エクセリオンガンダムとストライク・ノワールクリュメノスによる奇襲攻撃。
これらと同時刻。
スウェンが攻撃を行った場所から丁度反対方向からルシアのエレンシアガンダムが接近していた。
「あれが『エスカトロジー』、アレだけの大きさのものが建造されていたのに気が付かなかったなんて」
間近でエスカトロジーを確認して改めて思うのは、その異常さだ。
これだけの大きさを持つ戦艦を誰にも気づかせずどうやって建造したというのか。
建造すること自体はミラージュ・コロイドで隠ぺい可能ではあるだろう。
しかし建造する為の人員は?
資金源は?
そもそも彼らの所持している核ミサイルとNジャマーキャンセラーは何処から手に入れたのか?
幾らウォーレン・マクベインが統合軍に属しながら密かに準備していたとはいえ、これだけの物を単独で準備できる訳がない。
「……気にかかる事は多いけれど!」
先に奇襲を仕掛けた二機同様エレンシアに装備された『スレイプニルⅡ型』の砲口を展開している敵部隊へ向けた。
トリガーを引き、ビームとミサイルが敵部隊を薙ぎ払った。
敵に『スレイプニルⅡ型』の火力に対応できる機体は今の所存在しない。
なら今が砲台に近づく好機。
混乱を煽る為にスモークを展開して敵の視界を塞ぎ、そこに誘導ミサイルを容赦なく叩き込んだ。
派手な爆発と広がる爆煙に敵は完全に浮足立った。
浴びせられる攻撃も『スレイプニルⅡ型』の展開するフィールドによって防がれ、傷一つつかない。
この装備なら多少の強行軍にも十分に耐えられる。
「敵の抵抗が思った以上に少ない。二人が上手くやっているようね」
ルシアは『エスカトロジー』近くにある砲台の一つに狙いを絞ると、収束ライフルを構えた。
「そこ!」
発射されたビームが砲台を貫通。
眩い核の爆発が『エスカトロジー』に大きく揺らした。
「この調子でもう一撃―――ッ!?」
その時、予想通りの感覚がルシアを駆け巡った。
「来た」
この感覚は間違いない。
ルシアが相手をすべき敵がこの先で待っている。
感じ取れる殺意と憎悪の導く先に一機のモビルスーツが佇んでいた。
『ヴィカラーラ』
所属不明の工房が作り上げた新型機。
シルヴィア・ヒビキの特性に合わせた機体となっており、空間認識力を生かす武装が多く搭載されている。
ユニウス戦役最終決戦で投入されたザフト機『レヴィアタン』を参考に開発され、両肩部にある四枚の羽根のような装甲に設置されたスラスターによって高い機動性と防御力を誇る。
コックピットに特殊システムを搭載、シルヴィアの空間認識力をさらに高め、高い空間認識力を持つ者や『SEED』をより感知しやすくなっている。
「待っていた、ルシア・フラガ」
「シルヴィア・ヒビキ」
「私の事はアオイから聞いたようね。ならば問答無用、貴様らフラガ家の人間は全員殺す!」
シルヴィアの殺気が一層濃くなり、ヴィカラーラも臨戦態勢に入る。
同時にシルヴィアの背後に控えていたモビルスーツも動き出した。
『強化型リグ・シグルド』
シグルド・グラーフやルドラ、サルワ機のデータを基にリグ・シグルドの性能を強化した強化兵仕様の機体。
さらに性能が高まった反面並みのパイロットでは動かす事すら難しい仕様になっている。
「リグ・シグルドの改修機、しかもパイロットは皆、強化兵か」
どうやらシルヴィアは想像以上に強かな女らしい。
自身の手による復讐に拘らず、ルシアを殺す為ならどんな手でも使う。
あの強化型リグ・シグルドもその為の手駒という事だ。
「感情的でありながら、冷徹な部分も捨てていない。厄介な」
シルヴィアの手強さを認識したルシアは『スレイプニルⅡ型』を切り離した。
核を搭載した砲台も展開された防衛部隊もまだ健在。
今切り札である『スレイプニルⅡ型』を失う訳にはいかないのだ。
「それにあの新型相手に鈍重な外殻を纏ったまま、勝てるとも思えないしね」
一斉に襲い掛かってくるリグ・シグルドを迎え撃つべくルシアも武器を構えた。
リグ・シグルドは一糸乱れもなく横一列に並ぶとビームカッターを伸ばしてきた。
「ッ!?」
ビームカッターによる波状攻撃をエレンシアはシールドを構えビームライフルの射撃しながら後退する。
ルシアはこの伸縮自在の攻撃はリグ・シグルドと相対する上で厄介な点だと思っていた。
武器の持ち替え無しで近接戦と中距離戦の切り替えが可能。
しかもほぼタイムラグも無しでだ。
これにドラグーンを組み合わせた戦術を用いれば―――
「場数を踏んだパイロットでも対応は難しいでしょうね」
エレンシアの翼を広げ、カッターの斬撃を躱したルシアは反撃に打って出た。
飛行形態に変形、その機動性を持ってビームの刃を掻い潜り、リグ・シグルドとの距離を詰める。
まるで空を飛ぶ鳥ような動きにリグ・シグルドはエレンシアを捉える事が出来ない。
「もらった!」
瞬時にモビルスーツ形態となり、ビームサーベルを逆袈裟から振り上げた。
だが、必殺として放った一撃は致命傷には至らず、敵機の腕を斬り裂くだけに留まってしまう。
「反応が速い!」
「忌々しい話だけど通常の強化兵よりも能力が強化されているのよ!」
動きが止まった一瞬を狙ったビームキャノンの一射がエレンシアに迫る。
フラガ家特有の感覚による鋭い狙撃。
動きを完璧に読んだ一射はエレンシアを確実に捉えていた。
「ッ!? 舐めるな!」
ルシアは咄嗟にリグ・シグルドに蹴りを入れ、その反動を利用しビームキャノンの一撃を避けて見せた。
だが狙撃は止まず、次々と急所を狙った一撃がエレンシアに襲い掛かった。
「流石、『父』の力を受け継いでいるだけはある! けど!」
キャノンの一撃をシールドで流し、高エネルギー収束ライフルで反撃した。
高出力のビーム同士の激しい撃ち合い。
他者を寄せ付けない凄まじい砲撃戦が、開始された。
◇
三方向からガンダムによる奇襲を受けた『エスカトロジー』
それぞれ戦闘が開始され、一進一退の攻防が繰り広げられていた。
形成された三つの戦場の中で最も激しい戦闘が行われていたのはアオイが攻撃を仕掛けた『エスカトロジー』正面であろう。
絶え間なく続く砲撃。
無数に存在するモビルスーツ。
激闘を繰り広げる三人のエース達による攻防。
それがより一層戦闘を激化させていた。
「アオイ・ミナト!!」
「落ちろ!」
「邪魔するな!」
立つ塞がる敵機を無視し『エスカトロジー』に向かうエクセリオンにアヴァターラとブラフマーの猛攻は続く。
幸い防御フィールドのおかげで致命傷には至っていない。
しかし撃破しても群がる敵機の厚い防衛網を突破できず、足踏みを強いられていた。
「どけよ!」
敵陣に向けて発射したロングレンジ高エネルギービーム砲が敵戦艦を薙ぎ払い、無理やり開けた穴から前方へと突撃する。
それを阻止すべくブラフマーの放ったアームユニットが回り込む。
「ッ!?」
放たれるビーム自体は脅威ではない。
問題はフィールドを突破し、『スレイプニル・グラニ』にダメージを与えられるアームユニットのような近接武装だ。
フィールドを剥がされたらエクセリオンは丸裸にされてしまう。
アオイは咄嗟に機体の進路を変えアームユニットを回避、取り出したバズーカ砲で撃ち落とした。
「動きを止めたな!」
アヴァターラのプリスティスビームリーマーの一撃がフィールドを突破し、バズーカ砲諸共ビーム砲の一つが潰されてしまう。
「ぐぅぅぅ!」
「いかに貴様が戦闘に長けていようとこの数を単機で突破など出来るものか!」
「このォォォ!!」
進路を阻むアヴァターラへ機体ごと激突し、一瞬の隙にブレードをフォーリングスターへ突き刺した。
「くっ、貴様!!」
「動き止めたのはお互い様だ!」
フォーリングスターのフィールドこそ消せなかったものの、かなりの痛手だったのかあからさまに動きが鈍った。
照準を合わせてビーム砲を撃ち込もうとすると、今度はブラフマーが突っ込んできた。
「させるものか!」
「サルワ・アシュラ!!」
体当たりでフォーリングスターから引き離されたエクセリオンにブラフマーの砲撃が襲い掛かる。
両肩に装備されたビームライフル。
さらに複列位相砲、多連装ビーム砲。
そしてミサイルと射出されたドラグーン。
無数のビームの雨と弾幕がエクセリオンの動きを鈍らせ、視界を塞いだ。
「そこだ!」
爆煙に紛れブラフマーから伸ばされたアームユニットがフィールドを貫通。
『スレイプニル・グラニ』のミサイルポッドを食い破った。
「ぐあああ!!」
ミサイルポッドの爆発で大きくバランスを崩し、さらにエクセリオンを守っていたフィールドが一時的に消失した。
「ッ、爆発の衝撃で、すぐに再展開を」
「させるものか!」
この好機を逃がすほどサルワは呑気ではない。
一気に距離を詰め、エクセリオンを仕留める為に接近戦を挑む。
「うおおおお!!」
「くっ」
もはや『スレイプニル・グラニ』による強行軍は無理と判断しエクセリオンから切り離そうとした瞬間、意外な援軍が割って入ってきた。
『スレイプニルⅡ型』を装着したストライクノワール・クリュメノスがブラフマーを突き飛ばし、ミサイルを撃ち込んで吹っ飛ばしたのだ。
「無事か、中尉!」
「大尉!? 核ミサイルは?」
「そちらは破壊した。こいつは俺がやる。中尉は先へ行け!」
「ッ、了解!」
優先すべきは『エスカトロジー』と核ミサイルを搭載した砲台の破壊。
此処で足止めされている時間はない。
フィールドをどうにか復旧させ、この場をスウェンに任せたアオイは『エスカトロジー』への進撃を再開する。
「逃がすものか!」
「行かせはしない!」
追撃しようとしたブラフマーに体当たりで進路を阻み、アヴァターラへビーム砲を発射した。
「雑魚が邪魔をする!」
「サルワ、相手を侮るな」
「分っている!」
ブラフマーは執拗にエクセリオンの追撃に向かおうとするが、それを悉くストライクノワールによって阻まれていた。
サルワは明らかに普段の冷静さを失っている。
怪我を押して出撃した影響か。
しかしその割にブラフマーの動きに違和感はなく、むしろ普段よりも攻撃や機動は鋭い。
「……何をした、サルワ?」
そもそもあの重傷でどうやって動けるようになったのか?
サルワの怪我。
特に左腕と左足は全く動かない程の重傷だった筈。
それを無理やり動かせるように出来る人間―――
「ヴェクト・グロンルンドか」
大方、アオイへの敵愾心を利用してサルワを上手く丸め込んだのだろう。
「サルワに冷静さを取り戻させる為には、アオイ・ミナトの始末を優先すべきだな。どの道、『エスカトロジー』を潰させる訳にはいかん」
立ち塞がるスウェンに閃光弾を発射し、視界を奪うとアオイ追撃に体勢に入る。
「サルワ、来い!」
「行かせん」
伸びたワイヤーがブラフマーを掴み、撃ち込まれたミサイルがアヴァターラとの距離を離した。
「くっ、ルドラは先へ! 私はこの雑魚を始末してからすぐに後を追う!」
「油断はするなよ」
「了解!」
エクセリオンを追うアヴァターラ。
それを阻止すべく動こうとしたスウェンの前にブラフマーが立ちふさがった。
「アオイ・ミナトの前にまずはお前から始末する」
「出来るものなら」
スウェンは敵の機体を観察すべく、砲撃を防ぎながら素早く視線を走らせる。
これまでの攻撃や装備からみて砲撃戦仕様のモビルアーマーだろう。
こちらと同様にビームフィールドを展開しているらしく、ビームやミサイルの攻撃は軒並み弾かれてしまう。
さらに通常のモビルスーツならあっさり消し炭に出来る威力のビームを次々と発射してくる。
『スレイプニルⅡ型』のフィールドが無ければ、大ダメージは必至。
仮にアンチビームシールドで防御したとしてもあっと言う間に融解してしまうだろう。
「呆れる程の高火力。距離を取っての攻防では決着はつかないな」
となれば取るべき戦法はセオリー通りの近接戦。
問題があるとすれば、
「あの火力を潜り抜けられるかどうかだな」
砲撃から逃げまわり、隙を伺っているとブラフマーからアームユニットが射出された。
有線で操られた腕が牙を剥き出しにした蛇のように這いよってくる。
「あれでフィールドを食い破るつもりか。それにあの動き、強化兵か?」
「強化兵、忌々しい。あんなものと同種に見られるとは。しかし―――」
それも致し方ないのかもしれない。
自分の左腕と右足を見る。
サルワの片腕と片足は義手、義足となっていた。
それをコックピットに設置された器具にダイレクトに接続する事で通常の操縦よりも格段に反応速度を増した動きが可能になっている。
さらに術後の身体の安定を図る為の特殊なナノマシンや薬物も使用されていた。
今も全身が痛むものの、それでも戦闘可能なのは強化処置を受けたから。
つまりサルワは強化兵とほぼ同じ状態になっているのだ。
「屈辱だとも。あんな男の実験台にされるなど。それでも優先すべきは私の矜持などではない。アオイ・ミナトの確実な死、それのみ!」
アームユニットを操りながら巨体に似合わない速度で動いたブラフマーはストライクノワールの先に回り込む。
そしてもう一つのアームユニットを射出し、『スレイプニルⅡ型』の砲口を斬り潰した。
「ッ、この程度ならば!」
ビームライフルでアームユニットの有線を切り落とす。
しかしさらに射出されたアームユニットが『スレイプニルⅡ型』を四方から食い破った。
それにより動きが止まったストライクノワールに向けてビームカッターを叩きつける。
「これでその目障りな装備は使えまい!」
「初めから当てにしてはいない!」
むしろそっちから距離を詰めてくれて感謝しているくらいだ。
スウェンは『スレイプニルⅡ型』を切り離しビームカッターをシールドで止める。
そしてビームライフルショーティーの先端に装着されたバヨネットを敵機の腹部に突き刺した。
「迂闊に接近したのが命取りだ」
ビームライフルショーティーが突き刺さったままトリガーを引くとブラフマーの装甲を吹き飛ばした。
「ぐぅぅ、調子に乗るなァァァ!!」
「ッ!?」
残ったアームユニットが上部より襲撃し、左腕ごとビームライフルショーティーを破壊。
さらに多連装ビーム砲の攻撃をストライクノワールに浴びせかけた。
悪手であると分かっていても、強力な砲撃を前にスウェンは後退を選択する。
それを待っていたように事前に展開されていたドラグーンが待ち受けていた。
「これだけの数を捌き切れるか!」
数は十を超え、ストライクノワールの四方からビームを放ってきた。
その精度は強化されたからか、もしくは元からの才能だったのか。
以前よりも遥かに高度な精度をもってストライクノワールを追い詰めていく。
「この精度、大佐並みか!?」
避けきれないと判断し急所を守りながら後退。
さらに速度を上げてビームの網を振り切ると散弾に切り替えたレール砲を発射する。
対ドラグーンにおける戦術としての基本。
それは囲まれないよう動きを止めずに距離を取り、そして多弾頭ミサイルや散弾砲を使用した面制圧である。
一部のエース達が砲撃を躱しながら砲塔を一つ一つ落とすなんてのは神業だ。
一般のパイロットに出来る芸当ではない。
だから面制圧ならば複数の砲台を同時に落とす事も可能であり、さほど精度を気にする必要もない訳だ。
発射された細かい散弾がドラグーンに直撃し、砲台の破壊に成功する。
しかしすべての排除には至らず、肩にビームが掠め損傷を負ってしまう。
「動きが鈍った!」
吐き出すように発射されたブラフマーの複列位相砲がストライクノワールの脚部を呑み込んだ。
「ぐッ」
片足が吹き飛ばされ、さらに多連装ビーム砲による砲撃が矢継ぎ早に襲い掛かってくる。
スレイプニルを切り離し、此処まで僅か数分。
たったそれだけの時間でストライクノワールの装甲は無残なまでの傷だらけの状態に変えられてしまった。
そもそもの火力が違うのだから当然ともいえる結末。
例えるなら艦隊相手にモビルスーツ単騎で砲撃戦を挑もうとするに等しい。
「手こずらせてくれた。いや、此処まで持った事にむしろ称賛すべきか」
ボロボロの状態でなお足掻くストライクノワールに初めて称賛を口にすると全砲口を敵へと向けた。
「これで終わりだ!」
ストライクノワールの全身をあっさり呑み込む程、強力なブラフマーの全砲撃が迫る。
直撃すれば間違いなくモビルスーツなど跡形もなく消し去られてしまうだろう。
しかしスウェンの目には悲壮感はない。
むしろこの瞬間こそを待っていたのだと言わんばかりに、ビームシールドを展開して機体を前進させた。
光の中に飛び込んだ敵の姿に流石のサルワも目を見開く。
「自棄にでもなったか―――ッ!?」
次なる砲撃を加えようとした次の瞬間、ブラフマーの背後から強烈な爆発が巻き起こる。
「ぐあああ!!」
その爆発はいかにブラフマーであっても耐えきれる規模ではなかった。
衝撃と爆発によって背中のスラスターと装甲に大きな障害が出てしまう。
「な、何が」
ブラフマーの背後で爆発したのはスウェンが切り離した『スレイプニルⅡ型』
自爆によって残っていたミサイルも誘爆し、凄まじい爆発となってブラフマーに損傷を与えたのだ。
「今までの戦いは時間稼ぎと私を外殻付近に誘導する事が目的だったのか。小賢しい!」
背後に気を取られた僅かの間。
正面から伸ばされたワイヤーが機体に巻き付き、身動きができなくなってしまう。
そしてさらにブラフマーに向けて何かが突っ込んでくる。
「なっ」
それはストライクの背中に装備されていたノワールストライカーだった。
ワイヤーによって身動きが出来ずスラスターも損傷しているブラフマーにノワールストライカーを避ける余力はない。
正面から激突したノワールストライカーの爆発によりサルワの視界が完全に潰されてしまった。
「ぐっぅぅぅ、や、奴は?」
そして爆発の煙が晴れ、視界が戻ると同時にサルワは瞠目する。
いつの間にか懐へと飛び込んでいたストライクが斬艦刀を振り上げ、正面から斬り込んでいたのだ。
勿論、ブラフマーに避ける術はない。
自分がこんな所で―――
走馬燈のように過去の情景が駆け巡る。
自分達の生まれた理由。
父親の冷たい視線。
絶望した日々。
生まれてから今までずっと一緒に過ごしてきたかけがえのない唯一の家族ルドラ・アシュラ。
出会ってから救いをもたらしてくれた女性シルヴィア・ヒビキ。
自分達を家畜のように扱った仇ヴェクト・グロンルンド。
そして憎き敵アオイ・ミナト。
すべては此処からだった筈。
サルワは眼前に迫る刃を引きつった顔で見つめながら、呆然とする他ない。
「こ、こんな、馬鹿な」
目の前の現実を受け入れる事が出来ないまま、サルワ・アシュラはストライクの斬艦刀によって跡形も無く斬り潰された。
斬艦刀によってコックピットを潰されたブラフマーは力を失い、破損した部分から火を噴き、大きな光の華となって爆散した。
◇
仕掛けられた奇襲攻撃による動揺からマクベイン・エクスキューターも徐々に立ち直り、部隊の統制も普通に戻っていた。
これほどに早く混乱から立ち直れたのは『エスカトロジー』のブリッジから指揮を執っていたウォーレン・マクベインの優れた統率力によるもので間違いない。
「とはいえ幾つか核ミサイルを潰されてしまったのは痛かった。この動きに速さは流石は同盟というべきだろうな」
感心するように呟くウォーレンに副官が咎めるような視線を送る。
「感心している場合ではないでしょう。彼らが来たという事は敵本隊も近くまで来ている筈です」
「だろうな」
そんな二人の予想通りにオペレーターからの報告が飛んできた。
「地球の方から数隻の戦艦とモビルスーツ。同盟軍とテタルトス軍だと思われます」
「来たか」
「さらに別方向から統合軍」
報告を聞いたウォーレンは立ち上がると扉の方へ向かう。
「どちらへ?」
「せっかく来てくれた客だ。盛大にもてなさないとな。特にヴィルフリート・クアドラードとアオイ・ミナトの二人には。此処は任せるぞ」
何も言わずに見送った副官は一人静かにモニターを眺める。
「……自覚が足りない。貴方は『マクベイン・エクスキューター』の首魁であるともっと自覚を持つべきでした、ウォーレン・マクベイン」
副官の見つめるモニターには近づいてくる敵の姿が映し出されていた。