機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

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第3話  大地を焼く砲火

 

 

 

 

 大きな傷が刻まれた岩、破壊された戦艦、そしてモビルスーツの残骸。

 漂う無残な骸はここで行われた戦いの激しさを否応にも感じさせる。

 此処は『ユニウス戦役』最後の決戦、メサイア攻防戦と呼ばれた戦いが行われた宙域であった。

 これほどの残骸の群れ。

 普通であれば海賊やジャンク屋達が犇めいていても不思議ではない。

 しかしこの場所は不穏な噂が絶えず、海賊やジャンク屋ですら滅多に近づかない。

 だがそこに一つの影が近づいていく。

 その影こそミネルバが探していた赤いモビルスーツであった。

 赤い機体は悠々と散乱する岩片を避け、その付近で一番大きい岩へ近づくと影に隠れているものが見えてくる。

 それは全体的に浅黒く、地球軍のアークエンジェル級を彷彿させる形状を持っている戦艦だった。

 赤い機体が近づいてくるのを確認したのか戦艦の両舷に設置されたハッチが開放されると綺麗な姿勢を保ったまま格納庫に着艦した。

 慌しく赤い機体に取り付いた整備士達を尻目にコックピットから出てきた男はパイロットスーツを着ておらず軍服のままだ。

 そして最も特徴的だったのは顔を覆う黒い不気味な仮面をつけている事であろう。

 

 「お帰りなさいませ、カース様」

 

 恭しく頭を下げ、カースと呼ばれた男を待っていたのは髪を腰まで伸ばした美しい容姿を持った少女であった。

 表情は人形なのかと思えるほど、感情が感じられない。

 しかしこれでも彼女なりに精一杯感情を出そうとしている事をカースは良く知っていた。

 

 「こちらは予定通りだ。私が出ていた間に何か動きがあったか、№Ⅰ?」

 

 「はい。まだ確定情報ではありませんが、テタルトス軍に動きが見られるという報告が入ってきています」

 

 №Ⅰと呼ばれた少女は無表情のまま、端末を差し出してくる。

 その表情の無さは事情を知らない者からすれば不気味さすら覚えるだろう。

 しかしこれはとある少女をモデルとして人工的に生み出された故の弊害なのだ。

 それを良く理解しているカースは特に気にした様子も見せず僅かに考え込むような仕草で顎に手を当てる。

 

 「……なるほど。目的は地球か」

 

 同盟、プラント、連合の拠点を攻め込むには戦力が少なすぎる。

 今のところ宇宙の情勢はこう着状態。

 迂闊な軍事行動を取るとは思えない。

 となれば目標は戦闘が激化している地球しかないだろう。

 

 「地球? ヨーロッパ戦線ですか?」

 

 「ああ。しかしこれは同盟も黙ってはいないだろうな」

 

 ヨーロッパでの戦いを早期に終結させたいと思っている中立同盟は今回のテタルトスの動きを放置できない。

 これ以上の戦場拡大と戦闘激化は同盟の一国であるスカンジナビア王国に被害が出る可能性が高まるからだ。

 国家間の関係が冷え込んでおり、交渉による作戦の中断がさせられないとなれば武力衝突が起きる可能性が高くなる。

 同盟に加入するのではと言われているプラントも出張ってくるかもしれない。

 

 「どうなさいますか?」

 

 「そうだな、我々も観戦させてもらおう。両軍の新型機のデータ収集もできる」

 

 「分かりました」

 

 しばらくして動き出した戦艦は宇宙の闇に溶け込むように姿を消した。

 

 

 

 

 テタルトス軍と遭遇戦を切り抜けたミネルバはこの近辺で彼らが何をしていたのか調査する為、周囲の探索を行っていた。

 そして発見したのは無骨な小惑星型の施設。

 ミラージュ・コロイドで姿を隠されていたのか、破壊された発生装置らしきものが岩壁に突き刺さっている。

 その施設に先行したエクリプスとインパルスが破壊され大穴が空いた隔壁から内部に入ると、格納庫らしき場所が顔を見せた。

 

 「ここから内部に侵入、調査を開始するぞ。何があるか分からない、注意しろ」

 

 「了解。まあ何か残っているとは思えませんけど……」

 

 確かに先に調査を行っていたらしいテタルトスが重要なものを残していくとは考えづらい。だが―――

 

 「そう言うな。一応ここが何の施設かくらいは調べておかないとな。メイリン、こちらアレン。侵入経路を確保した。調査隊を寄こしてくれ。俺はルナマリアと先行する」

 

 《了解! 気を付けてください》

 

 「ありがとう」

 

 アレンは改めて格納庫周辺の安全を確認しコックピットから降りると銃のセーフティーを外して内部へ向かう。

 念のため極力声は出さずルナマリアにハンドシグナルで合図を出しながら、壁伝いにゆっくりと進んでいく。

 途中目に入ってくる部屋は荒れ放題。

 誰かに荒らされたような形跡もあるが、破棄されて時間も経っているようで施設の中に人の気配は無い。

 だが、機械部分には光は点灯しており、動力は生きているようだ。

 

 一体どのような施設なのか?

 

 そんな疑問を抱きながら、開放された隔壁の奥へと歩みを進め、奥の部屋までたどり着くと入り口の扉の右端に身を潜める。

 反対側の位置に隠れたルナマリアと頷きあい銃を構えて全く同じタイミングで部屋の中へと踏み込んだ。

 踏み込んだ部屋は司令室のような場所だったらしく、多くのコンソールが並べられている。

 だが、そこも今まで通ってきた場所と同じく人の気配も無く、荒れ放題だった。

 

 「伏兵などは無いようだな」

 

 「……フゥ、どうやら杞憂だったみたいですね」

 

 「杞憂で終わればそれに越したことはない。一応警戒だけはしておけ。まずは端末から調べるぞ」

 

 「了解です」

 

 手近な端末のスイッチを入れ、キーボードを素早く操作してデータの閲覧しようとするが、予想していた通り画面にはエラーが表示された。

 

 「データは何も残っていない。やはりテタルトスが消していったか。ルナマリア、そっちはどうだ?」

 

 「駄目ですね。こっちも何もないです」

 

 「他に手がかりになりそうなものも無いし、後は調査隊に任せて―――」

 

 そこで一箇所だけ離れた位置に存在するコンソールに気がつく。

 そのコンソールのキーボードを叩くと他の端末とは違う反応が返ってきた。

 

 「ロックされている?」

 

 ロックを解除しようとキーボードを叩くが、思った以上に強固な為に中々外すことができない。

 

 「チッ……キラなら簡単に外すんだろうけどな」

 

 「アレンはプログラムとかは苦手なんですか?」

 

 「苦手という訳じゃないが、得意でもないな。キラの奴は戦闘中でもOSとか書き換えたりするけど、俺はあそこまで簡単にはできない」

 

 ヤキン・ドゥーエ戦役で何度か戦闘中にOSを書き換えた経験があるがやたらと時間が掛かる。

 

 「へぇ、アレンの意外な弱点ですね。そういうのも得意だと思ってました」

 

 意外そうに笑うルナマリアにアレンも苦笑しながらしばらく時間を掛け、キーボードを叩き続けているとようやくロックを外すことができた。

 

 「やっぱり時間が掛かったな。今度キラにプログラムの勉強でも教えてもらうか……この端末自体は施設内の隔壁制御を行うものらしい。殆どが開放されているが、一箇所だけまだ開いてない部分があるみたいだな」

 

 「どこです?」

 

 「さらに奥、俺達が侵入した格納庫の反対側に位置している部分だ」

 

 表示されたデータを信用するのであれば、テタルトスもこの場所には踏み込んでいないようだ。

 そこを調べればこの施設に関する何らかの手掛かりくらいは残されているかもしれない。

 

 「トラップの類はないようだし、先に俺達で調べるぞ」

 

 「了解!」

 

 後続は他の場所の調査を終えていないようだし、こっちで先行して調べた方が効率がいいだろう。

 ルナマリアを伴い、未調査区画へ向かう。

 足を踏み入れたエリアはアレン達が初めに施設に侵入してきた所と同じく格納庫のような場所で何かの部品のような物が散乱している。

 しかしそれ以上に二人の目に付いたのが、中央に鎮座した物体だった。

 

 「あれって、モビルスーツ?」

 

 そこには開発途中で放棄されたのか、組み立て途中の機体がモビルスーツハンガーに設置されていた。

 背中に見覚えのある翼に対艦刀らしき武装が見える。

 

 「アレン、あれは……」

 

 「ああ。あの機体があるって事は……」

 

 アレンは機体の足元に設置された端末に近づき、データを呼び出すと予想通りのものが映し出される。

 

 「まさか量産化まで進めていたとはな。周りに散乱している部品はこの機体のものか?」

 

 「この施設って……」

 

 「ああ。ここはかつて俺達が探していた施設―――デュランダルの研究施設の一つだ」

 

 プラント前議長ギルバート・デュランダル。

 優れた政治手腕を持ち、ユニウス戦役において様々な逸話を残した人物である。

 同時に黒い噂の絶えない秘密の多い人物でもあった。

 その黒い噂は荒唐無稽な話からやたら真実味を持った話など幾多にわたるほど。

 彼独自の研究施設や兵器工廠を持ち、危険な研究も行っていたのではという疑惑が今なお残っている。

 アレンたちもユニウス戦役終結後に彼の足跡を探る為、一時期はデュランダルの極秘施設探索の任務についていた時期もあった。

 

 「どうやってテタルトスが此処を発見したのかは気になるが、とにかくミネルバに連絡を入れるぞ」

 

 「了解です」

 

 ルナマリアがミネルバに連絡を入れている間、アレンは複雑な表情で開発途中で放棄されたモビルスーツを見上げる。

 こんなものを用意していたとは、やはり彼は本気で自分の考えを実行するつもりでいたのだろう。

 個人的に彼の主張は決して認めることはできないが、その強い思いだけは伝わってきた。

 

 「アレン、連絡が取れました。すぐにこっちに人を寄越すそうです」

 

 「ああ」

 

 余計な感傷を捨て、見落しが無いか確認する為、アレンはもう一度端末に向かった。

 

 

 

 

 ミネルバとの戦いを終え、戦域から離れたテタルトス軍プレイアデス級戦艦『アリスタルコス』。

 そのブリーフィングルームに集められた『テンペスタ―ズ』の面々はしかめっ面でヴィルフリートの小言に耳を傾けていた。

 

 「聞いているのか!! 貴様らがさっさと連中を倒していれば、ミネルバを落とす事もできた筈だぞ! たった一機のモビルスーツに手こずるとはそれでも『テンペスターズ』と呼ばれたエースか!!」

 

 よほどミネルバを落とし損ねた事が癪に障ったらしく、今日は一段とくどい。

 ルーカスはうんざりしながら欠伸を噛み殺し、ヴィクトルは別の事を考えているのか密かに端末を弄っている。

 ヴィルフリートの気持ちは分からなくもないが、これ以上は流石に時間の無駄だ。

 話を聞き流す背後の二人に苦笑しつつ、ジョナサンはヴィルフリートの小言を遮るように口を挟んだ。

 

 「少佐、申し訳ありませんでした。すべては私の采配ミスです。次こそは奴を仕留めて見せます」

 

 謝罪するジョナサンにこれ以上は言えなくなってしまったのか、ヴィルフリートも思わず声を詰まらせた。

 

 「ッ! くっ、いいだろう。次こそ奴らを仕留めてみせろ!!」

 

 「「「ハッ!」」」

 

 苛立ちを隠さないままヴィルフリートがブリーフィングルームから出て行くとルーカスが呆れたように肩を竦める。

 

 「たく、毎回毎回よくも飽きないよなぁ、少佐殿はさ」

 

 「同感ですね。何時も余裕が無いというか」

 

 二人のヴィルフリートに対する評価はすこぶる低いようで、こういった事がある度に呆れていた。

 

 「気持ちは分かるが、そう言ってやるな。奴は奴なりに必死なのさ。周囲から受けるプレッシャーに負けまいとしてな。優秀すぎる兄がいるという事もある意味不幸だな」

 

 諌めるジョナサンに二人は顔を見合わせると納得したように頷いた。

 

 「ああ。ファウスト・クアドラード大佐ですね」

 

 ファウスト・クアドラード大佐。名の通りヴィルフリート・クアドラードの兄であり、若くして大佐の地位を与えられるほどの優れた才覚を持つ人物である。

 

 「まあ、あの人と比べられたら、少佐があんな風になっても仕方ないかなぁ」

 

 「彼自身に才覚が無い訳ではないが。もう少し自分をコントロールできるようになれば、結果も違ってくると思うがな」

 

 「言っても無駄でしょ。こっちの言うことなんて聞きませんよ。それよりもミネルバはどうなった、ヴィクトル?」

 

 端末を弄っていたヴィクトルが眼鏡を中指でクイと持ち上げる。

 

 「予想通り、彼らは『ヴァルハラ』へ向かったようですね。補給の為か、もしくは施設にあった宝物でも発見したのか」

 

 「へぇ。あの位置からなら、ヴァルハラに到着する前に一度は接触できるチャンスもあるな」

 

 早速受けた借りを返そうと話す二人。

 ルーカスは腕をやられ、ヴィクトルの攻撃は悉く通用しなかった。

 奴に借りを返したい気持ちは分かる。

 ヴィルフリートを焚きつけるつもりなのだろうが、それをさせる訳にはいかなかった

 

 「やめておけ」

 

 「何故です?」

 

 「次の作戦はすでに始まっているという事だ。焦る必要はない、すぐに雪辱する機会は来るさ」

 

 ジョナサンには次の作戦の概要がある程度読めていた。

 再び女神の艦と相見える時も遠からず来る。

 その時こそ借りを返すのだとジョナサンもまた静かに闘志を燃やした。

 

 

 

 

 スカンジナビア王国。

 中立同盟に参加し北欧に存在するヨーロッパでも屈指の軍事力と外交力を持つ一国である。

 有名な都市であるオスロやストックホルムは世界中から観光客で溢れ、賑わいを見せている。

 だがそれは一昔前の事。

 今は激化する『ヨーロッパ戦線』の影響で観光客などほぼ皆無であり、高ぶる緊張感だけが都市全体を包み込んでいた。

 その『ヨーロッパ戦線』の最前線基地の一つ、厳戒態勢が続くストックホルム基地の執務室。

 そこでスカンジナビアの直面している事態に頭を抱えていたのはスカンジナビア第二皇女アイラ・アルムフェルトであった。

 

 《大丈夫ですか、お姉さま? 顔色が良くありませんよ》

 

 「ありがとう、カガリ。私は大丈夫よ」

 

 アイラは心配そうな顔でこちらを気遣ってくれたオーブ首長国代表であるカガリ・ユラ・アスハに微笑みかけた。

 どうにか『ヨーロッパ戦線』の決着を目指し、情報収集や外交など展開しているが、未だに解決の道筋は見えてこない。

 軍事方面の総責任者であるアイラは連日、各国との外交や軍の高官との会議など休む暇も無く動き回っていた所為か、疲れた様子を隠しきれなかったらしい。

 まあアイラとカガリの二人は昔から家族ぐるみで付き合ってきた。

 いわば姉妹のような関係で、仮に隠していても見抜かれてしまうだろうが。

 

 《無理せずにお休みになられてください》

 

 「ありがとう。でも今は大変な時だからね。大丈夫、きちんと休んではいるから」

 

 《……お姉さまのそういう所は信用できませんからね。今度セリスに言っておきます》

 

 言うようになったカガリに苦笑しながら、話を逸らす事にした。

 

 「それよりもオーブ方面はどうなの?」

 

 《ええ。アメリカ大陸の方では連合の改革派と保守派の戦闘が続いていますが、こちらは今のところ問題は起きていません。もちろん楽観はできませんが》

 

 「そう。やはり現状、切羽詰っているのはこちらの方ね」

 

 ヨーロッパでの戦闘激化はスカンジナビアにも深刻な影響が出始めている。

 国内の治安や経済に対する影響は勿論だが、それ以上にここ最近は隣国付近での戦闘も珍しくなくなっていた。

 何時スカンジナビアが巻き込まれてもおかしくない状況になっているのである。

 

 ヨーロッパでは東西南北に各勢力が別れ、軍事基地を建設して睨み合っている。

 

 西にはザフトのジブラルタル基地、北の中立同盟ストックホルム基地。東に新たに造られたテタルトス軍のクラスノダ―ル基地、そして地球軍保守派が建造したヨーロッパ最大の軍事要塞マケドニア要塞。

 

 この四か所が牽制し合い、戦闘を繰り返しているのだ。

 

 《やはり厄介なのはマケドニア要塞ですか?》

 

 「ええ、あそこは規模も戦力も違う。あそこを落とすにしても背後にはスエズもある上、テタルトスも積極的に介入してきてるから簡単にはいかないわ。地球軍保守派の動きを牽制したくても改革派はヨーロッパまでは手が回らないようだし」

 

 《交渉は?》

 

 「もちろん行おうとしているのだけど、中々ね。逆にこっちの手の内探ろうと、色々仕掛けてくるから。保守派のトップは油断できない人物のようね」

 

 山積みの問題に頭が痛くなるが、悩んでいても状況は変わらない。

 

 「現状はこのくらいね。詳しい事は後で報告を送るわ」

 

 《はい。そういえば、あの部隊グラオ・イーリスはどうです?》

 

 「運用自体は順調だけど、問題も多いのよね」

 

 一部の者たちからの冷遇による人員や機体の配備の不都合が現場から報告されている。

 これを何とかしたくとも、色々と面倒なしがらみや立場がある為に、容易に口が出せない。

 そもそもアイラは『グラオ・イーリス』という名前自体が気に入らなかった。

 同盟、ザフトの混成部隊と言う事で様々な色を含む虹をイメージし、『イーリス』という名前を付けるつもりだった。

 しかし部隊設立に反対する連中が新部隊に所属する者たちを見て、敵でも味方でもない、即ち黒でも白でもない灰色だという事で『グラオ・イーリス』という皮肉めいた名前を命名したのである。

 

 「……それについても放置できないし、慎重に調整しないとね。とにかくそれも報告に上げておきます」

 

 《分かりました。ではお姉さま、くれぐれも無理はしないでください》

 

 「ええ」

 

 モニターから映像が消えると、アイラは椅子の背もたれに体を預ける。

 ドッと疲れが出て来た。

 カガリの言う通り、気づかずに無理をしていたのかもしれない。

 少し休もうかと目を閉じかけた時、端末から呼び出し音が鳴り響いた。

 

 《失礼します、アイラ様!》

 

 映し出された兵士の様子からただ事ではないと判断したアイラは椅子に座り直すと、冷静に問いただす。

 

 「何があったの?」

 

 《先日、戦闘で被害を受けた国家の救援活動に向かった部隊から緊急連絡が入りました! 地球軍保守派と思われる部隊と交戦中だそうです!!》

 

 ヨーロッパ全土で繰り広げられる戦闘によって戦う力を持たない国々は成す術なく、蹂躙される事も珍しくない。

 その度に友好国であるスカンジナビアは補給物資の提供や地球軍の侵攻を阻止する為の救援要請を受けている。

 先日も戦闘によって被害を受けた民間人に補給物資を届ける為、部隊を派遣していたのだが、地球軍はそれを見逃さなかったらしい。

 

 「……キラとラクスの二人に行って貰いましょう。他の部隊も出撃準備が整い次第、出撃させて」

 

 《了解!》

 

 通信が切れると休むのはまだ先になるとため息をついたアイラは起こりうる不測の事態の対処の為、各所に連絡を取り始めた。

 

 

 

 

 燃え盛る大地と崩れ落ちた住居、そして振りかかる死から逃れようと走る人影。

 そこはまさに死地と呼ぶに相応しい場所であった。

 そんな降り注ぐ砲火から逃れる人々を守るように立ちはだかるモビルスーツは同盟軍主力機の一つであるSTA-S5『ブリュンヒルデ』。

 『ブリュンヒルデ』は『ユニウス戦役』終盤で実戦投入され、多大な戦果を上げた機体であり、二年経った現在でも強化、改修を施され、現役で戦場に投入されている。

 『タクティカルシステム』と呼ばれる同盟の装備換装システムを備え、高い汎用性と安定した性能故に敵の最新機とも互角以上に戦う事が出来き、現場からの信頼も厚い機体だった。

 その『ブリュンヒルデ』に搭乗しているパイロットは目の前に迫る死の気配に、竦み上がりながら必死に自身を叱咤していた。

 

 「くそ、こんなことなら昨日見た美人に声でも掛けときゃ良かった」

 

 思わずそんなくだらない事を言わなければ叫び出しそうな程、彼は追い詰められていた。

 救援活動に派遣された彼の所属する同盟軍の部隊は順調に任務をこなしていたのだが、地球軍の部隊から受けた奇襲によって既に味方の三分の一が撃墜されるという最悪の状況に陥っていた。

 グローブの下は汗ばみ、緊張で心臓が張り裂けそうなほど脈打っている。

 彼は新兵と言うには場数を踏み、古兵というには経験が足りない兵士であり、こういう不測の事態には慣れていなかった。

 

 「ハァ、ハァ、ハァ」

 

 喉の渇きを覚え、飲み物の入ったボトルに手を伸ばした瞬間、前方から大きな振動と共に爆発音が鳴り響く。

 

 「ッ!? 来た!」

 

 パイロットの目の前で高く舞う粉塵。

 その中を突っ切るように地球軍のモビルスーツであるウィンダムが顔を出した。

 

 「こっちに来てんじゃねぇぇ!!」

 

 背中の地上用機動戦闘装備『カラドリウス』のスラスターを噴射すると、ウィンダムの放ったビームをシールドをかざして防ぎつつ、ビームライフルを撃ち返す。

 放った一射が敵の腕を捉えて吹き飛ばし、好機とばかりにサーベルを構えて踏み込んだブリュンヒルデの一太刀がウィンダムの腹部に食い込んだ。

 

 「落ちやがれ!」

 

 食い込んだ光刃を躊躇わずに振り抜くと、敵機はそのまま空中で爆散した。

 幸いウィンダムとブリュンヒルデでは大きな性能差がある。

 この程度であれば、実戦経験の浅い彼にも何とか対処が可能だ。

 それにどうやら他の味方機も奮戦しているようで、別の場所で戦っている様子が見える。

 

 このまま味方の救援が来るまで持ちこたえる。

 

 しかしそんな彼の考えを打ち砕くように次の敵機が迫ってきた。

 

 「ちくしょう!」

 

 二機のウィンダムから発射されたビームを旋回して回避するが、回り込んだ敵のサーベルが背中の『カラドリウス』を掠めてしまう。

 

 「ぐぅ!」

 

 『カラドリウス』のウイングの一部が破損するが、飛行には問題ない。

 

 「この野郎!」

 

 機体を傷つけられた憤りを吐き出すように腰のビームガンでウィンダムの頭部を撃ち飛ばすとサーベルでコックピットを貫いた。

 

 「ハァ、ハァ、何機いるんだよ! それに新型と、『アイツら』も居ない―――ッ!? うああああああ!!」

 

 持ち前の機動性を持ってどうにかウィンダムの侵攻を防いでいたブリュンヒルデだったが、多勢に無勢。

 突如乱入してきた敵機によって『カラドリウス』ごとスラスターを破壊されて地面に叩き落とされてしまった。

 

 「ぐぅぅ! く、くそ……こ、ここまでか……」

 

 目の前に押し寄せるウィンダムを前に死を覚悟する。

 

 しかし、そこに二機のモビルスーツが舞い降りた。

 

 蒼い翼を翻し砲口から発射されたビームが正確に敵モビルスーツの急所を次々と射抜き、その隙に踏み込んだピンク色の装甲を持った機体がウィンダムを切り刻む。

 

 瞬きする一瞬の間の出来事、あれだけ居た敵があっさりと排除された。

 

 「あ、あれは……フリー、ダム?」

 

 ADT-X01 『量産型フリーダム』

 

 同盟の次世代機開発計画『アドヴェント計画』に沿って開発された量産型フリーダムの先行試作機でコードネームは『ヴァルトライテ』。

 特徴であった蒼い翼の数は両翼合わせて6枚となっているが、それでも量産機としては破格の機動性を誇っている機体である。

 

 そしてもう一機はADT-X02 『量産型ジャスティス』

 

 同盟の次世代機開発計画『アドヴェント計画』に沿って開発された量産型ジャスティスの先行試作機でコードネームは『オルトリンデ』。

 ヴァルトライテと同様に高性能ではあるが、こちらは比較的扱いやすく、タクティカルシステムとの相性も良い機体である。

 

 「そこのブリュンヒルデ、大丈夫ですか? こちらは同盟軍、キラ・ヤマト一尉です、救援に来ました」

 

 ようやく救援が来たのを実感したパイロットは思わず涙ぐむが、そこで伝えなければならない事を思い出す。

 

 「……ヤ、ヤマト、一尉。申、し訳ありません。敵を押し、留められ、ませんでした」

 

 「もう良い。喋らないで」

 

 「い、いえ。それ、よりも、敵の新型と―――」

 

 「キラ!」

 

 ブリュンヒルデのパイロットの言葉を聞き終える前に緊張感を伴ったラクスの声が響き渡る。

 彼らの目の前にはエールストライカーを装備した一機のモビルスーツが佇んでいた。

 

 GAT-06 『イリアス』

 

 連合が開発した新型主力量産機であり、ウィンダム以上の性能を求めて開発され、ストライカーパックを未装着の状態でもユニウス戦役で投入されたニューミレニアムシリーズを上回る性能を持っている。

 

 「新型か」

 

 イリアスを警戒しビームサーベルを構えるキラとラクス。

 そんな二人に耳に気絶しかけているブリュンヒルデのパイロットの声が漏れ聞こえてきた。

 

 「……奴ら……来る……あの三……悪、魔が……」

 

 その声が途切れると同時にフリーダムとジャスティスの前にかつての戦いを思い起こさせる三機のモビルスーツが姿を現した。

 

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