機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第14話 宇宙を羽ばたく

 

 

 

 

 捕虜であったアオイ・ミナトの脱走。

 

 それによる少なくない損傷を負った『マクベイン・エクスキューター』の戦艦は一時的に行動不能な状態へと陥っていた。

 

 復旧作業で混乱する艦内から逃れたカースの姿を追ってルドラは修復したリグ・シグルドで出撃する。

 

 外では次々と出撃しモビルスーツが逃げたアオイ・ミナトを追撃に向かい、その中には蒼いリグ・シグルドの姿もあった。

 

 それを見送ったルドラは隣に立つシグルド・グラーフに手を伸ばし接触すると通信回線を開いた。

 

 「シルヴィアはアオイ・ミナトを追え」

 

 「ルドラ、私もカースを」

 

 「いや、サルワを頼む。それに妙な感じもする」

 

 「それは……」

 

 「お前の方が感づいているだろう? あの女が来るぞ」

 

 「ッ! ……分かった、あちらには私が行く。それでアオイ・ミナトは?」

 

 「好きにしろ。殺したければ殺して良いし、捕縛したければそうしろ。お前の裁量に任せる」

 

 「……了解」

 

 飛び去ったシグルド・グラーフの後ろ姿を見つめながら、ルドラは意味深な笑みを浮かべる。

 

 「お前が奴に入れ込んでいるのは知っているが、さてどうなる?」

 

 事と次第によってはサルワの方が爆発してしまうかもしれないが―――

 

 「それも試練だと思えば悪くはないだろう、サルワ。精々気張るが良い。さて……」

 

 モニターと己の感覚を頼りにカースを追って視線を動かす。

 

 そう遠くへは行けない筈。

 

 付近を探索しながら、岩場が散乱する場所に差し掛かると強い違和感を感じ取った。

 

 「そこ!」

 

 複列位相砲を発射し岩を砕き同時にビームライフルを連射。

 

 破壊された岩片と何かが爆発したような煙が巻き上がる。

 

 手応えはあった。

 

 だが違和感は消えていない。

 

 油断なくモニターを注視していたルドラの視界に破壊された機体の残骸が見えた。

 

 カースが乗って逃げた機体だろう。

 

 だが気配は未だ消えず、奴はまだ生きている。

 

 「どこに―――ッ!?」

 

 その時、赤いモビルスーツの姿を目の端で捉えた。

 

 背中のスラスターを吹かし岩陰から飛び出してくる。

 

 「サタナエルか! 近くにモビルスーツを隠していたとは、抜け目のない奴」

 

 ライフルで進路を塞ぐように攻撃を加えるが直後、リグ・シグルドのコックピットを狙った一撃が撃ち込まれた。

 

 「そんなもので!」

 

 持ち前の反応で機体を逸らし、ビームを回避したルドラはお返しとばかりに敵モビルスーツに複列位相砲を撃ち込む。

 

 だが、すでに敵はそこには居ない。

 

 背中にある二基のスラスターユニットを噴射させ、圧倒的な機動性でルドラの視認を許さない。

 

 「速いな! しかしいかにその機体が優れていようとも、もはや旧型機。遅れはとらない!!」

 

 カースの動きは昔からよく知っている。

 

 動きを予測し移動先へ攻撃を仕掛ける為、ドラグーンを展開した。

 

 「いけ!」

 

 射出された砲塔が敵機に向けて加速、四方から砲撃を開始する。

 

 「まさかドラグーンで攻撃を仕掛けてくるとはね」

 

 カースは速度を全く落とさずに軽く攻撃を避けて見せると、ビームライフルで砲塔を撃ち落とした。

 

 あまりにあっさり落としていくので簡単そうにも見えるだろう。

 

 だがパイロットである者が見ればどれだけ桁外れの事をしているか戦慄するに違いない。

 

 四方からのビームを避けつつ、スピードを落とさないまま小さい砲塔を正確に落とすなど神業としか言えまい。

 

 しかしルドラにとっては織り込み済み。

 

 カースの技量の高さは良く知っているし、空間認識力の異常な高さは言わずもがな。

 

 ドラグーンが通用するとは初めから思っていない。

 

 「落ちろ!」

 

 距離を詰めていたルドラは一切の躊躇いもなく放出した光爪を振り抜いた。

 

 急所を狙った下段からの一撃。

 

 それをサタナエルは迎え撃つべく構えたサーベルと激突する。

 

 「今のを止めるとは流石は元ザフトのエースパイロットだ!」

 

 「そう簡単にやられるつもりはないさ」

 

 高速ですれ違い、さらにライフルを撃ち合いながら激突と離脱を繰り返す。

 

 一見互角に見える戦いだが、徐々にルドラは苛立ちを覚えるようになっていた。

 

 「本気で戦えクルーゼ!」

 

 カースの技量を良く知るルドラには奴は本気ではない事が分かっていた。

 

 明らかに手を抜かれていると。

 

 本気であるなら背中のドラグーンを使ってくるだろうし、攻撃においても殺気を込めてくるだろう。

 

 「時間稼ぎのつもりか?」

 

 「だとしたら?」

 

 「ふざけるな!」

 

 シールドで体当たりしてサタナエルを吹き飛ばすと上段からサーベルを振り下ろす。

 

 しかしカースはあくまで余裕の笑みを浮かべながら、機体を寝そべらせ斬撃を回避した。

 

 「ルドラ、君では私には勝てないよ」

 

 「舐めるなよ。私は貴様を倒す為にこれまで血の滲む訓練を積み、自分自身を研ぎ澄ましてきたんだ」

 

 ルドラは決してカースを甘く見てはいない。

 

 『ヤキン・ドゥーエ戦役』からの奴の戦果を鑑みればその実力は疑うべくもない。

 

 それに負けない為に今まで研鑽を積んできた。

 

 過去を乗り越える為、そしてカースがかつて身につけた仮面を纏い、得た物を教訓として刻むために。  

 

 なのに相手に本気を出されないなど屈辱以外の何物でもない。

 

 しかし聞こえてきたのはカースは涼しい声。

 

 ルドラの激情など気にも留めず、あっさりと言い放った。

 

 「君に興味はない。ハッキリ言ってどうでも良いのだよ。私も過去に囚われた亡霊ではあるが、君は『ただの残滓』に過ぎない」 

 

 「私が『残滓』だと?」  

 

 「そうだ。君だけじゃない、サルワ・アシュラも同様だよ。君らは惨めな『ただの残滓』、そこには自らの意思すら無い。故に何かを成す事もできんだろうよ」  

 

 「何?」

 

 「哀れだね、同情する。しかし私は結末の決まった者に付き合うほど暇ではない。そのまま地獄へ行くが良い」

 

 リグ・シグルドの腹に蹴りを入れて体勢を崩すと、ビームライフルで牽制しながら距離を取る。

 

 サタナエルの射撃は今までよりも遥かに精度が高く、削るようにモビルスーツの装甲を剥がしていく。

 

 「ッ!」

 

 「さようならだ、ルドラ。己も知らぬ絶望を抱えて朽ちていけ」

 

 リグ・シグルドが体勢を立て直し反撃に転じようとした時、サタナエルの姿は岩陰に消え、その気配も遠ざかっていった。

 

 「離脱するつもりか? そうはいくものか―――ッ!?」

  

 その時、ルドラは別の気配が近づいてくる事に気が付いた。

 

 「チッ、クルーゼめ。囮を使って逃げる気か」

 

 すでにルドラの意識は逃げたカースよりも彼が囮として誘き寄せた敵の方へ向かっていた。

 

 胸を焦がす憤りは消えていない。

 

 しかし感情に任せて迫る脅威を見逃す程、ルドラは愚かではなかった。

 

 「テタルトス軍……率いてきたのは『銀獅子』か。相手にとって不足はない」 

 

 高速で近づいてきたのは銀色のモビルスーツ、ヴィルフリートの駆る『ジンⅢ・レーヴェ』である。

 

 敵艦を視認したヴィルフリートは事前の打ち合わせ通り、遼機であるモビルスーツに指示を飛ばす。

 

 「敵は私が引き付ける。その間に敵艦の方を頼むぞ、だがくれぐれも落とすなよ!」

 

 「「了解!!」

 

 あえて目立つように先行したジンⅢ・レーヴェは武装を解放し、一斉に発射した。

 

 ビーム砲と共に発射された誘導ミサイルが展開された敵モビルスーツ隊へと降り注ぐ。

 

 フリーダムにも劣らないその火力がその空間にいた敵を薙ぎ払い、どうにか離脱した機体にも損傷を与える。

 

 その間に距離を詰めたヴィルフリートが逃れた機体を対艦刀で斬り払った。 

 

 「さて派手に暴れさせてもらうぞ!」

 

 此処まで苦渋を舐めさせられてきた。

 

 その借りを返す為の大事な一手であり、失敗する訳にはいかない。

 

 「簡単にやらせる訳にはいかんな」

 

 ジンⅢ・レーヴェの砲撃を阻止すべくルドラのリグ・シグルドが攻撃を仕掛けに動く。

 

 その機体を見たヴィルフリートは眉を顰めた。

 

 「あの機体……確かリグ・シグルドだったな。あの機体が居るという事は情報は正しかった訳か」

 

 情報を提供してきた人物に改めて疑問が生じる。

 

 エレボス内部からの放送を行った者と同一人物らしいのだが―――

 

 「そんな考察は後回しだ。今は!」

 

 振り上げられたビームクロウを迎撃すべく、対艦刀を振り下ろす。

 

 「こんな場所までご苦労な事だな、ヴィルフリート・クアドラード。ウォーレン・マクベインがお前にも会いたがっていたぞ」

 

 「ならば奴に言っておけ。散って逝った部下の分まで必ず借りは返すとな!」

 

 対艦刀で弾き飛ばしビームマシンガンでリグ・シグルドを牽制、至近距離でバズーカを叩き込んだ。

 

 「チッ!」

 

 ルドラは咄嗟にシールドを切り離し、バズーカを避けると複列位相砲を発射する。

 

 同時にヴィルフリートもビーム砲を発射し、激突した閃光が周囲に満ちた。 

  

 

 

 

 損傷し動けないアオイの搭乗するイリアスを守るように一機のモビルスーツが立ちはだかる。

 

 ADT-X03 『エレンシアガンダム・ソフィア』

 

 同盟の新型機開発計画の一環で開発された機体でエレンシアの名を冠しているものの、中身は完全に別物の新型機。

 

 エレンシアをベースに可変機構を搭載し、ターニングやスオウ、ヴィヒターで得られた可変型機のデータを集約、洗練、それによって向上した性能は可変型モビルスーツの一つの到達点とも言われる程。 

 

 さらにパイロットの空間認識力を最大限に発揮できるようにドラグーンシステムを搭載、コックピットにも空間認識力を高める専用デバイスを設置、機体や武装を完璧にコントロールできる新型OSを装備している。

 

 「大佐!? どうして此処に?」

 

 「中尉、無事で本当に良かった。……詳しい話は後で、少し下がっていて。まずはこの状況を切り抜ける!」

 

 安堵し、感極まった様子のルシアだったが、すぐに思考を切り替えるように正面を注視する。

 

 そこには苛立った様子のサルワが邪魔な乱入者を睨みつけていた。

 

 「お前が此処に来るとはな、ルシア・フラガ!」

 

 「また貴方ですか!」

 

 突如現れた新型機にも臆せずサルワは攻撃を仕掛ける。

 

 あくまでも小手調べとして、しかし油断せずにビームライフルを乱射しながらビームクロウを抜いた。

 

 すでにシルヴィアは気が付いているだろう。

 

 出来れば彼女が来るまでに決着を付けたい。

 

 「お前は私が殺す! アオイ・ミナト共々な!」

 

 エレンシアは動かず、イリアスを守るようにシールドでビームを防ぎながらサーベルで応戦する。

 

 「ハアア!!」

 

 上段から振り下ろした一撃。

 

 だが光爪は光剣に阻まれ、ピクリとも動かない。

 

 「リグ・シグルドよりパワーが上だというのか!!」

 

 「そこを退きなさい!」

 

 力任せに弾かれたリグ・シグルドは大きく仰け反り、大きな隙が出来た。

 

 そこを狙いルシアがビームサーベルを一閃する。  

 

 「ッ!?」

 

 眼前に迫る死の光。

 

 それを常人とはかけ離れた反射神経で反応したサルワは足を振り上げ、光刃を脚部で防ぐ。

 

 だがそんなものは一時凌ぎに過ぎない事は分かっている。

 

 脚部を斬られる前にエレンシアを引き離し、武器を構え直した。

 

 「損傷は軽微か。しかし新型は思った以上に厄介なようだ」

 

 内心舌打ちする。

 

 視線の先にはアオイ・ミナトが居る。

 

 出来れば奴を仕留めたいが、この機体状態と新型を相手に何処まですべきか。

 

 サルワの脳裏に目的とそれに伴うリスクがせめぎ合う。

 

 それは相対していたルシアも同じだった。

 

 後ろには損傷した機体に乗るアオイが居る。

 

 動く事は可能なようだが、攻撃されれば避ける余裕はない。

 

 どうすればアオイを無事に逃がせるかを考えていたルシアだがその背に冷たい電気が走る。

 

 「きた」

 

 ルシアは攻撃の矛先を変える。

 

 近づいてくる機体の方へ収束ライフルの砲口を向け、躊躇わずトリガーを引いた。

 

 ビームが近づく機体に向かって発射された。

 

 通常のモビルスーツであれば二、三機あっさり撃墜できるレベルの威力。

 

 しかしそれは敵を撃ち抜く事無く、展開されたゲシュマイディッヒパンツァ―によって歪曲されてしまった。

 

 「ッ、来たのはやっぱりあの機体のパイロットか」

 

 ルシアが見せたのはあの時のシグルド・グラーフ。

 

 機体から感じ取れる殺意を鑑みてもあのパイロットで間違いなかった。

 

 「ルシア・フラガ!」

 

 「貴方は誰? 何故そこまでの殺意を私に―――」

 

 「それ知らぬこと自体がお前の罪だ! 私は貴様らを絶対に許さない、絶対に!!」

 

 シルヴィアの殺意に応えるように発射されたドラグーンがエレンシアに向けて襲い掛かってきた。

 

 「くっ」

 

 全身に走る感覚に逆らわず、操縦桿を操り、機体を動かす。

 

 すると今までエレンシアが居た場所をビームの閃光が薙ぎ払っていった。

 

 「動ける、今まで以上に!」

 

 これまで搭乗してきた機体とは機動性も追随性も桁違いだ。

 

 ルシアの本気の操縦についてくるエレンシアの感触に普段冷静な彼女にも笑みが浮かぶ。

 

 「そこ!」

 

 ドラグーンをライフルで撃ち落とし、さらにミサイルで撹乱すると接近戦を挑む為、シグルド・グラーフへ突撃する。

 

 「これで!」

 

 振り抜いた一撃がシグルド・グラーフの装甲を斬り裂き、同時にシールドで頭部を殴打した。

 

 「グッ!?」

 

 「シルヴィア!? 貴様ァァァ!!」

 

 背後からの不意打ちでありルシアの死角を突いた攻撃。

 

 彼女が避けられる道理はない。

 

 しかしルシアは後ろに目がついているかのように、背後からの攻撃を回避して見せるとビームライフルで反撃してきた。

 

 「この!」

 

 サルワはもはや所構わずとばかりに残ったドラグーンを展開し、ありったけの火力を一斉解放した。

 

 無数のビームがエレンシアごと周囲を薙ぎ払わんと猛威を振るう。

 

 「この位置では」

 

 避けるにしてもアオイが巻き込まれてしまう。

 

 ルシアは躊躇いなくシールドを展開して防御の姿勢を取る。

 

 だがそこでルシアを敵視していたシグルド・グラーフが予想外の行動を取った。 

 

 アオイの方へ砲撃が行かないようにゲシュマイディッヒパンツァーを展開したのである。

 

 「な、シルヴィア、何を!?」

 

 「……彼を捕縛する。手は出さないで」

 

 「馬鹿な! もうウォーレン・マクベインへの義理は果たしている! 奴を生かしておく理由はないんだ!」

 

 「……それでもお願い、サルワ」

 

 「ッッッ!!!」

 

 激しい憤りと嫉妬を堪え、サルワはアオイのイリアスを睨みつける。

 

 そしてルシアもまた今の状況に歯噛みしていた。

 

 アレとリグ・シグルド。

 

 二機とこれ以上激しい戦闘を継続するとなるとアオイを守る余裕はないかもしれない。

 

 特にあの蒼いリグ・シグルドは積極的にアオイを落としにきている。

 

 不幸中の幸いかあのシグルド・グラーフとは意見が対立しているようで、連携が上手く取れていない。

 

 出来ればその隙に撤退したいのだが、ヴィルフリートと事前に打ち合わせた作戦時間はまだ経過していなかった。

 

 ならば今少し時間を稼ぐ必要がある。

 

 そうなると『保険』を使う以外にないようだ。

 

 「……中尉、そのイリアスは動ける?」

 

 「何とか動かすだけなら」

 

 「それなら三時方向へ最大加速で向かって。そこにウリエルが来るわ!」

 

 「……了解!」

 

 ルシアの指示を聞いたアオイはボロボロの機体を必死に操作する。

 

 「チッ、サルワの奴、派手にやってくれたもんだ。スラスターの半分近くが死んでる。メインスラスターが無事で良かったけど」

 

 どうにかイリアスのスラスターを動かし、フットペダルを踏み込んで移動させた。

 

 「逃げる気か!」

 

 「サルワ!」

 

 「行かせない!」

 

 リグ・シグルドを行かせないよう割り込むエレンシア。

 

 ルシアが二機を引き付けている内に距離を稼ぐべく、出力を上げていく。 

 

 「くっ、これ以上出力を上げるとオーバーヒートする! だけど……」

 

 後ろからはエレンシアを抜いたリグ・シグルドが追いかけて来ていた。

 

 それだけではない。

 

 どうやら後続の追撃部隊も追いついてきたようで複数の機体が追随していた。

 

 「戦闘力はほぼ無い以上、追いつかれたらやられる。なら!」

 

 アオイは警告を無視して、イリアスのスピードを上げた。

 

 そして指定されたポイントまでたどり着くと懐かしさを感じる母艦の姿が見えてきた。

 

 「ウリエル―――ッ!?」

 

 そこで背中のメインスラスターが爆発し、機体のバランスと進行方向が狂ってしまった。

   

 「この! ウリエル、ハッチを開いてくれ!」

 

 それでも生き残った上半身のスラスターで無理やり方向を変え、ハッチの開いたウリエルに突っ込んだ。

 

 「ぐっっううう」

 

 床を滑るように格納庫の中に不時着すると整備班が消火剤を一気に燃えるイリアスに吹きかける。

 

 「無事かよ、アオイ」

 

 「何とか。色々、酷い目にあったけどさ。それより使える機体はないか?」

 

 アオイを出迎えた整備士の青年がニヤリと笑う。

 

 「あるぜ、お前専用の機体がさ」

 

 パイロットスーツを手渡され、案内されたのはすでにカタパルトに運ばれている新型機だった。

 

 GAT-X003A 『エクセリオンガンダム・アイオーン』  

 

 第一次統合戦争にて実戦投入されたユニオンエクセリオンガンダムの正式後継機。

 

 背中にはフリーダムと特殊機動装備『ウイングス』のデータ基に開発された2基の大型スラスターと2基の小型スラスター、『ウイングス』の倍である合計4基を装着。

 

 『ウイングス』の戦闘データで調整を加えられており、宇宙のみならず地上や外宇宙の高重力空間での戦闘も視野にいれたフリーダムすら超える圧倒的な機動性能を実現している。

 

 そして翼の部分はシールドとしても使用可能であり、放出されるミラージュコロイドを応用した機体を守る防御膜を展開、それによって高度な防御性能と幻惑機能も所有している。

 

 「完成したんだ」

 

 「けっこう急ピッチだったけどな。大佐に感謝しとけよ、ヴィンゴルヴ側にも結構無理言ったみたいだしな。後はお前が回収してきたイレイズからの戦闘データを移植すればいい」

 

 「了解!」

 

 コックピットに乗り込み、回収してきたデータチップを差し込んだ。

 

 「これでOKだ」

 

 《中尉、帰還したばかりで申し訳ないが現在、敵モビルスーツを迎撃中だ。出て貰えるか?》

 

 「了解です、レフティ艦長」

 

 素早く機体を立ち上げVPS装甲を展開、操縦桿を握りしめる。

 

 「アオイ・ミナト、エクセリオンガンダム、行きます!!」

 

 カタパルトから押し出されたエクセリオン。

 

 モビルスーツが出撃してくるのを察知していたサルワはそこを狙ってビームライフルを撃ち込んだ。

 

 「新型だろうが出撃直後は無防備だろう!」

 

 だがそんなサルワの考えを否定するかのようにエクセリオンは背中の翼でビームを受け止め、あっさりと弾き飛ばした。

 

 「何!?」

 

 あまりにも簡単に攻撃を防がれた事で呆然とするサルワ。

 

 その隙を突き暗闇の宇宙にそぐわない光を放出しながら、エクセリオンが飛び立った。

 

 まさに天使を彷彿とさせ、動き出した機体はサルワの予想を遥かに上回る速度で動き出す。

 

 「ッ、速い!」

 

 撃ち込むビームライフルは掠める事すら出来ない。

 

 圧倒的ともいえる速度、そして曲芸のような機動をもって次々とビームを回避し続けた。

 

 「運動性も厄介だが、邪魔な光だ!」

 

 エクセリオンの機動性は確かに脅威だ。

 

 しかしそれと同様に翼から放出されている光が撹乱しており、動きが捉えられない。

 

 「おのれ、天使でも気取るつもりか!」

 

 サルワは届かない攻撃に苛立ち、残ったドラグーンと複列位相砲を用いた波状攻撃を開始する。

 

 「こんなものでたじろぐと思うか、アオイ・ミナト!」

 

 幻惑されるというならば、そのすべてに砲撃を撃ち込めば良い。

 

 ターゲットをロック、火力を全開放。

 

 エクセリオンへ叩き込んだ。

 

 「そっちこそ舐めるなよ!」

 

 アオイは思い切り機体を動かし、攻撃をすべて避けていく。

 

 エクセリオンの機動と幻惑に対応出来ない機体からの攻撃を躱しつつ、マインキャノンとビームライフルで隊列を崩す。

 

 そしてリグ・シグルドまでの道を開くと懐へ飛び込んだ。

 

 「斬るぞ、サルワ・アシュラ!」

 

 ビームサーベルを引き抜き、袈裟懸けに振り抜く。

 

 サーベルを躱そうと下がるリグ・シグルド。

 

 だがエクセリオンの予想以上の速さに反応しきれず、右腕ごとビームライフルが斬り裂かれた。

 

 「チッ、この程度で!」

 

 腕を斬られた動揺をすぐに立て直したサルワはビームクロウで斬りかかる。

 

 「甘い!」

 

 アオイはサーベルを振り上げビームクロウを破壊すると無防備になったリグ・シグルドに蹴りを入れた。

 

 「ぐああああ!!」

 

 「落とさせてもらう!」

 

 完全に体勢を崩したリグ・シグルドに向けて高エネルギー収束ライフル『アンヘルⅢ』を発射する。 

 

 アンヘルの威力は量産型の『グランシーザ』とは比較にならない。

 

 強力なビームを防ごうとサルワは盾を構えるも、ビームクロウを破壊された時にシールドも破損していた。 

 

 破損したシールドなど焼け石に水であり、ビームに呑まれればそれで終わりだ。

 

 「くそォォォ!!」

 

 サルワの叫びが閃光に呑まれようとしたその瞬間、ビームの奔流は僅かにリグ・シグルドから逸れ、左半身を吹き飛ばした。

 

 「曲がった、これはシルヴィアか!? 」

 

 見ればシグルド・グラーフとエレンシアが近くまで追いついてきていた。

 

 だが僅かに曲がったおかげで直撃は免れたものの、リグ・シグルドは最早スクラップ同然の状態になっている。

 

 コックピット部分は無事のようだが、あの様子ではただでは済んでいないだろう。

 

 しばらくエクセリオンと向き合っていたシグルド・グラーフだったが半壊したリグ・シグルドを掴むと残存部隊と共に撤退していった。 

 

 「シルヴィア……」

 

 恩もある彼女とは出来れば戦いたくないし、『マクベイン・エクスキューター』から抜けて欲しい。

 

 だが彼女の生い立ちを考えるとそれも難しいだろう。

 

 そんな事を考えているとエレンシアがエクセリオンに組み付き、ルシアがコックピット内に乗り込んできた。

 

 「大佐、どうしたんです!?」

 

 無言のままルシアはアオイを抱きしめると、体を震わせながら呟いた。

 

 「……良かった。無事で、本当に良かった」

 

 僅かに涙声になりながら抱き着いてくるルシアをアオイも抱きしめ返す。

 

 「大佐、アオイ・ミナト、無事に帰還いたしました」  

 

 ウリエルから連絡が入るしばらくの間、相手の体温を感じるように抱き合っていた。

 

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