機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第19話 災禍の目覚め

 

 

 

 

 巨大戦艦『エスカトロジー』を巡る戦いは今までにない程の混戦状態に陥っていた。

 

 一見すると圧倒的に数で勝る『マクベイン・エクスキューター』が有利に思える。

 

 しかし、未だに敵戦力を撃退出来ていない理由二つあった。

 

 一つは練度の差。

 

 元々『マクベイン・エクスキューター』に参加しているのは現在の世界情勢に不満を持つ傭兵やジャンク屋といった者達が大半を占めている。

 

 中にはユーラシアや大西洋連邦に所属していた軍人崩れや現行勢力から離脱してきた部隊も含まれているがごく僅か。

  

 本格的な訓練を積み、数多の戦いを潜り抜けてきた者達に及ばないのは当然の事だった。

 

 そしてもう一つ。

 

 それがモビルスーツの性能の差だ。

 

 『マクベイン・エクスキューター』のリグ・シグルドやシグルド・グラーフは確かに高性能。

 

 しかしそれが全軍に渡る訳もなく、他はウィンダムやザクといったすでに現場から退いている旧型の改修機が大半である。

 

 ハッキリ言ってこれら旧型機と現行勢力の扱う機体ではすでに別次元ともいえる性能差が生じていた。  

 

 いかに数で勝ろうとも此れを覆すのは至難。

 

 そんな中、さらに彼らを苦境に追い込む知らせが飛び込んできた。

 

 彼らを率い、此処まで連れてきた首魁ウォーレン・マクベインの戦死の知らせである。

 

 無論、それを知るのは『エスカトロジー』の管制室と各部隊を率いる指揮官のみだ。

 

 だがそれでも彼らの様子からウォーレンの身に何かあった事は明白。

 

 それに感づいた者達からさらに別の者へ。

 

 病原菌のように感染していく士気の低下は全軍に蔓延し動きを鈍らせてしまった。

 

 「どうすれば」

 

 『エスカトロジー』の管制室のオペレーターがポツリと呟く。

 

 艦長席で指揮を執るウォーレンの副官は前線の維持で手一杯であり、他の部隊長も同様だろう。

 

 いや、少なくとも首魁であるウォーレンの代わりが務まるカリスマ性を持った人物など何処にもいない。

 

 もはや落ちるに落ちた士気を立て直せる者は誰も存在していなかった。

 

 しかしそれを覆すべく一つの通信が入ってきた。

 

 《狼狽えるな! 聞け、『マクベイン・エクスキューター』の同士諸君!》

 

 モニターに映し出されたのは、仮面で目元を覆う人物ルドラ・アシュラだった。

 

 その声には何時にも増して力が籠っており、皆を鼓舞しようという気概が伝わってくる。   

 

 《すでに伝わっているだろう。ウォーレン・マクベイン閣下は卑劣なテタルトスの手によって討たれた!》

   

 《しかし案ずる必要はない。我らが首魁ウォーレン・マクベインの理想と理念は我らの手の中にあるのだから! 思い出せ、我々が何故この場に居るのかを!》

 

 ルドラの声が脳に染み渡ると共に覇気を失っていた兵士達の顔が変わっていく。

 

 《今の世界のままで良しとしない。それを誓ってこの場に集ったのではなかったか? 卑劣で愚劣な今まで奪う事しかしない世界を是とするのか?》

 

 断じて違うと兵士の心に再び火が灯る。 

 

 《我々はそれを抗う為に此処にいる筈だ! ウォーレン・マクベインの死を無駄にするな! 奪うしか能がない屑共に見せてやれ! この場にいる全員の覚悟と信念を!》

 

 そうだ。

 

 その通りだと。

 

 『マクベイン・エクスキューター』全員が咆哮を上げる。

 

 《最後の言葉を諸君に伝える! 『すぐそこに我らが望む未来がある、だからこそ戦え』と!》 

 

 そしてルドラは自らの仮面を外した。

 

 ようやく晒された素顔に誰もが息を飲む。

 

 統合軍からの離脱者も多く、その素顔を知らぬ者は殆ど居なかった。

 

 何故なら彼は『統合戦争』における英雄と同じ顔だったのだから。

 

 《私の名はルドラ・ザラ! アスラン・ザラの実兄である!》

 

 その名乗りは思った以上の効果を上げた。

 

 誰しもが認めるエースとしての技量。

 

 演説による味方の高揚。

 

 そして大戦で活躍した実績を持つ英雄の名声。

 

 それらが合わさりマクベイン・エクスキューターの面々はかつてない程の高揚感に包まれていく。

 

 《道は私が切り開く、弔い合戦だ! 全軍、奮起せよ!!》

 

 「「「オオオオオオオオ!!!!」」」

 

 何時しか全軍を包んでいた絶望感は消え失せ、先ほど以上の気迫を持って各部隊の動きが精彩さを取り戻していった。

 

 『エスカトロジー』の近くから戦場を見渡していたルドラは通信機のスイッチを入れた。

 

 「クロム、そちらの準備はどうなっているか?」

 

 《もうじき調整が完了する》

 

 「調整が完了次第、出撃。邪魔な連中を排除しろ」

 

 《了解》

 

 クロムの声から伝わる力強い覇気。

 

 これならば今まで以上の力を発揮する事が出来るだろう。

 

 用意された機体と共に猛威を振るうに違いない。

 

 満足そうに笑みを浮かべたルドラは次に別の場所へ通信を繋いだ。

 

 「ずいぶん派手にやられたようだな、アルド」

 

 モニターに映ったのはスウェンによって撃墜された筈のアルドだった。

 

 今彼は予備の管制室で状況の推移を見守っていた。

 

 《おやおや、もう仮面を付けたのか? 素顔のままでいいだろ》

 

 「ふん、元々好きな顔ではない。貴様にとってもそうだろう、かつて月面紛争で辛酸を舐めされられた男と同じ顔だ」

 

 《別に。アスランとの戦いも楽しかったしな。嫌悪感はないさ、再戦できるならしたいってぐらいだよ。アイツに関する感情なんてな》

 

 「そうか。それで貴様の方はどうなんだ?」

 

 《スウェンの奴に嵌められてさ。機体は結構なダメージを受けちまったよ。今は応急修理中だ》

 

 スウェンの策によって直撃を受けた筈のアルドが何故生きているのか?

 

 それは砲撃が直撃する寸前に背中の装備を切り離し、機体本体を守る為の盾としたのだ。

 

 スウェンが以前にアルドの攻撃から逃れたやり方を真似させてもらったという訳である。

 

 それでもベテルギウスの損傷は激しく、突貫で応急修理をさせている途中だった。

 

 「スウェン・カル・バヤンか」

 

 はっきり言ってしまえばルドラはスウェンについて特に注目していた訳ではなかった。

 

 確かに数多の戦場を超えた歴戦の勇士であるのは知っている。

 

 それでもSEEDを持つ自分や特殊な空間認識力を持つシルヴィアなどには及ばないとルドラは判断していた。

 

 しかし結果は予想外。

 

 アルドを打倒し、サルワを撃破する戦果を叩き出したのだ。

 

 「未だどこかで侮っていた部分があったという事か」

 

 サルワの事は忸怩たるものがある。

 

 だが、今はそんな感傷など後回しだ。

 

 ルドラはアヴァターラとフォーリングスタ―の状態を素早く確認する。

 

 フォーリングスターもまた戦闘継続が困難な程に消耗していた。

 

 武装の大半が使い物にならず、挙動も怪しい部分がある。

 

 アヴァターラ自体が無傷なのがせめてもの救いだろう。

 

 「アルド、主砲を発射させろ。そこからでも発射出来る筈だ。管制室には私から連絡を入れる。向こうには戦闘指揮にだけ集中してもらう」

 

 《発射は可能だが、この位置じゃ『ヘルメス』は狙いないぜ》       

 

 「目標は『ヘルメス』ではない。狙うのは地球だ」

 

 《その意味は分かってるんだろうな?》

 

 「勿論だ」  

 

 そもそも『マクベイン・エクスキューター』が資源衛星『ヘルメス』を狙っていたのは地球圏を混乱に陥れる為だ。

 

 『メークリウス』に続き『ヘルメス』までも砕かれれば外宇宙進出に待ったをかける事が出来、さらにそれを阻止出来なかった各勢力の権威は失墜。

 

 その隙に重要箇所を制圧すれば、『マクベイン・エクスキューター』の勝利となる。

 

 しかしエスカトロジーの主砲による地球の直接攻撃を行えば、被害はより甚大なものになるだろう。

 

 下手をすれば地球の国家の一つや二つは消えてなくなる。

 

 《それは悪魔の所業だぜ。覚悟はあるのか?》

 

 「当たり前だ」

 

 ルドラにもはや油断はない。

 

 完全に慢心を捨て去った。

 

 いや、以前からアオイの事は認めていたしナチュラルだからと軽視したつもりもなかった。

 

 しかし同じナチュラルであるスウェンによって弟であるサルワは殺されてしまった。

 

 サルワならば負ける事は無いと無根拠に信じ込んでいた。

 

 それは何処かでまだナチュラルである事を理由に侮っていたからだ。     

 

 だがそんな愚かな思い込みはもう終わりだ。

 

 誰であろうとも全力で排除するのみ。

 

 地球を先に潰すと決めたのもそれが理由だ。

 

 余力を残せばどんな反撃に合うかもわからない。

 

 だから潰せる時に全力で潰しておくのだ。

 

 《了解、主砲の発射シークエンスを開始する》

 

 「その間、砲口へは誰も近づけさせん」

 

 アヴァターラのモニターにはエスカトロジーに取りつこうとしているエクセリオンの姿が見えていた。

 

 核爆発からギリギリ逃れる事は出来たらしいが、纏っている外殻はボロボロの状態。

 

 砲口の大半が焼け爛れ、ミサイル発射管も大半が潰されていた。

 

 「あんな状態で尚、エスカトロジーの主砲を破壊するつもりとは。ご苦労な事だ!」

 

 何の迷いも無くエクセリオンへと突撃したアヴァターラは唯一無事だった武装であるビームソードで斬りかかった。

 

 「待ち伏せしてたのか!」

 

 「貴様がアレで死ぬとは思っていない!」

 

 上方からの奇襲。

 

 傷ついたスレイプニルは動きが鈍く躱しきれない。

 

 「ッ!?」

 

 容赦の無い斬撃がスレイプニルの外殻を破壊し、続けざまに振るわれる一撃が砲塔を切り捨てた。

 

 「それで避けたつもりか!」

 

 「うおおおお!!」

 

 アオイは防御を捨て、攻勢に出た。

 

 今の機体状態では敵の攻撃を捌き切れないと判断したからだ。

 

 残ったブレードをフォーリングスターの推進部を斬りつけ、機関砲を連続で叩き込んだ。

 

 裂かれた部分に撃ち込まれた弾丸によって爆発を起こしたフォーリングスター。

 

 同時に機能不全に陥るスレイプニル。

 

 二人の判断は同時だった。

 

 二機は纏った外殻を捨て、敵に向かって射出する。

 

 激突した外殻同士が激突、引き起こされた爆炎を突っ切るように二機のモビルスーツは剣を抜いて激突した。

 

 アヴァターラの構えた剣は明らかに異質なものだった。

 

 これは巨大多連装高出力ビーム発生器『プラズマドライバー』

 

 かつて同盟がアイテルガンダムに搭載した大型多連装高出力ビーム発生器『ヴァルファズル』と同様の武装である。

 

 刀身に仕込んだ無数のビーム発生器により、通常の対艦刀などより強力な刃を形成できる。

 

 その威力はアンチビームシールドですら紙切れのように斬り裂くほどだ。

 

 アレの斬撃を受けるのだけは避けねばならない。

 

 アオイはエクセリオンの翼を羽ばたかせ、『プラズマドライバー』の間合いから離れようとする。

 

 しかしルドラはそれを見逃さない。

 

 後退するエクセリオンに容赦なく斬撃を浴びせていく。

 

 「くっ、お前を倒せば!」 

 

 「私を倒すよりも先に世界が終わるさ。見てみろ!」

 

 ルドラに促され視線を向けた先ではエスカトロジーの巨大な砲口に光が集まっていくのが見えた。

 

 主砲を発射する気だ。

 

 「まだ予定ポイントに到達していないのに!」

 

 「わざわざそこまで行かずとも地球は撃てる!」

 

 「本気で滅ぼすつもりなのか!」

 

 「私が本気かどうかは貴様が一番良く知っているだろう!」

 

 高速移動しながら攻防を繰り返す。 

 

 閃光が走ると同時にアヴァターラの肩を斬り裂き、振り上げた一撃がエクセリオンの横腹を抉った。

 

 「この程度で!」

 

 「落ちろ、ガンダム!」

 

 お互いに致命傷を負う前に盾で光刃を防ぎ、さらなる攻撃もすべて空を斬る。

 

 アオイとルドラはこの一連の戦いが始まって以降ずっと鎬を削ってきた。

 

 幾度も刃を交え、激突した。

 

 その経験故に二人は互いの動きを先読みし、攻撃を繰り出しながらも決定打に至らない。

 

 二機の斬撃が機体を掠め、仕切り直しの為に距離を取ったその時、悪夢は現実となる。

 

 「もう間に合わん!」

 

 「やめろォォォォォォォ!!!!」

 

 エスカトロジーの主砲。

 

 砲口に集まった光が宇宙を照らす光が青い星に向けて発射された。

 

 それこそ地球を射貫く光の矢だ。

 

 その一撃を阻むものはない。

 

 邪魔な岩片やデブリは障害にすらならずに消滅していく。

 

 戦場にいる誰もが死の光を呆然と、遠くの地球に突き刺さる瞬間をただ見つめるしかない。

 

 

 この時、敵味方問わず誰もが地球に対する大打撃を確信していただろう。 

 

 

 戦場から遠く離れた場所で戦艦の艦橋から全てを見ていたこの男―――クレメンス・イスラフィール以外は。

 

 「『スヴェル』を展開しろ」

 

 「了解!」

 

 イスラフィールの命令と同時に宇宙各所に展開されていた部隊が動き出す。

 

 彼らの中央にはアンテナのような特殊機器が接続された戦艦がいた。

 

 設置されたアンテナは目標となる方角を向き、そこに向けて一条の光が放射される。 

 

 光が集められた場所には菱形の物体が鎮座していた。

 

 そこに光が集まると同時に地球やコロニーを守るように大きな光の盾が形勢された。

 

 地球に迫る光の矢。

 

 それを阻むように展開された巨大な盾。

 

 二つが激突し、激しい稲光と共に閃光が弾け合う。

 

 矢と盾の衝突による拮抗。

 

 僅か数秒が何時間にも思える時間間隔が狂ったような錯覚を覚える。

 

 

 結果―――矢は盾に防がれ、青い星に及ぶ事無く掻き消えた。  

 

 

 その結末に最も衝撃を受けたのはルドラであっただろう。

 

 「くそ!!」

 

 ルドラは予想外の出来事による動揺と屈辱に思わずコンソールを殴りつけた。

 

 エスカトロジーの主砲をあんな方法で防いでくるとは誰が思うだろうか。 

 

 しかしこれで終わりではない。

 

 「アルド、主砲の再チャージを急げ!」 

 

 確かに主砲を防がれたのには驚いた。

 

 だがあれほどの出力の砲撃を防げる盾を何度も展開できるとは思えない。

 

 「次こそ仕留める!」

 

 「させるか!」

 

 突撃してきたエクセリオンの体当たりにアヴァターラは吹き飛ばされてしまう。

 

 そこにすかさずサーベルを叩きつける。

 

 袈裟懸けの一太刀はアヴァターラの片腕を奪い、さらに腰の装甲を斬って捨てた。

 

 「貴様、調子にのるな!」

 

 前スカートアーマーから伸びた腕が持つサーベルの一撃がエクセリオンの肩部を抉る。

 

 さらにビームチャクラムが射出され体勢を崩したエクセリオンに撃ち込まれた。

 

 「グッ!」

 

 アオイは咄嗟にウイングを前面に出し、防御する。

 

 しかし同時に放たれたビームクロウの一点集中した攻撃が翼の防御を突破し、貫通した。

 

 「この!」

 

 だがアオイも決して引きはしない。

 

 あえてビームクロウを逃がすまいと捕まえると肩のマシンキャノンを浴びせかけた。

 

 そしてアヴァターラが僅かに怯んだ隙にビームサーベルを振り上げる。

 

 光刃が捉えたビームクロウは両断され、爆発によって強制的に引き離された二機のモビルスーツは攻防を繰り返しながらエスカトロジー内部へと突入していった。

 

 「……目障りだ。目障りなんだよ」

 

 ルドラは目の前の敵に対し今までとは比較にならない怒りと鬱陶しさを感じていた。

 

 目の前で主砲を防がれた苛立ちもあるのだろう。

 

 しかし何度仕掛けてもしつこく食らい付いてくる敵の姿に激しい憤りが湧き上がってきた。

 

 「貴様に、貴様などに! 私の邪魔をさせるものかァァァ!!」

 

 ルドラの怒りに応えるようにSEEDの力が発現する。

 

 そして解放されるe.s.システム。

 

 普段とは別次元ともいえる力の解放。

 

 研ぎ澄まされた感覚と膨れ上がる殺意に身を任せ、アヴァターラの巨体が動く。

 

 「アオイ・ミナトォォォォォォォ!!!」

 

 プラズマドライバーによる上段からの攻撃。

 

 通常の対艦刀とは比較にならない斬撃をエクセリオンはビームシールドで受け止める。

 

 だが続け様に放たれた隠し腕の一撃が左胸部を抉り飛ばした。

 

 「速い! 動きが変わった!?」

 

 相手がSEEDを発動させた事を悟ったアオイもまた力を発現させる。

 

 アオイの力には時間制限がある故にリスクが高い。

 

 だがそれでもこれ以上時間を掛けてはいられない。

 

 次に主砲を発射されても先と同じように防げる保証は何処にもないのだから。

 

 「ルドラ・アシュラァァァァァ!!!」

 

 斬撃の嵐を潜り抜け、一閃したサーベルが隠し腕の一つを叩き斬った。

 

 「オオオオオ!!!」

 

 「ハアアアア!!!」

 

 要塞内を駆けながら行われる激しい斬り合い。

 

 それはかつてオーブ沖で起きた決戦。

 

 イレイズガンダムとイージスガンダムの戦いを彷彿とさせる。

 

 無数の斬撃をもってエクセリオンを打倒しようとするアヴァターラ。

 

 対して持ち前の機動性でアヴァターラに打撃を与えていくエクセリオン。

 

 激突する二機は互いに傷はつけられても致命傷を与える事が出来ない。

 

 そんな僅か一分にも満たない攻防もあっけなく決着の時が訪れた。

 

 アオイのSEEDの限界時間。

 

 研ぎ澄まされた感覚は消え去り、その際に生まれた落差が一瞬の隙を生み出した。

 

 そこを見逃す程にルドラは甘くない。

 

 振り上げた一撃が盾として構えた翼に傷をつけ、地面へとつき落とした。

 

 「ぐあああ!!」 

 

 「それが貴様の限界だ! 所詮はなりそこない、真なるSEEDを持つ私に敵う道理はない!!」

 

 それは事実。

 

 地面に倒れ込んだアオイにはアヴァターラの斬撃に対して咄嗟に反応しきれない。

 

 突き出された『プラズマドライバー』がアオイの眼前に迫る。

 

 「大佐……ステラ」

 

 アオイの脳裏にルシアとステラの顔が思い浮かぶ。

 

 死ぬ。

 

 此処で終わる。

 

 いや、此処では終われない。

 

 託された筈だ。

 

 スティングやアウルから。

 

 その時、アオイの意思を取り込んだようにエクセリオンに変化が訪れた。

 

 プラズマドライバーが届く直前に飛び上がり、攻撃を回避してみせたのだ。

 

 「何!?」

 

 「また勝手に動いた!?」

 

 それは攻撃を仕掛けたルドラにとっても、避けられないと思っていたアオイにとっても完全に予想外。

 

 そして予想外はもう一つ起こった。

 

 アオイに何かが流れ込むような感覚を覚えた後、再びSEED発現と同じ力が体に宿った。

 

 「何、が?」

 

 これこそエクセリオンガンダム・アイオーンの新型W.S.システムの真の力だった。

 

 今までのSEEDを使用した膨大な戦闘経験と学習機能によってアオイの力を再現。

 

 e.s.デバイスによる増幅効果とコックピット内に仕込まれた干渉器によってSEEDの力がアオイ自身に直接フィードバックされたのである。

 

 「これが本当のSEEDの力」

 

 今までアオイが感じていたものとは違う。

 

 これまでは揺れる天秤を必死に動かないようにコントロールしていたような不安定さがあった。

 

 しかし今はそれが無い。

 

 視界はクリアで感覚は今まで以上に鋭い。

 

 「これならやれる!」

 

 「チッ、しぶとい奴め!」

 

 振るわれる『プラズマドライバー』にシールドで防ぎ、サーベルで刀身を叩き折った。

 

 「こんなもので!」

 

 折れた刀身ごとエクセリオンのシールドに叩きつけ、ビームを放出。

 

 シールドを完全に破壊するとマニュピレーターで殴りつけてきた。

 

 「このォォォ!!」

 

 アオイもまたアヴァターラに胴体に蹴りを入れ、頭部を拳を叩き込む。

 

 「何処までも邪魔をするかァァ!!」

 

 「当たり前だ! お前は此処で俺が倒す!!」

 

 アヴァターラのマニュピレーターにサーベルを突き刺し、エクセリオンの腹部に拳がめり込む。

 

 「グハァ!」

 

 「痛ッ!」

 

 機体を襲う衝撃により二人は硬直し、僅かに動きを鈍らせる。

 

 そこを狙ってルドラは複列位相砲のトリガーを引いた。

 

 「至近距離で!?」

 

 「こちらもただでは済まんだろうが、貴様を生かしておくよりは安全だろう!」

 

 アオイは発射された砲撃をギリギリ翼で受け止める。 

 

 ビームは弾かれ、火花が壁や地面に飛び散り高温によって溶かされる。

 

 それはエクセリオンも例外ではない。

 

 至近距離から浴びせかけられたビームによって装甲は剥がれ、翼も徐々に耐えきれなくなっている。

 

 このままでは翼は耐えきれずに撃破されてしまうだろう。

    

 そこでアオイも賭けに出た。

 

 背中に装備されていた対PS装甲弾頭搭載バズーカ砲を地面に向けて発射したのだ。

 

 バズーカの一撃で地面は穿たれ、爆発が二機のモビルスーツを吹き飛ばす。

 

 「ぐあああ!!」

 

 爆発により発生した衝撃と煙は僅かの間、二機の視界を奪い去った。

 

 その瞬間、アオイは動いた。

 

 両腕の刃ナーゲルリングを引き出し、アヴァターラへ向けて突撃する。

 

 「ウオオオオオオオオオオオ!!!!」   

 

 遠慮は無し。

 

 翼を広げた最大出力。

 

 「しまっ―――」

 

 一瞬、相手の機体を見失ってしまったが故の反応の遅れ。

 

 SEEDを発動させた者同士の戦いだからこそ、それは致命的なものとなった。

 

 「アオイィィィィィィィ!!」

 

 「ルドラァァァァァァァ!!」

 

 ナーゲルリングの刃はアヴァターラの腹部に突き刺さり、エクセリオンに押され壁に激突。

 

 最大出力故にエクセリオンは止まる事も出来ず、アヴァターラはエスカトロジーの壁を突き破り、さらに奥へと押し込まれた。

 

 

 

 

 アオイとルドラの戦いに決着がつく少し前。

 

 エスカトロジーにおける戦局は終盤に向けて動き始めていた。

 

 一時はルドラの演説により高揚していた『マクベイン・エクスキューター』の部隊だったが、主砲が防がれた事により戦意に陰りが見え始めていた。

 

 それは至極当然の反応だ。

 

 『エスカトロジー』は正真正銘の切り札。

 

 これが通用しないとなれば、『マクベイン・エクスキューター』側に勝利はない。

 

 そこを突き攻撃を仕掛けていた三勢力は徐々に防衛部隊を押し込み始めていた。 

 

 「主砲を防いだ事で戦場の流れが変わったな」

 

 「ああ。それにしても統合軍があんなものを用意していたとは。流石はクレメンス・イスラフィールといった所か」

 

 乗機が傷つきながらも戦場で踏みとどまっていたスウェンは味方の援護をしながら、ヴィルフリートの部隊と合流を果たしていた。

 

 これにより正面側の戦局は同盟とテタルトスの有利な状況へと傾いている。 

  

 後、もう少し押し込めれば決着までの道筋も見えてくるだろう。

 

 ヴィルフリートがそれを見越して部下たちを叱咤しようとしたその時、敵から強烈なビーム砲が撃ち込まれてきた。

 

 「ッ、全機散開!」

 

 砲撃を回避し撃ち込んだ敵に向けてライフルを構えるストライクノワールとジンⅢ・レーヴェ。

 

 そんな二人の前に姿を見せたのは黒い装甲に覆われた機体だった。

 

 「同盟のガンダムとテタルトスのジンⅢか」

 

 黒い機体のコックピットに座るのはクロム・マイル。

 

 クロムは油断なく敵を見据え、両手に大型対艦刀を抜くと淡々と告げた。

 

 「この俺、クロム・マイルが居る限り此処から先へ進めると思うな」

 

 「何だと?」

 

 それは挑発した訳でもなければ、増長したものでもない。

 

 純然たる事実を告げたのだ。

 

 「貴様らは此処で終わりだ」

 

 クロムがそう告げた僅か数分後。

 

 ストライクノワールとジンⅢ・レーヴェは無残な姿となって宇宙に漂っていた。

 

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