機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第16話 黒と獣

 

 

 

 

 地球や月、コロニー圏からも遠く離れた位置に無数の光が集まっていた。

 

 それは宇宙を照らす星の光ではなく無数の集まったモビルスーツの発する光だった。

 

 背後に控える『エスカトロジー』を守るべく、出撃した艦を中心に防衛隊形が取られ、モビルスーツもそれに合わせて展開されていた。

 

 『エスカトロジー』に近寄らせない為に敷かれた幾重もの防衛線。

 

 さらに『エスカトロジー』付近には幾つかのミサイル砲台が設置されていた。

 

 搭載されているのは全弾核ミサイルである。

 

 これは万が一、エスカトロジーの砲撃が失敗に終わった場合に備えた予防策だった。

 

 最悪これを地球に撃ち込めば、地球を混乱させる事ができる訳だ。

 

 これだけの数と兵器を前に正面から抜こうとするのは無謀極まりない。

 

 しかし敵は必ず来る。

 

 何故ならばこれから始まる攻撃こそ彼らの目的を達する為の最後の一手。

 

 これを阻止しなければ現状勢力の敗北は決まってしまうからだ。

 

 故に誰もが油断せず、『エスカトロジー』が予定ポイントまで到着するのを待っていた。 

 

 「予定ポイント到着時刻まで何分だ?」

 

 「残り6時間って所だな」

 

 話しているのは元ジャンク屋でアオイに対する暴行を行った兵士達。   

 

 長年の愛機である改良型リゲルを駆りながら、青い地球を見つめていた。

 

 美しい。

 

 モビルスーツのカメラで撮った拡大映像ではあるが、その姿は宝石のような輝きを放っている。

 

 その美しい星に寄生虫のように住まう者達こそ、自分達を苦難に追いやった元凶だ。

 

 『ベルリン条約』なんてものが出来てから彼らの生活は一変した。

 

 ジャンク屋としての活動は著しく制限され、傭兵として生きるにしても有名どころの傭兵団でもない身分の不確かな者を雇ってくれる所など殆どなかった。

 

 さらに街の人々からはテロリスト扱いで子供が学校にすらいけない状態。

 

 その日の食事にすら困り、家族は露頭に迷った。

 

 もしも統合軍を立ち上げる時、ファウストが拾ってくれなければ、自分達は家族共々飢え死にしていただろう。

 

 だがそんな自分達を救ってくれた恩人すらも、権力者の犬によって殺されてしまった。 

 

 「逃げられるなら殺しとけば良かったんだよ、あんな奴はさ」

 

 逃げ出したアオイ・ミナトの事を考えると腸が煮えくり返りそうになる。 

 

 「しょうがないだろ、外部からの手引きがあったらしいからな」

 

 「ふん、どうせアイツも此処へ来るさ。その時に引導を渡してやれば良い」

 

 「ああ。とりあえずあんな屑の事はほっとけって。それよりもうすぐあの腐った世界は終わり、新しい時代が始まるんだぜ!」

 

 「「「おお!!」」」

 

 確かにその通り。 

 

 後、6時間。

 

 それだけ我慢するだけで世界は一変する。 

 

 彼らの口元には楽し気な、そして誇りに満ちた笑みが浮かんでいた。 

 

 だが、その中の一人が目の端で何かを捉えた。

 

 「ん、光?」

 

 キラッと一瞬、何かが光った。

 

 無論、それは星の光でもなく、コロニーの光でもない。 

 

 良くない予感がして映像を拡大。

 

 目を凝らして、光った方向を観察する。

 

 「どうした?」

 

 「今、何かが光って―――」

 

 その時、彼らの立ち位置とは反対側から発射されたビーム砲が防衛隊形を取るモビルスーツ隊に直撃した。

 

 呆然と突然の出来事に見入ってしまう。

 

 直撃を食らった機体は見る影も無く破壊され、形勢されていた陣形は大きく乱れた。

 

 「何!?」

 

 「敵か!?」

 

 一斉に武器を構え、敵の姿を視認しようとモニターを注視する。

 

 宇宙の暗闇を抜け、彼らの前に姿を見せたものは予想外のものだった。

 

 伸びる砲身と無数の砲口。

 

 中央に鎮座するモビルスーツを覆うような外殻。

 

 その姿を見た彼らの背筋に寒気が走る。

 

 ジャンク屋として数々の兵器を目にしてきた彼らには直感としてソレが何であるかを悟っていた。

 

 「全機、散開しろォォォォォォ!!!」

 

 「ッ!!」

 

 「くそがァァ!!」

 

 力の限り声を上げ、スラスターを全開にその場からの離脱を試みる。

 

 だが、時既に遅し。

 

 一斉に解放された砲撃は第一防衛ラインを形成していた部隊に突き刺さった。

 

 圧倒的な火力に晒された部隊は成す術なく、撃破され防衛ラインに致命的な穴が空いた。

 

 敵はそこを狙って突っ込むつもりだ。

 

 「行かせるものか! おい!」

 

 「分ってる!」

 

 「今度こそ、殺してやる!」

 

 激高し、敵への攻撃を決意する。

 

 彼らを駆り立てるものは同じ志を持つ仲間が無残に倒された事による怒りだけではない。 

 

 見たのだ。

 

 敵の纏う外殻の中央にいた機体。

 

 アレはアオイ・ミナトの駆る新型ガンダム、エクセリオンに相違ない。

 

 何度もデータで確認したから見間違えはあり得なかった。 

 

 「うおおおお!!」

 

 砲撃の死角。

 

 サーベル片手に真上から攻撃を仕掛ける。

 

 「どれだけ火力があろうが!!」

 

 「砲撃出来ない死角から攻められればどうにもできまい!!」

 

 「落ちろ、糞野郎!!」

 

 積年の恨みを込めて怨敵を討ち果たす! 

 

 しかし次の瞬間、予想外の動きを見せた敵機に全員が驚愕する。

 

 装備していた一際長い砲塔が頭上へ向き、きっちりとリゲルを捉えていた。

 

 「へ?」

 

 「まず―――」

 

 「逃げろ!」

 

 その言葉の意味を砲口を突きつけられたパイロットが理解した時にはすべてが遅すぎた。

 

 発射されたビームはリゲルを呑み込み、コックピットに座るパイロットを一瞬の内に蒸発させた。

 

 「嘘だろ」

 

 「あ、ああ」

 

 此処まで苦楽を共にしてきた仲間があっさりと殺されてしまった。

 

 しかも殺したのは―――

 

 「アオイ・ミナトォォォ!!」

 

 「貴様ァァァ!!」

 

 砲塔は未だ上方を向き、外殻の砲口も彼らを捉えてはいない。

 

 仲間が作ってくれた絶好の機会。

 

 砲撃から難を逃れた二機のリゲルが両側面から同時に襲い掛かる。

 

 しかしそこで彼らの意識は途絶え、乗機もまた同時に消えた。

 

 エクセリオンが両手に握るブレードによって両断されてしまったからだ。

 

 あっという間の出来事にやられてしまったリゲルの姿に僅かの間、立ち竦む防衛部隊。

 

 その隙に再び発射された砲撃が防衛部隊を薙ぎ払った。

 

 

 

 

 「ハァ、ハァ、やっぱり、扱いが難しいな」

 

 エクセリオンのコックピットでアオイはバイザーを上げ、汗を拭いた。

 

 通常行う戦闘以上の疲労度。

 

 それだけエクセリオンの纏う外殻が特殊な武装である事を示していた。

 

 外殻の名は高機動兵装『スレイプニル・グラニ』

 

 同盟の高機動兵装『スレイプニル』の発展型装備である。

 

 モビルスーツの強化に重点を置きながら、さらに火力と推進力を強化、ミーティアを上回る圧倒的な火力と機動力を得た。

 

 さらにアカツキやヴァナディスが使用したドラグーンの防御フィールドを応用し、機体全体を守るフィールド発生装置を搭載した事で防御力もアップしている。

 

 だが欠点として操作性の複雑さを招いており、パイロットの負担が増大、コーディネイターパイロットですら手に余る程である。

 

 それを考慮して搭載された制御AIとエクセリオンのW.S.システムによる補助が行われてようやく操縦可能になっている。  

 

 「ハァ、くそ、装備が良くても使いこなせなきゃ意味ないだろ」

 

 飲料を口に含み、再び戦場に視線を向ける。

 

 見渡す限り、敵、敵、敵だ。

 

 この新装備の『スレイプニル・グラニ』でさえ突破できるかどうか。

 

 「それでもやらなきゃ、地球が終わる」 

 

 連中の狙いは絶対に阻止する。

 

 ステラを守る為にも。

 

 それに作戦遂行の為にルシアやスウェンも動いている筈だ。

 

 自分だけ足を止めている訳にはいかない。 

 

 「いくぞ!」

 

 躊躇わずフットペダルを踏み込む。

 

 『スレイプニル・グラニ』のスラスターユニットが火を噴き、圧倒的な加速と共に強烈なGがアオイの体に圧し掛かった。

 

 「グッ」

 

 敵もまた『スレイプニル・グラニ』の外殻を纏ったエクセリオンの巨体に向けて攻撃を撃ち込んでくる。

 

 それでも構わず速度を上げ敵部隊の中へ突撃、ビーム砲とミサイルを一斉発射した。  

 

 砲撃の直撃を受け爆散する敵モビルスーツの光の中を突っ切りながら、アオイは『エスカトロジー』に向かって突き進んでいく。

 

 そこでアオイは機体の足を止めた。

 

 研ぎ澄まされた感覚に引っかかるものがあったからだ。

 

 最近だがアオイは自分の感覚が以前よりも格段に鋭くなっているのを感じていた。

 

 殺気を放ちドラグーンを使用してくるような連中ばかりを相手にしていた為かもしれない。

 

 流石に特定の人物が分かるルシアや伝説のパイロットであるキラ・ヤマト、アスト・サガミのような直感力はない。

 

 それでも敵の殺意くらいは感じ取れるくらいには勘が鋭くなっている。 

 

 「敵がいる……どこだ?」

 

 視線を滑らせ、感じる殺意の場所を特定しようと集中する。

 

 そして、朽ち果てた残骸に目を向けた瞬間、一斉にビーム砲が襲い掛かった。

 

 「ッ!?」

 

 機体を退き、高速移動しながら撃ち込まれたビームを躱していく。

 

 敵の攻撃を回避しながら目の端で捉えたのは見た事のない機体だった。

 

 『アヴァターラ』

 

 所属不明の工房で作り上げた新型機。

 

 悪魔を彷彿させる禍々しい外見と各部に取り付けられた高出力スラスターにもよって外見に似合わない高機動性を持つ。

 

 ドラグーンシステムをふんだんに盛り込み、近接武器も充実させる事で遠近隙のない機体に仕上がっている。

 

 さらにパイロットのSEED能力を最大に引き出すe.s.システムを搭載している。

 

 「この動き、そしてこの殺意は……ルドラ・アシュラか!」

 

 「最早貴様に言うべき事はない。此処で仕留める!」

 

 ルドラは機体に装着した武装を一斉に解放する。

 

 その火力は通常の兵器では考えられないレベルのものだ。

 

 『アヴァターラ』もまたエクセリオンと同じく外殻のようなものを纏っていた。

 

 見覚えがある。

 

 アレは―――

 

 「あの兵器……廃棄コロニーに現れた奴か!」

 

 かつて廃棄コロニーでクロムと戦った時に姿を見せた機動兵器に間違いない。

 

 『フォーリングスター』

 

 かつてザフトが開発した巨大補助兵装ミーティアを改修した追加兵装。

 

 対モビルスーツ戦闘のみならず、高速で動く機動力も確保され、ミラージュコロイドによる隠密行動も可能になった。

 

 高速移動及び隠密行動時はモビルスーツを収納する為に中央に格納スペースが展開され、輸送面でも優れた能力を持つ。

 

 ミーティア自体にNジャマーキャンセラーを搭載、核動力で稼働している為、エネルギー切れはない。

 

 核のエネルギーを用いた試作型の全周囲ビームフィールド発生器を装備しており、ビーム兵器に対する高度な防御性能を誇る。

 

 「巨体の割に良く動く!」

 

 「ルドラ!」

 

 ビームの嵐を掻い潜り、こちらもビーム砲を叩き込む。

 

 だが、直撃した筈の一撃はアヴァターラの眼前で弾け飛んだ。

 

 「ビームフィールド!?」

 

 そして同時に発射されたアヴァターラのビームもまたエクセリオンに届く前に光の壁に受け止められた。 

 

 「奴も同じ装備を!? チィ!!」

 

 お互いにビーム砲を撃ち込むが、すべて展開された防御フィールドによって弾かれてしまう。

 

 攻撃は通用せず、砲撃の応酬では決着がつけられない。

 

 「ならば!」

 

 『フォーリングスター』から射出されたプリスティスビームリーマーが『スレイプニル・グラニ』を狙って這いよってきた。

 

 狙いはビームフィールド発生装置だ。

 

 『スレイプニル・グラニ』の各所に設置された発生装置を破壊すれば、フィールドは展開できなくなる。

 

 そうして丸裸になれば外殻によって巨大になった機体は良い的という訳だ。

 

 「舐めるな!」

 

 ビームブレードでプリスティスビームリーマーで斬り払い、バズーカ砲に持ち替えトリガーを引いた。

 

 「実弾なら貫通できるとでも思ったか!」

 

 ルドラの言葉通り発射された砲弾はフィールドに阻まれてしまう。    

 

 だが、それはアオイも承知の上。

 

 覆う爆煙に紛れて接近、ビームブレードを叩きつけた。

 

 流石にブレードを防ぐ程の防御力はないようで、アヴァターラもビームソードで応戦。

 

 激突したブレードとビームソードが火花を散らした。

 

 「小回りが利かないその機体では貴様の本領は発揮できまい!」

 

 ブレードを力任せに弾き、巨体に似合わない器用な動きで回り込んできた。

 

 直感で危険を感じたアオイは即座に距離を取るが、敵機からの砲撃が襲い掛かる。

 

 「邪魔するな、俺はエスカトロジーへ―――ッ!?」

 

 エスカトロジーに向かおうとしたアオイの下方から別の攻撃が迫ってきた。

 

 伸びてきたのはモビルスーツのアーム。

 

 有線で操られたそれは正確にエクセリオンのコックピットを狙って攻撃を仕掛けてくる。

 

 「くっ、どけ!」  

 

 ブレードからビームライフルに持ち替え、アームを操る有線を撃ちに抜いた。

 

 有線を破壊されたアームはコントロ―ルを失い、機関砲によって撃破された。

 

 「どこから……」

 

 アオイの肌が粟立つ。

 

 強烈なまでの殺気がエクセリオンに向けて放たれている。

 

 「これって」

 

 エスカトロジーへ行かせまいと立ち塞がったのは、通常のモビルスーツの倍近くはある巨体だった。

 

 脚部がなく左右に両腕、背中にも突き出された砲塔とアームユニットが見える。

 

 各所には砲口らしきものが設置されており、明らかに砲撃戦を意識した機体だと分かる。

 

 『ブラフマー』 

  

 所属不明の工房が作り上げた新型機でモビルスーツというよりはモビルアーマーに分類される機体である。

 

 通常の機体よりも巨体であるが各所に設置されたスラスターと高出力のメインスラスターにより、見た目以上の機動性と火力を誇る。

 

 パイロットであるサルワ用に調整が加えられており、アオイの予想通りに砲撃戦よりの武装になっている。

 

 「アオイィィィ!!!」

 

 「サルワ・アシュラ!」

 

 ブラフマーから発射された強烈な砲撃。

 

 ただのアンチビームシールドであればあっさり融解しそうな一撃だが、エクセリオンが展開しているフィールドには通用しない。

 

 だが、砲撃によって動きが鈍った所に背後から迫ってきたルドラが接近戦を仕掛けてくる。

 

 「行かせはしない!」

 

 「ッ、こんな状態でインファイトかよ!」

 

 巨体を振り回し、繰り出す剣戟がエクセリオンを掠めていく。

 

 アオイは機体を無理やり振り回し、ルドラの間合いから飛び去り再びバズーカ砲を発射した。

 

 しかし今度はサルワが構えたライフルが砲弾を撃ち落とす。

 

 「サルワ、あの怪我でどうやって動いているかは知らんが下がれ。奴は私が倒す」

 

 重傷だったサルワがモビルスーツに乗っている以上、相当の無理をしているのは明白だった。

 

 それこそ命を削る程の。

 

 だがそんなルドラの気遣いをサルワは跳ね除ける。

 

 彼にも決して譲れないものがある故に。

 

 「ハァ、ハァ、そういう訳には、行かないよ、ルドラ。奴は私の獲物だ!」

 

 展開された守備隊をミサイルで蹴散らしながら進む、敵に対してありったけの憎しみを込めてビームを放つ。

 

 だがアオイは隙間を抜けるように加速、砲撃を置き去りにロングレンジ高エネルギービーム砲で守備隊を砲撃した。

 

 「狙うはあくまでエスカトロジーという訳か!」

 

 「私達を同時に相手にしながら! 舐めるなよ!!」

 

 「お前達に構っている時間はないんだ!!」

 

 三つの巨体は激しい砲撃戦を繰り広げながら、展開された防衛線の中を高速で移動していった。

 

 

 

 

 アオイが戦闘に突入した頃、別の方角から近づく機影があった。 

 

 スウェンの駆る新たな機体である。

 

 ADT-X02 『ストライクノワール・クリュメノス』

 

 同盟の新型機開発計画の一環で開発された機体でストライクの名を冠しているものの、中身は完全に別物の新型機。

 

 基本的な武装などはかつてのストライクノワールを踏襲しており、パイロットであるスウェン・カル・バヤン大尉の特性と希望に合わせ調整が行われており、彼専用の機体となっている。

 

 そしてこの機体もまたエクセリオン同様外殻を纏っていた。

 

 高機動兵装『スレイプニルⅡ型』

 

 『スレイプニル・グラニ』の先行試作量産型。

 

 量産化を目的としたデータ収集機としての意味合いが強く、コストを抑える為『スレイプニル・グラニ』よりも火力は劣る。

 

 しかし火力、機動力の向上が図られ、全体的な性能は『スレイプニル』よりも上。

 

 さらに試験的なビームフィールド発生装置を搭載しているが、その出力は『スレイプニル・グラニ』より抑えられている。

 

 操作性の複雑さも改良されつつあるが、それでもパイロットの負荷が大きいのに変わりない為量産化への課題として残されている。

 

 「中尉は予定通りのようだな」

 

 アオイは現在敵の第一防衛ラインを超える為に敵陣の中で奮戦中。

 

 おかげで敵の注意は正面に向いている。

 

 これで側面からの奇襲がしやすくなった。

 

 後は反対側から攻めるルシアの攻撃と合わせれば良い。

 

 「味方の本隊が到着するまでに敵の砲台くらいはどうにかしたいが」

 

 スウェン達の目的は三方向からの奇襲による敵戦力の分散と撹乱。

 

 そして本隊到着まで時間稼ぎ、可能であればエスカトロジー近辺に設置してある核ミサイルを破壊する事である。

 

 出来ればエスカトロジーを落としてしまいたい所だが、流石にそれは無茶というもの。

 

 いかにスレイプニルを用いるとはいえ、あの数に対して単機で突破するのは不可能だ。 

 

 「時間がないから念密な作戦は立てられないとはいえ……」

 

 目の前の敵数を見れば誰だって辟易する。

 

 それでも一切怯む事がないのはスウェン・カル・バヤンが歴戦の勇士だからか。

 

 「行かせてもらう」

 

 こちらの射程に入ると同時にミサイルを一斉発射、砲台へと一直線に駆け抜ける。

 

 スウェンの発射したミサイルによる奇襲に敵は完全に浮足立っていた。

 

 そこにビーム砲を叩き込み、さらなる打撃を与える。

 

 散漫な攻撃もスレイプニルの圧倒的な推力とビームフィールドによる防御で通用しない。

 

 「この装備、思った以上の性能のようだ」

 

 今の内に砲台まで駆け抜けようとしたスウェンだが、そこに見覚えのあるモビルスーツが現れた。

 

 「よお、スウェン!!」

 

 「アルド・レランダー」

 

 立ちはだかるはアルドのベテルギウス。

 

 しかしその姿は依然とは別物になっていた。

 

 『ベテルギウス・ヴァイパー』

 

 月面紛争時にて実戦投入されたべテルギウスのデータを基に改修、建造された機体。

 

 正体不明の工房で作り上げたものであり、形式番号は存在しないが、その性能は各陣営の最新鋭機にも劣らない。

 

 強化兵専用に改修されたOSを搭載、破格の追随性と機動性を持っている。

 

 「新型か」

 

 「前の戦いはお互いに消化不良だっただろ。機体も万全じゃなかったしな。でも今日は違う。思いっきり殺し合おうぜ!!」

 

 「……貴様は何の為に戦っている?」

 

 「何だそりゃ、もう知ってるだろ。俺が戦うのは楽しいからだ! 戦闘以上に楽しい娯楽などないんだよ!」

 

 アルドにあるものはただの闘争。

 

 それで得られる快楽とスリルのみ。

 

 「分かってはいたが、救えない。貴様は俺が引導を渡してやる」

 

 「いいねぇ、そうこなくっちゃな!!」

 

 アルドの歓喜に反応するように背中のマニュピレーターが翼の如く展開された。

 

 「いくぜぇぇ!!」

 

 スウェンは動き出すベテルギウスに向けて砲撃を開始する。

 

 当然のように出鱈目な動きで回避したアルドは歓喜の声を上げながら、ビームライフルを乱射してきた。

 

 「おらおら!」

 

 もちろんそんな射撃が通用せず、フィールドによって攻撃は弾かれる。

 

 しかしそれはアルドも予想していたようですぐさま近接戦に切り替えてきた。

 

 「厄介な装備じゃないか。まずはそれを攻略させてもらおうか!」

 

 「相変わらず遊び気分か」

 

 ブレードでベテルギウスを弾き、再び砲撃の間合いまで距離を置こうとする。

 

 だが逃さないと伸びたマニュピレーターがフィールドを突き破り、スレイプニルの装甲を抉り捨てた。

 

 「そんな鈍重な装備で近接戦が出来るとでも思っているのかよ!」

 

 幾ら対モビルスーツ戦を想定し、近接戦用装備を意識してもスレイプニルを装着したままでは細かい動きには対応できない。

 

 特にアルドのようなエース級であるなら、尚の事だ。

 

 「……だとしても」

 

 ブレードでマニュピレーターの攻撃を防御しながら、抜き出したもう一本のブレードを叩きつける。

 

 「ウザったいんだよ!」

 

 ベテルギウスは両腕に装着している中型多連装ビーム砲を至近距離から連続発射。

 

 盾代わりに掲げられたブレードは限界を超え、半ばから砕け散った。

 

 さらに繰り出されたマニュピレーターによる攻撃でスレイプニルの砲口の一つが潰されてしまう。

 

 「……限界か。砲台を破壊する前にスレイプニルをやられては意味がない」

 

 スウェンはスモークを発射し、ベテルギウスの視界を塞ぐ。

 

 そしてスレイプニルを切り離すと斬艦刀を構えて接近戦を挑む。

 

 「鈍重な装備を切り離したかよ。これでやっとまともに戦えるぜ!」

 

 上段から振り下ろされた斬艦刀を軽く捌いたアルドはマニュピレーターを繰り出し、同時にビームソードを構えて斬り結ぶ。

 

 ベテルギウスの背中から伸びるマニュピレーターは全部で8本。

 

 さらに両手のソードを合わせると合計で10本の刃がストライク・ノワールに襲い掛かる。

 

 「ッ!?」

 

 まるで蜘蛛だ。

 

 四方八方から繰り出される一撃は文字通りの縦横無尽。

 

 捌き切る事すら難しい無数の斬撃を前にスウェンは防御する他ない。

 

 ビームシールドを展開し、斬撃を受け続ける。

 

 しかし10本の斬撃は確実にストライクの装甲に傷を刻んでいく。

 

 「どうした、防いでばかりじゃ俺は倒せないぜ!」

 

 シールドの上から渾身の一撃が叩き込まれ、ストライクは仰け反るように吹き飛ばされる。

 

 その隙を突き、さらに前に出たベテルギウスだが此処で予想外の反撃を食らってしまった。

 

 無理やり展開したレール砲を至近距離で炸裂させベテルギウスを無理やり引き離したのだ。

 

 さらに射出したアンカーに牽引されていた斬艦刀がマニュピレーターに激突し、動きを阻害されてしまう。

 

 「何!?」

 

 「熱くなり過ぎだ!」

 

 目論見通りの結果だ。

 

 斬艦刀を回収したスウェンはビームライフルショーティーに持ち替え、動きを止めたマニュピレーターを狙撃する。

 

 動きが鈍った複数のマニュピレーターを破壊、再び斬艦刀で斬り結んだ。

 

 「やるじゃないか! けどまだまだぜ!!」

 

 突如背中から切り離されたマニュピレーターの先端部分が四方からストライクへと襲い掛かってきた。

 

 「ドラグーンか」 

 

 四方からの攻撃をストライクの機動性を生かし捌いていくスウェン。

 

 しかし躱した瞬間を狙い、振るわれたビームソードが斬艦刀を叩き折る。

 

 さらにマニュピレーターの一撃がストライクを逆袈裟に傷をつけた。

 

 「チッ」

 

 ライフルで牽制しながらシールドを構えて後退する。

 

 厄介な。

 

 切り離されたドラグーンの突撃攻撃に加え、背中のマニュピレーターによる多重斬撃。

 

 アルドの能力ではドラグーンをルシアのように操る事は出来ないようだが、その欠点を補う為に常に接近してくる。

 

 ベテルギウスの斬撃から距離を取ろうとすればドラグーンの攻撃に晒されるという訳だ。

 

 唯一の救いはベテルギウスに搭載されたドラグーンはどうやらビームカッターによる近距離攻撃しか出来ないという事くらいだろう。

 

 スウェンは持ち替えたビームライフルショーティ―の連撃で距離を置こうとするが、それをさせるアルドではない。

 

 逃がさないとばかりに繰り出される斬撃がストライクを削り、動きを鈍らせていく。

 

 「今回も俺の勝ちみたいだなァァ!!」

 

 「どうかな」

 

 速度を上げたストライクは一転してベテルギウスに向かって突撃する。

 

 激突するか否かというギリギリのタイミングですれ違い、その瞬間にビームライフルショーティ―の一射がベテルギウスの肩を撃ち抜いた。

 

 「ッ、やってくれるな! 最高だぜ! お前もそう思うだろ? この瞬間こそが楽しいってよ!!」

 

 どこまでも楽しそうに、どこまでも嬉しそうに笑うアルド。

 

 その声にスウェンははっきりとした拒絶の言葉を口にする。

 

 「貴様と一緒にしないでもらう……遊びで戦っている男に負ける気はない」

 

 「そうかよ!」

 

 加速するストライクの動きを止めようと両腕の多連装ビーム砲が火を噴いた。

 

 まるで誘導されているかのようにストライクを追尾してくるビーム。

 

 蛇のように纏わりつく閃光が背中の装備や装甲を削ってゆく。

 

 「ぐっ、この程度」

 

 さらに速度を上げて残りのビームを振り切ると再びベテルギウスに突撃する。

 

 「破れかぶれの突撃か?」

 

 「獣には獣相手の戦い方がある」

 

 「は、見せてもらおうじゃないか!」

 

 多連装ビーム砲の攻撃もシールドで庇い、速度も落とさない。

 

 その動きを見切っていたアルドは絶妙のタイミングでストライクの突撃を回避すると再び多連装ビーム砲を構える。

 

 だが、突然の衝撃につんのめってしまう。

 

 「何!?」

 

 先ほど叩き折った斬艦刀の残骸が投擲されたのだ。

 

 「く、奴は?」

 

 アルドが立ち直る一瞬の間。

 

 その間の距離を詰めたストライクはベテルギウスへ突撃する。

 

 「ぐああああ!」

 

 「グッッッ!!」

 

 二機のモビルスーツはもつれ合い、スウェンとアルドはその衝撃に呻く。

 

 常人なら気を失ってもおかしくない衝撃だ。

 

 それでも二人が意識を保っていられたのは、訓練の賜物だろう。

 

 頭を振り、正気に戻ったアルドはスウェンよりも速く動く。

 

 強化されているが故に衝撃にも強い。

 

 それがスウェンよりも速く動けた理由。

 

 ベテルギウスによってストライクは蹴り飛ばされ、体勢を大きく崩してしまう。 

 

 「楽しかったぜ、スウェン!!」

 

 ビームライフルをストライクのコックピットへ突きつける。

 

 勝利を確信したアルド。

 

 しかしその耳にスウェンに冷静な声が届いた。

 

 「……お前は戦いを楽しみすぎる。だから大切な事を見失ってしまうんだよ」

 

 「何ッ!?」

 

 ストライクの背中から伸びたワイヤーが繋がっているのは―――

 

 「あの外殻!?」

 

 アルドの視線の先にはスレイプニル。

 

 その砲口は丁度、ベテルギウスを捉えていた。

 

 「しま―――」

 

 「遅い!」

 

 スウェンがトリガーを引いた瞬間、スレイプニルから大量の砲撃がベテルギウスに襲いかかる。

 

 すべてはスウェンの罠だった。

 

 あの突撃も、折れた斬艦刀の投擲も、今までのすべての攻撃がベテルギウスをスレイプニルの攻撃範囲におびき寄せる事が目的だったのだ。 

 

 「クソがァァァァァァ!!」

 

 叫ぼうがもう遅い。

 

 避ける暇はなく、防御も遅い。

 

 「戦う事しか考えない獣には相応しい末路だ」 

 

 砲撃と同時にベテルギウスに発射したビームライフルショーティーが突き刺さった。

 

 無数のビームとミサイル、そしてライフルの一撃はベテルギウスに直撃し、そのまま爆発を引き起こす。

 

 「手応えはあった」

 

 強敵ではあった。

 

 しかし何の感慨も浮かばない。

 

 それはアルド・レランダーという男に何の共感も得られなかったからだろう。

 

 スウェンはスレイプニルを再び装着し、核ミサイルの搭載された砲台へと急ぐ。

     

 エスカトロジーでの戦闘は激化の一途を辿っていた。

 

 

 

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