ミラージュコロイドを展開し、移動している戦艦の中。
その一室でモニターに映る光に包まれていく拠点の姿をウォーレン・マクベインは険しい表情で見つめていた。
さほど長い間ではないが、あの場所を守る為に命懸けで戦ってきた。
それがああも無残な姿に成り果てるとは、帰るべき家を失ったような喪失感がある。
しかも条約違反の核を用いてだ。
「これからどうなさるので?」
背後に控えた副官の問いにウォーレンは振り返る事無く告げる。
「お前は世界を一つにするにはどうすれば良いと思う?」
「分かりかねます」
「簡単だ。共通の敵を作ればいい」
「共通の敵?」
「敵でなくとも良い。すべての国家が例外なく危機に晒され団結しなくてはならない状況になれば否応なく世界は一つになるだろう。最も解りやすい例を挙げるなら、ユニウス戦役か」
そう言われて副官も納得したように頷いた。
例えば『ブレイク・ザ・ワールド』
ユニウスセブンが地球に落下した事で多くの国家が被災、大きなダメージを受けた。
しかしそれでも連合が半ば強引な開戦する前まではあの困難を乗り切ろうと確かに世界は一つになってはいたのだ。
例えば『ロゴス打倒』
ユニウス戦役はそもそも地球連合によるザフトの新型モビルスーツの奪取と『ブレイク・ザ・ワールド』と呼ばれる事件をきっかけに始まったもの。
開戦時こそ連合は打倒プラントを掲げ世界全土に協調を促したが、正直足並みがそろっていたとは言い難かった。
しかし当時の議長ギルバート・デュランダルがロゴスの存在を暴露、打倒を掲げた瞬間、一部の例外はあれど世界の勢力図は打倒ロゴスへと傾いていた。
例えば『デスティニープラン』
ギルバート・デュランダルが掲げた人類救済策。
これをデュランダルはやや強引にでも世界に普及させようとしたが、対立したすべての勢力が一丸となりデスティニープラン導入を阻止した。
確かにこれらは見方を変えるなら、ある種の脅威に対して世界が一丸となって戦った例ではある。
「まあ、あそこまで極端に立場の入れ替わりが激しかったのはジブリ―ルの愚鈍さとデュランダルの手腕があればこそではあったのだろうがな」
「つまり『マクベイン・エクスキューター』もギルバート・デュランダルと同じ事をやろうと?」
「私はあそこまで回りくどい手を取るつもりはない」
「どんな手法であれ、人類史に残る悪行である事は間違いありません。それでも?」
「愚問だ。覚悟はすでに問うた筈だぞ」
「失礼しました」
そう、どんな悪行だろうが構わない。
少なくともウォーレンが付き従ったかつての上官ならば迷うまい。
ならば自分もそれに恥じぬように動くだけだ。
「戦力はどうなっているか?」
「はい。行き場のない傭兵やジャンク屋、大西洋連邦、ユーラシアの残党などこちらに合流しています。その総数は統合軍の2割ほどに達し、さらに増える予定です」
「途中から合流した連中にはくれぐれも先走らないように釘を刺しておけ。そしてあの男にも勝手はするなと伝えろ」
「了解しています」
今の所、計画通りに進んでいるが懸念事項がない訳ではない。
「商工連合、そして―――」
いや、すべては作戦が完了した後の事。
今は膨れ上がった組織の再編成と作戦を成功させる事に力を注ぐべきだ。
副官が一礼して部屋から退出したのを見届けたウォーレンは映像を消して目を閉じた。
◇
エレボス攻略作戦。
概要は『マクベイン・エクスキューター』の拠点であるエレボスに奇襲を仕掛け、少数精鋭で陥落させる電撃作戦だった。
しかし目論見は外れ、逆に精鋭部隊に打撃を受けるという被害を被った。
端的に述べてしまえば作戦失敗という訳だ。
これにより三勢力の部隊は立て直しを余儀なくされてしまった。
そして同盟の中で唯一作戦に参加していたウリエルもまた決して小さくない被害を受けていた。
仮にこのまま敵から襲撃を受けた場合、さらに被害が拡大する恐れがある。
偶然にも損傷し動けなくなっていた輸送船を保護し、その行先が同じだった事もあって、ウリエルは最も近い商工連合コロニー群の一つに入港し、本格的な修復を行う事にした。
「また商工連合のコロニーに来る事になるとはね。それにこの損傷、上から嫌味を言われるよ」
作戦が成功していたのなら、どれだけ傷つこうが言い訳は立つ。
しかし作戦は失敗で成果も上げられずでは、確実に上層部から文句が出るだろう。
その矢面に立たされるヨハンは堪ったものではない。
ウリエルクルーには短い間ではあるが修復の間、個別に休息を取るように命じてある。
コロニーの中へ入る事も認めているし、負担を掛けたパイロットの面々にはしっかり休んでもらいたいものだ。
「艦長も良い機会なのですから、休んでください」
「分ってるよ」
オペレーターの気遣いに感謝しながら、ひと眠りしようと席を立った。
◇
何事にも息抜きというのは必要な事だ。
それは勿論分かっている事なのだが、羽目を外し過ぎるというのはいかがなものだろう。
「「乾杯!!」
カウンター席に座るアオイの後ろではパイロットやメカニックマン達が酒を片手に盛り上がっていた。
気持ちはわかる。
戦場から無事に帰還し、はしゃぎたいのだろう。
特にエレボスから帰還したパイロット組は核の爆発に巻き込まれかけ、九死に一生を得たのだ。
テンションが上がるのも無理はない。
アオイもここで止めるような無粋な真似はしたくないのだが、緊急事態が起きる場合もある訳で。
というか男性陣は服とか脱がないで欲しい。
こっちにもとばっちりがきそうで怖いし。
「まあいいか。俺は飲まなきゃいいだけだし。それにしても大佐、遅いな」
一応、この会にはネオも出席する予定になっていたのだが、未だに姿を見せない。
何かあったかと心配になったアオイは店の外に出ると、丁度ネオが立っていた。
「大佐、店の中に……大佐?」
ネオはアオイの声に反応する事無く、全く別の方向に目を向けていた。
「これは……この感覚は」
驚愕したように立ち尽くすネオはそのままどこかへ走り出してしまった。
「大佐、どこへ行くんです!?」
あの様子はただ事じゃない。
アオイは念のために艦内で待機しているスウェンにメールを送り、ネオの後を追いかけた。
流石に鍛えているだけあってネオの足は速い。
見失わない様に背中を追い続け、人気の少ない路地裏でネオはようやく足を止めた。
「ハァ、ハァ、大佐、いきなり走り始めてどうしたんですか?」
「……あれは」
視線の先には黒いコートと不気味な仮面を身につけた人物が立っていた。
その気配にはアオイにも覚えがある。
滲み出る悪意と殺意。
間違いない。
「お前は『統合戦争』で戦った……」
「アオイ・ミナト君か」
「カース」
ミュンヘンで戦った赤いシグルドのパイロット、カースに間違いない。
「君まで現れるとは思っていなかったが、まあいい。私が用があるのはそこのルシア・フラガだけだ」
「大佐の素性を」
「当然だよ。そこに居る女性と私は血の繋がったいわば兄妹のようなものだからね」
そこまで言われてアオイもようやく察しがついた。
カースはネオの―――
「それで私に何の用がある?」
「その前に仮面を外したらどうかな、ルシア。もう君の素顔を隠す必要はあるまい」
ネオ―――ルシアは一瞬だけ躊躇いを見せたが、すぐに仮面を外し素顔をさらした。
ルシアの素顔に何か思うところでもあるのか仮面の男はジッと見つめている。
「私の素顔に何か? 貴方にとっては珍しくもないでしょう?」
「フ、いや、ただ我々の母にそっくりだと思っただけだよ」
母と聞いてルシアの表情が曇る。
彼女の過去を考えれば出来るだけ触れられたくない事だろう。
「要件はなんなんだよ?」
「是非ルシアに会いたいという人物がいてね、こうして迎えに来たのさ」
ルシアはあからさまに警戒したようにカースを睨んだ。
当然の反応だ。
カースの素性は何となく察したが、こいつの現在の所属は曖昧なまま。
仮に『マクベイン・エクスキューター』に参加しているのなら、罠の可能性が高くなる。
「安心すると良い。私は『マクベイン・エクスキューター』に所属する人間ではないよ」
「信用できないな」
「見返りも用意しよう」
「見返り?」
「『マクベイン・エクスキューター』の情報という事でどうかな」
確かにそれは喉から手が出るほど欲しい情報だ。
しかしカースを信用しても良いものか。
そんなアオイの疑心も承知の上だとカースは懐からディスクを取り出す。
「これに必要な情報が入っている。ルシアがこちらの要望に応えてくれるなら渡そう」
「……会わせたい人物というのは?」
カースは悪意に満ちた笑みを浮かべながら、口を開いた。
「ヴェクト・グロンルンドという研究者だよ」
◇
アオイとルシアはカースに連れられ、コロニーの外れにあるビルに到着していた。
最近建造されたものなのか外見自体は真新しく、内部には人の気配もない。
結局、二人は情報と引き換えにカースの誘いに乗る事にした。
『マクベイン・エクスキューター』の情報はそれだけ重要だと判断したのだ。
スウェンには予め連絡してあるし、もしもの場合も何とかなるだろう。
それとなく周りを観察するが、敵が包囲しているという事もないようだ。
「そう警戒しなくてもいい。言っただろう、あくまでもルシアに会わせたい人物がいるだけだとね」
「大佐を守る為に必要な事だ」
「なるほど」
どこか楽しそうなカースの先導に従い、ビルの内部に入っていく。
やはり外から感じた通り人が誰もいない。
しかしそこらに未開封の段ボールや何らかの実験に使うような道具が放置されている。
中には赤く薄汚れた良く分からないものが付着した機材まで。
「何なんだ此処は」
「色々散乱していて済まないね。ここの主はズボラな性格で、己が研究以外には何も興味を示さない人間なのだよ。まあ気にしないでくれ」
カースの後ろを歩きながら、アオイは気になっていた事を聞くことにした。
「で、どんな奴なんだよ、そのヴェクト・グロンルンドって」
正直、ヴェクト・グロンルンドと聞いてもピンと来ない。
同じ研究者の間では詳しいのかもしれないが、少なくともアオイは知らない。
「陳腐な言い方をしてしまえばマッドサイエンティストと言えばわかりやすいだろうね」
「……そんな奴が大佐に何の用なんだ?」
「本人から聞いてくれたまえ。私は彼の研究に興味はない。ただそうだね……君は彼が最も嫌うタイプの人間だ。そして君にとっても彼は許さざる存在だろう」
すべてを見透かしたようなカースの言葉がアオイに染み込んでくる。
「故に決して相容れない。だから良く見ておくといい。君の『敵』の姿を」
「どういう意味だ」と問い返そうとするがその前にカースの足が止まった。
「ここだ」
扉を開け、飛び込んできたものにアオイは目を疑った。
良く分からない液体が詰められた瓶。
机の上に置きっぱなしになった書籍の山。
壁に貼り付けられたレポート用紙。
そして胎児と思われるものが入れられた巨大な水槽。
吐き気がする。
まさに混沌と呼ぶにふさわしい。
そしてその中央には白衣を着た男が嬉々として端末を弄っていた。
「博士、ルシア・フラガをお連れしました」
「ん、おお。流石に仕事が早い。初めましてかなぁ、ルシア・フラガ。私の名前はヴェクト・グロンルンド、よろしく」
飄々とした態度とだらしがない服装。
どう見てもうだつの上がらない研究者にしか見えない。
しかし目は違う。
冷たく無感情にこちらを同じ人間とは見ていない。
まるで物を品定めしているかのような視線に嫌悪感が募っていく。
アオイがルシアを守るように立ちふさがると、ヴェクトはあからさまに不機嫌な様子に変わった。
「おい、何だ、アレは」
「アオイ・ミナト。一度くらい資料を読まれた事があるのでは?」
「ん~覚えてないなぁ。という事は役に立たない愚図な凡人だろ、何で連れてきた?」
「たまには目的以外の人間と話をするものよろしいかと」
「時間の無駄だと思うがなぁ」
今の会話だけでもこのヴェクトという男が自分と相容れないというのは分かった。
ルシアも不機嫌さ全開といった様子を隠していない。
よほどヴェクトが気に入らなかったらしい。
「それで私に何の用があるのです、ヴェクト・グロンルンド?」
「私の名前も聞いているなら自己紹介も必要ないかな。では本題に入ろう、簡単に言えば私の研究に協力して欲しい。君には『母体』になってもらいたいんだ」
母体?
単語を聞いただけでも碌でもない事だというのは何となく察せられた。
「母体ってどういう事だ? というかお前は何の研究をしてるんだよ」
「チッ」
「……この野郎」
あまりの態度の違いにアオイもイライラが募ってくる。
それを楽しそうに眺めているのがカースだ。
こいつもいちいちアオイの神経を逆なでしてくる。
「愚図にも分かるように言ってやる。私は人を研究しているんだよ」
「人?」
「ああ。どうすれば『完璧な人間』を生み出せるのかという研究だよ」
それはある意味この世界の研究者たちにとって目指すべき到達点だったともいえる。
遺伝子操作で生み出されたコーディネイターがその最たる例だろう。
しかしそれは昔の話だ。
ロゴスの暗躍があったとはいえコーディネイターの出現は世界に混乱をもたらした。
故に今の研究者たちはそういった研究を禁忌としているのは周知の事実だ。
「完璧なコーディネイターでも作ろうって事か」
「ハッ、これだから凡人は。いいか、奴らは遺伝子細工されただけの出来損ないの肉人形だよ。受精卵の段階で能力を設定したにも関わらずその通りに生まれてくる個体はほぼゼロ。能力値が想定より下回るなんて事はしょっちゅうだ。しかも繁殖能力に異常まで抱えた欠陥品、それがコーディネイターだ」
コーディネイターを新人類などと信奉する者はもはやごく僅か。
プラントでさえ出生率の低下に歯止めがかからず、ナチュラルの受け入れが始まっている。
それでも中には未だに自分達こそが新たな人類であると語るコーディネイターを居るのだ。
故にこういった物言いは一種のタブーになっているのだが、ヴェクトはそんな事は気にしないとばかりにしゃべり続けている。
「遺伝子操作を否定する気はないがな。私が求めているのは強靭な生命力、高度な能力、聡明な頭脳、美しい容姿、すべてを兼ね備えた『完璧な人間』だ」
「そんなものが生み出せる筈がない」
「馬鹿が、生み出す為に研究してるんだ。何の為に今まで強化人間、強化兵、能力移植、試作ナノマシン投与実験。色々やってきたと思ってるんだよ」
「強化……人間だと? 何でお前が」
「ハァ、連合関係者の依頼で弄った事があるんだよ。№呼びされてた個体と後はエリニスとかいう検体の調整とかだったかな。結構な数を弄ったけど、どれも役に立たない下らんゴミだった」
アオイの脳裏に仲間達の笑顔がよぎる。
アウル、スティング、ラナ、そしてステラ。
皆、アオイにとって大事な人達だ。
誰もが強化人間にされて、兵器にされて、人生を狂わされた。
そして無念の中で死んでいった者もいる。
そんな人達をこいつは生み出した挙句、役に立たないゴミなどと―――
知らず拳を握りヴェクトを睨みつけるが、向こうはアオイの事などどうでも良いとばかりに話続けている。
「だが最近ようやく成果が出てきてね。生まれた個体である『αとβ』も優れた能力を持っているみたいだし、予想外の個体も生まれていた。まあこれらは親が優秀だったというのも関係しているのかもしれないけど」
「つまり貴方は私に実験の為の子供を産めと?」
「ああ、相手はこっち側で用意するから君はただ従ってくれればいい。勿論、他にもやってもらうことはあるんだけど」
ヘラヘラと笑いながら、嬉しそうに語るヴェクト。
もういいだろう。
これ以上は聞くに堪えない。
「何がそんなに可笑しい?」
「ハァ、愚図は黙って―――」
アオイが目の前に立っている事に驚いたのか、ヴェクトが黙る。
その間抜けな顔面に思い切り、拳を叩きつけてやった。
「ぐべぇ」
手加減抜きで振り抜いた拳はヴェクトの頬にクリーンヒット。
そのまま近くのテーブルを巻き込んで、派手に倒れ込んだ。
積んでいた書類や実験器具も一緒に散乱したが、知ったこっちゃない。
「そんなに楽しいか! 誰かの命を弄ぶ事がそんなに楽しいか!!」
アオイの怒声に反応したのかヴェクトが口から血を流しながら、ゆっくりと起き上がる。
「ぐっ、この屑がァァァァ!!!」
「屑はお前だろうが!」
「黙れ!! お前みたいな何もわかっていない無能が世界に蔓延って……才ある者の足を引っ張る事しかしない癖に!」
ヴェクトの形相は怒りに染まり、その眼にはアオイに対する軽蔑と憎悪に満ちていた。
「私はお前のような才能の欠片もない屑が何より嫌いだ! 利用価値すらない!」
「好かれなくて結構だ! お前なんかに大佐を好きにさせるものか!!」
「この上邪魔までするか……」
お互いが殺意をぶつけ合う一触即発の空気の中、それを破ったのはバタバタと聞こえてくる無数の足音だった。
「博士、今日は此処まででよろしいでしょう。捕まると面倒ですよ」
「チッ」
カースは銃を構えてアオイ達を牽制。
倒れたヴェクトを引っ張り起こすと、そのまま肩を貸して部屋の反対側にある出口へと歩いていく。
「……おい、屑。必ずお前は排除してやる」
「何?」
睨みあう二人を見つめカースは楽しそうに笑みを浮かべる。
「では今日は此処までだ、ルシア。これが約束の物だ」
地面を滑らせるようにディスクを投げてくる。
「そしてアオイ君、実に楽しい時間だったよ」
カースが扉を潜った瞬間、手元のスイッチを押すと天井の一部が崩れ通路を塞いだ。
これでは追う事は出来ない。
「大丈夫ですか、大佐?」
「ええ、私は大丈夫」
「アイツ、何の為に俺達を此処に連れてきたんだ?」
あんな実験にまともな神経を持ち合わせた人間なら首を縦に振る筈はない。
それなら情報と引き換えに実験に協力しろと言った方がまだ可能性があった筈だ。
アオイがヴェクトを殴った時も特に邪魔をしなかったし、カースが何を考えているのかさっぱり分からない。
それとも―――アオイをヴェクトに会わせたかっただけとか?
まさかそんな筈はないだろうが。
駆け込んできたスウェン達の姿に安堵しながら渡されたディスクを手に取った。
◇
アオイ達との話の後。
コロニーにあるもう一つの研究所にたどり着いたヴェクトは怒りと屈辱に震えながら怨嗟の声を吐き出した。
「くそ!」
許せない。
あんな屑に殴られた事もそうだが、邪魔をされた事も腹立たしい。
「どうでした、博士? たまには目的の人物以外と話をするのも刺激的でしょう」
「確かに収穫だったよ! やはり世界は腐っている、あんなゴミがそこら中に蔓延っているんだからな! それにしても何故手を出さなかった?」
「楽しそうでしたから、邪魔をするのも無粋かと」
「不愉快だっただけだ!」
「落ち着いてください。博士はまだカードすら切っていないのですから、ルシアを抱き込む機会はまだある」
「分っているさ。あっちの研究所も破棄する予定だったから、問題はない。しかし、あの屑だけは始末しないとな」
「やはり有意義な時間だったようですね、博士。貴方が排除すべき敵の姿を見定める事ができたのだから」
忌々し気にカースを睨むと久々に抱く怒りと憎しみの感情にヴェクトは抗う事無く身をゆだねる。
アオイにも言ったがヴェクトは才ある者こそ価値があると思っている。
逆を言えば才能もない人間には価値はなく、認める事もない。
その上天才の足を引っ張るだけの屑など論外だ。
だからこそアオイの存在はヴェクトにとって許せない。
これ以上、邪魔をされる前に排除すべきだ。
「それで博士、どうされるのです?」
「……ルドラを呼べ」
「分りました」
ヴェクトの要請に内心笑みを浮かべる。
まさに思惑通りの展開。
カースは怒りに震えるヴェクトの姿を楽し気に眺めながら、思案を巡らせ始めた。