチュラル風情が!」

 

 体勢を崩しながらもイレイズの腹に蹴りを入れて吹き飛ばすと、シールドのビームクロウを叩きつけてきた。

 

 アオイは咄嗟に機体を寝そべらせると、光爪が装甲になぞるような傷がつく。

 

 「ッ、この程度」

 

 「ゴキブリのようにしぶとい奴だ!」

 

 「なるほど、結構熱くなりやすい性格みたいだな。それにナチュラルが嫌いな典型的なコーディネイターか」  

 

 「貴様風情が俺を見透かすつもりか。恥を知れよ、俗物が!!」

 

 リグ・シグルドの腰部から放出された物体にアオイは自分の分析が間違っていた事を知る。

 

 こいつは単純なインファイターではない。

 

 インファイトを好むがどのレンジにも対応できるオールラウンダーだ。

 

 「いけ!」

 

 数基の砲台が腰部から切り離され、イレイズに向かって押し寄せてくる。

 

 「ドラグーンまで使えるのかよ」

 

 「貴様のようなナチュラルと一緒にしないでもらおうか!」

 

 「動き、この精度は!?」

 

 「舐めるな。第二世代以降しか操れん惰弱な連中とは違う!」

 

 ドラグーンシステムは非常に強力な武装ではあるが扱いには個人差というものが顕著に表れる。

 

 その理由がインターフェイスの改良だ。

 

 これによって空間認識力に関係なく使用可能になったが、一般のパイロットが使うには機械的な動きになり、読みやすくなる。

 

 反面ドラグーンを操る事を得意とするパイロットが使用すると持ち前の空間認識力によってより複雑かつ精密な動きになるのだ。

 

 ルドラが操るドラグーンは後者。

 

 高い空間認識力を有している事を示す、高度な精度を見せていた。

 

 「ッ!?」

 

 アオイは機体を巧みに動かし、ドラグーンの射線から逃れようと機体を動かす。

 

 幾つかの砲撃が機体を掠めるもかまわず二基の大型スラスターを最大出力に引き上げ、その場から離脱に成功する。

 

 だがそれこそルドラの狙い。

 

 離脱方向を予測し、腹部の複列位相砲を叩き込んだ。

 

 「これで終わりだ、ナチュラル!」

 

 アオイは咄嗟にシールドを切り離し、複列位相砲の前に投げつけた。

 

 砲撃はシールドによって弾かれ、難を逃れたアオイはそのまま加速。

 

 リグ・シグルドの懐目掛けて突撃する。

 

 「オオオオオ!!」

 

 「ッ!?」

 

 サーベルを一閃。

 

 虚を突いた一撃がリグ・シグルドを捉え、左腕を斬り飛ばした。

 

 「チッ、仕留めきれなかった!」

 

 「な、に」

 

 予想外の損傷がルドラの思考を一瞬だけ氷つかせた。

 

 そして次の瞬間、湧き上がってきたもの。

 

 それは怒り。

 

 機体を傷を付けられた事以上にあんな奇襲まがいの一撃に引っかかった自分の無様さが許せなかった。 

 

 抑えきれない怒りと憎悪がルドラの中に満ちていく。

 

 「貴様ァァ!!」

 

 殺す! 

 

 必ず殺してやる! 

  

 溢れ出る殺意を纏い、イレイズに向かって報復を開始しようと構えた。

 

 だが、それを中断させる通信が入ってきた。

 

 《ルドラ、頃合いです》

 

 「シルヴィア!」

 

 思わず言い返しそうになるが、ルドラはそこでグッと堪える。

 

 見れば敵がエレボスへ突入し始めたのが見えた。

 

 ならば目的はすでに達した事になる。

 

 此処で感情に流される程、愚かではない。

 

 「……退くぞ。クロムとアルドにも連絡しておけ」

 

 《了解》

 

 「逃げるのか!」

 

 「次は必ず殺してやる。次があればだがな」

 

 リグ・シグルドはそのまま反転、即座に戦域から離脱していく。

 

 それは他の戦場でも同じであった。

     

 マクベイン・エクスキューターの機体が少しづつ戦域から離れようとしていた。

 

 「離脱している? 何で?」 

 

 やはり何かがおかしい。 

 

 本拠地がここエレボスであるならばマクベイン・エクスキューターは死にもの狂いで守ろうとするのが普通だ。

 

 しかし戦闘開始当初から連中から本気を感じなかったのだ。

 

 「やはり誘われている」

 

 アオイの考えは的中していた。

 

 ずっと感じていた違和感の正体に辿りつき掛けた時、それを証明する通信がこの戦域に集まった全軍に流れた。

 

 《エレボスを攻めるすべての勢力に伝える。今すぐに離脱しろ、これは罠だ》

 

 通信機から聞こえてきたのは男の声だ。

 

 機械不良の所為か掠れている為に声の主を特定する事はできそうにないが、男である事は間違いない。

 

 《エレボス内部には複数の核爆弾が後、数分で自爆するようにセットされている。今すぐに逃げろ》

 

 当然、正体も告げずいきなり通信してきた者の言葉を鵜呑みにする事はできない。

 

 それはどの勢力も同じ事。

 

 特にエレボスの脅威を何としても排除せねばならないテタルトスにとっては簡単に信じる訳にはいかない話だった。

 

 しかしサルワと戦っていたヴィルフリートは即座に判断を下す。

 

 「この通信は恐らく本当だ。新型が突然退いた理由も敵の当たりが弱いのも納得がいく。艦長、すぐに撤退しろ」

 

 核爆弾が爆発すればエレボス諸共吹き飛ぶことになる。

 

 今回の敵の狙いはそれだ。

 

 初めからエレボス自体が囮であり、こちら側の戦力を削る事が目的だったのだ。

 

 《すでに撤退命令を下しております》

 

 「判断が速いな」

 

 《いえ、実は臨時で同行していたランゲルト准尉がこの通信は正しいから撤退すべきだと進言してきて》

 

 「ランゲルト准尉が? その根拠は?」

 

 《本人もよく分からないそうなのですが、この声の主は信頼できると感じるらしく……後はこれまでの敵軍から感じた違和感についてもこれで説明可能になると》

 

 「……その判断は正しい。エレボス内部に侵入した部隊にも急いで撤退命令を出せ」

 

 《了解》

 

 通信が切れると同時にデータが一斉に送信されてきた。

 

 エレボス内部の詳細データだ。

 

 中央に核爆弾が仕掛けられており、それを解除する時間はないようだ。

 

 「ご丁寧な事だ。それにしてもベルリン条約は無視か。マクベインめ」

 

 すでにエレボス内部にはかなりの数の戦力が入り込んでいる。

 

 その中にはヴィルフリートが鍛えてきた部下も含まれていた。

 

 今から脱出が間に合うか。

 

 しかも一度侵入した奴を逃がさないように『マクベイン・エクスキューター』の機体が脱出を阻んでいた。

 

 「させんぞ」

 

 脱出してきた味方機を襲撃する敵モビルスーツをライフルで撃墜、さらにこちらに群がってきた部隊をビーム砲を撃ち込んだ。

 

 だがそれでも敵は怯まない。

 

 むしろ撃墜覚悟で突撃してくる。

 

 「命が惜しくないのか! このままだと貴様らも死ぬんだぞ!!」

 

 「それがどうした!」

 

 「すべてはこの世界を正す為!!」

 

 何を言っても無駄。

 

 彼らに話は通じない。

 

 「くそ!」

 

 すべての味方が脱出するまでは、残りたい所だがあまり長居をしていてはヴィルフリートが巻き込まれる。

 

 その時、別方向から発射された強烈な一撃が敵部隊を丸ごと吹き飛ばした。

 

 「何?」

 

 高エネルギー収束ライフルの銃口を向けていたのはヴィルフリートにとってある種因縁の相手であるイレイズガンダムだった。

 

 続けざまに撃ち込んだ収束ライフルの砲撃。

 

 数機のモビルスーツを薙ぎ払い、脱出してきた味方の離脱を掩護する。

 

 「アオイ・ミナト」

 

 「『銀獅子』ヴィルフリート・クアドラード」

 

 かつては殺し合った相手。

 

 言いたいこともあるのは当然の事だった。

 

 しかしアオイはそれを詮無い事だと割り切る。

 

 相手からすれば殺したいくらい憎い相手なのだろうが、それは戦い続ける以上は覚悟して当たり前の事。

 

 それを理解した上で今するべき事をやるだけだ。

 

 「撤退を援護する!」

 

 「どういうつもりだ? 同盟の部隊はまだ内部に突入していなかった筈だ。何故こちらを助ける?」

 

 「こんな事で死ぬことはないって思っただけだよ! そんな事より手を動かせよ、もう時間がないんだ」 

 

 「ハァ、お人好しな奴め」

 

 「最後まで残って味方を助けようとする貴方ほどじゃないさ」

 

 「部下が命を懸けているんだ。俺が残るのは当然の事だ」

 

 二機のモビルスーツが背中合わせとなり、敵の機体を迎撃していく。

 

 しかし時間は無常に過ぎていき、限界まで後僅か。

 

 二人の顔にも焦りが滲み出る。

 

 「自分達も死ぬっていうのに、邪魔をするな!」

 

 「テロリストに何を言っても無駄だ。結局自分達の事しか考えていない!」

 

 「もう時間がない」

 

 「くっ」

 

 まだエレボス内に残っている部隊がいる。

 

 しかし彼らも敵に足止めされ動けない。

 

 それに離脱したからと言って爆発するエレボスの余波から逃れる時間も必要。

 

 しかも敵機も死にもの狂い。

 

 逃がさないとばかりに向かってくる。

 

 逡巡するヴィルフリート。

 

 そこにエレボス内に突入していた部隊かた通信が入る。

 

 《クアドラード中佐、エレボスから離れてください。このままでは中佐も巻き込まれます》

 

 「馬鹿を言うな! 俺がここを離れるのはお前達が脱出してからだ! まだ間に合う急げ!」

 

 《いえ、もう間に合いませんよ。早く離脱を、中佐まで巻き込む訳にはいきません》

 

 笑顔で敬礼する部下達の姿にヴィルフリートは血が滲む程に唇を噛みしめる。

 

 《後の事、よろしくお願いします》

 

 「任せておけ……アオイ・ミナト、限界時間だ!」

 

 「ッ、了解!」

 

 イレイズとジンⅢは反転、スラスターを全開にして加速する。

 

 「ちくしょう!」

 

 「この借りは必ず返すぞ、マクベイン」

 

 少しでも遠くまで離れようと力一杯、出力を上げていく。

 

 

 

 そして次の瞬間、エレボスが閃光に包まれた。

  

 

 それはかつてユニウスセブンを―――

 

 ボアズを――― 

 

 ジェネシスを包み込んだ終末の光だ。

 

 

 爆発により周囲の岩が飛び散り、戦艦やモビルスーツを巻き込んでいく。

 

 「ぐっ!」

 

 「くそ!」

 

 距離を稼ぐ事が出来なかった為に爆発の余波の影響を受けた二機は大きく吹き飛ばされてしまう。 

 

 

 それは支援を行っていたウリエルや他の戦艦も例外ではない。

 

 

 幸い通信が入り、後退し始めていた為に爆発による直接的な被害はなかった。   

 

 しかし四方へ飛び散った破片により、撃沈する艦も少なくない。 

 

 「被害状況知らせ!」

 

 「艦側面部に岩片による損傷あり!」

 

 「エンジン出力15%低下!」

 

 「モビルスーツ部隊に帰還命令。動けない機体がいたら救助するように通達」

 

 「了解」

 

 オペレーターに指示を飛ばしつつ、ヨハンは次の一手を考え始めていた。

 

 エレボスが自爆した今、作戦継続の意味は失われた。

 

 救助活動が一段落したら作戦終了の通達が下るだろう。

 

 だが作戦が成功したかと言えばNoだ。

 

 エレボスの核爆発によって各勢力の精鋭はボロボロだ。

 

 立て直しにも相当の時間が掛かるだろう。

 

 さらに首魁であるウォーレン・マクベインの所在は確認できず、ここエレボスが本拠地なのかも不明。

 

 兵力もどの程度の規模なのか未だ判然としないこの状況。

 

 終始こちらが手玉に取られた印象がぬぐえない。

 

 「拠点の自爆。それによる敵戦力への打撃。このやり方は……」

 

 覚えのあるやり方にヨハンは思考を巡らせていく。

 

 何にせよ離脱した『マクベイン・エクスキューター』の追撃は必要だろうが、この状況ではその余力も残っていない。

 

 「唯一の収穫は敵の拠点を一つ潰せた事くらいか……そういえばあの通信は」

 

 核が仕掛けられている事を教えてくれたあの男は何者なのか。

 

 『マクベイン・エクスキューター』の裏切り者?

 

 それとも全く別の勢力?

 

 「敵ではないと思いたいね」

 

 ヨハンは大きなため息をつく。

 

 大きな代償を払ったにも関わらず、手にした収穫の少なさに目眩がしそうだった。

 

 

 

 

 何らかの機材や医療器具などが散乱する荒れた部屋に白衣を纏う男が楽し気に端末を眺めていた。

 

 男の名はヴェクト・グロンルンド。

 

 世界の裏側において知る人ぞ知る研究者である。

 

 それも本人にとっては些末な事であり、誰に知られようとも関係ない。

 

 重要なのは自分の興味のある研究のみだ。

 

 故に世界情勢などに目も向けず、今日も今日とて相変わらずの研究漬けの日々を送っている。

 

 その研究がどれだけの悲劇を生んでいるか、理解もせずに。

 

 いや、理解した所でどうでも良いと切って捨てるだろう。

 

 彼はそういう人間なのだから。

 

 「楽しそうですね、博士」

 

 「ん? おお、お前か」

 

 いつの間にかヴェクトの傍には黒いコートと仮面を身につけた男が立っていた。

 

 「何か用か?」

 

 「いえ、研究の方はいかがかと思いまして」

 

 「ふん、興味もない癖に。まあ、いいさ。機嫌が良かったのはコレさ」

 

 画面に映し出されていたのは子供の成育過程のようなもの。

 

 そこには二人の子供が映し出されていた。

 

 「実験体αとβ。確か『彼ら』によって奪還されたと聞いていましたが」

 

 「奪還じゃなくて奪取だよ。αもβも私の物だから。まああの時は流石に腹が立ったけどデータは取ってあったからねぇ。また取り返せばいいさ」

 

 「なるほど」

 

 「それにコレもあるしね」

 

 画面が変わり別の子供とその母体が映し出された。

 

 髪の長い軍服を纏った女性とその子供だ。

 

 「まさか彼女も?」

 

 「うん、一回弄る機会があってさ。まさか子供を作っていたなんてねぇ。しかも相手はさぁ―――」

 

 「では彼女とその子供を実験に?」

 

 「そうしたいんだけど、ガードが固くてね。流石同盟だよ。まあそれは後回しで良い。今、興味があるのはこっちさ」

 

 次に画面に映った女性にコートの男も反応する。

 

 「今更彼女に興味が?」

 

 「ああ。ただし能力じゃなくて母体としてだけどね。丁度いい、こちらに来るように仕向けてくれないか? 一回会ってみたいんだ」

 

 「私も今はあまり派手に動けないのですが……」

 

 「嘘つけ。今回のアレだってお前の差し金だろう?」

 

 「何のことでしょう? とにかく依頼については了解しました。ただ油断はしないよう、ご注意を」

 

 コートの男は一礼すると音も立てずに部屋を後にする。

 

 残ったヴェクトは歪んだ笑みを浮かべながら、モニターに映る実験結果を眺めていた。 

 

 

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