機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第11話 星、流れ行く

 

 

 戦場から離れた月にある都市コペルニクス。

 

 そこに慣れない戦艦のブリッジから帰還を果たした二人の女性が見慣れた街並みに安堵の吐息を漏らす。

 

 「やっと戻ってきましたね、ヴィクトリアさん」

 

 そのうちの一人、セレネ・ディノは隣に立つヴィクトリア・ランゲルトに労いの言葉を掛けた。

 

 「お疲れさまでした」

 

 「いえ、セレネさんこそ。気遣っていただきありがとうごさいます」

 

 ヴィクトリアの笑顔に同じ女性でありながら、セレネは思わず見とれてしまった。

 

 女神のように美しい容姿から零れる笑み。

 

 大抵の男性はこれだけコロリといってしまう事間違いなしだろう。

 

 「それにしてもヴィクトリアさんは凄いですね。初めての戦場なのに全然緊張もしていなかったようですし」

 

 「そんな事はないですよ。私だって心臓がドキドキしてました。セレネさんが一緒でなければ、もっと取り乱していたと思います」

 

 「でも例の放送が流れた時もすぐに撤退を進言したりして、艦長からも高評価でしたよ」

 

 実際、ヴィクトリアは大したものだった。

 

 歴戦の戦士であるセレネからしても肝が据わっていたし、状況判断も的確で感心させられてしまった。

 

 「……あの放送を流したのはどんな人なんでしょうか?」

 

 「さあ。でも色々推測は流れていましたよね。『マクベイン・エクスキューター』の裏切り者とか、エレボスに残留していた統合軍の兵士だとか」

 

 どちらにしろ脱出できたとも思えないから、エレボスと運命を共にしたのだろう。

 

 そんな雑談を交えながら家の方へ歩いていると、公園で子供たちが遊んでいる姿が見えた。

 

 「あ~お母さんだぁ!!」

 

 「本当だ!」

 

 駆け寄ってくる子供たちにヴィクトリアとセレネは自然と笑みが浮かんでくる。

 

 そして後ろからゆっくり歩いてきたのはセレネの夫であるアスラン・ザラだ。

 

 その自然な歩みから義手、義足とはとても思えない。

 

 しかしこれも血の滲むリハビリのお陰によるものだ。

 

 それに日常生活に支障はないが、未だに体の不調は抜けておらず療養の日々が続いているのだ。

 

 「お帰り、セレネ。……ランゲルトさんも」

 

 「はい、只今戻りました」

 

 アスランがヴィクトリアとぎこちない挨拶を交わす。 

 

 彼は彼女に対して思うところがあるらしく、数年の付き合いになるにも関わらず未だに態度がよそよそしい。

 

 訳を問いただしたのだが、今は亡き彼女の弟であるヴァルター・ランゲルトを―――『統合戦争』最終決戦を思い出すからとの事。

 

 部下であった彼を守り切れなかった事を未だに悔いているらしい。

 

 それだけではないような気もするのだが、セレネはあえて聞かなかった。

 

 アスランの辛そうな表情をそれ以上、見たくはなかったから。

 

 「怪我とかはなかったか?」

 

 「ええ。私もヴィクトリアさんも大丈夫でした。それよりも子供たちの面倒を見て貰ってありがとうございます」

 

 「俺は本当に見ていただけだ。大体がヘルパーさん任せだったしな」

 

 「それでもですよ。さあ、とりあえず家に帰りましょう」

 

 子供たちと手を繋いで、家までの道のりを歩き出す。

 

 何処までも平和な光景であり、戦火の影など微塵もない。

 

 

 しかしこの後、この光景は崩れ去る。

 

 

 何故ならば地球と宇宙に住まうすべての場所が非常事態に陥る事になるのだから。

 

 

 

 

 突如として宇宙に轟いた衝撃。

 

 眩い閃光によって『メークリウス』は無残にも砕け散る。

 

 弾けた衛星は細かい破片となって、宇宙に舞う欠片として撒き散らされた。

 

 飛び散る岩は凶器だ。

 

 当たれば戦艦だろうが、モビルスーツだろうが、簡単に破壊されてしまう。

 

 その脅威は『メークリウス』から離れた位置にいたウリエルにも襲い掛かっていた。

 

 「回避! 当たるなよ、沈むぞ!」

 

 「大型の破片が接近!」

 

 「陽電子砲発射準備! 目標、大型破片! てぇ――!!」

 

 ウリエルの陽電子砲が発射され迫っていた大きな岩の破片を撃ち砕いた。

 

 細かい破片が散らばるが、十分迎撃可能な範囲に収まっている。

 

 「各砲座、接近してくる岩はすべて叩き落とせ! 味方の状況は?」

 

 「破片が多すぎて判別不能! 『メークリウス』防衛部隊の反応なし……おそらくあの光に巻き込まれたものと思われます」

 

 「通信で呼びかけ続けろ! 無事な者もいるかもしれない」

 

 「了解!」 

 

 ウリエルが飛び散る破片の対処に追われていた頃、哨戒任務についていたモビルスーツ隊も当然、その影響を受けていた。

 

 陣形は乱れ、それぞれ分断された形で敵の相手と破片の対応を強いられていた。  

 

 その中で特に追い詰められていたのはスウェンだった。

 

 「スラスターの一部が破損。レフトアームの動きも悪い」

 

 スウェンの機体は破片による直撃こそ避けたものの、掠めたスラスターと左腕が異常を示す状態となっていた。

 

 特に深刻なのは左腕。

 

 これではまともに狙いを付ける事も難しい。

 

 「逃げてばかりじゃ勝てないぜ!!」

 

 「くっ」  

 

 破片の隙間を縫うように動きながら、右手のビームライフルショーティーを撃ち込む。

 

 だがベテルギウスはまるで泳ぐ魚のように一切の淀みのない動きでビームと破片を避けていく。 

 

 まるでこの空間にあるすべての破片を把握しているかのように。

 

 「強化兵としての力か」

 

 ルシアやクロム程ではないにしろ、アルドはかなり高い空間認識力を持っているようだ。

 

 今の状態でベテルギウスを倒すには相応の覚悟と戦術が必要だろう。

 

 「よし!」

 

 脳裏に描いた戦術を実行する為、スウェンは即座に行動に移った。 

 

 「へぇ、何かしようって感じだな。いいぜぇ、存分にやれよ。それが楽しい足掻きなら大歓迎だ」 

 

 アルドの軽口を聞き流し、漂う破片にワイヤーを飛ばすと、巻き上げる反動を利用し、高速移動を開始する。

 

 スラスターが破損している所為か姿勢制御が難しいがそれを補うだけの技量は持っている。

 

 「お得意のワイヤーか! でもよ、何回も相手に見せるもんじゃないぜ!」 

 

 アルドはスウェンの動きを先読みするように破片をライフルで破壊し、AAAの動きを阻害し始めた。

 

 死角が多いとはいえこれでは迂闊に動けない。

 

 だがそれも構わず損傷覚悟でスウェンは破片の間を動き続ける。

 

 「逃げ場はないぜ!」

 

 ビームライフルが岩を砕き、AAAの装甲を吹き飛ばした。 

 

 「ぐっ、今のでバンランサーがイカれたか」

 

 「おらおら!!」

 

 いたぶるように発射されたビームが次々とAAAを削り、傷つけていく。 

 

 所々の装甲は剥がれ、フレームや機体内部が剥き出しの状態。

 

 これでは戦闘続行はほぼ不可能。

 

 もはやこの戦闘における結末は決定している。

 

 それでもスウェンの目は光を失わず、真っすぐに敵の姿だけを捉えていた。

 

 「そこ!」

 

 「ッ!?」

 

 残ったスラスターを絶妙なタイミングで操作、機体を傾ける事でコックピットへの直撃を回避する。

 

 しかし完全に避けきる事は出来ず、AAAの頭部は破壊されてしまった。

 

 「メインカメラが潰されたらどうにもならんだろうが!」

 

 「まだだ!」

 

 腕と背中からワイヤーを射出。

 

 片方でライフルを弾き、もう片方で背後から引き寄せた岩をベテルギウスに叩きつけた。

 

 「それがお前の策って訳か!」

 

 虚を突いた攻撃だったが驚異的な反応速度で反応したアラドは岩片を機関砲で破壊、AAAに向けて突進するとサーベルによる突きを放った。

 

 光刃がコックピットに迫る中、スウェンは動かずタイミングを計る。

 

 目を逸らさず、敵の動きのみに神経を集中させ、そして待ちわびた瞬間に左腕を突き出した。

 

 「何ッ!?」

 

 左腕は抉られながらも刃の向きを変え、致命傷を避けた。

 

 そしてベテルギウスの腕を掴むと同時にワイヤーを展開。

 

 逃げられないようにAAAの腕ごと固定するとビームライフルショーティーを至近距離から突き付ける。

 

 「この距離ならば逃げられまい!」

 

 「甘いぜ!」

 

 アルドは機体を僅かに逸らし、至近距離からのビームを避けて見せるとお返しとばかりに蹴りを入れた。

 

 胴体に蹴りの一撃を食らった事で残ったセンサー類が破壊され、AAAはさらに追い込まれてしまう。 

 

 「終わりだなぁ、スウェン!!」

 

 「まだだ!!」

 

 スラスターを噴射。

 

 組み付いた状態で無理やり機体を振り回す。

 

 そして一瞬の隙を突き斬艦刀を叩きつけ、ベテルギウスの右腕を斬り落とした。

 

 しかしスウェンの反撃もそこまで。

 

 右腕を失ってもベテルギウスの戦闘能力は健在であり、構えたサーベルを避ける余力も残っていない。

 

 スウェンは動く部分を総動員し、無理やり機体の背を晒すと、背中の装備『ジラント』を切り離した。

 

 サーベルが突き刺さった『ジラント』に残った武装を撃ち込み破壊、爆発が二機を包み込んだ。

 

 「ぐぅぅぅ、やってくれやがった」

 

 煙が晴れた頃にはスウェンのAAAの姿は無く、バラバラに破壊された残骸だけが周囲に漂っていた。

 

 「逃げたか。まあいい、あの損傷では奴もただでは済まなかった筈。今回の勝負は俺の勝ちだな、スウェン。次も楽しみにしてるぜ」

 

 アルドは残骸を見つめながら次なる戦いを夢想しつつ、満足気な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 クロムとの戦いを切り抜けたアオイは新たな敵と遭遇していた。

 

 破壊されたシグルド・グラーフを庇うように立つのは紅と蒼のリグ・シグルド。

 

 駆るのは仮面の男ルドラ・アシュラ、そしてサルワ・アシュラ。

 

 互いに一歩も引かないとばかりにサーベルを構えて睨み合う。

 

 「クロムを倒すとはな。流石と言っておくか、アオイ・ミナト」

 

 「あの時の男! それにもう一機」

 

 「サルワ、お前はクロムを回収して下がれ。こいつは私の獲物だ」  

 

 「了解、すぐに戻る」

 

 「その前に仕留めてやるさ」

 

 サルワの機体は大破したシグルド・グラーフを掴むとそのまま下がっていく。

 

 それをアオイは黙って見守る。

 

 本音を言えばここで仕留めたかった。

 

 クロムはそれだけの強敵なのだ。    

 

 しかしそれをすればルドラが隙をついて攻撃を仕掛けてきただろう。

 

 「バッテリーにはまだ余裕があるけど……」

 

 「余裕じゃないか。てっきりクロムを仕留める為に動くと思っていたんだがな」

 

 「目の前に敵がいるのに、目移りしたら失礼だろう?」

 

 「なるほど、では先の決着をつけさせてもらおう! 今度は全力で貴様を倒す!!」

 

 ライフルを発射しながら突撃してくるリグ・シグルドをアオイもまたライフルを構えて迎撃。

 

 だがアオイの予想に反し、ルドラは容易く射線から逃れると伸ばしたビームカッターを振り抜いてくる。

 

 「ッ、この反応!?」

 

 上方へ飛び、カッターを避けると再びライフルを撃ち込んだ。

 

 だがそれすらも掠める事無く、空を切る。

 

 これらの反応はエレボスの戦闘とは段違いだった。

 

 「やっぱり、これは!?」

 

 「どうした動きが鈍いぞ!」

 

 素早く回り込んだリグ・シグルドはビームクロウでイレイズの片足を奪い、立て続けの一太刀が片翼を貫通する。

 

 「ぐっ、この!」

 

 シールドで突き飛ばし、ビームライフルを連射するが、それもすり抜けるように回避してゆく。

 

 間違いない。

 

 この動きは―――

 

 「SEED!? 奴だけでなくお前まで!!」

 

 「言った筈だ、今回は全力だとな!」

 

 「チッ!」

 

 イーゲルシュテルンで牽制しながら、バックステップ。

 

 無理やり距離を取りつつ、体勢を整える。

 

 「驚きはしたが、だからといって!」

 

 SEEDによる反応速度の向上は予想外ではあったが対処できない訳ではない。

 

 それに現状ドラグーンが使用できない事も不幸中の幸いだった。

 

 おそらく周囲に散らばった岩片の影響でドラグーンを展開する事ができないのだろう。

 

 ならばそこを突く。

 

 「これ以上好き勝手にさせるものか!」

 

 自身の中にあるルドラの動きを修正、ビームライフルを叩き込む。

 

 だがそれも意を返さないとばかりにシールドによって防がれてしまった。

 

 「遅い!!」

 

 「オオオオ!!!」

 

 振るわれたビームサーベルをブルートガングで止め、同時に叩きつけられたビームクロウをシールドで受け流す。

 

 「満足かよ、こんな惨劇を引き起こして! 何が世界を正すだ!!」

 

 湧き上がる怒りに任せ、叩きつけるようにビームサーベルを上段から叩きつけた。 

 

 「何を主張しようが、お前らは史上最悪のテロリスト以外の何者でもない!!」

 

 「ただの一兵卒過ぎない分際で偉そうに吠えるな! 変革に痛みは必要不可欠!」

 

 光刃がイレイズの頭部を掠め、イーゲルシュテルンの発射口が潰されてしまった。

 

 それでもアオイは怯む事無く、リグ・シグルドとの距離を詰める。

 

 「血を流す事を恐れる者に何かを成す事など不可能だ!」

 

 「なら自分の血だけを流してろ!」 

 

 虫唾が走る。

 

 アオイの脳裏に浮かぶのは幼い自分の姿。

 

 上の連中の都合で起きた戦争で亡くなっていく大切な人達。

 

 いつもいつも翻弄され傷ついていくのは力のない子供だ。

 

 そしていつも戦端を開くのも、こういった勝手な理想を押し付けてくるタチの悪い連中なのだ。

 

 自分が胸を張って正しい事をしてきたなんて口が裂けても言えないが、それでもこんな奴らよりはマシな生き方をしてきたつもりだ。 

 

 「俺はお前らみたいな奴らが一番許せない! 勝手な理想を押し付けてくるな!」

 

 「その発想こそが一兵士の限界だと知れ!」

 

 「ただの兵士で結構! お前らみたいな理想に酔ったテロリストよりはマシだ!」

 

 叫びながらも冷静にリグ・シグルドの動きを観察する。

 

 SEEDを使っているだけあって動きは前とは別人だ。

 

 接近戦の強さに磨きがかかり、さらに射撃の精度も上がっている。

 

 「なら俺の戦いやすいやり方でいくだけだ!」

 

 アオイは機体の速度を上げ、リグ・シグルドに接近戦を挑む。

 

 高速ですれ違い様にウイングをぶつけて敵の体勢を崩した所にサーベルを振り抜く。

 

 それを見抜いていたのかリグ・シグルドもまたカッターをぶつけた。

 

 幾度となく繰り返される激突でイレイズの装甲はボロボロになっていく。

 

 それでなくともシグルド・グラーフとの闘いでのダメージも残っているのだ。

 

 長期戦は不利になる。

 

 「ダラダラ戦う気はない。一気に決着を」

 

 アオイはスラスターの出力を限界まで引き上げ、さらに速度を上げながら敵の懐へと飛び込んだ。

 

 コックピットに警戒音が鳴り響くが構ってられない。

 

 「これ以上関係ない誰かを巻き込むな!」

 

 「世界を正すと言った! 関係ない者など一人たりとも居はしない!」

 

 「だから貴様らに傷つける権利があるとでも? 思い上がるな!」

 

 「世界を食い物にしてる連中を放置している貴様らが言う事か!」

 

 距離を詰めウイングを盾にリグ・シグルドの一撃を受け止めたアオイは敵の右腕を斬り裂いた。

 

 「ぐっ、やる! だが!」 

 

 ビームクロウの一撃がイレイズの装甲を抉り、振るったサーベルがリグ・シグルドの脚部を傷つけた。  

 

 「ッッまだだ」

 

 「ここまでやるとはな。腐ってもSEED持ちという事か、アオイ・ミナト」

 

 通信機から聞こえてくる称賛にアオイは思わず歯噛みする。

 

 状況は互角に見えるが、アオイの方が圧倒的に不利。

 

 クロムとの闘いでの消耗があったにしても、ルドラの力は想像を上回っていた。 

 

 リグ・シグルドは装甲に傷はあるものの、腕以外に戦闘に支障が出る程派手な損傷はなかった。

 

 それだけルドラの技量が卓越している事を意味している。

 

 「貴様のようなただの兵士とはそもそも価値観が違う。ただの歯車としてしか生きられぬ者に分かる筈もあるまいな」

 

 「分かりたくもない、そんな事!」

 

 互いに弾け飛び、サーベルを構えて真正面から睨みあう。

 

 この攻防で終わりにすると判断した瞬間、二機は動いた。

 

 「ハアアアア!!!」

 

 「オオオオオ!!!」

 

 ビームクロウとサーベルが激突、激しい稲光と共に火花が飛ぶ。 

 

 一見、片腕のないリグ・シグルドが不利に見える。

 

 しかしイレイズのパワーは危険域に近づき、数々の損傷と無理な機動によって全身にガタが来ている。

 

 さらに不味いのが背中の装備ウイングスだ。

 

 機体と装備の僅かな誤差が此処に来て大きな影響をもたらし始めていた。

 

 少しでも気を抜き操作を誤れば、機体はすぐにバランスを崩してしまうだろう。

 

 「限界だな!!」

 

 力任せに押し込まれたビームクロウがイレイズのサーベルを押しのけ、装甲に食い込んだ。

 

 「ぐぅぅぅ!! そうは、いくか!!」

 

 背中のウイングを展開、爆発覚悟で出力を上げる。

 

 そしてリグ・シグルドと斬り結びながら移動し始めた。

 

 「無駄な足掻きを!」

 

 「そんな軽口言ってる暇があるなら、歯でも食いしばってろ、仮面野郎!!」

 

 もうウイングスの出力に機体がついていけていない。

 

 だがアオイはお構いなしに速度を上げ続けていく。

 

 「ぐぅぅぅぅぅ!!」

 

 「ま、だ、まだァァ!!」 

 

 二人は速度に耐えるように歯を食いしばり、機体は岩片にぶつかる度に傷を増やす。

 

 そしてとうとう限界が訪れた。

 

 ウイングスの出力に機体がついてゆけずアタッチメントと翼を支えていたアームが破損。

 

 さらに限界を超えた出力を解放した反動でオーバーロードを引き起こし、爆発した。

 

 「何!?」

 

 反動でイレイズの背中から飛び出すように壊れたウイングスがリグ・シグルドと激突、大きく吹き飛ばす。

 

 アオイは残ったスラスターを吹かし、リグ・シグルドと距離を詰め、ブルートガングを突き刺した。

 

 腹部に刃が貫通し、リグ・シグルドに重大なダメージを負わせる。

 

 畳みかけるようにサーベルを逆さに持つと頭部へと押し込んだ。   

 

 「落ちろ!」

 

 リグ・シグルドの頭部は無残に押しつぶされ、機体も弛緩するように動かなくなる。

 

 これで戦闘不能になった。

 

 そう判断したアオイが敵から離れようとした瞬間、その表情が凍り付く。

 

 リグ・シグルドは―――いやルドラ・アシュラは未だに戦意を失ってはいなかったのだ。

 

 「舐めるなァァァァァァ!!」

 

 ビームクロウを捨てビームカッターを放出、イレイズの胸部に突きを放つ。

 

 視界を失っていた為かコックピットは逸れたものの、間違いなく止めの一撃となりイレイズの装甲から色が抜け、完全に機能を停止させた。

 

 それは戦場に姿を見せて約10年間戦い続けた名機の最後の瞬間だった。

 

 「俺の勝ちだ、アオイ・ミナト」

 

 ルドラの声には此処まで見事に戦い抜いた敵への称賛が込められていた。

 

 正直な話、ここまで自分のリグ・シグルドが追い込まれるとは思っていなかった。

 

 「……いつの間にか慢心していたか。『昔』の二の舞を踏むところだった、貴様と戦えた事に感謝しよう」

 

 『昔』も結局その慢心と驕りによって追い込まれ、最終的に敗北してしまったのだ。

 

 ナチュラルに対する嫌悪は消えずとも、その力は本物。

 

 認めよう。

 

 確かにアオイ・ミナトは自分と競うにふさわしい相手だった。

 

 その時、ルドラに電流のようなものが全身に走るのを感じた。

 

 「ふん、ルシア・フラガか」

 

 駆け付けてきたのはルシアの駆る飛行形態のオウカだ。

 

 いかにルドラであろうと今の状態でルシアと戦うのは分が悪い。

 

 しかし彼は全く焦る事無く、動かなくなったイレイズを掴む。

 

 「中尉!! 貴様、中尉を離せ!!」

 

 「お前に構っている暇はない。後は任せたぞ、サルワ」

 

 ルドラがその名を口にした瞬間、ルシアに電気が走る。

 

 オウカの動きを見切った正確な射撃が上方から放たれ、その進路を阻む。

 

 「ッ!?」

 

 ルシアは逆噴射でブレーキを掛けつつ、モビルスーツ形態へと変形。

 

 攻撃を仕掛けた相手にビームライフルを撃ち込んだ。

 

 しかしそれを速度で振り切るようにして躱した蒼のリグ・シグルドがオウカに襲い掛かる。

 

 強い。

 

 射撃も近接戦も隙が全く無い。

 

 「邪魔をするな!」

 

 ロングサーベルでリグ・シグルドを振り払おうとするが、相手は斬撃の軌跡を見抜き、舞うような動きで躱してくる。

 

 「そういう訳にはいきませんね。女性相手となると気が咎めない訳ではありませんが、相手が貴方という事なら遠慮はいらない」

 

 「どういう意味?」

 

 「私が語るべきことではない。『彼女』から聞くと良い。答えてくれればですが」

 

 サルワの攻撃をシールドで捌きつつ、イレイズを連れて去っていくルドラに焦りが募る。

 

 だが、そんな感情をすべて消し去ってしまう程の悪寒が全身を駆け抜けた。

 

 「これは……」

 

 殺意であり憎悪の感情がこの空間を満たしているような感覚。

 

 止まらない悪寒の源。

 

 ルシアを見ている視線の持ち主の方へ意識を向けると、そこにはシグルド・グラーフが佇んでいた。

 

 「あの機体……いや、それよりもこのパイロットから感じるものは―――」

 

 殺意とかは別のこの強烈なまでの違和感。

 

 そして同時に覚えもある。

 

 以前に立ち寄ったコロニーのビルの中で見ていた車から感じたものと同じだ。 

 

 「出てこなくても良かったのに、シルヴィア。ルシア・フラガは私が倒すよ」

 

 「近くにいるとあっては流石に任せきりという訳にはいかないわ、サルワ」 

 

 立ち塞がる二機の強敵。

 

 その内の一機には因縁もあるようだ。

 

 ルシアは募る焦りを消化しきれないまま、二機の敵を相手に交戦を余儀なくされてしまった。

 

 

 

 

 

 

 『メークリウス』から遠く離れた場所に一つの建造物が静かに光を発していた。

 

 その傍には地球や月、コロニー群から離脱してきた、所謂はみだし者が集まっている。

 

 全員が居場所を見出すことができず、決起した『マクベイン・エクスキューター』に参加した面々だ。

 

 そんな彼らを統率し一つの軍として機能させたウォーレン・マクベインは届いた吉報に笑みを深くする。

 

 《閣下、作戦は成功しました! 『門は砕かれた』との事!」 

 

 「報告ご苦労。だが閣下はやめろ。私はただの代表にすぎない」

 

 《そういう訳にはまいりません。閣下は我々を導く身の上であるとご自覚ください》

 

 「そうだな。作戦完了次第、ルドラ達を帰還させろ、敵に感づかれないようにな」

 

 《了解しました》 

 

 通信が切れるとウォーレンは戦艦の窓から見える物体にもう一度目を向けた。

 

 「さてここからが正念場。世界に生きる者達、知るが良い。この『エスカトロジー』が古き時代を砕くのだ」

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