資源衛星『メークリウス』の完成記念式典。
世界に席巻する各勢力にとって無視できない重要な式典であり、各重役が顔を連ねていた。
完成した資源衛星内部に用意された会場は綺麗に飾られ、テーブルには一般人が一生お目に掛かれないような豪華な食事が並んでいる。
その周りには招待された重役たちは笑顔を浮かべワインを傾けながら、雑談に興じていた。
「いやいや、見事なものだ」
「ええ。予算を割いたかいもあったというものですよ」
「人類の新たな門出に立ち会えるとは光栄の至りです」
「次の選挙もこれで安泰ですな」
「ええ」
誰もが笑顔で和やかな雰囲気。
そんな彼らの姿をヴィルフリートは冷めた様子で眺めていた。
「俗物共が」
正直、嫌悪感が止まらない。
この中で何人の人間が危機感を抱いているだろうか。
『マクベイン・エクスキューター』の殲滅は未だ成ってはおらず、次の標的が自分達かもしれないというのに。
「結局は自分達の利益の事しか頭にないのだろうな」
こんな連中の為に部下が命を掛けねばならないとは。
しかし同時に彼らを単純に悪であると断じる事も出来ない。
此処で行われているのは政治的な駆け引きでもあるからだ。
とはいえうんざりしても仕方がない。
任務は任務だ。
「それにしても統合や同盟の有名どころが顔を出していないな」
これについては意外だった。
今日顔を見せないという事は政治的な弱みにもなりかねない。
にも関わらずカガリ・ユラ・アスハやアイラ・アルムフェルト、統合のトップであるクレメンス・イスラフィールと言った面々が顔を出していなかった。
あくまでヴィルフリートの知る人物がいないだけであり、各勢力ともに重鎮が派遣されている事は間違いないのだが。
まあ同盟は内部の混乱の噂が事実であるからかもしれない。
しかしイスラフィールについては何らかの思惑があるのではと勘ぐってしまう。
「クアドラード中佐、交代の時間です」
「ご苦労、外はどうだ?」
「静かなものですよ」
「油断するなよ、敵は必ず来る」
「ハッ!」
会場警備を交代したヴィルフリートは会場を一瞥すると今度は外の警備に回る為、格納庫の方へ歩いて行った。
◇
各勢力の部隊が『メークリウス』襲撃を警戒している今日、『マクベイン・エクスキューター』が動き出そうとしていた。
すでに各ポイントには部隊が密かに配置され、いつでも動けるように待機している。
そんな中、この作戦の指揮を任されたルドラは戦艦の一室にて端末に映る自身の機体のデータを眺めながら、笑みを浮かべた。
「まさかグロンルンドが協力を申し出るとはな」
ヴェクト・グロンルンド。
ルドラから見ても唾棄すべき、マッドサイエンティスト。
己の研究にしか興味がないあの男がまさか自ら協力を申し出るとは思わなかった。
正直、手を借りるなどまっぴらではあったが、あの男の頭脳は本物。
利用できるならするべきである。
まあ色々条件を出されはしたが、それも許容範囲内だ。
「ルドラ、正直ヴェクト・グロンルンドと懇意にするのは感心しないわ。彼の傍にはあの男も居る。今回の件を持ちかけてきたのもあの男でしょう?」
対面のソファーに座るシルヴィアがサルワを膝枕しながら、不満そうにルドラを睨んでいる。
シルヴィアからすればヴェクトは自分の体をグチャグチャに弄り回した男。
いつも「今度顔を見たら殺してやる」と息巻いているくらいには憎んでいる。
そんなヴェクトの協力など到底受け入れられないというのが彼女の心情だろう。
ましてやあの男―――カースと繋がっているのならば尚の事。
「気持ちは分かるがあの男の頭脳は使える。現に機体の強化も完了し、遅れていた専用機の開発も進んだ」
「それは分かっていますが」
「心配する事はないよ、シルヴィア。私達が君に手出しはさせない。ねぇ、ルドラ」
「無論だ。奴はいずれ始末する」
厳しい表情を浮かべていたルドラはそこで珍しくからかうように笑みを浮かべる。
「だが、弟の見せ場を奪うのもな。恋人の前なんだ、格好つけたいものだろう?」
「ルドラ!」
「ふふふ」
普段の彼らしか知らぬ者が見れば目を疑う光景である。
常にピリピリとした雰囲気を醸し出しているルドラが、穏やかな笑みを浮かべ冗談を言ったのだから。
それはサルワやシルヴィアとて同じ。
しかしこれが彼らの本当の顔であり、長い間共に過ごした者同士だからこそ出せる素顔だった。
「そういえば奴が珍しく憤慨していた」
「いつも周りを小馬鹿にしているあの男が?」
「ああ。どうやらアオイ・ミナトと派手に揉めたようだ」
「アオイ・ミナト、同盟のパイロットね」
「ああ。ルシア・フラガを実験体に使おうとして阻止されたらしい」
ルシア・フラガの名にシルヴィアが顔を曇らせた。
彼女からしたらルシア、いやフラガ家はヴェクト・グロンルンド以上の因縁がある。
平静ではいられないのも無理はない。
「ルドラはアオイ・ミナトと戦ったんだよね、どうだった?」
「手強いな。ナチュラルとはいえ歴戦の勇士だけはある、実力は間違いなく本物、大した腕前だった」
この発言にサルワは少なからず驚いた。
ルドラは冷静に敵の分析する事はあっても、基本的に敵を褒めはしない。
味方に弱気と取られかねないからだ。
にも関わらず敵へを認める発言をするとはアオイ・ミナトはそれほどの相手だったという事だ。
「次は本気で落としにいく。グロンルンドからのオーダーにもそれが含まれているからな。もしも奴に遭遇する事があったらお前達も注意しろ」
「一番危険な役目の貴方に言われたくはないですけど」
「危険なのは皆、同じだ。今回の作戦が『マクベイン・エクスキューター』の存在を世界に刻みつける機会となるだろう」
穏やかな雰囲気から一転、ルドラはどこまでも残酷で冷酷な笑みを浮かべる。
後の歴史において『メークリウス事件』と呼ばれる惨劇の幕が上がろうとしていた。
◇
カースから『マクベイン・エクスキューター』の情報を入手したウリエル。
ディスクの内容はあの正体不明機の詳細、そして今後の動きに関するものだった。
『メークリウス』完成記念式典に対する襲撃が彼らの次の目標。
情報源の不安はある故に鵜呑みにする事は出来なかったが、予想通りの行動である。
ウリエルはこの襲撃に備え、メークリウス周辺の防衛という新たな命令が下されていた。
アオイもこの後に始まる哨戒任務に備えMk-Ⅱのコックピットで調整作業に追われている。
特に問題となっているのは背中の特殊装備であるウイングスの機動性能とMk-Ⅱ本体との間で反応にズレが生じている事。
元々ウイングスは最新鋭機に搭載されるスラスターユニットのプロトタイプに由来する装備だ。
Mk-Ⅱを無理やり改良したとはいえ旧型機との間に齟齬が生じるのはある意味で仕方ない。
幸いW.S.システムの補正で誤魔化せる程度のもの。
だからこそ入念なチェックが必要だった。
そんな中、アオイはある別の問題に頭を抱えていた。
「中尉、火器管制のチェックは終了したわ」
「……ありがとうございます、大佐」
アオイのすぐ横には仮面を外したネオ―――つまりルシアが座っていた。
問題というのはこのルシアの事だ。
先の一件で駆け付けてきた護衛役のウリエルのクルーにネオの素顔と性別がバレてしまったのである。
勿論スウェンを始めとした元改革派の面々で知っている者は何人かいた。
しかし大半のクルー達はそれを知らずにいた訳で。
つまり大騒ぎになってしまった。
その鎮静化の為にウリエル艦内では仮面を被る事を止め、素顔で過ごす事になったのだ。
「やっぱり視線を感じるわね」
「仕方ないですよ、知らない人間が大半だったんですから」
メカニックマンたちの視線が痛い。
そりゃこんな狭いコックピット内で若い男女が一緒になっていれば睨まれもする。
「まあ、それも今だけですって。皆、すぐに慣れます。それよりブリッジに居なくていいんですか?」
「ブリッジも落ち着かないの。早速口説いてきた奴もいたし」
「……そんな勇者がいたんですか」
誰とはあえて聞くまい。
というか幾らなんでも早すぎるだろう。
アオイは呆れ半分、関心半分に聞いているとルシアは真面目な表情で顔を近づけてきた。
「た、大佐?」
「中尉、あの男、ヴェクト・グロンルンドには気を付けて。あの男、貴方を殺す為に何か仕掛けてくるわ」
最後に見たヴェクトの表情はアオイに―――いや、才能の無い者に対する憎悪に満ちていた。
ハッキリ言って傍迷惑という言葉以外何も出てこないのだが、確かに何かを仕掛けてくるのは間違いない。
警戒するに越したことは無いが、それはルシアにも言える事だ。
「気を付けるのは大佐だって同じですよ。奴の狙いは貴方なんですから」
「そうね」
「それに気を付ける必要があるのはヴェクトだけじゃなくカースもですよ。奴が何を目的にしているかは不明ですから」
カースの名にルシアはあからさまに思い悩むような表情を浮かべた。
敵とはいえ彼女にとってカースは数少ない血のつながりをもつ肉親である。
複雑な気持ちになるのも仕方がないが、油断する訳にはいかない。
「大佐、今後カースが接触してきた場合、単独で動く事は絶対にしないでください。奴は危険です」
「ええ、分かっているわ。私だってあんな男の研究の実験台になんてなるつもりはない。ましてや実験の為に子供を産めだなんて」
「……子供か」
そういえば奴がその事について洩らしていた。
考えたくない話だが、おそらく前に実験体にされた女性がいたのだろう。
奴の言動から考えても多くの人が実験台にされた事は間違いない。
報告はすでに済ませているが『マクベイン・エクスキューター』の件が一段落したら、そちらも調査についても上申した方が良いかもしれない。
「さて調整は終わり。そちらはどうです?」
「こっちも終了よ」
ルシアが手伝ってくれたおかげで、早めに終わった。
この後すぐに照会任務が待っている。
アオイがコックピットを出ようとシートから腰を浮かせた瞬間、ルシアに手を掴まれた。
「大佐?」
「中尉、その、変な事を聞くけど……もしも、仮に私がグロンルンドに捕まったら助けてくれる?」
「当たり前です。それに大佐は俺がきちんと守ってみせます」
少し頬を赤くしてホッとしたような様子のルシアにアオイはちょっとムッとしてしまった。
そんなに薄情な人間だと思われているのだろうか。
だとしたらショックだ。
「大佐、さっきの話を聞いてましたか? 捕まるかもしれない迂闊な行動はしないでくださいよ」
「分ってる、分かってる」
本当に分かっているのだろうか。
後でスウェンにも言っておいた方が良いかもしれない。
ただ嬉しそうに笑うルシアを見ていたら、そんな苦労も悪くないと思ってしまった。
◇
『メークリウス』完成記念式典当日。
『マクベイン・エクスキューター』による襲撃計画の情報はすでに各勢力に通達され、周囲には厳重な防衛網が敷かれている。
その警備に配置されたウリエルは『メークリウス』の周辺で警戒活動を続けていた。
「警戒と言われても、こんな離れた位置じゃ」
「贅沢言わないの。警備に参加出来ただけでも御の字だったんだから」
オペレーター達の愚痴を危機ながらヨハンは思わず苦笑してしまった。
ウリエルの立場は未だに何も変わっていない。
いや、以前より上の目は厳しくなったと言っても過言ではない。
前回の作戦でも碌に成果も出せず、さらに修復の為に寄った商工連合コロニー内での揉め事まで起こした。
上層部はそんなウリエルを完全に厄介者として見始めているようで、今回も直接的な防衛からは外され、周囲の哨戒任務に就くのが精々。
警備に参加できたのも司令であるイザークも粘ってくれたお陰だった。
「無駄話はその辺にして。それよりモビルスーツ隊の方は?」
「ミナト機、敵と思われる機体と遭遇! 迎撃態勢に入りました!!」
「ふむ、これで3度目……陽動か」
哨戒に出ていたモビルスーツ隊はこれまで散発的に敵と遭遇している。
しかし、いまいち目的が見えてこない。
防衛網を突破しようとする割に数も少なく、勢いもない。
「戦力を分散させるのが目的なんじゃ」
「それならもっと派手に攻める必要がある。これじゃ逆効果だよ」
敵の攻撃によりメークリウスの防衛戦力は集結し、より強固なものとなっている。
この状況では奇襲する事すらままならないだろう。
「それに戦力の分散は式典に参加するお偉方が許さないさ」
「確かに。じゃあ敵の目的は何なんでしょうか?」
「さて。もしかすると、とんでもない隠し玉があるのかもしれない」
険しい表情のヨハンが見つめる先。
ウリエルの前方では哨戒に当たっているアオイ達が敵部隊と交戦していた。
「中尉、下から来るぞ」
「ッ!」
スウェンの言葉に即座に反応したアオイはスラスターを使って機体を敵正面に向ける。
その間に距離を詰めてきたウィンダムはビームサーベルを振りかぶってきた。
「この!」
敵の斬撃を紙一重で躱し、腰から引き抜いたサーベルで胴を薙ぐ。
腹を裂かれた敵モビルスーツは成す術なく爆散。
さらに迫ってきた敵をルシアがビームライフルで追い散らした。
「次から次へと」
「だが敵の新型は一向に現れん。しかも散発的に攻撃を仕掛けてくる割に敵からの圧力がない」
「明らかに陽動ね。敵の本命がある筈だけど」
「ッ、また来ます!」
三機が散開し、攻撃を回避すると連携しながら敵機を迎撃する。
「こいつら上手い!」
「旧型の機体をカスタムしてるんでしょうけど、動きも良い」
「ただの傭兵と侮れないな」
三人が相対しているのは型落ちであるウィンダムだ。
しかしルシアの指摘通り改良を加えているのか、イリアスにも劣らない動きを見せている。
さらに搭乗しているパイロットの腕も悪くない。
「邪魔だ!」
ルシアのドラグーンによる援護を受けながら、敵の懐に飛び込んだアオイは至近距離からビームライフルを叩き込む。
避けきれず被弾したウィンダムをスウェンのビームライフルショーティーが撃ち抜いた。
敵の攻撃を捌きながらアオイは視線を巡らせ、周囲を見渡すがあの紅いリグ・シグルドは姿を見せない。
今回の件に限って出てこないなんて事はあるまい。
「どこだ、どこに居る?」
順調に敵を迎撃している筈なのに、敵の目的が見えず焦りが募っていく。
「今度は上からだ!」
「また来る!?」
再び襲ってくる敵モビルスーツ。
その中に他を無視し一直線にスウェン機へと向かってくる機体がいた。
「アハハハハ!! 見つけたぜぇ、スウェン!!」
「アルド・レランダー!」
ベテルギウスに体当たりされたAAAは部隊から大きく離されてしまう。
「大尉!?」
「構うな、こいつは俺が仕留める」
蹴りを入れてベテルギウスを引き離し、両手にビームライフルショーティーを構える。
「そうこなくっちゃな! エレボスの時は消化不良だったからなぁ! 今度はとことんやり合おうぜ!!」
「戦闘狂め」
「中尉、アレはスウェンに任せて! 来るわよ!」
スウェンとアルドが激しい戦闘を開始したと同時にリグ・シグルドが攻撃を仕掛けてきた。
「こいつらが居るって事はやっぱりメークリウスが本命か!」
次々に襲い掛かるビームカッターの一撃。
急所を狙って放たれる攻撃をアオイは巧みにスラスターを操り、紙一重のタイミングで躱していく。
しかしそんなイレイズを狙ってビーム砲が発射された。
「ッ、複列位相砲!?」
アオイは機体を半回転させ、ウイングスの翼で弾くように複列位相砲を受け止めた。
「アレは……SEED持ちの!?」
「貴様らを今日こそ倒す!」
攻撃を仕掛けてきたのはクロムの駆るシグルド・グラーフである。
すでにSEEDを発動させているのか、非常に高い精度で砲撃を撃ち込んできた。
「大佐は他の敵をお願いします!」
雑魚はルシアに任せ、向かってくるシグルド・グラーフの方へ突撃する。
「うおおおおお!!」
「ハアアアアア!!」
シールド同士が激突し、同時に繰り出された斬撃が互いの機体に傷をつける。
「目障りな翼を斬り裂いてやるよ!」
背中から放出されたドラグーンがゲシュマイディッヒパンツァーを展開しつつ、砲撃を開始。
クロムはビームを反射するかの如く巧妙に歪曲させ、動き回るイレイズの逃げ場を奪っていく。
「鬱陶しい!」
イレイズの回避先に向け歪曲されてくる為に避けにくく、さらに普通に網の目のように張り巡らせたビームを織り交ぜてくるのが厄介極まりない。
それでもアオイが五体満足でいられたのはウイングスの機動性のお陰である。
高機動が可能なウイングスで無ければとっくに機体はボロボロにされていただろう。
「いつまでも逃げ回れると思うなよ!」
「逃げ回るつもりはない!」
アオイはイーゲルシュテルンをドラグーンに向けて発射する。
当然、ドラグーン自体にもPS装甲が使われている為に実体弾による攻撃は通用しない。
しかし破壊する事は出来ずとも、その動きを阻害する事は十分にできる。
それによって攻撃を回避するスペースを作り出す事に成功した。
「そんな事で逃げ切ったつもりか!」
「そう来ると思ってた!!」
空いたスペースに飛び込んだアオイは狙い通りに動くドラグーン目掛けて高エネルギー収束ライフルのトリガーを引く。
発射された砲撃が数機のドラグーンを巻き込み、シグルド・グラーフの装甲を剥ぎ取っていく。
「貴様!」
「今のタイミングで避ける!? 流石としか言いようがないな!」
完璧に捉えた筈にも関わらず、クロムは圧倒的な反応速度で機体を逸らし、致命傷を避けたのである。
「天使モドキが!」
クロムは怒りに身を燃やしながら、さらに意識を集中させ感覚の深度を増していく。
油断はせず。
慢心もせず。
敵の動きを注視する。
そうだ、この時の為に自分は力を蓄えてきた筈だ。
敗北した日から今日まで積み重ねてきた訓練を思い出し、SEEDによって広がった感覚をさらに鋭くする。
そして―――
「そこだァァ!」
「ッ!?」
シグルド・グラーフの一撃がイレイズの肩部を掠め、さらに撃ち込んだライフルが腰の装甲を破壊する。
「グッ、さらに精度を増してきた!?」
「見える、見えるぞ! 貴様の動きが見える!!」
急激に増した射撃精度がイレイズの動きを捉え始める。
「こいつ!」
「さっさと落ちろ!」
「簡単に落ちるものかよ!」
スラスターの出力を限界まで上げ、さらに速度を上げるイレイズ。
それを追うシグルド・グラーフとの間で起こる凄まじい斬り合い。
「「オオオオオオ!!」」
容赦の無い斬撃が装甲に傷を刻んでいく。
そして決着の時は来る。
「今だ!」
アオイは敵のサーベルをわざとシールドに食い込ませ動きを封じ、同時に収束ライフルのカートリッジを投げつけた。
「ッ!」
SEEDを発現させたクロムは即座に反応し、カートリッジを破壊する。
それこそがアオイの狙いだった。
「その反応の速さが命取りなんだよ!」
破壊されたカートリッジは炸裂し、シグルド・グラーフのメインカメラを一時的に動作不良にした。
「しまっ―――」
SEEDによる鋭敏な感覚。
その反応が条件反射的にカートリッジを撃ち抜いた事でメインカメラを焼いてしまったのだ。
アオイはその隙を見逃さず、距離を詰めて二刀のサーベルを振り抜く。
「ぐあああああ!!」
舞うような光刃の軌跡。
シグルド・グラーフは手足を破壊され胴体を真っ二つに斬り裂かれた。
だがあの土壇場で機体を動かし致命傷だけは避けている。
「あんな状態で致命傷を避けるなんて。だが此処で見逃す訳にはいかない!」
アオイがクロムの止めを刺そうとしたその時だった。
ついに事態は最悪の方向へと動き出す。
それが確認されたのはウリエルの後方―――つまり『メークリウス』方面からだった。
宇宙を照らす強烈な閃光。
それを一度見た者は誰であろうと忘れられないだろう。
「ま、まさか……」
「アレは……核か!?」
「メークリウスが狙われたのか? ウリエル!!」
当然その光を観測していたウリエルのブリッジも大騒ぎになっていた。
「落ち着け! 状況報告!」
「この熱量は核に間違いありません!」
「狙われたのは? メークリウスはどうなった?」
「メークリウスは健在! ただ防衛部隊からの応答なし! 混乱している模様!」
「メークリウスも防衛部隊も健在?」
思わず舌打ちしながらヨハンはこの状況に違和感を持った。
何故、核を直接メークリウスに撃ち込まないのか?
もしもの場合に備えて配置されていたニュートロンスタンピーダーを警戒したのかもしれないが。
それに防衛部隊も混乱はしていても無傷というのも気にかかる。
「一体、何が狙いなんだ?」
もう一度敵の狙いを見抜こうと宙域図を凝視する。
そこで妙な事に気が付く。
「防衛部隊とメークリウスが一直線に並んでいる?」
核が撃ち込まれたのはメークリウスの前方であり防衛部隊からも少し離れた位置だ。
防衛部隊はもう一度狙われないようバラバラに離脱し、今は再編成の為にメークリウス付近に集結している。
そこで唐突に嫌な考えが浮かんできた。
もしもこれこそが敵の狙いであったとしたら―――
「急いで防衛部隊に通信を―――」
だが時、既に遅し。
次の瞬間、宇宙を貫く閃光が走る。
それはメークリウスに直撃し、外宇宙へ至る希望の門は無残にも撃ち砕かれた。