機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第13話 奇妙な共闘

 

 

 

 宇宙に浮かぶ巨大な戦艦。

 

 名を『エスカトロジー』

 

 人類の革新を謳う『マクベイン・エクスキューター』の真の本拠地であり、切り札である。

 

 そんな彼らは現在敵に補足されない為、移動しながら調整作業に追われていた。

 

 エスカトロジーの初陣ともいえる『メークリウス』破壊。

 

 これは『マクベイン・エクスキューター』の勝利と言っても問題ない。

 

 目標は撃破した上で、護衛に付いていた戦力を壊滅させた。

 

 これにより敵の戦力の低下、さらに撒き散らかせた岩石により各勢力の混乱と部隊の分散化に成功した。

 

 だが、此処で問題も発生する。

 

 主砲を発射した『エスカトロジー』の回路がショート、機能不全に陥ってしまったのだ。

 

 このままでは作戦に支障が出かねないと『エスカトロジー』では急ピッチで修復作業が進行している。

 

 そんな作業風景をモニターで見ていたウォーレンは厳しい表情を崩さず部下の報告に耳を傾けていた。

 

 「以上が現在判明している点であります。主砲の修復作業を続けていますが、まだしばらく時間がかかるかと」

 

 「修復を急がせろ。敵がいつ攻めてきてもおかしくない」

 

 ウォーレンは決して各勢力の戦力を甘く見てはいなかった。

 

 どの勢力よりも高度な技術を持つテタルトス月面連邦。

 

 世界最大の物量と規模を誇る地球圏統合政府。

 

 そして豊富な経験と優秀な人材にて多くの苦境を乗り越えてきた調和同盟。

 

 それぞれが侮れない力を持つ強敵である。 

 

 これを正面から打ち倒す事は『マクベイン・エクスキューター』の戦力では不可能だろう。

 

 だからこその『エスカトロジー』であり『メークリウス』崩壊の混乱に乗じた今こそが最大の好機なのだ。

 

 「修復を急げ」

 

 「了解しました!」

 

 走り去る兵士と入れ替わりに、白衣を纏った冴えない研究者が入ってきた。

 

 「随分、慌ててるみたいじゃないか」

 

 「ヴェクト・グロンルンドか」

 

 頬に湿布を張り嫌らしい笑みを浮かべているヴェクトにウォーレンは鋭い視線を向ける。

 

 最近になって『マクベイン・エクスキューター』に合流した技術者だが、ウォーレンはこの男を全く信用していなかった。 

 

 「頼まれていた新型機の調整は終わったぞ」

 

 「ご苦労だった。いつも一緒の仮面男はどうした?」

 

 「奴は仲介屋のようなもので仲間でも何でもない。ああ、それからお節介だとは思ったが数名ほど強化処置を施させてもらったよ。強化型リグ・シグルドを万全に操れるようにな」

 

 「なんだと!? 貴様、何を勝手に!」

 

 「そういきり立つなよ。処置を施したのはあくまでも外から入ってきた傭兵とかだけ。お前の兵士には指一本触れちゃいないさ。ま、私からすればどいつもこいつも凡人だったがね」

 

 やはりだ。

 

 この男はまさに猛毒そのもの。

 

 その技術は認めよう。

 

 人を強化する術のみならず、モビルスーツの知識や技術まで持つその手腕は本物である。

 

 天才とはヴェクトのような者の事を言うのだろう。

 

 しかしその人間性は完全に破綻している。

 

 扱い方を間違えればウォーレン達すら破滅させてしまう事は明らかだった。 

 

 「お前に負けてもらうのは困る。私はこう見えてお前の考えには肯定的なんだ。エスカトロジーで邪魔なゴミが一掃されれば世界は快適になる。残るのは優秀な人材、研究もさぞ捗るだろうさ」

 

 「貴様の考えなど知らん。だがこれ以上の勝手は許さない」

 

 「ハァ、分かった、分かった。だがそっちも条件を忘れるなよ」

 

 「ああ。アオイ・ミナトの始末とルシア・フラガの捕縛だろう。承知している」

 

 「ならいいさ。あの屑は精々苦しめながら殺せ。生まれてきた事を後悔する程絶望させてな」

 

 去っていくヴェクトを見送ったウォーレンは部下に監視を命じると椅子の背もたれに身を任せた。

 

 「ファウスト司令であれば、もっと奴を上手く扱えたかもしれんが」

 

 目を閉じファウストと出会った頃を思い出す。

 

 ウォーレン・マクベインは地球生まれのハーフコーディネイターである。

 

 ウォーレンが生まれた頃はすでにナチュラル、コーディネイターの対立は激化の一途を辿り、小競り合いなどしょっちゅう起こっていた。

 

 そんな中で生まれたハーフがどんな目に遭ってきたかは、想像に難くない。

 

 ナチュラル、コーディネイター双方から忌み嫌われ、居場所もなく、自分の生まれを隠しての息を顰めた生活がずっと続けていた。

 

 父はブルーコスモスのテロで亡くなり、母は病弱で間もなく死別。

 

 もはや絶望しかない日々の中でウォーレンは常に考えていた。

 

 何故、こんなにも自分は憎まれ迫害されるのか。

 

 何故、こうも周りで生きる人間たちは醜いのか。

 

 人の醜さを目の当たりにしてきたウォーレンにとってはナチュラルもコーディネイターも大差ないものだった。

 

 そして綱渡りのように細々とした日々を過ごす中、ようやく自分にとっての安住の地を見つける。

 

 それがテタルトス月面連邦国。

 

 ヤキン・ドゥーエ戦役終盤にプラント、地球連合から抜けた人々が作り出した新たな価値観を持った新生国家。

 

 ナチュラル、コーディネイターといった生まれは関係なく、あまつさえハーフすらも受け入れてくれる、まさに天国のような場所だ。

 

 そしてそこで入った軍学校でついに運命ともいえる出会いをする。

 

 ファウスト・クアドラード。

 

 ウォーレンの生きるべき道を定めてくれた恩人であり、指導者だ。  

 

 彼とテタルトスで普及していた『SEED思想』はウォーレンの生き方を間違いなく変えた。 

 

 [ウォーレン、私について来い。今の世界は間違っている、いつか我々の手で変えるんだ。そして人類に変革をもたらす]

 

 [私にそんな事ができるでしょうか?]

 

 [人類の醜さを誰より知るお前のような者こそが変える資格を持っている。お前がハーフとして生まれてきたのは、ナチュラルでもコーディネイターでもない新たな人類の可能性を示す為だ]

 

 そんな風に言われた事は一度もなかった。

 

 ハーフであるという理由だけで迫害されてきた彼にとってファウストの言葉はまさに神の救いと言っても過言ではない。

 

 救われたのだ。

 

 道が開けたのだ。

 

 ならば進むしかあるまい。

 

 テロリストと揶揄されようとも、屍の山を築こうとも、悪魔と罵られても。

 

 「なによりもこんな世界に未練は欠片もない」

 

 もはやファウストはおらず、残るは醜く争う人類のみ。

 

 ウォーレン・マクベインに迷いなど欠片も残っていなかった。

 

 

 

 

 『メークリウス』崩壊による混乱の只中にある地球圏から人知れず離れようとしている戦艦があった。

 

 ルドラ・アシュラが率いる特殊作戦部隊である。

 

 目的を達成した彼らは途中で合流した補給艦と共に『エスカトロジー』へと向かっている。

 

 しかしその速度はゆっくりとしたもの。

 

 これは出来うる限り敵に発見されない為の処置である。

 

 作戦の肝は隠密行動。

 

 『エスカトロジー』の場所をいかに悟られないかが、今後の作戦の成否を握っているのだ。

 

 そんな息を殺し離脱を試みる戦艦内の一室で静かに怒気を募らせるサルワ・アシュラが窓の外を眺めていた。

 

 「何時までそんな不機嫌でいるつもりだ、サルワ?」

 

 ルドラは読んでいる本のページを捲りながらからかうと流石にムッとした様子でサルワが反論してくる。

 

 「私はいつも通りのつもりだよ、ルドラ」

 

 「そんなセリフは怒気を隠してから言ったらどうだ」

 

 ここ数日、サルワは不機嫌さを隠していない。

 

 普段の柔和な雰囲気を出す彼とはまるで別人である。

 

 ルドラには勿論その理由に見当がついていた。

 

 「男の嫉妬は見苦しいぞ。シルヴィアがアオイ・ミナトの世話を焼いているからと言ってイラつくな」 

 

 サルワが不機嫌な理由はシルヴィアがアオイの怪我の手当てから食事まで逐一世話をしている事が原因だった。

 

 無論、彼女に他意はないだろう。

 

 文句を言いつつアレは他人の世話が好きであり、傷ついた者を見捨てる事ができない慈悲深い性格なのだ。

 

 しかしそれとサルワの感情は別。

 

 サルワのシルヴィアに対する想いは強すぎる。

 

 その独占欲は時にルドラが諫める程だ。  

 

 「お前は昔から感情的に過ぎる。シルヴィアの事では特にな」

 

 「ッ!」

 

 何か反論しようとするが、自分でもそれが分かっているのかサルワは何も言わずに部屋を出て行った。

 

 「アオイ・ミナトに手を出さなければいいがな」

 

 仮にそうなったとしても問題はない。

 

 アオイ・ミナトを生かしているのはあくまでウォーレンの個人的な感情によるもの。

 

 奴が死んだところで作戦そのものには支障はない。

 

 「シルヴィアはそれなりに執着していたようだが」

 

 アオイ・ミナトの世話を焼いているのも、単純に世話好きというだけではあるまい。

 

 奴の境遇やあり方がよほどシルヴィアの琴線に触れたか。

 

 「まあだからと言ってアオイ・ミナトに情けをかける事はないんだがな」

 

 いかに慈悲深いとはいえ、敵味方の区別はつく。

 

 変な所で情を優先させるような馬鹿な女ではない。

 

 むしろ一度覚悟を決めれば最も容赦がないのもシルヴィアなのだ。

 

 殺せと言われれば表情を変える事無く引き金を引くだろう。

 

 「あれほど恐ろしい女は他にいない。精々、今を楽しんでおけ、アオイ・ミナト―――ん?」

 

 その時、微かにルドラは何かを感じ取った。

 

 「これは―――」

 

 これから始まる事を察したルドラは部屋を後にすると格納庫の方へ歩き出す。

 

 その顔には笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 苛立ちを押し殺し部屋を後にしたサルワが向かった場所はアオイが入れられた独房だ。

 

 分かっているとも。

 

 これが醜い嫉妬である事くらいは。

 

 しかし、サルワにとってシルヴィアは何にも代えがたい存在だった。

 

 あの日、いつ終わるとも知れない地獄の中でサルワにもたらされた光。

 

 それを汚す事は誰だろうと許されない。

 

 「なのに敵の虜囚の世話をさせるなんて」

 

 許しがたい罪だ。

 

 八つ当たり染みた嫉妬だと自覚しながらも抑えきれないサルワはアオイへの殺意を募らせていく。

 

 そして独房へとたどり着いたサルワが見たのは、穏やかにアオイと語らうシルヴィアの姿。

 

 普段は感情を殺し、人へ表情を見せないシルヴィアが笑みを浮かべていた。

 

 それが抑えていた殺意の枷を外していく。 

 

 「殺す」 

 

 もはや余計な事はどうでも良い。

 

 ウォーレンの命令も知った事じゃない。

 

 独房から離れた位置で身を隠し、殺意も出来るだけ抑え込むと懐の銃を取り出す。

 

 シルヴィアの感覚は鋭い。

 

 殺気を放って近づけばすぐに気づかれてしまう。

 

 彼女の知らない間にすべてを片づけてしまわねばならないのだ。

 

 「フゥ」

 

 息を吐き、呼吸を整え、機会を待つ。

 

 シルヴィアが立ち去るのを確認すると、独房へ足を向けた。

 

 「見張りがいないな」

 

 シルヴィアが手配したのか。

 

 忌々しい話だが、今は都合が良い。

 

 独房の扉を開けるとアオイは手錠を嵌められながらも怪我した場所に包帯を巻きつつ、ベットに座り込んでいた。

 

 「お前は、シルヴィアと一緒にいた……」

 

 「サルワ・アシュラだよ、アオイ・ミナト」  

 

 アオイはサルワから発せられる冷たい殺気を感じながら息を飲んだ。 

 

 本気だ。

 

 こいつは本気でアオイを殺そうとしている。

 

 その殺気は他の兵士達など比べ物にならない。

 

 「無駄な抵抗はしない方が良い。その方が苦しまずに済む。そもそもその怪我で何処まで動ける?」 

  

 「チッ、お前もファウストの信奉者って訳か?」

 

 「そんな訳がない。私が君を殺すのはこれ以上、シルヴィアに近づけたくないからだよ」

 

 「シルヴィア?」

 

 「君と話す事はない。此処で死んでもらう」

 

 突きつけられた銃口。

 

 この怪我では一か八かで引き金を引く前に銃を奪うのも無理だ。

 

 「死ね。シルヴィアには君が自殺したと伝えておくよ」

 

 「ッ!?」

 

 簡単に死んで堪るものか。

 

 無駄だろうが、何だろうが最後まで足掻く。

 

 サルワが引き金に指を掛け、アオイが痛む足に力を籠める。 

 

 

 二人が動こうとしたその時―――

 

 

 「そこまでにしてもらおうかな」

 

 

 背後から聞こえた声に反応したサルワが振り返った瞬間、蹴りが飛ぶ。 

 

 「何!?」

 

 腕を捉えた蹴りが銃を飛ばし、さらに続けて拳が頬を掠った。

 

 サルワの前に立っていたのは帽子を目深く被った整備士の恰好をした男だった。 

 

 素顔は見えないが、帽子の下から金髪が覗いている。

 

 「くっ、お前は!?」

 

 男は答えずナイフを投擲、そこで隙を伺っていたアオイもタイミングを見計らって飛び掛かった。

 

 単純な体当たりだが狭い独房の中では避けきる事も出来ずにバランスを崩し、そこに投げたナイフがサルワの顔面に直撃する。

 

 それは丁度銀色の仮面を捉え、大きく弾き飛ばした。

 

 サルワが外に押し出され、その隙に銃を構えた男は立ち位置を入れ替えるように独房の中に足を踏み入れた。

 

 「お、のれ」

 

 「ッ、え?」

 

 倒れ込んだアオイは下から覗き込むような形で立ち上がるサルワの素顔を目撃した。

 

 ルドラよりもやや長めの黒髪の隙間から見えた整った顔立ち。

 

 その素顔には見覚えがあった。

 

 「……アスラン・ザラ?」

 

 「見たな、私の顔を!!」

 

 サルワは顔を手で覆い、今まで以上の怒気を発しながら徐々に距離を取り始める。 

  

 「殺す、殺してやる! 貴様らだけは絶対に殺す!!」

 

 指の間から覗く瞳には先ほどまでとは比べ物にならない憎悪の光が宿っていた。

 

 「君では無理だと思うがね」

 

 「黙れ、必ず殺してやるぞ、カース!!」

 

 銃口から逃れるように通路へ移動したサルワはそのままこの場から姿を消した。 

 

 「大丈夫だったかな、アオイ君」

 

 「何で此処に? というか俺を助けてどういうつもりだ?」

 

 「言っただろう? 私は『マクベイン・エクスキューター』に属する人間ではないとね。むしろ敵だと言ってもいい。だから以前にも君達に助力しただろう?」

 

 確かにカースは以前に『マクベイン・エクスキューター』に関する情報を提供してきた。

 

 防げはしなかったが『メークリウス』襲撃は本当だったし、提供された新型モビルスーツのデータも本物だった。

 

 だからこそ解せない。

 

 カースが何を企んでいるのはアオイには全く理解できなかった。

 

 もっと彼を知る人物であれば何か察する事ぐらいは出来るかもしれないが。

 

 訝しむアオイを無視し、カースは取り出した鍵で手錠を外す。

 

 「脱出するなら急いだ方が良い。もうすぐ君の迎えもくるだろうからね。これに着替えたまえ」

 

 バックの中身はカースと同じ整備士が着る服と帽子だった。

 

 「迎え?」

 

 「ああ。此処に来る前に色々と情報を流しておいた。『彼ら』がそれを掴み、同盟へ渡しているならそろそろ迎えがくる頃だ」

 

 色々聞きたい事があるのだが、それは後回しにした方がよさそうだ。

 

 船の構造も知らない以上、とりあずカースの後について行くしかない。

 

 毒を食らわば皿まで。

 

 行けるところまで行ってやる。

 

 「脱出を手助けしてくれるのか?」

 

 「ああ、君が味方と合流するくらいまではエスコートしよう」

 

 アオイはこれ以上は何も聞かず、服を着替えると体の状態を確かめる。

 

 暴行を受けた場所が痛むが動けない程ではない。

 

 帽子を深く被り素顔を隠すと数日ぶりに独房の外へ出た。

 

 「で、この船の構造は?」

 

 「把握している。格納庫に向かい、モビルスーツで脱出する」  

 

 モビルスーツで思い出した。

 

 大破したがイレイズMk-Ⅱは敵に鹵獲されていた。

 

 「イレイズは―――」

 

 「大破した状態で格納庫で放置されていたよ。まあ今更得られるものもないだろうがね」

 

 AAAのパーツを使用してはいるものの、イレイズは旧型のモビルスーツである。

 

 目新しい技術が使われていた訳でもなく、背中の装備であるウイングスも完全に大破していたなら支障はない。

 

 だがどうしても回収しなければならないものがあった。

 

 「W.S.システムの戦闘データだけは回収しないと」

 

 「それも格納庫か。彼らが急いで解析を進める程、あの機体に執着していないだろう」

 

 それ以上の無駄話はせず、カースの後に続く。

 

 だが妙な事に見張りやすれ違う兵士の数が少ないように感じる。

 

 「何かしたのか?」

 

 「邪魔な連中には退場してもらっただけさ。それも長くは続かないだろうが」

 

 出来るだけ目立たないようエレベーターに乗り込むとカースから銃を手渡された。

 

 「この先、見つからずに進むのは難しい。一応持っておきたまえ、後は今説明した通りに」

 

 「ああ」

 

 銃を受け取りセーフティを外すと格納庫に到着した。

 

 そこに待っていたのは銃を構えた兵士達を率いるルドラだった。     

 

 「そこまでだ」

 

 「ルドラ・アシュラ……サルワ・アシュラから連絡をもらったか」

 

 「そんな必要はない。そいつが乗り込んできた時点で感知していただけだ。しかしまさかお前が乗り込んでくるとは思わなかったぞ、カース。いや、クルーゼ隊長」  

 

 「君の口からそう言った物言いをされると少々感じ入るものがあるな、ルドラ」

 

 笑みを浮かべてはいるがルドラから伝わってくる感情はお世辞にも良いものではなかった。

 

 明確な殺意が伝わってくる。

 

 「貴様は我々を利用していたつもりなんだろうが、生憎だったな。利用していたのはこちらも同じだ」

 

 「それはどうかな?」

 

 カースは持っていたスイッチを押す。

 

 するとビーという耳障りな騒音と共にコンテナから大量のスモークがあふれ出した。  

 

 その隙にアオイとカースは走り出す。

 

 「逃げられると思うか! 貴様の居場所は分かっている!」

 

 スモークの中で正確にカースの位置を掴むルドラは進路を妨害するように銃弾を撃ち込んでいく。

 

 それを尻目にアオイはイレイズMk-Ⅱの方へ向かっていた。

 

 格納庫の隅にほったらかしにされていた愛機のコックピットに飛び込むとコンソールを操作する。

 

 「やっぱりほぼ大破してるな」

 

 イレイズが動かない事を確認するとコンソールの下からデータチップを素早く抜くとすべてのデータを消去する。

 

 「すまない」

 

 長年寄り添った相棒に別れを告げ、コックピットから出ると今度は近くに立つイリアスに走る。

 

 「貴様、止まれ!」

 

 「嫌だよ!」

 

 視界の悪さの所為でライフルの弾は走り抜けたアオイを足元を穿つ。

 

 迂闊に止まる方が当たるかもしれない。

 

 脇目も振らず走り抜けると何とかイリアスのコックピットへ入り込めた。

 

 「基本的にイレイズやウィンダムと変わらない。これなら動かせる」

 

 機体を起動させ、モニターを点灯させるとスモークで視界がまるで見えなかった。

 

 「アイツ、どんな量を使ったんだよ」

 

 アオイはイリアスのトーデスシュレッケンを格納庫全体に撃ち込み、銃撃を繰り広げる敵兵を撹乱する。

 

 その間にカースも機体を確保したのか、通信が入ってきた。

 

 《機体までたどり着いた。此処からは各々の判断で脱出する》

 

 「了解、一応礼を言っておくよ」

 

 《その必要はないさ。こちらの都合でもあったからね。それに少し気が早いだろう、ここからが本番だよ》

 

 「確かに」

 

 このまま何の妨害もなく逃げ切れるとも思えない。

 

 アオイは覚悟を決めるとビームライフルを戦艦のハッチへむけ、引き金を引く。

 

 発射されたビームがハッチを破壊、宇宙へ飛び出した。

 

 「背中に装備がないのが痛いけど、贅沢は言ってられない」

 

 スラスターを吹かし出来るだけ距離を取ろうと速度を上げる。

 

 しかし予想通り敵がこのまま逃がしてくれるはずもなく、次々と追手のモビルスーツが出撃してきた。

 

 しかも追撃してきたのは機動力の高いリゲル・リローデットだ。

 

 リゲルはテタルトスで開発されユニウス戦役に実戦投入されて以降、改良を繰り返し未だに実戦投入されている傑作機の一つ。

 

 モビルアーマー形態での加速性と機動力は非常に高く、装備無しのイリアスでは逃げきれない。 

 

 「くそ!」

 

 毒づきながら速度を上げるも、リゲルを引き離す事が出来ない。

 

 徐々に距離を詰められ、射程距離に入ると同時にビームライフルの攻撃がイリアスに襲い掛かる。

 

 「グッ、操作方法は問題ないけど武装が!」

 

 操作方法は地球軍系のモビルスーツだけあって戸惑うことは無い。

 

 しかし背中の武装がない分、火力や機動力といった部分はリゲルと比べて劣ると言わざる得なかった。

 

 その時、後方で爆発の閃光を確認した。

 

 「アレは―――カースだな」

 

 奴も派手に暴れているらしい。

 

 「ならあの敵の追撃さえ振り切れば!」

 

 追手に向けてビームライフルで牽制する。

 

 速度のあるリゲルを撃墜する事は難しいだろうが進路を妨害する事は出来る。

 

 それでも多勢に無勢は変わりなく追いついてきたリゲルがモビルスーツ形態で上方から斬りかかってきた。 

 

 「ッ!?」

 

 間一髪機体を引く事で斬撃を回避したイリアスだが、そこにメガビームランチャーの砲撃が襲い掛かる。

 

 機体をジグザグに動かし砲撃を避け続ける、アオイ。  

 

 だがそれも長くは続かない。

 

 ビームが装甲を掠め、バランスを崩した所に襲ってくる斬撃。

 

 「この!」

 

 盾でリゲルのサーベルを止め、至近距離からライフルでコックピットを撃ち抜いた。

 

 その爆発を目くらましに、死角に回り込んだアオイは動きを鈍らせた敵機を狙撃する。

 

 「そこ!」

 

 ライフルごと腕を奪い、ランチャーを破壊し、同時にスラスターも撃ち抜く。

 

 カースが暴れ、さらに傷ついた味方を回収する為、敵もこちらへは向かってくる数が少しは減るだろう。

 

 アオイの思惑通り追撃部隊の動きは鈍り、こちらへ来る敵の数は目に見えて少なくなった。

 

 「この数なら何とか―――ッ!?」

 

 その時、覚えのある殺気が近づいてくるのを感じ取った。

 

 リゲルなど比較にならないその速度。

 

 追いついてきたのは蒼いリグ・シグルド。

 

 「サルワ・アシュラか!」

 

 「アオイ・ミナト!!!」

 

 咆哮と共に発射された複列位相砲がイリアスの装甲を吹き飛ばした。

 

 「ぐっ!」

 

 「私の素顔を見たお前を生かして帰す訳にはいかない!」

 

 「顔を見られたぐらいで!」

 

 「黙れ!」

 

 攻撃をシールドで防ぎ、接近してきたリグ・シグルドのビームクロウにサーベルを振り抜く。

 

 激突した斬撃が火花を散らす。

 

 だが、根本的なパワーの違うのかあっさりと力負けし、イリアスの装甲を深々と抉った。

 

 さらに振るわれた一撃が脚部を砕き、サーベルの斬撃が腰部を吹き飛ばす。

 

 「ぐぁああ!!」

 

 「これで終わりだ、アオイ・ミナ―――何ッ!?」

 

 動きを止めたイリアスに止めを刺そうとしサルワは危険を感じ距離を取る。

 

 視線の先には何もない宇宙の暗闇。

 

 だが確実に近づいてくるものがある。

 

 「モビルアーマー?」

 

 明らかにリゲルを上回る速度で突っ込んできたのは戦闘機のような姿をしたモビルアーマーだった。

 

 データにはない未登録の機体。

 

 しかもそのパイロットは―――

 

 「貴様!」

 

 旋回し再び突っ込んできた戦闘機に複列位相砲を発射する。

 

 それを持ち前の機動性で回避した戦闘機はその真の姿を解放した。

 

 変形し人型となってイリアスを背に立つその機体はアオイにとって見覚えのあるものだった。

 

 「エレンシアガンダム?」

 

 かつての上官が乗った愛機。

 

 それに搭乗していたのは勿論、

 

 「中尉、大丈夫ですか?」

 

 「大佐!?」

 

 アオイを助ける為に駆け付けたルシア・フラガだった。

 

 「新型」

 

 突然現れた新型機を警戒しつつ、サルワは操縦桿を強く握る。

 

 「ルシア・フラガ!」

 

 「あの時の蒼い機体。それにもう一機、近づいてくる」

 

 白と蒼の機体は油断なく銃口を向け合い、同時にルシアは近づいてくる気配に再戦の時が来た事を感じていた。

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