機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第18話 牙を剥く

 

 

 

 

 敵から発せられる無数の砲撃を受けながら、エクセリオンはようやく敵の防衛ラインの突破しようとしていた。

 

 しかしアオイの疲労は想像以上に蓄積された状態であり、操縦桿を握る手を包むグローブの下は汗でぐっしょりと濡れていた。

 

 操縦の複雑さに加え、ビームやミサイルを弾く度に起きる機体への衝撃。

 

 何機撃墜しても減らない敵モビルスーツへの対応。

 

 そしてしつこく追撃してくるアヴァターラの存在がアオイの体力と気力を削っていた。 

 

 「ハァ、ハァ、落としても落としても、数が減らない!」

 

 両手で構えた収束ライフルを発射し、敵防衛部隊を薙ぎ払う。

 

 しかしすぐに後続部隊が前面に展開され、エクセリオンの進路を阻んだ。

 

 「オオオオオ!!」

 

 躊躇いなく敵陣に突っ込んだアオイは残った武装をすべて解放、群がる敵を撃墜し、戦艦をブレードで真っ二つに両断する。

 

 「核ミサイルは……アレか!」

 

 モニターに映ったのは核ミサイルを収容している砲台だ。

 

 多数の敵を薙ぎ払い、アオイもようやく目標の一つにたどり着けた。

 

 此処に来るまでにすでに二つの閃光を確認した。

 

 スウェン、ルシアは核ミサイルの破壊に成功している。

 

 「ならアレさえ破壊できれば!」

 

 地球に核ミサイルが降り注ぐことは無い。

 

 しかし流石、最後に残った砲台。

 

 敵も死力を尽くしてアオイを阻止せんと、攻撃を加えてきた。

 

 「そこを通せ!!」

 

 立ちふさがる戦艦の砲撃も物ともせず、ビームキャノンで戦艦を薙ぎ払い、近づいてきた敵はブレードで両断する。

 

 砲台が射程距離に入り、ロングレンジ高エネルギービーム砲を構えて狙いを付ける。

 

 しかしそれを阻むように側面からアヴァターラが突進してきた。

 

 「行かせん!!!」

 

 「退けェェ!!」  

 

 組み付いて来たアヴァターラをブレードで弾き飛ばすが、至近距離から発射されたミサイルがエクセリオンの間近で炸裂する。

 

 激しく繰り返すドックファイト。

 

 お互いが敵の纏う外殻に喰いつき、攻撃を受けてボロボロの状態になっていた。

 

 防御フィールドが展開出来ている事がもはや奇跡的だ。

 

 「ぐぅぅ!!」

 

 「しつこい!!」

 

 ブレードとビームソードが激突。

 

 一瞬だけ鍔迫り合い、高速ですれ違う。 

 

 衝突と離脱を繰り返し、激闘を繰り広げながらアオイは目の端で目標の姿を捉えた。 

 

 「見えた!」

 

 「チッ、防衛部隊は何を!」

 

 アヴァターラがビーム砲を撃たせないよう、射線に割って入る。

 

 「そう簡単に―――な、に」

 

 再びドックファイトが始まろうとしたその時、ルドラは驚愕のあまり動きを止めてしまった。

 

 サルワの搭乗していたブラフマーの反応が消えたのである。

 

 「ま、まさか、サルワがやられた?」

 

 倒したのはあの黒いガンダムか?

 

 それ程の相手だったのか、それともサルワが油断したのか。

 

 どちらにしろサルワはもう―――

 

 想像以上の精神的な衝撃はアヴァターラにも顕著に現れた。

 

 そこをアオイは見逃さない。

 

 「おおおお!」

   

 スラスターを噴射させ、バク転のように無理やり宙返りさせる。

 

 回転したエクセリオンのスラスター部分がアヴァターラに激突し、大きく弾き飛ばした。

 

 「ぐっ」

 

 「今だ!」

 

 一瞬の隙を突き、前方に加速したエクセリオンは離脱の事も無視して砲台に接近する。

 

 おそらくこれが接近できる最後の機会だ。

 

 外す訳にはいかない。

 

 「ッ、管制室! 核ミサイルを発射しろ!」

 

 《しかし目標地点は?》

 

 「目標は地球だ! 地上にへばり付いたゴミ諸共消し去ってやれ!!」

 

 《了解!》

 

 ルドラの咆哮に応えるように動き出す砲台。

 

 地球圏に向けて核ミサイルの発射体勢に入った。

 

 「くそ!!」

 

 「貴様に邪魔をさせるものか!」

 

 背後から迫るアヴァターラの砲撃が機体を掠め、幾つも損傷を負う。

 

 それでもアオイは速度を上げ、射程に入った砲台にビームを連射した。

 

 死を恐れぬ猛攻。

 

 確実に核に巻き込まれる位置だ。

 

 それでもアオイは止まらない。

 

 「落ちろ!」

 

 「撃たせない!!」

 

 ボロボロになった『スレイプニル・グラニ』の砲撃。

 

 無数のビームに貫かれた砲台と発射されたミサイルは穿たれ、すべてを無に帰す光が周囲を覆い尽くすべく広がり始めた。

 

 アオイは即座に『スレイプニル・グラニ』の方向を転換し、離脱を図る。

 

 だが、発せられた閃光は周りのすべてを包み、逃れようとするエクセリオンを呑み込んでいった。

 

 

 

 ウォーレン・マクベインは自身の乗機に乗り込み、激戦の続く戦場へ飛び出していた。 

 

 「素晴らしい。これほどの機体を操れるとは」

 

 LFA-X07bー2 『バウ・バシリコック』

 

 ウォーレン・マクベイン専用バウを『第一次統合戦争』に投入されたバウ・バジリスクのパーツ、そして正体不明の工房技術を用いて改修を施した機体。

 

 武装等の変更はないものの元々高性能だったバウを現在の技術、そしてバジリスクのパーツをもって改修しただけあって、ワンオフ機とも同等以上の性能を誇る。

 

 「久しぶりだ、この感覚は」

 

 ウォーレンは小気味よく機体を操り感触を確かめていく。

 

 まるで新しいおもちゃを手に入れた子供のように楽し気に笑っていた。

 

 最近は性に合わない組織の首魁としての役割が多く、正直ストレスも溜まっていた。

 

 それに何だかんだ言った所で彼は所詮パイロット。

 

 モビルスーツに乗り戦っている時こそ、最も充実しているのだ。

 

 「リグ・シグルド部隊、敵はテタルトスだ。油断するな!」

 

 「「了解!!」」

 

 バウの背後からついてくる部隊。

 

 リグ・シグルドで構成された彼らは統合軍時代からの部下だ。

 

 所謂ウォーレン直属の精鋭部隊だった。

 

 その技量はウォーレンが直々に鍛えてきただけあって、そこらの連中に遅れは取らない。

 

 スラスターを器用に操作し、バウの機動についてくる部下たちを頼もしく思いながら戦場を突き進んでいく。

 

 すると真っすぐにこちらに向かってくる機体の反応があった。

 

 「来たか、ヴィルフリート・クアドラード!!」

 

 銀色の装甲を持つジンⅢ。

 

 紛れもなくヴィルフリートのジンⅢ・レーヴェだ。

 

 その後ろからは彼に付き従う形でジンⅢで編成された部隊が追随している。 

 

 「相手にとって不足なし。他のジンⅢはお前達に任せるぞ!」

 

 意気揚々とサーベルを抜いたバウは真っすぐに銀色のジンⅢ・レーヴェへ向かって突撃する。  

 

 「ヴィルフリート!」

 

 「首魁自ら出撃とはな! 三機のガンダムの攻撃で追い詰められたか!」

 

 対艦刀とサーベルが同時に振り抜かれ、すれ違い様に火花を散らす。

 

 「追い詰められているのは貴様たちだろう! エスカトロジーが所定の位置に付けばその時点でこちらの勝ちだ!」

 

 高速移動を行いながら二機のモビルスーツが激突する。

 

 同時に発射されたビームもお互いの機体を掠めるだけで致命傷には至らない。

 

 いや、損傷度合を比べればバウの方が若干傷が深い。

 

 それはヴィルフリートの実力がウォーレンを上回っている事を意味していた。

 

 「チッ、未だに信じがたいものがあるな」

 

 かつてテタルトスに所属していた二人は何度か手合わせした事がある。

 

 対戦成績はウォーレンの全勝。

 

 それだけ技量に差があった。

 

 それが今は逆転しているのだからウォーレンが信じがたい気分になるのも当然といえる。

 

 「兄の影に怯えていた卑屈な男とは思えん動きだ」

 

 昔のヴィルフリートはそれこそ自分の事で精一杯で周りがまるで見えていなかった。

 

 それはモビルスーツの操縦や部隊指揮にも表れ、人望も全く無かったのだ。

 

 「今では部隊員からの信頼も厚く、特務まで任されるエースになるとは驚きだよ」

 

 「人の事をどうこう言ってる暇があるなら、自分の事をどうにかしたらどうだ」

 

 ジンⅢ・レーヴェは高速移動を続けながら背中のマシンガンで敵の動きを阻害しつつ、対艦刀を袈裟懸けに振う。 

 

 斬撃は空を切るも、マシンガンの銃撃がバウの装甲を削っていく。

 

 無論、ウォーレンとて黙って見ている訳ではない。

 

 徐々にヴィルフリートの動きに対応してくる。

 

 マシンガンの射線を読み、機体を翻すと銃弾を完璧に回避してみせた。

 

 「確かに貴様は腕を上げた。しかしいつまでも遅れはとらない!」

 

 グレネードランチャーの弾をジンⅢ・レーヴェの眼前に投擲、機関砲で撃ち抜いてヴィルフリートの視界を奪った。

 

 「ッ!?」

 

 「そこ!」

 

 動きの鈍った際に生まれた隙。

 

 そこを狙いバウのライフルがジンⅢ・レーヴェのビーム砲を吹き飛ばし、同時にマシンガンも破壊した。

 

 「チィ、流石にやる!」

 

 「甘く見て貰っては困るな!」

 

 「甘く見てなどいない」

 

 ヴィルフリートは高速移動しているバウに向け散弾砲を発射。

 

 直撃を食らいバランスを崩した敵機に複列位相砲の強烈な一撃を撃ち込んだ。      

 

 一直線に進むビームの一撃が敵の左脚部を消滅させる。

 

 さらにバラまいた散弾も爆発し、バウは炎に包まれた。

 

 「ぐぅ」

 

 ビームシールドで機体を守りながら炎の中から飛び出したウォーレンにミサイルの雨が降り注いだ。

 

 撃ち込まれるミサイルとビームの弾幕にバウは防御の体勢で下がる以外の選択肢がない。

 

 「やってくれる、だが!!」

 

 ウォーレンは背中のスラスターユニットを切り離し、弾幕の盾とする。

 

 それはスラスターユニット兼用ミサイルポッド。

 

 破壊されたソレはバウの姿を覆い隠す程の火球を引き起こし、ジンⅢ・レーヴェの砲撃を遮った。

 

 その隙に体勢を立て直し、ウォーレンはジンⅢ・レーヴェに対し接近戦を挑んだ。

 

 ジンⅢ・レーヴェとバウ・バシリコックでは火力に差がある。

 

 正面からの撃ち合いではジリ貧。

 

 バウ・バシリコックがジンⅢ・レーヴェに勝っている点は機動性。

 

 その有利な点を最大限に生かせる接近戦ならば、今の流れを変える事が出来ると判断したのだ。

 

 「ハァ!」

 

 サーベルによる袈裟懸けの一撃がジンⅢ・レーヴェのバズーカ砲を破壊し、返す刀の一太刀が肩の装甲に深々と食い込んだ。

 

 間一髪、腕を落とされる前にバウの斬撃を食い止めたヴィルフリートは対艦刀を横薙ぎに振るう。

 

 しかしそれもバウに掠める程度の損害を与えただけに留まった。 

   

 「流石『マクベイン・エクスキューターの首魁といった所か」

 

 ヴィルフリートの賛辞にウォーレンは何も返さない。

 

 ただ目の前にある銀色の機体を睨みつけるだけ。

 

 「何故だ、何故それだけの力を持ちながら……」

 

 ウォーレンの胸中には激しい感情が渦巻いていた。

 

 ヴィルフリートは強い。

 

 昔とは技量もその志も違う。

 

 なのに―――

 

 「何故、貴様はファウスト司令の意志を継ごうとしない! 本来であれば弟である貴様が継がなくてはならぬというのに!!」 

 

 「またそれか」

 

 ウォーレンはヴィルフリートと戦う度に訴えてくる。

 

 「今こそこの世界を変革する! 人類の変革を邪魔する腐った連中を一掃し、ファウスト司令の目指した新しい世界を作り上げる時だ!」

 

 普段であれば無視する所なのだが、ウォーレンと戦うのはこれが最後となる。

 

 だからヴィルフリートはあえて口を開いた。

 

 「くだらない。俺は貴様らの夢想に付き合う程暇ではない」

 

 「夢想だと!!」

 

 「お前があの男の事をどう捉えているのかは知らん。だがな、奴はお前が思っているような世界の行く末を憂いた人格者などではない」

 

 ヴィルフリートは兄弟だからこそファウスト・ヴェルンシュタインがどういう人間だったのかをよく知っている。

 

 彼は歪んでいた。

 

 利用できるものは利用し、自分よりも劣る者達、利用価値のないものは残酷なまでに切り捨てる。

 

 そんな男だ。

 

 世界の変革などはただの建前。

 

 要するに奴が望んでいたのは―――

 

 「奴は単に利用する価値のない人間達を一掃したかっただけさ。しかも人類の未来の為などではなく、自分自身の為にな」

 

 「貴様ァァァ!!」

 

 「問答無用。決着をつけてやる!」

 

 「いいだろう。司令への侮辱、地獄で詫びて来い」

 

 二機は刃を抜き再び激突する。

 

 「オオオオオオ!!」

 

 「ハアアアアア!!」 

 

 バウ・バシリコックとジンⅢ・レーヴェが交錯した瞬間、対艦刀の刃がサーベルによって叩き折られていた。

 

 機動性に優れたバウ・バシリコックが一瞬だけ早くジンⅢ・レーヴェの懐へと飛び込んでいたのだ。

 

 同時に放った蹴りがジンⅢ・レーヴェの体勢を崩し、守りに隙が出来た。

 

 「消えろ、ヴィルフリート!」

 

 サーベルを逆手に持ち替え、上段からコックピット目がけて振り下ろす。

 

 体勢を崩したジンⅢ・レーヴェに防御はおろか避ける事も出来ない。

 

 だが、サーベルがジンⅢのコックピットに届く前に背中のビームマシンガンが迫り出され、バウの腕を弾き飛ばした。

 

 「何!?」

 

 「甘い。同盟のデスティニーガンダムはもっと速かったんだよ!」

 

 いつの間にかジンⅢ・レーヴェの手の甲にビームの刃が形成されていた。 

 

 「まさか、誘われた!?」

 

 ヴィルフリートは初めからサーベルと対艦刀の激突で競り勝つ気はなかった。

 

 あえて隙を見せる事でウォーレンをおびき寄せ、カウンターで仕留めるつもりだったのだ。

 

 ジンⅢの右のビーム刃が容赦なくバウの腕を撃ち砕き、さらに左手で形成した刃を敵腹部へと叩きつけた。

 

 咄嗟の判断で残った右足を振り上げるも、足ごと腰部を抉られてしまった。

 

 「ぐぅぅぅ!」

 

 「先程、地獄で詫びて来いと言っていたがそっくりそのままお前に返そう。お前達のエゴの所為で死んでいった者達に詫びて来い!」

 

 発射される複列位相砲。

 

 「ま、だだ!」 

 

 バウは強力なビームの一撃を残ったシールドを掲げて、防御姿勢に入る。

 

 しかしあまりに距離が近すぎた。

 

 至近距離からの砲撃は盾ごとバウの機体を呑み込んで、爆発を引き起こす。

 

 ヴィルフリートはすぐさま離脱すると、爆煙に包まれた敵機を確認しようと目を凝らした。

 

 破壊された盾やバラバラになった機体の残骸は確認できるが―――

 

 「仕留めた? いや、手応えがない。逃げたか……」

 

 だがバウ・バシリコックは大破した状態だ。

 

 しかもパイロットであるウォーレン・マクベインもただでは済んでいまい。 

 

 少なからず負傷している筈。

 

 アレでは遠くに逃げる事もできないだろう。

 

 「逃がす訳にはいかない。確実に仕留める」

 

 ヴィルフリートはリグ・シグルドと交戦する味方の状態を確認し、逃げたウォーレンを追う為に追撃態勢に入った。

  

 

 

 

 エスカトロジーの側面部の一画。

 

 そこでは常人が足を踏み入れる事が出来ない光の檻が形成される異常地帯と化していた。

 

 飛び交うのは小型の砲台ドラグーン。

 

 操っているのは奇しくも同じ力を身に宿した二人の女性。

 

 ルシア・フラガとシルヴィア・ヒビキは激しい攻防を繰り広げていた。

 

 「落ちろ!」

 

 無数の砲台が一瞬でエレンシアガンダムを囲い、一斉にビームを浴びせかける。

 

 常人では見切れないビームの雨。

 

 それらをルシアは一つたりとも当たる事なく、躱してみせた。

 

 同時こちらもドラグーンを展開し、ヴィカラーラへ攻撃を仕掛ける。

 

 それを感じ取ったシルヴィアもまたルシアの攻撃を完璧に捌いてゆく。

 

 二人の攻防は完全に互角の状態であった。

 

 だが徐々に形勢はルシアの方へ傾いていく。

 

 飛行形態へと変形したエレンシアがドラグーンの包囲から抜け、収束ライフルでまとめて消滅させられる。

 

 さらにヴィカラーラの動きをミサイルで牽制し、援護していたリグ・シグルドを撃墜した。

 

 「攻撃を見切っているとでも!」

 

 「貴方の殺気は素直すぎる。どれだけ速かろうと、来ることが分かっていれば当たる筈もない」

 

 「その程度で舐めているの!!」

 

 ミサイルでエレンシアを誘導しつつ高エネルギーロングレンジビームキャノンで薙ぎ払おうとトリガーを引く。

 

 しかし発射された一撃はエレンシアに当たる事無く、ビームシールドによって防がれてしまった。

 

 さらにドラグーンによる攻撃も効果がない。

 

 撃墜されたリグ・シグルドの残骸を撃ち抜いていくだけだ。

 

 「貴方の感覚が鋭敏すぎるのよ!」

 

 シルヴィアの放つ強烈な殺気はルシアにとってレーダーのようなもの。

 

 フラガ家特有の感覚が位置も攻撃のタイミングも彼女の方からルシアに教えてくれていたのだ。

 

 さらにシルヴィアが冷静さを無くしている事も要因に上げられる。

 

 何故か途中からヴィカラーラの動きが鋭敏さに欠けているのだ。

 

 「そこ!」

 

 ビームライフルの一射がヴィカラーラの腰部に直撃し、装甲を撃ち壊した。

 

 「クッ……落ち着け。感情的になっては勝てるものも勝てなくなる」

 

 エレンシアの攻撃を受けた事が逆にシルヴィアを冷静にさせてくれた。

 

 自分はこんな所で死ぬ訳にはいかない。

 

 まだフラガの血筋は残っているのだから。

 

 深呼吸を繰り返し、冷静にエレンシアの姿を視界に捉える。

 

 「サルワの件もあって感情が抑えきれなくなっていた」  

 

 シルヴィアもサルワが撃墜された事に気が付いていた。

 

 それがより彼女から冷静さを奪い、僚機であったリグ・シグルドも半数が撃墜されてしまった。

 

 「……流石はフラガ家の力を色濃く受け継ぐ呪われた女。私のような移植された紛い物とは違う訳ね」

 

 「シルヴィア・ヒビキ、私は―――」

 

 「しかしだからこそお前という女は生かしておけない! あの男の血筋はすべて絶つ!」

 

 シルヴィアはあえて機体を加速、エレンシアとの距離を詰める。

 

 それをさせまいと収束ライフルで迎撃する、ルシア。

 

 だが発射された一撃は展開されたドラグーンによって歪曲されてしまう。

 

 「ゲシュマイディッヒパンツァー!?」

 

 さらにあらかじめ配置していたドラグーンを背後から突撃させ、エレンシアに激突させた。      

 

 「ッ!?」

 

 「逃がしはしない!」

 

 エレンシアが体勢を崩した所にヴィカラーラが体当たりで組み付くと、エスカトロジーの方へ押し込んでいく。

 

 「何を!」

 

 「言ったでしょう! ルシア・フラガ、呪われた女! 本物の力を持つ貴方と力比べをする気はないってだけよ!」

 

 エレンシアとヴィカラーラはエスカトロジーの格納庫らしき場所へ突っ込み、二機は壁に激突する。

 

 「くぅぅ!!」

 

 「ッッッ!!」

 

 床に倒れ込んだと同時に体勢を立て直したヴィカラーラはエレンシアに複列位相砲を撃ち込んだ。     

 

 複列位相砲はエレンシアのライフルごと肩装甲を吹き飛ばし、さらにビームカッターを上段から振り下ろす。

 

 「この!」

 

 ギリギリのタイミングでカッターを受け止めたルシアはヴィカラーラを突き飛ばし、ビームサーベルを抜いた。

 

 「この場所ならば得意のドラグーンは使えない。遠距離武装は意味をなさない!」

 

 シルヴィアは限定空間にルシアを押し込む事で空間認識力の差を無くしたのだ。

 

 だがそれは砲戦仕様であるヴィカラーラの利点を殺す事でもある。

 

 それでもルシアを仕留めるにはこれが確実であると判断したのだ。  

 

 ヴィカラーラはライフルやロングレンジビームキャノンを投棄、両手でビームカッターを構える。

 

 「私も負ける訳にはいかない。……中尉から答えを聞かないとね」

 

 ルシアはスラスターを吹かし、突っ込んでくるヴィカラーラにサーベルを振り抜いた。

 

 

 

 

 ジンⅢ・レーヴェとの激突に敗れたバウ・バシリコック。

 

 両手、両足を失い、モニターも半分以上が映らず、レーダーも死んでいる。

 

 武装もほぼ全損。

 

 生き残っているスラスターは僅か。

 

 戦闘を避けてはいるが、もし敵と遭遇すれば確実に死ぬ。

 

 そんな状況でウォーレンは完全に大破した機体を何とか操り、エスカトロジーへ帰還しようと歩を進めていた。

 

 「……お、のれ」

 

 コックピットの中で重傷を負ったウォーレンは痛みを堪え、屈辱に耐えていた。 

 

 認めたくはないが、完全な敗北である。

 

 しかし個人の敗北は認めても、『マクベイン・エクスキューター』としての敗北だけは許されない。

 

 ウォーレン・マクベインにはファウストに代わり人類の未来を切り開く使命があるのだから。

 

 だが無常にも追撃を仕掛けてきたジンⅢに追いつかれてしまう。

 

 「まだだ、私は、やるべきことがある」

 

 何とか足掻こうと覚悟を決めた時、別方向からの砲撃がジンⅢを纏めて薙ぎ払った。

 

 「な、に?」

 

 ひび割れたモニターに映ったのは、損傷した外殻を纏ったアヴァターラだった。

 

 「ルドラか!」

 

 予期せぬ味方の出現にウォーレンは思わず笑みを浮かべた。

 

 「……生きているのか」

 

 「こんな時でも、相変わらずの物言いだなルドラ。しかし助かったぞ」

 

 だがそこでウォーレンの表情が凍り付いた。

 

 何故かアヴァターラの砲口がバウを捉えていたからだ。

 

 「どういう、つもりだ、ルドラ!」

 

 「無様な負け犬に用はない。それに元々こうするつもりだった。そもそも『マクベイン・エクスキューター』は初めから私の為に用意されたものなんだよ」

 

 「ッ!?」

 

 「死ね」

 

 仮面の下で笑みを浮かべ、容赦なくトリガーを引く。

 

 砲口から発射された一撃は寸分違わずバウ・バシリコックに直撃する。

 

 「ルドラァァァァァァァァ!!」

 

 ウォーレンは事態を理解出来ないまま光の中に呑み込まれ、跡形も残さず消えていく。

 

 「安心しろ、貴様の望み通り今の世界は破壊してやる。だがその先に人類の革新などは訪れない。元々あった本来の姿に戻す。『コーディネイターの世界』にな」

 

 爆発したバウの閃光を確認したアヴァターラは反転しエスカトロジーへ向かっていく。   

 

 その光が完全に消えていくまで、ルドラは笑みを浮かべていた。

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