機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第2話  三つの嵐

 

 

 

 デブリと共に破壊されたモビルスーツの残骸が浮かぶ宙域。

 そこで襲撃してきたテタルトスのモビルスーツとの戦闘を終えたミネルバは本来の目的である調査活動を再開していた。

 

 「もう、デブリが鬱陶しい。これじゃどれが手掛かりかなんて分からないわよ」

 

 「気持ちは分かるが、ぼやくなよ。このポイントもこの辺りを調査すれば終わりだ」

 

 「分かってますけどね」

 

 ルナマリアがレーダーに映る残骸の数に辟易し愚痴を零す気持ちも分かる。

 確かにこれは広大な砂漠に埋もれる小さな宝石を捜すようなもので、気が滅入るのも無理はない。

 特に探索を行える機体がインパルスとエクリプスの二機しかいないという今の状況がそれに拍車を掛けているのだろう。

 しかもすでに数箇所も同じような場所を調査しているとなれば、愚痴の一つも言いたくなるのは当たり前だった。

 だが前回の戦闘で損傷が無かったのはインパルスとエクリプスのみであり、大きな被害は無かったとはいえ爆発の衝撃波に巻き込まれた他の機体は修復作業中。

 この広いエリアの探索を二機だけで行う事となれば、必然的に負担が大きくなってしまうのは仕方がない。

 

 「戻ったらなにか奢ってやるから、もう少し頑張れ」

 

 「えっ、ホントですか! あ、じゃあ今度休暇でプラントに戻ったら、買い物に付き合ってくださいね!」

 

 「え、あ、ああ」

 

 機嫌が良くなったのか「新しいお店できたんですよねぇ」なんてルナマリアは楽しそうに笑っている。

 単純に労うつもりで言っただけだったのだが、思わぬ効果があったようだ。

 いくらか雰囲気も和んだところで、改めて周囲を見渡すとボロボロに破壊された残骸が密集している

 この辺りは本当にデブリや残骸が多い。

 死角で手掛かりを見落とさないように視線を凝らしていると、目新しい弾痕がついた残骸を発見した。

 

 「あれは……ザクか? ルナマリア、二時方向だ」

 

 インパルスと共にザクと思われる物体に接近するとそこには脚部を斬り裂かれ、爆発によって完全に破壊された残骸が漂っていた。

 

 「間違いない。輸送船の護衛についていたザクだ」

 

 「でも、これじゃ……」

 

 「ああ。だが、何かの情報は手に入るかもしれない。回収して一度ミネルバに戻るぞ」

 

 「了解」

 

 メイリンに連絡を入れ、大破したザクを掴むとミネルバへと慎重に運び込んだ。

 発見したザクを格納庫の床にゆっくりと横たえ、コックピットから降り立ったアレンの耳に聞こえてきたのはメカニックリーダーであるマッド・エイブスの悲鳴にも似た声だった。

 

 「こりゃヒデェな。大破もいいとかじゃねぇか」

 

 ぼやきながら端末を弄るエイブスに近づき、一番重要なことを尋ねる。

 

 「データは取り出せそうですか?」

 

 「ほとんどスクラップと同じですからね。やれるだけやってみますけど」

 

 「頼みます」

 

 何かしら情報が出てくれば良いと考えながら、その場を任せ一度着替えようと床を蹴る。

 無重力の中、壁や床を器用に蹴って更衣室に向かう。

 その途中、シミュレーターで訓練に励むパイロット陣の姿が見えた。

 

 「今日もやってるな」

 

 アレンの指揮するモビルスーツ隊メンバーの技量は非常に高いと自負している。

 元々彼らが高い資質を持っていたというのもあるが、彼らは配属されてからずっとアレンとルナマリアが鍛え上げてきたからだ。

 部隊設立時、一部の者達から受けた冷遇処置と地球での戦闘激化の影響でミネルバはパイロット不足に悩まされる事になった。

 議長であるレヴァンやアイラに訴える手段も無くはなかったが、それをすると不満を持っている連中とさらに軋轢が生じかねない。

 そこで配属が決まっていないアカデミーを卒業したての新兵や実力はあるが(上司との関係などで)問題がある者など、所謂いわく付きの者を集めたのだ。

 最初はそれこそ苦労させられたものだが、今となってはこれで良かったと思っている。

 

 「皆、ずいぶん腕上げましたよね」

 

 いつの間にか隣にきていたルナマリアがポツリと呟いた。

 彼女も一緒に苦労させられたからこそ、感慨深いものもあるのだろう。

 

 「これもルティエンス少佐のおかげですね」

 

 「うっ……そうだな」

 

 顔が引き攣らないように、できるだけ自然に振舞う。

 彼らの訓練内容はスカンジナビアで教官も勤めている女性にも意見を参考に作成されたもの。

 教官を勤めているだけあって、彼女の指摘は的確で彼らの訓練の際には実に役に立ったのだが―――

 

 「どうしたんですか、アレン?」

 

 「いや、別に、何も。そんな事より少し休んだら、俺達もやるぞ」

 

 「分かってますよ。簡単に追いつかれるつもりもありませんから」

 

 勝気なルナマリアの物言いに苦笑しながら、しばらく二人で訓練風景を眺めていた。

 

 

 

 

 ザクの残骸を回収してから数時間。

 機体の解析が出来たとブリーフィングルームに呼び出されたタリアは映し出された映像に表情を曇らせた。

 ザクから取り出せた画像はごく僅かで、さらに状態は非常に悪くはっきりと見えないが、映っている物体が何かはどうにか分かる。

 

 「……モビルスーツですね」

 

 「ええ」

 

 後ろに控えていたアレンが表情を硬くしながら呟いた。

 映し出されているのは赤いモビルスーツ。

 ビームライフルを構え、頭部から発せられている不気味な光はおそらくモノアイのものだろう。

 

 「……この機体は」

 

 「アレン、心当たりがあるの?」

 

 「……ええ。もちろんこの映像で断定はできませんが」

 

 ユニウス戦役メサイア攻防戦、自分とキラを同時に相手にしながら完全に押さえ込んだ男が乗っていたモビルスーツに酷似している。

 

 確か機体の名前は―――『サタナエル』

 

 しかしサタナエルはシン達との戦いで撃破されたと聞いていたが。

 

 「……生きていた、いや、断定するのは早すぎるか」

 

 そもそもこの機体がサタナエルであると決まった訳ではないし、仮に同じ機体だとしてもパイロットも同一とは限らない。

 

 「どちらにせよ、この機体を放置する訳にはいかないわ」

 

 「しかし手がかりはありませんよ」

 

 「上から提示されたポイントは後、何箇所かある。まずはそこを調べましょう」

 

 上層部から渡されたデータは今までの輸送船の航路や通信を絶った時間などから行方不明になったと思われるポイントを予測したもの。

 そのデータを元に今まで調査を行っていたのだが、タリアは今回それを使って襲撃犯を探索しようと提案したのだ。

 今までの行動から考えても予測ポイントの近くで襲撃犯が活動している事は間違いない。

 うまく発見できるかどうかは別として、手がかりが無い以上はやってみる価値はあるだろう。

 

 「分かりました。ただ動かせる機体はエクリプスとインパルスだけですよ。他の機体は調整が間に合わないかと」

 

 「……敵の規模も、詳細も掴めていない以上、こっちも無理するつもりはないわ」

 

 すなわち退くべき時は退く、そういう事だろう。タリアの指示に頷いたアレンはブリーフィングルームを後にすると足早に格納庫に向かった。

 

 

 

 

 そこは地球を取り巻く宇宙のゴミが集まっているデブリベルトと呼ばれる場所と比べても遜色ないほど多くの残骸が集まっている所だった。

 戦艦や戦闘で破壊された小惑星などが集まり非常に見通しが悪く、特に理由がなければ普通の船が近づくことも無い。

 そんな場所に一隻の戦艦が数機のモビルスーツに守られながら佇んでいた。

 大きめの小惑星に隣接する形で停泊しているのはテタルトス軍プレイアデス級戦艦『アリスタルコス』である。

 その指揮官席に座り苛立たしげに指で手摺を叩き、音を立てているのはこの隊の指揮官であるヴィルフリート・クアドラード少佐であった。

 

 「まだ終わらないのか? たかだか施設の調査に何を手間取っている?」

 

 「その、奥に進もうとすると隔壁に阻まれ、施設内からデータの収集しようとしてもプロテクトが堅く……」

 

 「言い訳はいい、急がせろ! こんな調査はさっさと終わらせて月に帰還する。地球での作戦も迫っているんだぞ!」

 

 「ハッ!」

 

 ヴィルフリートの怒声にもブリッジにいる誰も特に反応することなく涼しい顔だ。

 彼らにとってこれは日常茶飯事。

 上官であるヴィルフリート・クアドラードの余裕の無い癇癪もいつもの事だからである。

 

 「それで後、どのくらい掛かるんだ?」

 

 「約90%は完了しているのですが、残りの隔壁がとても強固でして。もうしばらく掛かるかと」

 

 「チッ」

 

 彼らが現在行っているのは、とある破棄された施設の調査だった。

 ヴィルフリートが苛つく気持ちも分からなくは無い。

 ミラージュ・コロイドによって隠匿されていたこの施設を発見する事も骨だったというのに、データ類は回収しているが今のところこちらにとって有益な成果はないのだ。

 今日何度目かの怒声が飛ぼうとした時、オペレーターが何かの異常に気が付いた。

 

 「熱源、接近。この大きさ……戦艦クラス!?」

 

 「何!?」

 

 アリスタルコスの側面から徐々に接近してきているのは女神の名を冠する艦ミネルバ。

 その姿を見たヴィルフリートはここで笑みを浮かべる。

 

 「ミネルバとはな。ユニウス戦役の英雄とこんな場所で会えるとは、今回の任務も最後にようやくやりがいが出てきたな。調査を行っていた人員を戻せ! モビルスーツ隊、ミネルバを迎撃しろ!!」

 

 「よろしいのですか?」

 

 「ザフトの艦と戦う事に何か問題でもあるか? しかも我々は任務中だ。この施設のすべてを調べ切った訳じゃない。任務の障害は排除するべきだろう? さらにここのデータが奴等の手に渡るのを阻止する必要もあるんじゃないか?」

 

 「り、了解!」

 

 アリスタルコスのハッチが開き、モビルスーツが出撃する。

 

 LFA-03R1 『リゲル・リローデット』

 

 テタルトス軍が戦力強化の為に立案された既存モビルスーツ強化計画『リローデット計画』に沿って改修を加えたもので外見上の変化は無いが通常のリゲルよりも格段に性能が向上、テタルトスの宇宙の主力を担っている機体である。

 背中にフォーゲルコンバットを装着した機体がモビルアーマー形態に変形するとミネルバの来る方向に加速した。

 

 「ジョナサン達はどうした?」

 

 「調査隊と共に施設から帰還中です」

 

 「帰還次第、奴等もミネルバ迎撃に向かわせろ! アリスタルコス、エンジン始動! 対艦、対モビルスーツ戦闘用意!!」

 

 「「了解!」」

 

 獲物を見つけた獣の如くアリスタルコスが動き出す。

 

 

 当然の事ではあるが、敵艦がこちらを補足したと同じくミネルバでもアリスタルコスの存在を捉えていた。

 

 「前方、テタルトス軍プレイアデス級とリゲルです!!」

 

 「ここにプレイアデス級!?」

 

 アーサーが驚くのも無理は無い。

 赤いモビルスーツの探索を開始した途端であり、あまりにも都合が良すぎたからだ。

 まるでこちらがテタルトスと遭遇する事を意図していたかのようなタイミングで―――

 

 「いえ、考えるのは後ね。向こうが攻撃体勢をとっている以上、こちらも黙っている訳にはいかないわ。アレンとルナマリアを出撃させて! 対艦、対モビルスーツ戦闘用意!」

 

 「「了解!!」」

 

 事前に準備を整えていたエクリプスとインパルスの二機が出撃し、迫るリゲルを迎え撃つ為に前面に出る。

 

 「ルナマリア、ミネルバから離れすぎるなよ」

 

 「ええ、分かってます!」

 

 アレンはビームライフル構え、接近してくる敵の機体を観察する。

 リゲルはその高い汎用性もさる事ながら、最も脅威となるのがモビルアーマー形態の加速力と機動性である。 

 その速度を持っての連携はまさに脅威だ。

 今回のように味方の数が少ない場合は特にである。

 

 「なら囲まれる前に!」

 

 背中のバロールを前に出し、散弾に切り替え一糸乱れぬ動きで突っ込んできたリゲルに向けて撃ち出した。

 砲弾が途中で弾け、リゲルに直撃するが散弾では大したダメージも与えられず、僅かに体勢を崩しただけに終わってしまう。

 だがそれこそがアレンの狙いであった。

 

 「ルナマリア!」

 

 「了解! 好きにはさせないわよ!!」 

 

 ブラストシルエットを装備したインパルスが前に出るとメイン武装であるケルベロスを発射する。

 野太い強力なビームがバランスを崩したリゲルを呑み込み消し飛ばすと、敵の隊列の乱れを見逃さず、エクリプスがビームライフルを撃ち込んでいく。

 

 「そこ!」

 

 ライフルの一射がリゲルの右腕を吹き飛ばし、さらに背中のフォーゲルコンバットを損傷させる。

 その隙に肉薄し、ビームサーベルを横薙ぎに払った。

 斬撃が容赦なくリゲルの腹部を抉りパイロットごと撃墜する。

 それを見たリゲルが仲間の仇を討とうとロングビームサーベルを抜いて斬り込んで来る。

 

 「迂闊だ!」

 

 袈裟懸けに振るわれた一撃がエクリプスを捉える前にリゲルの胴体に蹴りを入れ、ビームライフルでコックピットを撃ち抜いた。

 しかしそれでも彼らは揺るがない。

 味方機の撃墜によって崩された連携を即座に建て直し、再び隊列を組んで襲い掛かってきた。

 

 「錬度が高い。流石に簡単にはいかないか」

 

 機体も改修されているのかアレンが知っているよりも性能が上、さらにパイロット達の錬度も高く侮れない。

 エクリプスがライフルを構え直し再び攻勢に出ようとした時、敵艦後方から新たな機体が戦場へ現れた。

 それはかつて最強の男が搭乗し、ユニウス戦役終盤においては量産され猛威を振るったモビルスーツ。

 

 LFA-05R1 『シリウス・ラファーガ』

 

 エースパイロット用の機体として量産されたシリウスを『リローデット計画』に沿って改修したもので各部スラスターを増設、操作性を考慮しながらも性能を高めた機体である。

 これらの機体を任されているのが『テンペスターズ』と呼ばれる三人のエースパイロット達であり、癖はあるがいずれも優れた技量を持つ、歴戦の猛者である。

 

 「へぇ、あいつらやるじゃん」

 

 「ええ、強敵です。計算通りに動いてくださいね」

 

 「お前はいつも細かいんだよ、ヴィクトル」

 

 「貴方が大雑把なだけですよ、ルーカス」

 

 ルーカス・レイノルズは何時ものように軽口を叩き、ヴィクトル・シアーズが冷静に釘を刺す。

 全く性格の違う二人は一見して仲が悪そうにも思えるがこう見えて連携も完璧である。

 正反対であるからこそ、うまく噛み合ったという例だろう。

 そんな癖の強い二人を纏めているのが『テンペスターズ』のリーダー格であるジョナサン・プロバートだった。

 

 「二人ともその辺にしておけ。相手はザフトのエースだ、油断するな」

 

 「はいよ!」

 

 「分かっています」

 

 ジョナサンが二人を窘めると、リゲルを屠っている二機のガンダムを鋭い視線で観察する。

 

 「インパルスとエクリプスか」

 

 ユニウス戦役時、ミネルバと共に世界を転戦し、勇名をはせたザフトの機体である。

 噂に違わぬというべきか二機ともパイロットはエース級であり、一対一ではリゲルに勝ち目はあるまい。

 それはリゲルの性能が劣っているという訳ではなく、それだけ相手が強敵という事であろう。

 冷静に相手の力量を測り標的を定めたジョナサンはビームライフルを構えた。

 

 「まずはエクリプスだ。奴を落とすぞ」

 

 「「了解!!」」

 

 戦場で中心になっているのは間違いなくエクリプスの方であり、奴を落とせば戦局は一気にこちら側に有利になる。

 そう判断した三機のシリウスは連携を組みつつ、リゲルを容易く落としたエクリプスへと突撃する。

 

 「シリウスの改修機か!?」

 

 エクリプスは割り込んできたシリウスからのビーム攻撃をシールドで防御しながらビームライフルを撃ち返す。

 しかし三機は外側に弾けるように飛び退きビームの射線から逃れ、別方向から攻撃を叩き込んでくる。

 

 「チッ、速い! しかも正確な射撃!」

 

 しかも完璧な連携を取っているだけに厄介だった。

 ここまでの連携をとった敵と戦うのは『ヤキン・ドゥーエ戦役』で交戦した『砂漠の虎』率いる部隊以来かもしれない。

 

 「あの時も苦労させられたな」

 

 思わず昔を思い出し苦笑しながら、エクリプスの周囲を旋回している敵機を慎重に見極める。

 あれほどの連携を取るエース級のパイロット達だ。

 まずはあの連携を崩すべきと判断したアレンはシリウスから放たれた槍のように鋭い三条のビームを回避しながら反撃を試みる。

 しかしそれはジョナサン達にとってすでに予測済みの行動であった。

 

 「ヴィクトル!」

 

 「計算通りですね!」

 

 ビームから逃れる事を予測していたヴィクトルのハンドガンランチャーが火を噴き、エクリプスに襲い掛かった。

 

 「ッ!?」

 

 連射された砲弾がエクリプスの眼前に迫る。

 アレンは咄嗟に機関砲を発射しながら砲弾を撃墜すると機体を捻り、残ったガンランチャーの砲撃を避け切った。

 

 「何!?」

 

 「落ちろ!」

 

 そのままシリウスの方に向き直り、サーベラスを引き出してトリガーを引く。

 だが流石というべきか、発射されたビーム砲の一撃は敵機を掠めるだけに留まり、致命傷には至らない。

 

 「避けたか」

 

 「このパイロットは……」

 

 驚いていたのは攻撃を外したアレンではなく避けたはずのヴィクトルであった。

 完璧なタイミングであったにも関わらず、掠める事もできず、さらに反撃まで加えてくるとは―――

 

 「どうやら計算以上のようですね」

 

 「マジでやるじゃないかよ。ならこれでどうだ!!」

 

 下方向に回り込んでいたルーカスと反対側にいるヴィクトルが上下から挟み込む形でシリウスの腹部から強力な一撃を叩き込む。

 

 シリウスの最大武装である複列位相エネルギー砲『ヒュドラ』だ。

 

 地球軍のモビルスーツに搭載されている複列位相エネルギー砲『スキュラ』を改良したこの武装は核動力機専用に開発されただけあって燃費の悪くバッテリー機と相性が悪いという欠点がある。

 しかしその威力は折り紙付きである。

 アレの直撃を受ければ戦艦の装甲だろうと、簡単に貫通する。

 モビルスーツなど言わずもがなだ。

 

 「この程度!」

 

 エクリプスはシールドを投擲し下方から発射されたヒュドラにぶつけて射線を逸らすと、上方からの一撃を左に避けて逃れてみせる。

 

 「避けた!?」

 

 「こいつ!?」

 

 「はああああ!!」

 

 アレンはフットペダルを思いっきり踏み込み、ヴィクトルの方へ突進するとビームサーベルを抜き放つ。

 光刃が綺麗な半円の軌跡を描き、シリウスのハンドガンランチャーを切り飛ばした。

 

 「ぐっ」

 

 「このまま―――ッ!?」

 

 そのまますれ違い様にヴィクトル機を押し込もうとするが、回り込んでいたジョナサンがサーベルを上段から振り下ろしてきた。

 

 「ここまでやるとはな!」

 

 「しつこい!」

 

 突き出した腕から展開したソリドゥス・フルゴールビームシールドがビームサーベルを防御する。

 このソリドゥス・フルゴールビームシールドはバッテリー機でも使用可能な様に改良されてはいるが、それでも長時間展開するのは厳しい。

 だから極力使用を控えていたのだが、この三機の連携を前に使わされてしまった。

 

 「ビームシールドを使わされるとは!」

 

 「やる! だがそれもここまでだ!」

 

 ジョナサンはもう片方の手で抜いたビームサーベルを下段から斬り上げてきた。

 狙いはこちらの首。

 メインカメラを潰す魂胆だろう。

 

 「まだ!」

 

 アレンは右足を蹴り上げ、サーベルを握る腕に直撃させ剣閃を僅かに逸らす。

 光刃はそれ装甲に傷がついたものの、致命傷を避ける事に成功した。

 

 「足掻くか!」

 

 「舐めるな!!」

 

 さらに連撃を加えてこようとするシリウスに切り離したエクリプスシルエットをぶつけて吹き飛ばすと通信機に向けて声を上げた。

 

 「ミネルバ、ソードシルエット!! ルナマリア!!」

 

 《了解!》

 

 「了解!」

 

 こちらの意図を理解したルナマリアは迷いなく動き出した。

 長年一緒に戦ってきた信頼故に戸惑う事もない。

 アレンは敵艦と激しい砲撃戦を繰り返すミネルバから射出されたシルエットグライダーの方へと飛び出した。

 

 「装備換装などさせるかよ、ヴィクトル!」

 

 「言われなくとも」

 

 シルエットグライダーを落とそうとヴィクトル達が動く。

 だがそれを阻むように別方向からのミサイルが降り注いだ。

 

 「これは!?」

 

 「インパルスか!?」

 

 リゲルにビームジャベリンを突き刺したインパルスがエクリプスを援護する為、ミサイルを発射したのだ。

 

 「ルナマリア、ナイスだ!」

 

 「当然です!」

 

 アレンは運ばれてきたソードシルエットを背中に装着すると間を置かずエクスカリバーを振り下ろす。

 叩きつけられた対艦刀の強烈な一撃がシリウスの構えたシールドの上から猛威を振るう。

 

 「クッ!」

 

 受けるには不利。

 即座にそう判断したジョナサンは距離を取ろうとするが、エクリプスは逃がさないとばかりに離れない。

 

 「調子に乗るな!!」

 

 ジョナサンを援護すべく反対側からルーカスがビームサーベルで斬り込んでくる。

 だがそれはアレンに言わせれば迂闊としか言いようがない失態だった。

 

 「わざわざ突っ込んで来てくれるとはな」

 

 エクリプスはビームブーメランを逆手で抜き、後ろに向けて振り払うとシリウスの右腕を斬り裂いた。

 

 「なんだと!?」

 

 予想外の反撃を受けたまらず後退するシリウスにそのままビームブーメランを投げつける。

 

 「チッ!」

 

 「ルーカス!?」

 

 「くそ、大したことねぇよ! ていうかブーメランは初めから投げろっての!!」

 

 投げつけられたブーメランをビーム砲で破壊したシリウスは味方の援護を受けつつ後退する。

 

 「……ここまでか」

 

 ジョナサンは冷静に状況を把握する。

 機体に残されたバッテリー残量から見ても、これ以上の戦闘は難しい。

 

 そして撤退する理由がもう一つ。

 

 戦艦同士の砲撃戦も大詰めを迎えていたからだ。

 

 

 

 

 ミネルバとアリスタルコス。群がるデブリを、砲撃を避け、いつの間にか正面から向き合っていた二艦は互いに陽電子砲の発射体勢になっていた。

 

 「撃てェェェェ!!」

 

 「てェェェェェ!!」

 

 奇しくも全く同じタイミングで発射された砲撃が正面からぶつかり合い、周囲に衝撃波を撒き散らした。

 そのまま二艦は砲撃を撃ち合いながらすれ違う。

 砲撃の振動に震えるブリッジでヴィルフリートは拳を握り締めながら、目の前の戦艦を睨みつける。

 

 「こうまで手こずるとは! 急速反転! 『テンペスタ―ズ』は?」

 

 「敵モビルスーツと交戦中です」

 

 その報告に怒りに任せて手摺を殴りつけた。

 

 「何をしている! それでも我が軍のエースか!! もういい、俺の機体を―――」

 

 用意しろと続けようとしたヴィルフリートの声を遮るように、通信が入ってきた。

 

 「少佐、本国から命令です。すぐに帰還せよと」

 

 「何だと!? 誰からの命令だ?」

 

 「ゲオルク・ヴェルンシュタイン閣下からの命令です」

 

 告げられた名前にヴィルフリートは一瞬だけ目を見開くが、すぐに歯軋りしながら怒りを堪え絞り出すような声で命令を下した。

 

 「……退くぞ。全機に後退命令を出せ」

 

 「り、了解」

 

 アリスタルコスから撤退信号が発射され、それを見たリゲルとシリウスが敵を牽制しながら離脱を図る。

 

 「この借りは必ず返すぞ、ミネルバ」

 

 ヴィルフリートは雪辱を誓い、ミネルバの姿を目に焼き付けると屈辱を押さえ込み、正面を向いた。

 

 

 

 

 テタルトス軍事ステーション『イクシオン』

 『イクシオン』と呼ばれる軍事ステーションは月防衛の為、テタルトス建国と同時に建造されたものである。

 この軍事ステーションこそ、現在テタルトス防衛の中心になっていた。

 本来であれば巨大戦艦『アポカリプス』がその中心であるのだが、そこには事情がある。

 『アポカリプス』はユニウス戦役終盤において大きく傷つき、奪取された為に止むえず主砲を自らの手で破壊する事になった。

 戦闘力が十分に発揮できず、さらには修復作業を進める必要があると、今は後方に下げられた状態になっている。

 さらに色々な事情から最低限の修復のみに留められ、現在においても主砲の修復には至っていない。

 それでも武の象徴としての存在感は揺らいではいない。

 だからこそ後方に下げられながらも、テタルトス軍の要として運用され続けているのだが、敵陣のアポカリプスに対する畏怖は確実に薄れていた。

 巨体さ故に戦場へは赴けず、軍の司令部としての機能も万全ではない。

 その為にここ『イクシオン』が司令部として運用されているのである。

 そして今、『イクシオン』内部に設置された指令室に一人の青年が呼び出されていた。

 

 「……失礼します。お呼びでしょうか?」

 

 司令室に入った青年の前に飛び込んできたのは、淡々と作業を進める屈強な男であった。

 

 「来たか」

 

 部屋の中央に座る男こそ、現在テタルトスで最も力を持つ人物ゲオルク・ヴェルンシュタインである。

 政治家としては勿論、軍人としても優秀であり、彼を信奉する者達も多く存在しているほど。

 その真意こそ図りかねているが、実力は呼び出された青年も認めていた。

 

 「どのような御用件でしょうか、ヴェルンシュタイン司令」

 

 「臨時司令の間違いだろう? 私はあくまでも代理にすぎんよ」

 

 今までテタルトス軍を率いていた軍事最高司令、『宇宙の守護者』と呼ばれたエドガー・ブランデルはアポカリプスを奪取された責任を取らされ今は謹慎処分となっている。

 その為に本来は政治家でありながらも、軍人経験を持っているゲオルク・ヴェルンシュタインに軍の臨時最高司令官の地位が与えられていた。

 

 「……失礼しました」

 

 「まあいい、本題に入ろう。まずお前は今日付けで中佐に昇進となる」

 

 それは彼にとって予想外の言葉だったのか、驚きの表情を浮かべる。しかし次に飛び出した言葉は、彼をさらに驚愕させた。

 

 「そしてこちらが重要だ。現在地球で激化しているヨーロッパ戦線の状況打開の為に新たな部隊を地球に降下させる。お前にはその作戦の指揮を執って貰いたい―――アスラン・ザラ中佐」

 

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