機動戦士ガンダムSEED eventual   作:kia

81 / 82
第21話 結末

 

 

 

 

 

 

 アヴァターラに突撃したエクセリオンの刃は確かに彼の機体を貫いていた。

 

 幾つもの壁を破壊し、倒れたアヴァターラは完全に大破している。

 

 動かす事は出来ても、戦線復帰は不可能だ。

 

 反対にエクセリオンはまだ戦闘可能。

 

 細かい損傷はあるが、戦闘に支障はないレベルだ。

 

 「痛っ、派手にやり過ぎたか。だけど艦深部に入れたのは運が良かった」

 

 このままエスカトロジーのエンジンや主砲を破壊できれば戦闘は終わる。

   

 そこでセンサーに反応がある事に気が付いた。

 

 「人が居る? 大佐に……ヴェクト・グロンルンド!?」

 

 奴が此処にいる理由などどうでもいい。

 

 どうせ碌な事ではあるまい。

 

 だが奴の実験にルシアを巻き込む事だけは絶対に容認できない。

 

 アオイはコックピットハッチを開き、外に飛び出す。

 

 二機のモビルスーツが突っ込んできた事で破壊された壁には補うように非常用の隔壁が降りていた。

 

 そのお陰か酸素はまだあった。

 

 慎重に周囲を警戒しながら部屋に入り、ルシアに駆け寄っていく。

 

 だがアオイの存在に気が付いたギメルがヴェクトを庇いながら発砲してきた。

 

 「ッ、ヴェクトの護衛役か?」

 

 「チッ、まさかお前まで来るとはな。二度とその顔見たくなかったよ」

 

 「お互い様だよ。俺だって見たくなかったさ」

 

 銃口を向けヴェクトを睨み付ける。

 

 「大佐、無事ですか?」

 

 「……中尉」

 

 どこかルシアの様子がおかしい。

 

 「大佐に何をした!」

 

 「ハッ、お前に話しても意味はない。ルドラめ、相変わらず役に立たない。せっかくのアヴァターラが台無しだ。失敗作が」

 

 半壊したアヴァターラを見上げ吐き捨てるヴェクトの物言いに強烈な嫌悪感が募ってくる。

 

 相変わらず、反吐が出そうだ。

 

 「失敗作だと! 貴様、人を何だと思ってる!」

 

 「人を何だと思っているかだと? 使える有能か役に立たない無能か、それだけだろうが! 奴は無能、所詮『カウンター』の為にパトリック・ザラが創った番いに過ぎん」

 

 「番い?」

 

 「そうだ、奴はプラントの創った『カウンター』の番い。効率よく子供を生み出す為の繁殖装置さ」

 

 『希望の歌姫』ティア・クライン。

 

 プラントの出生率低下を食い止める為に生み出されたカウンターコーディネイターの一人。

 

 彼女を誕生させる事は当時のプラントにとってまさに希望と成りえると研究者達は信じていた。

 

 しかし同時に懐疑的な見方も強かった。

 

 何故なら出生率の低下は当時から懸念され、現実となり始めた矢先。   

 

 いかに彼女自身が母体として優れていうようとも、男性側の遺伝子が適合しなければ意味がない。

 

 そこで考えられたのがティアに適合出来る個体を先に生み出す事だった。

 

 ついででカウンターを生み出す為のデータ収集も出来る訳だから一石二鳥。

 

 当時このプロジェクトを推進していたパトリックにも了承を得て生み出されたのがルドラ・アシュラでありサルワ・アシュラである。

 

 カウンターコーディネイターを誕生させる為に生み出された失敗作。

 

 そして新たな世代のコーディネイターを生み出す為に作られたティアの番いだった。 

 

 「結局はシーゲル・クラインにバレて研究は頓挫。誕生した子供も月で隠匿され、事実上の破棄だ。ま、それじゃ勿体ないから私が再利用してやったんだが」

 

 「再利用だと?」

 

 「ああ。私の研究の実験体になってもらったのさ。破棄された失敗作には光栄な名誉だろ」

 

 この男は何処までもアオイの神経を逆なでするらしい。

 

 もう声すら聴きたくないくらいだ。

 

 アオイはこれ以上、口を開くなと銃を突きつける。

 

 だが背後から制止の声が掛かった。

 

 「待って、中尉。その男は……」

 

 ルシアは何か迷っているように苦しげな表情を浮かべていた。

 

 「大佐? 何を言われたのかはわかりませんが聞く耳を持ってはいけません。こいつは此処で始末します」

 

 「おいおい、いいのか? 屑に話しても意味はないと思ったけど、確かお前にも関係あったよな。ステラとかいう強化人間の事」

 

 「ステラ!?」

 

 アオイの反応に気を良くしたのかヴェクトは嫌らしい笑みを浮かべる。  

 

 「ああ。交渉してたんだよ、今。ルシア・フラガが実験に協力するなら、引き換えに強化人間を治療してやるとな」

 

 それで合点がいった。

 

 ルシアは悩んでいたのだ。

 

 もしかしたらステラを治せるかもしれないと。

 

 「屑。お前にとっても悪い話じゃないだろう? さっさとルシアを引き渡せ。その後、私達に関わらないと土下座するならあの強化人間との子供を作ってやってもいいぞ。ま、あんな廃棄品の何が良いのか私には分からんがね」

 

 嬉々とした語るヴェクト。

 

 何がそんなに嬉しいのか。

 

 そもそも交渉にすらなっていないという事に気が付いていない。 

 

 アオイはヴェクトの言葉を無視し、俯くルシアに声を掛けた。

 

 「大佐、アイツの言う事に耳を貸さないでください」

 

 「ッ、でも!」

 

 ルシアも知っている。

 

 ステラが苦しんでいる事を。

 

 このままでは余命幾ばくもない事を。

 

 だから助けたいと願っている。

 

 兄であるラルスが、そして散って逝った仲間達が託してくれたものだから。

 

 それはアオイだって同じ。

 

 エレボス攻略戦の前夜、スティングやアウルの夢を見たのはきっとこの事を告げてくれていたのではないだろうか。

 

 きちんと守り抜けと。

 

 大切なものを手放すなと。

 

 人が聞けばただの夢だと鼻で笑うかもしれない。

 

 だがアオイはそう思いたいのだ。

 

 「大佐が犠牲になったら意味がない。俺だって皆から託されたんです。その中には大佐の事だって入っているんですよ」

 

 「中尉……」

 

 「仮に大佐が協力したって奴が素直にステラを治療してくれる筈ないです。ステラの事なら大丈夫、俺が助けて見せますから」

 

 アオイはルシアを安心させる為に笑顔を作る。

 

 ルシアもそれで吹っ切れたのか、涙を浮かべて頷いた。

 

 その光景をイラつきながら見ていたヴェクトはアオイを睨みつけた。

 

 「あ~くだらない三文芝居を見せつけてくれてさぁ。つまりお前らはせっかくこっちが交渉して、さらには譲歩してるのを無下にするつもりって事か?」

 

 「何が交渉だ、何が譲歩だ! 初めから治療する気もない癖に良く言う!」

 

 それで我慢の限界を超えたのかヴェクトは怒りに満ちた表情で頭を掻き毟り始めた。

 

 「何時も、何時も、何時もォォォ!! もう少し、もう少しだったのに! 何度私の邪魔をすれば気が済むんだ、この屑がァァァァ!!」

 

 ヴェクトは狂乱したかのように取り乱しながらアオイの方を睨みつけてくる。

 

 「何度でも邪魔してやるさ! お前のくだらない研究なんてな!」

 

 「殺せ……殺せ、殺せェェェ、ギメル! あの屑を今すぐ私の視界から消せ!!」

 

 ギメルは全く感情が感じられない瞳でアオイの方を見ると銃を乱射してきた。

 

 咄嗟に飛び込んだ瓦礫に銃弾は弾かれる。

 

 何も考えていないのか無茶苦茶な乱射だ。

 

 迂闊に飛び出す事も出来ない。

 

 「重要なのはタイミングか」

 

 あれだけ銃を乱射していれば弾切れを起こす筈。

 

 アオイの予想通り、すぐに弾切れを起こしたギメルは弾倉を交換する。

 

 その隙に瓦礫の陰から飛び出した。

 

 「馬鹿が! 屑の行動などお見通しだ!」

 

 アオイの行動を予測していたのだろう。

 

 ギメルは隠し持っていたもう一丁の拳銃を構えていた。 

  

 「死ね、屑!」

 

 「……お見通しなのはこっちなんだよ!」

 

 アオイはあらかじめ拾っておいた金属片を投擲した。

 

 寸分違わず銃に破片が激突。

 

 手元から弾き飛ばすとアオイの蹴りがギメルの腕に直撃。

 

 同時に銃を持った手を振り抜くとヴェクトの顎を粉砕した。

 

 「グギャァァ!!」

 

 異音と共に妙な叫びを上げたヴェクトの腹に蹴りを入れ、瓦礫に叩きつけた。

 

 そして止めを刺そうと銃口を向けた瞬間、倒れた筈のギメルが瓦礫の一部を投げつけてくる。

 

 「ッ!?」

 

 横っ飛びで瓦礫を躱し、即座に銃を向けた。

 

 受けて立つとばかりに銃を構える、ギメル。

 

 そこでアオイはニヤリと笑ってやった。

 

 「お前、実戦経験が足りないよ。敵は俺だけじゃないだろ?」

 

 その言葉に反応し、立ち上がったギメルは背後に銃を向ける。 

 

 しかしすでに遅い。

 

 背後に回っていたルシアの銃撃がギメルの肩を撃ち抜いた。

 

 「ッ!?」

 

 手に持っていた銃をアオイが拾い上げ、倒れ込んだヴェクトに銃を突きつける。

 

 顔面から夥しい血が流れ、絶え間ない激痛に言葉にならない声を上げていた。

 

 「終わりだ、お前の所為で苦しんだ人達に地獄で詫びて来い」

 

 トリガーを引こうとしたその瞬間、再び振動が起き天井から瓦礫が崩れ落ちてきた。

 

 ギリギリのタイミングで瓦礫を躱すと爆発音のようなものが聞こえてきた。

 

 おそらく塞がった入口を破壊してエスカトロジー内部へ侵入しようとしているのだ。

 

 「中尉、モビルスーツに戻りましょう!」

 

 此処は危険だと判断したルシアに従い走り出す。

 

 一度だけヴェクト達の方を振り返るが瓦礫に塞がれ姿は見えなくなっていた。

 

    

 

 

 コックピットに座り機体を起動させたアオイはルシアと合流する為、通路に出た。

 

 そこで待っていたのは黒い装甲を持つモビルスーツ『カルキ』だった。

 

 「見つけたぞ、天使のガンダム!!」     

 

 「お前は!」

 

 カルキは引き千切ったモビルスーツの腕を投げ捨てるとエクセリオンに一直線に向かってきた。

 

 「速い!」

 

 後退しながらマシンキャノンで牽制するが、カルキは全く速度を落とさない。

 

 「そんなものが通用するか!」

 

 想像以上の速度。

 

 此処が戦艦の中である事を無視したスピードで迫ってくる。

 

 「なら!」

 

 L字通路の曲がり角まで誘導し、ギリギリまで引き付けて飛び退いた。

 

 あの速度であれば曲がり切る事は出来ず、壁に激突する筈。

 

 激突した瞬間を狙ってビームライフルを構える。

 

 だが、アオイの予想は外れた。

 

 「舐めるなァァァァ!!」

 

 壁に激突するかと思われたカルキは直前にスラスターを逆噴射させ、僅かに速度を緩める。

 

 そして神懸かり的な機体制御で体勢を立て直し、壁を蹴って方向を変えてみせたのだ。

 

 「嘘だろ!?」  

 

 アオイは目を疑った。

 

 あの速度で突っ込んできたにも関わらず、L字を曲がり切るとは。 

 

 僅かでも機体制御を誤っただけで、ただでは済まなかった筈。

 

 それは命懸けの綱渡り。

 

 カルキのパイロットはそれを何の躊躇もなくやってのけたのだ。

 

 「ウオオオオ!!」

 

 ビームライフルやマシンキャノンの攻撃を物ともせず、エクセリオンに肉薄し光爪を振りかぶった。 

 

 ビームクロウによる斬撃を翼で受け、押し込もうとするが踏ん張りがきかない。

 

 「スラスターの一部が損傷しているからか!」

 

 どうやらアヴァターラとの戦いで無理をしすぎた反動が出ているらしい。

 

 カルキに押され、吹き飛ばされたエクセリオンに容赦なくビームチャクラムが襲い掛かる。

 

 「中尉!」

 

 そこにエレンシアが割り込んできた。

 

 収束ライフルでチャクラムを薙ぎ払い、同時にカルキを狙う。

 

 狭い通路の中だ。

 

 避ける術はなく、発射されたビームの一撃がカルキを射貫かんと迫っていく。

 

 「邪魔をするなァァ!!」

 

 クロムは肩のビームクロウを射出し、ビームにぶつけて攻撃を防いでみせた。

 

 「アイツは……」

 

 動きでエレンシアのパイロットをすぐに看破した。

 

 二対一。

 

 廃棄コロニーで戦った時と全く同じ状況だった。

 

 しかしクロムは一切怯まない。

 

 むしろこの機会こそ待っていた。

 

 「俺は今度こそ貴様らに勝って見せる!!」

 

 SEEDが発動し、同時にコックピットに仕込まれたe.s.システムが解放される。

 

 各装甲内に格納されていたスラスターが全開放され、ミラージュコロイドと思われる光が放出され始めた。

 

 禍々しさすら感じる紫色の光。

 

 そしてパイロットであるクロムにも今までに感じた事の無い強力な力が漲っているのを感じていた。

 

 「ハ、ハハハ! 凄い、コレがSEEDの本当の力か!」 

 

 増幅され、より強力になったSEEDの力を身に纏う災禍の獣が動き出す。

 

 「いくぞ!」

 

 対艦刀をエレンシアに投げつけ、カルキは圧倒的な速度で距離を詰める。

 

 「なっ!?」

 

 咄嗟に横っ飛びで回避したエレンシアだったが、カルキの振るった一撃によって左腕を食い破られてしまった。

 

 同時に振るわれるビームソード。

 

 避ける間もない一太刀が右胸部を深々と抉った。   

 

 「大佐!? この!!」

 

 倒れたエレンシアからカルキを引き離そうとするが、ライフルの射撃は掠りもしない。

 

 逆に一足飛びに間合いを詰めたカルキの対艦刀がエクセリオンの左肩に突き立ってられてしまう。   

 

 「どうした、こんなものじゃないだろう? 全力で来い!」

 

 エクセリオンの頭部を握りつぶそうと力任せに掴んでくる。

 

 「くっ、この!!」

 

 有無を言わせない気迫と神懸かり的な操縦技術。

 

 そして化け物染みた反応速度。

 

 すべてが常軌を逸している。

 

 強い。

 

 この強さは今までアオイが戦ってきた中でもトップクラス。

 

 先ほどのルドラ以上かもしれない。

 

 「躊躇なんてしてられない!」 

 

 先ほどの力は初めての事。

 

 不安要素が多くて出来るだけ使うのは避けたかったが、負ける訳にはいかない。

 

 アオイもSEEDを使う覚悟を決めた。

 

 ルドラと戦った時と同じくW.S.システムからのフィードバックにより、いつも以上の力が全身に駆け巡る。

 

 「いくぞ!」

 

 組み付いたカルキを突き飛ばし、逆手でサーベルを一閃する。

 

 カルキの胸部に斜めの傷が刻まれ、さらに横薙ぎに振るった一撃が腰部の装甲を斬り飛ばした。

 

 「グッ、先ほどまでとは比べ物にならない鋭い一撃。それでこそだ! それでこそ倒しがいがある! 俺は貴様を今日こそ超える!」

 

 クロムの覚悟を示すように複列位相砲が発射された。

 

 エクセリオンに掠めながら紙一重で回避する。

 

 しかし砲撃が通路の壁に直撃し、穿たれた穴からエレンシアを含め全機が外へと吐き出されてしまう。

 

 「アレは!?」

 

 外へ出たアオイが見たのは主砲が再び稼働している光景だった。

 

 「また撃つ気なのか?」

 

 「どこを見てる!」

 

 咄嗟に後退し袈裟懸けに振るわれたビームソードを間一髪で躱す。

 

 しかし同時に切り上げられたビームクロウがエクセリオンの胸部を斬り飛ばした。

 

 「ぐっ、まだァァァ!!」

 

 ビームサーベルの反撃がカルキの肩部を斬り裂いた。

 

 二人の攻防は互角。 

 

 いや、ドラグーンがある分だけクロムの方が有利だろうか。

 

 飛び回る砲台をアオイも撃ち落としてはいるが、すべてに対処出来る訳ではない。

 

 現にエクセリオンにはドラグーンによって傷つけられた損傷がいくつも存在していた。

 

 それでも五体満足でいられたのはSEEDの力と翼から放出された粒子による高度な防御性能のお陰だった。  

 

 これにより遠距離からの攻撃が致命傷になっていないのだ。

  

 「どけ! このままじゃ地球が撃たれる!」

 

 「撃たれればいい! 今まで地球の連中がどれだけ勝手な事を行ってきた?」

 

 エクセリオンを囲んで飛び回る砲台からの攻撃を防ぎながら、両手で構えたアンヘルの一撃で消し去った。

 

 その隙に距離を詰めたカルキの斬撃がエクセリオンの胸部をさらに深く削り、アオイもまたサーベルを斬り返す。

 

 「連合しかり、同盟、統合も同じくだ! 口先だけの平和を謳いながら、弱い者を食い物にして邪魔する者を駆逐していく! そんな秩序は歪んでいる、だから破壊するんだ!」

 

 「そんな勝手な理屈!」

 

 「貴様などに分かるものか! 国の都合で玩具にされ、尊厳を踏みにじられた者の苦しみなど!!」 

   

 互いに刃を打ち合いながら致命傷だけは避けていく。

 

 「お前だけが不幸な目にあって来た訳じゃない!」

 

 「だからなんだ? 全員が全員、同じように前を向いて生きていけるとでも思っているのか? 思い上がるな! 結局、立てない者もいる、動けない者もいる、俺のように恨みでしか前に進めないものだっている!」

 

 クロムの憎悪を形としたような強力な光爪がカルキの右腕に形成された。

 

 「そう言った者達の嘆きや痛みを貴様らは踏みつけにしているんだよ。力を持った者のそう言った思考が、物言いが、行動が、ただ蹂躙されるしかない弱い者を追い詰めていくと何故気が付かない!!」

 

 「ッ!?」

 

 アオイは咄嗟にサーベルを捨て、振り下ろされた光爪を両腕のナーゲルリングを交差させて受け止めた。

 

 しかし力任せの一撃は確実にエクセリオンに押し込まれ、ナーゲルリングの半ばまで食い込んでいく。

 

 「確かに一理あるかもな」

 

 アオイもどちらかと言えば蹂躙された事がある人間だ。

 

 戦争で両親は奪われ、ようやく手に入れた穏やかな暮らしの中で得た義父は無残に殺された。

 

 施設で暮らした家族。

 

 共に戦った仲間達。

 

 皆戦火に巻き込まれ、時に死んでいった。

 

 その時に感じた不条理、憤怒、絶望は決して忘れられるものではない。

 

 そう言った意味でクロムの言っている事も分からなくはなかった。

 

 しかし―――

 

 「……それでも俺はお前達のやっている事を止める」

 

 「所詮、貴様も奪う側。分かる筈もない!」

 

 「ああ、否定は出来ない。俺だって戦ってきたんだからな。でも! それでも!」

 

 アオイは力一杯操縦桿を押し込み、光爪を弾き飛ばす。

 

 「地球には大切な人達が居るんだ!!」

 

 同時に振るったエクセリオンの斬撃がカルキの爪を斬り飛ばし、同時に腹を裂いた。

 

 しかし右腕のナーゲルリングは今の一撃でが折れてしまった。

 

 それでもアオイは止まらずカルキに殴りかかる。

 

 「俺はこれ以上、大切な人達を失いたくないんだ!」 

 

 右のマニュピレーターが頭部を撃ち抜き、左の蹴りが腰部に入った。

 

 「ぐぅ、調子に乗るなァァ!!」

 

 クロムも負けじと拳を振るい、左のマシンキャノンを潰し、エクセリオンの肩装甲を引きちぎる。

 

 高速で移動しながら、殴り合いを繰り返す。  

 

 しかしこれで損傷は与えても、致命傷には成りえない。

 

 だから二人は殴り合いを続けながら、来るべき時を待っていた。

 

 カルキの左腕は先ほどのナーゲルリングでビームクロウごと潰され、展開不可能。

 

 さらにドラグーンをコントロールする余裕もない。

 

 エクセリオンの残り一本のサーベルは腰部に格納された状態。

 

 つまりエクセリオンの左手のナーゲルリングかカルキの右腕のビームソード。

 

 どちらが先に斬り込むかで勝敗が決まるだろう。 

 

 相手の隙を伺いエスカトロジーの外壁を沿うように駆ける。

 

 そんな攻防の中、偶然にもモビルスーツの残骸が二機の間を遮った。

 

 一瞬だけ消える敵機の姿。

 

 此処こそが好機であるとクロムは勝負に出た。 

 

 「オオオオオ!」

 

 ビームソードを展開し浮遊する残骸ごとエクセリオンを斬り伏せる。

 

 確かな手応えと共にエクセリオンの破片が宙を舞った。

 

 しかし―――

 

 「な!?」

 

 「ハアアアアアア!!!」

 

 舞っていたのはエクセリオンの左腕のみ。

 

 同時にアオイが繰り出してきたのは左肩に突き刺さっていたカルキの対艦刀。 

 

 突進したエクセリオンの斬撃を躱す暇もなく、カルキの胴は対艦刀によって真っ二つに斬り裂かれていた。

  

 「化かし合いは俺の勝ちだ」

 

 アオイは攻防の中、クロムが左腕のナーゲルリングにのみ警戒していた事に気づいていた。

 

 だから初めからナーゲルリングによる決着は狙いは捨て、左腕を囮にクロムの虚を突く別の一撃を繰り出そうと決めていたのだ。

 

 「何で、勝てない」

 

 「強いて言うなら経験の差だ」

 

 クロムは強い。

 

 それは紛れもない事実だ。

 

 才能もアオイとは比べ物にならないだろう。

 

 それでも勝ちを拾えたのはこれまで積み上げてきた訓練と培ってきた経験以外に理由はない。

 

 「ちく、しょう」

 

 爆発するカルキ。

 

 それを見届けたアオイは最後に残った仕事を終わらせるべく、エスカトロジーの主砲へと向かっていった。

 

 

 

 

 「ヒゥ、フゥ、ヒゥ」

 

 声にもならない呼吸をする白衣の男。

 

 しぶとくも瓦礫に潰される事無く生きていたヴェクトは必死に生き延びようと床を這っていた。

 

 顎が砕けた顔の下半分は血に塗れ、瓦礫によって片足を負傷。

 

 ヴェクトはまさに息絶え絶えといった状態。

 

 それでも彼は自分の生存を全く諦めていなかった。

 

 何故ならばまだやるべき研究が残っているのだから。   

 

 こんな場所で死ぬなどあり得ない。

 

 何よりも彼の心に沁みついていたのはアオイ・ミナトへの限りない憎悪だった。

 

 自分の崇高な研究を何度も邪魔した挙句、こんな目に合わせた元凶ともいえる愚物。

 

 アオイへの復讐もまた生きる為の原動力になっていた。

 

 「フゥ、フゥ」

    

 笑みを浮かべようとしても痛みで動かない事にイラつきながら、少しでも気を紛ららすべく妄想に浸る。

 

 アオイの目の前でルシアを実験体として扱ったらどんな顔をするだろうか。

 

 泣き叫ぶか。

 

 それとも怒りで吠えるか。

 

 どちらにしろ溜飲は下がるに違いない。

 

 あの強化人間―――ステラとかいう女を使ってもいい。

 

 奴の前でバラバラにしてやればさぞかし悔しがるだろう。

 

 暗い妄執を原動力に床を這い続けるヴェクトの前にようやく部屋の出口が見えてきた。

 

 部屋を出た後、誰かを捕まえ脱出する。

 

 そこからは傷を癒してアオイへの復讐を―――

 

 そんな風に考えた時、ヴェクトの背後から轟音が響いてきた。

 

 戦闘による爆発かとゆっくり振り返ると巨大な手がヴェクトを掴み上げていた。

 

 思わず悲鳴を上げるが声にならない。

 

 ヴェクトを掴んでいたのは大破し、壁にめり込んでいたアヴァターラだった。

 

 「無様な姿だな、ヴェクト・グロンルンド」

 

 ハッチの開いたコックピットから頭から血を流したルドラが笑みを浮かべてヴェクトを見ていた。

 

 まるでゴミを見るかのように。

 

 「ひゅ、ど、りぁ」

 

 ヴェクトが固定された体を動かし何かを必死に訴えようとしている。  

 

 大方早く助けろだの、脱出させろだの言っているのだろう。

 

 だがルドラにそれを聞く気などさらさらなかった。

 

 操縦桿を僅かに押し込み、アヴァターラの手に力を籠めた。

 

 するとヴェクトは悲痛な表情を浮かべながら、暴れ回っている。

 

 「先ほどは好き放題言ってくれたじゃないか。間違っていない所が腹立たしいがな」

 

 先ほどヴェクトがアオイに告げた事は真実だ。

 

 プラントの未来を照らす希望ティア・クラインの添え物こそがルドラであり、サルワである。

 

 パトリック・ザラとレノア・ザラの息子。

 

 自分の生まれた意味を知った時、それは誇らしかったものだ。

 

 研究棟から見えたプラント。

 

 そこに住まうすべての者の未来が自分達に掛かっているのだから。

 

 しかしそんな幼い希望は簡単に打ち砕かれた。

   

 研究は中止され、自分達の存在は汚点として月へと放逐されたのである。

 

 月で研究の支援者たちによって育てられる中、まだルドラやサルワは信じていた。

 

 自分達の存在こそがプラントを救うのだと。

 

 それもアスランの存在を知り絶望へと変わる。

 

 パトリックは二人の事など気にも留めず、アスランにのみ愛情を注いでいった。

 

 要するに二人の存在などどうでも良かったのだ。

 

 それでもまだルドラ達には心の拠り所があった。

 

 母であるレノアの存在。

 

 彼女だけはルドラ、サルワを愛してくれていた。

 

 アスランと同じく愛情を持って接してくれていたのだ。

 

 だがそれも血のバレンタインで消え失せ、利用価値がないと悟った支援者は掌を返して月を去り、残されたルドラ達に待っていたのは過酷な実験体としての日々。

 

 どうやらルドラ達の処分に困った支援者達がヴェクトに売り放ったのだと実験中に何度も聞かされた。

 

 その間に出来た掛け替えのない仲間達すら遊び半分に殺されてしまった。

 

 心に痛みが沈殿し、ヴェクトを道連れにすべて壊したやりたいと思ったのも一度や二度ではない。

 

 しかし数年してテタルトス月面連邦国が出来てからは状況も変わった。

 

 ヴェクトの出奔に際に起きた混乱に乗じて脱出。

 

 ゲオルク・ヴェルンシュタインに拾われ、彼の影として動いてきた。

 

 ウォーレンは誤解していたようだが『マクベイン・エクスキューター』も彼が陰で動いていた時に指揮していた特殊部隊が大元になっている。 

 

 『統合紛争』を生き延び、決起に至るまで入念に準備してきた。

 

 その結果がコレだ。

 

 「滑稽すぎて笑えてくるな」

 

 助けてくれとでも訴えるようにヴェクトが首を振る。

 

 それに構わずさらに力を籠める。

 

 「痛いか? 苦しいか? だろうな、今ので骨の何本かは折れただろうからな」

 

 ルドラは横目で部屋を見た。

 

 そこには倒れ伏すシルヴィアの姿。

 

 冷たい殺気がさらに度合いを増し、込められる力が強くなる。

 

 「ッ―――!!」 

 

 「貴様がしてきた実験ではもっと苦しんだ者も多くいる。楽に死ねると思うなよ!」

 

 ルドラはすべてを失った。

 

 『マクベイン・エクスキューター』が駆逐されるのも時間の問題だろう。

 

 だがそれでも―――

 

 「貴様だけは生かしておくものか!」

 

 無限に続くかのような苦痛と恐怖の中、叫び声も上げられず徐々に潰されていくヴェクト。

 

 そしてアヴァターラが思い切り手を握り込んだ瞬間、グチャリという音と共に人だったモノの頭が地面に転がり落ちた。

 

 

 

 

 エクセリオンの向かった先は主砲へエネルギーを供給するジェネレーターだ。

 

 外からでもアンヘルなら装甲を貫通し、ジェネレーターを破壊するだけの威力がある。

 

 主砲の発射体勢は整いつつあった。

 

 だが今から砲口を潰そうとしても間に合わない。

 

 ならばジェネレーターさえ潰してしまえば主砲は発射できない筈だ。

 

 「間に合ってくれ!」

 

 片腕で収束ライフル『アンヘルⅡ』を構えジェネレーターに向けて狙いを付ける。

 

 だがそこでビーム砲による攻撃がエクセリオンに襲い掛かった。

 

 奇襲によりアンヘルが吹き飛ばされてしまう。

 

 「な、アレは」

 

 視線の先に居たのは応急修理されたアルドのベテルギウスだった。

 

 「邪魔はさせねぇよ!」

 

 「貴様!」

 

 止むを得ずベテルギウスを排除しようとしたアオイの目に動き出す主砲の姿が映し出されていた。

 

 「残念だな! もう発射は止められない!」

 

 撃ち込まれる砲撃と光を集め始める主砲。 

 

 「アハハハハハハハハハ!! 最高の花火を見せてもらうぜ!! 弾けるのは地球だがなァァァ!!」

 

 楽し気なアルドの声に焦りと苛立ちが募る。

 

 残ったもう一つのアンヘルを構えようにもベテルギウスが邪魔。

 

 他の武器ではエスカトロジーの装甲を貫通してジェネレーターを破壊できない。 

 

 かといって主砲の方に行くには距離があり過ぎた。

 

 残る手段は―――

 

 「ウオオオオオ!!」

 

 残ったビームサーベルを抜き、ベテルギウスへ突撃する。

 

 「自爆でもしようって魂胆か? させないけどな!」

 

 正確な射撃でエクセリオンを射貫いていく。

 

 だがアオイは一切スピードを落とさず、ベテルギウスに向かっていった。

 

 死を恐れない特攻に流石のアルドも眉を顰めた。

 

 「チッ、死にたがりかよ! 付き合ってられないぜ!」

 

 ベテルギウスの最大火力であるビームランチャーによる砲撃。

 

 ボロボロのエクセリオンであれば翼で防御しようとも耐えられない。 

 

 「さっさと死ね!」

 

 しかしアオイは笑みを浮かべてハッキリ告げた。

 

 「嫌だね、俺は生きる!!」

 

 ビームランチャーの攻撃を前にエクセリオンの背中から切り離されたバスーカ砲。

 

 アルドは強化兵として能力が向上していた。

 

 その反応の良さ故に一瞬、それに気を取られてしまった。

 

 「ッ!?」

 

 気が付いた時にはもう遅い。

 

 エクセリオンはベテルギウスの懐に入り、サーベルを突き差していた。

 

 コックピット付近に光刃が刺さり、アルドも機材に押しつぶされる。

 

 「ぐ、糞が。ス、スウェンと同じような手を使いやがって」

 

 「光栄だね。俺に戦い方を仕込んでくれたのは大尉だ」

 

 「ハ、ハハハ、結局、スウェンの、勝ちかよ。だが、もう、発射は止めら、れないぜ」    

 

 絶命したアルドに返事する間も無くアオイはベテルギウスをジェネレーター付近に投げつけた。

 

 そして主砲が発射される残り数秒。

 

 アオイは最後のアンヘルでベテルギウスを撃ち抜いた。

 

 破壊されたベテルギウスは核爆発を起こし、ジェネレーターごとエスカトロジーの一画を閃光で呑み込んでいった。 

 

 

 

 主砲の発射は阻止され、エスカトロジーは核爆発により半分に割れてしまった。

 

 

 

 残った『マクベイン・エクスキューター』の面々は降伏を余儀なくされる。

 

 

 

 後の歴史において『第二次統合戦争』と呼ばれる戦いはこうして終結した。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。